【遊戯王ZEXAL】声よ届け! 光貫く闇のデュエル!【映画風】 作:千葉 仁史
『No.39 希望皇ホープ』と『死者蘇生』と『ゼアル化』が封じられた遊馬に果たして勝機はあるのか? 絶望と希望が鬩(せめ)ぎ合うデュエルの行方は? 繰り返される形勢逆転、最後の最後に笑うのは誰?
※遊馬が最後に使ったカードについて。
この小説を考えていた時(2013年7月頃)はアニメオリジナルだったが、2014年3月頃にOCG化され、びっくりすることに。
ちなみに、この小説の敵について、ベクターを超すゲスキャラを目指した。
【1】
四ターン目終了時
(※次は遊馬のターン)
フィールド魔法:『ウォーターワールド』
(※フィールド魔法。フィールド上に表側表示で存在する水属性モンスターの攻撃力は
(今現在、水属性モンスターがいないため、死に札状態)
先攻:遊馬
手札:一枚
(※何のカードか不明)
ライフ:3200
モンスターゾーン:なし
魔法・罠ゾーン:なし
後攻:凌牙
手札:0枚
ライフ:3400
モンスターゾーン:『A.O.J カタストル』
(※シンクロ・効果モンスター。レベル5闇属性機械族、攻撃力2200守備力1200。チューナー+チューナー以外のモンスター一体以上。このカードが闇属性以外のフィールド上に表側表示で存在するモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する)
魔法・罠ゾーン:伏せカード一枚
(※何のカードか不明)
ゼアル化を解除した瞬間に闇に浸食され、勇者だった少年の悲鳴がデュエルフィールドに響き渡る。
「遊馬!」
「しっかりしろ、遊馬!」
仲間の呼び声も届かず、押しつぶされそうな程の絶望に遊馬は苦しみ、もがいていた。彼の名を呼ぶ仲間たちもまた、身体の苦痛こそないが、遊馬の惨状に心が悲鳴を上げていた。だが、ただ一人――凌牙だけが愉快気に笑みを浮かべていた。
「シャーク! いったい君は遊馬に何をした!」
「何もしてねぇよ。言ったろ、絶望の闇は光なき者を襲い、希望を食い散らかすってな。さっきまでゼアル化で光に包まれていただけに落差が酷いな。これじゃあ、デュエル続行不可か? ゲームにアクシデントはつきもの、とよく言ったものだ」
アストラルの問い掛けに、まるで悪魔の如く淡々と凌牙が答える。彼の余りのぬけぬけとした態度に、怒髪天を衝(つ)いたのはカイトだった。
「アクシデントはつきものだと!? 貴様が招いた結果だろう!」
「ああ、そうだ。そうじゃなかったら、ゼアル化を促す訳ないだろ。闇がいい感じに深まったところでネタバレして、精神を揺さぶりを掛けることでゼアル化を解除させ、希望によってより堆(うずたか)くなったデスパレートから闇落ちさせるのが目的だからな。Got you!(“[I've] got you”、からかいなどに引っかかった相手に対して「やった!」という意味) 我ながら上手くいったものだぜ!」
望むように戦略(ストラテジー)が運んだからか、饒舌に凌牙は苦労を語った。
「こう見えても、それなりに大変だったんだぜ? シャイニングドローさせないよう挑発したり、変にピンチにならないよう、かつヤバい効果を持つナンバーズを召喚されないよう、水属性の攻撃力を上げる『ウォーターワールド』を張って、攻撃力アップしか能がない『No.17 リバイス・ドラゴン』を召喚するよう誘導させたり、有利だと錯覚させるために『潜航母艦エアロ・シャーク』を破壊させたりまでしたんだからな」
「凌牙、貴様……っ!」
最初から凌牙の手の平の上で転がされていた事実にカイトは殺意を覚えた。
デュエルダメージがなければ、殴りつけているところだ。
「嘘よ!」
憎悪と怒りに濁り淀んだ空気を切り裂くように、甲高い声が小鳥から発せられた。
今尚苦しむ遊馬を除いた皆の視線が、闇のフィールから魔方陣によって守られている少女に一斉集中する。
「シャークが遊馬を苦しませる訳がないわ! あんなにも遊馬に恩を、友情を、絆を感じていたじゃない! それを自分の為に簡単に裏切るなんて、私は信じない! お願い、嘘だと言って……」
感情が高まりすぎて、台詞の最後は声にならなかった。小鳥は誰かの名前――本名を呟いたようだった。それを感じ取った凌牙が幼い子供のように目を瞬(またた)かせた。
泣き崩れる小鳥にカイトとアストラルは途方に暮れてしまう。
「小鳥。凌牙が遊馬を裏切った事実は本当だ」
「ではなければ、俺と遊馬のデッキ内容を知っている訳が―‐」
「ああ、そうだよ。全て嘘さ、フェーゲレヘン(ドイツ語で“小鳥”という意味)」
小鳥に憶測を再確認するアストラルとカイトの目の前で、凌牙はにっこりと笑って真実を告げた。
「神代凌牙は裏切ってないよ。アンナの時を最後にお前らの前に凌牙は自我を出していないからね。……今の今まで美術館内でお前らの相手をしたのは、この俺――“千年レンズ”ただ一人さ」
それまで片手で握り締めていた、紅い光を失わない千年レンズを徐(おもむろ)に持ち上げると、左目に装着する。凌牙ではない、千年レンズに封じ込められた魂の持ち主――闇凌牙がケヒケヒと嘲笑った。明かされた事実に小鳥の涙は止まり、アストラルとカイトは唖然とした。
「なん……だと……!」
「どういう……ことだ……?」
「そのままの言葉通りってことさ。カイトに会う以前に、千年レンズの九十九パーセントの力を取り戻せていたからな、元の身体の持ち主を“深海の牢獄”に閉じ込めることぐらい、お茶の子さいさいだった訳。『イラッとくるぜ』を使うタイミングがなかったのが残念だったが、なかなか上手かったろ、俺様の演技」
唐突なネタバレに言葉を失う三人を見渡しながら、器用にパラパラと右指を動かしつつ、闇凌牙は滑(なめ)らかに語る。
「そんな……嘘よ」
「君には嘘を吐かないさ、フェーゲレヘン」
虚脱に包まれた小鳥に話し掛ける一瞬だけ、闇凌牙はにこにこと笑った。
「アストラルにカイト。いつから千年レンズさえ外せば、神代凌牙の自我が出ると錯覚していた? この身体はもう俺のもんさ。さっきみたいに外したところで、今更何の支障も出ねぇんだよ」
千年レンズの悪霊が眼(まなこ)をぐりぐりと動かす。我を取り戻したカイトがまるでしゃっくりを耐えるように口を開いた。
「では、何故、俺たちのデッキ内容を知っている? あれは凌牙が漏洩(リーク)しなければ分からないはず……っ! まさか、貴様の能力は……」
「ようやっと気付いたようだな」
纏(まと)わりつく闇を外套のように翻(ひるがえ)しながら、闇凌牙は告げた。
「千年レンズ越しで視た相手の過去を、記憶を、因果を覗き込み、相手の知識と感情をものにする。それがこの千年レンズの能力さ」
明かされた能力に、小鳥とアストラルとカイトに衝撃が走る。三者三様に浮かべる絶望の表情に、闇のフィールがもっと高まるの感じながら、闇凌牙はスピーチを行った。
「最初に千年レンズを覗き込んだのが神代凌牙でウルトラスーパーラッキーだったぜ。丁度トロン一家を思い浮かべて憎悪を煮えたぎらせていたし、どこぞかのジジイにネガティブオプションされた禁止カードを持っていて、カードの聖霊もいて因果が深かったからな。取り憑くのに申し分なかったぜ」
お腹を抱え、ケヒケヒと闇凌牙が笑う。心に闇があり、因果が深い奴ほど千年レンズに取り憑かれやすい――そんな情報を古代の砂漠の王国の墓守の末裔から教えられていたことを、カイトは今更ながら思い出していた。
「デュエルの知識もパネェから、禁止カードコンボの知識はすらすら出てくるし、お前らとのデュエルによってデッキを把握していたから、対処法も楽に思い付いたし、もう最高だったぜ!」
笑いすぎて浮かぶ涙を拭いつつ、闇凌牙は更に絶望を高めようと、三人を闇の井戸の縁(ふち)へ追いやっていく。
「それにしても、可哀想な神代凌牙。トロン一家への恨み言と自分の非力さを語っただけで、『裏切った』なんて一言も言っていないのに、肯定すらしていないのに、そう推測されちまうなんて! これこそお前らからは何一つ信用されてなかったってことの証明じゃないか! 確かにお前らにとって、これからのことを考えたら、そっちの方が懸命だけどな」
「それはそうなるよう仕掛けられたからだ!」
歓喜の余り大口を開けて笑う闇凌牙に、感情を露わにしたアストラルが口を挟む。
「Exactly(エクザクトリー:確かにそのとおり)! けどよ、お前らが俺様の演技と口車に乗せられて、神代凌牙が裏切ったと勝手に思い込んだことには変わりないよなぁ?」
人の心の闇を的確に射抜く闇凌牙に、アストラルは底知れぬ狂気を覚えた。悪霊は悪魔(デビル)どころか、とんでもない魔王(サタン)だった。
「遊馬の前でべらべらと種明かしをするとは、調子に乗りすぎたな、“千年レンズ”。凌牙が裏切ってないと分かれば、遊馬はまだ立ち上がれる!」
「果たして、それはどうかな?」
「なにっ!」
カイトの攻めの言葉を、闇凌牙があっさりと受け流す。驚きの声を上げるカイトの耳に、いつもの遊馬では信じられないか細い声が聞こえてきた。
「アストラル……?」
「遊馬! 私の声が聞こえるか!」
一番間近で相棒を呼び続けるアストラルに、暗黒に覆われた遊馬が反応したかに見えたが、次の台詞で皆の胸に咲いた淡い希望も砕け散ることになる。
「何処にいるんだ? カイトも小鳥も何処に行っちまったんだ?」
うつろな眼(まなこ)で辺りを遊馬は見渡すが、何処を向いても闇ばかりで、仲間の声は聞こえず、仲間の姿も誰一人目視できない。いつもは情熱の炎を宿した瞳も今では風前の灯火のようであった。
「この場(フィールド)を支配する闇の名は“絶望”。絶望は様々な負の感情を呼び起こす。憎悪、嫌悪、憤怒、悲哀、失望、そして、孤独を」
「孤独だと!」
「だから、我々の姿が見えなくなったというのか!」
「姿だけじゃなく、声も届かねぇぜ。まるで深海の牢獄みたいにな」
ケヒケヒと笑いながら、デスパレートの高みを闇凌牙は目指していく。
「絶望しているときって不思議だよな。どんなに間近で良い情報――希望が漂っていても、気付くことが出来ねぇ。スルーしちまう。ドンドン悪い方向へ自ら進んじまうし、未来の運命も同じように流れちまう。だから闇のフィールに纏わりつかれている限り、どんなにチビガキがドローしても、サイコロを振っても、都合の悪いものしか出ねぇのさ。つまり、本来希望であるはずの此のネタバレ話も九十九遊馬に届いていないって訳。Savvy(サヴィ:お分かり)?」
ウィンクしながら茶目っ気に語る闇凌牙だっが、急に無表情になるとアストラルとカイトを責めるように睨み付けた。
「少なくとも、遊馬はギリギリまで凌牙を信じていたぜ。それをへし折り、凌牙を裏切ったと助言したのはお前ら二人だ。仲間に言われたら、遊馬も疑わざるを得ないわな。お前らは良かれと思って助言したんだろうが、小さな親切、大きなお世話。お前ら二人が遊馬を闇に突き落としたのだ」
突きつけられた罪状にカイトとアストラルは後退(あとずさ)りをするあまり、闇の井戸に落ちていった。弁明どころか、遊馬を見ることすらもう出来なかった。二人の絶望を吸い込み、一ターン目よりも遥か濃厚に、新月の夜のようにとっぷりと深まった闇のフィールに悪霊は満足と愉悦の息を漏らす。デュエル続行は不可能、と闇凌牙が思った瞬間だった。
「俺の、ターン……、ドロー」
絶望の闇に浸食されている遊馬がドローを行ったことで、五ターン目に入る。
まだデュエルを続行できるだけの力があることに闇凌牙は戦(おのの)くが、それは一瞬の徒労に過ぎ去った。ドローの勢いが無さ過ぎて、遊馬の指からカードがすっぽ抜けてしまったのだ。地面に落ちたカードを見て目を点にした後(のち)、闇凌牙はケヒケヒと高笑いした。
「キィーヒャッハッハッー! ドローしたカードを落とすなんて、お間抜けにも程があるぜ。笑いすぎて腹が捩(よじ)れるわ! 何の魔法カードか見ないでおいてやるから早く取れよ……って、おっと口を滑らせちまったぜ!」
右手を顔に当て、その指の隙間から覗き見しながら呵々大笑する闇凌牙と、力ない動作で慌てふためいてカードを拾う遊馬は、アストラル達にとって見ていられないものだった。
遊馬はおどおどしながらもカードを拾い上げる。これにて手札は二枚になった。最初からあった一枚はモンスターカード、先程引いた一枚は魔法カードだ。モンスターを通常召喚して魔法カードを使おうか、と遊馬は思い付くが、首を横に振った。闇属性以外のモンスターを破壊してしまう効果を持つ『A.O.J カタストル』の前では、強化したところで仕方がないからだ。ならば、このターンは耐え忍ぶしかない。のし掛かる闇のフィールにより散漫してしまいそうな思考を働かせ、遊馬はカードを掲げた。
「俺は『カードカー・D(レベル2地属性機械族、攻撃力800守備力400)』を召喚。このカードをリリースして発動、デッキからカードを二枚ドローする。このターン、俺はモンスターを特殊召喚できない(アニメ効果)」
もそもそと小声で言いながら、今度は落とさないようにしっかり掴んで、遊馬が二枚ドローする。
一枚は魔法カードで、もう一枚はⅣが貸してくれた罠カードだった。
魔法カードを見た遊馬は安堵の息を、彼が見なかった罠カードを背後から覗き込むように見たアストラルはため息を漏らした。悔やんでも仕方がないが、もっと早くこの罠カードが出ていれば『深海の牢獄』を防げて『No.39 希望皇ホープ』を除外せずに済んだのに、とアストラルは思わずにいられない。遊馬は覇気のない動作で魔法カードをデュエルディスクにセットした。
「魔法カード『光の護封剣』を発動。相手のターンで数えて三ターンの間、相手フィールド上のモンスターは攻撃宣言できない」
「姑息(その場しのぎ、という意味)な真似を」
光の剣が降り注ぎ、『A.O.J カタストル』を縫い付ける。三ターンもあればモンスターを揃えて、反撃も出来るだろう。眉を潜める闇凌牙に対して、カイトたちは逆転のチャンスを望んだ。
「俺はこれで―‐」
「遊馬!」
ターンエンド宣言を行おうとする相棒をアストラルが引き止める。今、残っている二枚うちの一枚は罠カードだ。伏せなければ、何の意味がない。その一枚を伏せて欲しくて、遊馬からは声も聞こえず、姿も見えないのにアストラルは叫んだ。
「アストラル?」
焦点の定まらない目で遊馬は宙を見上げた。絶望病に侵されているため、遊馬からアストラルを見ることは出来ない。そして、視線を手札に下ろした。遊馬は恐る恐る罠カードを手に取り、デュエルディスクにセットする。アストラルがほっとするなか、少年はターンエンド宣言を行ったのだった。
「Now it's my tune! Draw!」
闇凌牙がノリノリで六ターン目に入る。
遊馬のライフは3200、闇凌牙のライフは3400だが、彼の手札は今引いた一枚きりしかない。闇凌牙は引いたカードを見ると、ケヒケヒと笑って言った。
「『光の護封剣』、本当にその場しのぎだったようだな」
物騒な台詞に遊馬の肩が震える。まさか、と観衆(オーディエンス)が息を飲んだ。
「俺は『スカル・クラーケン(レベル3闇属性水族、攻撃力600守備力1600)』を召喚! 遊馬、コイツの効果を忘れたとは言わせねぇぜ! このカードが召喚に成功した時、相手フィールド上に表側表示で存在する魔法カード一枚を選択して破壊する事ができる! 『スカル・クラーケン』、『光の護封剣』を破壊しろ!」
闇属性のモンスターの登場により、またしても闇が濃くなっていく。『スカル・クラーケン』が体を上下逆さまにした状態で上部の口から吐かれた墨によって、遊馬のフィールドにある表側表示の魔法カード『光の護封剣』は呆気なく破壊されてしまった。これにより、遊馬のフィールドは罠カード一枚きりとなってしまった。
「『スカル・クラーケン』が水属性だったら、『ウォーターワールド』の恩恵を受けれたのに残念だな。でも、邪魔っ気な『光の護封剣』を破壊できただけ御の字かな」
「あ、ああ……」
絶望の嘆息を落とす遊馬を、『光の護封剣』から解放された『A.O.J カタストル』と『スカル・クラーケン』の影が覆う。Let's battle! と指を鳴らして闇凌牙はバトルフェイズに移行した。
「まずは『スカル・クラーケン』でプレイヤーにダイレクトアタックだ!」
『スカル・クラーケン』が真っ黒い足を鞭のように振るい、遊馬に攻撃する。倒れ込む遊馬を見た仲間の呼ぶ声が悲鳴のように上がった。3200から600差し引かれ、彼のライフは2600になった。
「そのまま寝ててもいいんだぜ」
以前に言われたことがある闇凌牙の台詞に頭がガンガンする。ゆらゆら揺れるようにして立ち上がる遊馬に「そう来なくっちゃな」と闇凌牙はケヒケヒ笑う。
「なんたって、メインデッシュの攻撃がまだだからな」
闇凌牙の発言に遊馬がハッとして顔を上げると、機械仕掛けの正義執行者にエネルギーが溜まっている真っ最中だった。
遊馬のフィールドにある罠カードが『スカル・クラーケン』のダイレクトアタックに反応しなかったあたり、攻撃宣言時に発動するタイプではない。もしかすると、死に札になった『エクシーズ・ギフト』でも伏せて、ブラフ(はったり)をしているかもしれない。どちらにせよ、凌牙の知識によって遊馬のデッキは知り尽くしている今、あのカードは遊馬を守るものではないのだ。そんな推測推理に安心して、闇凌牙は命令を下した。
「『A.O.J カタストル』、遊馬にダイレクトアタックだ! 全てよ、絶望の海に沈め! “ジャッジメント・レイ”!」
レーザー光線が横一直線に放たれる。大爆発を起こした後に煙が濛々と立ち込め、直撃を受けた少年の叫び声が上がった。2200のダイレクトアタックを受け、遊馬のライフはとうとう400ぽっちになってしまった。
「遊馬!」
アストラルとカイトと小鳥が悲痛に名を呼んだ。煙が消えると、膝をついて倒れ込む寸前のボロボロの遊馬が其処に居た。瞳の炎は絶望により今にも立ち消えそうで、倒れ込まないでいるのが精一杯なのが見て取れた。加えて最悪なことに、凌牙はナンバーズを所有している故、これはナンバーズを賭けたデュエルになっていた。遊馬のライフが小さくなったため、彼のライフと連動しているアストラルの身体が儚げに点滅する。このデュエルに敗北したら、遊馬の魂は冥府の扉へ送られ、アストラルは消滅、ハートランドシティはたちまちに“絶対的な暴力”に支配されてしまうだろう。それだけは何としてでも避けなくてはならない。
(“千年レンズ”は攻撃を優先する余り、低攻撃力の『スカル・クラーケン』をフィールドに晒している。次のターン、遊馬がモンスターカードをドロー出来れば、『スカル・クラーケン』を破壊し、ダメージを与えることが出来る!)
「メインフェイズ2へ移行。俺は罠カード『超水圧』を発動するぜ」
どうにかしてダメージを与える術(すべ)を考えるアストラルに、闇凌牙のカード発動の声が響く。
「『超水圧』は自分フィールド上に存在するモンスター一体を破壊して墓地へ送った後、自分のデッキからカードを一枚ドローする! 俺は『スカル・クラーケン』を選択!」
「なにっ!」
『スカル・クラーケン』が破壊されたことにより、唯一の攻めどころが消えてしまった。これにより、相手フィールドは厄介な『A.O.J カタストル』の一体だけとなる。
「残念だったな、アストラル。『スカル・クラーケン』を攻撃してライフダメージを狙っただろうが、何処に攻撃力600のモンスターをフィールドに放置する阿呆がいるかよ。ドロー!」
デッキから引いたカードを見て、闇凌牙は思わず笑ってしまった。
「俺ってカードに選ばれてるぅ~! 運命の女神様どころか、“神様”すら従えちまったよ!」
余程良いカードを引けたのだろう。闇凌牙が笑えば笑うほど、遊馬の敗色が濃厚になっていく。絶望に深みが増していく。
(闇のフィールよ、もっと高まれ! 絶望よ、俺に力を与えろ! そして、因果の底より“あのカード”を浮上させろ!)
邪神に祈るように、闇凌牙が心の内で呵呵と嗤(わら)った。
遊馬のライフはたかだか400、手札は一枚で、フィールドに罠カードは伏せているが、モンスターは居ない。攻撃力2200以上の闇属性モンスターではない限り、闇凌牙のエース『A.O.J カタストル』を破壊することは出来ない。加えて、相手のライフはまだ3000以上もある。トドメに『No.39 希望皇ホープ』は除外され、『死者蘇生』も使用済みだ。闇のフィールによって仲間と隔離されてしまっているため、ゼアル化も見込めない。仲間が気付いているように、遊馬自身も気付いていることだろう――勝てない条件が揃い過ぎていることに。
絶望だった。
「俺様はカードを伏せて、ターンエン―‐」
「もうやめて!」
最後の一枚の手札を伏せた闇凌牙が言い切る前に、あまりの遊馬の絶望に堪(こら)えきれなくなった小鳥が叫んだ。
「このデュエル、勝たなくちゃいけないってこと分かっているわ。でも、私は見たくないの。遊馬がこれ以上、心も身体も傷付くのを黙って見ていることしか出来ないなんて、私は耐えられない……っ!」
「小鳥……」
涙をポロポロ零してしゃがみ込む小鳥に、アストラルもカイトも言葉を失う。ダイレクトアタックを二回も受け、希望をへし折られ、仲間が視えなくなっても、デュエルをしなくてはならない遊馬の姿は見ていて辛いものだった。だが、デュエルが始まってしまった今、どうしようもないことだ。小鳥の啜(すす)り泣きを聞いて、言葉を失っていたのは、遊馬陣営の二人組だけではなかった。
「フェーゲレヘン」
闇凌牙がポツリと呟く。
右手で左手の甲に巻かれた包帯を数回さすり、視界を床に落とした。そして再度視線を遊馬に向けると、口が裂けるように笑ってみせた。
「九十九遊馬。此処まで持ちこたえるなんて、流石は千年アイテムに選ばれただけあるな。普通の人間だったら、これだけの闇のフィールの中に居たらとっくのとうに発狂しているぜ」
カツカツと音を立てて、ゆっくりと闇凌牙が遊馬へ接近していく。
「お前が闇のフィールに完全支配されないのは、何処かで希望を持っているからだ。神代凌牙は裏切っていないってな。……最も、相棒と宿敵(ライバル)に揃いも揃って『凌牙が裏切った』と言われて動揺しちまったからか、ゼアル化を続けていられる程の精神は保てなくなっちまったけどな」
だからよぉ、と闇凌牙は悪魔の契約書を取り出すように言った。
「お前に神代凌牙の本音を視(み)せてやるよ。この千年レンズは人物の記憶を覗き込む能力を持つからな」
「貴様、何を考えている?」
隠者にも似た妖(あや)しげな雰囲気を醸し出す闇凌牙に、カイトが顔面を引きつった状態で話し掛ける。
「何をって、チビガキに王サマの記憶を視させてやるのさ」
「そんなことをして、いったい君に何の得がある? 裏切っていないという何よりの証拠になるだけではないか」
アストラルの言う通り、神代凌牙は九十九遊馬に絶対の信頼を置いている。記憶を視せたら凌牙が裏切っていないことは自明の理になり、せっかく絶望に追い込んだ遊馬を希望に復活させることになるため、闇凌牙には何の利点もないはずだった――彼の悪略を聞くまでは。
「早とちりすんなよ、千年アイテムの亡霊。いつ俺が今現在の記憶を視せるって言ったんだ?」
「なに?」
訝しげに応答するアストラルに対して、闇凌牙は嬉しげに答えた。
「俺が視せる凌牙の記憶は、遊馬と出会ったばかりの頃だ」
彼の謀略に、アストラルと小鳥とカイトは一瞬にして血の気が引いていった。
「待って! そんなことをしたら―‐」
「今でこそ、仲良しこよしな二人だが、出会ったばかりはどうだったろうな。少なくとも、凌牙は遊馬に対して鬱陶しい感情しかなかったはずだ。自分みたいな挫折を知らず、孤独からは程遠く、仲間に囲まれ、明るく楽しげに毎日を過ごし、デュエルチャンピオンを目指すなんて軽々しく口にする一年坊主。イラッときて、潰したくて、同じ闇に突き落としたくて、絶望する様を見たかったに違いねぇよなぁ」
止める小鳥を通過し、絶望の足音を立てながら、正義執行者――強者は確実に弱者へと近付いていく。
「その時のどす黒い感情を今の凌牙の本音としてアイツに視せつけたら、さぁて、どうなっちまうかねぇ」
「やめろ、やめてくれ!」
「裏切った、と信じざるを得なくなっちまうよなァ!」
カイトの制止を無視し、闇凌牙は遊馬の真ん前に立ち、襟首を掴んで無理矢理に立ち上がらせた。尋常ではない空気を読み取ったであろう、遊馬が身を捩(よじ)らすが、闇凌牙は情け容赦なく遊馬の瞳を自身の左目に装着した千年レンズに近付けた。
「視てみろよ、九十九遊馬。神代凌牙の本音を! 逃れられない真実を!」
「視るな! 遊馬ーっ!」
アストラルが叫ぶが、全ては遅過ぎた。千年レンズが強く光り、凌牙の心を覗き込んでしまった遊馬が大きく目を見開く。僅か須臾の出来事だった。用は済んだとばかりに闇凌牙が襟首を突き飛ばすように放すと、遊馬は崩れるようにその場に座り込んでしまった。この瞬間、アストラルもカイトも小鳥も遊馬が絶望に落ちたことを確信した。アンブレイカブル(折れない)ハートは、とうとう折れてしまったのだ。
「そういや、宣言がまだだったな」
最初の定位置に戻りながら、闇凌牙は悠々と宣言を行った。
「少年よ、これが絶望だ。ターンエンド」
そう言い終わるや否や、闇凌牙のセットしたデッキの一番上のカードが混沌(カオス)の光を放ち始めた。闇のフィールがマックスに達したのだ。次に闇凌牙のターンが来たとき、これを引けば確実に勝てるだろう。デッキの一番上に置かれた、因果の底から浮かび上がった魔法カードに、闇凌牙は狂喜の声を上げたくて仕方がなかった。
「さぁて、七ターン目。九十九遊馬、お前のラストターンだ……と言っても、デュエルする意欲はもうねぇだろうけどな。なんなら、サレンダーしても良いんだぜ? 負けたら魂は冥府の扉行きだが、身体はそれ以上ボロボロにならずに済むんだ。身も心もボロボロになるところを、心だけで済むから良い案だと思うんだけどな。安心しろよ、独りじゃねぇぜ。アストラルも一緒に逝くからさ。なんなら、カイトも後追いさせてやろうか? 相棒と宿敵も逝かせてやるなんて、俺様、親切過ぎだろ。あ、そうそう! フェーゲレヘンは俺の側に置かせてやるからな。お前まで逝く必要はねぇよ。“絶対的な暴力”となった俺の側に居られるなんて、とんだ果報者だぜ?」
「誰があなたなんかと!」
涙を無茶苦茶に拭うと、小鳥が闇凌牙を嫌悪感を露わにして強く睨み付けた。予想だにしない小鳥の反論に目を丸くした闇凌牙だったが、遊馬が狼煙(のろし)のように立ち上がるのを見て、彼女に何か言うのを辞めた。
「九十九遊馬、冥府の扉の向こうへ逝く覚悟は出来たか? 神様の御前の天秤に乗せる真実(マアト)の羽とお前の心臓の重さは? 最期に呼ぶ名前は決まったのかい?」
そろそろと遊馬の右手がデッキへ伸びていく様を見つつ、闇凌牙がケヒケヒと笑いながら言葉を詰め寄らせていく。
「遊馬」
アストラルが相棒の名を呟く。
右手がデッキの上にそのまま置かれれば、サレンダーとなり、遊馬の敗北が決定する。諦めるな、と叫びたくても叫べない。遊馬がこれ以上傷付かずに済むのならいっそのこと――。
「遊馬。聞こえただろ、神代凌牙の声が」
「ああ、聞こえた」
闇凌牙の問い掛けに、遊馬が端的に答える。彼の右手はデュエルディスクのデッキの上に置かれ、俯いているため、遊馬の表情は掴めない。アストラル・小鳥・カイトが息を飲む。ケヒヒと闇凌牙が笑いを漏らす。
そして、遊馬は答えた。
【2】
「シャークの――『助けてくれ』という声が!」
遊馬が顔を上げる。
その表情の何処を見ても絶望はなかった。絆という希望に満ち溢れていた。闇が遊馬から遠退いていく。彼から絶望という死に至る病は完全に消え去っていた。
「行くぜ、俺のターン! ドロー!」
瞳に不屈の炎が燃えている。その情熱さながらの光を放ちながら、遊馬がドローした。
(そんな馬鹿なっ!)
ゼアル化していたときよりも一層輝く希望の光に闇凌牙は目が眩みそうだった。
(確かに俺はアイツに過去の凌牙の記憶を視せたはずだ。なのに何故絶望しない!? どうして闇のフィールに屈しない!?)
(それはお前が三つの失策を演じたからだ)
(シャーク・ドレイク! どういうことだ!)
ナンバーズの聖霊が闇凌牙の耳元で囁く。姿を見せないまま、シャーク・ドレイクは三つの失策を説明し始めた。
(一つ目。餓鬼とはいえ女に現[うつつ]を抜かしたこと)
包帯を巻かれた左手をうっすらと視えない手で撫でられる。
正々堂々戦って欲しいという小鳥の言葉を真に受けた闇凌牙は、心理フェイズを利用したが、禁止カードやイカサマを使わずに遊馬とデュエルし、「シャークが裏切るなんて嘘よ」と言う彼女の為に凌牙が裏切っていないことを早々にネタバレしていた。
挙げ句、心身ともに遊馬が傷付くのを見たくないという小鳥の為に心をズタボロに引き裂いて、身体は無事で済むようにサレンダーを促そうとさえした。
(二つ目。他人に利用させないと豪語した千年レンズを道具として使わせたこと)
シャーク・ドレイクとのやり取りで闇凌牙は『千年レンズを誰かに使われることはない。使わせもしない』と言ったにも関わらず、遊馬に凌牙の記憶を視せるために自ら望んで道具として使わせた。
(三つ目。最も敵に回してはならない者を目覚めさせてしまったこと)
(最も敵に回してはならない者?)
(ほう? 古代の砂漠の国の民でありながら、神の名を忘れたか)
(神だと!)
思いも寄らない遊馬の絶望から希望への変わり身に、闇凌牙は冷静さを完全に欠いていた。そんな彼を追い詰めるように、シャーク・ドレイクがその神の名を口にした。
(ラーの神、太陽だ。その光が千年レンズの虚偽の幻を打ち破り、凌牙の真実の感情を遊馬は視ることが出来たのだ)
(そんな馬鹿な!)
闇凌牙は振り被って遊馬を見た。太陽が夜を切り開くように、遊馬が放つ希望の光が絶望の闇を打ち払っていく様に恐怖を感じた。
「アストラル、小鳥、カイト! やっぱりみんな居てくれたんだな!」
「遊馬、俺達が視えるのか!」
カイトの質問に遊馬が諾と頷く。
「どうやって闇のフィールを弾(はじ)いたの?」
「このデュエルに挑むうえで一番大切なことを思い出しただけだ!」
不思議そうに小鳥が尋ねると、遊馬は自信を持って答えた。
「俺はデッキ狩りがシャークじゃないことを証明するために、此処まできたんだ。だから、シャークを信じるだけで良かったんだ。もう迷わねぇ!」
遊馬がアストラルを見た。彼の瞳には真実しか映っていなかった。
「迷惑掛けたな、アストラル」
「いつものことだろう、君なら」
二人揃って、ニィと笑う。勇気と希望がデュエルフィールドを満たしていく。
「遊馬、勝つぞ」
「分かっているさ、アストラル」
顔を見合わせて宣言する。恐怖なんて何処にもなかった。
「いくぜ、“千年レンズ”! 俺は先程引いた魔法カード『カップ・オブ・エース』を発動! コイントスを一回行い、表が出た場合、自分はデッキからカードを二枚ドローし、裏が出た場合、相手はデッキからカードを二枚ドローする!」
鉄男から借りたコインをポケットから取り出した。一か八かのギャンブルカードなのに、遊馬はちっとも恐くなかった。
(そうだ、俺がシャークを孤独にさせないように、誰かが俺を孤独にさせないようにしてくれている。だから、俺はいつまでもどこまでもこの想いを忘れずに走っていけるんだ!)
「かっとビングだ、俺ーっ!」
コイントスする。左手の甲に落ちたコインを右手で抑え、相手に見せつけるようにしてその手をどかした。コインはライオンの顔を見せていた。
「当然、正位置(表)! よって、俺は二枚ドローする!」
絆を確かめるようにコインを強く握り締めたまま、遊馬はデッキからカードを二枚引き抜く。これにより彼の手札が三枚になった。絶望の闇を振り払った今、悪い方向へ進むことはない。それを認めたくない闇凌牙は「ただ運が良かっただけではないか!」と悪態を吐きたくて仕方がなかった。だが、九十九遊馬が何をしようと無駄だ。所詮絶望に落ちる定めなのだ。伏せたカードを見ながら、闇凌牙は人知れずほくそ笑む。
「遊馬、これで勝利の方程式が完成した」
「ああ、そうだな。アストラル」
そんな闇凌牙の思惑を余所に、まずは一枚目のカードを遊馬は掲げた。
「俺は『ガガガガール(レベル3闇属性魔法使い族、攻撃力1000守備力800)』を通常召喚!」
「闇属性のモンスターを召喚して『A.O.J カタストル』を正面から倒す気か? だが、『A.O.J カタストル』の攻撃力は2200、まだまだ足りないぜ!」
「なら重ね掛けをするまでのこと!」
アストラルから闇凌牙への返答を耳にしつつ、遊馬は二枚目のカードを手に取った。
(シャーク、俺に力を貸してくれ! お前を助ける力を! お前を独りにしない力を! もう絶対に俺はお前を見捨てない! お前が俺を信じ続けてくれたように、俺もお前を信じ続けて、信じ切ってみせる! だって、俺達は……――なぁ、そうだろ、シャーク!)
強き意志が希望になり、皇の鍵を輝かせる。希望の輝きにより、闇属性の『ガガガガール』を召喚したことで増すはずの闇のフィールを切り裂いた。
「俺は手札から魔法カード『アーマード・エクシーズ』を発動! 自分の墓地に存在するモンスターエクシーズ一体を選択し、自分フィールド上に存在するモンスター一体に装備カード扱いとして装備する。装備モンスターはこのカードの効果で装備したモンスターと同名カードとして扱い、そのモンスターと同じ攻撃力になる!」
「残念だったなぁ、遊馬! お前の愛しのエース『No.39 希望皇ホープ』は墓地じゃなくて除外だ。『アーマード・エクシーズ』は使えねぇ!」
「墓地にはまだコイツがいるさ! 蘇れ! 『No.17 リバイス・ドラゴン』!」
墓地から『No.17 リバイス・ドラゴン』が現れ、その上に『ガガガガール』が乗り、装備された状態になった。
「同名カードとして扱う場合、引き継ぐのは名前だけであって、属性等は元々のモンスターのものが適応される」
「つまり、『No.17 リバイス・ドラゴン』は闇属性になる!」
アストラルの説明を遊馬が引き継ぎ、闇属性になった『No.17 リバイス・ドラゴン』が咆哮する。
「だが、闇属性になったところで攻撃力は2000。『A.O.J カタストル』には後200足りねぇな。闇属性になった今、フィールド魔法『ウォーター・ワールド』の恩恵すら受け付けねぇうえ、オーバーレイ・ユニットもねぇ。詰んだな」
「まだだ! まだ重ね掛けは終わってねぇ!」
遊馬は手札の最後の一枚である魔法カードを手に取った。この魔法カードは五ターン目で引き、落としてしまったカードだ。闇凌牙は確実に何の魔法カードなのか知っているだろうが、この際関係なかった。
「魔法カード『破天荒な風』を発動! 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体の攻撃力・守備力を次の自分のスタンバイフェイズ時まで1000ポイントアップする! 俺は勿論『No.17 リバイス・ドラゴン』を選択だ!」
黄金の風が吹き荒れ、闇属性の『No.17 リバイス・ドラゴン』の攻撃力を2000から3000までアップさせる。
「『No.17 リバイス・ドラゴン』の攻撃力が『A.O.J カタストル』の攻撃力2200を上回った!」
「これで『A.O.J カタストル』を破壊できるわ!」
カイトが拳を握り、小鳥が喜びの声をあげる。そんな空気をケヒケヒとした笑い声を揺るがした。
「土壇場で此処までやるなんて、流石にWDCのデュエルチャンピオンなだけあるな」
自身のエースを破壊するモンスターが登場したというのに、闇凌牙には悪意のこもった余裕の笑みが浮かんでいた。
「遊馬、いいことを教えてやるぜ。所詮は絶望が勝つ定め! 希望は絶望の礎(いしずえ)にしかならねぇんだよ! カウンター罠『神の宣告』発動!」
「“神宣”だとっ!?」
それまでの希望を刈り取るカウンター罠にナンバーズハンターが驚愕の声をあげる。
闇凌牙が『超水圧』で引き当て、伏せたカードがオープンされた。
「ライフポイントを半分払い、魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚のどれか一つを無効にし破壊する! 今の俺のライフは3400。1700支払い、『破天荒な風』を破壊する!」
このゲス野郎! とカイトは怒鳴りたくなった。『神の宣告』はいつでも発動できるカウンター罠だ。つまり、一番最初の『カップ・オブ・エース』の時点でも発動できたのだ。それを見逃して、今の今で発動させるなんて、何処まで遊馬の積み上げた希望を打ち砕き、デスパレート(絶望の崖)から突き落としたいのか!
「キィーヒャッハッハッー! 残念だったな、九十九遊馬! これで分かっただろ! 所詮、希望なんざ積み上げれば積み上げる程、デスパレートを高くするだけということを! 絶望の礎でしかないことを! 最後に勝つのは絶望なことを!」
「違う! 希望は絶望の礎なんかじゃねぇ! 希望はみんなの胸の中にあるもんなんだ! ずっと寄り添っているものなんだ! それを忘れずに信じ続けていれば必ず応えてくれる! 希望そのものになれる! たとえ、それがどんなに……深海の牢獄のような絶望のドン底にいたとしても!」
千年レンズに猩々緋(黒い赤、という意味)色の眼(ウジャト)が浮かび上がる。しかし、遊馬の煌めきは消えたりしなかった。『神の宣告』の放つ光が『破天荒な風』を裁く前に、遊馬は五ターン目で伏せた、Ⅳから借りたカードをひっくり返した。
「Ⅳ! お前がシャークを助けられるってことを証明してやる! カウンター罠発動、『ギャクタン』!」
「『ギャクタン』は罠カードが発動した時に発動。その発動を無効にし、そのカードを持ち主のデッキに戻すカウンター罠だ」
遊馬のデッキに入っているはずのない、まさかの『ギャクタン』に、凌牙の記憶を覗き込むことで対戦相手のデッキを把握してきた闇凌牙は発声すら忘れて唖然とした。アストラルの説明通りに『神の宣告』は巻き上げられ、闇凌牙のデッキに戻っていく。
「ライフ1700の払い損だな」
「そんな馬鹿な……神が、俺の神がーっ!」
カイトの冷静な言葉に、闇凌牙は怒ることすら出来なかった。ドラゴンの唸り声がデュエルフィールドを轟かす。闇凌牙が振り向くと、攻撃力3000の闇属性の『No.17 リバイス・ドラゴン』が圧倒的な存在感と共に佇んでいた。
「“千年レンズ”、バトルだ! 『No.17 リバイス・ドラゴン』で『A.O.J カタストル』を攻撃! 対“光”属性のモンスターを“貫く”、“闇”の“バイス・ストリーム”!」
遊馬とアストラルが声を揃えて攻撃宣言し、『ガガガガール』を背に乗せた『No.17 リバイス・ドラゴン』が暗黒の“バイス・ストリーム”を放つ。800のオーバーダメージを受け、機械仕掛けの正義執行者『A.O.J カタストル』は爆散していった。
「正義が、強者と勝利の象徴が、あの女(ヒト)との絆の召喚モンスターがぁぁぁぁぁ……ぜ、全……め……滅めつめつ……」
泡を吹くように呟きながら、闇凌牙が膝から崩れ落ちた。これにより、闇凌牙のライフは1700から900までダウンし、モンスターゾーンは空っぽになってしまった。
(だが、まだ900も残っている! 次のターン、神代凌牙の因果の底から蘇った魔法カードさえ引ければ……)
そこまで考えて、闇凌牙はハッとした。凌牙が遊馬に渡した『アーマード・エクシーズ』にはもう一つ効果があったのだ。
「君は遊馬を追い詰めるため、念入りに二人のタッグデュエルを覗いたのだろう。『アーマード・エクシーズ』のもう一つの効果を忘れたとは言わせない。遊馬!」
「おう! 『アーマード・エクシーズ』のもう一つの効果発動! この効果で装備したモンスターを墓地へ送る事で、もう一度攻撃することが出来る!」
この効果によって、『No.17 リバイス・ドラゴン』は再び墓地へ戻っていく。残されたのは、攻撃力1000の『ガガガガール』だけとなった。
「やめろ、よせ……っ!」
後退りするライフ900の闇凌牙に、『ガガガガール』は冷たい視線を送る。
「いっけーっ! 『ガガガガール』でダイレクトアタックだ! “ガガガプッシュ”!」
「やめてくれーっ!」
遊馬の声を受けた『ガガガガール』は無慈悲にも、ピ・ポ・パとスライド式携帯電話を鳴らす。携帯電話から放たれた超電磁魔導波が闇凌牙に直撃し、彼のライフは0となり、デュエル終了音が鳴り響いた。
「アストラル」
「遊馬」
グッジョブ! と二人一緒に親指を立てる。闇のフィールが次第に紐解かれていく。
九十九遊馬の勝利だった。
500ポイントアップし、守備力は400ポイントダウンする)
「やったわね、遊馬!」
「全くヒヤヒヤさせる奴め」
自由に動けるようになった小鳥とカイトが合流する。四人で勝利の喜びを享受していると、ブツブツと呟くようにケヒケヒと笑い声が聞こえてきた。
「“千年ジャンク”、約束だ。冥府の扉へ貴様の魂を捧げ、凌牙を解放しろ」
カイトがそう告げると、倒れ込んでいた闇凌牙は絡繰り人形のようにブワリと立ち上がった。人間らしからぬ動きに不気味さを感じた小鳥が遊馬の後ろに隠れる。
「それとも、自身が負けたら反故(ほご)にする気だったのか」
アストラルの追撃に闇凌牙は「まさか」と笑った。
「闇のデュエルの罰ゲームは絶対だからなぁ、ちゃんと魂は冥府の扉に捧げるぜ――神代凌牙の魂をなぁ」
闇凌牙の言葉に全員が凍り付いた。フリーズ状態を真っ先に解いたのは遊馬だった。
「なんでそうなるんだ! どうして、シャークの魂を捧げなくちゃならねぇんだ!」
「俺は『敗者は冥府の扉に魂を一つ捧げる』と言っただけだ。その魂が誰のものなのか――敗者とかプレイヤーとか一切限定しちゃいねぇ。都合の良いことに、今この身体には俺と神代凌牙の魂で二つあるんだ。その内の一つを捧げるだけでさァ」
なぁに怒っちゃっているの? とケヒケヒ笑う闇凌牙に、皆の顔色が絶望に染まっていく。
「だったら、遊馬は何のためにデュエルを……」
「そんなに意味を持ちたいなら、俺との二回戦目で勝てば良い話じゃねぇか。最も、目の前で凌牙の魂が消し飛ぶのを見て冷静でいられたらの話だけどな」
「貴様っ!」
小鳥の言葉を一蹴する闇凌牙にカイトが拳を振り上げる。それを後方へ大きくジャンプすることでかわすと、闇凌牙は醜い笑みを更に強くした。
「遊馬ァ、これで分かったろ? 結局は絶望が勝利することが。さぁ、デュエルディスクを展開しろ。デッキをセットしろ。Dゲイザーをオンにしろ。俺様ともう一戦デュエルだ。その前に大事(でぇじ)なお友達のお別れイベントがあるけどなァ!」
お楽しみはこれからだ! とエンターテイナーのように闇凌牙は両手を仰いだ。
「さぁて、みんなお待ちかねの罰ゲームの時間だ! 因果のカードは惜しいが、俺様の命には代えられねぇ。開け、冥府の扉! 闇のゲームの代償に神代凌牙の魂を捧げてやるからよ! ケヒヒ、ケヒケヒ、キィーヒャッハッハッー!」
冥府の扉が徐々に開いていく。涎を垂らさんばかりに高笑いする闇凌牙に、遊馬たちはその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
「アストラル、どうにか出来ねぇのか」
遊馬の呟きにアストラルは返す言葉がなかった。せっかく絶望から希望に返り咲いたのに、また絶望へと萎(しぼ)まなければならないのか。シャーク、と遊馬が呼ぶ。
「やめろ、やめてくれよ……」
「三度目の死を味わえ、神代凌牙!」
「やめてくれーっ!」
闇凌牙が高らかに宣言し、遊馬が絶叫した、そのときだった。
【3】
「それはどうかな?」
闇凌牙とも遊馬ともアストラルとも小鳥ともカイトとも異なる、全くの第三者の声が割って入るように通っていく。声のした方向を見ると、全開になった冥府の扉からだった。扉の向こう側は冥府だというのに光に満ち溢れ、その開け放たれた扉の真ん中に一人の人物が立っている。逆光のため、顔は分からない。背格好から推測するに青年の域だろうか。奇抜な髪型をし、古(いにしえ)の砂漠の国の王族の真っ白い礼服を着こなした彼はシルバーの鎖のペンダントをしている。そのペンダントトップはカイトが美術館で見た千年アイテムの一つであり、眼(ウジャト)の紋様が刻まれた、黄金の大きな四角錐を逆さにしたものだった。
「お前は――!」
闇凌牙が王の真名を口にするが、遊馬たちは聞き取れなかった。王は闇凌牙にすっと指差しながら判決を下した。
「千年レンズに封印されし魂よ、罰ゲームを受けるのは貴様の方だ」
「なにぃっ! 何故、俺が受けなくてはならねぇんだ! 俺は俺の魂を捧げるとは一言も―‐」
「確かにそのような約束を貴様は彼等とはしていない。だが、その身体の持ち主とは交わしただろう」
「宿主と?」
その瞬間、波のように闇凌牙に記憶が蘇ってきた。夜の窓ガラス越しに、闇凌牙は凌牙にゲームを持ち掛けたのだ――遊馬が凌牙を信じ抜いたら彼の勝ち、疑って見捨てたら闇凌牙の勝ちというシンプルなゲームを。
その時、闇凌牙はこうとも言った。
『賭けるものは互いの魂だ。無論、俺が負けたらお前の身体を返してやんよ』
『ただのゲームじゃねぇ、闇のゲームだ。敗者には必ず罰ゲームは行われるから安心しな』
闇凌牙は理解した。今、此の場で行われるのは遊馬との闇のデュエルの罰ゲームだけでなく、あの時、凌牙と交わしたゲームの処理も行われるのだ。
「あ、あれは正式な闇のゲームじゃねぇ! 口からの出任せの単なるハッタリだ!」
「闇のゲームの元に約束した以上、罰ゲームは受けて然(しか)るべきだ」
にじりにじりと闇凌牙が後退りする。顔には冷や汗が流れていた。
「ふざけるな! なんで、俺ばっかり罰ゲームを受けなきゃならねぇんだ! “すべてのはじまりのカード”を手に入れるまで、俺はまだ涅槃に逝く訳にはいかねぇんだよ!」
千年レンズに浮かび上がる眼(ウジャト)が紅の色を発する。闇凌牙が右手を掲げると3×3マスの魔方陣が現れ、数字が消えうせたかと否や、ベクトルのように魔法の矢が王に向かって飛んでいく。しかし王が呪文を呟くと、忠実な魔導士が冥界から現れ、攻撃を一気に蹴散らしたうえ、消える間際に罪人を黒魔術で拘束していった。
「くそっ! 放せ! 放せよぉっ!」
「問答無用! 罰ゲーム!」
闇凌牙を指差す王の額には、第三の眼(ウジャト)が浮かんでいた。同じように罪人の足元に黄金の眼(ウジャト)の結界が現れ、彼を包囲する。結界から迸(ほどばし)る聖なる光を受け、闇凌牙は断末魔の叫び声を上げた。次第に彼の身体はぐんぐん宙へ浮かび上がっていったかと思うと、ぐにゃりと歪んだ。落ちる! と感じた瞬間に遊馬は走り出し、スライディングするように落ちてきた凌牙を受け止めた。
「シャーク! シャーク!」
遊馬が何度も名を呼ぶと、気を失っていた凌牙は少しだけ呻いた。千年レンズは付けていなかった。戻ってきた凌牙に遊馬は涙が零れそうになる。そんな彼等の頭上では、凄まじい光景が繰り広げられていた。
「いったい俺の何が悪いんだ! お前らがあの女(ヒト)を生贄に捧げなければ! 俺はただ“すべてのはじまりのカード”を使って、あの女(ヒト)を―‐」
「貴様は此処にいてはいけない。輪廻の輪に加わり、あの女(ヒト)に出会うための新たな人生を歩め。それが、貴様に俺が出来る最後の情けだ」
千年レンズを装着した紅蓮の悪霊が身を捩(よじ)りながら呪詛と願いを口にする。王が宥めるように口を開くと同時に冥府の扉に風が吹き始めた。悪霊を吸い込もうとする扉に、彼はひたすら抗(あらが)い続ける。
(哀れだなぁ、“千年レンズ”)
姿を現さないまま、凌牙が唯一所有するナンバーズの聖霊が幾千年の悪霊にだけ聞こえるように囁きかけてきた。
(シャーク・ドレイク! 俺様を助けろ!)
(“千年レンズ”、俺は言ったはずだ。『俺は誰の味方ではない』と。所有者すらでなくなったお前に何故協力しなくてはならない? だが、お前には感謝している。久方振りに余興を楽しむことが出来たうえに、面白い事実――宿命を知ることが出来たからな)
縋るような声色の癖に上から目線の懇願をシャーク・ドレイクは鼻で笑う。命懸けの復讐劇を余興と揶揄され、悪霊が憤る前にナンバーズの聖霊は告げた。
(さて、今の内に伝えておくとするか)
ケヒケヒと笑いそうな勢いでシャーク・ドレイクは言った。
(“千年レンズ”、冥府の扉の向こうへ逝く覚悟は出来たか? 神様の御前の天秤に乗せる真実[マアト]の羽とお前の心臓の重さは? 最期に呼ぶ名前は決まったのかい?)
(シャーク・ドレイク! 貴様ァ!)
悪霊が怒り任せで声を荒げるが、シャーク・ドレイクの気配は跡形もなく消え去っていた。
冥府の扉の吸引力は益々強まるばかりだが、悪霊は悪霊らしく呪いの言葉を吐き散らし続けた。
「何故だ! 何故、逝かねばならない!? 弱者だからか? 違う、俺は弱者じゃねぇ! 俺は強者だ! あの女(ヒト)の言う通り、強くなった! 勝ち続けたから此処まで来れた! 勝利こそが全てなんだ! 九十九遊馬ァ、お前とてそうだろうが!」
「それは違うよ」
悪霊の吠えるような問い掛けに遊馬は静かに答えた。眠っている凌牙の頭を二・三度撫でながら少年は続けた。
「俺、弱かったんだ。鉄男に負けて、カードへの理解の足りなさを感じた。シャークに負けて、自身の意志の甘さを知った。カイトに負けて、タクティクスの未熟さを分かったんだ」
悪霊を見上げ、遊馬は言った。
「勝つことが全てじゃない。満足する敗北もある。俺は“勝ち続けた”から、此処に来れたんじゃない。“あの時、負けた”から此処まで来れたんだ。負けたときの悔しさをバネにしたり、誰かと協力したり、時には叱られたり、躓いたりして、それでも起き上がれたから、かっとビングの更なる向こうへ行けたんだ。負けるのが怖い余り、禁止カードに逃げたお前は単なる卑怯者じゃない」
千年レンズに封じ込められた魂を見詰めながら、遊馬は結論を下した。
「お前は臆病者の弱虫だ」
突き付けられたら己自身の正体に悪霊がシャウトする。冥府の扉の吸引力が更に強くなる。もう耐えきれなくなったのだろう、悪霊が手を伸ばした。手を伸ばした先は、取り憑いた神代凌牙でも、デュエルで敗北した九十九遊馬でも、そのパートナーたるアストラルでも、デュエルに勝利した天城カイトでもなかった。あの女(ヒト)と同じように手当てしてくれた、一人の少女だった。
「小鳥……!」
「ウル……?」
小鳥が呼び返した本名に、彼がどんな表情を浮かべたのか確認する間もなく、数千年に渡って千年レンズに封印されし魂は冥府の扉の向こうへと消えていった。
悪霊が冥府へ送られると、扉の向こうの世界が白黒と点滅し、王の首から掛けたペンダントと同じ紋様を浮かび上がらせた。ゆっくりと開眼した眼(ウジャト)が光の玉――悪霊が奪い取った百人のデュエリストの魂のデッキを吐き出していく。そこら中に光を撒き散らしながら、花火のようにデッキは元の持ち主の所へ戻っていき、デッキを再び手にすることが出来たデュエリストの一人であるカイトはほっと息を吐き、思わず最愛の弟の名を呟いていた。
放たれた光によって、闇のフィールがじわりじわりと潮が引いていくように消えていく。用は済んだとばかりにマントを翻す古代の砂漠の王にアストラルが問い掛けた。
「君はいったい何者なんだ?」
背を向けたまま、王が左腕を伸ばす。見えない水蒸気が固体化するように現れたプロトタイプのデュエルディスクが展開され、いつの間にか彼の服装は王族の礼服から群青色の学生服にも似た格好になっていた。
「お前、デュエリストなのか!」
遊馬がすくっと立ち上がる。急に立ち上がったものだから、凌牙を膝の上から落としてしまい、眠る彼が痛さで声を漏らした。
「なぁ、俺とデュエルしてくれよ!」
「ちょっと遊馬! さっきデュエルしたばかりでしょ!」
「凌牙を先に病院へ連れていくのが先決だろうが」
デュエル馬鹿の遊馬を小鳥とカイトが押さえ込む。アストラルもその通りだと頷く。
「じゃあ、次は必ずデュエルしてくれよ! 俺、もっとつよくなるからさ!」
「次ってねぇ……」
「泉下(せんか:あの世)の住人に次があるものか」
それでも諦めない遊馬とその様子に呆れる二人に、黄泉の国の王様は「ああ必ず」と笑ってみせた。音を立てて冥府の扉が閉まっていく。完全に閉まる前にアストラルが再び質問した。
「どうして君は我々の味方をしてくれたんだ? シャークと“千年レンズ”の闇のゲームは正式なものではなかったはずだ」
王は遊馬を一瞥してから、嬉しげにこう答えたのだった。
「彼の気質が俺の知己(ちき:親友のこと)に似ていたからさ」
冥府の扉が完全に閉まる。闇のフィールと共に冥府の扉は消え去り、窓からはさんざめく朝日が差し込んでいた。
「仲間を信じること、それが俺が俺らしくあるために一番大事なことだと思うんだ。それを忘れたから、俺は俺のデュエルが出来なくなっちまったんだ。だから、俺が俺らしく俺であるために仲間を信じる。デッキを、勝利を信じる。信じることを俺は諦めない! それこそが“かっとビング”なんだ!」
遊馬が皇の鍵とコインを握り締めた拳を空に掲げる。朝日を浴びながらの小さな勇者の宣誓に三人は顔を見合わせた後、宿敵はフッと笑い、幼なじみは優しく笑い、相棒は柔らかい笑顔を浮かべたのだった。
つづく
※YGO……『遊戯王』をローマ字にしたものの頭文字。