エリカ、転生。   作:gab

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3年-8 ハリー・ポッター

 

 

 3年のわだかまりも解け、ハリーとまたファーストネームで呼び合えるようになった。やっとまともに会話ができる。

 教室の端から警戒して見守る視線を感じる。まあしかたない。彼らはまだ『シリウス・ブラックは死喰い人で、ハリー・ポッターを狙っている』と思っているんだもん。そんな時にレストレンジから呼び出されれば、疑うのも無理はない。

 私は“円”でポッター……ハリーの様子を確かめつつ、口を開いた。

 

「あのね。しっかり説明するわね。ちょっと長くなるけど、聞いてちょうだい。

 私の両親はベラトリックス・レストレンジとロドルファス・レストレンジ。二人とも死喰い人で、残虐で拷問好きな極悪人よ。ああ、気にしないで。あの人達を親だなんて思ったことないから。

 

 両親は私に興味がなかったから、生まれた時から屋敷しもべ妖精が私を育ててたの。

 それに私が1歳の頃にアズカバンに入ってそれから一度も会ってない。私は両親をちっとも愛してないし、むしろ彼らのせいでずっと後ろ指を指されて、闇祓いのおじさんに『腐れ蛇の子はどうせ腐れ蛇だ』って罵倒されたこともあるし、もうね、大嫌いなの。

 

 私は、ぜったいに、両親みたいにならない。そう思って生きてきたわ。

 純血貴族として、やるべきことをきちんと行うけど、マグル生まれに忌避感はないし、マグルの技術は純粋にすごいと思っているわ。

 

 私のスタンスはわかってもらえた?」

 

「あー、うん。たぶん」

 

「長い! 三行で!」

 

 ハンナが離れた席から茶々を入れてきた。長々としゃべりすぎた? まずい。説明しようとすると全部言いたくなる。悪い癖だ。

 

「うちの両親は極悪人。

 私は死喰い人には絶対なりたくない。

 私は純血だけど、マグルは嫌いじゃない。

 オーケー?」

 

「お、オーケー」

 

 ハンナの明るい茶々とそれを受けて三行にまとめた私の言葉に、部屋の空気が少し軽くなった。ハンナに内心感謝しながら私は口を開いた。

 

「ありがとう。じゃあ続けるわね。

 うちの母親は旧姓がブラック。ブラック家は魔法界の王と言われる大貴族なの。

 

 ベラトリックスの生まれた家はブラック家の分家で、三姉妹。

 ベラトリックスの妹は結婚してマルフォイになってるわ。つまり、ドラコ・マルフォイのお母様ね。ドラコと私は従兄妹なの」

 

「……うん」

 

「だからルシウス・マルフォイは私の叔父様になる。

 去年、私はルシウス叔父様を説得したの。彼は死喰い人とは手を切ると約束してくれたわ」

 

「そんな! 信じられるもんか」

 

「信じられるの、これが。ここはもっと時間をかけていずれ説明するけど。今は信じてと言うしかない。

 それよりも、もっと先に知ってもらいたいことがあるから。むしろこれが今日の大本命」

 

「知ってもらいたいこと?」

 

「うん。続けていい?」

 

「うん」

 

「うちはブラックの分家って言ったでしょう?

 ブラック本家には息子が二人。当主夫妻と弟はもう死んでいて、兄がひとり生き残っている。

 それが、シリウス・ブラック。そう、今ホグワーツがディメンターに囲まれている理由になった人。私の叔父様ね。

 シリウス・ブラックとあなたのお父様との関係は、どこまで聞いた?」

 

「シリウス・ブラックは、学生時代に僕の父さんと親友だった。それなのにあいつは親友を裏切って死喰い人になっていたんだ。そして、あいつの手引きで父さんと母さんは……」

 

 ハリーは怒りと憎しみを滲ませて言葉を紡ぐ。固く握りしめた手が激情を抑えるようにぶるぶると震えていた。

 

「ハリー。

 知っているかもしれないけど、念のため全部話すわね。聞くのも辛いかもしれないけど大事なことなの。

 

 あなたのお父様、ジェームズ・ポッターは学生時代、大親友達がいた。いつも4人組で仲良くしてたの。ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、リーマス・ルーピン、ピーター・ペティグリュー。4人はグリフィンドールで同室になり、7年間ずっと一緒だった。

 

 特にシリウスとジェームズは“魂の双子”と言われるほど仲良しだった。どちらも大貴族の嫡男で、大金持ちで、成績優秀で、男前で、悪戯の仕掛け人で、我が世の春を謳歌していた。一番の大親友だったの。

 

 卒業後は4人とも、それにあなたのお母さんのリリー・エバンスも、みんな就職せずに不死鳥の騎士団に入った。不死鳥の騎士団は、“例のあの人”に対抗するためにダンブルドア校長が設立した秘密同盟ね。

 

 ハリーが生まれたあと、ポッター家は“例のあの人”に狙われていたの。だから家族で身を隠した。“忠誠の術”という魔法を使ってね。“忠誠の術”は“秘密の守り人”が漏らさない限り誰にも屋敷が見えなくなる術のこと。

 ジェームズ・ポッターは当然、大親友のシリウスを“秘密の守り人”に選んだ。

 そしてあのハロウィンの夜、守りは破られて、ご両親は“例のあの人”に殺され、あなたは殺されそうになったけど、なぜか“例のあの人”は霞のように消え失せた。

 

 そしてポッター家襲撃を知ったシリウスはその翌日、もう1人の親友、ピーター・ペティグリューに追いつめられ、周りにいたマグル達12人を巻き添えに吹き飛ばした。

 現場は遺体がみな木っ端みじんに吹き飛んだ酷い有様だった。ピーター・ペティグリューは指1本しかまともな部位が残っていなかった。

 

 その後すぐに魔法警察部隊が取り囲んでシリウス・ブラックは連行された。その時シリウスは血だらけでクレーターのできた道の真ん中で、大声で笑っていた。

 聞いた話に間違いはない?」

 

「ああ。あいつが、無二の親友の裏切りで、父さんは……母さんは!」

 

「ハリー、落ち着いて。

 みんながそう思ってた。シリウス・ブラックは親友を裏切って殺した極悪人だと。

 でも、違ったの。

 あのね。

 そもそもの最初から間違っていたの。“秘密の守り人”はシリウスじゃなくてピーター・ペティグリューだったの」

 

「……え?」

 

「守り人が決まり、騎士団の皆にもそう報告したあとで、シリウスはジェームズに提案したのよ。

 『俺が守り人になることは皆当然だと思っている。きっと敵もそう考えるはずだ。だから裏をかいて自分は囮になり、別の者に守り人になってもらおう。これならきっと誰にも気付かれない。ハリーを守れるだろう。守り人はピーターこそ適任だ』ってね。

 シリウスの提案に乗ったジェームズとリリーは、守り人をピーター・ペティグリューに変えた。

 だけど、それが間違いだった。

 ピーター・ペティグリューは実はとっくに死喰い人になっていて、騎士団にはスパイとして紛れ込んでいただけだった。

 ハリー、お父さんとお母さんを殺したのは、ピーター・ペティグリューなの」

 

「でも……そんな」

 

「驚くのも無理はないわ。

 誰もがシリウス・ブラックが“秘密の守り人”だと知っていたんだもの。だから裏切者はシリウス・ブラックだと信じていた。まさか守り人を変更しているなんて誰も知らなかったの。

 だって誰にも知らせないことであなた達家族が守られるって、シリウスもあなたのご両親も信じてたの。

 ただ、信じる相手を間違えただけなの」

 

 ハリーは新たに聞かされたその事実を飲み込むまで、時間がかかった。そして、咀嚼するように、なんども息を呑み、やがて口を開いた。

 

「シリウスは、マグルを巻き込んで、父さん達の仇をとったってこと?」

 

「いいえ。シリウスはピーターを殺せなかった。殺そうと追いつめたところで、ピーターの罠にかかったの。ピーターはちゃっかり逃げおおせた。

 シリウスは自分の提案でピーターに守り人を変更したことを悔いていた。

 大親友を殺され、仇には逃げられ、しかもその罪を背負わされて。後悔と憎しみでおかしくなっていて、高笑いをしていたのよ」

 

「でもピーターはどうやって逃げたんだよ。だって、指が残っていたって」

 

「ピーター・ペティグリューは『動物もどき』だったの。『動物もどき』は、動物の姿を取れる人ね。マクゴナガル先生が猫になった姿を見たでしょ? あれよ。

 ピーターは魔法省に登録していない、もぐりの動物もどきだった。もちろん違法よ。

 シリウスに追いつめられたピーターは指を一本切り落とし、周りに『シリウスがジェームズとリリーを裏切った。シリウスは死喰い人だ』って叫んで彼に罪を被せ、近くにいたマグルを巻き込んで大爆発を起こした。

 自分は次の瞬間動物に変わって、下水に逃げ込んだの。

 あとは魔法族の家に隠れ住んで、じっと時を待っていた。12年も。

 

 ピーターはね、ネズミの動物もどきだったの。

 ねえハリー。あなたの近くに、指が一本足りない、ネズミではありえないほど長生きのネズミはいなかった?」

 

「っ! スキャバーズ! まさか、ロンのネズミのスキャバーズが?」

 

 その言葉に跳び上がったのはロン・ウィーズリーだった。まさか自分のペットの名前がそこで出てくるなんて思ってなかったウィーズリーは信じられなくて、「嘘をつくな!」と怒鳴った。

 ロンは拗れると長引く。ここでしっかり話をしなくては。私は精一杯の想いを込めて彼に向き合った。

 

「嘘じゃないわ。だいたい普通のネズミが12年も生きられるなんておかしいと思わないの?」

 

「僕たち……僕たちがちゃんと世話してたんだ!」

 

「どれだけ大事にしたって寿命ってものがあるでしょう?」

 

「じゃ、じゃあシリウス・ブラックはスキャバーズを捕まえるためにアズカバンを脱獄したっていうのかい?」

 

「そうよ。シリウスの狙いはハリーじゃなくて、スキャバーズだったの。グリフィンドール寮へ忍び込んだシリウスが切り裂いたのはあなたのベッドのカーテンだったでしょ?」

 

 ウィーズリーは助けを求めるようにハリーとハンナ、ハーマイオニーを順番に見た。

 

「ねえ。でも、でも。ペティグリューがネズミに変身できたとしても……ネズミなんて何百万といるじゃないか……アズカバンに閉じ込められていたのに、どうやってスキャバーズのことを知ったんだよ!」

 

「夏休み、ガリオン籤に当たったウィーズリー家が『日刊予言者新聞』に写真付きで載ったでしょう? エジプト旅行の家族写真。そこにネズミ姿のペティグリューもいた。

 シリウス・ブラックはその新聞をアズカバンで偶然手に入れたんですって。視察にきたファッジに貰ったらしいわ。

 ピーター・ペティグリューは学生時代から仲間うちでは何度もネズミの姿にかわっていたの。それにシリウスの目の前で指を切り落としたのよ。親友の仇で、自分を悪人に仕立て上げた裏切者なの。見間違えるわけないわ」

 

 ルーピン先生が人狼なことや、シリウスとジェームズももぐりの動物もどきだということは私がバラすことじゃないから言わない。

 

「じゃあ、じゃあ、スキャバーズは……ほんとうに……人間だったの? だって僕ずっと一緒に暮らして……いつも世話して、一緒に寝て……うそだろ……」

 

 ロンはショックのあまり椅子に崩れ落ちた。ハーマイオニーが宥めるようにその肩に手をおく。そして選手交代とばかりにずいっと私を睨むと憤然と詰問してきた。

 

「スキャバーズは入学してから三年間もずっと同じ寝室にいたのよ。“例のあの人”の手先ならいつだってハリーを攻撃できたはずよ」

 

「ペティグリューは強い主におもねっていただけ。生きているかどうかわからない帝王のために動くほどの忠誠心なんてないの。だけど死んだことにして逃げたんだから今さら騎士団にも戻れない。だからじっと隠れていた。万が一、“例のあの人”が復活して、そっちの方が旗色が良さそうだと判断したらさっさとハリーを捕まえて帝王に献上できる、この上ない場所をずっとキープしていたってわけね」

 

 ハーマイオニーと私の会話で、自分達の傍でずっと会話を盗み聞き、いつでも事を起こせる抜群の場所に死喰い人がいた危険な状態だったことに気付いた彼らは顔を青ざめさせた。

 

「スキャバーズは貴女が捕まえたのかしら」

 

「そうよ。もうしわけないけどどうやって捕まえたとか、言えないわ」

 

「あなたはいつからシリウス・ブラックと繋がっていたの?」

 

「2週間前ね」

 

「死喰い人だから知ってるんじゃないの?」

 

「シリウス・ブラックが死喰い人じゃなかったのはさっき説明したでしょう? それに私も死喰い人じゃないわ」

 

「証明できる?」

 

「まさか1歳の私が死喰い人になったとでもいうのかしら。

 あのね、グレンジャー。愛してくれたこともない両親を私が愛するわけないでしょう? 

 想像してちょうだい。

 もし、“例のあの人”が復活すれば。うちの両親はきっとアズカバンから脱獄してくるわ。そうしたら私は絶対に死喰い人にされるの。従わなければ拷問されて、最終的に服従の呪文で従わされるか、殺される。私の未来なんてそれしかないの。

 私は、私のために、私やドラコ達の未来のために、死喰い人にされない未来のために戦っているの。命がけなの」

 

 私の言葉にまだ言い返そうとしていたハーマイオニーの言葉を遮ったのはハリーだった。

 

「ハーマイオニー。僕が話してるんだ。ちょっと黙っててくれないか。僕が、僕の両親のことなのに……」

 

「あ、ごめんなさいハリー。黙るから、怒らないでハリー」

 

 ハーマイオニーを睨みつけたハリーは、彼女がまた席に着いたのを見て、私を見た。

 

「シリウス・ブラックはどうなったの?」

 

「シリウスはね、死喰い人のペティグリューが親友の子ハリーのすぐ傍にいることにとても危機感を抱いていた。だから脱獄までしたの。誰もシリウスの話を信じてくれるはずがないから。

 ディメンターは脱獄犯を許さない。捕まれば問答無用で『ディメンターのキス』を受ける可能性が高いの。

 

 魔法界の王と言われたブラック家の嫡子を、無実の罪で12年間もアズカバンに閉じ込めてたのよ。醜聞を避けるため、握りつぶされてしまう危険もあったの。それにブラック家なんて大貴族は極悪人のまま死んでくれたほうが都合のいい人も多いの。

 だから大々的に知らしめる必要があった。

 

 ピーター・ペティグリューの身柄は、ルシウス叔父様に託したわ。

 それでね。ちょうど今日の話よ。

 ルシウス叔父様は魔法省の玄関ロビーで衆人環視の中、ネズミを取り出して人の姿に変わるところを見せて、その場で魔法省の役人に持ってこさせた真実薬で、ピーター・ペティグリューが12年前の真犯人だったと証言させたの。目撃者が多くて誰にも握りつぶせないほど明確な証拠だわ。だからもうすぐ再審査が行われることになる。ここにいるディメンターももうすぐ引き上げると思うわ。

 

 シリウスはね、まだホグワーツの傍に隠れている。彼はワームテール……ペティグリューのことね……魔法省の役人がワームテールが生きていて、死喰い人だったという証言が取れるまではここから動かないってそう言っていたの。

 ルシウス叔父様からの報告はちゃんとシリウスにも伝わっているから、もうすぐ彼も魔法省へ出頭することになるわ」

 

「じゃあ、じゃあシリウス、さんは……」

 

「ええ。シリウスはもうすぐ無罪になる。ルシウス叔父様が方々に働きかけてくださっているから、きっと裁判を早めて一刻も早く彼を自由の身にさせるわ。過酷な環境にいてとても衰弱なさっているの。

 でね、ハリー。

 シリウスとジェームズは大親友だったって言ったでしょ。あなたの名付け親は、シリウスなのよ。それも誰かから聞いた?」

 

「あ、うん。聞いた、よ」

 

 ハリーは最初にそのことを聞いた時に感じた思いとはまったく違う熱い感情が溢れてきているようで、絞り出すように答えた。

 

「つまりね、あなたのご両親が、シリウスをあなたの後見人にしたのよ、ハリー。自分達に何かあった時に頼れる者として」

 

「こうけんにん」

 

 理解しがたい言葉を聞いたかのように呆然とおうむ返しに呟く。

 

「そうよ。あなたの家族よ。シリウスはあなたを愛しているわ。今すぐにでも会いたいって、それだけを糧に今、戦っているの」

 

「……家族?」

 

「ええ。ブラックを名乗るものはもうシリウスしかいない。親友も死んでしまった。シリウスにとって、あなただけが生きる希望なのよ。きっと一緒に暮らしたいって言うわ」

 

 ハリーの目に希望の光が宿った。

 降ってわいたようにいきなり訪れた希望に、夢のように覚めてしまうのではないか、ぬか喜びになってしまわないか、期待が裏切られて傷付くことを恐れて自分を抑えながら恐々と私を見つめる。

 

 私は少し申し訳ない気持ちになりながら、肯定するように頷いた。きっとダンブルドアに『夏には一度ダーズリー家へ帰れ』って言われるだろう。でも、私が知らないはずの情報なのだ。ごめん。

 それに原作でも8月はたいていウィーズリー家にいた。ずっといられないにせよ、シリウスと過ごせる時間はちゃんとできる。

 

「シリウスは……僕と住みたがると思う?」

 

 ハリーはすがりつくように問いかけてきた。私はにっこりと笑ってみせた。

 

「もちろんよ。さっきも言ったけどシリウスの今の生きる希望は、ハリーしかいないわ」

 

 ハリーはほっとした表情を浮かべ、そしてそれを少し恥ずかしく思ったのか、あわてて表情を取り繕った。

 そして、やっとハーマイオニーの先ほどの質問に思い至り、訊ねてきた。

 

「エリカは死喰い人になりたくなくて、戦ってるの?」

 

「そう。親が何をしていたかで、私の人生を決められるなんて悔しいじゃない。私はあいつらみたいには絶対ならない。そのためには全部捨てて逃げるか、戦って勝ち取るか、死ぬしかないの」

 

「ねえ、君の両親は、その……」

 

「ああ。うん。えっと、ね。

 被害者の方のご家族の了承を得ないと名前は明かせないけど、あのハロウィンの夜、闇祓いの夫婦を拷問にかけて廃人になるまで追い込んだの。その人達は精神を壊されて今も聖マンゴに入院している。

 “例のあの人”が消えたあと、死喰い人の多くは『自分は脅されていただけだ』とか『服従の呪文にかけられて従っていた』とか言ったり、『他の死喰い人について証言するから減刑を』と司法取引したりしてみんな罪を逃れたの。

 うちの両親は『我が君のためにやった。我が君こそ至高。やがてきっと復活なさる』って証言して堂々とアズカバンへ入ったっていうある意味潔い狂信者の大バカ者なのよ。

 魔法族からはそりゃあもう嫌われているわ。だから小さい頃から『レストレンジの腐れ蛇』って道を歩いていてもくそ爆弾を投げつけられたりね、いろいろあったの」

 

 ああ、とみんなは納得の表情を浮かべ、ロンを見た。ロンも、その頃にはやっとネズミショックから覚めていて、立ち上がると私に向かって頭を下げた。

 

「前にレストレンジの腐れ蛇って言ってごめん」

 

「謝罪は受け取るわ。ありがとう、ウィーズリー。こちらもスキャバーズのことは謝らなくてはね。でもまさか『あなたのペット、死喰い人ですから引き渡してもらえますか』って相談できないでしょう?」

 

 ウィーズリーはそれを聞いて笑った。どう考えても信じるわけがないと思ったのだ。

 

「お詫びと言っては何だけど、ペットをプレゼントしたいの。極悪人とはいえ、あなた達が大切なペットとして可愛がっていたネズミを奪ったわけだから。

 こちらで用意してもいいんだけど、ウィーズリーが自分で気に入った子を選んだ方がいいだろうから、夏にダイアゴン横丁に行って選んでちょうだい。イーロップふくろう百貨店と魔法動物ペットショップには言い置いておくから、どちらの店でもいいし、お店にいるどの生き物でもいいわ。あなたが一番好きな子を選んでね。あなたにとって素晴らしい出会いがあることを祈っているわ」

 

 ロン・ウィーズリーはほとんどが兄達のお古だから、自分でペットを選べたら嬉しいだろうと考えたのだ。案の定、とても喜んでくれた。夏になったら絶対に行く、と力強く宣言された。

 

 明るい表情を浮かべるウィーズリーを微笑ましく見ていると、ハリーがまた真面目な顔をして私に問いかけてきた。

 

「エリカ。君がヴォルデモートと戦うためにしていることは、教えてもらえない?」

 

「ええ。ここからはとても危険な話になるから。

 ハリー、貴方は“例のあの人”の敵だと誰もが認識している。あなたはすでに当事者なの。これからも否応なしに巻き込まれることになると思うわ。これ以上余分な危険を冒してほしくはないの」

 

「ハリーの命が掛かっているのに、どうしてダンブルドア校長に相談しないのかしら」

 

 黙っていられなくなってきたグレンジャーがするどく切り込んでくる。

 

「そうね。ダンブルドアはハリーを英雄に仕立てようとしているの。英雄ハリーに“例のあの人”を斃させようとしている。私達はハリーを普通の少年として守るべき存在と考えている。考え方が違うの」

 

「校長はハリーを守ってくれたわ」

 

「何から?」

 

「え?」

 

「校長が何からハリーを守ったのかしら。母親リリーと折り合いの悪い伯母夫婦に手紙ひとつで赤子だったハリーを預け、虐待されていることを知っていながらそのままにして、1年の時だってあなた達が危険に顔を突っ込むのをただ見てた」

 

「そんなことはないわ」

 

「ダンブルドアが本当に何も知らなかったと思っているの? ハグリッドがドラゴンの卵を孵したことだって当然知ってたわよ」

 

 ドラゴンの件を誰にも知られていないと思っていたみんなは緊張して跳び上がった。ハンナまで一緒に跳び上がったのには笑いそうになった。

 ちらりと彼女を見ると、私の思惑がわかったハンナがどぎまぎと友人達の顔を窺った。言いたいのに言えないジレンマが情報を漏らした後ろめたさに見えて、私の情報元だと白状しているようにしか見えなかった。ごめん。ハンナ。後で謝っておこう。

 

「グレンジャー、ホグワーツの防御について説明できるかしら?」

 

「もちろんよ。ホグワーツは鉄壁の結界で覆われ、何人たりとも……っ!」

 

 説明できるかと言われれば脊髄反射で記憶した情報を開示せずにはいられないグレンジャーが勢いよく話しだし、そして急に息を呑んだ。

 

「気付いた? そうよ。鉄壁の結界で覆われているの。深夜に箒で空から忍び込んできて、しかもドラゴンなんて魔力の塊みたいな危険生物を連れて素通りして出ていけるような、そんな甘い守りじゃないのよ。グリフィンドールがマイナス200点になったあの夜、結界は解かれていた。それはなぜ?」

 

「……ダンブルドアが、解いた?」

 

「そうよ。彼はあなた達の冒険を見守っていたの。ほけほけ笑いながら結界を解いたに違いないわ。そして『冒険に罰則は付き物じゃの』とか言いながらあなた達が先生に捕まって減点されるところを微笑まし気に見てたのよ、きっと」

 

 そう。箒で空から忍び込むなんて、本来ありえないのだ。そんな弱い防衛ならホグワーツはとっくに死喰い人に奪われていた。

 

 ダンブルドアがハグリッドのドラゴン騒ぎを知らなかったはずがない。

 どの時点で知ったのかはわからない。ドラゴンの卵を餌に秘密をほいほい垂れ流していた夜か、こっそり孵して育てようとしている挙動不審な動きで気付いたのか、そこはわからないけど。

 

 だけど、あの夜、ドラゴンをルーマニアのチャーリーのもとへ送り出すためには、守りの結界を解かなくてはいけなかった。

 そんなこと、ダンブルドアにしかできない。

 

 ダンブルドアはドラゴンを秘密裏に育てるという違法行為を黙って見ていた。

 当然、ドラゴンの卵をもたらした相手がクィレルだったことも、そのためにあの部屋の三頭犬の秘密が漏れただろうことも気付いて、そのままにしていた。

 

 ハリー達が介入しなければどこかの段階でダンブルドア自身がクィレルを斃して、ドラゴンも没収していただろうけど。

 

「だって……じゃあなぜ? 校長は『賢者の石』を守りたかったんじゃなかったの?」

 

「あのね。本気で守りたければダンブルドアが持っていればいいのよ。彼がローブのポケットに入れて持ち歩けばいったい誰が彼から奪えるって言うのよ。クィレル程度が手を出せるはずないわ」

 

「……あの部屋はなんだったのかしら」

 

「ハリーと仲間達が苦難を乗り越え、友情を築き、正義の為なら多少の校則破りや違法行為も犯し、危険を顧みず勇気を振り絞って敵と戦う。英雄になるための初級ステージだわ。

 そんなことにホグワーツの全生徒を巻き込んだのよ」

 

 1年生の生徒でもできる『鍵開けの呪文』ひとつで開く扉の中に、三頭犬がいたの。それがどれだけ危険なことかわかってる? そう続けるとグレンジャーは言い返せず黙り込んだ。

 私はみんなの顔を見回して、畳みかけるように語り掛けた。

 

「1年の最後の日。ハリー達の活躍によってグリフィンドールに大量の点数が入った。すごい逆転劇だったよね。あなた達は喜んでいたけど、あれってあの場で点数を入れる必要あった? 事件があったのは1週間も前よ? 加点ならもっと前にできたはず。わざわざスリザリンカラーに大広間を飾り立てて、スリザリンの優位を見せつけて、次の瞬間ひっくり返したの。

 凄い達成感だったでしょ? 『賢者の石』を守った僕たちは正しかった。勇気を持って敵と戦うことは素晴らしいんだって心に植え付けたの。

 言っておくけど敵は“例のあの人”よ。スリザリン寮の生徒じゃないわ。校長はあなた達に戦う意義と達成感を持たせるために、スリザリン寮をダシにしたの。“例のあの人”を撃退した喜びと、スリザリン寮を打ち負かした喜びを繋げてみせた。教育はある種の洗脳だわ」

 

 グレンジャーは黙り込んだ。きっと優秀な頭脳で目まぐるしくいろんなことを考えているのだろう。

 考えが纏まらないで複雑な表情をしている彼らに、私は少し言葉を柔らかくして、最後に言ってから立ち上がった。

 

「いろいろ言ってごめんなさい。まあちょっと違う立場の者が感じる想いも知ってほしいってことを言いたかっただけなの。できれば私達自身のことも見てほしい。私と親は別。私は“例のあの人”も死喰い人も敵だと認識しているの。それを『スリザリンだから、レストレンジだから』ってだけで頭ごなしに否定しないでほしい。ハリーやハンナとの友情も認めてほしいだけなの」

 

 長い時間、喋り続けたけど、これでハリーとはまたファーストネームで呼び合う仲になれたし、グレンジャーとウィーズリーとも一応の和解はできた。

 

 ……もっと拗れるかと思っていたロンとすんなり和解できたのにはちょっとほっとした。『超一流ミュージシャン』と“円”+『超一流パイロット』の合わせ技が凄すぎる。

 もしかしたら。今までのホグワーツでの私の態度を見ていて、ロンの中でも内心思うところがあったのかもしれない。だと嬉しい。ロンは頑なだけど、謝る時はちゃんと謝れる子だし。

 

 今後のシリウスの件についても、進展があればすぐに知らせると約束して、私達は友好的に挨拶を交わしてわかれた。

 

 

 

 

 

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