エリカ、転生。   作:gab

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夏休み ロニー

 

 

1994年 7月 第1週

 

 ワームテールが脱獄した以上、原作どおりの事件が今年起きるだろうと考えられる。

 

 4年の終わり、ヴォルデモートは復活する。

 私はそれを阻止したいと考えているのだけど、うまく進められなければ奴は復活してしまうだろう。阻止できるか失敗するか、とにかく、どちらにしても戦いになる。

 

 その報せが届けばうちの両親が脱獄するような流れもあるかもしれない。

 アズカバンはそう簡単に脱獄できるような場所じゃないんだけど、やっぱり前例があるとね、心配だし、私物を片付けて屋敷から私の痕跡をすべて消し去っておこうと考えている。私は“木漏れ日の家”に住居を移す。

 

 ついでに、どうせなら奴らに使われないよう書籍類や魔法具も全部回収して行こうと、ロニーにイースター休暇の際に頼んでおいたのだ。

 

 ルシウス叔父様とシシー叔母様にも来ていただいて、危険な魔法具を整理するつもりなのだけど、その前に、しっかりロニーと話しておかなくてはいけない。

 

「ロニー」

 

 私は居間のソファに腰かけてロニーを呼ぶ。バチンと音をさせてしもべ妖精が現れた。

 

「ロニー。聞いて」

 

「どうなさったのですか? お嬢様」

 

 ロニーはソファに腰を落ち着けた私の斜め横からそっと私を見上げた。座った状態ですら見下ろせる小さなロニー。それでも彼女は私にとって『小さなメリーさん』。彼女の存在にどれだけ救われたか。

 

「私はね。闇の帝王の敵になったの。つまりね。ロドルファス・レストレンジとベラトリックス・レストレンジの敵。もう、この屋敷には住めないの」

 

 最近の私の不審な行動をロニーもじゅうぶん気付いていただろう。それでもずっと黙って私の言うことに従ってくれていたロニーは、『出ていく』という私の言葉に、恐慌状態になった。

 

「お、お嬢様、それは……それは、このお屋敷を出ていかれるということでしょうか? ロニーはお連れいただけますか? ロニーはずっとお嬢様のお世話をいたします。お嬢様はロニーのお嬢様です」

 

「駄目なの。ロニーはレストレンジ家のしもべ妖精でしょう? 私はまだレストレンジを名乗っているけど、当主ロドルファスの敵なの。ロニーの主人の敵になっちゃったのよ」

 

「ロニーはお嬢様のロニーです。お嬢様のお世話はロニーのお仕事なのです。それがロニーの喜びなのです」

 

「ごめんなさい。ロニー」

 

 だって、ロニーの主人はあくまでロドルファスお父様。どれだけロニー自身が私を愛してくれていようと、本人の好悪の感情とは別に、命令の優先順位はロドルファスが上になる。

 両親に反旗を翻した今、ロニーも私の敵にまわる可能性が高い。

 彼女とは戦いたくない。だって大好きなんだもの。

 

「お嬢様。ロニーをお連れください。ロニーはご主人様も奥様もお好きでは……ご、ござ……ございません!」

 

 言いよどんだあと、悲壮な決意で気合い一杯に叫んだ瞬間、ロニーは壁に頭をぶつけようと走り出す。

 主人に対する悪感情を表に出したことで、急いで自分を罰しようとするロニーを急いで抱き止めた。

 

「駄目よロニー。自分を罰することを禁じます。ロニーは言いたいことを言っていいの」

 

 ロニーはそっと私の手から逃れると、何度も礼を言ってから、もう一度私を見上げた。

 

「ロニーのお嬢様がここを出ていかれるのでしたら、ロニーもついてまいります。ロニーは……ロニーは」

 

 全身をぶるぶると震わせて連れていってほしいと訴えるロニーを宥める。

 

「うん。ごめんね。本当はロニーも連れていきたい。でも駄目なの」

 

 生まれてからずっと私の面倒を見てくれていた。ロニーと離れるのはすごく寂しい。

 

 だけど、ロニーはこのレストレンジ家の屋敷しもべ妖精だ。

 私が勝手に動かせるものじゃない。私が一度“洋服”にして、それから改めて雇うということも考えたけど、ロドルファスの命令権を上書きできるかどうかの自信がない。彼ら夫婦のどちらかが“洋服”にしてくれればすぐに連れていくのに。

 

 マスターエクスチェンジも試そうかと考えたのだけど、生き物に対して試すのは怖い。

 それにあと3年で私は成人する。成人後当主となれば、私がロニーの第一の主になれるのだ。それまで待っても遅くはない。

 

 ロニーにそう言って説得する。

 

「お嬢様の成人までお待ちできません。お嬢様が何か方法をご存知なのであればすぐにロニーにそれをなさってください。それをすればロニーはお嬢様だけのロニーになれるのでございますね」

 

「ロニー。確かに思いつく方法はあるわ。でもそれを使うと、ロニーはもう二度と他の主には仕えられなくなるの。ずっと私のしもべのまま。私が生まれ変わってもずっとずっとロニーは私のしもべでいたい? 次は純血貴族家じゃないかもしれないのよ?」

 

 次はマグルどころか、人間種ですらない可能性だってある。

 

「お嬢様が尊きお方だということはロニーが知っております。貴族ではなくなったとしてもお嬢様はお嬢様です」

 

「私にマグルや魔法生物の家族ができても、その子達と仲良くできる?」

 

「お嬢様の家族であればロニーがお仕えするお方々です」

 

「ほんとに?」

 

 屋敷しもべ妖精はごりごりの純血主義なのに。

 

「お嬢様のしもべ妖精でいるために必要なのでしたらロニーはちゃんとお仕えできます。ロニーは賢いしもべ妖精です。お嬢様のご家族はロニーのご主人様です。ロニーはちゃんとおわかりになっております」

 

 さあ、さあ、と言うようにじりじりとにじり寄ってくる。

 

 屋敷しもべ妖精のロニーがなかまになりたそうにこちらを見ている。

 仲間にしますか?

 

 そんな文言が浮かぶようなシチュエーションだ。

 何度も押し問答をした結果……私が折れました。

 

「ロニー。私を信じて、私の“力”を受け入れて」

 

「ロニーはいつだってお嬢様を信じてらっしゃいます」

 

 期待に頬を輝かせ、私を見上げるロニーの両手を私の両手で包み込むように握る。

 ロニーは私のもの。ロニーは私の眷属。ロニーの主は私。

 

『マスターエクスチェンジ』

 

 両手からオーラがロニーに流れ込む。ロニーは私の力の奔流に耐え、目を見開いて私を見ている。ロニーの心身に刻み込まれたレストレンジ家との盟約を、私のオーラが書き換えていく。急激に失われるオーラにめまいを覚え、必死で耐える。ロニーは小さな身体をより一層縮こまらせてぎゅっと目を閉じた。私も目を閉じる。耐えろ。感じろ。ロニーは私の、私だけの屋敷しもべ妖精だ。

 

 やがて。

 私とロニーは同時に目を開いた。

 私達は目を合わせる。しっかりと主従の契りが交わせていることが本能でわかった。

 

「ロニー」

 

「はい。お嬢様」

 

「ロニーの主は誰?」

 

「ロニーの主はエリカお嬢様ただお一人です。レストレンジの旦那様も奥様も、ロニーの御主人さまではございません」

 

 今まで『ご主人様』だったロドルファスが『旦那様』という呼称に変わった。

 

「ロニーは私の、私だけの屋敷しもべ妖精よ? 私はレストレンジだけど、この家とは違うの。もうお父様達とは違うの。まったく別の家なの。

 いいこと? ロニーはお父様お母様、それからラバスタンにはもう縛られていないの。私に仕えても、お母様やお父様の命令を聞いちゃだめなのよ? わかる?」

 

「はい、ロニーはよくおわかりになっております。旦那様と奥様は、お嬢様とは違う“家”なのだと。ロニーはよくご存じです! ロニーはお嬢様のお屋敷で働きます。ロニーのご主人様はお嬢様ただお一人です」

 

 っと! そうだった!

 

 急いで(ドラポケ)で清潔で真新しい枕カバーを取り出す。メリーさんがガーデンで私が使うために用意してくれていた、替えの枕カバー。

 杖を振るい、綺麗なローズピンク色の刺繍糸で“Ronnie”と綴る。簡単な変身術だ。

 

 ロニーに手渡すと、大きな目をより一層見開き、おずおずと震える手を伸ばして枕カバーを抱きしめた。「ありがとうございます」の声が喜びに満ちていた。

 

「こちらこそありがとう。私を選んでくれて、すごく嬉しい。じゃあ、これからは私の、この、エリカ・アレクシア・レストレンジのしもべよ、ロニー」

 

「はい! ロニーはお嬢様……いえ、エリカご主人様のしもべ妖精です!」

 

「ロドルファス・レストレンジとベラトリックス・レストレンジ、ラバスタン・レストレンジから何か命じられても決して耳を貸さず、すぐに私に報告すること。いいわね」

 

「わかりました」

 

 もう少し、はっきり命じておいたほうがいいかな。

 

 私は居住まいを正し、威厳があるように見えるよう、おじい様やおばあ様の姿を思い出しながら、明確に言葉を発した。ついでにオーラでちょっと威圧もかけちゃう。

 

「主として命じる。ロニー。ロドルファス・レストレンジ、ベラトリックス・レストレンジ、ラバスタン・レストレンジはお前の主人の敵だ。

 奴らの命令には決して従うな。呼びかけにも応じずすぐに私に知らせなさい。そして奴らの命に背くことで自分を罰することを禁ずる。あれらは他人。お前の主人は私、エリカ・アレクシア・レストレンジただ一人と知れ」

 

「かしこまりました、ご主人様。ご命令のままに」

 

 ここまで明確な命令を発すると、ロニーも安心したように深く礼を取った。

 

 

 

 

 新たな契約で結ばれ、私の眷属となったロニーと一緒に屋敷を片付ける。

 私と一緒に居られることを喜んだロニーは、いそいそと片付けを手伝ってくれる。

 

 まず彼女を“木漏れ日の家”に連れていった。まだジャンプを見せるつもりはないから、一度私が“木漏れ日の家”に行ってから彼女を呼び寄せたのだ。ロニーのことは信じてるけど、外で活動してもらう彼女に不必要な秘密を知らせるべきじゃないもの。

 

 今後はここが私とロニーの家になるのだ。

 

 ロニーは“木漏れ日の家”をとても気に入ったらしい。しもべ妖精が働くには小さな屋敷だけど、それでも私の家には違いないのだ。

 地下(位置的に木の幹にちょこんと突き出した感じっぽい)の作業部屋の奥の物置は小さなベッドがある。ここがロニーの部屋だね、と言うとロニーはとても喜んだ。

 台所や作業部屋を調べて、器具は一通り揃っているけどレストレンジの屋敷でロニーが使っているアイロン台や調理器具などもすべて持っていくと宣言していた。

 

 私が「レストレンジの屋敷から私の痕跡はすべて消し去る」と言うと、先にロニーが“木漏れ日の家”に移動させるものを片づけるのでその後で今後必要のないものをおしまいになられるか消し去るかお決めになられるとよろしいでしょうと提案してきた。

 

 その間、私はロニーが集めてくれた本や魔法具を確認すると決め、レストレンジの屋敷に戻った。

 

「イースターに頼んだ、レストレンジ家所蔵の書籍類と魔法具を出してちょうだい」

 

「はい。すぐお持ちいたします」

 

 一度消えたロニーが数分後また現れ、これだけございましたですご主人様、とパチンと指を鳴らすと、そこそこの書店並みの量の本と魔法具がざっと目の前に積み上がった。ロニーが種類別にわけてくれたようで、いくつかの島を作っている。

 

「ありがとう、ロニー」

 

 “木漏れ日の家”への引っ越し作業を嬉々として進めるロニーをしり目に、私は本の山に立ち向かった。

 

 今必要なもの、あとで調べるもの、とりあえず保管しておくもの、など大まかにチェックしながら、多重トランクにしまい込む。闇の魔術書の量が多い。ハリーの中の分霊箱を分離させる記述があればいいのだけど。

 制御の難しそうな高等魔術の魔術書が何冊もあった。これは嬉しい。練習しよう。『必要の部屋』師匠に頼めばいいかな。

 あ、『死の秘宝』について書かれた本があった。これは読んでおこう。うん。あの三角マークもしっかり描かれている。いい本があった。

 

 闇の本はまとめて魔力遮断布に包んで収納し、あとの本も島ごとに集めたまま収納。

 書籍類にロドルファスの時代の教科書もあった。欲しかった古い時代の教科書だ。嬉しい。これは勉強用にこっちに仕舞って、と。

 

 魔法具はそこそこ使えそうなものもある。人寄せ、人除け、精神干渉系の抵抗力を上げる指輪、イヤーカフ、ペンダントなどが数個、巾着がいくつか、時計、カメラ、望遠鏡や豪華なチェス台やゴブストーン、自動演奏の楽器、テント数種、イギリスでは違法となっている空飛ぶ絨毯、その他もろもろ。

 

 闇の魔法具は触るのも憚られる。魔力遮断布で包み封印箱へしまう。私が欲しいわけじゃないけど、彼らに使われるのが怖いため、持っていく。

 

 あらかた片づけると、ちょうどバチンと音がしてロニーが戻ってきた。ご主人様のお荷物も片づけ、食料品や日用品もすべて向こうに持っていきましたから今すぐあちらで生活できます、と満足げだ。

 

 このあとルシウス叔父様とシシー叔母様にこちらに来ていただく必要があるから、ここを片付けるのはその後ね、と話をした。

 

 

 

 

 翌日、ルシウス叔父様とシシー叔母様がレストレンジの屋敷に来てくださった。

 今まで一度も入ったことのない、ロドルファス、ベラトリックスの私室に初めて入った。

 

 主寝室とその左右にある私室、書斎。

 いたって普通の、高級品に溢れた豪華な部屋だ。

 

 奥にある金庫の中に、闇の魔法具がいくつか入っていた。予備の杖もある。あ、そうだ。脱獄したら杖がない。どこかで調達する必要があるね。この杖がなかったら彼らもきっと困るんじゃないかな。うん。ぜひ頂いていきます。魔法具と杖を多重トランクにしまう。

 

 レストレンジの紋章入りの家宝らしき魔法具のアクセサリや装備品なども仕舞ってあった。レストレンジの血族はロドルファス兄弟を除くと他はかなり遠い親族しかもういない。そんな血の薄い親族に渡すのは嫌だけど、私が貰うのもちょっと申し訳ない気がする。これは取り合えずトランクに仕舞っておいて、後々考えよう。

 

 ロドルファスの私物はルシウス叔父様が調べ、ベラトリックスのものはシシー叔母様が調べてくれた。書斎の本はロニーが取り出していたためほとんど見るものはない。ロドルファスの私的な手紙くらいしか残ってなかった。

 

 イケメンだったころのトム・リドルとベラトリックス、ロドルファスの3人で撮った写真があった。

 洒落た写真立てに飾られている。フレームの中では、嬉し気にトム・リドルを見上げたり照れてはにかむベラトリックスと、楽し気にロドルファスの肩に手を回すリドルと顔を合わせて笑いあうロドルファスの姿が。

 ……ロドルファスの顔、初めてみた。ベラトリックスの乙女な表情も可愛らしい。リドルの圧倒的存在感もすごい。

 この写真、記念に貰っていこう。トランク経由で倉庫に収納した。

 

 

 その後、ロニーの姿現わしで別荘に移動し、ルシウス叔父様が金庫の場所を教えてくれて私が開けて中身を回収した。『封印箱』に仕舞われていたそれらは、そっと開いて見ると本邸にあったものよりも禍々しい闇の気配を放っていて、しっかりふたを閉めてそのまま倉庫へ仕舞いこんだ。あとで念具の封印も重ねておこう。

 

 これで、レストレンジの危ないものは粗方回収できたはず。もしかしたら当主しか知らない隠れ家や隠し場所もあるかもしれないけど。

 

 手伝ってくださった叔父様と叔母様に礼を言う。彼らは鷹揚に頷き、帰っていった。

 

 

 

 ロニーとふたりになって、あらためてレストレンジ家の屋敷の片づけを始める。

 呪術に使われるおそれがあるため、屋敷中から私の髪や爪など、私の居場所を辿れそうなものすべてを消滅させた。

 

 12年前からこの屋敷で暮らしているものは私だけだ。風呂場の使いさしの洗髪料や、バスタオル、タオル類、シーツや替えのベッドカバーも私が使っているものしかない。こういったものはすべてロニーが“木漏れ日の家”へ移動させたらしい。

 私の服や私物も“木漏れ日の家”の主寝室の箪笥にもう入っているのだとか。

 

 幼い頃に着ていた服は靴や小物も含めてすべて出してもらってトランクへ。

 

 私室に入るとすこしだけがらんとしている。日用品や幼い頃のマルフォイ家と撮った写真や小物もあちらの部屋に移動済み。家具も“木漏れ日の家”のデザインに合うものはあちらに移動させたらしい。

 残った家具をトランクにしまい、カーテンも取り外して収納。壁紙も剥がして消滅させると部屋の中は何もなくなった。『スコージファイ』で部屋中を綺麗にして終了。

 

 過ごす時間が長かったプレイルームへ向かい、子供の頃の絵本やおもちゃ、家具もすべてをトランクにしまい込んだ。壁紙は消滅。

 

 リビングやダイニングのものも片づける。食器類はすでに向こうの家に移動させた。家紋入りのカトラリーや銀食器類もすべて持っていく。ここに置いていても手入れする者がいなければ錆びるだけだしね。

 居間にあったソファとテーブルもお気に入りの置時計も持っていく。あ、このタペストリーも貰っていこう。すべてトランクに収納。

 

 がらんとしたリビングを見回す。

 これで、もう、ここには私に関わるものは何もない。

 

 

 ロニーと手を繋ぎ、二人で家に帰る。

 “木漏れ日の家”へ。

 

 今日からここが私達の家だ。

 

 

 

 

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