――――花山 薫、19歳。
五代目藤木組系暴力団、花山組二代目組長であり、日本一の喧嘩師、誰もが認める漢である。つまるところは極道、世間一般の言い方をすればヤクザと忌み嫌われるが、若くして組を任されているこの男は、自分がどうしてこんな場所にいるのか、その理由がまったく分からなかった。
ある日、花山は夜の繁華街を歩いていた。自身の組のシマ・・・縄張りのことだ。
自身のシマで違法な取引が行われていないかを管理するのも組長としての自分の務めであるが、この日はただ酒を飲むためにただうろついていたといってもいい。
「・・・・」
繁華街の人間たちは白スーツで大柄な顔に疵を持つ男を見れば、誰もがそれを花山と認識する。だが、不思議と住民たちに侮蔑の眼差しや嫌悪感を抱かれることは無い。ヤクザなのにそう思われないのは、花山薫がその界隈では非常に慕われているからだ。
花山は自身のシマでは非合法な商売は許さない。 売春、麻薬などの非道による売り上げは徹底して彼は取締り、花山組の収入源は投資とおしぼりのレンタル業・・・商店のみかじめ料だけである。
その為、彼のシマである街では犯罪が激減している事もあり、ある種の犯罪の抑止力となっている。
「・・・・・」
花山が不意に歩を止める。滅多に歩みを止めない男がそうしたのは理由がある。視線を感じたのだ。夜の繁華街、会社帰りや遊び人で多くなる時間帯ではある。自身の外見に慣れていない者は自然と視線を向けてくるのはいつもの事だが、今回のは一味違った。
一人の少女がこちらを見ていた。
「・・・・」
身長は150くらいだろうか、14,15歳くらいの赤い髪をした少女がこちらを見ている。何故こちらを見ているのか不思議に思った花山だが、この時間帯に中学生程の少女が歩いているというのはあまり良くない事だろう。
つい先日も、麻薬を売買していたバーを花山自身が取締り、潰してきたばかりだ。その周辺の掃除は粗方ついたが、その残党がこの近辺に住みついて商売をしているという可能性は捨てきれなくない。
すると少女は突然として、路地裏へ通じる細道を走り出した。夜の繁華街、路地裏と来ればもう連想ゲーム的に犯罪に巻き込まれるであろう展開が容易に想像できる。
・・・面倒くせェが………。
先ほどの少女が走り込んでいった細道に、花山も追いかけるように歩き出す。だが花山はこの時点では気付いていなかった。あの少女が、花山をこの道を歩くように誘導していたことに。
「~~~~ッッッ!?」
そこから細道を抜けた花山が見たのは見知らぬ土地であった。開ける視界、辺り一面が樹木に覆われた夜の繁華街とはかけ離れた世界に、花山は衝撃を受ける。
見渡せば、コンクリートの壁もビルもまったく見当たらない、まるでアマゾンのジャングルにやってきたようだ。空は果てのない漆黒に覆われ、周りには自分の身長よりも遥かに高い樹木が至る所に生えている。
・・・音?
花山が耳に聞いた音は大地を鳴らす轟音だった。距離は近い。というか、ほぼ間近だった。そこには極道である花山がまたしても感じた衝撃の光景。
一人の少女が赤い装束を身に、身の丈に合わない大斧を振り回していた。しかもその相手はその少女よりも遥かに大きい漫画とか、アニメに出てきそうな異形の怪物。
「おおおおおおおおおおッ!」
大斧を持つ少女が果敢に化け物達に向かっていく。人間とは思えない跳躍力、速度で敵に近づいては禍々しい異形の怪物に大斧を振り下ろすその光景。花山は自身が漫画とか、アニメの世界にでもやって来たのではないかと錯覚する。
「―――ッッ!!」
だが、この世界が現実じゃないとか、ゲームの世界だとかを判断する思考すらも中断させる事態が起きる。戦っていた少女が敵の攻撃を受けて地面へと叩きつけられた。
倒れた少女の身体に何度も巨大な尻尾の攻撃が叩きつけられる。致命傷を受けた少女は起き上がろうとする気合を見せるが、その度に尻尾の攻撃に見舞われ、地面へと数度叩きつけられてはその地に少女の血が舞った。
「・・・・」
花山は憮然と動き出す。日本一の喧嘩師と言われる彼とて、あの巨大な生物が明らかに異常な存在であるということは実際に目で見て感じ、理解することが出来た。それでも危険を冒したのは前に出たのは彼にとっての美学に反したからだ。
圧倒的に力量を持つ強者が圧倒的に力量で劣るであろう弱者相手に複数でいたぶるという光景は強者である花山にとっては許されざる行為だった。前に出る理由など、それだけなのである。それが例え人の形をしていない異形の者が相手でも。
○
満身創痍の銀は困惑していた。自身の目の前に現れた大柄な男に対して。
・・・どうして樹海の中で男の人が。
銀を含めた彼女たちに与えられる神樹の力は万人に与えられるほど安いものではないのだ。勇者としての力を与えられるのは必ず、無垢な少女であるという条件がある。歴代の勇者の中に男性がいたという話は銀も知らない事だし、博識な須美が来いたら”ありえないわ”と口にするに違いない。
だとすれば、一般人の住民が何かの間違いで神樹の結界の中に入り込んでしまった・・・と考えるのが妥当な線だろう。それで解決させるのにはかなりの無茶があるのだが。だから銀が取る行動は一つだ。決まっていた。
「に、にげて・・・ください・・」
銀が戦っているバーテックスはこれまで対峙してきた中でかなり強敵だ。自分が身体を張り、踏ん張って見せてきたがそれすらも越えてくるほどの異常さがある。
目の前の男はただの一般人だ。体格はかなりのもので腕っぷしに自信があったとしても、相手がバーテックスである時点で全てが無謀な戦いである。
「くぅ・・・がはッ」
動けば砕けそうなくらいに銀の身体が軋む。貫かれた腹部から血が止め処なく溢れ出し、行動するという動作すら拒否させる激痛が銀を襲った。それでもこの無関係な人間だけは逃げる時間を作ってあげなければならない。命燃え尽きようとしても戦うことを、他人を助けようとするのは銀にとって、勇者にとって当然のことだからだ。
その様子を見た花山が口を開く。
「・・・動くんじゃねェ」
「え・・・?」
前を向いていた顔がこちらを向く。生々しい程に刻まれている男の疵に銀は戸惑いを隠せない。花山はゆっくりと視線を前へと戻し、化け物三体と対峙する。
「死ぬぜ・・・お嬢ちゃん」
眼鏡を外し、戦闘態勢へと移行する花山が呼吸をした瞬間、銀の眼には彼の背中から何か見えない力が溢れたような気がした。漫画とかでよく描写される氣・・・オーラと呼ばれるものを銀は初めて理解した。
スコーピオンバーテックスが動き出したのはものの数秒後である。その巨大な蠍の形をした尻尾を振り回して遠心力を利用した打撃の目標地点は銀の目の前に突如として現れた花山だ。
「あ、あぶないッ」
「・・・・」
後ろで銀が叫ぶ。だが叫ぶのはあまりにも遅すぎた。銀が動いて盾になるにもその動くという行為すら否定するように身体の動きは鉛のように重い。容赦なく尻尾は花山へと叩きつけられた。
「あ、ああ・・・ッッ」
砂塵が舞う中、銀の中では後悔が生まれる。勇者として、自分が盾になってでも戦わなければならないのに、勇者として守らなければいけないのに、己の無力さを実感させられた瞬間だった。通常の人間がバーテックスの攻撃を食らい、生きていられるはずがないのだ。
―――――そう、普通の人間ならば。だが、これは花山薫の話だ。
「・・・・・
砂塵が晴れ、視界が開けた銀が目にしたのは平然と仁王立ちしている花山薫の姿だった。
「ええッ!?」
銀は驚愕する。それもその筈だ。ただの一般人がバーテックスの攻撃に耐えきれる筈がない。普通の人間ならば、今の攻撃が当たらなかったとしても即死するか、致命傷になるはずなのだ。だが、もう一度言わせてもらえるならばこれは花山薫の話である。
花山薫は
範馬刃牙や彼の父オーガによる四肢の完全破壊の時は戦線には復帰できないとまで言われた。
死刑囚スペックとの闘いでは口の中に銃弾を詰め込まれ発火させられ、両側の頬が貫通した。
マフィアGMとの抗争時はスナイパーライフルで全身に鉛玉をぶち込まれ、頭蓋まで達する弾丸をお見舞いされた。
古代人ピクルの突進を受け止めた際は彼にトリケラトプスのイメージを抱かせた。
その幾多の激戦により培われた痛みへの耐性。一言でいうなればタフと片づけてもいい。そんな彼がたかだか少女を吹き飛ばす程度の尻尾攻撃如き、耐えられないわけがないという話なのだ。
バーテックスは再度尻尾を振り下ろす。 彼らにとって今の一撃で死ななかった事には特に疑問を抱かなかった。 花山が死ななかっただけなら、また再度殺せばいいという思考で同じ攻撃を再開する。 ただそれだけである。
尻尾が花山の頭部真上に叩きつけられたのを今度は銀も確実に見た。えげつない轟音と共に花山の頭部から血が噴き出し、思わず銀が目を逸らすが、再び目を開くとそこには平然と立つ花山の姿がある。
「う、そ・・・」
勿論、花山も無傷ではない。だがそれ以上に平然と立ち、バーテックスを睨み付けている花山の姿は銀から見ていたらほぼノーダメージと言っていいほどの状態だった。
そしてバーテックスの三度目の攻撃。確実に殺すかのように先ほどよりも勢いを増した尻尾が花山の頭部へ放たれる。岩をも砕き、勇者すらも動けなくさせる必殺の打撃が花山へ繰り出される。
ゴキン、というまるで金属でもブッ叩いたような音が響く。確実にヒットした音だ。花山の頭部だけでなく、顔面、穴と言う穴から血が噴き出す。だが花山はその攻撃を受けた上で――――。
バーテックスの尻尾をその手で掴んでいた。
○
~大赦のとある病室~
「ええ、掴んでいました。あのバーテックスの尻尾、プにプにした球体の間にある関節部分ですかね」
―――握っているだけでした。多分、あの人、最初っから見えてたんでしょうね・・・相手の攻撃とか。
「それからですけど、やったことは簡単でした。もう片方の手で尻尾を掴んだら一気に―――」
―――両手で力任せに尻尾を引きちぎったんです。
「・・・何を言ってるんだって顔してますね、分かります。アタシもそうだったんで」
○
銀には目の前で起きた光景が信じられなかった。バーテックスの身体を傷つける事が出来るのは勇者としての力を持つ自分たちだけ。または神の力を宿した武器による攻撃のみだと。銀は勉学は得意ではなかったが、戦闘に関しての知識は多少なりともあったのでそれくらいのことは覚えている。
だが、目の前のこの光景は何だ。
花山が両手で尻尾を掴み、力を込めて数秒ほどだ。尻尾の関節部分からメリメリと避けるような音が聞こえた瞬間、ブチィとより甲高い音と共に尻尾が引きちぎられたのだ。
「・・・・」
依然として尻尾を掴んで離さない花山は自身へ散々攻撃を仕掛けてきた蠍型のバーテックスを睨み付け、告げる。
「・・・・・まだ、やるかい?」
これは警告だ。花山薫の。だが相手は人の言語が通じない化け物。掴まれた尻尾を振り解こうと大きく揺らし始める。だが花山はまるで地面から生えた巨木の如くびくともしない。巨木と言うよりはまるで山だ。
「暴れんじゃねェ・・・」
再び両手で尻尾を手に掛けると力任せにまた引きちぎるのかと思いきや、今度はその尻尾を自身の方向へ力任せに引っ張って見せた。
「うえええええ!?」
銀は再び驚愕する。自身の何十倍も大きさを持つバーテックスがまるで吊り上げられた魚の如く花山の方へと大きく引き寄せられたからだ。
「・・・・・」
自身で引き寄せ、まるで漫画のワンシーンの如く、バーテックスを振り回す。恐ろしいのはこれが人間の力だけで行われているという事と、回転する速度がさらに上昇し続けているという事だった。
遠心力による速度が最高点に達した時、花山が叫ぶ。
「・・・・ラァッ!!」
気合、怒号そんな類の言葉とともに今度は花山がバーテックスを地面へと叩きつけた。大地が割れるような激震とともにバーテックスが大地へとめり込み、砂塵が舞う。
「うわぁ・・・」
砂塵が治まるとそこにはバーテックスだった何かがあった。 バーテックスの外面はあちこちが砕け、毒液を蓄えていた毒袋は無残にも破け、辺り一面に毒液らしき液体が飛び散っている。そのバーテックスは完全に絶命していた。
○
「ええ、死んでました。あのバーテックス、攻撃力はかなり高かったけど、防御力自体はさほど高くなかったみたいで・・・あの後すぐ浄化の儀で消えちゃいましたね」
――――その時、思っちゃったんですよねアタシ。あの人、多分避けようと思えば、全部の攻撃も避けれたんじゃないかって。だって尻尾を掴めるくらいですし。
「最初はアタシが倒れてるから避けれないんだって申し訳なく思ってたんですけど」
――――あれは、ワザとですね。なんというか、攻撃を受けきれる自信があったんじゃないかと。自身の
「自信とか、そう言うのだけじゃあなくて・・・多分それがその人の”生き方”なんだってアタシは思いましたね」
――――え?なんだよ須美、アタシなんか変な顔してるか? ジロジロみるなって。その後も凄かったんだからな!だからさっきから剥いてくれてるリンゴ、食べさせてくれよー。 お腹減ってるんだからさー。
花山の攻撃がバーテックスに通用する理由。神樹様が呼び寄せた訳だけど”呼び寄せるだけでエネルギー使いすぎた、でもせめて殴れるようにしとくから”と花山の拳に限定してダメージが通るようにした。
花山を呼び寄せたのは神樹様だけど橋渡しとして活躍したのが高嶋ちゃん。だいぶ無理なお願いをしたから神樹様が疲れてしまう。影響は暫く四国に雨が降らなくなる。つまりうどんが食べられなくなるほどの水不足が起きる。園子の夢が正夢になる。
スコーピオンさんは犠牲になったのだ。花山薫のフィジカル解説の犠牲にな。話の更生的にはあと2話ほどで戦闘を終わらせてエピローグ書いて終わりの予定。
回想で銀が普通に病院にいるから生存確定しちゃってる。なんてこった。その時は園子が銀のベッドに居眠りしてて、窓際の椅子にちょこん、と座ったわっしーが銀の為にリンゴを剥いていると想像してください。
投稿初日から色んな人に見て貰えて感謝しています。今まで書いてきた作品初日のUA数を軽く超えてきたからビックリ。コラボって凄い。でもやっぱりプレッシャー。でも書いていると楽しい。なんだコレ。