エリカ、転生。   作:gab

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3年-1 ホグワーツ特急のディメンター

 

 

1993年 9月

 

 3年次が始まる。『アズカバンの囚人』だ。

 ホグワーツ特急がキングス・クロス駅を出発してから、私はいつものみんなと歓談しながらも、実はずっと緊張していた。

 

 『守護霊の呪文』はできるようになった。だけどさ、ディメンターを前にして本当にこれができるのか。不安しかない。

 

「――つまり、アズカバンの看守がホグワーツにもやってくるってわけさ」

 

 ドラコがルシウス叔父様に聞いた注意事項をヴィンス達にも話していた。看守は家柄で忖度してくれない。一定以上の距離を保ち、傍に来られそうならすぐに先生に助けを呼ぶよう何度も注意されたのだ。

 

 ルシウス叔父様からは、シリウス・ブラックのこともドラコ共々注意を受けた。

 シリウスの12年前の事件の話も聞いた。彼がハリーを狙ってホグワーツへやってこようとしていることも。ハリーの両親の仇であることも。

 

 彼は死喰い人と言われているが、そういった集まりで見たことがない。帝王の臣下は数が多く、しかも内密な任務を負っている者もいたから、すべての配下を知っているわけではない。どういった立場のものかよくわからないから、じゅうぶん注意するように。できれば授業以外の外出は控えるほうが望ましい。と言う感じ。

 ルシウス叔父様でも死喰い人すべてのメンバーを知っているわけじゃなかったんだ。

 

 ヴィンス達もそれ以上の情報はないらしい。でも、ディメンターは生活圏にまで入ってくるわけじゃないらしく、私達は絶対にシリウス・ブラックやアズカバンの看守に近付かないようにすれば、普通の学生生活を暮らせそうだと話し合った。

 

 

 窓の外は荒涼とした風景が続いている。空は雲が厚く垂れ込んでどんよりとうす暗く、天気はどんどん下り坂になってくる。

 

 車内販売の魔女からジュースとお菓子をいくつか買い、ロニー(レストレンジ家)とベペリ(マルフォイ家)の心尽くしの料理を4人で食べた。

 

 ディメンターがやってくることを知っている私は『天候が悪くて暗いし、早めに着替えておかない?』とみんなを促し、交代で制服に着替えた。巾着にはたくさんのチョコ。よし、準備完了。あとは勇気だけだ。

 

 午後を過ぎてじゅうぶんお喋りにも飽いた頃には天候はさらにひどくなり、窓の外は酷い雨のせいで真っ暗になってきて、通路と荷物棚にランプが点った。

 すると、汽車が速度を落とし始めた。

 時計を見るとまだホグワーツへ到着するような時間ではない。

 

 コンパートメントから通路へ顔を出すとどのコンパートメントからも不思議そうな顔が突き出されていた。正面のコンパートメントにいるダフネ達とも首を傾げて顔を合わせる。

 

 と。

 ガクンと汽車が止まった。何の前触れもなく、明かりが一斉に消え、真っ暗になった。恐怖にひっと息を呑むみんなを宥めながら杖を構える。『ルーモス』で灯りを出すと、危ないから座席に座った方がいいと声をかけた。

 

 次の瞬間、ぞーっとするような冷気が襲ってきた。息のしかたを急に忘れてしまったみたいに喉が詰まり、寒気が皮膚の下へ潜り込んでいく。寒くて、怖くて、寂しくて、悲しくて、息が苦しい。

 『ルーモス』の灯りはいつの間にか消えていた。

 

「ドラコ、エリカ、無事か」

 

「俺の後ろへさがれ」

 

 震える声が暗闇の中に響いた。ヴィンス達だ。

 暗闇に慣れてきた私の目に、怯え切った表情で通路の向こうを見つめ、それでも私とドラコの前に立とうと震える足で立ち上がるヴィンスとグレッグが見えた。

 後ろ姿がかっこよかった。ぶるぶる震える足が情けないのにかっこいい。内面の男らしさにしびれた。この気構えに、私もちゃんと応えなきゃ。力が湧いてくる。

 

「ヴィンス、グレッグ。ありがとう。大丈夫、さがって。『エクスペクト・パトローナム!』」

 

 凍える身体を叱咤し、心の奥底から“幸せの記憶”を呼び覚ます。

 いける。だいじょうぶ。わたしはつよい。

 想いは力になった。

 杖先から銀白色の靄が飛び出す。それはあっという間に力強い翼を広げるワタリガラスの姿に変わり、私の傍にいる3人を宥めるように周囲を巡ってからコンパートメントを飛び出し、通路の先にいたディメンターを列車の出口に向けて追い払った。

 

 山ほど買い込んできた板チョコを取り出し、割りながら手渡す。今すぐここで食べてと強い口調で渡せば、みんな抵抗もなくすんなり口に入れ、そしてやっと安心できたのか、崩れ落ちるように座席に倒れ込んだ。

 

「あれ……あれは」

 

 びくびく震えながら、それでもカラ元気を引きずり出して声を上げたドラコに、私は答えた。

 

「あれがアズカバンの看守よ。ディメンター。まさか列車の中まで入ってくるだなんて。生徒の誰かが死んだらどうするつもりなのかしら」

 

「あ、あれがディメンターか。なんておぞましい」

 

「寒かったな」

 

「ああ、二度と幸せな気持ちにはなれないんじゃないかと思った」

 

 前のコンパートメントからダフネ達が泣きながらこちらへ入ってきた。ノットとザビニもやってきた。彼女達にもチョコを配りながら、周囲を窺う。ディメンターは列車から離れたようだ。“円”で調べるまでもなく、列車中が恐怖に震えていた。

 

「人の幸福や歓喜などの感情を感知し、それを吸い取って自身の糧とするんだって。幸せの気持ちを全部吸い取られたみたい。まだ身体が寒いわ」

 

 私がそう言うとみんな、なるほど、と深く納得の表情を浮かべた。

 

「ほんとね。2年前に死んだ猫ちゃんのことを思い出したわ。心がぎゅっと締め付けられて」

 

 ミリセントが震える声で言うと、パンジーも、

 

「わかるわ、ミリセント。私も死ぬんじゃないかって思った」

 

と、ミリセントに抱き付きながら泣きごとを言う。

 

「死に直面した人の方が恐怖は強いのかもね。あんなのがずっとホグワーツにいるだなんて」

 

「……さいあく」

 

 ダフネはちゃっかりドラコとぴったりよりそって座っている。ふたりは春頃からけっこういい感じなのだ。ああ青白いドラコの顔も少しだけ血が巡ってきた。

 私はもう一度みんなにチョコを配った。

 ヴィンスとグレッグにも「かっこよかったわ」と言いながら。ふたりは「エリカこそ」とぶっきらぼうに答えた。耳が赤かったから照れているんだろう。可愛い。

 

 狭いコンパートメントに私達はぎゅうぎゅうに詰め合って座った。ぴったりくっついている仲間達の体温が今はむしろ心地よかった。

 

 しばらくするとやっと列車にランプが点り、またホグワーツへ向けて動き出した。ほっとしたら、みんなの興味はアズカバンの看守と、私の放った魔法に向けられた。興味津々でパンジーとミリセントが問いかけてきた。

 

「エリカ、あれはなに? とっても美しくて、神秘的だったわ」

 

「カラスだったわよね? 羽ばたきするたび銀色に輝いて飛んでたわ」

 

「ワタリガラスよ。『守護霊の呪文』っていうの。難しい呪文だけど、素敵でしょう? すんごく練習したんだから」

 

 学校に着いたら練習したい、とみんなが瞳を輝かせる。

 闇の魔術を使うと守護霊が出せなくなるんだって。そう言うと、へえ、と驚きの表情を浮かべる。

 

 『守護霊の呪文』はとても難しい魔法で、光陣営にだって『守護霊の呪文』を使えない者がいる。一般人ならなおさら。

 だから闇の魔法使いだとか死喰い人予備軍とか言われている私達スリザリンが使えるときっとあいつら悔しがるわよ。

 なんなら、言ってやればいいのよ。私を闇だと主張するあなたは、当然できるんですよね? って。

 そう言えば、みな面白がってぜひ訓練したい、と訴えはじめた。

 

 じゃあ私のトランクかドラコのトランクで練習ね、と言うと、はーい、と良い子な返事が揃って返ってきた。スリザリン寮生、仲良すぎかよ。

 

 

 

 

 私が『守護霊の呪文』を出したことについてはあとで回ってきたルーピン先生が褒めてくれた。まだ始業前だから点数は上げられないけど素晴らしい守護霊だったよ、と褒められて嬉しかった。

 守護霊を出した生徒がレストレンジだなんてマジかよって先生の表情が言ってた。親は闇そのものですけど私は中庸なんです先生(でも善とは言えない)。

 

 

 途中でハリーが倒れたらしいという話が回ってきたけど、誰もハリーをバカにしなかった。私が『1歳で“例のあの人”と会ってるんだもの。ご両親も殺された。きっとその記憶が揺さぶられるのね』と言ったことと列車での恐怖を思い出したことで納得したからだろう。

 

 

 スリザリンってさ。上下関係に厳しいの。うちの学年だとドラコが一番。上級生にもマルフォイ家より上の家系がいないから、ドラコは寮の談話室でも一番の特等席にあるソファーを使っている。当然レストレンジでドラコの従姉弟である私も。ドラコの側近ヴィンスとグレッグもね。

 

 んで。原作ではドラコが率先してハリーとぶつかってた。ハリーに何かあれば小さなことでもあげつらって。そうするとスリザリンのメンバーも同じように反応するようになる。

 問題になってもマルフォイ家の意向に従っただけだって言えるし。上位者の意向におもねるのは貴族家の処世術でもあるわけ。

 

 『ロングボトムに手を出すな』という私の意向がスリザリン寮生に浸透しているのもそういう意味も、あるってことね。

 

 今のドラコはハリーの事をそこまで嫌っていないし、性格も紳士だから、そんな態度は示さない。スリザリン寮が原作よりマイルドなのは、ドラコと私が優等生だからそれに倣っているってのもあるんだよね。

 

 

 

 

 セストラルの曳く馬車に乗り、ホグワーツへ入る。スリザリン寮の私室に入ると帰ってきた、と実感する。

 3年の一年間が始まる。

 

 ディメンターの恐怖の中、『守護霊の呪文』が出せたことはすごく嬉しいことだった。あれはヴィンス達の勇気に助けられたな。

 っていうか、本気で怖かった。あれはね、肉体の強さなんて関係ない怖さだね。“さざなみ”と同じジャンルの“恐怖”。

 

 でも次からはもう大丈夫。自信もついたもの。いつディメンターがやってきてもちゃんと『守護霊の呪文』が出せると思う。

 

 

 今年の目標は、シリウスの無実を証明すること。

 ルシウス叔父様とシリウスを繋げること。

 このふたつはどちらも成せなくてはいけない。

 

 そうすれば原作とはずいぶん違った未来になる。

 頑張ろう。

 

 

 ハンナとは学校が始まってすぐに一度鏡で話した。二人の話題は「ディメンター、ぱねえな」だった。私はしっかり守護霊を出せたけど、ハンナは無理だったらしい。

 ハリーをフォローしながら自分も何かあれば守護霊を出せるように今年は頑張る、と強く言ってた。ハーマイオニーやロンも誘って練習するつもりらしい。

 

 頑張ってね、と応援しておいた。私は彼らのフォローは無理だもの。

 ハリーの傍にハンナがいることがとてもありがたい。

 

 シリウスの無実を知っているのにそのままにしている罪悪感がね、酷くてさ。H×Hの世界に生まれた最初の頃のように、主人公達のことを物語の中だ、とかキャラクターだ、とは思っていない。なのに、自分の願う未来のために、タイミングを計って黙っている。まるで駒のように動かしているようでね。

 

 私ってダンブルドアと変わらない。ううん。「大いなる善」という大義名分がないぶん、私の方が酷い。

 でもだからと言って誰かの不幸を願っているわけじゃないから。うん。……うん。

 

 

 

 

 

 ディメンターは入り口を固めているだけで、城内に入ってくることはない。

 だから生徒達はじきにこの生活にも慣れていった。

 

 ちなみに、“隠”+“絶”の影分身はディメンターを出し抜けるのか、試してきた。

 ディメンターは目がないらしいから“隠”は意味がないけど、生命力をすべて体内に隠し込む“絶”と、H×H時代ノヴさんモラウさんにビシバシ鍛えられた呼吸法、歩法はディメンターにも通用するんじゃないだろうか。

 

 ディメンターが守りを固める正面玄関にそっと近づくと、影に簡単に気付いたディメンターが寄ってきたためジャンプで逃げた。気配は消していても体温は消せないからかな? それにディメンターは人間の心から発せられる幸福・歓喜などの感情を感知している。やはり“絶”や閉心術では防げないのか。

 うん。影でディメンターの守りを抜くことはできない。理解しました。

 

 あと、教師の目の届かない(音に気付かれない)入り口を選んで、影分身が“ほむら”を奏でてみた。私に気付いて近寄ってきたディメンターが嫌がってのたうちながら離れた。すごい。“ほむら”勝利。でも演奏を始めても効果が現れるまで少なくとも数秒以上かかる。それまでに襲われそうでかなりギリギリだった。

 咄嗟の時には使えないな、というのが私の判断だ。

 

 ディメンター。

 とても恐ろしい生き物だと思う。まったく、先が思いやられる。

 

 

 

 

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