エリカ、転生。   作:gab

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4年-2 炎のゴブレット

 

 

1994年 10月

 

 他校の生徒達がやってくるのはハロウィンの前日。選手選考はその翌日に行われる。

 つまり、ホグワーツでの平和な時間はあとひと月足らずで終わるってことだ。

 今のうちにできることをしっかりやらなくては。

 

 ハリーやドラコ達の閉心術の訓練も、「他校の生徒がやってくる前にしっかりやっておかなくちゃ『必要の部屋』にも行きづらくなるわよ」と言ってある。

 彼らも人目が増える前にと考えたのか、地図で見ていると割と真面目に『必要の部屋』に通っているのがわかる。

 

「閉心術がしっかりできるようになれば、エリカが知っていることを教えてくれる?」

 

 ハリーはまっすぐ私を見て言った。彼の目はいつもまっすぐで、その緑の目を見ていると裏でこそこそと動いている自分がとても卑しい生き物に思えてくる。

 

「すべてを話すわけにはいかないのよハリー。危険な話が多いから、どうしても言えないこともあるの。たとえあなた自身の事でさえ、今はね。いつか、話せる時がきたら……」

 

「僕のことなのに?」

 

「そう、あなたの事なのに」

 

「……わかった」

 

「ありがとう」

 

 すべてを話す、とは約束できない。秘密はありすぎるもの。でも、ヴォルデモートとの戦いが終われば、話せることは話せるだろう。

 ハリーは言外に含んだ言葉も受け止めて、一応の納得をしてくれたようだ。「閉心術、がんばるよ」と笑顔で言ってくれた。

 

 眩しいなあ。

 ハリーって子供っぽくて意固地なところがあって、“養殖の英雄”である彼をどうしても自分よりずっと年下のようなつもりで接してしまっていたけど、彼はやっぱり主役なだけある。

 眩しいよ、ほんと。

 

 

 

 

 

 

 ハリーやドラコ達の合間を縫って、私も『必要の部屋』師匠のお世話になっている。

 

 あの、悪意まみれの捏造記者リータ・スキーターはコガネムシの動物もどきだ。

 

 去年、“円”でネズミ状態のピーター・ペティグリューをチェックしたけど、本当にネズミ程度の生命力しか感じなかった。

 オーラなんて微々たるものだ。魔力も感じられない。

 動物もどきとはここまで擬態できてしまうものかと驚いたものだ。

 

 ホグワーツは古い建物で、隙間も多い。周りを豊かな自然に囲まれたここは小さな虫がたくさんいる。そんな中で、“円”でリータ・スキーターのコガネムシを見つけることはかなり難しい。

 今年はクラウチ・ジュニア in マッドアイ-ムーディもいるし、ほんと要注意だよ。

 

 でも大丈夫。私には『忍びの地図』があるから。

 この一年は『リータ・スキーター』と『バーテミウス・クラウチ』の名前がどこに居るか、常に地図のチェックが必要だ。

 

 とはいえ。

 敵ならば恐ろしく警戒すべき能力だけど、私が取得する能力としては、動物もどきってものすごく有能すぎる能力だと思う。

 念すら欺く擬態能力だもの。習得に気合が入るってものだ。

 

 

 

 動物もどきの勉強は、次の段階に進んだ。

 生物の骨格、身体の作りの違い、視覚、聴覚などの違いなどを詳しく勉強する。私はレイヴン……ワタリガラスになるだろうとほぼ確定しているから、鳥と人間の骨格の違いを重点的に学んでいく。

 

 それから生物を別の生物に変化させる変身術の実技。繊細で明確なイメージが必要で、反復練習のできる『必要の部屋』って本当に素晴らしいと感謝して、頑張っている。

 

 

 

 

 

 

 

1994年 10月30日

 

 三大魔法学校対抗試合のために、ボーバトンとダームストラングの代表団がやってきた。

 私はドラコ達スリザリンの友人と一緒に、スネイプ先生の引率で城の前に整列した。晴れた、寒い夕方だった。

 

 真面目に列を作ってじっと並んで待つのは辛かった。

 だけど、原作映画で観たから彼らがどうやってここへやってくるのか知っている私ですら、12頭の天馬に曳かれた巨大なパステル・ブルーの馬車が空を翔けてくる姿に圧倒された。

 それに馬車から降り立ったマダム・マクシームの巨大さにも。

 

 ボーバトンの生徒達はブルーの制服を着た男女だった。映画では女性ばかりだった記憶があるけど、原作小説準拠なのか、男子生徒もいた。全員が代表選手に立候補できる年齢なのか、17歳くらいの上級生ばかりだ。

 

 彼らが城に入っていき、次はダームストラングの生徒達の登場を待つ。10月末の気温は低く、いつまでここで立ったまま待たされるのかとじりじりしていると、湖からくぐもったゴロゴロという音が聞こえてきた。

 

 湖の黒く滑らかな水面が突然乱れ、中心の深いところからぼこぼこと大きな泡が表面に湧き出してくる。大きく波が岸を跳ねる。そして、湖の真ん中に渦が巻き、そこから、長い帆柱がゆっくりとせり上がってきた。月明かりを受けて船が湖から浮上してくる姿は海賊映画で幽霊船が登場するシーンみたいだった。

 

 船から降りてきたダームストラングの生徒達は分厚い毛皮のマントを着ていた。こちらは男ばかりの団体だった。

 そしてその中に、あの、ビクトール・クラムがいることに気付いた生徒達が興奮して騒ぎ出した。もちろんドラコ達も。

 

「ビクトール・クラムだ。見ろ、あのクラムだぜ」

 

 興奮してクラムについて話し続ける彼らに私も相槌を打つ。うんうん。夏に試合を観たから、私も彼を間近で見れることにミーハーな気持ちになってダフネ達と一緒に騒いでしまった。こういうのも乙女っぽくていいね。彼個人には興味はないけど、箒に乗る姿は見てみたい。

 

 ダームストラングの生徒達がスリザリンの席についてくれた。

 ドラコをはじめ、男の子達がヒーローを見る目になっている。みんな身を乗り出して彼らに歓迎の言葉を送っている。

 

 

 やがて、全校生徒が席に付き、教師達も上座のテーブルにそれぞれついた。中央に座るダンブルドアの短い挨拶のあと、豪華な料理がテーブルを埋め尽くした。海外からのお客様を歓迎するためか、フランス料理やブルガリア料理も並ぶテーブルはとても賑やかで、私達もダームストラングの生徒達とも会話しながら楽しい時間を過ごした。

 

 その後、選手の選考方法について説明があった。

 17歳以上の生徒のうち、立候補したいものが自分の名と所属校名を書いた羊皮紙をこれから24時間のうちにゴブレットに入れること。

 そうすれば、ゴブレットが一番相応しい者を代表者として選び出す。

 年齢に満たない生徒が誘惑にかられることのないよう、ゴブレットの周囲にダンブルドアが『年齢線』を引く。17歳に満たない者は何人たりともその線を越えることはできない。

 

「僕があと3年早く産まれていればな……」

 

 羨まし気に呟くドラコに、ヴィンスやグレッグも深く頷く。彼らは自分が主役になって、喝采を浴びる姿を想像しているのか、うっとりと『炎のゴブレット』が青白い炎をめらめら溢れさせている様を眺めている。

 きっと17歳だったら彼らは進んで立候補しただろうな。結構いい成績を取れると思うんだよね、彼らなら。私も見たかった。でも年齢はしかたないよ。残念だったね。

 

 

 

 

 

1994年 10月31日 ハロウィン

 

 やはりと言うか、何というか。

 原作通りの流れでハリーが四人目の選手に選ばれた。

 

 不安な表情で選手のいる別室に連れていかれる彼を見送る。

 ドラコと顔を見合わせて、心配だね、と話した。原作で知っている私だけじゃなく、ハリーの夢の詳細を聞いていたドラコも彼がお辞儀様の計画に利用されると知っているからこそ、彼が選手になろうなんて考えていないだろうと理解している。それゆえに、これが何かの暗躍の結果かもしれないと、私と同じように心配している。

 

 顔を見合わせた私達は、寮の談話室に戻ったあと、私がシリウス、ドラコがルシウス叔父様にすぐ鏡を使って連絡を送った。きっとシリウスはすぐホグワーツへ飛んでくるだろう。ドラコもわかっていて、叔父様にフォローを頼んでいたから、二人そろってくるんじゃないかな。

 

 

 

 ハロウィンの翌日は休日だった。

 

 ホグワーツの生徒達の空気はとても悪かった。

 大広間での朝食の席でも、ハリーを責める声が至る所から聞こえてきた。どうやって年齢線を誤魔化したのか、どうやって4人目の選手になったのか、そんな推理を声高に話す声も多かった。

 

 ハッフルパフ生のセドリック・ディゴリーが選手として選ばれたことで、今まで目立たなかったハッフルパフ寮がやっと表舞台に立てたのだ。

 その話題をかっさらうようにハリー・ポッターが4人目の選手になったことで、ハッフルパフの生徒達の怒りはことさら大きかった。

 

 レイブンクローも同様。

 ハリーの反則を悪し様に罵っている。ハリーがさらに有名になろうと躍起になってゴブレットを騙したんだと思っている。

 

 グリフィンドールはハリーを応援しているけど、誰もがハリーがうまくやって、つまり、反則をして選手になったと考えているようだ。

 ちょっとは彼の言葉を聞いてやれよと思う。

 

 スリザリンも声高にハリーを非難している者が多かった。

 うちの学年は、私とドラコがハリーを気遣う発言をしたことで、ハリーをあげつらう者はいなかった。それでも不満な表情を浮かべていた者も多かったから、きっと内心面白くないと考えているんだろう。

 まあ原作みたいに『汚いぞポッター』バッジを配ったりしないだけでもきっとハリーにとっては原作よりはずっとマシだと思う。

 

 

 

 

 朝食を終え、ドラコ達と連れだって大広間を出たところで、シリウスが魔力の渦を巻きあげるほど怒りながら大広間に続く階段を上がってきた。ルシウス叔父様がシリウスについて足早に歩いてくる。

 

「エリカ」

 

「おはようございます、シリウス、ルシウス叔父様」

 

「知らせをありがとう、ハリーからも連絡を貰った。誰も信じてくれないと落ち込んでいたよ」

 

「どうなるんでしょう? 魔法契約が成っているのであれば、ハリーが棄権することはできないかもしれません」

 

「ダンブルドアと話してこよう。ハリーとは会ったかい?」

 

「いえ、まだ。ハリーが選手に選ばれたことで不満を持つ生徒が多くて。ハリーが不正をして選手になったと思っている子が多いんです」

 

「まったく……命がけの試合なのに何を言っているのだか」

 

「やはり、死喰い人だと思いますか?」

 

 シリウスが声を潜めてそっと囁いた。

 

「わたしはカルカロフが怪しいと考えている。奴は……死喰い人だ」

 

 そこで、シリウスを追いかけて息を切らしていたルシウス叔父様がやっと息を整え、話に加わった。

 

「私は違うと考えている。夏にクィディッチ・ワールドカップで会った時、奴は帝王の復活が近いのではと怯えていた。私にも助けを求めてきたくらいだ。今さら帝王のために動くとはとても思えぬな」

 

「ではルシウスは誰の仕業だと?」

 

「それはまだわからぬさシリウス。いずれにしろ警戒するしかない。お前達もじゅうぶん身辺に気を付けるようにな」

 

 ルシウス叔父様の言葉に、私やドラコ、ヴィンスとグレッグも神妙に頷いた。

 

「誰が死喰い人かわかりません。どなたと話す時も決して閉心術はお忘れにならないよう」

 

 私の言葉に、シリウスもルシウス叔父様も深く頷いた。ドラコ達も閉心術の習得の必要性を改めて感じたのか、今日も『必要の部屋』に行こうか、と話し合っていた。

 

 

 シリウス達はこれから校長室へ赴き、ハリーの棄権ができるかどうか話し合うつもりのようだ。

 

 

 

 

 

 いつ、『マッドアイ-ムーディがクラウチ・ジュニア』だと話そうか。

 早めにシリウスとルシウス叔父様には話したいんだけど、大っぴらに捕まえてしまうと、お辞儀様の計画がわからないままで、奴に逃げられてしまう。

 

 

 シリウス達の協力を得て、こっそりクラウチ・ジュニアを捕まえて真実薬で計画を聞き出し、原作通りの内容であれば、その後、忘却術で忘れさせてそのまま計画をすすめさせるのが一番いい。

 

 そうすれば墓地に無防備なまま彼らがやってきて、私達の力で、というか、おそらく大人達は私を参加させないだろうから彼らだけで、あいつと戦える。

 

 その時点までで、ハリーの分霊箱を処理できていなければ、ヴォルデモートは殺さずに赤ん坊サイズのまま捕らえて眠らせて監禁しておけばいいのだ。

 

 他の分霊箱を壊し、ハリーの中に残る奴の魂を引き剥がせれば、そのあとで殺せばいいのだから。

 分霊箱の処理ができないなら、何年だって眠らせ続けるって手もあるだろう。

 

 ナギニは分霊箱になっているだろうか。あれも必ず殺さなくては。でもそれを誰にも言えないのが辛いところだけど、決して逃がさないようにしなくては。

 

 

 ああ。どういう流れで進めればいいだろうか……

 

 

 

 

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