エリカ、転生。 作:gab
1993年 1月 始業
クリスマス休暇から学校に戻り、また授業と課題に明け暮れる毎日を送り始めた。
変な事件が起きないおかげで、勉強も『必要の部屋』での修行も順調だ。教科書は7学年分揃っているから徐々に上の学年へと進めている。
1993年 2月
2月になった。ホグワーツは大きな問題もなく、日々学業にクィディッチに忙しい。
バレンタインにロックハートがバカ騒ぎを起こし、教員生徒ほぼ全員の怒りを買ったりといった事件はあったのだけど。まあそれはわざわざ言うまでもない。一言で言うなら、ロックハートまじ万死。
私達貴族家の子供達は、誰かの手作りの贈り物を食べることは絶対にしない。特にクリスマスやバレンタインの時期は要注意だ。『愛の妙薬』や髪や血液を入れたお菓子を送ってくることが多いから。
だから市販品以外は送り主の名前にどれだけ信頼する相手の名が書かれていようとすべて廃棄処分にしている。
人気者のドラコ、ヴィンス、グレッグはもちろん、スリザリン寮の女性人気の高い私もたくさんチョコをもらうのだけど、そのほとんどが手作りでそのまま捨てることになる。なんてもったいない、とは思うけどさ。怖くて食べられない。
一度『あなたの崇拝者より』と書かれたヴィンスあてのチョコケーキを、興味本位で崩してみた。短く切った髪の毛がいっぱい入っていたのを目の当たりにしてからは、捨てることに躊躇がなくなってしまった。周りにいたみんなも絶句していた。
恐ろしい。魔法界の人達のこの手の“倫理観のなさ”が、ほんと、恐ろしい。
スネイプ先生はいつもの通り不機嫌そうな表情で授業をしている。
でも質問には(ちゃんと自力で調べた形跡のある質問だけ、だけど)丁寧に教えてくれるし、なんなら参考になる文献や書籍名を教えてくれたりもする。
私とドラコは魔法薬学が大好きで、授業もかなり熱心に受けているから、スリザリンで、純血で、真面目で、優秀な私達二人はスネイプ先生のお気に入りだと誰もが知るところとなっている。
最初は贔屓されているとか、点数が甘いとかいろいろ言われていたけど、いっそ開き直って、私はしょっちゅうスネイプ先生の薬学準備室を訪ねては質問をしたり、アドバイスを求めたりして、ついでに手伝いをしたりすることもある。
魔法薬って材料がこの世界でしか手に入らないものも多い。他の世界に行った時に、この技術を十全に使いこなすためには、たくさんの素材をストックしていくべきだし、できそうなものは自分で栽培もしたい。
それに、他の世界になさそうな素材の代替品を探すのも大切なんじゃないかなと考えている。
マグル界にある似たような効果効能の野菜を持ってきて、それを魔法を使って栽培したら同じ効果が現れるのか、とか。
先生に見せると、興味深い内容だと言われて、いろいろなアドバイスもくれるようになった。
ちょっと、悩んでいる。
シリウスはブラック家の後ろ盾が欲しいことと、原作で無罪が証明されないまま死んだ不幸をなんとかしてあげたいという思いもあり、ついでに言うとダンブルドア陣営に入られるととても邪魔だから、こちらへ引き入れたい。だからネズミを捕まえることを考えている。
スネイプ先生はダンブルドア陣営だけど、原作通りすすめば彼も不幸になる。
ヴォルデモートを復活させるつもりはないため、原作のようにヴォルデモートに殺される未来はないはずだけど、万が一のこともある。それに彼にもできれば幸せになってもらいたい。
彼は死喰い人でダブルスパイ。頭もよく、戦いにも秀でている。
できれば、彼もこちらに引き入れたい。
そのために、どうすればいいのか。
セブルス・スネイプとシリウス・ブラックが仲良くなれるなんて、無理だと思う。虐められていた子は虐めっ子を決して許さない。
しかも、シリウスは満月で狼状態のルーピンのいる場所へ誘い込もうとしたのだ。あれはどう考えてもシリウスが悪い。あれでスネイプが人狼になっていたら一生モノの傷だし、それにルーピンはアズカバン行きだ。人狼を入学させたダンブルドアだって退職になったかもしれない。
そこまで考えていなかったんだろうけど。酷すぎる。
ああ、なにか、いい方法はないものか。
1993年 3月
『必要の部屋』での訓練は続けている。
ハンナが使いに来ることを見越して、部屋を使用するのは平日昼間と門限以降。彼女の訓練を邪魔できないものね。私は影と交代することで夜の時間を有意義に使わせてもらえるんだから。
ハンナとは友人と呼べる関係になれたと思う。私は彼女の素直さが好きだ。
でもさ。お互い秘密が多いんだもの。言えないことが多くて困る。
たとえばさ。ほんとは『組み分け帽子をどうやってクリアしたの?』って聞きたい。もしかしたらノーガードで帽子を被ったかもしれない。それとも私の知らない方法でクリアしたのかもしれない。ノーガードならダンブルドアに被験者と言う存在がバレている可能性だってある。すごく聞きたい。
でもさ。それを私が聞けば。つまり、『私は組み分け帽子の開心術をクリアできた』とハンナに知られることになる。
ハンナのことは信用しているけど、彼女から情報が洩れる可能性ってすごく高いのだ。だから聞くに聞けない。
私が彼女にアドバイスしたことは、私がやっているとバラすことと同義だ。『閉心術と守護霊の呪文はできるようになった方がいいよ』って私は彼女にアドバイスした。私だってできると思われて当然だよね。そう考えると、彼女に話せることってすごく限られてくる。
ハンナのことはフォローしたいと思っている。でも、私の身が危険になるほどのことはできない。ものすごくジレンマだ。
はあ……。
まあ、とにかく。話はずれちゃったけど、『必要の部屋』での訓練は続けている。
閉心術は完ぺきだと言える。
夏にルシウス叔父様に初披露した『レギュラスの日記を読んで秘密を知り、自分の未来を憂いて苦悩する少女』の内容は、自分がしっかりそれを思いこむため、何度も何度も反芻して考えている。
『憂いの篩』で告白のシーンを取り出して見ることまでした。それによりイメージがどんどん強固になってくる。
そしてこれを、私の閉心術の、頭の階層の中間に据えることにしたのだ。
一番下の階層は私の“最重要秘匿情報”。
家族達とガーデン・倉庫、影分身とジャンプ、ログアウトの技術。
家族はもちろんのこと、異世界の技術を使ったいろんなアイテムを持っていることや、分身できて、登録さえすればどこにでも転移できるなんて、知られると非常に危険だ。“最重要秘匿情報”だけは本当に誰にも見せない。
頭の中に強固な強固な扉と鍵を付けてしっかり守っている。
その上の階層に“重要秘匿情報”。
被験者であることや、被験者としての“最重要”以外の能力、そして原作知識。
念能力者であることやステップやシルヴィアはここにあたる。
被験者が他に存在するのだから、これは流出する可能性がある情報で、私にとってガーデンや影、ジャンプとは重要度が違う。切り離して考えるべきだ。もちろん、これも秘匿すべき大切な情報。
ここまでが私の、命に係わる重要な情報。
ここまでは誰にも見せない。
そしてその上に、日記の内容を乗せる。
極悪人の娘という境遇が不安で仕方なかった幼げな少女がある日知ったレギュラス叔父の日記とヴォルデモート復活の秘密。それから分霊箱を集めて壊そうとしていること。
もうひとつ、私がパーセルマウスであることから父親が“例のあの人”かもしれないと予想していること。
ハンナが知っている可能性があるし、両親が生きている。死喰い人の中にもお辞儀様とベラトリックス・レストレンジがそう言った関係だった事を知っているものもいるかもしれない。どこかから証言が出てくる可能性がある。“ヴォルデモートの子供かもしれない”という可能性だけで大ダメージだ。
隠すべき情報だけど、他から漏れるかもしれない情報でもある。
この二つは同レベルに危険な内容で、でもそれぞれ独立した情報で別に管理すべき内容だ。
その上に12歳の少女としての普通の情報の階層が乗る。
死喰い人の娘として、“例のあの人”の復活と自分の両親を恐れる少女。深く掘り下げようとすれば日記の内容や分霊箱を壊すのを隠そうとしていることが窺える。
そんな風に自分でもしっかり思い込むことで閉心術の技術は上がっていく。
『必要の部屋』の鏡での練習も、びったりと閉じ切れば鏡に映った私の姿が心の中の風景に変わることはない。相当強くされてもだ。これ以上は心を壊す強度の開心術になると鏡師匠が太鼓判を押したくらい。
閉心術を使っていると気付かれないように上層を乗せて置くと、ちゃんと12歳の普通の少女の情報階層→もっと深く見て日記のことの内容の階層しか見えない。
閉心術が上達すれば、『服従の呪文』への抵抗力も上がっていくのを感じる。うん。結果が見えるのが嬉しいね。
開心術の方もだいたいできるようになった。
『守護霊の呪文』の訓練もだんだん形になってきた。
実はさ、私の守護霊ってもしかしたらパンダになるかも? って思ってた。だって私が一番依存している存在だから。
でもね、私の好きなパンダはメリーさんで、メリーさんは普通のパンダとは違う。直立二足歩行するパンダで、『動物』じゃなくて『パンダ獣人』だと考えている。人族の一種。私にとってメリーさんは動物じゃないの。
だからね、“守護霊は動物や魔法生物”だからパンダ獣人は除外されるの。ヒトだから。
んで。だから私の守護霊は、“思い入れのある生き物”ではなく、“自分に相応しい生き物”の姿をとるはず。
私の幸福の想いを力の源として現れたものは……鳥っぽい? 守護霊特有の銀白色に輝く鳥は、まだフォルムがしっかりしないからわからないけど、シャープな感じがする。カラス? かな?
まだまだすぐに消えちゃうけど。もうちょっとで完成かな。
そうそう。
メリーさんと小雪の守護霊は四つ足の獣っぽかった。メリーさんのものは丸っこいフォルムからおそらくパンダ。サイズが小さそうだから仔パンダかな。小雪のは……犬っぽい。
お互い、習得が楽しみだね、と励まし合った。
1993年 3月
私と小雪はリトル・ハングルトンについて相談していた。
「ゴーント家の場所だね、マスター」
「地名はリトル・ハングルトンで、近くにはグレート・ハングルトンがある、か。イギリスの地名でリトルなんちゃら、とかグレートなんちゃら、って地名はけっこう多いもんね。見つけるの大変かも」
私達はゴーント家の場所を見つけ出そうとしていた。
誰にも知られていないうちに、トム・リドルの父親の骨をこちらで確保してしまおうと考えたためだ。
それにそこには分霊箱“ゴーント家の指輪”が隠されている。
ルシウス叔父様はトム・リドルの名前からゴーント家を調べ出してくれるだろうけど、私にその場所を教えてくれるかわからない。分霊箱があるかもしれない、なんて知れば余計ね。危険な仕事は大人に任せなさいって言いそうでしょう?
まずイギリスの詳細地図を買い、その村を探すことから始めた。
今はまだ1993年。
時代が時代だから、まだインターネットは主流じゃない。それに私にネットワークに繋がるパソコンを置ける場所がない。レストレンジの屋敷や“木漏れ日の家”は電化製品は使えないし、ガーデンは亜空間だしね。
地名を探すのも苦労する。
リトル・ハングルトンは田舎の村だからまったく有名じゃないし。
こういう時に“おっけーぐーぐる”って言いたくなるよね。
小雪が原作をすべて舐めるように読み込んで、様々な情報をピックアップしてくれている。
その中で、“ロンドンから約300キロ”という記載があるのを見つけてくれた。
コンパスで300キロ地点に円を描き、あとはその周辺で牧場の多そうな地域を探して、見つけた。
そして、“隠”+“絶”の影が箒でびゅっと行ってポイントを設置してきた。ううう。ジャンプポイントが……ジャンプポイントが足りない。
・(ポイント1)ホーム レストレンジ家 私室
・(ポイント2)寮私室 ホグワーツスリザリン寮私室
・(ポイント3)8階 必要の部屋前
・(ポイント4)ダイアゴン ダイアゴン横丁
・(ポイント5)マグル街 ロンドン マグル街
・(ポイント6)ガーデン シークレットガーデン
・(ポイントA)秘密の部屋 秘密の部屋
・(ポイントB)木漏れ日の家 木漏れ日の家
・(ポイントC)墓地 リトル・ハングルトン
この墓地は当面外せない。少なくとも4年まではこのままだ。
となると、自由に上書きできるのがもうない。次に登録するときはダイアゴン横丁かマグル街のどちらかを上書きするしかないか。どちらかがあればそこから移動できるものね。
これで、トム・リドル・シニアの遺骨を奪うことも、指輪を取りに行くこともいつでもできるようになった。
……でもね。
魔法ってほんとうにいろんなことができてしまう。
万が一、墓地の中に埋まっている骨が誰のものか確かめるような魔法があったとしたら?
原作では儀式の流れはこうだった。
溶液の入った大鍋に、お辞儀様が入り、呪文を唱えながら、『父親の骨』、『しもべの肉』、『敵の血』の順番で大鍋に入れていく。
その『父親の骨』の段階で、それまで手付かずだった墓を呪文で暴き、浮き上がった骨が吸い寄せられるように大鍋へ飛び込んでいた。これ、この時点で骨が違っていたら儀式が失敗する。
その時のお辞儀様は赤ん坊サイズのあの姿のままなのか。それとも溶液に溶けたおぞましいナニカなのか。危険すぎるよね。
つまりさ。あらかじめ、骨がちゃんと埋葬されているか、中身は変わっていないかくらいの確認はしてるんじゃないかなってこと。
順当に進めばヴォルデモートは4年の時にここへ戻ってくる。復活の儀式のために。
お辞儀様自身は赤ん坊サイズの仮の身体で、自力では移動もままならない状態。一番信頼する部下達はまだアズカバンに収容されていて手出しができない。ひとりだけいる狂信者クラウチ・ジュニアはホグワーツにいる。その場には赤ん坊サイズのお辞儀様と大蛇のナギニ、ピーター・ペティグリューしかいない。
この時が一番お辞儀様が無防備になる時だ。しかも起きる日と場所が正確にわかっている。
復活を阻止するか、復活直後に殺すか。それはまだわからないけど、こちらが罠を張って待っていられる唯一のチャンスだ。
だけどその前に墓の中身がなくなっていると気付かれてしまえば、彼らの動きが全く読めなくなってしまう。
なので。
骨をここに残しておくのはちょっと不安なんだけど。掘り返すと決まればすぐにできる準備だけしておいて、今はそのままにしておくことにした。
原作ではヴォルデモートは復活させてから斃していた。そうしなければならないって言ってたけど、復活した身体にハリーの血を取り込むことでハリーを殺せないようにするためってことだよね?
だけどさ。復活させる必要ないじゃん。
それに復活したらその場で殺してやる。私なら余裕でできる。私はヴォルデモートを殺すことでは穢れない。“私ルール”では彼は殺していい存在だもの。
また悪霊状態から始めればいいんじゃないかな。
父親の骨もなくどうやって次の復活を果たすのか謎だけどね。
ヴォルデモートの恐ろしさは、本人の強さももちろんながら、彼の知性と、部下の多さ、今でも魔法界に根強く残っている、彼が植え付けた『恐怖』そのものだと思う。
復活してまた死んで。次の復活までにどれだけ時間がかかるかわからないけど。
あと数年もすれば今アズカバンにいる狂信者達も弱ってくる。イギリス魔法界に蔓延る彼への恐怖心も徐々に収まりつつある。復活まで時間がかかればかかるほどこちらが有利になる。
死喰い人だってさ。薄れていた左手の刺青がだんだん濃くなって、帝王が復活するかと夜も眠れないほどの恐怖に震えていたら、ある日突然、また、ふっと刺青が薄くなればどう思うか。帝王の復活の失敗に気付いちゃうんだよ。
一度目はたった1歳の幼児に負けて死に、次は復活間近まで進んでまた失敗して。
あれ? って思わない?
そうやって帝王への恐怖が薄れてくればヴォルデモート卿の名に怯えるものも減る。
そうなればお辞儀様の力も弱まってくる。
ダンブルドアは自分が戦えるうちにお辞儀様を斃そうと考えていた。だからハリーの成長を待てずに、彼にいろんな試練を与えて無理やり成長させようとした。
でもさ。私は若い。私やハリーが成長して、じゅうぶん戦えるようになってからでも、ヴォルデモートとの対決はじゅうぶんなのだ。
その間に霞のような状態のものを封印する方法や、ハリーについたお辞儀様の魂を引っぺがす方法も探せる。時間は私達の味方だ。
父親の骨をそのままにしておくのは怖いのだけど。何か動きがあるまでは、ここはこのままにしておこう。
ジャンプポイントさえあればいつでもできるんだし。墓を掘り返すための準備と、指輪を取るための準備をしっかりしておけば、何かあればすぐに動ける。
1993年 4月
イースター休暇中に、来年の選択科目を決めるよう通達がきた。
来年はハグリッドが『魔法生物飼育学』を教えることになる。ドラコがヒッポグリフに怪我をさせられないように一緒に居なくちゃ。
『マグル学』はもとマグル出身の英里佳から考えて、実際ちっとも役に立ちそうにない授業だった。あれはパスしていいよね。
『古代ルーン文字学』と『数占い』はちょっとやってみたい。ルーン文字は魔法具作成に必要だし、占術系は魔力があるなら私にも才能があるかもしれないし。
『占い学』はちょっと。トレローニ先生の授業は受けたくないなあ。あの人ってシャーマンだから、トランス状態に入らなきゃ予知なんてできないのよね。彼女の教える内容で何か得るものがあるかなんて、はなはだ疑問だわ。
それにさ。私の顔を見たとたん、トランス状態になって『闇の帝王の血筋に……未来を知る者が現れる……』とか言われそうで怖い。めっちゃ困るじゃん。うん。トレローニ先生にはノータッチで。
ああ、でも、逆転時計は使ってみたい。全教科を取れば原作のハーマイオニーと同じように逆転時計を貸してもらえるかも。あれってマクゴナガル先生が頑張って交渉したみたいだからスリザリンの私には無理かもしれないけど。
でもそれだけのために『マグル学』と『占い学』を取るのは嫌だな。どう考えても時間の無駄だし。
ううう。悩む。
結局、『魔法生物飼育学』『古代ルーン文字学』『数占い』の3つを取りたいと希望を出した。スネイプ先生には、君はとても優秀だから期待しておる、と重々しく頷かれた。
お。褒めてもらえた。ほんのすこし唇の端があがったから、微笑んでる。貴重な微笑み、いただきました。
成績優秀でほんと良かった!
期末試験のための勉強が忙しくなる前に、ハンナと一度鏡で話をした。
「今年は事件がなくて平和だったねぇ、エリカ」
「ええ。一年間、充実してたわ。あ、そうそう。ハリーのところにドビーは一度も行かなかったってことでいいのよね?」
「うん。ハリーからは何にも聞いてないよ」
「じゃあハリーはドビーの存在を知らないってことでいいのね」
「そうだね。ってかドビー“洋服”になってないよね、エリカ。マルフォイ家のしもべのままってどうよ」
ハンナの言葉に私も顔をしかめる。そうなのだ。ドビーが未解決なのだよ。ハグリッドのアクロマンチュラのことも。
「事件が起こらなかったからドビーはマルフォイ家のしもべ妖精のまま。正直言うと、ドビーとハグリッドは仲間にすると何かやらかしそうで目が離せないタイプよね」
「かといって自由にさせていたら目玉がぶっとぶようなことをしでかしそう」
「言えてるわね」
ドビーはね……
彼を思うとため息しかでない。
ドビーは屋敷しもべ妖精の常識を打ち破り、主の秘密を他者にばらした。
主に絶対服従なのは、屋敷しもべ妖精という種族の根幹に関わる本能のようなもの。そこから逸脱したドビーは、勇敢だと思うし、明るい彼の性格は好感が持てる。
原作でハリーを守って逝った彼の死には涙した。
だけどさ。
主側の目で見ると、ドビーってあんまり仕事ができないしもべ妖精だよね。仕事中抜け出してるんだし。
原作2巻での彼の登場シーンは多い。
んでさ。レストレンジ家の屋敷しもべ妖精はロニーひとり。ブラック本家はクリーチャーひとり。ブラック分家はマーネィとベペリのふたり。マルフォイ家のしもべ妖精はドビーひとりなのだ。
そう。あの大きなお屋敷すべて。料理、掃除、洗濯、庭の手入れ、孔雀の世話その他もろもろを、たったひとりでまかなっている。魔法があるからこそなんだけど、自由になる時間ってかなり少ないはずなんだよ。
んでさ。もう一度言うけど。
原作2巻での彼の登場シーンは多い。
ね。もうね。言いたいよね。
ドビー、お前、さぼりすぎ!
ハリーへ届く梟便をすべて止めて奪っていたり、9と4分の3番線の入口を封鎖したり、ブラッジャーを操ったり、他にもハリーが何かしらあった時にタイミングよく出てくる。ホグワーツでさえ。つまりさ、姿を隠してずっとストーカーよろしく傍で『英雄ハリー・ポッターをお助けするのだ!』と見守っていたわけだよ。
うん。何度でも言う。
ドビー、お前、さぼりすぎ。働け。マルフォイ家の家事をしろ。
子供の頃からマルフォイ家に入り浸っているからわかるんだけど。ドビーってけっこう仕事が雑で、気が利かない。
ロニーなら、寒い夜にはベッドに入るとシーツが温まっていたり、クリーチャーは私が本家で食事をする時は必ず好物を用意してくれたり、ベペリ達なら子供の取りやすい高さに物を置いてくれたり、そういう気遣いがあるんだけど、ドビーにはそれがない。
いや、ごめん。言いすぎた。気遣い、なくはないのだ。ってかありありすぎる。
ただ。気遣いの方向が斜め下なんだよね、彼。
お菓子を食べ続ける子供にわんこそば状態でお菓子を出し続けたり。
誕生日に喜んでもらおうと気合が入りすぎて、1台でいいケーキが5台もテーブルに並んでいたりするの。しかも全部同じ味。そういう失敗が多いの。
あと、ルシウス叔父様も体罰なんてしてないよ。
失敗した時に叱ると、自分で勝手に罰するんだもん。壁に頭をぶちあてたり、火かき棒で自分の身体を殴ったり。そうやって余計に散らかすの。
「やめろ」と命令するルシウス叔父様のイライラ感と脱力感とかね。世話を焼いてもらう立場で彼を見るとほんと、どうすんのって思っちゃうんだよね。
彼の性格の良さとか、屋敷しもべ妖精という種の本能に打ち勝つ、自由を愛する志とかさ、すごいなって思う。
思うんだよ。うん。でも、実際に身の回りの世話を頼むことになるとさ、いろいろ足りないところが見えてくるわけだよ。
マルフォイ家の人々が穏やかになったから、しもべ妖精を虐待することはなく、ドビーもいつも清潔な枕カバーを着ている。本人もわりと楽しそうに仕事をしているように見える。
それでも、やっぱり彼は、自由な屋敷しもべ妖精なのだ。いっそ本当に“洋服”にしてあげたほうがお互いの幸せのためなんじゃないかって思う。
だけど、彼を“洋服”にしたら守秘義務の契約も切れてしまう。
だからこのままマルフォイ家に残しておくべきなんだよね。だけどさあ、彼の精神は自由なんだよ。マルフォイ家のしもべ妖精のままでも、ハリーのために外に出れちゃうんだから。
マルフォイ家にスパイがいる状態は、実によくない。
敵になっても味方でいても、目が離せない。
「んで? どうすんの? エリカ」
「どうしましょうね。とりあえず、当面はドビーは様子見かな」
現状どうすればいいのか判断がつかない。ほんと、考えるだに頭がいたい。
「来年はシリウス・ブラックの脱獄だね。ディメンターがコワイ」
「そうね。守護霊の呪文、できた? 私はもうちょっとって感じかな」
「すごい! 私はまだなの。ほんと、全然うまくいかない。やっぱり時間がなくてね」
「ちゃんと頑張ってね。来年ハリーと一緒に練習するのでもいいから。私達って死んでるのよ? ディメンターの恐怖がすごいかもよ」
「わお、そうだね。うん。がんばる」
「来年のことは、じゃあまた来年ね。お互い試験、頑張りましょう」
「うん。エリカもね」
私達は挨拶を交わした。