エリカ、転生。 作:gab
1994年 8月
シリウスが待ちに待った8月がやってきた。
弁護士が迎えに行き、そのままグリモールド・プレイスの前まで送り届けてくれた。
シリウス、私、マルフォイ家のルシウス叔父様、シシー叔母様、ドラコが迎え入れる。
「お疲れ、ハリー。ダーズリー家ではどうだった?」
ハリーは牢から出所してきたばかりの模範囚のような笑顔を見せた。
「気持ち悪いくらい快適だったよ。ペチュニア伯母さんは僕に草刈りをさせないし、バーノン伯父さんは僕なんていないって感じに振る舞うし。ダドリーは伯父さんに止められて黙って睨みつけるしかできなかった。
部屋は快適だし、みんな梟をいっぱい送ってくれて。ヘドウィグも自由にさせてもらえて嬉しそうだった。ダーズリー家にいることを考えて憂鬱になればシリウスのトランクに入れるし。毎日箒に乗ってたよ。ほんとに素敵なトランクをありがとう、シリウス」
おお。パパ大喜びだ。ハリーに笑顔を向けられてシリウスのイケメン顔が残念なほど緩んでいる。あとで『トランクを贈る』というアドバイスについて何度目かの礼をまた言われた。それくらいシリウスは浮かれていた。
楽しい夏が始まった。
その日は一日遅れのハリーの14歳の誕生会だった。
この屋敷でそういったパーティが開かれるのは十数年ぶりで、クリーチャーがめちゃくちゃ張り切って部屋を飾り付けていた。誕生日パーティーの料理も素晴らしかった。
ハリーも誕生日パーティを大いに喜んだ。
14歳のハリーの誕生日は、彼にとって忘れられない幸せな一日となっただろう。
「僕……誕生日パーティなんて初めてで……嬉しくて」
感激に胸いっぱいのハリーの言葉に、子供好きで愛情溢れるシシー叔母様がまず陥落。「シリウスの子なら私の甥ですわ」と抱きしめ、ルシウス叔父様まで「マルフォイ家も第二の我が家だと思ってくれればいい」だなんて言うほどだった。
ほんとね。この夫婦って純血主義でプライドは高いけど、身内にはとことん甘いんだよね。
シリウスはハリーの今までの暮らしを思って悔しく感じる反面、自分がハリーを喜ばせることができた事をとても嬉しく思い、成人して『愛の守り』が解かれればここが君の家になるんだと強く宣言した。
ハリーは初めてみる屋敷しもべ妖精という生き物に驚き、世話焼きな老しもべ妖精とすぐ打ち解けた。クリーチャーも新しいご主人様の養い子がパーティを喜び、クリーチャーにも明るい笑顔で礼を言ったことでハリー坊ちゃまを素晴らしくも大切なお方だと認識した。
あ、それでも今のところ一番クリーチャーの忠誠を受けているのはもちろん私だよ。もうね、年季が違うよね。
シリウスはひと月も前にトランクを贈っているため、今日は豪華なプレゼントはない。だけど、ハリーの両親の思い出の品や手紙などを渡していた。ハリーはとてもとても喜んでいた。
私は気になっていた眼鏡をプレゼント。
いつまでもあんなぼろい眼鏡をつけてるのが許せなかったからさ。
デザインはシンプルながら洗練されたフォルムで、顔のサイズに自動フィットして、箒に乗ってかなり激しい動きをしても落ちない仕様。
所有者の視力にあわせてピントを変えてくれる。もちろん防水、曇り止めもばっちりだ。
これってとても便利だから私の分も買ってある。ステップの飛距離があがるものね。
それからいいタイミングだから去年渡せなかった杖ホルダーを渡した。ドラコ達もまだ使ってくれているし、杖をポケットに無造作に突っ込まないための練習台だと思って、と言って渡した。
杖ホルダーはハリーも喜んでくれた。牡鹿だったことに驚いて、ハリーの守護霊を見たからこれをチョイスしたのだと思ったようだ。シリウスがそれを見て驚き、そして泣きそうな笑顔を浮かべていた。
その後二人で話していたから、君のお父さんの『守護霊の呪文』も牡鹿なんだよ、くらいは話したかもしれないな。ルーピン先生に聞いているかもしれないけどね。もしかすると今まで黙っていた動物もどきの話までしているかも。
みなもそれぞれプレゼントを贈っていた。
ロン、ハーマイオニー、ハグリッドの手紙は昨日のうちにヘドウィグが運んできたらしい。ヘドウィグすごいね。まあうちのマーリンの方がずっと賢いし綺麗だし可愛いし素敵なんだけど。
ロンからの手紙には、クィディッチ・ワールドカップの会場で会おうと言う話と、イーロップふくろう百貨店でアフリカオオコノハズクを選んだこと、私にも礼を言っておいてと嬉しそうに綴られていたと教えてくれた。うちのマーリンと同じ種類だね。
喜んでくれてよかった。原作のあの豆梟みたいに落ち着きのない子じゃなくマーリンくらい賢い子になって欲しい。
翌日はハリーも揃って、レギュラスの葬儀が行われた。
ハリーは、シリウスの弟が死喰い人だったことも、ヴォルデモートに反旗を翻して死んだことも初めて聞いて驚き、神妙な表情でレギュラスの葬儀に出席した。
レギュラスの葬儀は私達6人と、異例のことではあるがしもべ妖精のクリーチャーも参列を許された。クリーチャーは非常に感謝し、シリウスへの態度はまた一層丁寧になった。
その首にはヴァルブルガおばあ様から与えられたレギュラスのペンダントが誇らしげに提がっている。ずっと大切にしまい込んでいるから、「今日くらい付けたら?」と私が勧めたのだ。
クリーチャーがレギュラスのペンダントをつけている姿を見たらきっとレギュラスも喜んでくれると思う。
シリウスは葬儀の場で、今は難しいが、ヴォルデモートが完全に斃されれば、すぐにレギュラスの勇気ある行動を公表し、彼の名誉回復を図ろうと力強く宣言した。
今年は原作通りならクラウチ・ジュニアがホグワーツの教授としてやってくる。彼らの記憶から情報を漏らすことを考えると、ハリーやドラコにすらレギュラスの成したことや分霊箱のことを話せないけど、この1年が終われば話せるよね、きっと。
空の棺にはレギュラスの箒が納められた。
クィディッチの選手になりたかったレギュラス。その夢はシリウスが出奔したことで次期当主の重圧が彼に掛かって果たせず、その後死喰い人になってしまい、クィディッチどころではなくなってしまった。
あの世でたくさん箒に乗ってほしい。
葬儀の翌日、私達はルシウス叔父様の招待でマルフォイ家の別荘に行くことになった。
ハリーとシリウス。ハリーとドラコ。ハリーと私。ハリーとマルフォイ家。シリウスとマルフォイ家。
それぞれが距離感を掴みかねている。特に『死喰い人の親玉格』と友人から教えられていたルシウス・マルフォイといきなり一緒に過ごすとか、ハリーだって対応に困る。
まずは気兼ねなく遊んで、互いのことに慣れる時間が必要なのだ。そのために用意してくれたのは非日常を感じられる場所だった。叔父様ってほんと、有能すぎて惚れ惚れする。
マルフォイの別荘はカリブ海にあって、マグル除けが施してある島まるごとがマルフォイ家の土地らしい。近隣の海もマグルが近寄れないため途轍もなく美しい海だった。
ヴィラに泊まり、ビーチで波と戯れる一週間は楽しい毎日だった。海で泳ぐのは英里佳時代ぶりだ。海の上をファイアボルトで飛ぶのも気持ちいい。
海は深い青色で、空も突き抜ける青。
その青と青の間を縫うように飛ぶのは快感だった。
最初はぎくしゃくしていたみんなの間にあった緊張感もわだかまりも、燦々と照り付ける太陽とどこまでも広い空、目の覚めるような青い海に、あっという間に溶け去った。
ハリー、ドラコ、私、シリウスは毎日飽きもせず泳いではファイアボルトに跨った。あ、うん。シリウスもハリーと一緒に飛びたくて買ったらしい。
アズカバンから解放されて数ヶ月、シリウスは徐々に体力を取り戻している。少しずつ筋肉や脂肪もつき始めた。なによりハリーの存在が、彼に生きる希望をもたらしている。
愛するハリーと一緒に過ごすシリウスは、馬鹿みたいにはしゃいでいた。
シリウスの屈託のない笑顔を見るたび、私はシリウスの無実を証明できたことを嬉しく思えた。
ドラコとハリーはまたファーストネームで呼び合うようになった。
彼らの笑顔を見ると、私もすごく嬉しい。ついつい、一緒にはしゃいでしまった。ちょっと手を抜いて付き合っているのが辛いくらい。でもさ。本気出したら『超一流パイロット』ですから私。
でもハリーって箒に関しては天才なんだよね。まだまだ子供だから技術が甘いけど、今後の成長が恐ろしいと思う。
箒は全員がファイアボルト。そしてシリウスも含めみんな上手だった。速さやコース通り飛ぶ競争をしたり、スニッチを奪いあったり。水面すれすれを攻めたり。
超楽しい。ドラコの態度も軟化したからめっちゃ楽しく遊べた。
ルシウス叔父様とシシー叔母様は……毎日らぶらぶして過ごしていた。ドラコに弟か妹ができるかもしれない。
叔父様は南国のビーチでも決して長袖のローブを脱がなかった。刺青が見えちゃうものね。
マルフォイ夫妻とハリーもずいぶん打ち解けた。ハリーが笑顔で「ルシウスさん、シシーさん」と話しかける姿なんて、原作を知る私には驚きの変化だ。
シリウスとハリーは蜜月のカップルみたいにべったりだった。
そして貪欲なほど互いのことを知りたがった。
シリウスは学生時代のジェームズの話や自分達のやった悪戯の話を聞かせ、ハリーはハリーで1年からの危険がいっぱいな冒険について語る。
それからハリーがおずおずと差し出したホグズミード訪問許可証に誇らしげにシリウス・ブラックと名を書き入れた。
ふたりとも実に幸せそうに晴れやかな笑顔を浮かべていた。
休暇を一緒に過ごしたハリーの私服の酷さにシリウスもルシウス叔父様もシシー叔母様も眉を顰めていた。虐待の話を聞いてマグルどもめと怒った。
そしてどうせ買い物に行くならすべてを買いなおそうと宣言した。
私はついでに、気になっていたポッター家の資産がどうなっているかハリーに確認してみる。
資産家だったポッター家は、ハリーのお爺さんが考案したスリーク・イージーの直毛薬で大儲けして大富豪になった。ジェームズの父親はジェームズが仕事もしないで騎士団に入ってしまい(給与どころか献金すらしていたはず)、代替わりの際に薬の権利も会社も売ってしまい、すべてを現金化してグリンゴッツへ入れた、と言うような記述をどこかで読んだ気がする。
うちみたいにある程度の運用はしているのか、それともただ金庫に入れただけなのか。
それにポッター家の資産をダンブルドアや他の不死鳥の騎士団の誰かが使っている可能性も捨てきれない。
原作どおり、ハリーはグリンゴッツの金庫の鍵をひとつしか持っていないと言い、私達を驚かせた。
『鍵』ということは、ドラゴンが守る最奥の金庫ではないってこと。旧家のメイン金庫が並ぶあの場所に、ポッター家の金庫もあるはずなのに。
危機感を覚えたシリウスとルシウス叔父様が、ロンドンへ戻ればすぐにグリンゴッツへ行って、ポッター家のすべての金庫の現状の報告と鍵の取り換え、それからハリーの杖の登録を申請することに決まった。
1994年 8月 第2週
カリブ海を満喫してきた私たちはまたグリモールド・プレイスへ戻ってきた。
翌日、マルフォイ夫妻、ドラコ、私、シリウス、ハリーの6人は揃ってダイアゴン横丁へ繰り出した。時の人となっているシリウスがこんな人混みに出ればどれほどの騒ぎになるか。
なので、シリウスは髪を魔法で金髪に染め上げ、大き目の眼鏡をかけてそのうえ山高帽を深く被って顔を隠していた。
でもそんなことは関係なく、ハリーとシリウスは幸せそうだった。
まず最初に大切な仕事、グリンゴッツへ向かう。
シリウス、ハリーの二人がポッター家の資産について確認している間に、私もレストレンジの金庫を巡り、魔法具を粗方回収してきた。また何があるか調べなくては。
金庫から戻るとハリーの用事も済んでいた。
いろんな二次創作で読んだような、ダンブルドアが資産をちょろまかしてたという事実はなかった。ちょっとほっとした。
けど、13年前に一度、ある程度のまとまった金額がどっと引き出されていて、おそらくそれでハリーの両親の葬儀や諸々の片づけをしたのだろうと思われた。ずいぶん高額だから他にもきっと流用(おそらくハリーの周辺警護とか、フィッグばあさんの引っ越し費用とか)しているだろうけど、まあ許せる範囲だと思う。
シリウスも叔父様も眉を顰めたけど、激昂するほどの金額ではないし、その後鍵を持っていたけど一度も引き出されていないことで、まあいいだろうという結論に達した。
まあ何かあった時のダンブルドアへの攻撃材料にもなるし、ちゃんと記録を出してもらっておく。
ポッター家の資産の代理人をダンブルドアからシリウス・ブラックに書き換え、すべての鍵を作りなおしてもらうのに多少の金額がかかった。
でもこれでハリー以外がポッター家の金庫にアクセスすることはできない。
その後、ハリーのローブや私服を大量に買う。シリウスとシシー叔母様がかかり切りになってあれこれと選んでいた。
私とドラコはその間に自分達の次の教科書を買ったり、消耗品を揃えたり。制服の仕立てなおしをしたり。
羊皮紙とインクの減りが早い。羽ペンもすぐにダメになるし。たくさん買い込んだ。
その後、みんなでトウィルフィット・アンド・タッティングへ行き、ハリー、ドラコ、私のドレスローブを仕立てる。ここでもシシー叔母様が大活躍だった。
毎年クリスマスパーティのために仕立てているのだけど、今年はホグワーツでパーティがある。
パートナーと同伴が必要で、しかもダンスがあるらしく、動きやすさとターン時の裳裾の広がりの美しさに叔母様がとても拘っていた。
ホグワーツでのクリスマスパーティのあと、ロンドンでもパーティを開くため、ドレスローブはそれぞれ2着ずつ仕立てた。
ルシウス叔父様から、9月からのホグワーツで三学校の対抗戦が行われることを聞いている。
私達は選手になれる年齢に達していないし、そんなことより、ドラコとハリーはクィディッチの試合がないことのほうがずっとショックだった。ドラコなんてせっかくファイアボルトを貰えたのに、とかなり残念そう。
ハリーとドラコのシーカー対決は来年に持ち越しね、と言えば、二人とも無念の表情で肩をすくめた。そして、来年は負けないから、と互いにライバル宣言していた。