エリカ、転生。 作:gab
1994年 11月
日刊予言者新聞にハリーの捏造記事が載ってすぐ、シリウスは正式文書の形で新聞社と記者を相手取って厳重な抗議の申し入れをしたらしい。
すると翌日には『ブラック家は金や権力にものをいわせて発言の自由を阻害する害悪』などと強気な記事が載った。
その数日後から、新聞のページ数が見るからに減った。中を見ると広告欄がごっそり抜けている。
うわあ、これシリウスだよね、きっと。
新聞社への抗議だけじゃなくて、広告主たちに何某かの連絡をまわしたんだろう。『僕とっても怒っているから、とうぶんあそこに広告を載せないでね、出したら敵とみなしちゃうかも(意訳)』とかそんなやつ。
その後数日のうちに広告欄は全くなくなってしまい、新聞は号外のような一枚ものになっていた。
そしてまた数日後、一面丸々謝罪文が掲載された。
『インタビューで聞き出した情報を記事として書き起こすにあたり、若干の誇大な表現を含んでしまったと当該記者が認めた。記者の報道に対する強い想いが裏目に出てしまったことは甚だ遺憾である』とこちらこそ甚だ遺憾な文章でリータ・スキーターのハリーに関する記事が捏造であったと認めた。
文章は難だらけだけど、シリウスには直接頭を下げに来たらしい。ルシウス叔父様が教えてくださった。
この記事によって、当初スキーターの記事が出てからより一層酷くなった中傷は多少緩まった。グリフィンドール生やハッフルパフのもともと仲の良かった生徒の中では、ハリーの『ゴブレットに名前を入れていない』という言葉をちゃんと受け止めてくれた子もいたらしい。
ただ、名付け親の権力にものを言わせて新聞の内容を歪ませたと考える者も少なからず居て、ハリーを敵視する視線は多かった。
それでも原作よりはずっとマシだと思う。
ハリーが折れることなく課題に取り組んでくれるといいのだけど。
リータ・スキーターはもともと日刊予言者新聞の専属記者ではなく、記事ごとの個別契約なのだとか。
新聞社からは、当面――少なくとも2年は彼女が原稿を持ち込んでも購入しないと確約があった。
これで当分大人しくなるんじゃないだろうか。
できれば今年一年はホグワーツに来ないでくれると嬉しい。
でも、まあ、そう簡単にあきらめるような女じゃないよね。
粘着質だから、今回のことでハリーやハーマイオニー、シリウス、ルシウス叔父様に強い敵愾心を抱いちゃったかもしれない。
また何かあった時にガツンときつい報復があるかも。
原稿を持ち込める処は他にもある。今年みたいに大きなイベントがあって、部外者が多く入り込んでいて、ネタが多そうなこの時期に、あのコガネムシ・スキーターが『我慢』できるはずがない。
きっとコガネムシになってやってくるだろう。『忍びの地図』は常にチェックしなきゃだ。
ハグリッドの授業の酷さはぜひ記事にしてほしいけど。
だって彼はブリーダーとして素晴らしい才能はあるけど、教授の才能はないもの。生徒に治療不可能な怪我をさせてしまう前に彼を教授の座から遠ざけたい。アクロマンチュラの巨大コロニーの件をなんとかリークできないだろうか。
リータ・スキーターの扱いをどうしようか、迷うよね。コガネムシ。
絶対仲良くなれないタイプ。私はネタにしやすい条件が揃っている。まあブラック家が力を取り戻して、ハリーの記事のせいで一度干されてしまった今、私をネタにしたらどうなるかくらい向こうだってわかっているだろうけど。
とりあえず向こうから喧嘩を売ってこなければ静観する方向で。
コガネムシに変わる瞬間の写真くらい撮っておきたいな。
コガネムシ状態の時に捕まえておいてルシウス叔父様にプレゼントしちゃうのも手だけど、それくらいでアレを制御できるのかってことだよね。
と言うかさ。
原作ではドラコ達はコガネムシ形態のリータを手の中に隠して、情報を教えていたらしき描写がある。
つまり、彼らはリータ・スキーターがもぐりの動物もどきであることを知っていたわけだ。
いつ知ったんだろう。
ハリーとやりあっているドラコ達の姿を観察して『使える』と考えたリータ・スキーターがこっそり声をかけたのかも。
もしそうだとしたら、原作のドラコ達ってちょっと子供すぎる。
大人の悪意をわかってなさすぎるよ。
親に内緒でこっそり、ってこれの場合ヤバすぎる。
だって相手はもぐりの動物もどきだよ。違法行為だ。それを黙認して、なおかつ情報収集に協力したとなれば犯罪ほう助となる。
相手はジャーナリストだ。
後々になってから、こっちが反対に犯罪ほう助のネタでゆすられる可能性だってあった。
そんなことも気付かないくらい原作のドラコ達はオバカなのか、それとも、貴族家の繋がりを通してある程度の便宜を図ってほしいと親経由で連絡があったのか。
すでに原作とはだいぶ変わっているから、今となってはもうわからないことだけど。
コガネムシレディについては注意するしかないよね。
私の記事は『ウケる』。帝王の娘だと知られれば、ね。
ブラック家と争うことになっても出すところは出すだろう。原作でダンブルドアの暴露本を出したように、出そうと思えば出版社はある。
それに、『エリカ・レストレンジは実は帝王の娘だった』だなんて記事、きっとみんな読みたがる。バカ売れするに違いない。
一度でもそんな記事が出てしまえば。
マグル界のような遺伝子検査なんてものはない。私が帝王の娘じゃないなんて誰にも証明できないのだ。私にすら判断できないものなのだから。
うーん。私としてはバレないことを祈るしかない。
私達スリザリン9人組は週に一回ドラコのトランクの中での修行を続けている。
ハリー達3人はハリーの修行中心に、『必要の部屋』で頑張っているらしい。
ああ、課題の内容については、シリウスとルシウス叔父様が権力とお金に物を言わせてすべて聞き出して、ハリーにリークしてあるらしい。私も教えてもらった。やっぱりドラゴンかよ。実際に聞くと学生にやらせる内容じゃないよね。ほんと。
シリウスは結膜炎の呪いをすすめ、ハンナが箒をアクシオしたらと助言を与えた。ハリーは原作通り、アクシオを使って箒を呼び寄せるつもりらしい。
廊下で通りすがった時に、「頑張ってね」と声をかけると、ハーマイオニーに呼び止められた。ハリーとハンナはそのまま『必要の部屋』に向かい、彼女だけが残った。
「これ、読んで欲しいの」
さっと差し出されたチラシに視線を落とした。わあ、やっぱりやるのかこれ。
「スピュー(反吐)?」
「S・P・E・W、よ。しもべ妖精福祉振興協会」
2年次にハリーがドビーと会っていないため、ハリーはこの夏初めて屋敷しもべ妖精に会った。原作とは違って幸せそうに真面目に働くクリーチャーだ。クリーチャーは忠義者で少し頭が固くて純血主義。新しい主であるシリウスとお互いマイナス印象から少しずつ分かり合おうとしているところだった。
心からの忠誠を捧げていたレギュラスの葬儀に参列させてもらって、クリーチャーは自分が世界で一番幸せなしもべ妖精だと公言してはばからないほどだったし、夏の終わりにはシリウスとなんとかやっていけるだろうという未来も垣間見えた。
ハリーは屋敷しもべ妖精のことを虐げられた可哀そうな生き物だなんて印象を抱かなかったし、友人達にもそんな風に話した。
だけどハーマイオニーはクィディッチ・ワールドカップの時に見たクラウチ家のウィンキーが最初に見た屋敷しもべ妖精で、彼女が有無を言わさず“洋服”となったところを見て、しもべ妖精の扱いの悪さに憤った。
原作通りしもべ妖精の解放運動を起こしたらしい。
彼女は果敢にも純血貴族家である私にまで活動協力を求めてきたのだ。
チラシを渡し、自信満々につらつらと協会の趣旨について話す彼女の言葉を聞き、私は答えた。
「グレンジャー。その方針なら私は反対よ」
「あなたはしもべ妖精を奴隷のように扱っていることに何も思わないの?」
「彼らの矜持や喜びを、あなたの物差しだけで判断しないで」
「どういうことかしら?」
「しもべ妖精は金銭を貰うことにまったく重きを置いていないの。彼らにとってお金は価値がない。彼らの尊厳を尊重できないなら彼らの事をそっとしておいて」
屋敷しもべ妖精が主に滅私奉公するのは本能で、それが喜びだ。主のために働くという行為に対して金銭を払うことは彼らの矜持を穢すことになる。
ロニーだって私が1クヌートでも渡したら絶望の表情を浮かべるだろう。
彼女には、働きに対する感謝の言葉と、労いの言葉、それから枕カバーやキッチンタオルに手ずから刺繍を施したものを渡したり、時折、不要となったもの――与えるために買ったものなど渡せばかえって悲しむから『自分のために買ったけど要らなくなったため下げ渡す』というポーズを取らなくちゃいけない――を渡したりするだけでじゅうぶん喜んでくれる。
いや、そもそも、彼らが存在することで心地よく過ごしている姿を見せるだけで喜んで奉仕してくれる。
屋敷に来た招待客が、チリひとつなく整えられた屋敷を褒め、心尽くしの料理を絶賛し、美しく咲き誇る庭に称賛のため息を漏らす。そんな客の言葉に主一家が自慢げに胸を張る。
それだけで、しもべ妖精は喜ぶのだ。
「彼らが求めているのは金銭授受や休暇休日じゃないの。
だけど、彼らの中には、横暴な主にいわれのない暴力を振るわれているものや、満足に食事を与えてもらえていないものもいる。屋敷の中で行われるそういった行為については他家のものが口を出せないのが今の状況なの。だからそういった非道を罰することができるような仕組みを考えるのなら、それは素晴らしい事だと思う」
それに、本人の能力や性格と、主家の魔法族が求める能力や性質がかけ離れている場合もある。性格の不一致でお互いに気まずい家もあるだろう。そういった主従関係を、お互いの求める相手に変えてやれるのであれば、それはとても喜ばれるだろう。
しもべ妖精に暴力を振るう魔法族に厳しく注意し、虐げられるしもべ妖精を保護する。
虐げられているしもべ妖精を解放して、新しい主家との縁を取りまとめる。
相性の悪い主従関係を解消して、双方の要望を聞いて相応しい相手との縁を取りまとめる。
魔法族に、正しい屋敷しもべ妖精との付き合い方についての啓蒙活動を行う。
そういった活動なら賛成する。
魔法省には「屋敷しもべ妖精転勤室」という、屋敷しもべ妖精の管理をする課があるけど、現状、決してしもべ妖精の助けになっていない。彼らの安全と健康、それから彼らの矜持も守るには、法改正も必要だ。
私の言葉を聞いたグレンジャーは、もう一度考えてみると言ってちらしやバッジ、募金箱のカンを鞄にしまい込んで、颯爽と去っていった。
彼らにもっと自由に生きてもらいたいという思いは私だってある。
でもさ。
実のところ、彼らは魔法族よりもずっと強い。
彼らに主体性を持たせれば、あっという間に主従は反転してしまう。
屋敷しもべ妖精は攻撃的ではない。温和な性質を持っている。
昔々の魔法族が、強き魔法生物である彼らの牙を時間をかけて削り落としたから今があるのかもしれないじゃない。
ほんとに寝た子を起こすようなことにならないか、私には判断がつかない。
ハーマイオニーと別れてスリザリン寮へ向かう途中で、足をとめた。
実は、この頃“円”をしているとちょくちょくウィーズリーの双子が私に注目していることを感じる。何か言いたいのか、観察しているのか。
ちょうど、今も私のことを通路の向こうから見ている彼らの気配を感じていたのだ。
思い切って、振り向くと彼らを待った。
私が気が付いたことに向こうも気付いたのか、彼らはさっと近づいてきた。
「やあスリザリン寮のお姫さまに」「しもべが挨拶つかまつります」
元気のいい、ふざけた言葉に嫌味はない。“円”で感じる彼らの感情にもぶれはない。悪感情は抱いていないということ。
「何か用事かしら? ウィーズリー・ツインズ」
「あのさ。スキャバーズのこと、礼を言いたくて」「それからロンに梟をくれたことも」
「「自分で選んだんだってすっごく喜んでいたからさ。これはぜひお姫様にお礼を言わねば、とね」」
さすが双子。長文でも息ぴったりだよ。
つまり、彼らは私に礼が言いたくて、チャンスを窺っていたということか。今頃?と思わないでもないけど、私がひとりになる処を待っていたのかな。
「気にしないで。先に証拠を見せてピーター・ペティグリューを捕まえるってわけにいかなかったから、ロン・ウィーズリーは急にいなくなったペットにとても悲しんだだろうと思って。梟は気に入ってくれたならとても嬉しいわ」
「俺たちからも礼の品をと思ってさ」「姫にはこれを進呈しよう」
僕らが開発しているんだ、と渡されたのは悪戯グッズのセットだ。何があるのかざっくり説明してもらった。発想が面白い。すごく気が利いている。仮病グッズとかすごいよね。
映画や本では読んでいたけど、実際に自分も魔女になって、余計に思う。こんなの私の今の実力では絶対作れない。彼ら、マジで天才だよ。
「ありがとう! あなた達は自分達でこんなすごい物が作れちゃうのね。素晴らしい才能だわ」
実はもう商売をしようと考えているのだと彼らは明るく語ってくれた。ウィーズリー・ウィザード・ウィーズの悪戯グッズの価格表を広げて見せてくれる。馬鹿長いリストを見ると、今日貰ったものもある。私は感心してそれを眺めた。
「これって素晴らしい才能よ。もし費用的な面で困っているならぜひ出資させて。あ、施しじゃないわよ。当たる商売に
「ああ。費用はなんとかなりそうなんだ。なんとか、ね」
ツインズのどちらかがそう言うと意味深に相棒を見る。相棒も肩をすくめ、
「そうそう。なんとかなるはずなんだ。もうすぐね」
と言った。
原作通りなら、賭けの賞金をレプラコーンの金貨で支払われるという詐欺にあっていたはず。いま支払わせようと必死なのかも。
彼らには『忍びの地図』を奪ったことに対する後ろめたさがある。できれば何かちゃんとしたことで彼らに報いたいとずっと考えていた。
……そうだ。
「出資の話は一旦引き下げるけど、その気になればいつでも言ってね。本気で出資したいって思っているのよ。
そのかわりと言ってはなんだけど。きっとあなた達なら有効活用できる場所を紹介するわ。そうね。また時間がある時に……」
今はハリーが『必要の部屋』で特訓中のはず。
ハリーの使わない時間をハンナに確認してから待ち合わせの時間をフクロウで連絡すると約束しておいた。そして、改めて自己紹介をすませる。
「俺がフレッド・ウィーズリー。フレッドって呼んで」
「んで俺がジョージ・ウィーズリー。ジョージだよ」
「エリカ・レストレンジ。エリカって呼んでくれれば嬉しいわ」
見た目の違いを見つけることは難しい。
でも、“円”で感じるオーラは双子らしく似通っているけど、ちゃんと違いがある。どちらがどちらかかは今教えてくれたから、次からはオーラの違いで双子のどちらか判別できそう。
「じゃあもう一度。俺はフレッド」
「俺がジョージだよ」
そういうと彼らは腕を組んでぐるぐると回ってみせた。
「「さあエリカ。俺は誰?」」
さっと別れて全く同じポーズを取る。うん。わかる。オーラは覚えたもの。
「あなたがフレッド。そしてあなたがジョージね」
「すごい! 当たってる」「母親でも間違うのに」「「すごいやエリカ」」
明るく屈託のない笑顔に、私も笑顔がこぼれる。
じゃあまた今度ね、と言って手を振って別れた。
彼らが『必要の部屋』で何をするか楽しみだ。悪戯グッズの開発研究室みたいにするんじゃないかな。