【遊戯王ZEXAL】声よ届け! 光貫く闇のデュエル!【映画風】   作:千葉 仁史

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①SKY

【1】

 

 声は届かない。

 

 真っ暗闇の深海の牢獄のなか、彼は叫んでいた。だが、どんなに泣き喚いたところで、壁を拳で叩いても、地を足を踏み鳴らしても、何の音も響かない。まるで周りの壁がスポンジみたいに、自身の鼓膜に届く前に音を吸い込んでいくようだった。闇によって、視界は塗り潰され、聴覚は閉ざされ、孤独は広がり、心まで蝕まれていく。

 

 それでも、彼は叫んでいた。友の名を呼び続けていた。“太陽”が深海の底にまで光を投げ掛けることを強く信じていた。

 

 

 

【2】

 

 エルンスト、曰く。全ての物語は「むかし、むかし」から始まる。

 

 むかし、むかし。古代の砂漠の国でのお話です。

 理由は存じ上げませんが、左手の甲を擦りむいた男の子が泣きながら裏通りを歩いておりました。痛い痛い、と男の子が泣いていると、誰かがその手を優しく包みました。唖然として男の子が顔を上げると、熱射から守る白いフードのローブを身に付けた女の人がいました。ローブの裾からは、砂漠の民らしからぬ白い肌が覗いていました。女の人は男の子を手当てし、「泣いちゃ駄目。男の子は強くないと」と微笑みました。

 

 その日から、男の子と女の人の交流が始まりました。女の人は、それはそれは不思議で珍しいことを男の子に話して教えてくれました。男の子は女の人に会えるのを楽しみにしていました。

 

 ところが、そんな日々は長く続きませんでした。ある日、砂漠の国の王宮から沢山の兵士が来て、女の人を連れて行ってしまいました。彼女は余所の土地から来た異邦人だったのです。異端者、という理由だけで彼女は捕まってしまいました。泣きじゃくる男の子に、女の人はあの日と同じように「泣いちゃ駄目。男の子は強くないと」と微笑みを残していきました。

 

 それが、男の子が女の人を見た最後でした。女の人は川の決壊を防ぐ堤防を造るための生け贄にされてしまったのです。

 

 男の子は復讐を誓いました。しかし、王宮の王侯貴族、神官は千年アイテムと呼ばれる道具を持っていました。所持者に千年の叡智の力を与える不思議なアイテムです。

だから、誰も千年アイテムの保持者に逆らえないのでした。千年アイテムを持つ者には、同じように千年アイテムを持つ者でしか立ち向かえません。

 

 だからこそ、男の子は女の人に教えてもらった異邦の魔術を用(もち)い、長い年月を掛けて独自の千年アイテムを造り上げました。

 

 復讐の刻(とき)は満ちました。男の子――男の人は、造り上げた千年アイテムを装備し、千年アイテムを付けた王宮の人物にディアハを挑みました。ディアハは決闘を意味します。そして、負けた者には恐ろしい結末――罰ゲームが待っているのです。

 

 長く熾烈な攻防の末、男の人は敗れました。ディアハの敗北の代償により、男の人の肉体は消滅され、魂は皮肉にも彼が造り上げた千年アイテムに閉じ込められた挙げ句、二重の封印を施されてしまいました。

 

 男の人は女の人の敵(かたき)を取ることが出来ませんでしたとさ。

 

 ※ ※ ※

 

「ハルト! 其処にいたのか」

「兄さん!」

 

 ハートランド近郊の巨大ショッピングモールの一角のブックストア。カイトの呼び掛けにハルトは立ち読みしていた本をパタリと閉じながら、嬉しそうに応えた。

 

「勝手にいなくなるから探したんだぞ」

「ごめんなさい」

 

 シュンとするハルトに屈めて視線を合わすカイトは、台詞とは裏腹にとても優しい表情を浮かべていた。そして、兄が声を掛けるまで弟が読んでいた本に視線を向ける。

 

「『古代の砂漠の国の物語集』?」

「それ、ちょっと読んでみたけど、ハッピーエンドじゃないから面白くなかったよ」

 

 頬を膨らまして応えるハルトに、カイトは目を見開きたくなった。ほんの少し前まで、人々の悲鳴や苦しみを愛していた者の言葉とは到底思えない。年相応の無邪気な愛らしい表情を見る度に、カイトは笑みをこぼしそうになり、あの情熱的な瞳を持つ年下の友人に感謝したくなるのだ。

 

(それにしても、ハルトは古代の砂漠の国に興味があったのだろうか……?)

 

 弟の事なのに知らなかった嗜好にカイトは首を傾げていたが、ハルトの視線の先にあるポスターを見て合点に至った。スターには、明日からハートランドの美術館にて行われる古代の砂漠の国展が紹介されていた。

なるほど、と口の中でその言葉を転がすと、カイトは提案した。

 

「明日、美術館に行くか」

「本当?」

 

 眼をきらきらさせながら瞬時に反応したハルトだったが、戸惑いがちに「……いいの?」と尋ねた。それに対し、兄は「勿論だとも」と応え、弟の頭をゆっくりと撫でる。

 

 そのまま手をつないで去っていく兄弟と入れ違いに、真っ黒い髪で褐色肌の少年とバジル色のモヒカン男が本屋にバタバタと走り込んできた。今は互いに誰も気付かない。「これも勉強、勉強!」と言い訳がましく漫画コーナーに突撃する二人の男によって巻き上がる風に、ぱらりとハルトが読みそびれたページが開かれる。その頁には、夢を売る御伽噺には似つかわしくない警告文が綴られてあった。

 

 ※ ※ ※

 

 幾星霜が経ち、砂漠の国が滅び、近代国家が立ち並ぶ現代になっても、その千年アイテムの封印は解かれず、彼の魂は閉じ込められたままです。気か遠くなるような永い時間は封印された彼の人格を歪ませ、彼は憎悪の吐け口を求めるようになりました。

 

 千年アイテムを見付けたら気を付けなさい。莫大な力を得る代わりに、自身の魂を光の届かない“深海の牢獄”に閉じ込められてしまうでしょう。二重の封印が解けたとき、闇のゲームが始まり、冥府の門が開くでしょう。

 

 だから決して封印を解いてはなりません。異邦の魔術で造り上げた千年アイテム――“千年レンズ”に。

 

 

 

【3】

 

 スカッとした青空の下、皇の鍵が陽光にキラリキラリと瞬(またた)くように輝く。自室の窓から乗り出した少年は宝物を結ぶ紐を持ち、振り子のように揺らしていた。

 

「遊馬、君は何をしているんだ?」

「アストラル!」

 

 赤色の瞳の少年――九十九遊馬に、水色の精神体――アストラルが話し掛ける。

 

「いや~、今まで色んなことがあったなぁって思って」

 

 今は行方不明となった父・一馬が遊馬に託した皇の鍵によって引き起こされた出来事――不思議な夢から始まるアストラルとの出会い、新しい仲間や数多の好敵手達とのデュエル等、そして、とうとう得たデュエルチャンピオンの称号を得たことを思い返し、遊馬が嬉しそうに目を細める。

 

「大変なことがあったけど、かっとビングで全部乗り越えられたしな!」

「思い返すのは良いことだが、君はよく鍵を失うのだから、そんな安易に扱って貰っては困る」

 

 小言を漏らすアストラルに、遊馬は「へぇーへぇー分かってますよー」と口を尖らす。

 

「まぁ、でも、もう盗る奴なんていないって!」

 

 そう言って、遊馬がニカッと笑ったときだった。シャッと小柄な影が通り過ぎ、手元にあった皇の鍵を盗っていった。ヒョッ! と奇妙な声を上げる少年の一方で、「ぎゃ」とも「げ」ともつかぬ短い悲鳴を上げて、アストラルは霞(かすみ)のように消えてしまった。

 

「ななななんで!」

 

 おどおどする遊馬の視線の先で、尻尾がゆらぁりと揺れる。どことなくベビートラゴンに似た猫は遊馬を一瞥すると、皇の鍵をくわえたまま、ひょいっと九十九家の赤い屋根から飛び降りていった。

 

「皇の鍵! アストラル!」

 

 思わず身を乗り出そうとした結果、遊馬は落ちそうになり、慌てて上半身を引っ込める。そして、飛び降りるように一階へ向かい、玄関へ駆け抜けていたら、「大きな事件でも起きないかなぁ」と物騒なことを呟いていた姉・明里に正面衝突してしまった。

 

「何すんのよ、遊馬!」

「今はそれどころじゃねぇんだよ、姉ちゃん!」

 

 ストレス解消を兼ねて怒りを向ける明里の攻撃を避け、遊馬は突き飛ばすように玄関の扉を開け放った。

 

「待ちなさい、遊馬!」

「夕飯までには帰るようにの」

「遊馬、帰宅次第、姉ちゃんにしごかれる、しごかれる」

 

 振り向かなくても分かる姉の鬼の形相を考えないようにしつつ、それとは対称的な、のほほんとした祖母・ハルの「いってらっしゃい」と、庭先を掃除しながら遊馬の運命を笑うオボミの機械的な声を背に、遊馬は九十九家から飛び出した。

 

 

 【声よ届け! 光貫く闇のデュエル!】

 

 

 その頃、ハートランドシティの美術館では明日の展覧に向けての搬入作業が行われていた。儀式にでも使われたのか、ウジャト(眼)の紋様の入った大きな石版が運ばれていたのだが、あまりの重さに一度落としてしまった。

借りてきた展示品だぜ、大丈夫かよ? 不安を口にする搬入業者だったが、彼等以外に目撃者がいないこと、大きな傷が見受けられなかったことを良いことに、何事も無かったように作業を続行した。その時、元々ひびの入っていた石版から小さな石片が漏れ落ちたことに誰が気付けただろうか。しかし、それはお掃除ロボットのオボットに回収され、証拠隠滅されてしまったのだった。

 

「猫~、皇の鍵~、アストラル~、何処だ~?」

 

 首を左右に振りながら、遊馬は市内を走り回った。あまりにもキョロキョロするものだから、遊馬は赤信号を渡ってドライバーにどやされ、オボットに激突したりしまった。遊馬に衝突されたオボットがゴミやガラクタを吐き出し、「お掃除、お掃除」と言いながら、その代わりだと言わんばかりに遊馬をつまみ上げる。

 

「俺はゴミじゃねぇよー!」

 

 情けない声で抗議して、オボットから逃れ、そのまま走り出そうとした瞬間、先程オボットが吐き出したガラクタの一つ――石片を踏んで、遊馬はすっ転んでしまった。周りからクスクスと笑い声が上がる。コントじゃないぞ! とすぐに立ち上がって誰に言うまでもなく遊馬は否定すると、自身を転ばせたものを睨み付けようとした。

てんてん、とガラクタは河川敷へと転がっている最中だった。その河川敷では、デュエルディスクを構えて対峙した友人二人と、その様子を見守る幼なじみの女子がいた。ハッと遊馬は顔を輝かすと、ポケットに入っていたDゲイザーをすかさず装着する。

 

『ARヴィジョン、スタンバイ』

 

 機械的な声を耳にしながら、遊馬は河川敷――デュエルフィールドへ飛び込んだ。

 

「トドのつまり、『ワクチンゲール』をエクシーズ召喚! 更に『リミッター解除』を発動! これで『ワクチンゲール』の攻撃力は1800から3600に変化します! 『ブリキの大公』に攻撃―‐」

「そうはさせるか! ブリキの大公の効果発動! オーバーレイユニットを一つ使って、委員長のモンスターの表示形式を変更するぜ! 『リミッター解除』の効果によって、エンドフェイズ時に『ワクチンゲール』は破壊される! これで次の俺のターン、ダイレクトアタックで終わりだ!」

「甘いですよ、鉄男くん!」

「なにっ!」

「トラップカード『エクシーズ・ブロック』発動! 自分のフィールド上のモンスター『ワクチンゲール』のオーバーレイユニットを一つ取り除いて、相手モンスターの効果を無効化して破壊します!」

「そんな!」

 

 仮想空間に誘われた遊馬が一番初めに観たのは、友人のエースモンスターであるブリキの大公が破壊される様であった。圧巻な光景に、遊馬は一瞬目を奪われる。

 

「おーい、小鳥! 鉄男! 委員長!」

「遊馬!」

 

 大きく手を振って、遊馬は友人たちに手を振った。武田鉄男と、委員長こと等々力孝のデュエルを見守っていた観月小鳥が最初に反応する。

 

「おー、デュエルかぁ! すっげぇ応酬だな!」

「遊馬くん! 今、すっごく良いところなので、邪魔しないで下さいね」

「遊馬。お前、皇の鍵はどうしたんだ?」

 

 にしし、と笑って観客の仲間入りになる遊馬だったが、鉄男の言葉で目的を思い出す。

 

「あ! 皇の鍵が盗られちまったんだよ!」

「トドのつまり、一大事ですよ!」

「誰に盗られたの? まさか、バリアンに?」

「いや、猫に」

 

 遊馬の回答に三人が揃って肩を落とした。

 

「もう紐じゃなくて、いっそのこと鎖にしたらどうです?」

「シルバー巻くとかさ」

 

 呆れる等々力と鉄男を横目に、遊馬は身振り手振りで「ベビートラゴンみたいな猫でさ、尻尾が大きくて、オレンジ色で」と説明する。

 

「ベビートラゴンみたいな猫? それなら、さっき此処を横切っていたけど。あれ、本物だったのね。てっきり、ARヴィジョンのバグかと思っちゃった」

「小鳥、サンキュー!」

 

 緑色のレンズのDゲイザーを装着した小鳥が、ついっと猫が消えた行く先を指差す。遊馬はその先を見据えながら早口でお礼を言うと、再び走り出した。つむじ風みたいな幼なじみに小鳥は溜め息を吐きつつも、「私も行く!」と駆け寄る。

 

「委員長、俺たちも行こうぜ!」

「鉄男く~ん、デュエルに負けそうだからって誤魔化そうとしても無駄ですよ?」

 

 にっこり、と黒い笑みを浮かべる委員長に、鉄男は仰(の)け反(ぞ)りたくなる。ライフポイントは互いに2000を切っており、鉄男のフィールドは空っぽ、等々力のフィールドには攻撃力3600のワクチンゲール、そして、今は等々力のターン。鉄男の悲鳴があがるのは、僅か数十秒後の未来である。

 

 そんなデュエル風景を余所に、河川敷に居た小学生たちは水切りを楽しんでいた。水切りには平たい石が一番だ。遊馬が転けたガラクタである、一部キラキラしたものが見える石片を拾うと、小学生は勢い良くスイングした。ナイスフォームだったらしく、石片は向こう岸にまで届き、小学生たちはデュエルの敗者の悲鳴を背後にハイタッチした。

 

 その日、彼女は上機嫌だった。欲しかった服も買えて、おいしいものも食べることが出来て、これで愛しのダーリンが居たならば、と夢想した瞬間に相手が現れたのだ。

 

「あ、キャットちゃん!」

「キャッと! ゆ、遊馬!」

 

 ショッピングモール前の広場。

 Dゲイザーを外した遊馬の呼び掛けに、白と黒のゴシックロリータの服を着たキャシーは胸を高鳴らせた。無論、彼の側にいる小鳥は視界からシャットアウトするに限る。

 

「ベビートラゴンみたいな猫を見なかったか? そいつに皇の鍵を盗られちまったんだ?」

「それは大変! 猫ちゃんたちに話し掛けて、すぐに調べるわ」

「おう! 助かるぜ、キャットちゃん」

(ダーリンのお役に立てるなんて! こんなこと、小鳥には出来ないし)

 

 遊馬からのお願いに有頂天になりながらも、キャシーは猫を集めようとした、そのときだった。

 

「ベビートラゴン似の猫? それなら、公園に行くのを見たウラ」

 

 偶然に通りかかった表裏徳之助が大情報を投下する。遊馬はその情報に目を輝かせると「徳之助、サンキュー!」と告げると、小鳥と共に春嵐のように過ぎ去ってしまった。

なんて短い邂逅だろう。

 

「一日一善、良いことしたウラ」

 

 ホクホクと笑みを零す徳之助が振り向いた先にいたのは、化け猫そのもののキャシーだった。

 

「ドドドうしたウラ?」

「徳之助! なに余計なことをしてくれてるのよーっ!」

 

 シャキーン! と少女の爪が輝き、ギャーッ! と少年の悲鳴があがる。その悲鳴に通りがかった犬がびっくりして、宝物にしようとしてくわえていた石片を落とした。汚れ等が落ちた石片からは金色が見えている。

 

「どうしてこんな目に合うウラかーっ!」

 

 大量の朱線が浮いた顔で、苛立ち任せの絶叫混じりに徳之助が石片を蹴り飛ばす。キャシーの怒りが治まるまで、まだ時間は掛かりそうだ。

 

「いたっ!」

 

 その石片が遊馬に直撃したのと猫を見つけたのは同時だった。頭を抑えつつ、待てーっ! と追っ掛ける遊馬なんて気にも留めず、猫は公園の茂みに飛び込んだ。遊馬も猫に倣(なら)って飛び込むが、小鳥はスカートを抑え、流石に遠慮することにした。

 

「絶対に返して貰うからな。かっとビングだ、俺!」

 

 皇の鍵! アストラル! と呪文のように繰り返しながら、匍匐前進で遊馬は猫の後を追う。猫が茂みから出て、ピタリと動きを止めた。チャンス! と遊馬が飛び出した途端に猫は跳躍し、彼の両手は空を切り、強かに顎を打つ羽目となった。

 

「いってぇー!」

「何してやがるんだ?」

 

 痛みで地面をのたうちまう遊馬に冷ややかな台詞が落とされる。聞いたことある声に、遊馬が顔を上げた。

 

「シャーク!」

 

 其処にはベビートラゴン似の猫を抱いた、一つ上の学年である神代凌牙がいた。皇の鍵が! アストラルが! と単語で喋る遊馬に凌牙は眉をひそめたが、ん、と猫に皇の鍵を渡され、合点がいった。

 

「……ったく、テメェな、人のもんは盗るんじゃねぇよ」

 

 ぶっきらぼうに言いつつ、凌牙は猫の頭をゆるりと撫でる。ゴロゴロと喉を鳴らす猫が、遊馬からすると恨めしい。

 

「その仔、シャークの猫だったの?」

「違(ちげ)ぇよ。誰に教わったか知らねぇが、この猫はお礼に金ピカのもんをやるんだよ」

 

 遠回りして、ようやっと合流した小鳥の質問に凌牙が答える。猫から皇の鍵を受け取り、凌牙は「そらよ」と遊馬に放り投げた。

 

「シャーク、サンキュー! ところで『お礼』ってことは猫を助けたのか?」

 

 首から皇の鍵をぶら下げながらの遊馬の目敏(めざと)い質問に凌牙の眉間に皺が寄る。地雷だったかしら、と小鳥が訝(いぶか)しんだ瞬間、猫の大きな耳がぴょこぴょこ動き、ゴム鞠のように凌牙の腕から逃げ出した。

 

「あ、ファラオ!」

 

 遊馬たちから離れた場所に居た見知らぬ少女に猫が飛び付く。

 

「おや、梯子がいらなくなっちゃったな」

「あらあら。パパが梯子を持ってくる前に、自力で降りられたみたいね」

「でも、あたしが見つけたとき、あの高い木から降りれなかったのに、どうやって降りたのかな?」

 

 不思議そうに首を傾げながら、猫――『ファラオ』を抱き締める少女とその両親は去っていった。

 

「なぁ、シャーク」

「うるさい、黙れ。それ以上、言ったら蹴り飛ばすぞ」

「あの猫、木から降ろしたの、お前だろ?」

 

 お前やっぱり優しいのな、とニマニマ笑う遊馬に凌牙が大きく舌を鳴らす。よくよく見ると、凌牙の頬や手の甲に枝にこすれた跡や引っかき傷があった。これの『お礼』ね、と小鳥も密(ひそ)かに笑う。

 

「漸(ようや)く行ってくれたか」

「よう、アストラル!」

 

 肩を振るわせながら現れた相棒に、遊馬が元気よく声を掛ける。

 

「君はもっと鍵を大事にするべきだ」

「お前、本当に猫が苦手なんだな」

「遊馬、人の話は聞きたまえ! ……だが、本当にあの生物は苦手だ。見ていると、怖気(おぞけ)が走る」

「なんだ、お前も猫が苦手なのか」

 

 遊馬とアストラルの会話のドッヂボールに、凌牙がぼそりと呟いた。

 

「あら、シャークの知り合いにも猫が苦手な人がいるの?」

 

 小鳥が何気なしに振った話題に、凌牙はハッとした顔を見せた後、黙って背を向けた。れこそ地雷だったらしい。そのまま離れようとする凌牙を遊馬が呼び掛ける。

 

「待てよ、シャーク!」

「もう用はないはずだ」

「用も何も、デュエリストが出会ったんだ。やることは一つしかないだろ?」

 

 煩わしげに振り返る凌牙に遊馬は宣言した。

 

「やろうぜ、デュエル!」

「却下だ。俺は今から隣地区にカードを買いに行くんだよ」

 

 間髪なしに返された否定の言葉に遊馬は肩透かしをくらったが、それで諦める彼ではない。

 

「カードを買いに行くなら、俺もついて―‐」

「却下だ。ノーヘル(ヘルメットを被らないこと)の奴を乗せて、セキュリティ(警察)の世話になりたくない」

「じゃあ、明日! 俺とデュエル―‐」

「却下だ! 新しく買ったカードでデッキ編成する予定だ」

「なら、明後日!」

「却下だ!! デッキ調整させろ」

「だったら、明々後日だ!」

「却・下・だ!! 更にデッキの再調整を加えるからな」

「それなら、明々々後日(ししあさって)だ! シャーク、これなら良いだろっ!」

「……お前、本当にデュエル馬鹿なのな。」

 

 プッと呆れたように吹き出しながら、しつこいやり取りに凌牙が折れた。このまま拒否し続けたら、明々々々々々後日まで遊馬は言いかねないだろう。

 

「仕方ねぇな。四日後、お前のデュエルを受けてやるぜ。この俺が相手するんだ、デッキ調整しとけよ。ヘボデュエリスト」

 

 不敵で挑発的な癖に、何処か柔らかみのある笑みを浮かべる凌牙に遊馬が「ヘボデュエリストって呼ぶな!」と声を荒げる。それに対して、凌牙はククッと小馬鹿にしたように喉の奥で笑っただけだった。

 

「それじゃあ、四日後! デュエルしようぜ、シャーク!」

 

 楽しみで楽しみで溜まらない! と全身で表現する遊馬に、凌牙は背を向けて歩きながら、手をひらりと振ると、公園の入り口のすぐ側に止めていたバイク――Dホイールに飛び乗って行ってしまったのだった。その際、遊馬の頭に当たった石片――メッキが剥がれ落ちたかのように金色が覗く“それ”を弾いて、側溝に落とす。紫色のヘルメットをした彼の姿が見えなくなるまで、遊馬は大きく手を振り続けた。

 

「四日後にシャークとデュエル、か。くぅーっ! 楽しみだぜ!」

「ならば、しっかり対策をしなくてはな」

 

 浮かれる遊馬にアストラルが忠告する。

 

「彼は水属性エクシーズデッキだ。それ相応の対策をしなくてはならないだろう」

「特殊召喚を封じるのはどうかしら?」

 

 デュエル知識をかじったばかりの小鳥がアストラルに提言するが、彼は首を横に振った。

 

「だが、遊馬も特殊召喚がメインのワンキルエクシーズデッキ。自分で自分の首を締めることになる」

「……となれば、水属性メタデッキ?」

「水属性メタデッキは難しいな。光属性や闇属性、機械族は組みやすいのだが」

「あの~」

 

 相棒と幼なじみのデュエルトークに遊馬がおずおずと挙手する。

 

「『メタデッキ』って、何?」

 

 彼の台詞に二人は凍り付いた。

 

「ちょっと、遊馬! デュエルチャンピオンなのに、そんなことも知らないの?」

「『メタデッキ』というのは、特定のテーマに対抗するカードを中心に組まれたデッキだ。例えば、相手が光属性をテーマにするデッキなら『閃光を吸い込むマジックミラー』、闇属性なら『暗闇を吸い込むマジックミラー』や『聖なるあかり』、機械族なら『システムダウン』といったところか。魔法カードの閃光・暗闇を吸い込むマジックミラーはそれぞれの属性のモンスターカードの効果を無効化し、『聖なるあかり』は闇属性モンスターの召喚・特殊召喚を封じる効果モンスターカード、『システムダウン』は相手フィールド上と墓地から機械族モンスターを除外する魔法カードで―‐」

「アストラル、もういいって! もういいって!」

「いや、君はこの機会にデュエルの勉強をするべきだ!」

 

 ずらずらと続くアストラルの説明に遊馬は目眩を覚えそうになる。

 

「シャークにメダルデッキをしても無駄だって!」

「遊馬、それを言うなら『メタデッキ』だ」

「そうそう、メタデッキを組むよりも、俺は新しいテーマのカードを入れてぇの!」

 

 メタデッキの講釈を逃(のが)れるため、適当な話題へ反らす。

遊馬の相変わらずな間違い言葉にツッコミつつも、アストラルが「どんなテーマのカードを入れる気だ?」と尋ねた。

その場しのぎの話題だったため、遊馬はわたわたと答える。

 

「えーとな、うーんとな……ギャンブルデッキ?」

「やめときなさい」

 

 遊馬の提案にアストラルと小鳥は声をそろえて一蹴したのだった。

 

 

 

【4】

 

 雲が通り過ぎ、目蓋(まぶた)を開いたかのように十日余りの月が現れた。寝転んだ虚ろ気な金色(こんじき)の眼(ウジャト)が見下ろすなか、神城凌牙はDホイールを押して歩いていた。

 

 今日は最悪な日だった。

 何気なしに寄った公園でよく見掛ける猫が木から降りれなくなっていて、助けようとしたら、興奮した猫に引っかかれ、枝葉にも随分と傷を付けられてしまった。気を取り直して、カードを買いに隣地区へ向かうことにした。

本来の発売日よりも一足先に販売するカードショップへはD・ホイールではいけない路地奥にある。だが、目当てのカードショップ前にはドレッドヘアと刈り上げ頭の男の二人組――以前に凌牙が連(つる)んでいた不良グループのリーダーと副リーダーが屯(たむろ)って居た。

 

(陸王と海王じゃねぇか!)

 

 あの美術館襲撃未遂事件以降、姿を見ていないと思ったら、隣地区を拠点にしていたようだ。新たなメンバーを増やしたらしく、陸王・海王兄弟に似たガタイの男共数人が周りを固めている。喧嘩(リアルファイト)なんてされたら、中学生の凌牙は一溜まりもないだろう。

 

「ん? アイツは―‐」

「シャーク! 神代凌牙じゃねぇか!」

 

 凌牙が黙って踵を返そうとしたのと、陸王・海王が気付いたのは同時だった。追え! という奴らの言葉が耳に届く前に凌牙は走り出していた。滅多にいかない隣地区のため、凌牙には地の利が一切なかった。どうして、路地前に止めていたDホイールへ向かわなかったのかが悔やまれる。目茶苦茶にラビリンス・ウォールのような路地を駆け回ったが、とうとう袋小路へ迷い込んでしまった。陸王・海王たちの怒声と駆け音が近付いてくる。くそっ! と悪態を吐(つ)こうとした瞬間、行き当たりに「亀のゲーム屋」という看板をぶら下げた店があることに気付いた。

 

「もうなんとでもなりやがれ!」

 

 自棄っぱちに呟くと、『open』を掲げた玩具屋へ凌牙は飛び込んだ。

 

 からんからん、とベルが鳴る。

 反対の『close』を掲げてもおかしくないくらい、外から見た通りに店内は薄暗かった。息を吐くよりも先に小窓から、不良グループの様子を伺った。デュエルマッスルの男たちは辺りを満遍なく見渡していたが、鼠が見付からないことにギャースカ騒いだ後、元の道を戻っていった。これで暫(しばら)くぶりに息を吐ける。ドアを背にしたまま、息を整えていると、薄暗闇に目が慣れてきた。正面には空っぽのカウンターがあり、狭い店内の両壁に天井に届くぐらいの棚が設置され、所狭しと玩具が並んでいる。

 

 王や姫等を象(かたど)った人形と一緒に置かれた、真ん中に仕切りのある舞台装置。

 お札と縄によって雁字搦めにされた、カードの束を上に置いた壷。

 メッセージを書けるようにした、真っ白なジグソーパズル。

 デュエルモンスターズのモンスターカードをトゥーン化したような人形が入ったカプセル。

 戦士・魔法使い・ガンマン・ビーストテイマー等の職業人形とダンジョン・街・フィールドマップが描かれたTRPG(テーブルロールプレイングゲーム)のボード。

 

 玩具屋、と銘を打っている以上、これらは全て玩具なのだろう。だが、随分と埃っぽい。小さな咳を繰り返しつつ、見慣れぬ玩具を順々に見ていた凌牙だったが、とある棚の前で歩みを止めた。

 

「なんだ、デュエルモンスターズの前身の『マジック&ウィザーズ』かよ」

 

 デュエルモンスターズのカードが売られているかと思いきや、今は何処にいっても使えないカードだった。

 

「こんだけ古くて裏ぶれた玩具屋だ、どうせジーサンの道楽でやっているんだろうな」

「悪かったの、ジーサンの道楽で」

 

 返るはずのない独り言に凌牙の肩が竦み上がる。ほっほっほっ、と仙人のような笑い声が狭い店内に響く。カウンターには『双』と書かれたバンダナをした、真っ白い髪をした老人が座っていた。

 

「お主、デュエリストかの?」

 

 生気が感じられない風貌の癖して、ギョロリとしている眼だけ生気に溢れている。不気味さに声を奪われた凌牙が小さく頷くと、店主はカウンターの下を指さした。其処には大きな籠があり、デュエルモンスターズのカードの束が十枚パックされたものが入っていた。

 

(中古カードかよ)

 

 あのような売り方をしているものにはロクなカードは入っていない。凌牙はチラリと入り口を見たが、ドア横の小窓から男たちの姿が見えた。店主はニコニコと人好きするような笑みを浮かべていたが、凌牙からすると亡霊が冥府へ手招いているようにしか見えなかった。前門の亡霊、後門の不良。口をひん曲げると、凌牙はやたら安いパックを何セットか掴み、カウンターに叩き付けたのだった。

 

(陸王・海王どもが何処かに消えて、やっと辛気臭い店から出れたと思ったら、元の道に出るまでかなり迷う羽目になるし、目当てのカードショップは閉店してるしよ。更に美術館前にデカいトラックが止まって道を塞いでいたから遠回りすることになるし、本当に最悪だ)

 

「イラッとするぜ」

 

 最後の愚痴はとうとう声になって吐き出された。加えて、亡霊店主の店で購入した中古カードはやっぱり使えないものばかりだった。凌牙のデッキテーマに合わない、という問題ではない。本当に『使えない』のだ。でも、本当にツイていなかったのは―‐

 

「璃緒。見舞いに行けなくて、ごめんな」

 

 凌牙は路地裏から月を背景(バック)にそびえ立つ病院を見上げた。くだらないアクシデントの連続のせいで、ハートランドシティに戻ってきたときには夜半に差し掛かっており、面会時間はとうに終わってしまっていたのだ。

 

「次は必ず会いに行くから」

 

 最愛の妹がいるであろう病室をじっと見つめる。目を閉じると、瞼の裏の彼女の手を取って「おやすみ」と呟く。そんな儀式のような挨拶を終えると、凌牙はDホイールを押しながら、病院に背を向けた。

 

 摩天楼のガラス窓は磨かれた鏡のように、頭を垂れる少年を写す。顔を上げれば、明かりの灯った家々が見えることだろう。昼間、『ファラオ』という猫を連れた家族も暖かな団欒を過ごしているに違いない。だが、凌牙を待つのは誰もいない寒い部屋だ。彼以外に誰かが先に居ることもなければ、後に来ることもない。あの一年前の事件以降、夜の街を彷徨っていたのは孤独を凝縮させた暗い部屋に帰りたくなかったからだ。

 

 一年前の事件。

 双子の妹を傷付けられ、デュエリストとしての誇りを凌牙は失った。一ヶ月前に行われたWDC(ワールドデュエルカーニバル)を通して、神代兄妹を陥れた一家との因縁は晴らされたことになっている。今、あの一家はどうなったのだろうか。家長は呪われた姿のままだが、以前の心を取り戻し、あの三兄弟と仲良く過ごしているのだろう――帰れば、誰かが待っている暖かな空間で。

 

 そう思った途端、凌牙は身を掻き毟りたくなる程の憎悪に襲われた。

 

(彼奴等には帰る暖かい部屋があるのに、俺にはない。呪われた姿とはいえ、家族と見て話して笑い合うことができるのに、璃緒にはできない。百万のスターチップを散らしたと比喩されるハートランドシティの夜景を眺めることすら、お前たち四人はできても、俺たち二人はできない)

 

 彼と妹をどん底に突き落とした一家の暖かな団欒を想像して、凌牙はDホイールのグリップを強く握り締めた。

WDC中にシャーク・ドレイクに突き刺された胸から闇が溢れ落ちていく。耐えきれず、唇を開いたその時だった。

 

『それじゃあ、四日後! デュエルしようぜ、シャーク!』

 

 昼間の約束がはっきりとした輪郭を以て蘇る。その台詞を聞いた時、凌牙は背を向けていたというのに、遊馬の笑顔をありありと思い浮かべることができた。胸の圧迫感が消え、いつの間にか詰めていた呼吸が正常に戻る。

夜闇を一人歩いているのに、太陽の光すら感じた。

 

「ヘボデュエリストの癖に生意気なんだよ」

 

 唇の片端が上がる。その人物がヘボデュエリストではないことは、凌牙が一番知っている。だが、その人物の名前を口にするのは年上としての矜持が止めさせた。年下に助けられるなんて、もう懲り懲りなのだ、彼は。

 

 さっさと家に帰ろうと決めた。部屋に入って電気を付けて、引き出しに入った全部のカードを引っくり返して、デッキを構築しよう。

 

(『希望皇ホープ』に代表されるように光属性のモンスターカードに頼っている節があるから、光属性メタデッキにしてやろうか? それとも、相手の攻撃を防ぎつつ、ライフポイントを削るロックバーンや特殊勝利デッキにガラリと変えて驚かせてやろうか? いっそのこと、この機会に様々なデッキで攻めてやろうか? アイツ、テーマデッキの癖を知らないからな)

 

 デッキテーマの癖を知ることで、対戦相手が出したカードを見て、相手がどんな攻め方をするか想像することが可能となる。凌牙が彼にしてあげられることなんて、デュエルしかないのだ。ならば、そのデュエルの勉強相手になってやれば良い。それが年上の先輩としてのせめてものの矜持だ。最も勉強相手になるとはいえ、負ける気は更々ないのだが。

 

 考えれば考えるほど、Dホイールを押すのが楽になっていく。四日後には嫌でも彼奴によって賑やかになるのだ。束の間の一人きりの静寂を楽しもうではないか。

 

 そうやって思考を巡らせていると、凌牙の背後から「なぁご」と声がした。振り返ると、ベビートラゴンによく似た昼間の猫『ファラオ』がちんまりと座り込んでいた。

 

「テメェ、こんな夜半遅くに何やってるんだ? ……もしかして昼間のお礼か?」

 

 Dホイールにロックを掛け、しゃがみこんだ凌牙はファラオがまたしても金色のものをくわえていることに気が付いた。手渡されたものの汚れを払うと、砂時計をあしらったチャームを付けた、全て金色の派手な片目レンズが現れた。

 

「Dゲイザー? 壊れてんのか」

 

 両隣の建物のガラス窓がミラー化し、月光に反射するレンズを覗き込む凌牙を映す。その瞬間、凌牙は身をブルリと震わせた。一言で言うならば、嫌な予感がした。まるで、頭のてっぺんから足の爪先まで、骨の内部から魂の裏側まで全て覗き込まれたような気がしたのだ。

 凌牙はすぐにレンズを投げ捨てようとしたが、彼の右腕は言うことを効かなかった。それどころか、レンズを装着しようと勝手に右腕が動き始めた。左手で抑えようとしたが、もう遅い。右手の甲に眼(ウジャト)が浮かび上がり、抗う声が路地裏に影を落とす。ファラオが背中を震わせ、ハーッと息を吹いた。

 

「やめろ! やめ―‐」

 

 パチリとレンズが神代凌牙の左目に装着され、抵抗が一切消えた。両腕をブラリと下げたかと思うと、肩だけ揺らして、ケヒケヒと笑う。

 

「キィーヒャッハッハッー!」

 

 それから始まる、盛大でいて奇妙な笑い声にファラオは目を丸くして、その場を逃げ出した。金色のレンズがギラギラと光り、全ての砂が上のままの砂時計がチリチリと揺れる。興奮気味に笑う余りに、今日買ったばかりのカード群が落ちた。彼は一枚カードを拾うと、展開したデュエルディスクにセットする。一度目はアラームが鳴ったが、彼が手をかざすと、眼(ウジャト)がデュエルディスクに刻まれ、二度目は正式に読み込み始めた。

 

 宵月のなか、彼の耳に何者かが走る音が届いた。路地裏の先にある河川敷へ水色髪をした少年が同じ色のマントを翻しながら駆けていくのを、彼は視界に捕らえる。ケヒヒ、と笑うと、彼は大舞台の俳優のように芝居がかった演技で宣言したのだった。

 

「さぁ、闇のゲームの始まりだ」

 

 

 

つづく




※SKY……シャーク、カイト、遊馬の頭文字
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