ザコちゃんは告らせたい〜ポンコツ少女の恋愛頭脳戦〜 作:赤茄子 秋
後、原作の
7巻の67話
9巻の82、85、88、89、90話
10巻の95、96、99話
11巻の103、104話
12巻の115話 を読み直しておくのをオススメします。
9巻での体育祭は個人的に一番好きです、色々とオチも。
秀知学院高等学校、それは将来の期待された秀才と血統の集まる学校。幼等部から大学生までの一貫校であり、そのどれもが超一流。
また生徒は財閥の御曹司や御令嬢、社長の孫、統合幕僚長の息子、ヤクザ組長の娘、病院院長の息子、リアルで後継者争いをする王子などの傷一つければカンボジアへ出国させられるようなVIP達だ。
この学校を運営していくのは至難の技だろう。
そして、その学校行事の運営を任せられているのが生徒会である。
一流の組織を扱うのに必要な人材は一流の中の一流、言うなれば精鋭の集まり。それが秀知院学園高等学校生徒会だ。
会長を務めるのは鋭い眼光を持つが、その実は困っているものがいれば手を貸してしまうような心の持ち主であり、テストの度に一位を取り続ける勉学一筋で会長の責務を背負う秀才。2期連続会長を務める男、
財閥の令嬢であり、学年一と呼ばれる美貌に白銀に次いで二位の学力を誇る程の眉目秀麗、英才教育により何をしても卒なくこなす。恋愛以外は才色兼備な副会長、
見た目はゆるふわとしてるが、想像通りに中身もゆるふわ。しかしその人脈の広さや人ありの良さから生徒会では貴重な戦力であり、彼女自身の能力もピアノや語学に関しては他を寄せ付けない程だ。だがゲームなどでは事あるごとにイカサマをしては見破られ、泣きそうになっている。天然で可愛いポンコツな書記、
この3人は生徒会の2年生だ。この物語は会長と副会長の恋愛頭脳戦に巻き込まれる生徒会の物語……ではない。
まだ記していなかったが、1年生の生徒会役員も当然いる。
会計、
会計監査、
会計と会計監査という役職でありながらこの2人は犬猿の仲……と言うと友情めいた何かがありそうに見えるが、そんな事は無い。本当にいがみ合う、目を合わせる度にお互いに不快感を募らせる程の仲だ。
だが、それは白銀御行が会長の時のことだ。
これはその物語の先の話、新しい生徒会の話だ。
そして、この2人に焦点を当てる物語である。
☆☆☆☆☆
秀知院高等学校で、彼女が目に写ればその場で彼女だけを見てしまう。そんな品行方正で優秀な少女は資料を片手に生徒会室へと歩む。廊下は共有されている物、しかし彼女が歩けばモーセが海を割るように人の波も割れる。
「あ、伊井野会長よ!」
生徒会会長、伊井野ミコ。二年生の彼女は長く艶のある髪を靡かせながらその美貌を振りまく。彼女自身は学年一番と言う程ではないが、紛う事ない美少女だ。そんな彼女からは何処か近寄り難い雰囲気を皆は感じ取っている。
「あの凛々しい顔つき、いつ見ても美しいわ!」
「また試験で1位でしたわ、流石ですわ!」
だが、その後ろからゆっくりと追従する男が目に入ると伊井野に対しての声とはまるで反対の感情を露わにする。
「うわっ……石上副会長だわ」
生徒会副会長、石上優である。前髪は長く首にはヘッドフォン、暗い雰囲気は何処か近寄りが難い。二年生の彼に対して同学年も下の学年の生徒も一様に負の感情が現れており、特に女子は顕著だ。
「あそこまで暗いのに副会長なんて」
「隣を歩かないといけないなんて、伊井野会長が可哀想……」
「いくら前の生徒会に居たからって、副会長をやるなんて人選ミスじゃ……」
事の発端も石上は理解しているので、聞き流しているようだ。彼は過去にとある人物を助けようとしたが逆に嵌められてしまい暴力を振るうストーカーというレッテルを貼られている。
今は落ち着いているが、そんな彼の噂は根強く残っている。
なお、何故彼が副会長に選ばれたのか。それは石上自身もよくわかっていないのであった。
☆☆☆☆☆
生徒会副会長、それは選挙で選ばれた会長の指名によって決定する役職。会長によって選ばれる学校を運営していく為に必要な精鋭を集められ、その会長の補佐を行なっていく。だがただ優秀な者だけを集めるのではない、つまる所は会長の信頼に足る精鋭を集めるのだ。
その最も信頼に足ると言って良い役職こそが、生徒会副会長。生徒会のNo.2だ。
会長を役員の中で最も支えると言って過言ではない役員、有能でかつ他を導くだけの知力もなければならないこの役職に選ばれた者には会長に次いで栄誉があると言って良い。
前任の副会長であった四宮かぐやは、まさしく天才。非の打ち所がない完璧な人間(恋愛は除く)、その姿を2年もの間見て育った後輩がいる。
石上優、最も成長した秀知院の生徒は間違いなく彼だろう。仕事の大半をこなし、データ処理のエキスパートとして2期間の生徒会を会計として支えて来ている実績を持つ。
そんな今代の副会長である石上優は。
「辞任したいんですけど……」
副会長を辞めようとしていた!!
暗い顔でソファーに腰掛け、会長のデスクに座る伊井野に向けて呟く石上の顔には若干の疲れと少しだけ大人びた哀愁がある。
石上優が有能な役員なのは生徒会役員ならば誰もが知っている、搦め手を得意とし頭は回る。運動神経も昨年は体育祭でアンカーを代行する程に良く、成績も今は良い。そんな彼を見た伊井野は「またかよ」という目を向けながら一度纏めていた資料を閉じて、石上へと向き直る。
「以前も言ったわよ、これは貴方の矯正のため。前に比べて風紀委員の厄介にはなってないけど、それでもまだまだ生徒会役員という自覚が足りてない。私の任期してる間の辞任は許さないから」
はっきりと言われた言葉に石上は心の底から「頼んでねぇよ……」と心の中で呟いた。バッサリと斬られた傷跡は治りが遅く、数秒間だけ石上は自己嫌悪に陥るも何とか意識を保つ。
「いや……なら、せめて生徒会行く時に一緒に行くのは辞めておいた方がいいだろ。それぞれ都合もあるし、わざわざ俺を待たなくて良いだろ」
「貴方は仮にも副会長、私の目を離した隙にサボられたら困るの。故に却下よ」
「(いや、お前の印象悪くなるから小野寺でも引き連れとけって言ってんだよ)」
石上は伊井野の事が嫌いであるが、それは彼女に嫌われているのを自覚している事もある。一応女性としてはなくは無いのだが『現実的』ではないと理解している。だが嫌いなどとは関係なく『頑張っている奴が笑われるのはイラつく』やつである。頑張ってる奴である伊井野が自分の影響で発言力を失うような事があってはならないのだ。
「細かい所を気にし過ぎ、まさか私と歩いた程度で噂されるのが怖いの?」
「それはない」
嘘である。先にも言ったが、石上は伊井野を矮小化される事はあってはならないのだと思っている。いや伊井野だけではない、誰でも頑張っている奴は報われるべきなのだと考えているのだ。
噂されて伊井野がまた孤立してしまうのが恐ろしい、石上自身が原因になるのが恐ろしいのだ。
「ふーん……石上のそう言う所、嫌いだわ。直して」
「はいはい、知ってますよ」
何に対して癇に障ったのかは石上は深く考えなかったので、そのまま話を聞き流す。それがこの2人の普段のやり取りであり、これからも変わらら無いことだろう。
少なくとも、石上優はそう思っているのであった。
☆☆☆☆☆
伊井野にとっては何度目かわからない呟きかわからないが、思わず溜息を吐いてしまう。
「辞任したいんですけど……」
石上優の一定期間ごとにある副会長の辞任の話だ。
「以前も言ったわよ、これは貴方の矯正のため。前に比べて風紀委員の厄介にはなってないけど、それでもまだまだ生徒会役員という自覚が足りてない。私の任期してる間の辞任は許さないから」
伊井野はキツイ言葉を並べ、石上を黙らせてしまう。その言葉は全てが鋭利なナイフであり、突き刺さる物もあれば背中に突き付けられた物もある。だがそんな言葉を言う彼女の心は激しく動揺している。
「(待って、何で?石上の仕事量は増やしてない、彼を取り巻く環境整備も進めた筈。何処に不満があるの?私の会長として相応しい行動も取れてるし……って、何で私がこんなにこいつの事を考えないといけないのよ!?)」
なお、その動揺に石上は一切気づいていない。今も「何で……」とバッサリ切り捨てられた心に傷を自然治癒している。
「(ただでさえ石上と関わると面倒なのに!何でよりによってこんな奴に限ってステラの人なのよ!何で私がこんなやつを……!!)」
石上優を副会長にした理由は実にシンプルである。思い人を関わりがあっても不自然でなく、かつ一緒に行動する時間が長いと前任の会長達との経験から思いついた事だからだ。
石上の事を問題児扱いする人は多く、伊井野も噂を欠片も信じていなかったが昔は素行不良の問題児扱いしていた。石上を警戒し嫌う理由の殆どは尾鰭のついた噂に惑わされた者だけだ、首謀者は色々とアレな人達(秀知院のVIP)によって消されたが今もなお禍根が残る。
伊井野が副会長を石上に据えた理由も石上のイメージアップの為でもあったりする。石上がステラの人だと判明してしまうと何とかこの噂を取り除くべきと考えたがその考えを消すのは簡単にいかず、故に塗りつぶす事にしたのだ。
石上優は優秀な副会長という事実を一般に浸透させる為だ。現に少しづつ広まりつつある。一年の頃から生徒会や体育祭応援団員などで努力し、今もなお努力する石上優という本質を見られ始めて伊井野は『副会長なのは妥当』という意識を作っているのだ。
「いや……なら、せめて生徒会行く時に一緒に行くのは辞めておいた方がいいだろ。それぞれ都合もあるし、わざわざ俺を待たなくて良いだろ」
「貴方は仮にも副会長、私の目を離したすきにサボられたら困るの。故に却下よ」
嘘ではないが、真実は隠されている。石上への好意に気づいてしまった伊井野はそれを最近になって誰にも言っていないし自覚も曖昧であるが認めた。石上は嫌いではないという事を。
だが認めただけで、どうしたら良いのか何もわからなかった。
伊井野ミコは美少女であるが、男女の経験は皆無だ。王子様はいると本気で考えるようなメルヘンな少女であったからなのもある。そして石上に対して嫌われている事も自覚し、そんな中でどうすれば良いのかを考えられなかった。
故に考えたのは先人の知恵と脳科学、そこにはポピュラーな物でザイオンス効果という物がある。それは人が回数重ねれば重ねる程に愛着をわかせてしまうという効果だ。
親から趣味の悪いヌイグルミをプレゼントされたとしても、長い時をかければそれは宝物となる。その効果を発揮するのに、伊井野はとりあえずこの作戦だけは行使している。
そして、現在は10月。
会長に就任してから実に1ヶ月。
真実に気づいてしまってから7ヶ月。
その間、特に何も起こらなかった!!
結果として、石上に対しての好意が増しただけであった。
「(このままじゃ不味い。でも私から石上に対して直接何かするのは、何か負けた気がする。仮に私から……そ、そんな……そんな事言えばこいつは)」
伊井野は直ぐに頭を回す。すると思いつくのは最悪の想定ばかりだ、『どうトチ狂ったらそんな言葉出るんだよ、冗談も休み休みに言え』や『あれだけ嫌っていたのは演技だったのか、お可愛いらしい事でしたね』と伊井野を見下した冷ややかな言葉がかけられるのが怖くて仕方ない。
「細かい所を気にし過ぎ、まさか私と歩いた程度で噂されるのが怖いの?」
恋愛で視野が狭くなり過ぎて細かい所を気にしていると気づかない彼女はそのまま話を続ける。
「それはない」
「ふーん……石上のそう言う(女の子を気遣えない)所、嫌いだわ。直して」
石上はそれに対して「分かってますよ、分かりきってますよ」という風に聞き流している。なお伊井野は少し不機嫌になり「(これだけ私が脈ありかもしれないみたいな雰囲気出してるのに!あんたが告白するなら仕方なく考えてあげるのに!この鈍い奴は……!!)」と理不尽な怒りを燃やしている。
この2人は立場は変わっても相容れないのであった。
そんな普段通りの時間が過ぎていると生徒会室のドアが開く。
「あ、麗ちゃん。圭ちゃん達も」
そこには今期の生徒会の役員達が揃っていていた。
書記を務めるのは中学生の時も生徒会の副会長を務めていた少女、色々と問題があった前任の書記である藤原千花の妹、
石上の後任である会計を務めるのは中学の時も生徒会で会計を務めていた少女、目元や銀髪が前会長である白銀御行の面影を残す
そして伊井野の後任である
あと一人だけ、庶務がいるがその者はこの場に居ない。
白銀妹と藤原妹は一年生、小野寺は2年生と前期の生徒会の学年比は同じである。なお男女比は男の比率が減り、石上の心の安らぎも少なくなっている。
「今皆さんお暇ですか?なら親睦を深めてゲームしましょうよ!」
石上と伊井野は藤原妹からの提案に「あ、いつものか」と少しだけ頭を抱える。だがこの頭の抱え方の違いがある。
「(うわぁ、何で女子ばっかのゲームしないといけないんだろ。ラノベでももう少しマシに男女の数を弄るぞ)」
「(どうにかこのゲームで石上に私という完璧な少女を再認識させないと)」
ゲームの度に起こる気の沈みと高揚。2人は正反対の心持ちでゲームに臨む。なお、かなりポンコツなのを伊井野は自覚していない。
「昔やった事あるわね」
そしてゲームの内容はシンプルである。各自コインを持ち(以前の不正防止のため10円は使わずに伊井野の用意した別のコインで代用)そして出された質問に対して全員がyesの場合は表、noの場合は裏にして匿名で答えるゲームである。
そして伊井野はコインを配り終え、石上は嫌そうな顔で受け取る。
「じゃあ私から!今恋してる人は表にしてください!」
そして提案者である藤原妹から問われたのは恋。高校生とは正しく青春を謳歌する時間の事、そんな中で自由に生きている高校生の生活にかかる甘いスパイス。この特別なスパイスに憧れてしまうのは女の子が4人も集まるこの場において必然なのだ。
そして集計され、公開される結果は。
「3人、表……」
「詮索はしないでよ、そう言う邪推する所とか人としてどうかと思うから」
石上が思わず呟くのは恋をしてる者の多さだろう。やはり変人とポンコツの集まりである生徒会でも女の子なのだろうと実感しているのである。
ちなみに石上は今は恋をしていない。半年以上前に告白した子安つばめ振られ、未だに振られた事を引き摺っているが新たな恋はしていない。
なお未だにかぐや式のスパルタ指導を受けているので試験での学年順位は前回が最高で14位になっている。
「じゃあ次は僕で。正直……副会長がかわって欲しいと思ってる人は表で、思わなければ裏でお願いします」
「暗い!空気読みなさいよ!」
前回も似たような質問をした石上の表情が今日一番に暗くなる。何故自分から傷つこうとしているのかは周りにはわからないが、石上も何故かはわかっていない。
だが石上はその質問をした直後に天啓が降りる。これならば、副会長を堂々と辞められると。石上は確かに優秀だが、そのメリットを覆せるデメリットがあれば良いのだ。
即ち、役員のパフォーマンスの発揮できない環境要因となる事。嫌悪され、生理的に無理な奴が隣にいればそれだけで集中力は散漫となり、ストレスも溜まっていく。完璧だろう、石上のハートがズタズタにされる事以外は。
「4人、裏……」
信じられないという顔をする伊井野。逆に計画通りという顔をする石上、だが計画通り過ぎて若干泣きそうな顔になっている。
石上は副会長を本気で嫌がっている、それは前任の四宮かぐやを見てきたこともあるだろう。分不相応な立場に石上は他に代わりに適任な者は居ると思っているのだ。
「伊井野、辞任届の書き方教えてもら「却下。次、私」……」
なお、それをバッサリと切り捨てて伊井野は次の質問を出す。その事に対しては石上以外は誰1人として文句を言わずにゲームは続けられる。
「石上が生徒会に必要だと思う人は表、そうじゃなければ裏で。石上はやらなくて良いから」
そして有無も言わさずにコインを集める。そしてまるで中の結果が分かっているかのように石上の前にわざわざ運んで公開する。
「4人表ね」
「え、意味がわからない……」
伊井野の表情は何処か誇らしいのか嬉しがっている。石上は本気でわからないようだが、あり得る可能性を少しだけ考える。
「お前、もしかして……」
「な、何よ」
伊井野は今更自分が何をしたのかを自覚する。
今したのは間違いなく石上を、石上だけを気遣った質問だ。いつもはさりげなく理由をつけてフォローするが、これはストレートになり過ぎだ。結果を当たり前だと思い堂々と出したが、これではまるで石上なんだから当然という風に出している。
逆に言えば、石上の事を信頼しきっているのを露わにしてしまっている。これは石上を告白させるというのに致命的だ。
自身の弱みを見せてしまうとは自殺行為に等しい、そうなれば上下関係ができてしまう。上位者からの告白、それの可能性は限りなくゼロに近い。伊井野は石上の上位者でなければ告白は受けられない、でなければ告白をする側になる。
即ち、伊井野の敗北だ。負けず嫌いの彼女は直ぐに頭を回転させる。
「(こ、このままじゃ石上に負ける……?!
負けるのは、負けたら石上に告白させられない!
石上はバカじゃないからバレて……ま、不味い。
そんな事になったら……今まで石上だけちょっとだけ高いお土産のお菓子を渡してたのも、藤原先輩から色々と弱点を聞いたのも、白銀先輩から石上の学校外での日常生活を聞いたのも、四宮先輩から石上の得意科目とか聞いたのもバレる!?
バレたら……石上から『いつもは正義の代行とか言ってるけど、やってる事はストーカーと同じか』って言われて軽蔑されて……いや、大丈夫!そこは矯正のためって誤魔化せる!
でもそれをしても明らかに石上からの印象は悪くなる……ど、どうしようぅ……)」
だが結局、良い案もなにも思い浮かばない。マイナスに方向にばかり頭が回る。チラりと石上を見てみると、石上は何か閃いたようだ。
あぁ、負けた。そう伊井野は思うが何故か心は少しだけすっきりしてる部分がある。枷が消えたように、翼を得たように。負けても良いのでは?とも思い始めてしまうような部分が、負けたからなんだと言うのか?と。
恋愛に勝ち負けなぞ、必要ないのではないか。
しかし負けず嫌いな彼女は心の大半を占めている。
だが、何かキッカケがあれば。そのキッカケで踏み切れてしまうような、キッカケを求めてる自分がいるのは知らない。
そして石上は。
「あー、わかった。雑用として必要って事か、男手無いし。伊井野に男の知り合い居ないのも仕方ないし」
ブチッと、何かが切れる音がした。
その言葉を聞いた瞬間、伊井野の目からハイライトが奪われ殺意を抱く。純粋な好意から出した質問の答えを曲解する程、頭は悪く無い筈なのに納得しようとしている。それに腹立ったのだろう。
「そう言う石上に女の子知り合いどころか男の知り合いが居るとは思わないのだけど。私、石上のそう言う所は本当に嫌い」
「ぐ……!」
伊井野のカウンター、石上のメンタルが5削られた。
「いや単に副会長って無茶苦茶に根暗でボッチじゃないですか」
「ぐばっ……!!」
続いて藤原妹の情け容赦ない心を抉るボディーブローが炸裂、石上のメンタルが3削られた。
「一応学年では上位の成績取ってるのにその雰囲気感じませんし、何より年上の威厳がまるでありません」
白銀妹の何気ない一言、石上のメンタルは2削られた。
「もうちょい副会長らしくなれって事、わかったらその前髪から変えて。キモい」
「がはっ……!?」
小野寺からのキモい発言、石上のメンタルは4減った。
石上は目の前が真っ暗になった。
後は心を破壊された石上を他所にゲームは盛り上がっていた。
本日の勝敗 石上の
☆☆☆☆☆
伊井野ミコは孤独な少女であった。それは融通の利かなくきつい当たり方をするなどで彼女自身が煙たがられているからだ。本人は正義の代行者として生徒会役員だけでなく風紀委員会に所属し、誰よりも真っ直ぐに事をこなしている。
だが今は少なからず生徒会など他の繋がりを持つ彼女であったが、針の筵に立つ様な孤独な時期はあった。クラスの全員から疎まれ、避けられていた時期もあった。彼女にとっては一番辛かった時であり、心の拠り所がなかった時だ。
だが、彼女はその時も踏み止まった。彼女は自身を貫き通した。
押し花と『君の努力はいつか報われる』という名無しの手紙、これを拠り所に彼女は自身を貫いてきている。
だからこそ、彼女は間違いは間違いだと言い続けている。幼い正義を信じている、それが伊井野ミコである。
「(何で、石上が……!!)」
そんな彼女が最も嫌っている男の名は石上優。『石上の事なんて考えるだけ人生の損失よ』という程に嫌っている男。
「(私の心の拠り所が……石上だった?納得いかない……!!)」
石上優は品行方正とは真逆、それどころか噂を信じない彼女は自身の目で見て不良の問題児であるという結論が伊井野に出されている。彼女の心の拠り所と想像していた人物像とはかけ離れ過ぎている。
きっかけは単純だった。石上が偶々やっているレトロなゲームを回収した時に開けてしまったた画面にステラの花言葉が載っていたのだ。
確かにこれだけならばただの偶然だろう。何の確証もなく、何の論理的な根拠も無かった。そう、無かったのだ。大仏こばちという彼女の友人からふらっと話してしまった時に『あぁ、やっぱり石上だったかぁ』という呟きさえ無ければ、気づく事は無かったのだ。
そして大仏に『証拠は何処よ!』と納得行く根拠を問うた。
結論から言うと、論理的な展開と証拠に納得してしまった。
展開されるのは石上が今迄行って来た数々のフォローの事例、そして今もなお流布されている噂の真実と証拠、信頼に足る証人の存在、そこには石上という人物像が150度は回転する程に逆に伊井野は信じられなかった。
しかし納得はしても、理解は出来なかった。
何かの間違い。そうに決まってる。そう思うのも無理はなかった。
そして、その気づきから半年以上が経過し。
伊井野ミコは軽く絶望しながらも、少なからず現実を見る少女に変わっていた。