エリカ、転生。   作:gab

86 / 112
3年-7 シリウス・ブラック2

 

 

1994年 2月 第3週

 

 グリフィンドール対レイブンクローのクィディッチの試合が行われる日の朝、グリフィンドールの一行は誇らしげに固まって大広間に降りてきた。ハリーの手にあるのは『炎の(いかずち)・ファイアボルト』だ。

 箒乗りなら誰もが欲する史上最速の素晴らしい箒。

 

 グリフィンドールのシーカーがファイアボルトを持っていることに、スリザリンの皆が雷に打たれたような顔をした。前の試合でハリーが箒から落ちた時に壊れてしまったニンバス2001の代わりにシリウスが無記名でこっそり贈った箒だね。無事マクゴナガル先生のチェックを通り抜けたわけだ。

 

 ファイアボルト乗りのシーカーだ。ハリーならきっとすごい戦績を出せるだろう。でも今のスリザリンとの点数差を考えると、グリフィンドールが相当の点数を取らなくてはスリザリンの勝ちは揺るがない。

 スリザリンの最後の試合は来月のハッフルパフ戦だ。そこでもきっと彼らは頑張ってくれるはず。

 

 ディメンターに化けてポッターを驚かせようかとクィディッチチームのキャプテン、マーカス・フリントがチームのメンバーに誘いをかけていたけど、ドラコはハッフルパフなど敵じゃない、と言い放ち、フリント達の試合妨害は行われなかった。

 

 

 グリフィンドールは善戦した。特にファイアボルトに乗ったハリーの動きは敵チームながら素晴らしかった。結果は280点対100点でグリフィンドールの勝ちだった。私は惜しみない拍手を送った。

 

 競技場の隅っこ、樹々の影に、大きな黒犬と猫が並んで座っているのを、私は見つけた。

 

 

 

 

 その日の夜、またグリフィンドール寮にシリウス・ブラックが忍び込み、ロン・ウィーズリーのベッドのカーテンを切り裂いた。クルックシャンクスにワームテールが逃げた事を聞かなかったんだろうか。

 

 

 

 

 私は翌日、また厨房のしもべ妖精に料理を貰って、すぐにシリウスを訪ねた。

 

「ワームテールは私が捕まえるって言ったじゃありませんか。どうしてそんな危険を冒すんですか」

 

「すまない。だが、昨日ハリーの雄姿を見て、どうしてもじっとしていられなかったんだ」

 

「シリウス。早く彼と話したければ、まず無罪を勝ち取ってからです。彼にとってシリウス・ブラックは両親の仇なんですよ。彼は周囲が知る『間違った真実』を信じて、あなたを迎え撃とうとまで思っているんです」

 

「ハリー……わたしがハリーを苦しめて……ああ」

 

 私は持ってきた料理を広げながら、シリウスを宥める。

 

「さあ、温かいものを召し上がってください。

 シリウス。この週末はホグズミード休暇なんです。ルシウス叔父様と約束しています。私はそれまでにワームテールを捕まえて、叔父様に託します。シリウスも一緒に来てくださいますか?」

 

 シリウスは私の言葉を聞かなかったふりをして、私の持ってきた料理を黙って食べ始めた。もう私のことは料理に薬を入れるなどとは思わないほどには信用してくれている。

 それでも、やはり死喰い人だったルシウス・マルフォイを信じることは難しいのだろう。まあ、当然と言えば当然か。

 

「では、ワームテールだけ先に渡して、ルシウス叔父様に魔法省へ持っていってもらいます。そして彼を魔法省が調べたいだけ調べれば。きっとあなたのことも冤罪だったと認めてくれるでしょう。

 そのあとなら信じてくださいますか?」

 

 シリウスは、しぶしぶながらも頷いた。

 こんな汚い場所に居てもらいたくはないし、ディメンターが飛び回るホグワーツからシリウスを早く離したい。だけど、彼が躊躇する理由も理解できる。

 まあいい。シリウスのことは影が守ればいいだろう。

 

 私はシリウスに両面鏡を手渡し、進展はすぐに知らせると約束すると、先日シリウスに渡した巾着にまた新しい料理を詰め込んで、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 シリウスの説得は終わった。

 日程的にもちょうどいい。ルシウス叔父様とホグズミードで落ち合う約束を済ませ、影がハグリッドの小屋に隠れているネズミを捕まえに行ってきた。

 地図を持っていてジャンプとステップができ、その上“隠”で姿を隠した影に、できない仕事ではなかった。

 

 ハグリッドが小屋を離れている時に“円”でネズミを探して逃げられないようシルヴィアを吹く。弱っているだろうからほんとにそっとね。窓から小屋の中を覗いてステップで侵入、あとは鍋の中に隠れてる泡を吹いて痙攣しているネズミに眠り薬を垂らし、準備しておいた『割れない呪文』をかけたネズミ用ケージにそのまま放り込んでミッション終了だ。

 

 地図で見ても、私の名前に重なるようにピーター・ペティグリューの名前。間違いない。このよぼよぼネズミがピーター・ペティグリュー本人だ。

 ……あまりにみすぼらしいネズミに、ほんとにこいつが人間なのかと不安のあまり何度もネズミの場所を移動させては地図を調べて名前を確かめるはめになった。

 

 ジャンプで本体の待つ寮の私室に戻り、ケージを手渡す。トランクの一室で数日飼うことにした。

 ネズミ用の餌はちゃんと買ってある。ルシウス叔父様に渡すまで、ここで大人しく暮らしていればいい。

 

 

 

 

 

 その週末はホグズミード休暇の日だった。

 ホグズミードのホッグズ・ヘッドでルシウス叔父様と待ち合わせる。テーブルにつくと音声遮断の魔法具を設置し、わざわざここまで来てくださったことに礼を言った。

 鷹揚に頷いた叔父様はすぐに本題に入る。

 

「それで? シリウス・ブラックの無実の証拠とは? ちゃんと手に入れたんだろうな? エリカ」

 

 私は黒布をかけたケージをテーブルに乗せた。

 酒場ですからね。一応ネズミの姿を誰にも見られないよう周囲から隠すための黒布だった。

 

「……これは?」

 

「ネズミです」

 

 叔父様は訝し気にそっと黒布をめくって覗き込む。今は眠り薬が効いてだらしなく眠りこけているワームテールが見える。みすぼらしいネズミの姿に眉を顰めた。

 そして、これが何になるのかと不審げな表情で私を見た。その顔にはありありと『期待外れ』の思いが表れている。うん。そんな顔にもなるよね。わかる。

 

「このネズミ、動物もどきなんです。シリウス・ブラックが殺したとされているピーター・ペティグリューです。前足の指が一本足りないの、見えますか?」

 

 とてもじゃないけど人間が変化したとは思えないほどみすぼらしいネズミの姿に、これが本当に動物もどきなのかとルシウス叔父様はギョッとした表情でケージを見下ろした。

 

「……なるほど。12年前の被害者が生きている。ならばその事件自体、このピーター・ペティグリューの仕組んだことかもしれん。確かに素晴らしい証拠になるな」

 

 叔父様は何度も頷く。きっといろいろ考えている。

 

 私は、今まで12年間、ずっとネズミの姿のままウィーズリー家で飼われていたことを話した。ただ、ハリーを味方につける手前、ウィーズリー家への過度の批判は今回はなさらないでくださいねと釘を刺す。

 ちょっと叔父様、そんな残念そうな顔をなさらないで。ウィーズリーと揉めるのは得策じゃないんですって。

 

 そしてハンナのアイデアに従い、「このサイズですからいつ逃げ出してしまうかわかりません。12年前もそれで逃げ出したんですから逃げ足だけは速いんです。だから、できるだけ多くの人の目に晒される場所でネズミから人の姿に戻してくださいませ」と頼んだ。

 

「それで? 肝心のシリウス・ブラックのほうはどうなんだ?」

 

「ええ。説得は進んでいます。ただ、自分の身柄を誰かに預けることは不安だったのでしょう。なんせ、友人に裏切られていますから、彼。疑心暗鬼で怯えてます。ですから、先にピーター・ペティグリューを魔法省へ突き出し、シリウス・ブラックの再審を約束させ、しかるのちにシリウスを迎えに来てほしいんです」

 

 シリウスから聞かされた、アズカバンで新聞記事を見たこと、死喰い人ペティグリューが姿を変えて大切な名付け子の傍にいることに危機感を抱いたこと、なんとしても名付け子を助け、親友の仇を取るのだと命がけの脱獄に至ったのだと、彼のことをかなり美化して伝えた。

 

 叔父様はその私の演出を理解しつつ、受け取った情報は最大限に利用しようとにやりと笑い、太鼓判を押してくれた。

 叔父様ぐう有能。

 

 

 その後、シリウスに渡した両面鏡の片割れを取り出し、ルシウス叔父様と一緒にシリウスと少し話をした。

 捕まえたワームテールの姿もしっかり見せた。その瞬間、激昂し鏡にかぶりつきそうなほどのシリウスの必死の形相に、ルシウス叔父様もこのネズミがピーター・ペティグリューであることを信じた。

 そして、鏡はこのままルシウス叔父様に渡すと説明してルシウス叔父様に渡す。

 

 ルシウス叔父様が「私が当日あらかじめ鏡を繋いだまま、魔法省でピーター・ペティグリューの生存を見せつけてシリウス・ブラックの無実を証明するから見ていて欲しい。私を信頼するのはそのあとでも構わない。君の冤罪を知ってシシーもずっと胸を痛めている。君を心配しているエリカとシシーのためにも、どうか待っていてほしい」と説明して、シリウスの不安を解消できるよう努めた。

 

 

 

 

 

 

 

1994年 2月 第4週

 

 ハリーの傍にいた死喰い人のペティグリューが、やっと彼らの手元を離れた。

 これでようやく、私も彼らと話ができる。

 

 ペティグリューは捕まえたから『炎のゴブレット』事件は起きない可能性が高い。でも、万が一ペティグリューからヴォルデモートへ情報が渡ってしまうかもしれないと思えば私達の情報を漏らせなかったのだ。

 だから今までハリーとの仲を修復できなかった。ハンナにもスキャバーズがいる間は目立たないようにって念を押してあった。

 

 スキャバーズが知るスリザリン生達は、ロンの話すグリフィンドール生らしい脚色された情報だけだ。お辞儀様の下へ流れても困ることはない。

 

 

 ペティグリューはルシウス叔父様が魔法省へ突き出してくれる。

 

 できれば早めにハリー・ポッターと話をしておきたい。そう考えた私はハンナに両面鏡を使って連絡を取って口添えを頼み、ハリーと話せる時間を取ってもらった。

 

 別に私が話さなくても、すぐに新聞で事態が明らかになる。

 でもさ。

 私はそろそろハリーと仲直りしておきたいのだ。それからロンやハーマイオニーとも。いつまでも疑われ続けるのは嫌だし、今後シリウスを通してハリーとも仲良くなっていけば、彼らとも交流が始まる。

 

 なら。彼らの知らない情報を早めに開示して、そして、あわよくば、あれ? レストレンジって良い子じゃない? って思ってくれると嬉しい。

 ハンナには間に入ってもらって本当に助かっている。「グリフィンドールの友人」というポジションもいろいろなことに理由がつけやすくて本当、助かります。

 

 

 

 

 週があけてすぐのこと。

 

 ルシウス叔父様の魔法省の玄関口ホールを使った『ピーター・ペティグリュー生存のお披露目』事件は多くの耳目を集めたらしい。

 本気になったルシウス叔父さまの手腕は素晴らしく、出勤する役人達でごった返す玄関ホールで彼らの注目を集めてネズミを取り出し、その場で人間の姿に戻してみせた。

 

 そして魔法省の役人に用意させた真実薬でペティグリューの証言を観衆に聞かせて、当時の捜査の杜撰さを批判し、ブラック家の御曹司が無実の罪でアズカバンに12年も囚われていたこと、名付け子を守るために命がけの脱獄までしたことに皆の同情と関心を大いに集め、シリウスの再審査を約束させるまであっという間だったらしい。

 

 魔法省は、即刻ディメンターをホグワーツから撤退させ、シリウス・ブラックを()()し、今度こそ真実を白日の下に明らかにすると宣言した。

 

 

 

 ハリーとの約束の日は、ちょうどルシウス叔父様から魔法省でのピーター・ペティグリュー生存のお披露目を済ませたという連絡が入った日だった。いい報告ができる、と私は喜んだ。

 

 

 

 

 夕食後の時間を使って空き教室で待ち合わせることになった。

 

 

 あらかじめ、ハンナには、『寮は別だけど、学校で顔を合わせている間にだんだん仲良くなった。今日はエリカとハリーの仲違いを修復させたくて間に入った。私も初めて聞く話だけど、重要な話があるらしい』という“善意の第三者”の立ち位置でハリーに説明してもらっている。

 

 ハンナも自分でもその設定を忘れないようにする、と話していた。

 

 空き教室で待っていると、当然のようについてきたハーマイオニーとロンが罪人を見るような厳しい視線で私を睨みつけ、ハリーに何かしようものならありとあらゆる呪いの呪文をかけてやると言わんばかりに杖を握りしめて立っていた。

 

「あなた達も同席したいなら構わないわ。だけど、私とポッターが話す間、静かに聞いていることが条件よ。できないなら、外にいてくれないかしら。ポッターに危害を加えたりしないって誓うわ」

 

「信じられるもんか」

 

 見かねたハンナがウィーズリーを止めた。

 

「もう、エリカは良い子だよ。私が保証する。そんなに喧嘩腰じゃあ話なんて進まないじゃない」

 

「君もスリザリンの仲間なのか」

 

「いい加減にしてロン。スリザリンだから全員悪い奴ってのは、マグルだから全員屑だって言う人と変わらないって言ったでしょ。ロンだってすっごく差別してるの、わかってる?」

 

「だってこいつはレストレンジなんだぜ?」

 

 ハンナはロン・ウィーズリーでは埒が明かないと考えたのか、ハリーへ対象を変えて話し出した。

 

「ハリー、エリカの両親とエリカは別だよ。ねえ、ハリー。ハリーと血がつながっているから、ハリーは伯母さんや従兄弟のこと大好きで愛してて、なんでも言うこと聞いちゃう?」

 

 ハンナのその言葉はとても効いた。ハリーが納得の表情を浮かべた。

 私も急いで口を開いた。

 

「何度でも言うわ。私は両親を憎んでいる。私は、私よ。ポッター」

 

 私は心からの言葉を述べる。ハリーは、ウィーズリー達に向き直った。

 

「僕、彼女の話が聞きたい。だから、静かに聞いていてくれるか、出ていくか、してくれない? あとでちゃんとどんな話をしたか教えるから」

 

「静かに聞いてくれるなら、できればウィーズリーには話を聞いていて欲しいんだけど」

 

「え? 僕?」

 

「ええ。あなたにも関係のあることだから」

 

 ロンは友人達の顔を見回し、そして教室の扉近くの席に座った。ハーマイオニーとハンナもそれに従う。

 やっと話ができる。

 

 三人が見守る中、私とハリーは向かい合って座った。

 

 

「ポッター。いきなりでごめんなさい。別に貴方を騙そうとかそういうんじゃないから、そんなに硬くならないで」

 

「あー、うん。ごめん。えっと、ハリーでいいよ。僕も謝りたかったんだ。レストレンジだからって疑ってごめん。あの、えっと……またエリカって呼んでいい?」

 

「ありがとう、ハリー。もちろん、エリカって呼んでちょうだい」

 

 二人はほっと笑いあった。2年半ぶりの和解だった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。