エリカ、転生。   作:gab

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特質系でした

 

1993年 6月 5歳

 

 5歳になった。

 毎日、遊びに修行に楽しいです!

 

 『大天使の息吹』の話を信じたお母さんは、私の修行の合間にスペルカードを集めることに賛成してくれた。

 っていうか、けっこう乗り気になっている。

 この一年、わりと真剣に集めてます。

 

 

 ここから出たあとの生活費を考えると、バッテラさんの報酬はすごくありがたいものだからだろう。母子家庭が幸せに暮らすにはお金がいるんだもんね。

 

 お母さんにゲンスルーは危険って話をしておかなきゃ。ボマーの話をしてくる奴は要注意的な感じで。

 それに、まだまだ先だけどヒソカや幻影旅団のメンツもここにくる。そっちも要注意だ。

 

 

 私の修行も順調だ。

 応用技の基本的な修行方法も教えてもらった。

 ビスケが原作でゴン達にやらせていた修行に近い。

 

 お母さんも一緒にやっている。

 お母さんもまだ若いから(なんと21歳でした! え? 私産んだの16?)、もっと修行を積めば、うんと強くなれるね。

 

 お母さんってひとりで港へ行けない程度なんだよね。私からすればすんごく強いお母さんだけど、2回目のハンター試験を受けに行く時点のキルアよりも弱いってことだ。キルアは余裕で港へ行っていたからその実力差は大きい。

 修行も私がやる気になっているから一緒に始めただけで、私が小さい頃は全然やってなかったもん。妊娠出産授乳子育てと、それどころじゃなかったってのもあるだろうけど。

 

 お父さん達と一緒にいたから修行方法も知っているけど、お母さん自身は念能力者として強くなろうなんて考えるタイプじゃなかったんだと思う。

 

 だから、私が強くなってお母さんを守らないと。

 

 

 

 超初心者の私に相応しい修行場所を確保するため、お母さんとゲームスタート地点に近いアントキバの街へ向かうことにした。

 5歳になって走り込みもずいぶん早くなったし、バテずに走れる距離も延びた。

 

 そろそろモンスター退治もいいだろうってお母さんが判断したのだ。

 

 それにジャンプポイントを増やすことも必要だからさ。今のところポイント1の“ホーム”しかないもん。

 

 ちなみに“ホーム”地点は庭に設置してある。

 サンルームの前。

 リビングやダイニング、玄関前でもよかったんだけど、そうすると修行後の汚れた身体で家に入ることになっちゃうからね。

 酷い汚れの時にすぐ拭けるよう、サンルームには古いタオルなんかが常備してある。

 

 って話がそれたね。

 えっと。アントキバに行くって話ね。

 まず、走れるところまで走って進み、バテた時点で中継地点のポイント設置。(ジャンプ)で帰って休憩。回復したらまた中継地点へ戻って進む。という形でなんとかアントキバへ着いた。

 

 え? 『同行』使わないの? って? カードを使うわけないじゃん。

 私達にとってカードは売るモノ集めるモノ。それにこれも修行だよ。

 

 初心者向きの弱いモンスターが多い場所だからしばらくはここで修行する。

 アントキバに(ポイント3)を設置。(ポイント2は今は空欄。ゲーム機のある隠れ家の予定)

 これでいつでもここに(ジャンプ)で来れるようになった。

 

 とはいっても、走ることも修行だからね。そう毎回ぽんぽん飛んで移動していたら持久力が培われない。

 これからは毎日走って移動するつもり。

 

 慣れるまでは、ホームから走って移動し、途中でバテれば(ジャンプ)でホームへ帰って休憩。休憩後に(ポイント3)のアントキバまで飛んで、モンスター退治。

 修行を終えれば走って戻る。

 途中でバテれば、(ジャンプ)でホームへ戻る。

 徐々にホーム・アントキバ間を完走できるようになればいいね。そんな風にお母さんと話している。

 

 

 さて。

 初めての狩りだ。

 

 今まではお母さんと組手をしただけ。実戦はこれが初めて。

 

「いい? エリカは強くなったの。この辺りのモンスターなら、体当たりされてもエリカなら傷もつかないわ。だから安心してぶち当たってきなさい。“纏”は切らしちゃだめよ」

 

 お母さんは日頃は親ばか丸出しで私にデロ甘なのだけれど、修行時間になるととたんに厳しい師匠に早変わりする。

 齢5歳にして生き物を倒す経験をするのは、正しいかと言われれば首をかしげる。

 だけど。待つ暇はないのだ。

 

 この世は危険に溢れている。強くなるには、実戦が一番なのだ。

 お母さんの厳しい目が、倒せ、殺せと言っている。

 

 私も、覚悟を決めて、モンスターに飛び掛かった。

 

 モンスターは牙が鋭くて、ぐるぐる唸る声が怖かった。

 私のほうが強いって言われても。

 

 命をかけて襲い来る生き物は、やっぱり脅威だ。

 

 お母さんとの訓練の動きもすっかり忘れて、無我夢中で腕を振り回した。

 

 唸り声をあげてモンスターが飛び掛かってくる。ぶつかる! と思ったとたん、つい目を閉じてしまう。想像した衝撃はなく、どすんと頭に当たってきて、目を開けるとモンスターが倒れてた。

 慌てて立ち上がるモンスターの姿に、やっと少し冷静になれた。

 

 一息深く息をついて、私はしっかり身構える。

 負けない。

 

 お母さんが教えてくれたことを思い出せ。

 次に飛び掛かってきたその身体を避けざまに脇腹を蹴り上げる。ボフンっと音がしてカードになった。

 何時間も戦っていた気がするけど。

 ほんの数分のことだったみたい。

 

「……やった」

 

「よくやったわエリカ。初めてにしては上出来よ」

 

 

 こうして私は、またひとつ成長した。

 

 

 

 

 毎日修行の一環としてモンスターを倒すだけで、フリーポケットがいっぱいになる。

 カードショップでモンスターカードを売ってはスペルカードを買い、ダブりをまた売る。

 集めだすとこの頃はお母さんのほうが熱心だ。

 生活の事を考えている分、お母さんのほうがずっと真剣に取り組んでいる。

 

 今までに『堅牢』、『城門』なども手に入った。『擬態』のカードが手に入ればすぐに必要カードを擬態して指定カードへ入れていく。

 フリーポケットの枠をあけるためだ。

 今は指定カードを揃えるつもりがないからほとんど空だしね。

 

 あらかじめ、どのカードを何に擬態させるか決めて一覧を作ってある。

 だからそのメモを見ればなんのカードが揃っているか擬態を解かなくてもわかる。

 

 フリーポケットの数が少ないからカード集めはけっこう難しい。私がプレイヤーじゃないからバインダーがお母さん一人分しかないのが悔しい。

 お母さんと頑張ろうね、と話している。

 

 

 自分の強さにあった狩場での修行を始めて、私は格段に強くなれた、と思う。

 お母さんが一緒にいてくれるから、危険になったことはない。

 

 だんだん走る速度も速くなり、6歳になるまでには走ってアントキバまで行けるようになった。目覚ましい成長だ。

 

 時々、プレイヤーが襲ってくる。でも今はまだ対人戦をするつもりもないし、スペルカードを使うなどもったいない。

 だから逃げる。カードが無駄だもん。

 

 近くにいれば“円”でわかるから、最初から近づかない。

 

 『磁力』や『同行』などの移動系カードで飛んでくる時にはヒューンって音が聞こえる。

 その音を聞いたらすぐにお母さんを抱き上げて(ホーム、ジャンプ)してるのだ。

 

 私が一緒に活動するようになってからはお母さんも一度もカードを使っていない。(ジャンプ)の便利さが身に染みるね。

 

 

 

 

 

1994年 6月 6歳

 

 6歳になった。

 3歳の頃から始めた修行はだんだんと高度になり、今は組手やモンスター退治に力を入れている。

 “堅”もやっと2時間は持つようになった。これをキープして戦うなんて、世の能力者達は凄いよね。

 

 6歳の誕生日、やっと「水見式」をするお許しをもらった。

 わくわくしながら水の入ったグラスに“練”すると、ぶくぶくと歪な形の泡が出て、葉っぱが何枚にも増えた。

 

「まあ! エリカは特質系ね!」

 お母さんとメリーさんが拍手をしてくれる。

 やった!

 

 特質系だ。

 特質系はカリスマ性があると言ってたけど、どちらかというと、「血統や特殊な生い立ちによって発現する」という説明に納得してしまう。

 転生者で前世の記憶持ちで、念で覆われた島生まれ。特殊な生い立ちすぎますね、ほんと。

 

 特質系はいろんなことができそうで、すごくありがたい。さすが神様転生だ。神様(管理者)には会ってないけど、一応お礼をいっておこう。ありがと神様。担当者さんも。ありがとう!

 

「おめでとう! とても多様な能力だわ。さすが私達の子供。ほんと、エリカは天才ね!

 でも“発”はよく考えてからしか作っちゃだめよ。

 エリカの(ジャンプ)と(ステップ)、それからその予知。貴女は先天的発が二つもあるの。

 メモリが足りないかもしれないんだから、お母さんがうん、って言うまで絶対作っちゃだめ。約束できる?」

 

「はい、お母さん! 約束する」

 

 お母さん心配ばっかりかけてごめん。

 私の水見式の結果を見て、お母さんが一瞬顔をしかめたのを私はしっかり見ていた。

 

 転移能力は系統で言えば放出系だ。

 私が特質系ということは、放出系は不得意系統ということになる。不得意系統の先天的能力を発現させてしまったことでメモリを喰い潰してしまっているかもしれないとお母さんは危惧しているんだろう。

 

 ちゃんと“発”は考えるから。それに、ほんとはメモリの無駄遣いもしてないんだよ。

 言えないけど。

 

 ほんと、ごめん。

 

 

 

 

 6歳の夏を過ぎ、アントキバ付近のモンスターでは物足りなくなってきた。

 私達はホーム近くの岩石地帯に修行場所を変えた。

 

 岩堀りとモンスター退治の修行だ。

 

 うちのホーム地点とは離れた場所をざくざく掘る。

 最初は岩にスコップを突き刺すだけで必死だった。“周”の練度が低いから。

 

 少しずつ少しずつ岩を掘れるようになって。

 “周”してうりゃ! “周”してうりゃ! みたいに一撃ごとにタメがいったのが連続して掘れるようになって。

 掘るスピードがあがって。

 バテるまでの時間も伸びて。

 

 徐々にその速さも掘れる時間も増えていく。

 眼に見える結果があると、自分の成長を実感できるね。

 

 

 カード集めも順調。

 本格的にモンスターを倒して得たお金は生活費以外はほとんどカード購入に費やす。

 お金のカードが邪魔だから買い物はだいたいまとめ買い。家があるから収納できるし。

 次に必要になるまではカード購入で使いきるつもりで使う。

 

 『名簿』が手に入れば時々『大天使の息吹』をチェックしているけど、誰もまだ持っていないことになっている。

 40枚集めさえすれば『大天使の息吹』をゲットできるだろう。

 万が一引き換え券だった場合は、誰かが『擬態』させて隠しているということ。

 今のところそこまで進んでいる奴はまだいない、と信じたい。

 

 

 最近はプレイヤー同士の戦いが激化してきているらしい。

 私達も、よく襲われるようになった。

 スペルカードを無駄にしたくない私達は、いつも逃げている。

 私には転移がある。だから私達ってすごく逃げ足が速いのだ。

 

 噂によると、カード対戦にくるものじゃなくて、カードを使わずに襲い掛かってくるプレイヤーが増えてきたらしい。マサドラでもその話をよく聞く。

 捕まえて殴りつけて脅し、無理やりバインダーを出させてカードを奪うんだそうだ。

 

 とうとうプレイヤー狩りが出てくる時期になったんだ。

 きな臭くなってきたな。

 危ないから、できるだけプレイヤーのいない場所で修行をすることにした。

 

 応用技が安定して使えるようになってきたから、系統別の修行も教えてもらう。

 自分の得意系統の特質系と具現化系、操作系だけじゃなく、不得意分野のものも使えるようにならなくてはいけない。

 そして、毎日ひとつに絞ってその練習をするようにと言われる。

 

 

 念弾とかばばんって出すのってすっごく気持ちいいんだよね。

 だけど放出系は不得意系統だから、威力が低くて飛距離も少ない。

 かっこよくババババってやってみたいのに。

 残念だ。

 

 

 

 


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