エリカ、転生。 作:gab
1993年 10月
授業に慣れた頃、寮のドラコの部屋に行き、みんなと一緒にトランクに入って『守護霊の呪文』を練習することになった。
参加者はホグワーツ特急でディメンター襲撃のあとコンパートメントで一緒に過ごしたメンバー。私とドラコ、ヴィンス、グレッグ、ダフネ、パンジー、ミリセント、ノット、ザビニ。
レストレンジ、マルフォイ、クラッブ、ゴイル、ノット。私を含め9人中5人が死喰い人の子供だ。
『闇の魔術を使うと守護霊は使えなくなる』と言っているのにこの練習をしようと考えるのだから、彼らの親は今まで闇の魔法使いになるような英才教育は施していなかったってことだろう。
ああ、彼らに『闇の魔術を使うと守護霊は使えなくなる』と言ったのは、できるだけ彼らには闇の魔術を使ってほしくないから。
実際のところ、そこまで厳しいものじゃない。人殺しや、悪辣な魔法を使い続けると魂が濁っていくのだ。そうすると守護霊が弱まっていく。
だけど、実際にはたくさん人を殺しているであろう闇祓いにも守護霊が出せる者はいるし、あの、ピンクガマガエル・ドローレス・アンブリッジが7巻で猫の守護霊を出している。
本人の認識で、自己の良心が咎める行為をしていなければ守護霊は出せちゃうのだ。
闇の魔術というよりは人を殺したり、悪意を持って魔法を使ったりすることで、自分自身が悪い事をしていると内心感じれば、少しずつ守護霊の力が弱まっていく。
そのため、守護霊が出せるというだけである程度の善性を持つ人物だという評価が得られるのだ。
だから信念をもって人殺しをしている闇祓いや、確固たる意思を持ってダブルスパイをしているスネイプ、選民思想が行き過ぎて人を虐げることになんら痛痒を感じないガマガエルなど、守護霊が使えるものもいる。
だけど、ここにいるメンバーは違う。選民思想はあるけど、かなり真っ当な良識を持っている彼らは、おそらく死喰い人になったり、誰かを傷つける魔法を使うだけできっと罪悪感を覚えて守護霊なんて出せなくなる。
だから、彼らには『闇の魔術を使うと守護霊は使えなくなる』と説明しているのだ。
是非ともこのままの彼らでいてほしい。
私? 私はおそらく管理者サマや担当者サマに魂を守ってもらっているから。
前世で殺人経験を持つ私は、それでもちゃんと守護霊が出せる。
あとはこの世界で闇に堕ちすぎてせっかくの守護霊の威力が弱まらないよう、しっかり自分を律していきたい。
罪悪感を感じる相手は害さない。今後の世界でもそのスタンスは守っていきたい。そう考えている。
さて。
記念すべき第一回目の勉強会は、呪文と、幸せの記憶をどう思い浮かべるかという説明を済ませ、杖先から銀色のなにかをカシュカシュと吹き出すだけで終わってしまった。
これから毎週しようねとパンジーが一番乗り気になっている。銀白色に輝く守護霊の美しさにノックアウトされたらしかった。
私自身も、時間を盗んでは『必要の部屋』師匠のお世話になっている。
魔法薬の練習は簡単なものから徐々に進めている。『ハナハッカ・エキス』はじゅうぶん効果のあるものができるようになった。
あと、思いついたんだけど。
毎回子供の頃に買い物や外出で苦労するから『老け薬』も持っていけば便利かもしれない。これも練習と素材集めの一覧に加えておこう。
『愛の妙薬』は成功するけどまだ効果が低い。あ、念のため言うけど、片思いした相手に使ったりはしないよ。『真実薬』がなくなった時の代用品に使えるから用意しているだけ。『真実薬』は入手が難しいし、素材を集めるのも難しいし、作るのも難しい。スネイプ先生の作ったものが欲しいです。
『真実薬』の解毒剤はないって教わったけど、原作6巻で、スラグホーン先生は常に携帯しているって書いてあった。魔法薬の権威だものね。そりゃあ自分用は作るか。できればそれも欲しい。
と、まあ、あれもこれもやりたいことが多いのだけど、そろそろ覚えたいものがあるのだ。
『守護霊の呪文』ができるようになって、動物もどきを習得できれば自分が変化するであろう生き物にアタリがついた。
私はワタリガラスになれる。おそらくね。
動物もどきの練習がしたい。
ワタリガラスになれたら、自分の力で空が飛べる。なんて素敵なんだろう。
これって習得できるまで何年もかかる難しい技術なのだ。しかも、失敗するとすごく大変な呪文。身体の一部だけが動物になって戻らなくなったらって思うと恐ろしすぎるよね。
でも『必要の部屋』師匠ならなんとかしてくれるかも。
すがる思いで8階の廊下を往復した。
「誰にも気付かれず動物もどきが練習できる場所が必要です。誰にも気付かれず動物もどきが練習できる場所が必要です。誰にも気付かれず動物もどきが練習できる場所が必要です……」
やった。扉が出現した。
そっと中を覗くと、広々とした空間。そこにはテーブルとソファ、書籍類が数冊入った本棚があるだけ。
訓練できるものはない。
……もしかして、ここにある書物を完璧に理解できなくちゃ先へは進めない、という師匠の意思表示なんだろうか。
うん。頑張ってみよう。
まずはこの数冊の本の中身を理解するところから、かな。ううう。先は長い。
しっかり勉強するぜ。
1993年 10月31日 ハロウィン
原作では、毎年ハロウィンに何某かの事件が起きる。今年は脱獄犯シリウス・ブラックがグリフィンドールの寮に押し入ろうとした事件があった日だ。
私達はホグズミードでの休日を楽しめた日だった。ちなみに、私のサインはルシウス叔父様だ。私の後見だものね。
ダフネやパンジー、ミリセントと一緒に、いろんな店を見て回る。消耗品を買い足したり、洋服店でお揃いのデザインで柄違いのワンピースナイトドレスを買ったり。女の子の友達同士でお揃いの服を買うなんてとっても乙女っぽくて可愛いよね。これでパジャマパーティをしようと盛り上がる。
ハニーデュークスではお菓子を買いあさった。
高級板チョコがあったからまたごっそり買い足したり。ダフネ達もディメンター対策として購入していた。他にも美味しそうなお菓子は軒並み買った。
大きな炭酸入りキャンディは舐めている間、地上から数センチ浮き上がる。これって面白いよね。『目立ちたくないけど地面から少しだけ浮いておきたい』なんてシチュエーション、どこかでありそう。買っておかなきゃ。
ダービッシュ・アンド・バングズ魔法用具店にはいろんな魔法具があった。面白くていくつか買っておく。
『叫びの屋敷』を見て、ここがあの場所かと聖地巡礼の気分にもなった。ああ、もしかしてもうシリウス・ブラックが潜伏しているんだろうか。“円”で見ても今は無人のようだった。まだ違う場所で隠れているのか、それとももうホグワーツに忍び込んでいるのか。
夕方までホグズミードでの休日を満喫して帰ってきた。そのうえ、今日はハロウィン。夕食は豪華なパーティだ。うきうきと友人達と騒がしく語らいあいながら過ごす。
学校の周囲をディメンターにぐるりと囲まれた生活だろうと、こういった平穏な休日も必要だよね。久々にとても穏やかで楽しい一日だった。――寮に戻ったところで大広間に戻るよう言い渡されるまでは。
シリウス・ブラックがグリフィンドール寮を襲撃したため、今夜はここ、大広間で寝袋に入って寝るように指示される。ドキドキとワクワクが入り混じった囁き声がそこかしこで聞こえる。
恐怖を滲ませた囁き声があれば、なぞ解きを楽しむ声もある。
「楽しい休日の最後はみんなそろって寝袋で雑魚寝だなんて、かえって洒落てて楽しいわね」
私がそう言うと、周りのスリザリン達がくすくすと笑った。
「君はいつも肝が据わりすぎている」
ドラコの呆れたような声に、「エリカだもんな」「エリカだものね」って声が続く。
「まあでも、こんなことがなければ並んで眠るなんてありえない。状況を楽しむのもいいな」
ドラコが言い、みんなが同意の声をあげた。貴族家のお坊ちゃまお姫様にとって雑魚寝なんて初めての経験なのだ。
グリフィンドール寮ではきっと不安に苛まれている者が多いんだろうけど、やっぱりスリザリン寮は他人事で、休日の最後を飾るアトラクションでしかなかった。
……そろそろシリウスと接触したいのだけど、今終えたらシリウスの脱獄を待った意味がない。原作でハリーが『守護霊の呪文』を練習しはじめるのは年明けからだ。もうしばらくは我慢しよう。
1993年 11月
週に一度のスリザリン寮『守護霊の呪文』練習会は続いている。スカッと銀色の煙を出しながらいろいろ幸せについて考えているみんなを煽て応援して一緒に少しずつ進んでいくのは楽しい。
まだまだ誰も形にならないのに、受講者8人の誰もリタイアしないのは、この時間が思った以上に仲間内の関係を親密にしているからかもしれない。
どんな記憶がどれくらい力があるか、なんて話し合うと、それぞれの思いに触れることができて、表面上の付き合いだけでは分かり合えないくらいに互いのことに理解が深まるのだ。
今まで女性陣とはファミリーネームで呼び合っていたノットとザビニも、セオ、ブレーズと呼べるようになった。
彼らは今日もまた銀の煙を杖から出して、頑張っている。
グリフィンドールとスリザリンのクィディッチ戦が行われる。
原作ではドラコがヒッポグリフに怪我をさせられたことを理由に試合の対戦順を変更させていたけど、怪我などなかった現実では、予定通りのグリフィンドール対スリザリン戦だ。
天候はとても悪く、もはや嵐としか言いようがないありさまだった。
いつものように仲の悪い応援席と、いつものようにラフプレイの多いスリザリンチームの中、ハリーとドラコのシーカー対決だけが、異様に正々堂々としていた。お互い相手を挑発することもなく、ただスニッチを探して上空を飛ぶ二人。
やがて耳をつんざく雷鳴に観客席から悲鳴があがったその時、ハリーとドラコが、ほぼ同時にスピードを上げた。スニッチを見つけたのだ。彼らはスニッチを追ってピッチを縦横無尽に飛びまわる。
観客席の興奮が最高潮に達した時、みんなの強い想いに誘われたディメンターがピッチへと入り込んできた。暴風雨の中、凍えるほどの“恐怖”そのものが、近づいてくる。
次の瞬間、いろんなことが同時に起きた。
スニッチを追いかけていたハリーがふらりと上体を揺らし、そのまま地面へ落ちていく。
ハリーの様子に気付かず、一気にスピードをあげたドラコがスニッチを捕まえた。
怒りに満ちたダンブルドアがピッチへ駆け込み、20メートルの高さから落ちるハリーを魔法で安全に下ろすと守護霊を飛ばしてディメンターを追い払った。
どよめきに包まれる競技場を、ダンブルドアが付き添ったハリーの乗った担架が医務室へ運ばれていく。観客席からは彼が死んだようにしか見えなかった。
その後マクゴナガル先生からハリー・ポッターの生存が伝えられた。試合はドラコがスニッチを捕まえたことで50対200でスリザリンの勝利となった。
ドラコは、ディメンターのせいでハリーが箒から落ちたから勝てたと感じている。せっかくのシーカー対決を自力で勝てた気がしないのか、とても消化不良な表情をしていた。
1993年 12月
来年の夏に向けて準備をしないと。
大人達にはいつものように洒落たものを考えたけど。
今年の私からの同学年の友人達へのクリスマスプレゼントは、手首に付ける杖ホルダーにした。スリザリンの同級生全員に。
来年のクィディッチワールドカップでバーテミウス・クラウチ・ジュニアに杖を盗られないための策だ。いろいろ介入して未来を変えているけど、クラウチ・ジュニアに関しては何もしていない。だからこの事件はたぶん起こる、はず。
クラウチ・ジュニアの存在は誰も気付いていないし、知っている理由が話せない以上彼を告発できないのだから、杖を盗まれないように対処するくらいしかない。
左手の手首に巻くバングルタイプで、それぞれに似合う柄を選び注文して贈った。お揃いなのが楽しくて私や小雪、メリーさんの分も買った。
私のは薔薇が手首に巻き付いているように見える。薔薇の花びらに触れると杖の頭が出て来て、それをつまむと取り出せる。右手を左手首に添えるとさっと取り出せる。慣れれば早い。
大人になればローブの袖口やポケット、襟元など、自分が一番早く取り出せる場所に杖をしまっているんだけど、子供達は扱いがぞんざいでジーパンの尻ポケットに突っ込んだり、鞄にそのまま入れていたり、教科書に挟んだり羽ペンと一緒に纏めて持っている子までいて、気になっていたのだ。
ローブに付けるタイプだと脱いだ時に取り忘れたりするじゃん。だからバングルタイプにしてみた。
私は(ドラポケ)で手元に出すのが一番いいんだけどこれは奥の手。いつもはローブのポケットから取り出すフリをしている。
メリーさんがヒマワリ、小雪が桜。女の子達はみんな花柄。
ドラコがドラゴン、ヴィンスは白虎、グレッグは黒豹、他の男の子達もそれぞれ動物柄。
来年までに仲良くなれることを願ってハリーの牡鹿も買っておく。ハンナは百合、グレンジャーは赤のガーベラ、ウィーズリーにはテリア……にするとあまりにも当たりすぎちゃうから無難にダルメシアンにしておいた。彼らにプレゼントを贈れるほど仲良くなるのは無理だろうな、と思いつつ、ね。
だって本当は彼らにこそ使ってほしいんだし。
あ、もちろん高価すぎるものにはしていない。あんまり高価なプレゼントを配るのはよろしくないもの。それにこれはあくまで杖の処理をしっかりするための練習台。1年もすれば買い換えたい程度のクオリティでなくては、かえって相手に負担になる。
これで無造作にポケットに突っ込むようなことはやめてくれると嬉しい。
クリスマス休暇が近づき、二度目のホグズミード村への外出が許された。
……原作ではウィーズリーの双子がハリーに『忍びの地図』を贈るんだけど。ごめんなさい。地図は今、私が持っている。
ホグズミードへの抜け道を双子に教わらないとハリーはホグワーツを抜け出せない。原作のようにシリウス・ブラックが自分の両親を裏切ったという話を漏れ聞くことはないだろう。
私はダフネ達と女性4人でまた買い物をじゅうぶん楽しみ、その後ドラコ達と落ち合って『三本の箒』に行った。ここに来たなら絶対飲まなきゃと思っていたバタービールをみんなで頼む。
甘くてカロリーが高そうでほんのりシナモンとショウガの薫りがして、正直言うと甘すぎてあまり好きな味じゃなかった。
それでも、さ。
仲のいい友人達と休日を過ごし、同じ飲み物を飲む。このシチュエーションが堪らない。それに冷え切った身体にバタービールは最高だった。
その後、寒さの中へみなで出ていく。ふと気が付くとロンとハンナ、ハーマイオニーが入れ違いに『三本の箒』に入っていくのがみえた。足跡は4つある。うわあ。いるわ。ハリーが。
どうやって抜け出したんだろう。双子が抜け道を教えたのかな。双子のお便利キャラ感がすげえ。
そのまま気がつかなかったフリをして通りすぎる。最後に雑貨店に寄ろうとそちらへ足を向けると、マクゴナガル先生、フリットウィック先生とハグリッド、そして魔法大臣のファッジが連れだって歩いているところを見つけた。そっと振り向いて確かめると『三本の箒』に入っていくところだった。
すごいな。原作通りの状態になっちゃった。
まあここで語られることは私はもうルシウス叔父様に聞いて知っていることになっているから、わざわざ話を聞きに戻ることもないか。
ハリー、ショックだろうな。