エリカ、転生。   作:gab

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3年-10 第三勢力の発足

1994年 4月 イースター休暇

 

 イースター休暇を利用して私はマルフォイ家へ向かった。

 

 

 私とルシウス叔父様、シリウスがテーブルについて話し出す。もちろん、ベペリには今回もスパイ除けをお願いしてある。

 

「シリウス。あなたの無罪が証明されて、本当に嬉しいです」

 

 2月に初めて会った頃よりは少し顔色の良くなったシリウスを見て微笑む。

 あの頃のシリウスは、ガリガリで死人のように顔色も悪く、精神的にも追いつめられて血走った目がぎょろついていて酷いありさまだった。

 

 今はすこし体調が戻ってきたようだ。やっとあのアズカバンの地獄から釈放された解放感と、親友夫婦の仇をとれた安堵と、もうすぐ名付け子のハリーに会える喜びに瞳を輝かせていた。

 

「君がワームテールを捕まえてくれたおかげだ。ありがとうエリカ」

 

「ええ、シリウス。早くお身体を回復させてくださいね。遠目にしか見れてないでしょうがハリーの外見は写真で見るジェームズ・ポッターそのものですよ。彼を見て喜びのあまり死んでしまいそうな顔色じゃありませんか」

 

「こんなもの数日もあればなんとかなる」

 

「だといいのですが」

 

 一通りの挨拶を終え、あらためて、私が何をしてきたかを話す。

 

「闇の帝王がポッター家を襲ったハロウィンの夜、なぜ、帝王は死なずに、煙のように消え失せたのか。それは分霊箱という不死のための闇の秘術のせいなんです」

 

 分霊箱について説明し、これがあれば帝王は死なないことを話す。

 私は子供の頃にその存在を知り、これがある限りヴォルデモートが蘇る未来があることを恐れた。それからずっと分霊箱を壊し、あいつを倒すことを目標としてきたことを話した。

 

 そして3つの分霊箱を集め、昨年、やっと壊したこと。分霊箱にはおそらくまだ残りがあるだろうということ。

 そしてルシウス叔父様も帝王から預けられていたものが分霊箱と知り、それを壊したのだと言及する。

 

「叔父様はうちの両親と同じように分霊箱をひとつ、保管するように言われて預かっていたんです。慎重なヴォルデモートはそれが分霊箱だなんて言ってません。だから叔父様はそれに気付かないまま、保管なさっていました。

 ですが、私の話を聞いて、叔父様もそれが分霊箱だとわかったのです。

 私の用意したゴブリンの剣で、みごと壊してみせ、闇の帝王との決別を決意なさいました。

 私達は4つの分霊箱の破壊に成功しました」

 

 

 それに、と私達の状況についても説明する。死喰い人の子供はとても立場が悪く、『腐れ蛇の子は腐れ蛇だ。拷問好きのイカレ女になる』とずっと言われてきたことを訴えた。

 

「私達が普通の13歳の子供だなんて、誰も信じてくれません。私は、私のことも助けてほしい。中庸な立場で周囲を納得させる後ろ盾が欲しいんです。だからシリウス。私があなたを助けたのは、私達の事も助けてほしいという打算もあったんです」

 

 ルシウス叔父様も、マルフォイ家存続のためにも、ドラコの健やかな未来のためにも帝王よりこちら側にいたほうがより安全で、より幸せな未来が掴めると判断したのだと言った。

 我が子の成長が楽しみで、彼の為にも正しくありたいと、そう考えているのだとルシウス叔父様の言葉にも力がこもる。

 

 

 そして私とルシウス叔父様は、シリウスにブラック家を継いでもらいたい、と願った。

 だがシリウスは首を横に振る。

 

「わたしはもうそんなつもりはない。ヴォルデモートを斃すための協力は惜しまないがブラック家を継ぐつもりはない。ただハリーの成長を見守りたいんだ」

 

「ハリーは“例のあの人”が生きている限り、決して平穏な生活は送れません」

 

「……」

 

「ハリーは“例のあの人”を打ち破った男の子だと魔法界の誰もが知っている。闇の帝王は死んだわけじゃありません。今、少しずつ力を取り戻しているんです。確実にハリーが狙われます。ハリーを守るには、あなたのブラック家としての力が必要なんです」

 

「ダンブルドアがいる」

 

「いいえ。前にも言いましたが、ダンブルドアはハリーを英雄にしようとしています。

 ハリーには平和に暮らしてほしい。でも例のあの人が生きている限り、奴は彼を狙い続ける。復活すればきっとハリーを殺す。

 ダンブルドアはハリーを英雄に育て、帝王を彼に討たせようとしている。

 そのどちらもだめです。

 ハリーを英雄へと導くダンブルドアとは違う形でハリーを守ろうとするなら、ダンブルドアや不死鳥の騎士団とも揉めるかもしれません。

 もちろん同じ敵を斃そうとしているんですから話し合える余地はありますが、それはこちらに力があってこそです。

 ハリーを守るには我々には力が足りません。

 

 シリウス。ハリーの為を思うならブラック家を継いでください。正統なブラック家当主として、ハリーを助けてください。貴方が正統なブラックの王になるんです。使えるはずの力を、自ら投げ出すなんてナンセンスです。

 魔法界の王たるブラック家当主なら、光の陣営も、闇の陣営も、どちらからも従うものが出てくるはずです」

 

 シリウスは長い時間、じっと黙って座っていた。

 そして、ひとこと、こう言った。

 

「わたしは、もう、ブラックでいたくはない」

 

 ああ。

 シリウスはまだ思春期の反抗心のままでいる。

 この人は12年間、アズカバンで後悔と憎しみだけを思い続けてきた。

 彼の時間は止まったままだ。

 

 ……しかたない。もう少し落ち着いてから話すつもりだったのだけど。

 

「シリウス……私の話を聞いてください。あなたには知ってもらいたいことがあります。

 レギュラスのこと。クリーチャーのこと。それからヴァルブルガおばあ様のことを」

 

 私はシリウスにレギュラスの日記を見せた。

 

「これは?」

 

 シリウスは訝し気に日記を見下ろす。そして《R・A・B》の文字を見て『レギュラス?』と呟いた。

 

「子供の頃から我が家にありました」

 

「レストレンジに?」

 

「ええ。なぜこれが私のもとにあったのか、それはわかりません。5歳になる少し前にこれの存在に気が付いたんです」

 

 日記を開くことができなかったし、そもそも文字も少ししか読めなかったけど、これが大切なものだということは漠然とわかっていた。だからそのまま持っていた。

 5歳の時、本家へ行って、レギュラスの部屋の扉に書かれた《R・A・B》の文字を見て持っていた本がレギュラスの日記だと知ったこと。クリーチャーに日記の開き方を聞いたことなど、順を追って話した。

 

「レギュラスが……ああ、レギュラス。レジー。レジー。俺がレジーをここまで追いつめて……ああ」

 

 シリウスは日記を読み、泣き崩れた。

 とくに日記のパスワードが『シリウス』だったことにレギュラスの愛を感じ、自分本位で弟の立場を考えていなかった若き日の自分を恥じて泣いた。

 

「ここに書かれているロケットは?」

 

「ええ、私が壊しました。クリーチャーが壊せと命じられたものの、どうやっても壊せなかったと嘆いていたんです。私は、大きくなったらがんばって強くなってクリーチャーの代わりに壊すと約束しました」

 

 私は巾着から魔力遮断布に包まれたものをひとつ取り出した。

 テーブルに置いたそれをそっと開くと、中から『スリザリンのロケット』が現れた。

 

 どす黒く変色し、見る影もなく歪んだロケットは、くっきりと剣に刺し貫かれた傷跡がある。そこからまるで血が流れたかのような黒い染みが伝っている。

 闇の魔法具特有の妖しい気配はもうないけど、ちょっと素手で触ることを躊躇するくらいの汚い黒だ。

 

 おぞましい姿に、シリウスが顔を歪めた。

 

「分霊箱は通常ひとつしかつくりません。レギュラスは命と引き換えに、そのたったひとつの切り札を奪い取ったと信じて逝きました。ですが」

 

 私はまた巾着からふたつの魔力遮断布の包みを取り出す。ロケットと並べて開いてみせた。

 『ハッフルパフのカップ』と『レイブンクローの髪飾り』が、同じように剣に刺された傷跡から黒い染みを垂らしたおぞましい姿をさらした。

 ルシウス叔父様も執務机から『トム・リドルの日記』を取り出して並べて見せた。

 

「分霊箱はひとつじゃなかった。レギュラスは命がけで帝王から奪ったけど。そして、あの時の状況では、命と引き換えでなくてはどうしようもなかったのかもしれないけど。

 レストレンジの金庫でこのカップを見つけた時の私の衝撃が、わかりますか」

 

 ここでやめればレギュラスは犬死です。そう呟くとシリウスが震える手でロケットを握りしめた。

 

 成長して日記を読み、分霊箱の存在を知り、それがある限り私に幸福は訪れないと覚ったんです。なんとしてもすべての分霊箱を探しだして壊す。そして帝王を斃す。その思いが私の原動力となったのだと私は語った。

 そして。

 

「シリウス。レギュラスはクリーチャーをとても大事に思ってました。どうかクリーチャーをシリウスも大切にしてあげてください。クリーチャーはレギュラスの代わりに分霊箱を壊すため頑張ってたんですよ」

 

 

 それから、両親がどれほどシリウスを愛していたかも話す。

 

「シリウス。よく聞いてください。

 ブラック本家は先代が亡くなると嫡子に引き継がれる。正統な順位に従って相続されていきます。当然、家系図から抹消された者はその順位には含まれません。本来なら、家系図から抹消されたあなたが受け取れるはずはないんです。

 ヴァルブルガおばあ様は家系図から貴方の名前を消した。でも表面上だけです。財産の継承権をはく奪したわけじゃない。

 

 今、本家の屋敷にはブラック家の親族しか入れません。シリウス、あなたは入れるんです。同じように家系図から消されたアンドロメダ叔母様は入れませんよ。

 

 ヴァルブルガおばあさまは、ご自分の死に際していくつかのものを遺産として親しい方々に残してらっしゃる。私も指輪と資金を頂きました。

 きちんと遺産分与の処理をなさってから亡くなったんです。

 

 ですが、ブラック本家の資産はそれだけじゃありません。グリンゴッツの奥深くに残されたいくつもの金庫や、グリモールド・プレイスにある本家の屋敷、たくさんの別荘、領地や荘園その他は“誰それへ”という指定もなく残されているんです。

 ブラック家の当主の座もあいたままです。

 

 あなたのためです。誰のものでもない宙ぶらりんになった資産は、すべてシリウス・ブラック、貴方に、貴方のために残したものです。

 

 ヴァルブルガおばあ様は、あなたを愛していた。だけど、主義の違いがそれを表に出すことを許さなかった。表に出せなかったから、こんな形で残したんです。ちゃんと愛してたんです。ヴァルブルガおばあ様のあなたへの想いを、どうか酌んでさしあげてください」

 

 シリウスはロケットを置くとレギュラスの日記を手に、黙って部屋を出ていった。

 

 意地っ張りのシリウスにいきなりいろいろ詰め込んでしまったか。

 独りでゆっくり考えて欲しい。

 

 

 

 

 

 

 翌日、客室から出てきたシリウスは、一言だけ言葉を発した。

 

「グリモールド・プレイスに、行ってこようと思う」

 

 シリウスは独りで出掛けて行った。

 

 肖像画のおばあ様やクリーチャーとどんな話し合いをしたのか、それはわからない。

 夕方戻ってきたシリウスは、憑き物が落ちたようなしっかりした顔つきをしていた。

 

「エリカ、心配をかけてすまなかった。私はブラック家の当主として立つことにした。ルシウス、君にも支えてもらいたい」

 

「素晴らしい決断だ、シリウス。マルフォイ家はあなたを王と仰ぎましょうぞ」

 

 ルシウスの頼りがいのある言葉に、シリウスはにやりと笑った。

 

 

 レギュラスの日記は「これはエリカが持っていて欲しい」と私に返された。手に戻ってきた日記を撫でる。手に馴染む表紙のドラゴンを見て「おかえりレジー」とそっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ハリーを引き取りたいというシリウスに、その前にダーズリー家にはある程度の金額を払う必要があるだろうと説明した。

 

「ハリーを虐待した奴らに金を払えというのか!」

 

 シリウスが激昂して叫ぶ。

 

「シリウス。彼らは手紙一枚でいきなり1歳の子を預けられ、それから12年間、一クヌートの援助もなく彼を育てたんです。

 今までの虐待は決して許せはしない。ハリーが彼らを憎むなら、それは当たり前の感情です。

 

 でも。同じ年頃の赤子がいるマグルの家に、魔法使いの幼児がいきなり来たらそりゃあ大変です。小さい頃はみんな魔力暴走で家中をめちゃくちゃにするのが普通なんですから。

 シリウスの部屋でリリー・ポッターの手紙を見せてもらいました。ハリーは1歳で箒に乗っていたんです。もう魔力が発現していたんですよ。ちょっとぐずるだけで部屋中をめちゃくちゃにしたでしょう。

 魔法使いなら“レパロ”の一言で直るものも、マグルじゃ全部買い替えです。費用がとても嵩んだと思います。飛び回る食器や割れた家具は凶器になりえるし、きっと赤ん坊に危険なこともいっぱいあったんじゃないでしょうか。

 ダドリーのあの過保護な育て方はそれが原因のひとつになっていると思います。

 今までの修理費や精神的ストレスに対する慰謝料、滞納していた養育費の割り増しも含めて、しっかり支払うものを支払いましょう。

 マグルの法律に詳しい弁護士を、ルシウス叔父様なら伝手がおありになりますよね? 叔父様。……ね、なら大丈夫です、シリウス。

 支払いさえ済ませればこちらの過失はゼロです。ハリーがどうしても許せないとなったらそのあと向こうの非を問うこともできますし」

 

 今まで何もできなかったのに、今さら虐待容疑で罪に問えるかというとそれは疑問だ。魔法的なもろもろで隠していたのかもしれないし。

 わざわざ喧嘩してやるほどの値打ちもない。

 

 じつのところ、ペチュニアはきっとずっと後悔の想いに苛まれているしさ。こっちがわざわざ罰を与える必要もないって思うんだ。

 

 それにハリーの守りのために毎年ダーズリー家へ戻らなくてはいけない。きっとダンブルドアがそう言うと思う。今の私が知っていてはおかしい情報だから言えないけど。

 だからその時にハリーが少しでも快適に過ごせるように、彼らとの金銭的な問題だけでも解決しておくべきだと思うんだ。

 まあどうせ2ヶ月丸々あそこにいる必要はない。原作でも8月はほとんどウィーズリー家にいたものね。学校から『ただいま』とダーズリー家に帰り、ひと月あの家で過ごして『行ってきます』と言ってでていく。それでいいなら向こうからの干渉を拒否できるだけの金銭を渡してホテル扱いすればいいわけだし。

 

 

 

 シリウスが苦り切った表情でそれを認め、ルシウス叔父様が早急に弁護士を用意すると請け合った。

 適切な金額が決まれば、弁護士に一任してダーズリー家に行ってもらうということでシリウスも納得し、ついで、話題は分霊箱へと変わった。

 

 

「今、私達は分霊箱の残りを探し出そうとしています。分霊箱はそう何度もできる秘術じゃありません。あってあとふたつかみっつが限度でしょう。残りの数は定かじゃありませんが、まずすべてを見つけ出し、破壊しなければなりません。そして、その後、二度と復活しないよう帝王を斃す」

 

「残りの分霊箱についてはまだわかっていない」

 

 ルシウス叔父様がゴーント家に一つ隠されている事は確実だが入るための“鍵”がわからずそのままにしてあることを話した。場所は特定しているのだから、他の分霊箱探しやそれ以外の用件に手をつけているのだと説明する。

 

 万が一分霊箱の残りがあった場合、また12年前のように煙のように消え失せることになる。その際、悪霊のようなその状態でも封じ込める術を探すことも必要となる。

 

 私達の説明に、シリウスも深く頷いた。

 

「なるほど。本体を封じれるならそれでもいい。それも探すべきだ。我がブラック家は闇の魔術に長けた一族だ。闇の魔術に関する書物も多く所蔵している。きっと参考になる文献を見つけてみせる」

 

「ありがとうございます。ただし、お二人とも肖像画に注意してくださいね。ご先祖様の中には死喰い人側の人もいます。ダンブルドア側のものも。敵に私達が分霊箱を知っていること、それを壊していることを知られてはだめですから」

 

「無論だ」

 

「気を付けよう」

 

「シリウスは閉心術はできますよね?」

 

「もちろんだ」

 

「ハリーも閉心術を覚えてもらわなくちゃいけませんね。ドラコ達も最近練習を始めました。

 私達は死喰い人の敵になりました。いきなり表立って対立してはこないでしょうが、いずれはスリザリン寮も危険になるかもしれません」

 

 閉心術は必須だろう。特に、スリザリン寮の私やドラコと仲のいい姿を見せればダンブルドアが警戒するかもしれない。それにハリーは傷痕を通してお辞儀様と繋がっている。奴に情報が流れることは避けなくては。

 

 ヴォルデモートはハリーを敵視している。万が一復活してしまえば、ハリーの身が危ない。

 

 

 

 シリウスが、自分も早急に理事になると言う。そうすると理由をつけてホグワーツに通いやすくなる。そこまでハリーに会いたいのか。

 シリウスが理事になってくれると学校内の事に関しての発言力があがるから歓迎するとルシウス叔父様が言い、私も深く頷いた。

 

 

 

 

 それから、もうここまで事態がすすめば、他の死喰い人にルシウス叔父様がヴォルデモートに反旗を翻したことが知られてしまう。身の安全にはじゅうぶん注意してほしいと頼んだ。

 

 お辞儀様の復活を阻止し、二度と復活できないよう完全に斃すことができさえすれば、元死喰い人の中にもそのまま大人しくなるものが多いと思う。隠れてこっそりマグルを襲うような奴はきっといるだろうけどね。

 

 怖いのは狂信者たちだ。

 帝王を裏切って殺したルシウス・マルフォイを憎み、復讐しようと考える。うちの両親やクラウチ・ジュニアなどだ。クラウチ・ジュニアが脱獄していることを知っているなんて話せないから、彼らに注意を促せないのが辛い。

 

 屋敷の防犯体制も設定を変える必要がある。入れる者の制限も必要だ。

 それにレストレンジ家も危険。死喰い人が出入りできるかもしれないのだから。私が設定を変えても上位の命令権を持っているレストレンジ夫婦が脱獄してきたらすぐ変わってしまう。

 

 たとえ今すぐ私が当主となっても、前当主時代に指定した設定を覆せないのだ。今の私は中途半端に代理人の立場を持っているけど私が触れるのは金庫の中くらい。前当主を排除できる決定権は成人まで待たなくてはならない。

 レストレンジの暖炉とは閉じておき、必要な時にだけこちらから梟か鏡で連絡するからその時に繋ぐようにしましょうと打ち合わせた。

 

「叔父様。万が一帝王が復活すれば。きっとうちの両親もアズカバンから出てきます。そうなればレストレンジの持つ危険な闇の魔法具が死喰い人のものとなります。最悪を想定して、今のうちに回収しておきたいんです。ロニーが集められるものは頼むつもりです」

 

「ふむ。別荘の隠し金庫の中に仕舞ったものはロニーでは手が出せぬな。今はエリカが当主代行となっているからエリカであれば取り出せよう」

 

 私が小さい頃は叔父様が代わりにしてくれていたから、叔父様ならそう言ったものがどこに隠されているのかを知っている。んで、今は叔父様には別荘に入る資格がなく、私はどこにあるか知らない。

 私が叔父様を連れていけば取り出せるってことだね。

 

「夏になればレストレンジの別荘に行こう。それからベラとロドルファスの私室も。これはシシーにも同席してもらうべきだな」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 レストレンジ家の書籍や魔法具はできるだけ持ち出すつもりだ。そこにハリーの分霊箱を安全に壊す方法があるかもしれない。何か役に立つ技術があるかもしれない。それに奴らに使わせないためにもあの場所から持ち出す必要がある。

 

 

 ベペリにも『ベラトリックスはマルフォイ家と私を害そうとしている。次期ブラック分家当主とその家族の命を揺るがせる者だから決してベラトリックスやその夫の命令は聞いてはいけないし、“服従の呪文”の危険があるため呼びかけにも決して応じてはいけない。名を呼ばれればすぐそれを報告すること。それから彼らの命令を聞かなかったことで自分を罰することは固く禁じます』と言い含めておいた。ポラリス・マナーにいるマーネィも呼び出して同じ命令をしておく。

 ベペリ達はブラック分家のしもべ妖精だからベラトリックスも主の一人なのだ。でも彼らも私達とベラトリックスなら当然私達への忠誠心の方が強いため、この命令はしっかり彼らの精神に受け入れられた。

 

 

 それから、私はルシウス叔父様を見つめる。

 

「ルシウス叔父様。ヴィンスもグレッグもセオも、大切な友人なんです。私もドラコも、彼らと友人でいたい。ヴィンス達は『あんなへぼ親でも見捨てられないからしっかり仲間に引き入れてほしい』って……」

 

「私が何とか説得しよう。奴らは俗物で乱暴者だが小物で流されやすい。こちらの優位性を説けば敵対は無意味だと覚るだろう。彼らの手綱は私がしっかり握っておこう。なに、いくらでも脅しようはある。

 私も腹をくくった。元死喰い人の切り崩しも私の仕事だろう」

 

 ルシウスが厳かに決意表明をした。子を思う父親の顔だった。ちょっとどきんとするほどかっこよかった。ドラコパパのカッコよさを改めて感じたよ、うん。

 

 

 

 

 4年次のことはまた改めて考えよう。

 ピーター・ペティグリューはアズカバンに収監された。ネズミの動物もどきだとわかっているんだから、小さくなっても逃げ出せないようにちゃんと管理するだろう。奴の脱獄はない。……と言い切れないのが魔法界の杜撰さなんだけど。

 まあ、奴が脱獄しなければ4年の事件は起きない。あれは彼がキーなんだから。

 

 そうなるとお辞儀様はアルバニアから動けない。

 霞状態のお辞儀様を封じ込める方法が見つかれば、アルバニアまで襲撃にいけばいい。

 ワームテールはアルバニアの森でネズミに聞いたらしい。なら犬のシリウスでも同じことができるだろう。パーセルマウスの私も蛇相手なら聞けるし。って、それはまあ内緒だけど。

 

 

 それから、ハリーが分霊箱になっていることも早く彼らに説明したい。今は話しようがないけど。でも彼らならハリーからお辞儀様を引っぺがす方法を見つけてくれるんじゃないかと期待しているんだ。

 

 

 

 

 

 

 暖炉を通り、レストレンジ家に戻る。すぐに暖炉を閉じた。これでここには暖炉を通って誰も入ってこれない。

 いつものようにロニーが迎えてくれた。

 

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 

「ただいま、ロニー」

 

 リビングのソファに座り、紅茶を入れてくれたロニーに礼を言うと、彼女に話しかけた。

 

「あのね、ロニー。レストレンジ家のこの屋敷と、別荘やほかの所有地にある書籍類をすべて集めて置いてほしいの。夏に帰ってくる時に受け取るわ。禁書や闇の魔法書も全部欲しいの。全部よ」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

「魔法具も全部出しておいてくれるかしら。あるだけ集めて。便利なものや珍しいもの。それからあの両親が悪い事に使いそうなものもね」

 

「……かしこまりました」

 

 お辞儀様が復活しなければ両親の脱獄はないだろう。でも準備はしておくべきだよね。夏休みにはここを片付けて“木漏れ日の家”に拠点を変えよう。

 ロニーは……連れていくわけにいかない。でも離れたくない。

 

 これも考えなきゃだな。

 

 

 

 

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