ザコちゃんは告らせたい〜ポンコツ少女の恋愛頭脳戦〜   作:赤茄子 秋

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石上優は静かに暮らしたかった。

いつものように作業を行う生徒会。だがその日は会長である伊井野と会計監査である小野寺は居らず、他の面々が黙々と作業をしていた。

 

秋という季節もあり、紅葉が彩る一方で空は薄暗い曇天。今にも雨が降り出しそうな状態で、そんな暗い中で静かに作業をするのが性に合わない藤原妹はソファーで軽く伸びをすると副会長にふとした疑問をぶつける。

 

「そう言えば、石上副会長ってなんで伊井野さんの誘いを断らなかったんですか?」

 

その疑問は恐らく一年生の生徒会員ならば誰しもが持つ疑問だろう。一年生は実質的に生徒会で仕事をし始めたのは4月からだ。それまでの間は今の2年生の3名のみで仕事が行われていた。

 

だが、副会長に石上を据えた具体的な理由を知らなかった。

 

石上優は頭の回転力は何ら問題無い、むしろ優秀だ。搦め手を苦手とする伊井野と対照的な彼は相性が良いとも言える。だが石上の噂が良く無い事は1年生である彼女等でも知っている事だ。

 

石上優は暴力事件を起こしたストーカー。目が会うだけでクラスの女の子は泣き、泣かせた女は数知れず、そして石上も泣く。負の循環である。

 

そんな世間的な風評は以前に比べれば遥かにマシになってるのは石上自身も分かっているが、それでも副会長に抜擢するのはリスキーとしか言えなかった。

 

そんな石上が副会長を務めた理由を気になった藤原妹は溜息を吐きながらも考える石上に目を向ける。

 

「……逃げ場が無かったから」

 

そして呟いた言葉は何処と無く『どうしようも無かったんだよなぁ……』という呟きが聞こえてきそうな雰囲気を醸し出していた。

 

「逃げ場……つまり、弱み?もしくは既成事実!?副会長、何があったんですか?!」

 

「藤原姉妹を見てると、藤原家って本当に政治家の家系なのか疑問に思う時があるんだけど」

 

あの日、あんな事が行われなければ。石上が副会長という立場になる事は無かった。

 

☆☆☆☆☆

 

9月になり、第68期の生徒会の終了と共に会長である白銀御行は秀知院高等学校からスタンフォード大学へと飛び去って行った。

 

石上は2期に渡り生徒会で会計を務めてきた所為か、普段は意味もなく廊下を歩かないが生徒会に立候補者が決まったようで新聞がデカデカと張り出されているのを見つける。

 

そこには前生徒会の副会長を務めた四宮かぐやや、書記を務めた藤原千花も居る。やはり全員生徒会だったのもあり、次期生徒会長が誰になるのかは人並み以上に気になるのだろう。

 

学年が違うというのもあり、久しぶりに会った2人に挨拶をすると石上はもう一度新聞を見る。候補者が数名書かれているが、そこで真っ先に1人の少女の名前が目に留まるのも仕方ない。

 

「伊井野、会長に立候補したんですか」

 

前生徒会で会計監査の役職を担っていた石上と同学年の二年生、元々会長を目指していたからこそ生徒会にも入った彼女だから当然の帰結なのだろう。

 

「石上くん、知らなかったの?」

 

「いやまぁ……納得はしますけど。あいつとは生徒会があった時くらいしか話しませんから」

 

「なら、そろそろ彼女から話があると思うわよ。昨日に私もあったから。貴方も3期連続で生徒会に勤めることにかもしれないわね」

 

四宮は応援演説を務めた経験がある。彼女ならば三年生だけでなく他学年の票も掻き込む事が可能だろう。この学校で味方にいれば一番心強いのは四宮かぐやなのを、石上は理解している。

 

「いや、もう生徒会には入らないですよ。手を貸すのはやぶさかでは無いですけど」

 

「え、もう生徒会やらないの!?」

 

「藤原先輩、本当なら僕は生徒会に入るような人間じゃ無いですからね?」

 

石上は生徒会に不相応な人間だと自覚するのと同時に、前回のようにPVの作成程度ならやっても良いと思っている。実を言うと既にサンプルは出来ており、後は手直しをしていくだけなのだ。

 

だがこれは匿名か何かで送りつけようと石上は思っている。石上は見返りは求めない。『押し付けがましいのは趣味ではない』、そしてそれを『黙ってやるから尊いもの』と思ってるからだ。それに対して前会長の白銀は『変な方向に拗らせてる』と言っている。

 

何より、伊井野が正面からPVを渡されても拒絶する可能性もある。

 

「(まぁ、あいつが直接頭を下げたりはしないだろうな。プライド高いし、僕の事は何か恨みがあって無茶苦茶に嫌いだし)」

 

どうせ手を貸すとしても面と向かって頼まれる事もないだろう、そう思っていた石上はそこから立ち去ろうとしていると隣の四宮から「噂をすればじゃない」と言われ、嫌な予感がしながらも振り向く。

 

「げっ……」

 

長い髪をたなびかせる背の低い少女、伊井野ミコが嫌な予感の通りにそこにはいた。

 

「石上、暇よね」

 

「断定すんなよ、暇じゃないかもしれな「石上なら暇でしょ」……暇です」

 

有無も言わせず、石上は連行された。

 

☆☆☆☆☆

 

「……って校舎裏に連れ出されて伊井野から選挙講演用のpv作成を頼まれた」

 

簡単な経緯を説明した石上は珈琲を飲む。導入とは言え簡単な説明で疲れた喉を潤すのと同時に、仕事疲れでの若干の眠気を吹き飛ばす。

 

「別に、会長なら恥を忍んでお願いしてもおかしくないです」

 

「PCとかの情報処理能力に関しては、オタクの副会長って本当に優秀ですからね」

 

「トゲを感じるんだけど」

 

早くもコーヒーで癒した心が傷付いていく。

 

2人の言う通り、石上を戦力と見るなら伊井野が石上を使うのは正しい。しかし2人はまだ導入が終わったところで納得いかないのは石上はわかっている。石上が逆の立場だとしてもここからどうすれば副会長へと繋がるのかはわからないだろう。

 

「じゃあこの時に副会長も頼まれたんですか?」

 

「いやまぁ、その時に頼まれてたら……」

 

石上は言い淀む。

 

「頼まれたら検討はしても、全力で逃げ道を残すのが石上副会長と姉様から聞いてますけど」

 

その言葉を聞いた石上は藤原妹から目線をサッと外す。

 

「……図星ですか」

 

白銀妹の視線が残念な先輩を見るものになっていた。

 

☆☆☆☆☆

 

会場から惜しみの無い拍手が送られる。拍手を送られた生徒、前生徒会副会長の四宮かぐやは悠々と壇上から降りていく。そしてその先には鳴り止んだ中でも未だに拍手を続けて迎え入れる藤原千花、石上優、大仏こばちの三人がいる。

 

「流石は四宮先輩ですね」

 

「可愛い後輩の為、このくらいは当然よ」

 

石上は拍手を止め、壇上へと目を向ける。そこには以前の生徒会長の選挙とはまるで違った雰囲気で堂々とした伊井野ミコが居る。その背後には石上の作ったスライドとPVが写し出され、概ね好評なのに一安心する。

 

「伊井野のあがり症も不安でしたけど、よく矯正できましたね。流石ですよ」

 

「まぁ、色々と策を講じたのよ」

 

伊井野ミコは純院の生徒だ、以前の会長の弱点とも言えるそれは伊井野の武器になっている。今までの会長が白銀であったのが強みになっているのだろうが、彼女の前回での生徒会選挙で顔を覚えられているのも大きいだろう。

 

これならば問題なく、彼女が当選するだろう。

 

「……あれ?」

 

「どうしたの石上くん」

 

「なんか、僕の作ったPVと若干ペースが早い気がして」

 

このハイペースで進められたらスライドが終わってしまい、尺が足りない。最後のスライドが消えたが、伊井野は気づいていないのかそのまま演説を終えてしまう。時間が少ない、話したい事を全てが話せて無い筈なのにだ。まるで切り上げたように感じるが、機材のトラブルなのかと動こうとした時に直ぐに石上の知らないスライドが現れる。

 

そこには【次期副会長について】とデカデカと書かれている。石上も気にはなっていた、伊井野は1年生の時は本気で藤原千花を副会長にしようとした程で藤原千花の本性を知る者は石上を含めて絶句していた。

 

だが藤原千花は三年生、任期的な問題でも受験的な問題でも副会長にするのは難しい。石上の知る限りで副会長に任命されそうな人物は思いつかない。言うなれば会長の補佐を行うのが副会長だ、そこには役職以上に仲間としての繋がりが必要なのは石上は2期の生徒会を通して理解している。

 

そして石上は同時に考える。これの製作をしたのは何か狙いがあるのだと、新しい層の票を取り入れる為の策なのだろうと。唯一分からないのは石上自身にその話が伝わらなかった事だが。

 

「そして最後に、私の補佐として生徒会副会長に……」

 

予想として可能性があるなら親友の大仏こばちか?そんな考えをしながらその名を待つ。果たして誰を選ぶのか。石上がその名を様々な予想をしていたが、その答えは石上の考えを遥かに上回るものだった。

 

「2期に渡り生徒会を支えてきた、石上優を任命します」

 

「「えぇぇぇ!!?」」

 

藤原千花と石上優はスライドに現れた石上優の写真と並べられた実績に絶句する。本気だ、本気でこの男を副会長にするつもりなのだと。石上は何かの勘違いで同姓同名の他人かと疑うが、写真は間違いなく石上本人のものであった。ただ写真は前髪や服装の整えられた美麗な姿なのだが。

 

そして展開される実績、このスライドを作ったのは恐らく伊井野自身なのだろうと前回と似たフォーマットのスライドなので石上はわかった。だがそこに石上の影の功績をデータとして示され、弁舌されるとは思いもしなかっただろう。

 

「何言ってんですかあのバカ!自分から票落とそうとしてますよ!?」

 

「大丈夫よ、今回の彼女ならこの程度は枷にもならないわ。精々ストラップ程度の重さよ」

 

「かぐやさん!彼はそんな可愛いアイテムじゃ無いですよ!?呪いの装備です!行動の度にデバフがかかっちゃいます!」

 

「藤原先輩が言うのは納得いかないですけど、その通りです!」

 

石上と藤原が本気で焦っているのにも関わらず、四宮かぐやと隣で応援していた大仏こばちに焦りの感情は一つもない。

 

「まぁ大丈夫じゃないですか?教会で呪いを解いてくれば」

 

意味深に言う大仏にも石上は食って掛かる。

 

「お前は楽しんでるだけだろ!こんなの藤原千花くらいしか思いつかねぇぞ!」

 

「ちょっと石上くん!なんで私もディスったの!?」

 

「あんたもディスったろうが!」

 

結果として多少の票数は落とす事になったが、第69期の生徒会長は伊井野ミコに決まった。

 

☆☆☆☆☆

 

事の顛末を聴き終えた藤原妹は絶句している。ここまで露骨に副会長以外の道を閉ざすのは中々のエグさである。石上もまさかこのような形で生徒会に入るとは思いはしてなかった。

 

されても会計、副会長になるのなんて予想外にも程があった。

 

「完全に全方位から外堀を埋められて副会長にされてますね」

 

「何処で間違えたかなぁ」

 

白銀妹の言葉に、今でも考えているようで具体的な答えは出ていない。石上は間違いを起こした記憶は多々あるが、この期間で何か起こした自覚は無い。どうすれば副会長という役職に選ばれずに済んだのか、それは今でもわかっていない。

 

「生まれた時からじゃないですか」

 

「そっからかぁ……」

 

実にシンプルな答えが出てしまい石上の目が死んだように暗くなった。いつもの事である。

 

「一応、その後に断ろうとしんだよ。でも『一度言ったことで嘘はつかないから』って四宮先輩まで巻き込んで……藤原先輩だけは許さない」

 

「姉様は何をしたんですか!?」

 

よくわからない憎悪の炎が燃やされ、その矛先が自身の姉に向けられたのだから藤原妹は本気で焦っている。そんな2人を見た白銀妹は『高等部の生徒会ってこんな雰囲気なのかぁ……』と間違えた認識をするのであった。

 

☆☆☆☆☆

 

風紀委員会を兼任する伊井野は同じく風紀委員であり友人である大仏こばちに向けて日頃の鬱憤を吐き出すように愚痴を言っていた。

 

今回の話題は生徒会の選挙の時の話だ。石上を校舎裏に連れて行き色々と仕事を任せ、色々と質問をした時である。

 

「あの時のあいつ、キザったらしくて気色悪かったわよ!私は『どんな生徒会ならいいのかわからない』って言ったのに、何が『お前が会長なら何でも問題無いだろ』……って、あんな事聞いてなかったのに!」

 

「それ7回くらい聞いた気がするけど」

 

なお、側から聞いていればただの惚気話である。紅潮させた頰と溢れ出る謎の笑顔に大仏は「なんでこんな事聞かされてるんだろ……」と思いつつも伊井野は話を続ける。

 

「石上のこと好きなんだね」

 

「へっ?……あ、あんな奴!好きでも何とも無いわよ!」

 

「あんな演説してもまだ言い張るんだ……」

 

あの日の演説は彼が如何に有能な生徒会の副会長に相応しいかを述べていたが、あれは石上に対する『プロポーズ』と言って差し支えなかった。少なくとも大仏にはそう聞こえていた。

 

そしてこの事も四宮と大仏しか知らないが、伊井野のあがり症はまだ治っていない。彼女の大量の視線に晒されてしまい発症するそれはとある状況下でしか治らない。

 

昨年も発症したあがり症も白銀前会長が居なければ醜態をさらしていたのだろう。

 

だが本番ではその気はまるでなかった。あの時の彼女は堂々とした、正しく生徒会長に相応しい姿であった。実を言うと石上の視線しか気にしていないというまさかの方法なのだが、効果覿面であった。

 

「確かに色々と見直しはしたけど、私の理想とは程遠いから!あんなの王子様じゃない、詐欺師よ!」

 

「恋の詐欺師かぁ、ミコちゃん面白い事言うね」

 

「何処も面白くないわよ!」

 

ここまで意固地になるのは長らく石上とは全く反りが合わず、自分が石上のフォローしてるにも関わらずに上から目線で話してくる事が多いのが気に食わなかったのもあるだろう。

 

だが何よりも予想外の方向から自身の憧れている人物であったのが癪に障ったのだろう。

 

「そうだよね、ミコちゃんが石上が好きなわけないもんね」

 

「えっ」

 

「そうなんでしょ?」

 

「そ、そうよ!やっとわかってくれたのね」

 

そして「だよね」と言った後に大仏は今迄の惚気話に対する鬱憤を晴らすように話し出す。

 

「『考えるだけ人生の損失』って言うくらいでミコちゃんとはまるで真逆で相応しくないよね。理想的な王子様とかけ離れてるし、お付き合いしても『破局』結婚できても直ぐに『離婚』、バツイチで子どもを育てる事になりそうだよね。所詮は紛い物でミコちゃんに手紙を渡した時は単に中学生にありがちな正義感で……ん?」

 

しかし途中で話すのを辞めてしまう。それは目の前でじんわりと目尻に涙を浮かべて先ほどまでのような覇気が失せた弱気の少女が居る。

 

「なんで、そんな事言うの……?」

 

「そんな顔するなら言わなきゃいいのに」と思いつつも大仏は伊井野がどこまで本気なのかを理解する。少なくとも情緒不安定になる程、恐らく初恋だろう。「拗らせちゃってるなぁ」と思いつつも軽く謝りつつ伊井野のご機嫌をとる。

 

「ごめんねミコちゃん。でもこれで石上をどう思うかわかったでしょ?」

 

「あいつの事は嫌いよ!」

 

「変わらないなぁ……」

 

これはまだまだ先は長そうだ、そう思いながら大仏は伊井野と石上の未来を案じるのであった。

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