エリカ、転生。   作:gab

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3年-11 取り戻せた日常

 

1994年 4月

 

 授業はどんどん難しくなり、期末試験に向けて課題は恐ろしいほど大量に出される。

 ドラコ達は時間を取られすぎていて、なかなか思うように閉心術のレッスンが進んでいないようだった。頑張れとお尻を叩くと、「エリカがほんとにできるのか見せてみろよ」と言うから彼らの前で鏡に向かい、ぴったりと心を閉じ、まったく鏡に映る私の姿が変わらないところを見せてあげた。(私が心の階層を作れるところまで進んでいることは内緒なのだ)

 

 ドヤ顔をしてみせると、うくぅと悔し気に唸った。私が練習の手伝いをしてもいいけど、私に見られるわよ? いいの? 好きな女の子とか、気になるあの子とか、いないわけ? と言うと、とたんに「もう少し3人で頑張る」と男子達が団結を見せた。ふっ、若いな。

 

 ドラコは私が調教したおかげで精神的に成長して女性の趣味が変わったのか、原作でこの時期付き合っていたきゃんきゃんと元気なパンジーよりも、大人しく清楚なダフネと良い感じになりかけている。

 ヴィンスとグレッグは快活でスポーツマンで純血、とてもモテている。家柄がそれほど高くないため、間口が広そうに見えるのか、中流貴族家のレディ達の中にも本気で狙いを定めている子が多いらしい。

 そりゃあ女子には見られたくない記憶が多いよね。青少年。

 

 

 

 私は……18歳だった記憶が同年代を子供に見せるため恋愛感情がわかず、そのうえ、両親とヴォルデモートのことを考えるとすっかり性的なことに悪感情しか生まれなくなっていて。

 今世はいわゆる『オールタイム賢者タイム状態』とでも言えばいいのか。恋愛ってなんだっけ? という仙人めいた精神状態だから、きっとこの世界では私は恋愛は無理だと思う。

 

 万が一お辞儀様の娘だという話が広がると、我が子に辛い人生を背負わせることになる。子供もパーセルマウスになるかもしれないしね。そうなればきっとすごく嫌な思いをするだろう。

 

 それに私には安易に漏らせない秘密が多すぎるし。

 

 だから絶対結婚しないつもり。

 私の両親から受け継いだハリポタ界随一であろう超優秀な遺伝子は、残さない。

 

 貴族家は婚姻で血を繋いでいくことが義務なんだけど。そこは納得してくれるよう説得するつもりだ。

 いずれパーセルマウスであることを叔父様方には話さなくてはいけないかもしれない。そうすれば私の血はとんでもない厄ネタだとわかってくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 グリフィンドール対ハッフルパフ戦が行われた。今季最後の試合だ。現在トップはスリザリンで、それに打ち勝とうとするならグリフィンドールはハッフルパフに280点の点数差をつけて勝たなくてはいけない。スニッチを掴めば150点だから、スニッチを掴むまでにハッフルパフを130点引き離さなくてはいけない。かなり厳しい条件だ。

 

 そして観客席には、やっと体調が戻ったシリウス・ブラックが名付け子の雄姿を見ようとルシウス・マルフォイに付き添われてやってきていた。

 

 シリウスは前の試合もこっそり犬の姿で観ていたけど、ハリーがシーカーなことにものすごく喜んでいた。さすがはジェームズの子だ、と今日も興奮の面持ちで座席に座っている。

 

 シリウスはちゃんとした仕立てのローブを着ていて、こうやって姿勢よく座る姿には気品があり、育ちの良さがよくわかる。12年間のアズカバン生活で年齢にあった私服がまったくなかったから、シシー叔母様が嬉々として選んだらしい。上品ななかにもシリウスらしさを失っていない抜群のデザインだった。

 

 試合はグリフィンドールの選手が頑張っていたけど、ハッフルパフの追い上げも厳しく、ぎりぎりの戦いだった。

 120対60でグリフィンドールが勝ち進んでいる時、セドリック・ディゴリーがスニッチを見つけた。いきなり急降下を始めたセドリックにハリーが追いすがる。地面すれすれで急上昇しながらカーヴを描いて横に逸れるスニッチを追い、二人ともギリギリのところで地面への激突を免れた。耳に痛いほどの悲鳴があがった。

 

 激しい攻防が繰り広げられる。ここで掴んでも優勝はできないが、セドリックに取られて試合に負けることも許せない。

 ハッフルパフを応援する者はそのままセドリックがスニッチを捕まえて勝つことを祈り、グリフィンドールを応援している者はスニッチが無事セドリックの手から逃げきってくれることを祈っていた。

 

 でもハッフルパフの星セドリックがこの機会を逃すわけがない。彼はスニッチを見失うことなく距離を縮めていく。

 セドリックの手がスニッチに届くほんの数瞬前にファイアボルトの抜群の加速力を活かしたハリーが追い上げ、スニッチを掴み取った。

 

 爆発のような歓声が広がった。シリウスも雄叫びをあげた。優勝は逃したが、素晴らしい試合だった。とくにシーカー二人の箒捌きは見事というしかない。私は感心のため息をもらした。

 

 

 今年も優勝杯を手にしたスリザリンもグリフィンドールとハッフルパフの素晴らしい試合に大いに拍手を送った。……スリザリンの拍手はあまり歓迎されていないようだったけど。

 

 

 

 

 試合後、ハリーとシリウスが初めて対面を果たした。

 ガチガチに緊張したシリウスとハリーは、強張った表情に歓喜の想いを滲ませて見つめあう。

 

「やあ、赤ん坊の頃には会っているし、今年は何度もこっそり君を見ていたんだが初めましてと言わせてもらおう。シリウス・ブラックだ。ハリー・ポッターだね」

 

「初めまして、ハリー・ポッターです。シリウスさん」

 

「シリウスと呼んでくれ。ハリーと呼んでも? ありがとう。……ああ、ほんとうにジェームズそっくりだ。やっと会えた。どれほどこの時を待ち望んだことか」

 

「あ、あの。エリカから聞きました。えっと。シリウスさん……シリウスが、僕のお父さんの親友で、それで」

 

「そうさ。わたしとジェームズはまさに魂の双子だった。ジェームズとふたりなら何だってできた。なんにでもなれた。わたしは……わたしは、もっと……彼といたかった」

 

 シリウスはハリーに恐る恐る手を伸ばし、彼の手を握りしめた。

 

「ハリー。君はわたしの名付け子だ。これからは、できれば、君がもしよければ、わたしと一緒に、ちょっとでも君が、あー、わたしと暮らしてもかまわないと思うなら」

 

「住みたい! 僕、シリウスと暮らしたい! シリウスと一緒にいたいんだ」

 

「ハリー!」

 

 どうやら、ふたりの想いは通じ合ったみたいだ。よかったよかった。

 

 シリウスはハリーのクィディッチの技術の高さをとても喜んだ。まるでジェームズがあの頃のまま現れたかと思ったと興奮のままハリーの腕を大いに褒め、ハリーの持つ箒に視線を向けると「実はファイアボルトを贈ったのはわたしだ」と告白した。

 

 箒の注文を代わりにしてくれたり、ワームテールを捕まえるために手伝ってくれたクルックシャンクスの事にも言及し、そのことでハーマイオニーとロンの仲がぎくしゃくしたのではと気遣い、ワームテールを奪ったことをロンに謝罪したりと、ハリーの友人達とも和やかに話していた。

 

 もっと話したいと二人とも考えていたけど、グリフィンドールはこれからパーティだし、また今度時間を取って会いにくるとシリウスが約束し、その日の二人の邂逅はあっという間に終わってしまった。

 シリウスは、時々振り返って大きく手を振り、他の選手や友人達と共に跳ねるような足取りで去っていくハリーの後ろ姿を嬉し気にずっと見つめていた。

 

 

 

 シリウスはルーピン先生とも再会をはたした。お互いじっと見つめあった後、万感の思いを込めて抱き合っていた。

 シリウスは12年前、狼人間と付き合っているルーピンを怪しんでいた。

 ルーピンはシリウスがジェームズ達を殺したと本気で信じていた。

 お互い、「信じられず、すまなかった」と言い合っていた。

 親友はふたりだけになってしまったけど、彼らの友情がまた復活したことは喜ばしいことだ。

 

 

 ちなみに、シリウスとスネイプ先生が顔を合わせた瞬間、両者は睨みあった。相手への憎しみで魔力を噴き上げるほどだった。お互い、唇を歪め、まなじりを吊り上げ、額に薄っすら青筋を浮かべている。

 

「お前のような者が教授とはな、スニベルス」

 

「これはこれは誰かと思えば、友に裏切られてアズカバンに12年も籠っていたブラックの若様ではありませんか。さすが、よほどご立派な友情を育んだと見える」

 

 身構え睨みつけ、魔力を練り上げて杖に手を添えた二人が睨みあう。

 

「お二人とも! 生徒の前でいい加減になさいませ!」

 

 マクゴナガル先生が悲鳴のような叱り声をあげたことでにらみ合いは終わった。シリウスともスネイプ先生とも仲の良いルシウス叔父様が両者を取りなそうとしている。スネイプ先生が肩を怒らせて競技場を去っていった。

 あの二人の間に入るのはかなり辛いよね。ルシウス叔父様頑張ってほしい。

 

 

 

 

 シリウスはブラック本家の相続の処理を済ませ、正式にブラック当主として起った。貴族家からの梟も多数行きかうようになり、ブラック家のかつての権勢を取り戻しつつある。

 

 魔法省はシリウス・ブラックには冤罪で12年間アズカバンに入れたという多大な借りがある。それも利用して影響力を持つ数人の役人と顔を繋ぎ、然るべき処へ金を使い、魔法省でのブラック家、マルフォイ家の発言力も高めていくつもりだ。

 

 

 

 

1994年 5月

 

 『必要の部屋』での動物もどきの訓練は、無機物から無機物への変身術はじゅうぶん熟せるようになった。刺繍糸を使って繊細な風景画の刺繍を魔法だけで描きあげることもできるし、大幅なサイズ差のある変身――コップを机に、とか、キャビネットを眼鏡に、など――も、うまくできるようになった。

 

 数回こなしていくと、次に『必要の部屋』に入った時、部屋にケージが置かれていて、教材としてラットとウサギが入っていた。この子達を使っての実技の練習が始まるらしい。

 

 生物を無機物に変える変身術は1年次から習っている。基礎はじゅうぶん理解できている。

 あとは人を小動物の大きさまで変化させるために骨や筋肉のつき方をどう変化させていくか、という生物から生物への変身術と解除術をしっかり覚えていく。

 特に、変化の失敗で声を出せない、あるいは杖を振るえない場合の無詠唱での解除術は必須だ。

 

 参考文献も多い。これをすべて理解しなくては、自分が動物に変わるなんてまだまだ先だ。でも少しずつ上達しているのが自分でもわかってとても楽しい。

 

 

 

 

 

 

 シリウスとハリーがダンブルドアに呼ばれたらしく、シリウスが学校へ来ていた。心配だから、あとで話を聞かせてほしいと言っておいた。

 おそらく夏にダーズリー家に帰れって話をされるんだろう。ハリーが傷つかなければいいんだけど……

 

 数時間後、私は二人に呼び出された。空き教室を借りて三人で話をする。

 部屋に入った二人は、死の申告を受けたかのように悲しみに打ちひしがれていた。

 

「いったいどうしたって言うんですか? ダンブルドア校長に何を言われたんです?」

 

「エリカ。僕……僕、ダーズリー家に帰らなきゃいけないって。それで……」

 

 青ざめた表情で今にも泣きそうなハリーがそこまで話すと喉を詰まらせた。

 シリウスはハリーの肩を抱きしめながら、ダンブルドアから聞いた話を教えてくれた。

 

 ハリーがシリウスと暮らすことは構わないが、夏休みは少なくとも7月の間はダーズリー家へ戻らなくてはならないと言われたそうだ。

 

 ハリーには母親リリー・ポッターが命を削ってかけた“守り”がある。その守りがハリーの命を救ったのだ。

 ダンブルドアは『リリー・ポッターの血族の家を我が家とする』ことでその守りを強固にした。ダーズリー家を我が家だと認識している間、ハリーはヴォルデモートの攻撃から守られている。これはハリーが満17歳になるまで続く。

 だからこれからも成人を迎えるその日まで、毎年ダーズリー家に戻る必要がある。と。

 

 うん。原作通りの説明だね。

 

 ダーズリー家との交渉のためにルシウス叔父様が手配した弁護士は、マグル生まれでスリザリン寮の卒業生らしい。魔法界とマグル界のやり取りはマグル生まれの方がずっと折衝がうまいため、こういう時に世話になることが多いのだとか。

 

 ダーズリー家に行き、『名付け親が無実の罪で投獄されていたせいで支払いが遅れていたが、無事冤罪を晴らした。今までの養育費と延滞金、慰謝料も含めた金額を支払う用意がある。ただし、ハリーの虐待について証言がいくつか寄せられているため、その件についても後程話をさせてもらう。ハリーはこちらに引き取る』という話をしてきたと報告を受けた。

 ダーズリーはまとまった金額が支払われることに喜び、虐待で訴えられるかもしれないことに怯え、名付け親は魔法界の王と呼ばれる実力者だと聞いて肝を冷やしていたらしい。

 

 そう言った話が進んでいるところだったのに、やっぱり毎年ひと月はそちらで面倒見ろというのはまたややこしい話になりそうだ。

 

 私はせっかく一緒に住めると思っていたのにそれを止められてしまったショックを隠せないシリウスとハリーを精一杯慰めた。

 

「シリウス、ハリー。そう悲しまないで。校長は7月っておっしゃったんですよね?

 弁護士を通じてダーズリー家に話をつけてもらいましょう。費用を支払うから毎年7月いっぱいまではハリーを受け入れてくれって。今までの虐待の話もしてしっかり脅かしておけばあちらは従うでしょう。

 無理に仲良くしなくてもいいんです。ハリーが『ただいま』と言って帰り、5週間後『行ってきます』と言って出ていく。それまでの間、そっとしておいてくれればいい。それだけで成人までハリーは守られるんです。家にいるのが嫌なら昼間は出掛けてもいい。

 ただ、ハリーが我が家と認識して数週間過ごせればそれでいいんですから。

 ハリーの部屋には、フクロウが頻繁に行き来しても近所のマグル達に不審がられないようあらかじめ窓付近に『惑わし』の魔法もかけておくべきですね。そうすれば毎日だって手紙を送りあえますもの」

 

「そんなことでハリーがあそこを家だと思えるのか?」

 

「何言ってるんです。今までだって虐待されてたんですよ? ハリーと彼らの間に家族の語らいがあったと思いますか? 会話は罵倒と嫌味と命令。心の休まる時なんてあったはずがありません。それでも今まで『守り』は効いていた。本当に家だと思ってたわけじゃないでしょう? ハリー」

 

 ハリーも頷いた。あそこにしかいる場所がなかったから住んでいただけで、今までだってあそこを我が家だなんて思ったことはなかった。彼の目がそう言っていた。

 それでも『守り』が効いているなら、大丈夫だろう。

 

 7月いっぱいなら8月1日の朝にはすぐに迎えに行きましょう。ハリーの一日遅れの誕生日会をして、みんなで盛大に祝いましょう。と言うと二人も少し落ち着いた。

 

 少し生き返った二人が挨拶を交わし、シリウスは帰っていった。マルフォイ・マナーに戻ればすぐにでもルシウス叔父様に相談するだろう。

 

 

 

 

 

 あとで思い付き、シリウスに手紙を送った。

 私とドラコが持っているトランクの話をし、箒で飛び回れる広さの訓練室も備えたトランクを、ひと月早いプレゼントとして夏休みの最初にハリーに贈るのはどうか、と提案してみた。

 休暇中魔法は禁止だけど、箒なら乗り放題だ。トランクの中であれば誰の目も気にせず飛び回れる。

 

 ダーズリー家に押し込められ5週間も過ごさなくてはいけないハリーが、少しでも快適になればいいのだけど。

 

 

 

 

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