エリカ、転生。 作:gab
1994年 2月 第1週
ずっと『忍びの地図』を見て動向を調べていた影が、ネズミが一匹でグリフィンドール寮を出たことを見つけ、すぐさま追いかけていく。
ワームテールを逃がすことが来年の事件『炎のゴブレット』を進ませるために大切なキーになる。
だけどさ。
私達の立場を揺るがぬものにするためにはシリウス・ブラックの冤罪を証明してブラック家を継いでもらう必要があるのだ。
だからワームテールは捕まえて魔法省へ突き出す。『炎のゴブレット』の事件を起こすことより、シリウス・ブラックの無罪放免の方が私にとってはずっと大切なことなのだ。
ただし、あまり早く捕まえても仕方がない。シリウスとまだ話せていないし、ワームテールもシリウスに狙われていることで既に切羽詰まっている。
うまく逃げだせたと思ったのに知らない誰かに捕まったら、ルシウス叔父様に渡すまでに精神的に追い詰められすぎて死んでしまうかもしれない。
かといって『服従の呪文』などを使うと、魔法省へ突き出した時に魔法の残滓に気付かれるとピーター・ペティグリューの証言の真実性が疑われてしまう。
捕まえて数日でルシウス叔父様に渡せるよう、それまでは逃がさないようつかず離れずスニーキングミッションするしかないのだ。
『忍びの地図』でチェックできる範囲ならいいんだけど、『叫びの屋敷』にでもいかれたら困る。なにしろそこってシリウスが潜んでいるんだし。
1994年 2月 第2週
守護霊の訓練はみんな徐々に生き物の姿を取らせることに成功していっている。
ヴィンスがトラでグレッグがヒョウだったのにはみんな大喝采だった。きっと杖ホルダーを貰ったことでイメージが固定されて“思い入れのある生き物”になったんだろう。
トロールみたいだった二人がこんな俊敏な生き物を生み出すだなんて、原作では信じられないほどの成長だと思う。今の彼らを見て、誰もトロールみたいだ、なんて言わない。筋肉質だけれどボクサーのような身軽さがあるもん。
彼らは名門過ぎない家柄もあって、中流階級の魔法族のレディによくモテている。
ドラコはケナガイタチ、セオがシャムネコ、ヴィンスはトラ(白虎)でグレッグがヒョウ(黒豹)。
ダフネはウサギだった。とてもキュートだ。パンジーはおそらくヨークシャーテリアかな、毛足の長い小犬っぽい。ブレーズは馬でフォルムが美しい。ミリセントがまだあまりうまく形を取れていないんだけど、鳥っぽい感じ。
成果が目に見えるぶん、とても修行しがいのある呪文だよね。
土曜の午後、シリウスに話しかけに行くため、周囲の気配に注意しながら『暴れ柳』へと向かう。小さな石を拾って木の幹のコブに軽く当てると、柳は静かになり、根元に大きな隙間が開いた。
静かに穴に潜り込み、狭い土のトンネルの傾斜を滑り降りる。長くて暗い通路を延々と進んだ。
やがて上り坂になり、道が捻じ曲がる。その先に部屋があった。“円”で調べると、その先、二階にある部屋に一人分の気配がある。
雑然とした埃っぽい部屋を通り、うす暗いホールに入ると崩れ落ちそうな階段を上がる。
気配のある部屋の前で立ち止まり、私は『超一流ミュージシャン』の声音を精一杯活かして静かに語りかけた。
「シリウス・ブラックですね。話があってきました。決してあなたに危害を加えないと誓います。入っていいですか?」
……返事はない。“円”で感じる彼の感情はとても単純で、追いつめられた恐怖を感じている。たったひとつの扉は私がいるのだ。逃げられないと焦っているだろう。精神の単純さからおそらく犬の姿でいるだろうと当たりを付ける。
「入ります」と言いながら扉を開ける。そっと覗くと奥のほうに身構えた大きな黒犬の姿が見えた。うわ、思った以上のオオイヌだった。うちのシェル並みに大きい。そりゃあグリムと間違えられるのも頷ける。
私は部屋の先客が犬だったことに驚いてみせ、それから納得の表情を浮かべた。
「……なるほど。じゃああなたも動物もどきなんですね。だから誰にも見つからずにホグワーツまで来れた。二人がそうなら、ジェームズ・ポッターも動物もどきだったんでしょうか」
黒犬は身じろぎした。
「まあ、いいです。叔父様。お腹すいていませんか? 私、食べ物を持ってきました。ホグワーツの厨房で頼んできたので安全です。えっと。たくさん持ってきましたから、心配なら叔父様が指定したものを私が食べます。だから召し上がりませんか?」
巾着から大きめの布地を出して敷物代わりに床に広げ、その上にバスケットを取り出して蓋を開ける。フライドチキンの香ばしい匂いが広がった。大皿に並んだチキン、マグカップのスープ、籠に盛ったミートパイやビスケットも出した。匂いを嗅いで鼻を鳴らす大きな黒犬に微笑んで見せた。
「ここのことは誰にも言ってません。捕まえようなんて考えていません。この料理にも何も変なものなんて入れていません。だから少しでも召し上がってください」
黒犬は悩んでいるようだった。
アズカバンに収監されてから12年間、この手の料理なんて口にしていなかっただろう。動物もどきは獣の本能に引きずられて理性の箍が緩んでしまう。12年ぶりの御馳走に黒犬状態のシリウスの警戒心がぐらぐらと揺れているのがわかる。
「捕まえるなら、もっと簡単にできます。先生方の誰かを呼んで一緒にきますし、別に私が直接ここへ来ることもしません。……えっと」
私は大皿に手を伸ばし、チキンをひとつ取り上げると安全を証明するために、そのまま噛みついて見せた。もぐもぐと数口食べると、しばらくしてひゅんと黒犬が裏返ったかと思えば人間の姿になった。
新聞で見た通り、肘まで伸びた髪はボサボサで、ガリガリに痩せて、目だけがぎょろついたやつれた姿だった。痛ましいその姿に私は微笑みかけ、ナフキンと取り皿、フォークを渡した。
シリウスは人の姿には戻ったけど、私と話すつもりはないらしく、私の手を無視してそのまま素手でチキンを掴み、一口噛むと、その後猛烈な勢いで食べ始めた。
スープもパイも、毒見をして見せる余裕もないくらい。
しばらく彼が夢中で食べる姿を見守る。
やがて、ある程度空腹が収まったのか、シリウスが私に視線を向け、軽く顎をしゃくる。言いたいことがあるなら言えとばかりの仕草だった。
私は居住まいを正し、大切な言葉をシリウスに届けたいと願いながら心を込めて話し始めた。
「先に名乗ります。私が名乗ればきっとあなたはもう私のことを信じないかもしれませんが。遅れれば余計傷が広がりそうですもの。
初めまして叔父様。ベラトリックスの娘、エリカ・レストレンジです」
私の名乗りの反応は劇的だった。立ち上がったシリウスは口汚く罵りながら部屋の隅をうろうろ歩いた。
「あのイカレ女の娘が何のようだ。食べ物を恵んで、わたしが感謝するとでも?」
「叔父様。1歳から会ってないあの人達を私が親だと思うわけないじゃありませんか!
私は親のようにならない。それだけを思って生きてきました。家から出ることが私の目標でした。シリウス・ブラック。あなたもそう思っていたんじゃなかったんですか」
私の言葉は、シリウスに響いたようだ。おそらく、ブラック家の重圧に耐えかねていた自分と重ねたんだろう。そしてまだ信じ切れないのか、私がどの寮にいるかを聞いてきた。
スリザリンです、と言えばまた激しい罵倒の言葉が返ってくる。私はきっと睨みつけて叫んだ。
「しかたないじゃありませんか。レストレンジ夫妻は罪を全面的に認めてアズカバンでの終身刑なんです。グリフィンドールで、私がうまくやっていけるとでも思うんですか?
組み分け帽子はスリザリン、レイブンクロー、グリフィンドールの素養があると言いました。その中で、人殺しの子供に寛容な寮はスリザリンしかないじゃないですか」
「そんなことはない」
「あります。現に今、あなただって私をそういう目で見ているじゃありませんか。人殺しの子。お前も人殺しに違いない。死喰い人めって。どうして私自身を見てくれないんです。私は誰の事も傷つけていないし、闇の魔法なんて使ったこともありません」
私は杖を構えて守護霊の呪文を唱える。銀白色に輝くワタリガラスが部屋を飛び回って消えていく。
「私は闇に囚われてなんていません。どうか、私の話を聞いてください」
私は頭を下げた。先ほど私が杖を出したため身構えたシリウスは呪文が守護霊だったことに驚いた。そのまま黙り込んで私を見つめているのがわかる。頭上から突き刺さる視線を受け止めながらじっと待つと、ため息が聞こえ、どさりと彼が座り込むのが見えた。
「すまない。わたしは、わたしは捕まるわけにはいかない。わたしにはやるべきことがある。だから誰の事も信じてはいけないんだ」
「ピーター・ペティグリューのことですよね」
「なぜそれを?」
私は巾着から古ぼけた羊皮紙を出してみせた。
「1年の時、ホグワーツの校庭で風に飛ばされてきたのを拾ったんです」
シリウスの驚きは相当だった。
「『忍びの地図』じゃないか!」
「叔父様はこれが何かご存知なんですね? 有名な魔法具なんでしょうか。私は拾っただけなのでよくわからないまま使ってたんですが」
「わたし達が学生時代に作ったものだ。しかしなぜ今頃これが校庭に落ちていた?」
「叔父様方が!? あ、えっと。私が拾った時に開いていたんですから、おそらく誰かが使っていたものが風に飛ばされてきたんじゃないでしょうか。その日は風が凄かったですし。
先生に提出するべきでしたが、もったいなくて手放せませんでした。私って死喰い人の子ですから他の寮の子と顔を合わせると気まずい時も多々ありますから、とても便利だったんです」
私が少しうつむいてそう言うと、学校での厳しい立場を思ってシリウスはかすかに同情の表情を見せた。まだ私に気を許していない彼が、それでも私のことを気遣ってくれたことに感謝の笑みを浮かべ、話を続ける。
「それで。シリウス・ブラックの狙いはハリー・ポッターだって聞いて、でもこの地図を提出するのは嫌で、でもポッターも心配で。だからしょっちゅう彼を見ていたんです。もし近くにシリウス・ブラックの名があればすぐに先生に助けを求めようって。
そうしたら、ハリーのそばにいつも二人分名前が重なって見える人がいるのに気付いたんです。
ロナルド・ウィーズリーとピーター・ペティグリューでした。
私、ルシウス叔父様にも当時の話を聞いていましたし、『実録! 死喰い人の秘密に迫る』を読んで、ブラック家の私の叔父、極悪人シリウス・ブラックが何をしたか知ってました。その被害者で勲一等マーリン勲章を受章しているピーター・ペティグリューの名前も。
よくよく観察していると、ピーター・ペティグリューと表示されるのはウィーズリーのペットのネズミでした。ネズミにそんな名前をつけるなんて、って思って。こっそりグリフィンドールの友人に聞けば、ネズミはピーター何某なんて名前じゃなくてスキャバーズという名前で、指が一本足りない長生きのネズミだと教えてもらったんです。
そこで、聞いていた内容のうち、犯人と被害者がひっくり返っているんじゃないかと気付いたんです。なら“秘密の守り人”はピーター・ペティグリューになる。12人のマグル殺しもペティグリューがネズミの動物もどきなら可能な犯罪だって。
そしてその彼がハリーの傍にいる。とても危険だと思いました。……私の考え、間違っていますか?
叔父様はどうやってピーター・ペティグリューがここにいることを気付いたんですか?」
シリウス・ブラックは薄汚れたローブのポケットから古新聞を取り出した。きっと何度も何度も開いて見たんだろうと思わせるヨレヨレの新聞は、エジプト旅行中のウィーズリー家の写真が載った「日刊予言者新聞」だった。
そしてシリウス叔父様は、原作にあったとおり、アズカバンに視察にきたファッジに偶然貰ったのだと教えてくれた。動物の姿になっていればディメンターの影響から逃れられたのだと言うことも話してくれる。
脱獄してハリーを見に行き、その後はここに隠れてホグワーツへ何度も忍び込んだこと、クルックシャンクスが手伝ってくれたことも教えてくれた。
12年前の事件のことも。シリウス叔父様は自分が“秘密の守り人”をピーターに変えようと提案したのだと血を吐くような苦し気な声で告白した。彼の辛い気持ちが伝わって私も泣きそうになった。
シリウスは――叔父様、と呼ばずにそのままシリウスと呼んでくれ、と言われたのだ。そして私のこともエリカと呼んでくれるようになった――私に、ダンブルドアに相談しようと思わなかったのかと問うてきた。
「私もピーター・ペティグリューに気付いた時、すぐに先生に相談しようと思いました。でもダンブルドアはスリザリンには親切ではありません。信じてもらえるのか。それに地図を取り上げられるのは嫌でした。そう考えている時、ふと考えたんです。
ダンブルドアはほんとうにシリウス・ブラックが殺人犯だと思っていたのかって。だって死喰い人は帝王のしもべの集まりです。あなたって強者におもねるタイプに見えません。少し話を聞いただけの私でもわかるのに、ダンブルドアが気付かないわけないじゃありませんか。
そう考えると彼を信頼できませんでした。なので、自分でネズミを捕まえ、シリウスも説得して、自分達で無実を証明しようと思ったんです」
「ダンブルドアは……信じられる」
「いいえ。ダンブルドアはハリーを英雄に仕立てようとしています。そのために幼い頃から彼を苦境に立たせていました。彼はマグル街で伯母夫婦と従兄弟に虐待されて育ったんです。そうやって、魔法界への執着と帰属意識を植え付けようと考えたんでしょう」
「……なんだと?」
私は、初めて会った時の彼がガリガリで身体に全然あってないサイズの服を着ていたこと、手足に怪我があったことを伝えた。
そしてグリフィンドールの友人から聞いた話として、ハリーがどれだけ辛い子供時代を過ごしてきたかを話す。
シリウスが盲目的にダンブルドアを信じているままでは私達……とくにルシウス叔父様との歩み寄りは難しい。少しシリウスの考えを揺さぶっておかなくては。
ダンブルドアがハリーの虐待に気付かないはずがないのだ。魔法界で育てるよりはあの伯母家族のもとで暮らさせようと判断した理由は理解できるけど、虐待された子供の気持ちを思えばいろいろ言いたくもなる。
愛する名付け子の状況を知ったシリウスの怒りは、文字通り、怒髪天を衝くようだった。実際、魔力が漏れて髪がゆらゆらと立ち上がった。純血の中の純血、名門ブラックの血を色濃く受け継いだシリウスの怒りの魔力の奔流は、マグル生まれが傍にいれば魔力酔いで倒れそうなほどの強さがあった。
「すべてがダンブルドアの策略だったとは言いません。ですが、シリウス、あなたが捕まった時、ダンブルドアは気付いたんじゃないでしょうか。民衆にわかりやすい悲劇の英雄を、べた甘に甘やかすしかない保護者から引き剥がすいいチャンスじゃないだろうか、と。
あなたは親友を守れなかったことを悔いている。あなたのせいで殺してしまったと思っている。きっと名付け子のハリーのことはよけいに甘やかして育てるだろう。出来上がるのは傲慢で満たされきった尊大で愚かな少年。
ハリーは戦わなくてはいけない。魔法界のため、自分の幸せを犠牲にしても先頭に立って戦うハリーをみなの希望にしたかった。ダンブルドアはハリーを英雄に仕上げたかった。彼の養育に口をだせるシリウスは邪魔だったんです」
シリウスは押し黙った。自分でもそうかもしれないと思ったのだろう。
「ですから私、ルシウス叔父様を頼ることにしたんです」
「なぜそうなる! エリカ、ルシウス・マルフォイは死喰い人だ」
「今は違います、シリウス。
ルシウス・マルフォイはヴォルデモートが倒れたあと、いの一番に『服従の呪文で無理やり従わされていた』と証言して死喰い人から手をひいたんです。他の死喰い人にも、ヴォルデモートにも憎まれています。
それにシリウス、12年の時間は人が変わるのにじゅうぶんな時間です。今の叔父様は昔の彼とは違います。妻を愛し、息子を愛する子煩悩な父親なんです。家族を危険に曝してまで暴力集団に在籍しようだなんて思ってもいません」
シリウスはまだあまり納得できていないようだったけど、私は彼を宥めた。
「シリウス。あなたの無実を証明するためには、ピーター・ペティグリューを魔法省へ突き出して真実薬で証言させなくてはいけません。きっとシリウスも真実薬を飲むことになります。
だからこれ以上の話はできません。私があいつを復活させないため、何をしてきたか、これから何をするのか。無事無罪を勝ち取ったあと、必ず話します。シリウス。私を信じてください。なんなら『破れぬ誓い』をかわしてもかまいません」
「……ワームテールは……どこにいる?」
「ワームテール?」
知ってるけど、知ってるって言えないから怪訝な顔をしてみせる。
「ペティグリューのあだ名だ」
「ああ、地図に載っていた名前ですね。なら他の名前は」
「ああそうだ! 地図を、地図を貸してくれ」
シリウスは急にネズミを捕まえる使命感を思い出したように、勢い込み、私に地図を渡すよう手を伸ばした。私は急いで地図を仕舞いこみ、後ろへさがる。
「駄目です。今のシリウスがネズミを見て冷静でいられるはずがありません。彼を殺しては駄目です」
「殺す! やつは、わたしが殺す! さあ地図を」
「それではあなたの無実を証明できません」
「かまわない。わたしは奴さえ殺せたら」
「駄目です。シリウス。あなたは」
「わたしにはもう何もない!!」
「あります!!」
激情に駆られて叫ぶシリウスに、私も叫んだ。
「ハリーがいます。ハリーはあなたの名付け子です。伯母の家で虐待されて、食べるものもろくにもらえず、従兄弟のサンドバッグになっている、あなたの名付け子が! あなたの保護を待つ子供が!」
ハリーの状況を思い出したシリウスは、やっと少し冷静になった。……やっぱり12年のアズカバン生活で情緒不安定になっている。あっという間に激昂し、そうなれば周囲の状況すら忘れてしまう。
「ワームテールは必ず私が捕まえます。
シリウス。ここは危険です。ディメンターは脱獄犯を許しません。あなたが無実だろうと何だろうと見つけ次第襲ってきます。だから、ホグワーツを離れてください。危険なんです。
ワームテールとあなたをルシウス叔父様が魔法省へ連れていき、そこで再審を求めるんです。
無罪になって自由を勝ち取り、そしてハリー・ポッターに会いに来てあげてください」
そう言うと、シリウスは考えさせてくれ、と言い、頭を抱えて座り込んだ。
一度目の邂逅でいきなり説得できるはずなかったか。それでも彼の心にしっかり私の言葉を刻みつけることができた。今日はこれでいいだろう。
私は巾着を取りだして彼に渡す。夏に買った所有者の指定なしで誰でも使える巾着だ。中には保存食や飲み物が入っている。また温かい料理も持ってきますねと言うと部屋を出た。
ついでに『叫びの屋敷』のホールに護衛用影のためのジャンプポイントを設置して影もひとり出しておく。ポイントはジェイドが眷属となったことで『秘密の部屋』に使っていたポイントAが空いたからそこに入れた。