【遊戯王ZEXAL】声よ届け! 光貫く闇のデュエル!【映画風】   作:千葉 仁史

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④DDB

【1】

 

 遊馬と凌牙がデュエルの約束をした三日目の夜。

 

 覚醒したように目開く満月が見守るハートランドシティでは、二台のDホイールによって熾烈なチェイスが繰り広げられている真っ最中であった。宵闇に溶け込む紫色のDホイールがコーナーを曲がると、追尾していた宵闇に浮かぶ白色のDホイールも同じように曲がる。人気のない狭い道を紫色のDホイーラーは勝手知ったるとばかりに走らせる。その道の先には高い障害壁があった。紫色のDホイーラーは無言でアクセルギアを更に上げると、直線道路を突き抜けるように進み、倒れた柵を利用して壁を飛び越えた。白色のDホイールラーはチッと舌打ちすると、アクセルをフルスロットルさせ、勢い良く壁を乗り越えるが、その先に紫色のDホイールはいなかった。

 

「あの野郎、何処へ行きやがった?」

「Ⅳ兄様、あちらです!」

 

 白色のDホイール走者の腰を掴んだ同乗者が指をさす。封鎖されたハイウェイの入り口の『工事中』と掲げた看板を轢(ひ)き散らす紫色のDホイールが見えた。音を立ててブレーキを掛け、無理矢理に進路変更すると、白色のDホイールも無人の空中ハイウェイへ突っ込んでいく。

 

「Ⅲ、しっかり掴まれよ! 落ちても知らねぇからな!」

 

 チェーンアップ(魔改造)されたDホイールが唸りを上げる。更に速度を上げ、紫色のDホイールへ一気に追い上げた。フルフェイスのヘルメットをしているため、紫色のDホイーラーの顔はまるで分からない。

 Dホイールの車間距離が残り十メートルを切ったあたりで、桃色のヘルメットをした同乗者がボーガンを構えた。コーナーを抜け、直線に入ったと同時に矢を放つ。矢は紫色のDホイールの一つしかない球体のホイールに当たり、回転運動にノイズを与えた。制御不能になった紫色のDホイールはガードレールにぶつかりそうになりつつも進む。

ぐるぐると回りながら進む紫色のDホイーラーが見たのは、工事中の為、途切れた道路だった。ちりり、とフルフェイスのヘルメットの下にあるチャームが音を立てる。Dホイールに眼(ウジャト)がほんの一瞬浮かび上がり、高く長いブレーキ音を響かせながら、人工崖の一歩手前で止まった。

 完全に相手のエンジンが止まったのを確認してから、白色のDホイールから二人の兄弟が飛び降り、瞬時にデュエルアンカーを放つ。二人のデュエルアンカーは謎のDホイーラーを見事に拘束してみせた。

 

「会いたかったぜぇ、デッキ狩り」

 

 一人は茶髪に金髪のメッシュが入った白色の礼服の青年――Ⅳが追い込むように言い放つ。

 

「貴方がデッキを奪う様(さま)を見ていました。もう逃がしはしません。そのフルフェイスを取ったらどうです?」

 

 同乗者のピンク髪に杏(あんず:アプリコット)色の礼服の少年――Ⅲも言葉で追撃する。紫色のDホイーラーはそんな二人を無言で見渡してから、デュエルアンカーなんて気にも止めずに真っ黒なフルフェイスを外した。

 

 

 

【2】

 

「やっぱりテメェだったか。落ちたもんだな、神代凌牙!」

 

 Ⅳが声を荒げる。外に跳ねた紫髪、海を連想させるディープブルーの瞳の少年が其処に突っ立っていた。

 

「何故、こんな酷いことを! 君にはデュエリストの誇りはないのか?」

 

 Ⅲが質問を浴びせるが、砂時計のチャームを付けた見慣れぬDゲイザーを装着した凌牙はケヒケヒと肩を揺らして笑うだけだった。「何がおかしい?」と苛立つⅣに、凌牙はこう告げた。

 

「おい、デュエルしろよ」

「なにっ、デュエルだと!」

 

 腕を伸ばし、凌牙はいつもの青色のデュエルディスクを展開する。有無(うむ)を言わさないデュエルへの誘(いざな)いに、ケッとⅣが悪態を吐いた。

 

「Ⅳ兄様。どうやらデュエルに勝たないと、彼は理由を教えてくれないようですね」

「そのようだな、Ⅲ。そんなに俺のファンサービスを受けたいなら、とくと味合わせてやるぜ。凌牙ァ!」

 

 兄弟揃って腕を伸ばし、各々のデュエルディスクをセットした。羽をモチーフにしたデュエルディスクと、猩々緋(しょうじょうひ:黒を帯びた鮮やかな赤)色のナイフのようなデュエルディスクが月光に反射する。右目に手をかざすと、紋章の力によりマーカーが浮かび上がる。ARヴィジョンにより、幾千の数字コードが降り注ぎ、デュエルフィールドが構築された。その数字コードに僅かなバグが走ったことに二人は微塵も気付かない。

 

「デュエル!」

 

 そして、三人は一斉に宣言した。

 

「ルールは一対二の変則タッグデュエル。墓地・フィールド・ライフは共有ではなく、相手チーム全員を倒して勝利となる。無論、初ターン目は全員攻撃不可」

 

 ようやく凌牙が呼び掛け以外に声を出した。夜に沈殿する暗闇を抱えたかのような声でのルール説明をすると、更に続けた。

 

「だが、これは闇のゲーム、敗者は罰を受けてもらう」

 

 凌牙のDゲイザーのレンズに眼(ウジャト)が浮かび上がるが、刹那すぎて今は誰も気に止めない。

 

「闇のゲームだぁ? なに、訳の分からねぇことを。その罰とやらがデッキ強奪って訳か」

「安心しろ。デッキ狩りは俺の目的であって、罰ゲームではない。内容は負けるまでのお楽しみだ」

 

 Ⅳが口を挟むが、凌牙はさらっと受け流す。

 

「タッグデュエルで僕たち二人に適うと思っているのか!」

「ああ、だからハンデを用意した」

 

 Ⅲの強気な発言に、仰々しく両手を広げた凌牙は提案した。凌牙だけ手札十枚スタートか、どんな無理難題ハンデを付けるのか、とⅣとⅢが身構える。

 

「ハンデ内容は以下の通り。俺のライフは2000、お前らのライフは8000ずつだ」

 

 ⅣとⅢに衝撃が走る。一対二という不利な状況でありながら更に自身に不利に追いやる提案は狂気の沙汰以外の何物でもなかった。

 

「僕たちがハンデだと!」

「凌牙! テメェ、ふざけているのか!」

「ふざけてなんかいねぇよ。強者が弱者に情けを与えるのは当然だろ? Ⅳ、お前お得意のファンサービスだよ、ファンサービス」

 

 最後の単語を強調しながら、凌牙はケヒケヒと舌を出して笑う。月の光が逆光になって凌牙の表情は伺えず、金色(こんじき)のDゲイザーだけが不気味に輝いていた。

 

「舐めんなよ、凌牙。強者は俺たち二人の方だ。ライフは全員4000。せめてものの情け(ハンデ)だ、先攻はくれてやる」

「おーおー、お優しいこって。自分たちが弱者だとは微塵も思わねぇんだな。それじゃあ、先攻だけ頂くとしますか」

 

 Ⅳの妥協案(?)を凌牙がお芝居のように受け入れる。

 

(人を完全に見下した――まるでⅣ兄様みたいな言葉使いだ。本当にコイツは凌牙なのか?)

 

「おい、Ⅲ」

 

 疑念を抱くⅢにⅣが呼び掛ける。

 

「今のコイツはいつもの凌牙じゃねぇ。このデュエル、絶対に勝って奴を正気に戻すぞ」

 

 ぐっと握り拳を作り、ⅣはⅢにしか聞こえない声で続けた。

 

「なんでデッキ狩りなんて再びするようになっちまったのか分からねぇが、一度、アイツは俺のせいで落ちるところまで落ちちまった。もうアイツを闇落ちさせる訳にはいかねぇ。絶対に止めてみせる。それが、俺がアイツに出来る贖(あがな)いだ」

「Ⅳ兄様……」

 

 兄の決意に弟の決意も固まる。

 

(このデュエル、凌牙を止めるためにも、Ⅳ兄様のためにも絶対に勝たなければならない。たとえ、奴の使うデッキが『絶対に勝てないデッキ』と形容されていたとしても!)

 

「内緒話は済んだか? なら、行くぜ! 俺のターン、ドロー!」

 

 凌牙(ライフ4000)vs Ⅳ(ライフ4000)&Ⅲ(ライフ4000)の変則タッグデュエルの火蓋が切って落とされた。

 

「そういやぁ、巷(ちまた)では俺のデッキが『絶対に勝てないデッキ』と言われているらしいな」

 

 一ターン目。

 加えたカードを眺めながら、凌牙が唐突に呟いた。

 

「イカサマじゃねぇと良いんだけどな」

「本家本元に言われちゃあ、ザマァねぇぜ」

「……」

「まぁいいぜ。簡単な証拠でも見せてやんよ」

 

 黙り込んだⅣを凌牙は気にも止めずに「まずは」と言わんばかりに袖口を捲(めく)り、リストバンドがないことを見せた。リストバンドにカードを仕込むという簡単なトリックではないらしい。

 

「更に更に~」

 

 ドローしたことにより、六枚になった手札から凌牙が一枚を手に取った。

 

「俺は魔法カード『増援』を発動。レベル4以下の戦士族モンスターを手札に加える、と。せっかくだから、俺はレベル4の戦士族モンスター『鉄の騎士ギア・フリード』を手札に加えるぜ」

 

 デッキから抜き取ったカードを見せびらかし、凌牙は手札に加えた。オートシャッフル機能が作動し、デッキは再びバラけた。これにより、オートシャッフル機能による不正の線も消えてしまった。

 

「俺はモンスターカードを一枚裏側守備表示でセットして、ターンエンド。次はお前のターンだぜ、Ⅳ」

 

(『増援』といい、『鉄の騎士ギア・フリード』といい、凌牙らしくないカードだな。いつものデッキではないのか)

 

 凌牙のフィールドのモンスターゾーンにカードが一枚裏側守備表示でセットされる。

凌牙のカード内容にⅢは首を傾げたくなった。

 

 爪跡が残るぐらい強く握り締めてから、Ⅳは二ターン目に入った。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は手札からフィールド魔法『王家の眠る谷‐ネクロバレー』を発動! フィールド上の「墓守の」と名の付いたモンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。また、墓地のカードに効果が及ぶ魔法・罠(トラップ)・効果モンスターの効果は無効化され、お互いに墓地のカードをゲームから除外できない!」

 

 デュエルフィールドが夕焼け差す谷へと変貌する。

 

「そして、俺は裏側守備表示でモンスターカードを一枚セット、更にカードを一枚セットしてターンエンドだ!」

 

 Ⅳのデュエルフィールドに一枚の裏側守備表示のモンスターカードが、魔法・罠ゾーンに一枚カードがセットされる。

 

(俺が伏せたモンスターカードは『墓守の偵察者』だ。守備力2000、生半可な攻撃じゃあ倒せなねぇうえにリバース効果付きだ。リバース効果は俺のデッキから攻撃力1500以下の「墓守の」と名の付いたモンスター1体を特殊召喚。その後、俺のターンで一気にエクシーズ召喚を決めてやる! 仮に2000以上の攻撃力のモンスターでバトルしてきても……)

 

 相手には見えないよう、裏側守備表示にした『墓守の偵察者(レベル4闇族魔法使い族、攻撃力1200守備力2000)』と伏せカードを見下ろしながら、Ⅳは次ターンに備える。

 

 Ⅳと目が合ったⅢがコクリと頷く。Ⅲが三ターン目の開始宣言を行った。

 

「次は僕のターン! ドロー! 僕は裏側守備表示でモンスターカードを一枚、カードを一枚セットしてターンエンド」

 

(ナンバーズは全て遊馬に渡してしまったから、Ⅳ兄様の『ギミック・パペット』、僕の『先史遺産[オーパーツ]』は使えない。だから、僕たちは兄様の昔のデッキを組んだ。恐らくⅣ兄様が伏せたカードは『墓守の偵察者』、僕の伏せたカードは『墓守の番兵』と『スキルドレイン』だ)

 

 相手に分からないようにⅢはほくそ笑んだ。

 

 モンスターカード『墓守の番兵(レベル4闇属魔法使い族、攻撃力1000守備力1900)』はフィールド上の相手モンスター1体を持ち主の手札に戻すリバース効果を持つ。永続罠『スキルドレイン』は1000ライフポイントを支払って発動、このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の全ての効果モンスターの効果を無効化されるカード。 『王家の眠る谷‐ネクロバレー』により、双方の墓地活用が封じられた挙げ句、『スキルドレイン』によってモンスター効果すら打ち消してしまう、この戦法。

 

(俺とⅢでタッグデュエル用に組んだ『スキドレ墓守』デッキだ)

(凌牙、君は果たして勝てるかな?)

 

 ⅣとⅢが凌牙の動向を追う。

ライフポイントはお互いに4000のまま、四ターン目、凌牙のターンに入る。

 

「俺のターン、ドロー。俺は手札より魔法カード『大嵐』を発動。フィールド上の全ての魔法・罠カードを破壊する」

 

 淡々と凌牙がアクションを起こす。『王家の眠る谷‐ネクロバレー』『スキルドレイン』『聖なるバリア‐ミラーフォース‐』が一気に消し飛び、フィールドがまたもや夜の闇に沈んだ。

 

「『聖なるバリア‐ミラーフォース‐』か、怖い怖い。攻撃しなくて良かったぜ」

 

 悔しそうな兄弟に、凌牙は愉快そうに告げる。相手モンスターの攻撃宣言時に発動し、相手フィールド上の攻撃表示のモンスターを全て破壊する『聖なるバリア‐ミラーフォース‐』は厄介な存在だ。

 

「それじゃあ、俺は『王立魔法図書館』を反転召喚。そして、『鉄の騎士ギア・フリード』を通常召喚するぜ」

 

 一ターン目に伏せたカードがひっくり返る。意外にも、それはリバースモンスターではなかった。『王立魔法図書館』はレベル4光族・魔法使い族、攻撃力0守備力2000、続けて通常召喚した『鉄の騎士ギア・フリード』はレベル4地属性戦士族、攻撃力1800守備力1600のモンスターだ。ⅣとⅢが伏せたモンスターの守備力には届かない。ならば、レベル4のモンスター2体でエクシーズ召喚か? と考える二人に凌牙は一枚のカードを掲げた。

 

「俺は手札から装備魔法『蝶の短剣‐エルマ』を―‐」

「ちょっと待って下さい!」

 

 Ⅲが声を張り上げて止めた。

 

「『蝶の短剣‐エルマ』は禁止カードだ! デュエルディスクには読み込めないようになっているはず!」

 

 彼の言う通り、『蝶の短剣‐エルマ』は禁止カードだ。使うこと自体が禁じられているため、デュエルディスクには読み込めない。

 

「そうだっけなぁ~。俺のデュエルディスクは読み込めるんだけどな」

 

 試しに凌牙が、ぺしっと装備魔法カードをデュエルディスクにセットすると、電子音が鳴り、正式に読み込んだ。その作動音にⅣとⅢは顔を見合わせる。

 

「相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する『ハーピィの羽根箒』や、相手フィールド上の全てのモンスターを破壊する『サンダー・ボルト』みたいに“誰がどう見てもブッ壊れ”性能じゃあるまいし、たかだか攻撃力300ポイントアップにビビっているのか、お前たちは?」

「誰がビビりだ!」

「んじゃ、オッケーってことで」

 

 ケヒケヒと奇妙な笑い声で煽りを受けたⅢの発言を、凌牙は了承と受け取った。

 

(『蝶の短剣‐エルマ』は禁止カードだが、数値をみる限り大した驚異じゃねぇ。仮に装備したとしても『王立魔法図書館』の元々の攻撃力は0だから、300にしかならねぇし、『鉄の騎士ギア・フリード』は論外だ。何故なら……)

 

 Ⅳが今後の展開を予想していると、凌牙は斜め上の行動に走り始めた。

 

「俺は『蝶の短剣‐エルマ』を『鉄の騎士ギア・フリード』に装備!」

「馬鹿な!」

「『鉄の騎士ギア・フリード』の効果を忘れたか、凌牙! そのモンスターは装備された装備魔法カードを破壊するんだぞ!」

 

 タクティクスが売りなはずの凌牙の頓珍漢な行動にⅢとⅣが怒鳴るように叫んだ。

だが、時すでに遅し。『鉄の騎士ギア・フリード』の効果が発動し、『蝶の短剣‐エルマ』は破壊され、墓地に送られる……はずであった。

 

「この瞬間、『蝶の短剣‐エルマ』のもう一つの効果発動! モンスターに装備されているこのカードが破壊されたとき、このカードを持ち主の手札に戻すことができる」

 

 『蝶の短剣‐エルマ』は凌牙の手札に蝶のように舞い戻った。これにより、何の消費が行われなかったと同義になった。なんだ、単なるパフォーマンスか? と訝しむ兄弟二人は、今度こそ攻撃か! と警戒する。だが、凌牙が取った行動は以下の通りであった。

 

「俺は『蝶の短剣‐エルマ』を『鉄の騎士ギア・フリード』に装備!」

 

 無論、何度装備されようとも『鉄の騎士ギア・フリード』の効果は変わらない。『蝶の短剣‐エルマ』は破壊され、再び凌牙の手札に戻った。更にもう一度、凌牙は『蝶の短剣‐エルマ』を『鉄の騎士ギア・フリード』に装備する。三回も繰り返される、意味不明な行動にキレたのはⅣだった。

 

「凌牙! いい加減、時間稼ぎに無意味な行動を起こすのはやめろ!」

「この瞬間! 『王立魔法図書館』の効果発動!」

 

 三度手元に戻った『蝶の短剣‐エルマ』を手にしながらの凌牙の宣言に、ⅣとⅢは今まで忘れられていたモンスターを見た。そのモンスターには魔法カウンターが三つ乗っかっていた。

 

「このカードがフィールド上で表側表示で存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く。このカードに乗っている魔力カウンターを3つ取り除く事で、自分のデッキからカードを1枚ドローできる! よって、俺はカードを1枚ドローする!」

 

 ドローしたカードを見て、凌牙の唇が醜い みに歪んだ。引きが良かったのだろうか? 次こそ本当にエクシーズ召喚か! と思われたが、凌牙は四度目の『蝶の短剣‐エルマ』を『鉄の騎士ギア・フリード』に装備する作業に戻っていった。

 

(いったい凌牙は何をしたいんだ!? 『王立魔法図書館』『鉄の騎士ギア・フリード』『蝶の短剣‐エルマ』で永久ドローコンボが成立するが、今、アイツの場に手札の数×400ダメージを与える『潜航母艦エアロ・シャーク』がいる訳でもない。仮に居たとしても、『潜航母艦エアロ・シャーク』の効果は1ターンに一度きり。凌牙は一番最初に『相手チームを全て倒す』ことが勝利条件だと言った。僕とⅣ兄様、どちらかは必ず残るし、7枚以上の手札になった場合、エンドフェイズ時に6枚になるように捨てなければならない。手札を増やして、どうする気なんだ!?)

 

 延々と繰り返される作業に、Ⅲは怒りよりも不気味さを覚える。一方、Ⅳは冷静に戦局を見極めようとしていた。

 

(もう十回目のドローだ。欲しいカードが来るまで引き続ける気なのか、アイツは。そもそも、何故『蝶の短剣‐エルマ』は禁止カードになった? 確か、禁止カードには二種類の理由があったはずだ。一つ目は 奴の言う通り『ハーピィの羽根箒』や『サンダー・ボルト』みたいにデュエルそのものの根底を覆す“誰がどう見てもブッ壊れ”性能を持つカード、二つ目は……)

 

「Ⅳ兄様?」

 

 真実に辿り着いたとき、一瞬にしてⅣの顔は青ざめた。彼の異変に気付いたのか、恐る恐る尋ねるⅢにⅣは言った。

 

「Ⅲ、逃げるぞ」

「えっ?」

「逃げるんだ、Ⅲ! このデュエルは絶対に勝てない!」

 

 Ⅳが必死の声をあげた。らしくないⅣの形相にⅢの思考が停止する。

 

 その時にはもう、凌牙はカードを持ちきれなくなっていた。必要なカードだけ手元に残し、それ以外のカードは全て地面に落としていく。落としたカードには『アームズホール(装備魔法カードをリサーチする。但しこのターン通常召喚は行えない)』や『名工虎鉄(効果モンスター、装備カードを手札に加える)』があった。彼が必要と見なしたカードは一枚二枚と増えていき、今は『蝶の短剣‐エルマ』を除くと四枚になっていた。

 

「くそっ! 俺としたことがどうして気付けなかったんだ! 禁止された理由には二つ種類があるってことに! 一つ目は奴の言う通り“誰がどう見てもブッ壊れ”性能、二つ目は絶対に勝つコンボの一端を担(にな)っているからだ!」

「Ⅳ兄様! いったいどうしたって言うんです!?」

「『蝶の短剣‐エルマ』は後者だ! 絶対に勝つコンボの布石なんだよ! Ⅲ! デュエルアンカーを早く解け! あの五枚のカードが揃う前に―‐」

「もう遅いよ、Ⅳ」

 

 凌牙から下された終焉の宣告に、Ⅳの表情が絶望に歪む。

十七枚目のドローカードを加えた凌牙は、とうとう『蝶の短剣‐エルマ』すら投げ捨てた。

 

「凌牙、何が遅いんだっ!」

 

 噛みつくように吠えるⅢに凌牙は歪んだ笑顔で答えた。

 

「俺の勝ちってことさ、坊や」

 

 

 

【3】

 

 彼が手札の五枚のカードを見えるように裏返す。

 

『封印されしものの右足』

『封印されしものの左足』

『封印されしものの右腕』

『封印されしものの左腕』

『封印されしエクゾディア』

 

 揃った五枚のカードにⅢは驚きを隠せない。

 

「エクゾディアパーツが揃った、だと……!」

「エクゾディアの効果は単純明快至極簡単。この五枚のカードを揃えたものは勝利する! つまり、お前たちの負けだ」

 

 敗者二人に勝者が宣言する。為す術(すべ)もなく負けた事実に、Ⅲは唖然とした。

 

「『王立魔法図書館』と『鉄の騎士ギア・フリード』を利用し、永久ドローを確立させ、『エクゾディア』で勝利するコンボ――通称“図書館エクゾディア”。これが『蝶の短剣‐エルマ』が禁止された理由だ」

 

 Ⅳは亡霊のように口を開く。譫言(うわごと)にも似た呟きに、凌牙はケヒケヒと笑う。

 

「ですが、笑えますねぇ! 極東エリアのデュエルチャンピオンがギリギリまで禁止コンボに気付かないなんて。ライフポイントを一ミリも削られずに終わるとは、随分とあっけなく勝敗がつきました。悔しいでしょうねぇ?」

「テメェ……っ!」

「卑怯者め! 其処までして勝つことにいったい何の意味があるというんだ!」

 

 盛大に見下しながら告げられる台詞にⅣは唇を噛み締める。

次兄の悔しさを代弁するように三男は叫ぶが、相手は不気味な笑みを湛えたままだった。

 

「卑怯で結構。勝ちゃあ良いんだよ、勝ちゃあ。勝たなきゃ何の意味がねぇんだからな」

 

 舌を見せて笑う彼は常軌を完全に逸脱していた。その狂気に二人は声すら出ない。

 

「まぁ、いいや。時間稼ぎのつもりか知らねぇが、くだらないお喋りは此処までだ。なんたって、とびっきりのファンサービスが始まるんだからな」

 

 満月が雲に隠れる。夜の空気が闇の空気に変貌していく。風は吹いていない筈なのに、勝利者かつ断罪者を服の裾を浮かび上がらせる。無音が近付き、それは絶望の足音となった。

 

「罰ゲームの始まりだ」

 

 今度こそはDゲイザーにくっきりと眼(ウジャト)が浮かび上がった。凌牙は手にしていた五枚のカードを後方へ放り投げる。地に落ちるはずの五枚のカードは夜の帷(とばり)に張り付き、正式な順序で五芒星を描く。混沌の光を放ちながら、五芒星はその形を維持したまま、ハイウェイへと落下していく。地に着いたのか、エクシーズ召喚時のエフェクトのように音と光が響いた。

 

「それにしても、五枚揃えただけで無条件で勝つこのモンスターをなんて呼べばいいんだろうな」

 

 一人で疑問を醸(かも)しながら、凌牙は振り向きもしないまま後退し始めた。無論、ハイウェイは彼の後ろで途切れている。

 

「お、おい」

「やはり有り体に例えるならば“神”だろうか? だが、そう呼ぶには、あまりにも“神”が氾濫し過ぎている。コイツを翼神竜や激瀧神、機皇神龍やらと一緒にしちまうとは失礼だしな」

 

 Ⅳの呼び掛けすら無視し、持論を語りつつ、ハイウェイの淵へ歩いていく。高架下から地響きが唸るのと、彼が落下したのは同時だった。

 

「凌牙!」

 

 Ⅳが思わず駆け寄ろうとする。だが、落ちたはずの凌牙はひょっこりと姿を現した。

 

「ならば、コイツは“神”を越えた存在“概念”だ。記憶・絆・希望を無慈悲にすり潰す、この概念を俺はこう呼ぼう」

 

 地上からせり上がる舞台装置に立つ彼は結論付けた。

 

「“絶対的な暴力”と」

 

 古代の砂漠の国の巨人エクゾディアが聳(そび)えるように立っていた。金色(こんじき)の鉱物で出来た化け物の肩に立った罰ゲーム執行者が獲物二人を見下ろしている。

その光景に威圧されたⅢがぺたりとその場に座り込んでしまった。これがARヴィジョンの産物ではないことは、圧倒的な存在感ですぐに二人は悟った。ならば何故? と思うⅣに凌牙のデュエル前の言葉『闇のゲーム』が蘇る。

 

(まさか、本当に『闇のゲーム』だというのか! 現実を超越した何かがあるっていうのか!)

 

 すっと凌牙が両手を広げると、エクゾディアも同じように両手を広げた。巨人の掌(てのひら)に赤い光が集まりつつある。それを目視したⅣはⅢの前に仁王立ちした。

 

「凌牙! 罰は俺が受ける。だから、Ⅲは見逃してくれ」

「Ⅳ兄様、何を言うのですか!」

 

 Ⅳの突然の行動にⅢが瞠目(どうもく:目を見開く)する。

 

「お前の妹を傷付け、お前自身すら陥れたのは確かに俺だ! だが、Ⅲは関係ない! だから、弟だけは―‐」

「僕だけ助かるなんて真っ平御免です!」

「馬鹿野郎っ! 弟を見捨てる兄が何処にいるってんだよ! 凌牙、やるなら俺だけにしろ」

 

 Ⅲを守るように立つⅣは相手に懇願する。凌牙は立ったまま、無言だった。満月が姿を現したが、逆光のため、輝くDゲイザーの輪郭しか掴めない。

 

「お前たち強者はいつもそれだ。自分たちが弱者になるなんて微塵も考えず、弱者の願いを無視して“絶対的な暴力”を振るう癖に、自分たちが弱者になった途端、強者に懇願する」

 

 ケヒケヒという気味の悪い笑い声すらあげず、嘲りもせず、彼は静かな声で話し始めた。風が吹き、ⅣとⅢの高貴な服装を撫でていく。白く浮かび上がる彼等の服装は王侯貴族や神官のそれらのようであった。

 

「なぁ、強者共よ。俺はあんなにも懇願したのに、お前たちは彼女を連れ去った。俺を代わりにしてくれ、とも叫んだ。でも、お前たちはそれをしなかった。何故なら、彼女を贄(にえ)にすることが目的だったからだ。あの時、強者(お前たち)は弱者(俺)の懇願に耳を貸さなかった。よって、今強者である俺が弱者であるお前たちへやる答えは一つしかない」

「凌牙、俺は―‐」

 

 Ⅳの言葉を待つことなく、凌牙は言った。

 

「“NO”だ」

 

 エクゾディアの両手に集まった灼熱の魔力は溢れんばかりになっていた。絶望に沈む標的(ターゲット)に復讐者は鉄槌を下す。

 

「強者共(弱者共)よ、弱者(強者)からの罰ゲームを受けるが良い。怒りの業火『魔神火炎砲(エグゾードフレイム)』!」

 

 魔神が両手から紅蓮の火炎砲を放つ。一瞬にして、その場は燃え盛る処刑場と化した。ARヴィジョンのまやかしではないことは、アスファルト舗装を溶かす程の熱気で分かる。哀れな叫び声ごと、焔は情け容赦なく兄弟二人を包み込んだ。

 

(くそっ! Ⅲだけでも助けねぇと)

 

 眼も開けてられない地獄の業火に身を焦がしながらもⅣが考えたのはⅢのことだった。彼だけでも助けようと、Ⅳが身を起こす。喉すら燃やし尽くす勢いに逆らい、弟へ向かおうと顔を上げると、巨人の肩に座り込む忌々しき少年が見えた。まるで糸の切れた絡繰り人形(マリオネット)のように、凌牙は力無く座り込んでいた。頭(こうべ)を垂れた彼の表情は掴めない。その時だけ、Dゲイザーの輝きは失せていた。

 

 不意に彼が呟いた。その呟きは小声な癖に、Ⅳの耳にはっきりと届いた。

 

「可哀想な璃緒。お前はもっと熱かったろうに」

 

 途端、Ⅳは焔に抗うのを止めた。Ⅲを助けに行くのすらやめた。あの兄妹を傷付けた罪として、己は罰を受けなくてはならないのだ。アイツが妹を失って苦しんだように、この焔を弟共々(ともども)身に受けるべきなのだ、と神の勅令のように感じた。その場を動かず、祈るようにⅣは罰を受け入れることを決める。

 

 だが、皮肉にもⅣが望んだ瞬間に焔は幻のように消え去ってしまったのだった。

 

「あーあ、もう終わりかよ。運が良かったな。俺の力が100パーセントだったら、今頃、お前たちは骨の一欠片も残らなかったぜ」

 

 Dゲイザーがギラギラと輝く。泡沫と消えた巨人からハイウェイに降り立った凌牙が調子を取り戻して、ケヒケヒと笑う。早く封印を解かなきゃなー、とだるそうにぼやくと彼は両手を前に伸ばした。すると、その場に倒れ込む敗北者二人のデッキが光の塊となって飛んでいき、凌牙の手の平に収まった。

 

「ぼ、僕と兄様のデ、ッキ……」

 

「弱者には必要ないっしょ。むしろ、俺様の糧になることを光栄に思え」

 

 カラカラの喉から出した必死のⅢの想いを凌牙が一蹴する。徐(おもむろ)に凌牙はその二つのデッキを宙へ放り投げた。パチン、と指を鳴らす。闇が傷口を開くように大きな眼(ウジャト)が現れると、それらを吸い込みんでしまった。闇の眼が目蓋を落とした際、凌牙が付けたDゲイザーのチャーム――砂時計がくすぶるように煌めいたかと思うと、上に溜まっていた砂がさらさらと下に落ちていくのを、Ⅲは見た。

 

「待……て、凌牙」

 

 鼻歌をしそうな感じで、凌牙はDホイールのエンジンを入れる。火傷の痛みにのた打ち回る程の体力もないⅣの呼び掛けに見向きもしない。Dゲイザーをしたまま、フルフェイスを被ろうとした凌牙だったが、「あ、忘れ物」と楽しそうに呟いた。そして、盛大に見下しながら告げたのだった。

 

「無様だなぁ、Ⅳ」

 

 “絶対的な暴力”とは、何の力もなく反撃も出来ない弱者に強者が一方的に振るう暴力だとⅣは気付いた。今までⅣが凌牙がしてきたように、Ⅳへ返されたのだ。

 

 凌牙が奇妙な高笑いを上げる。デッキ狩りはDホイールに跨がると、敗者二人を置き去りにして、新たな犠牲者を探しに街へ戻ったのだった。

 

 

 

つづく




※DDB……誰がどう見てもブッ壊れ

禁止カードの『ダーク・ダイブ・ボンバー』のこと。
効果は以下の通り。

シンクロ・効果モンスター
星7/闇属性/機械族/攻2600/守1800
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
自分フィールド上のモンスター1体をリリースして発動できる。
リリースしたモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与える。

ダーク・ダイブ・ボンバー自身ですら発射可能という恐ろしいカード。
相手を瞬殺できる故に環境を破壊した「D(誰が)D(どう見ても)B(ブッ壊れ)」性能。
「蝶の短剣‐エルマ」同様、恐らく二度と戻っては来ないだろうと思われる。

……と思われたのだが、まさかのエラッタ(文章変更、効果が1ターンに一度に規制)されて、2014年03月に『ダーク・ダイブ・ボンバー』が復活した。
『カタパルトタートル(こちらもエラッタされ、効果が1ターンに一度に変更)』といい、何故、禁止カードを題材にしたデュエルを書いた途端、変更されるのだ?
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