エリカ、転生。   作:gab

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3年-5 クリスマスの密談

 

1993年 12月

 

 クリスマス休暇のため、私達はホグワーツ特急に乗って帰ってきた。

 結局、シリウスに話しかけられるチャンスはなかった。

 なので順番を変えることにしたのだ。まず、ルシウス叔父様の協力を仰ぐ。

 

 

 そのため、ルシウス叔父様には相談したいことがあるから休暇が始まればすぐに時間を取って欲しいとあらかじめ梟を飛ばしてある。約束を取り付けた返事を持ち帰ったマーリンをいっぱい褒めた。

 

 

 叔父さまの執務室に入ると、ブラック分家からマルフォイ家に来ているしもべ妖精ベペリを呼び出した。ベペリにはドビーがホグワーツに来ないようしっかり見張ってもらっている。ほんと、いつもお世話になっております。

 

「ベペリ、いつもご苦労さま。あのね、叔父さまととても大切な話があるの。ブラック家にも関わる大切な話よ。誰にも邪魔されたくないし、誰にも聞かれたくないの。ドビーにもよ?

 ベペリ、この部屋を見張っててもらえるかしら?」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

 ベペリが消える。叔父様は少し緊張した表情で私を見た。私がそこまで警戒するなどヴォルデモートの話しかないだろうと考えているのだ。

 

「叔父様。私、シリウス・ブラックが無実である証拠を見つけました。誰が見ても納得できる完璧な冤罪の証拠です」

 

「なんだと? それは本当かね?」

 

「ええ。シリウス叔父様は死喰い人じゃなかったんです。むしろ被害者でした。彼はダンブルドアに切り捨てられたんです。英雄を育てるには不適格だから。

 きっと今、辛く苦しい思いをなさっています。彼に手を差し伸べるなら、今です。そしてうまくいけば、シリウス叔父様の憎む仇も捕まえてさしあげられる。

 彼はとても感謝してくれるでしょう。

 他の誰か……ハリー・ポッターとその友人達や、ダンブルドアに先を越される前に、彼を、ブラック家の正統な跡取りを、不幸な境遇から助け出したい。

 それにシリウス叔父様の再審に向けての各所への根回しは発言力のあるルシウス叔父様が適任です」

 

 “円”でルシウス叔父様の精神状態を確認しながら、『超一流ミュージシャン』の声音で彼の心を揺るがせる。

 ダンブルドアの意思が含まれていたのかどうかは実際の所はわからない。今さら証明のしようもない事だ。とにかく、シリウス叔父様が無実であることをルシウス叔父様に知っていただかなくては。

 

 アズカバンに収容されている死喰い人の中には、『ペティグリューは不死鳥の騎士団を裏切って死喰い人になり、ポッター家の場所を教えたが、直前になってまた寝返ったことで、ヴォルデモートが破滅した』と考えている者がいて、彼らはペティグリューを憎んでいると原作でシリウスが話している。

 だけどペティグリューの裏切りを死喰い人すべてが知っていたわけではない。スネイプは知らなかったし、今驚いている叔父様の様子を見ると叔父様も本当に知らなかったのだろう。

 

「あの頃のことが書かれた本を読むと彼は碌な裁判もなく刑が決まっていました。真実薬すら飲ませていない。ブラック家の長男をあんなおざなりな審問だけでアズカバンへ入れるなど言語道断です」

 

「あの頃は犯罪者が多く捕まったからな。まともに裁判を開いていられぬほど多かったのだよ。だが、なぜ私にそれを? ああ。そうか。ブラックか」

 

 叔父様の聡明な頭脳が、ブラック家の唯一の生き残りがどれだけ価値があるかを考え始めた。

 

「シリウス・ブラックの無実を証明して彼を旗頭に持ち上げましょう。ブラック家の名声が復活すれば、純血貴族の力はまた蘇ります。

 魔法界の王たるブラック家当主なら、光の陣営も、闇の陣営も、どちらからも従うものが出てくるはずです。今の純血主義に疑問を持つ中庸な考えのグリーングラスのような名門貴族もきっと傘下に入りたがります。

 ブラック家が旗頭となりマルフォイ家がそれを補佐する。純血貴族の面目も保てます」

 

「……なるほど。シリウス・ブラックはブラック家では例のないグリフィンドールだったな。

 グリフィンドール出身のブラック家当主か。マグル生まれや半純血の魔法使い達にも希望をもたらすだろうな」

 

「ええ。ヴォルデモート陣営でもなく、ダンブルドア陣営でもない。第三勢力です。ルシウス叔父様がその組織を支える二番手ですね。

 シリウス・ブラックが王なら、叔父様は宰相です。実質的な組織のかじ取りはルシウス叔父様。

 それに彼はハリー・ポッターの名付け親です。彼が自由になれば、きっとハリーと暮らすことになります。ハリーを、あの『生き残った男の子』ハリー・ポッターを、ダンブルドアから引き剥がせるんです。きっとそれに付随して多くの日和見的な家もブラック陣営に加わるでしょう」

 

 私の言葉に、ルシウス叔父様もにやりと笑った。

 

 私達はお辞儀様を斃すと決めた。

 だけど、はたから見れば、ヴォルデモートとそのシモベだった元死喰い人の諍いにしか見えない。ただの『闇 対 闇』の抗争だ。そんなの、「さっさと相打ちで死ねばいいのに」くらいにしか見られない。

 

 私達には中庸な立場の、そして、誰もが納得する旗頭が必要なのだ。

 シリウス・ブラックが王となれば、私達が元死喰い人だろうと、アズカバンの終身刑犯の娘だろうと、ブラックの威光に紛れる。『中庸な集団 対 闇』の構図が出来上がる。

 

 表面上、お辞儀様を斃すのはダンブルドアでもハリー・ポッターでもルシウス叔父様でもシリウスでも構わないのだ。

 

「ブラック家とマルフォイ家の多大なる活躍がなければ成しえなかったのだという形があれば、戦後素晴らしい立ち位置を維持できるな」

 

「ええ。できれば“両親の行った悪事に胸を痛めたレストレンジの娘”がこちらの陣営にいることも魔法界の方々が知ってくだされば私もうれしいです」

 

 

 私は証拠は今ホグワーツにあるから、回収後すみやかに連絡することと、シリウス・ブラックを保護したあとの処理などを打ち合わせ、何かあれば手紙や鏡で連絡を取ることを打ち合わせた。

 

 

 

 

 ……なんだろう。

 この悪役同士の謀のシーンみたいなやりとり。まるで「ふっふっふ。おぬしも悪よのう」「お代官さまこそ」みたい。

 

 「シリウス叔父様は無実なの」「な、なんだって!」「シシー叔母様の従姉弟を助けようよ」「無実なら助けるのが当然だよ。私達の助けにもなるしね」「さすが叔父様」みたいな会話だったんだよ。

 だけど純血貴族は自家の利益になることでしか動かない。だからお互いの利潤になることを念頭に置いて話すとこうなってしまうだけなの。悪意はないのだよ。私達だけじゃなくてシリウス叔父様のためにもなることだし。

 

 『シリウス・ブラックを助けよう』という打ち合わせを終えて、クリスマス恒例の社交パーティーもしっかりこなし、マルフォイ家をあとにした。

 

 

 

 

 

 レストレンジの屋敷に戻ると、夏に注文したファイアボルトが届いていた。うおおおおおお。素晴らしい。思わずファイアボルトを抱きしめ、うっとりと眺めた。

 なんて美しいフォルム。ほんと、素晴らしい。

 

 あ、でもドラコがまだ持っていないのに見せびらかすのは駄目だよね。これは当分ガーデン用にしよう。

 

 さっそくガーデンに入り、ファイアボルトで空を翔けた。

 

 素晴らしい加速と、急な方向転換の時の小回りの良さ、バランスの良さ、視界が狭まるほどのトップスピードの速さ、柄の握りの持ちやすさ、すべてにおいて完璧な箒だ。まさに箒乗りのための箒。

 どこまでも飛んでいきたい。ああ、今、私は風と同化している!

 

 

 

 

 

 もうひとつ。温室トランクも届いていた。

 これは持ち歩くつもりがあまりないため、大きさは特大トランクサイズで、しかも金属製。携帯しやすさより強度を取った。

 中は注文通り、作業スペースにはデスクと本棚、作業用テーブルにはシンクもついていて水道がある。

 薬草の保管庫も広くて使いやすそう。

 温室は6部屋あって、部屋ごとに温度・湿度・日照時間の設定ができる。スプリンクラーがついていて散水も簡単そう。こう書くととってもシステマティックっぽいのに魔法なんだよね。不思議だ。

 

 ガーデンの家のエントランス内に設置して、現在の私の技術でも無理なく育てられるハナハッカを植えた。他の温室はおいおい充実させていけばいい。

 

 

 

 

 

 

1994年 1月 始業

 

 ホグワーツへ向かう特急のコンパートメントの中。

 ドラコ、ヴィンス、グレッグと四人だけで話をした。

 急に真面目な表情でコンパートメントのドアにロックをかけ、盗聴避けの魔法具を設置した私に、彼らは怪訝な表情を浮かべた。

 

 ここでちょっとだけでも話しておくべきなのだ。

 でなきゃヴィンスやグレッグとの仲がこじれてしまう。私達はすでにかなり強い友情で結ばれている。なのに何の説明もなく親伝いでこの後の動きを知らされれば、きっと裏切られたか、切り捨てられたと感じてしまう。それじゃあ原作の彼らに逆戻りしかねない。

 

 私は“円”で彼らを注意深く見ながら、精一杯の言葉を紡ぐ。

 

「あのね。今は詳しいことが言えないのだけど。

 この学期中に事態が大きく動くことになる。私は“例のあの人”のことなんて何とも思ってない……ううん。むしろ、軽蔑している。敵だと認識している。クラッブさんやゴイルさんがどう考えるかわからないけど、場合によっては……彼らとは決別するかもしれない。でもヴィンスとグレッグとはずっと仲間でいたい。いてほしい」

 

 彼らは一様に黙り込んだ。元死喰い人の子供達。親がどんな悪事をしてきたか、ある程度は知っている。その中で極悪人としてアズカバンに両親が入っているにもかかわらず、私エリカ・レストレンジだけがずっと『反ヴォルデモート』の姿勢を崩していなかった。

 いつか、自分達の関係も変わるかもしれない。それはみんながずっと恐れていたことだった。

 

 先に声をあげたのはドラコだった。

 

「うちの父上はどうするんだ?」

 

「叔父様は説得したわ」

 

「どうやって?」

 

「まだ言えない」

 

 ちっと舌打ちしたドラコが拗ねた顔で座席にもたれかかる。

 私を問い詰めることをあきらめたドラコに変わり、話し出したのはヴィンスだった。

 

「なあエリカ。小さい頃、親父はマルフォイの坊ちゃんの手下になれって俺らに言ったんだ。甘ったれのお坊ちゃんの相手なんてすげー嫌だった。でもさ。エリカが俺らを変えてくれた。俺はドラコやエリカと仲良くなれて嬉しかった。強くなれんのも嬉しかった」

 

 ヴィンスがずいぶん明け透けなことを話してくれる。

 

「あの頃の俺なんか、頭んなか空っぽだった。親父の言った言葉の意味もわかんなかったさ。

 多少知恵がついて、親父はどうしようもない小物だってことがわかった。おふくろは親父の顔色ばっか窺ってしもべ妖精みたいに従うだけでさ。ほんとこいつらどうしようもねえなって思ってたさ」

 

 ヴィンスの言葉は苦々し気だ。そして、だけどよ、と言葉を続ける。

 

「1歳から離れてたエリカとは違うんだ。あんなへぼ親でもさ。やっぱ見捨てられない。だから」

 

 決定的な言葉を聞きたくなくて、私は急いで口を開いた。

 

「あ、うん。大丈夫。どういうことになってもヴィンス達を恨んだりしないから」

 

「違えよ。なんとしても親父らを仲間に引き入れろよって言ってんだよ。バカエリカ」

 

「あほエリカ」

 

 とグレッグ。

 

「ぽんこつエリカ」

 

 と、ドラコも続いた。そして呆れたように、言い添えた。

 

「まったく……僕たちがどれだけ君のことも愛しているのか、ちゃんと理解しろ」

 

「……うん。ありがとう」

 

 三人の、ありがたい叱咤激励の言葉が、身に染みた。

 

 

 

 

 

 

 

 お揃いの杖ホルダーは思った以上に好評だった。

 休暇中に会っていたドラコもとても気に入った様子だったし、ヴィンス達も喜んでいた。

 

 ヴィンスは肉弾戦に強くて、グレッグはしなやかな動きが強みだ。そのイメージで当てはめた白虎と黒豹は本人的にもとても満足だったらしく、これからは自分の所持品のマークにこれをつけようだなんて話もしていた。

 

 

 

 休み明けのスリザリン寮の談話室でもみんなが楽し気に見せあっていた。パンジーの手首にあるパンジー柄にみんな「やっぱりぃ」なんて笑っていた。

 

 みんなで杖の早出しを練習したりするのも、楽しかった。いかにカッコよく、素早く、杖を抜けるか。そんなことを競い合うのはとても充実した時間だった。

 

 

 のちのち、私達の揃いのホルダーを羨ましがった他の学年も巻き込んだ杖ホルダーブームが起きるのだが、それはまだ先の話だった。

 

 

 

 

 1月の終わり頃に行われた、クィディッチのレイブンクロー対スリザリン戦は、スリザリンの圧勝だった。数回スリザリンがゴールを決めて点を稼いだあと、ドラコがスニッチを獲ってワンサイドゲームを達成したのだ。

 これで今年もスリザリンの優勝が見えてきたことに、スリザリン寮の空気は浮かれていた。

 

 

 

 

 

 毎週のトランクでの守護霊の訓練も続けている。

 ドラコがケナガイタチの姿を取らせることに成功した。みんな大拍手だった。

 

 何の記憶をキーにしたの? という質問に、ドラコは『レイブンクロー戦での完全試合でスニッチを捕まえた瞬間』と答えてみんなを納得させた。

 ドラコの守護霊を見たことで気合が入ったのか、セオが次に成功させた。猫だった。毛の短い、しなやかな、おそらくシャムネコとかそんな感じの美しい姿だった。

 

 他のみんなもより一層訓練に力が入った。

 

 

 

 

 

 私は動物もどきの練習……というか、習得に向けての変身術の勉強。

 『必要の部屋』師匠が最初に出した教材の本はしっかり理解した。変身術の理論と基礎知識だ。この辺りは授業でも既に習っているし、細かい部分までもう一度改めてしっかり理解することで知識の穴も埋まったと思う。

 

 虚空に向かってそう宣言すると、その場に置かれていた本が本棚に仕舞われ、テーブルの上にはまた次の本が数冊ぽんと現れた。

 あ、はい。

 第二段階の勉強ですね。頑張ります、師匠。

 今回は本だけじゃなくて、練習用の素材も出てきた。これを使って変身術の実技もやっていくのか。

 

 うん。先は長いな。しっかり勉強しよう。

 

 

 ちなみに、小雪も動物もどきに挑戦する? と聞いてみたんだけど、小雪は変身術はあまり得意じゃないからやめておく、と言われた。

 数年がかりの勉強だしね。いつ何があるかわからない世界だから習得が間に合わず途中で断念するなんて可能性もある。

 でも師匠の出してくれた教科書はすべて小雪やメリーさんも書き写して勉強しているから、もしかしたら今後やる気になるかもしれない。叶うことなら小雪のマルチーズ姿も見てみたいものだ。

 

 

 

 

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