エリカ、転生。   作:gab

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2年-1 平穏な日々

 

 

1992年 9月1日

 

 キングズ・クロス駅から9と4分の3番線のホグワーツ特急に乗り込む。今年もドラコ、ヴィンス、グレッグと楽しく時間を過ごした。通路を挟んでふたつのコンパートメントを押さえて、ダフネや他のスリザリンの友人達も一緒になり、行き来しながらおしゃべりやゲーム、お菓子を楽しんだ。

 

 叔父様の説得に成功したのだから、『秘密の部屋』が開かれる心配はない。この一年は何の事件も起きない、平和な一年に、なる、はず。

 私は去年に続き、『必要の部屋』にお世話になることにしよう。

 

 

 プラットホームに降り立ち、ハグリッドに呼ばれて移動する1年生をよそに、上級生がぞろぞろと移動しはじめる。人の流れに逆らわず歩くと馬車道に出た。馬車がたくさん並んでいる。

 馬車を曳くのは、骨に皮を張り付けたようなガリガリの身体にコウモリの翼が生えた馬だった。……え?

 

 セストラルが、見えている。

 この世界で知り合いが亡くなったのはヴァルブルガおばあ様とドゥルーエラおばあ様で、私が幼すぎたため臨終の際に会っていない。

 なら、この、「死を見たことのある人間にだけ姿が見える」はずのセストラルがなぜ見えるのか。

 前世の記憶でもアリなんだな。HUNTER×HUNTERではたくさん殺したもの。

 

 見えていることを知られるとまた面倒くさい事になってしまう。気付かないふりでドラコ達と同じように、無人で動く馬車なんてすごいね、なんて驚いてみせながら馬車に乗り込んだ。

 

 

 

 組み分けが始まって、グリフィンドールの席にハリーとロンがいることを確かめた。よし、ちゃんといるね。

 よかったよかった。日記がマルフォイ家にあるのだから、ドビーがやらかすことがない。だから、ハリーも普通にこの夏を過ごしたはず。彼らの姿を見て、ほっと安心した。

 

 

 

 2年生の一年が始まる。

 ジェイドはまた私のトランクの中にいる。彼女も会話に飢えているから、私の傍にいるほうが楽しいようだ。

 彼女には事件がもう起きないという話をしている。1年間私とちょくちょく会話をしていて、そろそろ引っ越しも考えてくれているように感じられる。もうこのまま『秘密の部屋』へ戻ることはないかもしれない。だといいな。

 またゆっくり話さなくちゃね。

 

 

 

 

 授業と課題に追われる日々が始まって早々に両面鏡でハンナと話す。

 

 彼女はハリーのフォローはするけど、介入は自分ではしない方針だ。

 私とは違って、彼女は家族がいて、しかも守りが薄い。お父さんは魔法省の役人だから魔法省の方針が変われば彼の意思決定も変わる。住居だってガチガチの防御で守られているうちとは違う。

 私みたいに『お辞儀様が復活したら即死亡フラグ』じゃないうえ、金銭的にも住居的にも社会的にも自力で家族を守り切れる立場ではないってことね。

 

 それに彼女自身があまり自主的に何かをしたいというタイプではないようだ。もしかしたら魂を成長させる努力とか考えていないのかもしれない。

 話を聞いていると子供の頃からごく普通の子供のように暮らしていたみたい。修行しないんだ、ってちょっと思った。このぶんだと12歳で終わったという前世の技術もほとんど習得できていないかもしれない。だからと言って油断はしないけど、ね。

 

 だから、私のすることを応援するし、時には手助けもする。ハリーのことは友人としてフォローする。だけどそれ以上危ない事はしない、というのが彼女のスタンスだ。ならもう少し離れた立ち位置に居ればいいのに。危険だと思うのだけど、はたから見るとハンナってすごく普通に見える。

 知力はハーマイオニーに足らず、積極性はロンに足らず、4人でいると何となく埋没して見える。絶妙に『目立つグループの端っこにいる子』のポジションをキープしている。

 

 彼女とは被験者同士、気安くメタ発言ができるのが楽しい。

 

「つまり、今年は事件がないってことだよね。すごいねエリカ」

 

「そうよハンナ。事件のないホグワーツ。平和なホグワーツ。素晴らしいわね」

 

「だねだね」

 

「ハンナは今年のうちに『閉心術』を習得しておいてね。私達の秘密ってすごくヤバいわよ。ああ来年の事を考えれば『守護霊の呪文』もね」

 

「でもひとりじゃどうしようもないじゃん。エリカはどうやって練習したの?」

 

「『必要の部屋』よ。ホグワーツに入学して、授業に慣れ始めたらすぐに探し出したの。それで『誰にも見つからず閉心術が練習できる部屋』って願って部屋を出して、ひたすら通ったわ」

 

「はっ、そうだった。そんなお便利部屋があったんだった!

 8階だったよね。探してみる。……でもなあ、エリカは成績いいから余裕があるんだろうけど、私授業と課題を終わらせるだけでけっこう必死なんだけど」

 

「私だって余裕があったわけじゃないわよ。時間を見つけては少しずつ練習をして、なんやかんやで『閉心術』ができるようになるまで1年ほど掛かったかな。あと、場所は8階のトロールにバレエを教えようとしている『バカのバーナバス』の前の壁よ」

 

「お、ありがとう。私もこれからコツコツ頑張るね」

 

「閉心術は必須よハンナ。知られたらヤバいのよ。神秘部の“脳みそ”案件よ?

 完ぺきにできるようになるまで、貴女は決して表舞台には立たないでね。私達の命と、みんなの命がかかっているの。あなたの家族の命もよ」

 

「うん。わかった。ごめん。まだちょっと甘い考えだった。うん。がんばる」

 

 とにかく、死なないこと。バレないこと。心しておかなくては。

 私達は、前世があろうと、やっぱりただの12歳でしかないんだから。

 

 

 

 

 

 ロックハートの授業は馬鹿らしすぎて酷かった。

 最初の小テスト、ロックハートについての問題には適当なことを書いた。くそぉ。優秀な脳細胞があの小説を読んだ記憶をちゃんと残していて、3割くらい正解できちゃったのが逆に悔しい。

 部屋にピクシー妖怪を解き放つという内容も変わらずやった。

 原作とは違い、言い訳を考えていた。どうやらグリフィンドールの授業で懲りたらしい。

 

「私は決して手を出しません。みなで相談しあって頑張ってみましょう。ああ、もちろん私のようにスマートに解決できなくても、悲しむことはありませんよ」

 

 部屋中を飛び回り、甲高い声でキーキー鳴きながら悪辣ないたずらで暴れまわるピクシー妖怪。ついシルヴィアで全匹殺してやろうかと考えてしまった。

 こいつら程度、殺気を飛ばすだけで一斉に失神すると思うんだけど……目立ってどうするよ、エリカ。

 

 できるのにやれない縛りプレイにぐちぐちと内心文句を言いながら、傍に飛んできたピクシーを「失神呪文」や「縛り術」で捕まえては籠に放り込む。私の作業を見たドラコやみんなもそれに倣い、ピクシーは無事すべてが籠に納まった。ロックハートは「私からすれば未熟であくびが出そうな戦いでしたが、まあ見るものはありましたね」とかムカつくコメント付きだったけど、スリザリンに20点くれたので良しとしよう。

 

 授業が終わり、部屋を出る。

 “円”で調べていた私は、ロックハートのローブの裾裏にピクシー妖怪が一匹隠れていることに気付いていた。けど、まあ、気付いた理由は言えないし、それに授業は終わったし。何かあっても私達のせいじゃないよね。ピクシーに悪戯されて困ればいいんだ。

 

 ロックハートは他の魔法はてんでダメだけど、忘却術だけは権威だ。こいつは私の天敵とも言える。忘却術で過去を忘れてしまえばもうどうしようもない。絶対こいつには近づかない。

 

 

 2年の『闇の魔術の防衛術』の教科書、去年のうちに買っておいて本当によかった。っていうか、自習はもっと先まで進んでるんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 薬草学ではマンドレイクの世話の授業だった。耳当てをつけて植え替えの練習をする。

 マンドレイク。ぜひ欲しい薬草だ。なんせ私にはジェイドがいる。彼女と付き合っていれば石化の危険はいつでもある。それに、マンドレイクは強力な回復薬で、大抵の解毒剤の主成分になる。

 ぜひともこの薬草の世話の方法を覚え、ガーデンで育てたい。

 

 ガーデンの『森』の生態系を崩すのはだめだし、ガーデン内かトランクに温室を設置しようかと考えている。魔法界の植物は『混ぜるな、危険』なタイプが多いもの。

 マンドレイクなんてうちの子達が遊んで引き抜いたら命取りだ。絶対に彼らが入れない場所で育てなくちゃ。

 

 でもまだ私に技術が伴っていない。温室のガワを作ることは準備をすすめているけど、中身を充実させていけるのはまだまだ先の話だ。今植えても枯らせるだけだものね。練習あるのみだ。

 

 薬草は多少貴重なものでも育てられる状態で購入できればあとは私の技術次第だ。

 

 だけど、魔法薬の材料になる魔法生物の素材は難しい。二角獣の角の粉末、とか、毒ツルヘビの皮の千切り、とか、サラマンダーの血液、とか、アッシュワインダーの卵とか。

 そういうものは生きたまま連れていくのは難しい。レストレンジの金に物を言わせて、使い切れないくらい買い続けるしかないのだ。いや、レストレンジの名前を使って買うと私が疑われる。これは変装して買うしかないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 スリザリン寮でクィディッチのシーカー選手選考が行われ、無事にドラコが選ばれた。当たり前だ。彼の才能はホンモノだもの。

 さっそくドラコが報告の手紙を梟で送ると、2年でのレギュラー入りを殊の外喜んだルシウス叔父様が、全選手にニンバス2001を贈呈しよう、と太っ腹なところを見せた。

 やっぱりやるのか。

 

 ハンナによるとハリーもシーカーに選ばれたらしい。

 きっともめるから、「お金で選ばれた」なんてグレンジャーに言わせないようにフォローしてね、と頼んでおいた。私はいかないから。

 

 

 あとで聞いたところ、やっぱり原作通りの流れになったらしい。ハンナのフォローは間に合わなかったのか。

 ロンの杖が壊れていないからロンのナメクジの呪いは成功し、ドラコに当たった。ドラコがナメクジを吐きだすようになって練習どころじゃなくなり、スリザリンチームとグリフィンドールチームが大喧嘩に発展しそうになったが、スネイプ先生がきて止められた。

 ドラコの呪いは先生が治し、ロンは減点。ドラコは『穢れた血』発言を減点された。スネイプ先生にとってその言葉は鬼門だからね。いくらスリザリン贔屓でも減点は免れない。

 ドラコが凄く荒れていた。

 

「あら、じゃあグリフィンドールはドラコのこと、きっと弱いって油断しているわ。チャンスだと思えばいいじゃない。そしてグリフィンドール戦でドラコがすごく素晴らしいシーカーだってこと、わからせてやればいいのよ。試合に勝てば、もう誰もドラコを『金で選ばれた』なんて言わないわ」

 

 私はそうやってドラコを元気づけた。

 

「……僕の事を二度とそんな不名誉な言い方などさせない。スニッチを取るのは僕だ」

 

「応援してるね、ドラコ」

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 ハリーはお金を持ってない(と本人は思っている)から備品の箒を使っているらしい。スリザリンの“選手全員ニンバス2001事件”を知ったマクゴナガル先生が奮起して、ハリーにニンバス2001をプレゼントした。

 

 百年ぶり1年生シーカー誕生とは違う、ただ、普通に選考で通っただけだよ? なのに箒を買ってもらえるなんて。マクゴナガル先生は公正だけど、クィディッチについてはすごく直情的だ。なんせ原作でも校則を曲げてまで1年のハリーをレギュラー入りさせたくらいだものね。

 

 つまり、ハリーとドラコの、“2年生にしてレギュラー入りしたニンバス2001持ち同士のシーカー対決”が決まった。

 『金で選ばれた』と言われて奮起したドラコは、のめり込むようにシーカーの訓練に明け暮れている。原作のような舐めプは絶対しないだろう。

 

 

 

 

 

 『必要の部屋』での魔法レッスン。メリーさんと小雪も一緒に頑張っている。

 

 閉心術と開心術はだいぶゴールが見えてきた。ちゃんと心に階層を持てるようになったもの。これからも続けていくつもり。

 そして。こういう精神を痛める魔法ばかり覚えるのは良くないんだろうけど、並行して別のものもはじめている。私達には時間がないのだ。

 

 『服従の呪文』の耐性を付けたい。

 『服従の呪文――インペリオ(服従せよ)』は術者と被術者の力量差によるけど、頑張れば対抗できるようになるらしい。

 んで、こんな危険な呪文、誰にも――ほんとうにこの世界の誰にも、練習ですらかけられたくないのだ。

 

 そうすると断然頼りになる『必要の部屋』大先生にお願いすることになる。インペリオも閉心術も『必要の部屋』大先生がいなくてはどうしようもなかったと思う。大先生……いや、ここはもう尊敬の気持ちを込めて師匠と呼ばせていただこう。『必要の部屋』師匠、ほんと、ありがとう。

 

 師匠の用意してくれた『服従の呪文』対策の部屋は閉心術の訓練の部屋に似ている。クッションが敷き詰められていて、中央に鏡があり、その前の床に円が描かれている。

 円の中に立つと前にある鏡からインペリオの呪文がかかり、鏡に命令の文字が浮かび上がる。服従させられた者はその命令通りに動いてしまう、というもの。

 これもとても緩いものから徐々に強くなっていくらしい。

 

 

 『服従の呪文』に抵抗する。

 これは魔法抵抗力が高ければ高い程拒否の成功率があがる。試しにピアスを外してから『インペリオ』を受けると前回抵抗できなかった強さの抵抗に成功したのだ。

 

 魔力を上げることも、魔法制御を鍛えることも、魔法抵抗力に関わってくる。それから精神力を高めることも大事だ。

 ただ一心に『私の王は私だけだ』と強く想い、誰にも膝を屈するものかと気合いを入れる。それから閉心術で心を閉ざすことも大事。

 何度もインペリオを受けていると、インペリオをかけられる瞬間の魔力の揺れを感じられるようになってくる。これを感じれば即、閉心術と、気合い。

 この練習もちょくちょく続けていこう。メリーさんや小雪も気力を削られてへとへとになりながらも頑張っている。

 

 『服従の呪文』についていくつか実験してみた。

 

 まずひとつ。『服従の呪文』にかかった者は“円”で気付けるか?

 

 『服従の呪文』をかけられると、ふわふわと漠然とした幸福感を感じる。穏やかで、相手の言うことを全肯定したくなる。言われたことをこなせるなんて幸せだなあって気持ちが全身に溢れ、命令に身をゆだねたくなる。

 

 『服従の呪文』に従う影を“円”で観察する。楽しそうで機嫌のいい様子がわかる。でもそれだけだ。これで気付くのは難しいだろう。『服従の呪文』、とても危険だ。

 

 

 次に。『服従の呪文』に操られた影を消すと、本体まで『服従』させられるか?

 

 これはとても重要なことだ。

 どきどきしながら、目の前で鏡の命令に従って踊る影を消す。……命令されて楽しく踊っていたという記憶が流れ込む。が、それだけ。大丈夫。私が鏡の命令に従いたいとは思わない。

 次の影を生み出しても……うん。大丈夫。生み出された影はインペリオされてない。

 

 ほっとした。よかった。影が操られても私に影響を及ぼすことはない。

 

 影は本体がいつでも消せる。影が操られればすぐに消せば問題はない。影の記憶に『鏡にインペリオされた』という情報がしっかり入っているから、誰に服従させられたのか、何をさせられたのかもちゃんと情報として受け取れて、そして本体は服従させられない。

 一番都合のいい挙動だった。

 

 ただね。私が気がつかないうちに影が服従させられて情報を漏らすと非常に困る。ガーデンに入ろうとすれば『ログアウト』の能力で影が消えるから良いんだけど、情報の流出が怖い。そのあとで忘却術で忘れてしまっていれば、私は誰に情報を知られたか知らないままだ。怖すぎる。

 外で私の代わりに影を動かす時は要注意だな。何か対策を考えよう。ううう。悩む。

 

 『影が誰かに操られれば消える』などという“発”を作って対処することはできない。

 私が何かの折に魔法省で証言することもあるだろう。真実薬や服従の呪文を受けて証言をしなくてはいけないなどという場合に、私の代わりに記憶を抜いた影に受けてもらわなくてはいけない。

 そんな時に人前で消えてしまうと困るのだ。

 

 

 当面、私の代わりに影を行動させるときには“隠”+“絶”の護衛影を必ずつけるくらいしか対策が思いつかない。

 最近では私が活動する際にもガーデンの小窓を開いて影を待機させたままにしている。ずっと小窓から外を監視し続けるのはきつい仕事になるけど、私が服従させられればおしまいなのだ。

 

 もしそんなことになったら状況次第ではステップで外に出て、私を担いでガーデンへ逃げ込むことになっている。そこで人生終了でも諦めるしかない。

 

 

 

 

 ところで。

 ディメンターに襲われた後の対処法としてチョコレートを食べるというものがある。「人間の心から発せられる幸福・歓喜などの感情を感知し、それを吸い取って自身の糧とする」ため、ディメンターに接した人間は強制的にうつ状態にされてしまうような感じなのだとか。そして、その症状にはチョコレートが効く、と。

 んで、闇の魔法を受け続けて弱った精神にも、チョコが効くんじゃないかと食べてみた。身体が温かくなってじんわり力が湧いてきた。チョコレートを三人とも無言で食べた。もっと買っておこう。

 

 

 

 開心術や服従の呪文への予防策としては、ヴァルブルガおばあ様から頂いた精神干渉魔法や開心術にも対抗できる指輪がある。

 だけど、これで完璧にしのげるのかというと、そうじゃないんだよね。これが。

 

 念で言う“凝”と“隠”の関係と同じだ。術者の腕で勝敗が決まる。

 開心術と閉心術も同じ。どちらか能力の高いほうが勝つ。服従の呪文もそう。

 

 だからこそ自分の能力を高めつつ、補助としてこういう魔法具をいくつもつけて相乗効果を狙うわけだ。だから魔法具もいろいろ手に入れたいところだ。買い物のために週2回は外に出る小雪の分も含めてね。

 

 

 

 

 

 

10月31日 ハロウィン

 

 私達はカボチャの匂いが充満する大広間で、美味しい料理を食べながら『骸骨舞踏団』のショーを楽しんだ。骸骨達のシャープでコケティッシュな踊りにみんな大満足だった。

 原作ではこの日『秘密の部屋』が開かれたけど、ただ楽しい一日としてみんな過ごせた。素晴らしいね。

 

 グリフィンドールのテーブルを見ると、4人組の姿がない。あれ? なんだったっけ?

 パーティの終わり頃に入ってきたハリー達は、疲れた表情で温かい料理をかっ込んでいた。

 

 あとで原作を見て思い出した。そうだ。“ほとんど首無しニック”の絶命日パーティに参加しに行ってたんだ。うわあ。ごくろうさま。でも、ゴーストの絶命日パーティに招待されるなんてめったにできない経験だよね。

 

 

 

 

1992年 11月

 

 精神に負担をかけるものばかり訓練していたけど、そろそろ楽しいものも練習したい。

 ということで、並行して他の訓練もしつつ、私達(メリーさんと小雪ね)は次の練習も始めた。

 

 

 『守護霊の呪文』だ。

 心が穢れていては使えない魔法。幸せの記憶がなければ出せない魔法。これを、使えるようになりたい。

 だってディメンターが来ることはわかっているんだし。絶対覚えておくべき能力だ。

 メリーさんと小雪には必要のない技術なんだけど、今まで辛い修行ばっかりだったこともあって、彼女達も小説で読んだこの魔法を使えるようになりたいと楽しみにしているのだ。

 

 

 この世界に生まれて12年。この5月には13歳になる。前世の記憶もあるし、今世でも楽しいことはいろいろあった。

 私は“幸せな記憶”をたくさん持っている。

 

 守護霊を出せるはずだ。

 

 だから楽しい思い出を胸に、今日も練習を続けている。

 

 

 

 

 

 

 ロックハートの授業はさらにくだらなさを極め、今では著書の中の劇的なシーンを演じるショーになっている。相手役……つまりはやられ役なんだけど、それは生徒が選ばれる。最初に選ばれたドラコがものすごく嫌そうな態度を隠さなかったため、見かねたマグル生まれのスリザリン生が代わりに立候補してくれた。

 彼のおかげで私達に被害がないことで、今のところ彼は私達の救世主だ。

 

 

 

 

 

 グリフィンドール対スリザリンのクィディッチの試合が行われる。

 

 観客席にはほぼすべての生徒が揃っているように見えた。私達は一番上の座席へ腰を落ち着けた。

 選手が入場してくる。

 レイブンクローやハッフルパフもグリフィンドールには声援を送り、スリザリンにはブーイングと野次が飛ぶ。

 去年も優勝杯はスリザリンが手に入れたのだ。そのスリザリンが全員ニンバス2001を持っている。怒りと妬みの野次もまあやぶさかではない。それでも気分のいいものではないけど。

 

 やがてゲームスタートのホイッスルがなり、選手が一斉にどんよりとした灰色の空へと飛びあがる。ハリーとドラコは同時に空高く舞い上がり、スニッチを探して目を凝らしている。

 

 一進一退の激しい試合をハラハラ見守るうちに雨が降り始めた。雨脚は一層強くなり、肉眼ではほとんど選手の姿は見えない。

 私は“円”で彼らの様子を見ていた。ハリーもドラコも視界の悪い空中で目を凝らし必死にスニッチを探している。

 

 気付いて、気付いてドラコ。ドラコの近くに飛んでるから。祈るような気持ちで見守っていると、ドラコが気付いた。同時にハリーも気付いたようだ。

 

 激しい雨の中、ニンバス2001の素晴らしい加速であっという間にスニッチに迫るドラコとそれを追うハリー。でも同じ速さなら近くにいたドラコの勝ちだ。ドラコがスニッチを掴んだ。観客席から悲鳴があがった。

 

 やった! スリザリンの勝ちだ。私達は立ち上がって拍手を送った。

 原作みたいに舐めプしていないドラコは凄いんだって。ハリーも凄いけど、小さい頃から『超一流パイロット』の私と箒に乗ってたドラコの実力はかなり高くなっている。

 ハリーが勝つのは難しいかもね。

 

 

 

 

1992年 12月

 

 クリスマス休暇についての手紙がルシウス叔父様から私とドラコに届いた。マルフォイ夫婦はマルフォイ家に立ち入り調査が入るらしくて、そのための準備に忙しいらしい。ドラコは学校に残ることになった。

 私は先生方のレッスンを受けたいから一人で帰る。レッスンはレストレンジの館に来ていただくことにすると返事を出した。ピアノ、バイオリン、サクソフォンの先生方にもそれぞれ手紙をだしておく。

 

 

 

 

 

 『守護霊の呪文』の練習をはじめてひと月過ぎた。

 まだまだ形にならない。

 やっと煙のような光のもやがふわっと杖の先から出てくるようになった程度。

 

 私の一番幸福な思い出はなんだろう。

 幸せな思い出をひとつひとつ考えてみる。

 

 残念ながら英里佳の時のことはほとんど覚えていない。物語やゲームの事は覚えているのに。親友と観た映画は覚えているのに親友の顔も名前も覚えていない。

 

 HUNTER×HUNTERの世界での思い出。

 念に目覚めた時。お母さんとメリーさんに祝ってもらった誕生日。ラルクが家族になった日。家族と家をガーデンにしまい込めた時。超一流ミュージシャンになれた時。公園でギターを弾いてはじめてチップを貰った時。

 カストロさんと一緒に過ごしたグリードアイランドでの日々。ディアーナ師匠やダンとの自然保護区キャンプ生活。

 ハンターに合格した時。バッテラさんの恋人に『大天使の息吹』を使った時。500億ジェニーを手に入れた時。アトリエをガーデンに建ててメリーさんが大喜びした時。

 シルヴィアを生み出せた時。ああ、『ほむら』の秘祭の感動的な夜。ワートタイガーの寿ぎ。

 ゴン達とのグリードアイランドでの日々。充実した修行。グリードアイランドをクリアできた時。クリアを祝う城下でのお祭り。

 カイト達と一緒に過ごしたカキン国での楽しい日々。

 カイトがピトーを斃した時。キメラアントの王を斃し、無事解決できた時。

 ネテロ会長に世界の広さを教えてもらった時。一緒に“世界の外側”へ行こうと誘ってもらった時。

 HUNTER×HUNTERの世界で、感動することや達成感を感じること、楽しかったこと、いっぱいあった。

 

 ハリー・ポッター世界に来てからはどうだろう。

 おじい様に認められた時は嬉しかった。初めて箒で空を飛んだ時は感動した。

 自分の杖を手に入れた時も嬉しかったなあ。最初に『ルーモス』を成功させた時も。

 ホグワーツ特急を降りて夜道を歩き、初めてホグワーツ城の全景を見た時の感動。

 ロニーに頼んでピアノを手に入れた時も。

 ガーデンでの家族のだんらんも。

 

 今までのいろんな感動の一コマ一コマを思い出し、情景として一瞬を切り取ってイメージが湧きやすい、『箒で飛ぶ爽快な空』や『ホグワーツ城全景を初めてみた時のわくわく』や『ほむら祭の夜、満月を背にワートタイガーが空に火を噴きあげた瞬間の感動』をキーにして守護霊を出せる練習を重ねた。

 

 

 ハリー・ポッター世界の魔法で私が一番欲しいと思っているのが『動物もどき』。

 だってさ。

 動物になれるんだよ?

 そりゃあなりたいに決まってる!

 

 獣になって広大な草原を駆け巡りたい

 鳥になって自由に空を飛んでみたい

 イルカになって波と戯れたい

 

 姿を変えるって楽しい。夢は尽きない。

 

 んでさ。

 この世界の魔法の面白いところなんだけど。

 

 『動物もどき』で変わる生き物の姿は自分が望んだものになれるわけじゃない。

 一番その人に相応しい生き物の姿をとる。

 

 人を動物にする姿変えの呪文でも、変身する姿は呪文を掛けられた者の相応しい姿になる。

 

 『守護霊の呪文』もそう。思いの強い生き物になる。

 ただ守護霊は作り出す人の強い気持ちによって途中で姿を変えることがある。

 トンクスの守護霊が、ルーピンを愛したことでうさぎから狼に変わったように。

 

 だから一概に守護霊の姿=動物もどきの姿ってわけじゃない。

 

 ジェームズ・ポッターは守護霊も動物もどきも牡鹿だった。マクゴナガル先生もどちらも猫。

 思い入れのある生き物なんだから同じになる可能性は高い。

 とはいえ動物もどきは実例が少なすぎて本当のところはわからないんだけどさ。

 

 まあ何が言いたいかと言うとだね。

 この『守護霊の呪文』で現れる生き物の姿が、今後習得すべき『動物もどき』で私が変身する生き物になる可能性が高いわけだ。

 

 ハリーなら牡鹿。ダンブルドアが不死鳥。ハーマイオニーはカワウソ。ロンはテリア。チョウ・チャンが白鳥だったかな。

 

 守護霊ならかっこいいのがいいよね。出てきただけで「わあ!」って思えるやつ。

 

 でもさ。『動物もどき』は街や森で敵から逃げたり隠れたり、あるいは紛れ潜んで情報収集したりするのにとても便利な能力なんだよ!

 動物もどきは目立たない姿のほうがいい。

 

 犬と狼は似てるけど、犬が街を歩いていても気にならないけど、狼がいたら大騒ぎになっちゃうじゃん。

 ロンドンの街中で牡鹿とか不死鳥がいたらおかしいよね。雑踏に紛れられない。まったく潜んでない。

 かっこいいよ? 確かにかっこいい!

 だけど、動物もどきの有用性は半減だよ、ほんと。

 

 どうか私の変身する生き物が、街にいても目立たない、でもかっこいいものでありますように。

 

 

 私はそう願いながら、今日ももわっと銀色のもやをだしている。

 

 

 

 

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