エリカ、転生。   作:gab

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夏休み 4つ目の分霊箱の破壊とゴーント家

 

1993年 7月

 

 7月は後半2週間ほどマルフォイ家で過ごし、8月はレストレンジ家で音楽のレッスンに力を入れると話している。

 

 分霊箱3つを壊し、ブラック本家への報告も済ませた数日後。

 

 私はダイアゴン横丁へ向かう。エリカ・レストレンジとして買い物をするつもりだ。

 まずグリンゴッツへ行き、レストレンジの金庫を目指した。

 

 レストレンジのメイン金庫。巨大な洞穴を見回す。

 去年の夏は天井につくかと思うほどあった金貨の山。ゴブリンの剣の代金を支払ったことでこの金庫の金貨をほぼ使い尽くしたようだ。今はがらんとした広い洞穴の中央に、金貨が小山を作っている。

 初めて見えた向こう側の壁。金貨の山に埋もれて入っていただろう美術品が岩肌の地面に直に置かれている。

 すげえなゴブリンの剣。

 こうやって極端に目減りした金貨の山をみると、どれだけの散財だったのかが如実にわかる。それでも必要だったし、おかげで分霊箱は壊せた。それに次の生に持っていく強い武器を手に入れられて、大満足な買い物だった。

 

 

 私って代理人になっているけど、代理人の権利で動かせる財産ってほとんどないの。不動産の売買はできないよう最低限の権利しかない。

 レストレンジ家の娘としても金庫の中身を貰うくらいしかできない。それ以上は法律的にストップがかかる。

 私が成人すれば正式にレストレンジ家当主となると決まっていて、私は現在そのための勉強中という位置づけなわけだ。そしてその間に動かせる資産は金庫の中身程度しかない。うん。この金庫を金庫()()って言えちゃうのって凄いよね。

 本邸、別邸、別荘、荘園、所有地、会社、山ほどある資産は私の手が届かない。

 

 なんか『レストレンジ家の資産、喰い潰してやるぜ』とか大見得切ったわりにはさ、私ひとりが散財するお金なんて微々たるものだった。

 全然太刀打ちできませんでした。巨象と戦うアリ並みだったね。

 

 でもさ。

 レストレンジ家から毎月ロングボトム家に治療費を払うことにしたから、金庫の中をすべて空にするという幼少時に決めた目標は変更しなくてはいけない。

 

 

 まあお辞儀様の復活を阻止すれば、レストレンジのお金があってもなくても特に情勢はそう変わらない。万が一うちの両親が脱獄してきても、お辞儀様がいなければ死喰い人なんてただの暴力集団でしかない。ってかお辞儀様がいなければそうそう脱獄なんてできないよね。動物もどきじゃあるまいし。

 

 

 ということで。

 この金庫で足りない支払いは他のレストレンジ名義の金庫から引き出されるから問題はないのだけど、それでもこの金貨の小山がなくなるのは少し気が咎めるので、金貨には手を出さず、他のものに目を向けた。

 

 金貨がなくなったことで露わになった美術品と魔法具。

 無造作に金貨の山に埋まっていたのだからそんなに繊細なものはないよね? 山ほどの宝石で飾られた眩いゴージャスな短剣、裸石が詰まった宝石箱や巾着がいくつか、金属製の扇子、懐中時計、どこかの王様が被ってそうな王冠、宝石の飾りがついたステッキ、インゴット、もろもろ。金庫にまた金貨が増えると再び山に埋もれてしまうこれらはまとめて貰っていく。怪しい気配を発しているものは封印箱へ入れてから収納。しっかり“凝”でも見て判断したから大丈夫。

 

 

 金庫内にいくつか並んだ薬品の棚はそのまま倉庫へ。バジリスクの毒の保存状態の良さから考えると、毒の特性だけじゃなくて、この棚自体にも保存とか保持とか時間遅延とかそんな感じのしくみがあるかもしれない。ぜひこの棚が欲しい。薬品もあると便利だし。棚ごと貰って、あとで調べよう。同じ棚が作れるなら量産しなくては。

 

 魔法具は金庫に仕舞われた時期が違うからか、整頓の仕方に差がある。丁寧に棚に並べられ、そこに何が置かれているかわかるようにその下にラベルが貼ってある棚はそのまま棚ごと収納。表記がない棚は触るのが怖いから当面そのまま置いておく。

 今回持ち出した魔法具や魔法薬をしっかり確認して整理を済ませたら、また残りの魔法具を取りに来よう。

 

 

 その後、ゴブリンにレストレンジ名義の別の金庫に回ってもらう。

 金庫の中身はしっかり残しつつも、大量にガーデンのコンテナに収納していく。倉庫に入れると場所を取られてしまう。倉庫は時間停止があるから今はほぼ食糧庫じみている。それと繊細なアイテム類とかね。金貨は腐らないんだからコンテナでじゅうぶんなのだ。

 

 たくさんもらえたことに満足し、私は金庫を後にした。

 

 その後、おじい様がくださった金庫にもトロッコを回してもらう。一度くらいは見ておきたいからね。

 おばあ様がくださったものと同じくらい広い金庫は天井に付きそうなほどの金貨で埋め尽くされていた。これなら大人になっても当分贅沢に暮らせそうなくらいある。ありがたい。大切に使わせていただきます。おじい様。

 

 

 グリンゴッツを出た私はそのまま書店へと向かった。

 情報は力だ。

 次の世界に行ったとき、ハリー・ポッター世界の魔法について調べたくてももうそこには資料はない。今、この世界にいるうちに、できる限りの情報を集めて次の生に持ち越さなくてはいけない。

 

 レストレンジの圧倒的経済力にモノを言わせて、書店にある技術書、参考書、魔法書、図鑑類はどんどん購入することにした。サインひとつで金庫から支払いができるのって素晴らしいね。

 拡張して収納できるスペースがあるから、書店丸ごと買いますくらいの勢いで購入した。

 そのまま持って帰ると営業妨害になるほどの大量購入のため、注文してレストレンジへ届けてくれるよう頼んでおいた。配達が8月最終週以降になるものは9月になってからホグワーツへ送るようにと言い置いておく。

 

 大量の注文を済ませたあと、書店の本棚を眺めて気になるものを追加で取り出しながら、今の教科書、とくに『闇の魔術に対する防衛術』のものが質が低い気がするんだけど、と書店の店員に訊ねると、「昔の授業内容は難しく、だんだん簡素化されてきたらしいです。過去の教科書は既に廃版になってます」との回答が返ってきた。

 生徒の質が落ちたからそれにあわせて授業が簡単になり、授業が簡単になるからまた生徒の質が落ちる。つまり今のホグワーツってゆとり教育世代ってやつだ。

 

 ホグワーツってさ。一般教養の授業がない。文字の書き方も、文章力も、加減乗除も、何も教えないのだ。

 裕福な貴族家は入学までに家庭教師を雇って勉強させる。

 マグル生まれはプライマリースクールがあるからそこで覚える。

 

 家庭教師を雇う金がなく、親が勉強の面倒まで見られないほど忙しいような金銭的時間的余裕のない家庭の子供は、文字も読めないところからスタートする。

 原作のクラッブ、ゴイルとかね。そんな感じだったと思う。

 

 魔法族のリテラシーのなさとか、情報にすぐ踊らされる情弱ぶりとか蒙昧さとかさ。このホグワーツのゆとり教育のせいでもあると思うんだよね。

 

 こうやって弱い魔法使いが増えているのかな。

 原作でもさ、プロテゴができない職員のためにウィーズリーの双子作の悪戯グッズ『自動プロテゴ付き帽子』を魔法省が大量注文してたくらいだものね。魔法省の職員というエリートですらまともにプロテゴもできないってとんでもないと思うの。

 

 廃版になった本は本屋での取り扱いがないから、古い教科書が欲しいなら魔法具店などで探したほうがいいでしょうとアドバイスを受けた。

 

 これは……どうすべきか。

 『必要の部屋』で本が読みたいと願って出してもらってそれを書き写すか。魔法具店でも探してみるか。

 

 ゴブリンの短剣を注文した業者にも梟で手紙を送ろう。「過去の教科書類が手に入るなら融通してほしい。魔法書の類も」ってね。禁書のたぐいも欲しいからそれも頼んでおこう。

 

 

 あとさ。

 ホグワーツの図書館の蔵書をすべて持っていきたい。

 『ホグワーツの秘密』に書かれていたけど、あそこの図書は保護魔法が掛けられていて、双子の呪文などの複製魔法が利かない。

 

 貸し出しの処理をして借りてきたものはみんな自動筆記羽ペンで書き写しているんだけど。簡単に借り出せない禁書関連がね。禁書こそぜひ欲しいじゃん。

 

 だからあれも『必要の部屋』に呼び出して、そこで複製していけばいいんじゃないか、と考えている。

 それも影に頼んで夜の時間とかにやれば捗るかな。9月からの作業に入れておこう。ああ羊皮紙を大量に買わなければ。

 

 

 魔法具店へ行き、古い教科書があれば欲しいと頼むと数年前のものがでてきた。それを買うことにして、もっと古いものがあれば集めてほしいと注文し、それから店にある目に付いたものを買い漁った。

 大量購入にあっけにとられる店主にありがとう、よろしくねと微笑みかけてすべてをトランクにしまうと外へ出た。

 

 雑貨店でも薬草や魔法薬の素材を買う。折れた杖もまた見つけて買っておいた。

 楽器店で楽譜を大量に買ったり、楽器を買ったりもした。メリーさんの画材や絵の具もたくさん買った。

 

 今日一日の散財は凄かった、と思う。大満足で家へ帰った。

 

 

 

 

 

 

 

「これだ」

 

 朝、新聞を開いて呟く。

 この夏から新聞を取るようにして毎朝チェックしていたんだけど、今日やっと待ちに待った記事を見つけたのだ。

 日刊予言者新聞の見出しを興味深く眺める。大見出しはこうだった。

 『魔法省官僚 グランプリ大当たり』

 

 ロンの父親、アーサー・ウィーズリーが、ガリオンくじに当たって700ガリオンもの大金を手に入れ、その賞金を使って長男ビルが働くエジプトへ家族旅行に行ったのだ。モノクロの大きな写真が載っている。

 

 ウィーズリーの家族がピラミッドの前に立ってこちらへ向かって幸せいっぱいの笑顔で思いっきり手を振っている。ロンのネズミ、スキャバーズがその肩に乗っていた。しっかり目を凝らしてみれば、その指が一本足りないのが……見えないこともない、か。

 この小さなネズミの姿で彼がワームテールだとわかるって、さすがは復讐の想いに凝り固まったシリウス・ブラックだな。

 この新聞を見て、シリウス・ブラックが脱獄を果たす。『アズカバンの囚人』の序曲だ。原作とはいろいろ変わってきていたから、これも無くなっているかとちょっと冷や冷やしていました。

 

 

 

 7月の後半は予定通りマルフォイ家で過ごした。

 私の長年の音楽での説得によって、マルフォイ家はみな性格的に角が取れてマイルドになっている。こうやって一緒に過ごすと上品で穏やかな貴族そのものって感じしかない。

 ドラコ達と課題をしたり、箒で遊んだり、ヴィンス達の訓練に参加したり、楽しい2週間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 再教育を受けているドビーは今日も真新しい枕カバーを身に着けて、頑張っている。ベペリの教育は厳しい? と聞くと、へにょりと耳を垂れたドビーが両手をもじもじさせた。

 

「ベペリにたくさん叱られてドビーは大変なのです」

 

「失敗しないようになれば叱られないのよ」

 

「ドビーは失敗しないように頑張っています。だからベペリはもっとドビーに優しくするべきなのです」

 

 ドビーは良い子だから頑張ってね。応援してるから。そう言うと「ありがとうございますお嬢様」と元気に返事が返ってくる。素直で良い子なんだよ。ほんと。ただ、ちょっとぶっとんでるだけで。

 

 ああ、そうだ。

 ドビーが英雄ハリー・ポッターのためにシリウス・ブラックを捕まえにいかないよう、しっかりベペリに頼んでおかなくては。原作でなんでシリウスのことはノータッチだったのか知らないけど、去年ハリーのために仕事をしなかったドビーが『英雄ハリー・ポッターをお助けするのだ』とか言い出したら、ほんと、困る。もうすぐシリウス・ブラックの脱獄があるはず。

 

 あとでベペリに頼んでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 そして――

 

「これがゴブリンの剣か。素晴らしいものだな、エリカ」

 

 美術品好きのルシウス叔父様が感嘆の眼で短剣を眺めている。お、収集家の血が疼いているな。自分も探そうとか考えていそう。付き添ってきたシシー叔母様が呆れた表情で叔父様を見ている。

 

「レストレンジのメイン金庫の金貨の山がほぼ消えました。でも、分霊箱を壊せるんですから、いい買い物でしたわ。……叔父様がなさいますか?」

 

「ああ。これは帝王から私が預かったものだ。帝王との決別の意味でも、私の手で壊すべきだろう」

 

 私のトランクの訓練室には、また新しい大岩が入っている。その上に『トム・リドルの日記』を乗せたルシウス叔父様が、一度目を閉じ、心を落ち着けると私を見た。

 

 ゴブリンの剣を差し出すと、叔父様は黙って剣を掴んだ。私はシシー叔母様と後ろに下がる。

 

 分霊箱は壊されそうになると幻影を見せて心を惑わし、恐怖を与えてくる。本人の心に巣食う恐れや猜疑心を煽り、心を折ろうとしてくるのだ。分霊箱を壊す際にはできるだけの防備が必要だと、あらかじめ叔父様にも話しておいた。

 だから、叔父様も今日、十分な準備を整えてこの場に臨んでいる。

 

 

 剣を構えた叔父様が前に立つと、『トム・リドルの日記』がぶるぶると震え、黒い煙が湧き上がるとそこには闇の帝王の姿があった。

 

『ルシウス。ああ、ルシウス・マルフォイ。俺様の有能な右腕。お前のことは信頼しているぞ。

 俺様に跪くのだ。さあルシウス』

 

 死喰い人はヴォルデモートの身近にいたからこそ、彼の強さと残虐さを誰よりもよく知っている。

 部下に対しても頻繁に行われた制裁のせいで、死喰い人達はヴォルデモートの恐怖が骨の髄まで沁み込んでいる。むしろ一般人よりも深い恐怖を感じているかもしれない。

 

 ルシウス叔父様も幻影の厄介さを聞いて魔法具で装備を整え、心の準備もしていたようだけど、実際に闇の帝王の姿を見ると12年前の主の恐ろしさを思い出すのだろう。

 叔父様の身体が震え、息があがる。

 それでもしっかりとその手に剣を握りしめ、あえぐように息をつくと剣を構えなおした。

 

『ルシウス。ルシウス・マルフォイ。

 俺様を裏切ればどうなるか、聡明なお前がわからぬはずがないだろう。ナルシッサはどうなる? 可愛いドラコは?

 さあルシウス。俺様の忠実なしもべよ。

 俺様に跪き、お前を唆す小娘を殺すのだ。さあ……ルシウス』

 

「っ! ……黙れ」

 

 叔父様、どうか呑み込まれないで。青白い顔で震えながら剣を構える叔父様を、祈る気持ちで見守る。「あなた……」と万感の想いで呟くシシー叔母様と抱き合って、幻影に立ち向かうルシウス叔父様を見つめた。

 

「はあっ!」

 

 ルシウス叔父様が気合いと共に剣を日記に突き刺した。黒いインクが血のように溢れだし、ヴォルデモートの恐ろしい悲鳴が響き渡る。

 

『ルシウスぅ! お前は俺様のしもべではないのか! お前ならわかるだろう。俺様がお前を決して許さぬと。俺様の呼び出しに怯え、震えるがいい! 俺様がお前を殺してやる。殺してやるぞ。この裏切り者めぇ!』

 

「だまれえ!!」

 

 叔父様が剣を引き抜く。柄を上に持ち替えて震える両手で握りしめると、体重をかけるように上から剣を深く突き立てる。雷鳴のような悲鳴が聞こえ、やがて静かになった。

 

 日記に剣を突き刺したまま手を離し、ルシウス叔父様が2,3歩後退るとその場に座り込んだ。シシー叔母様が走り寄ってその背を支えた。

 荒い息をつく叔父様に私も近づいた。

 

「お疲れさまでした、叔父様。かっこよかったです」

 

「……あいつの言葉に揺れそうになった。私は……まったく、情けない」

 

 気遣わしげに寄り添うシシー叔母様を安心させるよう彼女の手を軽くとんとんと叩きながら自嘲するように首を振った。

 

「そんなことはありません。私の時もあんな風に『ベラトリックスの娘がなぜ』とか『親に愛されぬお前など』とか言われました」

 

「エリカはまだ1歳だったからあの方の恐ろしさを知らないだろう。我々は、あの方が恐ろしくてたまらない」

 

「叔父様……『俺様の呼び出しに怯え、震えるがいい』ってどういうことですか? 死喰い人には何か直接連絡しあえる方法があるのでしょうか?」

 

 『闇の印』の事を教えてもらいたい私はせっかくのチャンスを無駄にせず、それとなく水を向ける。

 叔父様は少し躊躇したあとで、そっと左手の袖をまくって見せてくれた。そこには『闇の印』の刺青が薄っすら見えた。わかっていたことなのに、それでもおぞましさに息を呑んだ。

 

「『闇の印』だ。帝王はこの印を使って我々を呼び出すことができる。誰かの印に帝王が触れると我々すべての者の印が熱を発して黒くなる。今は薄れているが、帝王が存命だった12年前はもっと色が濃かった。この印は……どうあっても決して消せない」

 

「もしかして、帝王の復活が近くなると、その印もまた濃くなるのでしょうか」

 

「そうかもしれぬな」

 

「恐れていらっしゃる?」

 

「ああ。我らほどあの方を恐れているものはおるまい」

 

「それでも剣を持ってくださった。叔父様の勇気を尊敬します。叔父様はすてきです。ね、叔母様」

 

「ふふふ、そうね。自慢の夫だわ」

 

「……ありがとう」

 

 

 叔父様は自分の手で分霊箱を壊してくださった。

 原作のように知らぬまま使って壊されたのではなく、帝王の分霊箱だと知った上で、自分の意志で壊したのだ。

 ルシウス・マルフォイは、ヴォルデモート卿と決別した。

 私やドラコにとって、とても嬉しいことだ。

 

 

 

 

 

 トランクからルシウス叔父様の執務室に場所を変え、ベペリにお茶を頼んだ。

 青白い顔色の叔父様はそうとう気力を持っていかれたのか、今もソファに上体を預けぐったりと身体を休めている。だけどその表情には達成感と、ある種の解放感があった。

 叔父様も、もう後戻りのできない一線を越えたことを実感しているのかもしれない。

 

 お茶の用意をしてくれたベペリをねぎらい、彼に周囲の警戒を頼んだ。ベペリがいればドビーの盗み聞きも回避できるもの。

 

「これで4つの分霊箱を壊せましたね。あといくつ残っているのか」

 

「ああ。トム・リドルの出自についてわかったことを話そう。帝王は、彼は半純血だった」

 

 叔父様は調べたことを報告してくれた。

 

「父アブラクサスが入学した頃、トム・リドルは監督生をしていたらしい。非常に優秀な先輩だったと話してくれた。血筋に関しては本人が秘していればなかなか知るすべはないが、“リドル”などという純血家がないことはすぐにわかる。彼は母親がスリザリンの系譜だと言っていたらしい」

 

 ルシウス叔父様のお父上アブラクサスはもうずいぶん前に亡くなっているけど、魔法界の肖像画は話ができるものね。便利なものだ。

 

「闇の帝王が半純血だと言う話は有名な話なんでしょうか?」

 

 私は気になっていたことをせっかくの機会に聞いてみた。マグル生まれの排斥を謳う団体の代表が半純血なんて、ね。よく純血貴族家が許したものだと思う。

 

「父の話では、トム・リドル自身の能力の高さとスリザリンの系譜であること、パーセルマウスであることや非常に優れた容姿、人当たりの良さもあいまって学生時代から熱狂的な信奉者が多かったらしい。

 卒業後10年ほど行方が掴めない時期があるのだが、その後イギリスに戻ってきた際には既にかつての美貌とは形相が変わっていて、その頃にはヴォルデモート卿とトム・リドルを同一人物と知る者は減ってしまったのだろう。

 私も今回調べて初めて半純血だと知って愕然としたよ」

 

 まああのイケメンが、蛇顔になっちゃうんだもの。別人だと思う者も多かったのかも。あの時代、戦いや龍痘で多くの人が死んだ。お辞儀様の出自が半純血だという情報もそこで途切れてしまったのかな。

 

 ヴォルデモート卿は半純血。積極的に元死喰い人達に知らせるべき情報だよね、うん。

 

 

 叔父様の説明は続く。

 

 トム・マールヴォロ・リドルの出生はマグルの孤児院で、出産後すぐに母親が死亡。母親は共同墓地に葬られた。名前は母親が死ぬ間際に言い残したらしい。彼はそのままマグルの孤児院で育てられることになる。

 スリザリンの系譜、セカンドネームのマールヴォロ、母親の名メローピーの情報から、彼の出自はゴーント家だろうと推察。

 

 ゴーント家はリトル・ハングルトンに家があるらしい。

 メローピーの兄モーフィンはマグルの家族を殺した罪でアズカバンに入っている。被害者のマグルはトム・リドルとその両親となっている。リドル家はゴーント家の近くに住むマグルで以前にもモーフィンとの間で問題が起こっていたらしい。

 おそらく帝王の父親とその両親で、殺したのは帝王、モーフィンは帝王により記憶を埋め込まれたのだろう。

 

 学校ではすべての教科が最優秀で、5年で監督生、7年で首席となり、人当たりが良く容姿が整っていることもあり熱狂的な信奉者が多かった。

 卒業後希望していた魔法省での職には就けず、ノクターン横丁の店で働いている。その後10年ほど放浪し行方は辿れない。戻ってきたあと、ホグワーツの『闇の魔術に対する防衛術』の教授の職を欲したがダンブルドアに拒否された。

 

 と、原作で知る彼の過去を大体調べてくれていた。叔父様すごく優秀。私は尊敬の眼差しで彼を見つめてしまった。

 

 幼い頃からの勉強でしっかり純血家の名に詳しくなっている私は、ゴーント家のことも知っていた。

 

「ゴーント家は没落してますがスリザリンから繋がる古い家系ですよね。現実的じゃありませんがカドマス・ペベレルの末裔だという文献すらあります。困窮していても手放していない家宝のひとつやふたつあったでしょうね。家紋付きの指輪とか。……あれ? スリザリンのロケットもゴーント家のものかも?」

 

「ふむ。可能性は高いな。すると彼の出自に関する分霊箱はスリザリンのロケットということになるか」

 

「スリザリンのロケットを手に入れたことで他の創設者の宝も集めようと考え付いたのかもしれませんね。

 それから、リドル家はマグルのようですから、そこの家宝を分霊箱に使うとは到底思えません。リドル家は候補から外してもいいんじゃないでしょうか」

 

 ゴーントの指輪に話を持っていきたいと考えつつ、情報を整理する。

 

「リドル家はその通りだと私も思う。ゴーント家の方は行ってみるべきだろうな。スリザリンのロケット以外にも何かあったかもしれん」

 

「あるいは、隠し場所としてゴーント家が使われているか、ですよね」

 

 早めに行ってみるか。という叔父様の呟きに、ぜひ私も連れていってくださいとお願いした。危険な事になるかもしれんと言われたけど、離れて見るだけだからと押し切る。叔母様にももちろんついて行きますと涼しい顔で言われ、ルシウス叔父様はため息をつきながら、私達の同行を許してくれた。

 

 

 

 

 

 叔父様、叔母様、私の三人でリトル・ハングルトンへ向かう。

 叔父様も初めて行く場所らしく、直接姿現わしで行けないため、叔父様の付き添い姿現わしで、そちら方面へ数回にわけて移動して連れていってもらった。

 

 

 着いたのは谷間にある小さな村だった。

 二つの小高い丘の谷間に埋もれた村はごく普通の田舎の村と言った風情の陰気な場所だった。奥に教会と墓地がある。あそこにトム・リドル・シニアの墓がある。3月にジャンプポイントを置いてきたところだ。

 谷の片方のてっぺんには古ぼけた屋敷が立っているのが見える。あれがおそらく「リドルの館」だ。ここから見上げてもずいぶん傷んでいることがわかる。屋根瓦がはがれて、蔦が絡み放題になっている。

 

 私の視線に気付いた叔父様が口を開いた。

 

「あのボロの館がリドルの住んでいた家らしい。ゴーント家は谷の向こうだと言うことだが……ああ、あちらのほうか」

 

 叔父様が村に入らず、手前の小道を下っていく。舗装されていない曲がりくねった細道を歩くとシシー叔母様が足元の悪さに眉を顰めた。

 やがて、木の茂みの奥にみすぼらしい小屋があるのが見えてきた。伸び放題の木々が日の光を遮り、人目からも隠れた小屋は荒れ放題だった。イラクサがそこら中にはびこり、先端が窓まで達している。窓は小さく、汚れがべっどりとこびりついている。玄関の戸には蛇の死骸が釘で打ち付けられていた。

 

 思わず眉を顰め、口元をローブの袖で覆う。陰惨な小屋から嫌な“気”が漂ってくるように感じた。叔父様達を見ると、お二人とも嫌悪の表情で小屋を見ていた。

 

「ここがゴーント家ですか。とてもじゃないですけど、入りたくありませんね」

 

「まったくだ」

 

「あなた。ここはとても不潔ですわね。それになんだか嫌な気配もありますわ」

 

 シシー叔母様の言葉を聞きながら“円”で小屋を調べる。うぞうぞと蠢くたくさんの生き物の気配がある。これはもしかしたら蛇か何かに守らせているのかも。毒蛇かな。毒の予防と、空気も汚そうだし、殺菌も必要かもしれない。入るのならいろいろ準備が必要だな。

 

 近づきたくないという表情を浮かべながら、叔父様はシシー叔母様と私を下がらせ、そろそろと近づくと戸に向かい杖を振るう。

 しばらくいくつかの魔法を試していたが、その後、肩をすくめてこちらを見た。

 

「一通りの魔法を試してみたが、扉が開きそうもない。何か入るための“鍵”があるのかもしれん」

 

「パスワードがいるのかもしれませんね。蛇が打ち付けられていますし、パーセルマウスでなくては入れないなんて可能性もあります」

 

 あからさまに蛇があるんだもの。パーセルタングで話しかける必要があるんだと思う。私なら開けられる。

 でもさ、叔父様と叔母様はヴォルデモートが半純血だと知って奴に嫌悪感を覚えたところなのだ。今私が彼の娘だと知られるのは非常にタイミングが悪い。

 

 それに彼らと一緒に戦うと、私は力のほとんどを使えない。縛りプレイすぎる。もともと今日はここを攻略するつもりなんてなかったのだ。場所を見て、“円”で調べただけで今は満足なのだ。この様子だと原作通りここに分霊箱があるのは確実だろう。

 

 

 私たちはいろいろ試し、小屋の窓を壊すことすらできないことを確かめると、今のままではここに入れないと結論づけた。

 これだけの備えをしているのだから、ここに分霊箱のひとつが隠されている事は確実だろうと叔父様も確信したようだ。シシー叔母様と私の意見も同様だった。

 

 今はまだ手が出せないけど、分霊箱の隠し場所の一つが見つかっただけでも僥倖なのだから、ここは後回しにして他のものも探そうと決め、私達はそこから姿を消した。

 

 

 

 私は11歳で魔法を練習しはじめて今は13歳になった。まだたった2年しか経っていない。魔法抵抗力もまだまだ発展途上だ。『ゴーントの指輪』を取りにいくには、もっと修行が必要だと思う。

 4年次の復活までに、私がどの程度力をつけられるか。

 

 まだ時間はある。焦ってはだめ。

 

 

 

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