【遊戯王ZEXAL】声よ届け! 光貫く闇のデュエル!【映画風】 作:千葉 仁史
【1】
遊馬と凌牙がデュエルの約束をした三日目の夜半過ぎ。
デッキ狩り退治に抜け出したナンバーズ倶楽部御一行は各家庭に強制送還されていた。
「すみませんねぇ~、うちの愚弟が迷惑をお掛けして」
明里が謝罪しつつも、グリグリと遊馬の頭を拳骨で押している。幾らも駆け出さないうちに出戻りになった遊馬は「痛い、痛い!」と姉の無言の折檻に耐えつつも、ムッとした顔で強制送還執行者を見上げた。
「酷(ひで)ぇよ、ゴーシュ! 見逃してくれたって良いじゃねぇか!」
「こんな夜にお仲間連れて外出だなんて、とんだ不良のノリだぜ。遊馬?」
玄関灯に照らされ、仁王立ちした赤髪の大柄の男――ゴーシュが腕を組みながら言い放つ。
「なんだよ! ゴーシュたちだって、夜遅くに彷徨(うろつ)いているじゃねぇか!」
「私たちはハートランドシティのセキュリティからの正式な依頼だ。WDCのベスト8の実力を買われてな」
遊馬の次の発言に答えたのは紫髪の妖艶な女性――ドロワだった。
「俺だってWDCのベスト8の一人だぜ!」
「残念だが、十七歳未満は対象外だ。大人として、健全な青少年を巻き込むわけにはいかねぇからな」
ガハハと笑いそうな表情で、ゴーシュは不服そうな遊馬の頭を乱雑に撫でた。完全な子供扱いに遊馬は口をへの字に曲げ、我関せずとふよふよ宙に浮く相棒(とも)に呼び掛ける。
「なぁ、アストラルも何か言ってくれよ!」
「観察結果“アイン(ドイツ語で一)”、子供だけでの夜歩きはやっぱり危ない」
「なに冷静に観察してるんだよ! 何だよ、アインって!」
「たまには違う数え方も良いだろうと思って。だが、集合して一時間も経たないうちにゴーシュたちに見付かって帰されてしまうとは、君もついていない。やっぱりギャンブルカードは外すべきだ」
「こんなときでもデュエルのデッキの助言かよ!」
会話のドッチボールを行う二人だが、アストラルが見えない三人からすると、奇天烈以外の何物でもない。
「遊馬、今回ばかりは諦めろ。それにしても、お前の姉ちゃん、マジゲロマブだな! もう少し俺も若ければ……」
「姉ちゃん、ゴーシュより一つ年上だぜ?」
「マジ?」
顔を近付けて小声で話しかけるゴーシュに、遊馬が事実を告げる。驚いた大男は吃驚して、明里ではなく相棒を見た。その言動が同意の意味ではないことはすぐに分かる。
ドロワは無言でゴーシュの足を踏みつけた。
「子どもたちの送還は弟さんで最後です。我々は任務に戻りますので、弟さんを“よろしく”お願いします」
「ええ、もう外に出ないよう柱でも括(くく)り付けておくわ。デッキ狩りを捕まえたら教えて頂戴ね! 私、記者だから」
ウインクしてせがむ明里にドロワが「ええ」と短く返事する。それから礼儀正しく礼をし、足を痛がるゴーシュに「なに一人で遊んでいるんだ? いくぞ」と冷たい言葉を投げつけると二人揃って夜の街へ戻っていった。
「デッキ狩りを捕まえるのは俺なのに!」
「遊~馬~」
家に放り込まれ、今尚悔しがる弟に姉が怒りの表情を向ける。彼女の手には梱包用のビニール紐が握られてあった。
「夜にお出掛けする弟には罰を与えないとね~」
じっくりと喋る明里に、遊馬は冷や汗を垂らす。ドロワに告げた“柱に括り付ける”は冗談ではないらしい。
「姉ちゃん! ちょっと待って―‐」
「問答無用!」
玄関先でドタバタ大騒動する姉弟に、祖母は「あらあら」と笑い、オボミは「埃舞い上がる、舞い上がる。後でお掃除お掃除」と理路整然に呟いている。そんな様子を見ながら、アストラルは独り言を口にした。
「観察結果“ツェン(ドイツ語で十)”、明里はやっぱり恐ろしい」
【2】
「遊馬の奴、今頃ゲロマブ姉ちゃんにたっぷりしごかれているだろうな。ま、それだけ愛されている証拠だが。だから、真っ直ぐ育ったんだろうな」
「そうでなくとも、真っ直ぐ育つ奴はいるさ」
夜のハートランドシティをゴーシュとドロワは歩いていく。デッキ狩りは暗くて人通りの少ないところを好んで出没するため、明るい繁華街ではなく、倉庫が立ち並ぶ海の方へと向かっていた。
「今回のヤマ、遊馬なら首を突っ込みそうなノリだと考えていたが、マジで突っ込んでいたとは。事前阻止できて良かったぜ」
小さな好敵手(ライバル)の心配をするゴーシュの隣でドロワが通信機器のアプリを開く。セキュリティから貰ったアプリとして、今夜のハートランドシティのデッキ狩り被害マップが現れた。
「この赤丸、みーんなデッキ狩りの仕業かよ。昨日・一昨日と比べて多いうえに行動範囲が広すぎるぜ」
「恐らく今夜から何かしらの移動手段を得たらしいな」
「派手なノリしやがって。それにしても、ペースがちょっと早すぎやしないか? ワンキルデッキでも使ってんのか?」
わざと下手くそにゴーシュが口笛を吹く。ハートランドシティのマップには繁華街や明るいところを避けて、デッキ狩りの出没ポイントが端から端まで点在していた。
「そういや、カイトはどうした? ベスト8のアイツもデッキ狩り狩りに参加しているのか?」
「カイトは参加していないが、独自で調査しているらしい」
「なんで、お前がそんなことを知ってんだ?」
「質問ばかりだな。少しは自分で考えろ」
冷たく言い放つドロワにゴーシュが「ノリ悪(わり)ぃな」とぼやく。カイトと連絡を取り合ったであろう通信機器に力を込めると、ドロワはいつもの調子で話し始めた。
「昨日・一昨日の被害者を合わせると九十は越える。しかも、今夜は被害がデッキだけでなく身体にも及んでいるとのことだ。なんでもデュエリスト二名が大火傷を負ったらしい」
「おい、ドロワ。デッキ狩りとのデュエルではARヴィジョンのバグが入る、とは聞いたが、そんなにリアルダメージをくらうもんなのか? もしかすると、また別の強大な力――ナンバーズが関与しているかもな」
「さぁな。だが気を付けるに越したことはない」
ドロワの脳裏にベスト8で対峙したトロンが蘇る。ナンバーズと共に使用された不可思議な力――紋章。頭の中を掻き回されるような、あの感触を思い出し、ドロワの拳が震えた。
「デッキ狩りがどんなにヤバい奴だろうが、俺は奴を止めてみせるぜ。ハートランドシティを守るため、子どもたちが楽しくデュエルするためにな。これって、ヒーローみたいで格好いいノリじゃねぇか!」
ゴーシュが誓うように発言した。その宣誓に彼女の震えが消える。真っ直ぐなゴーシュにドロワは余裕を取り戻し、フッといつものように笑った。
「ヒーローか、確かにお前らしい」
「なんだって、プロデュエリストを目指しているからな」
顔を見合わせ笑う二人の前にセキュリティが現れた。この先でデッキ狩りが出没したらしい。やっと御大将のお出ましか! とノリノリでゴーシュはセキュリティの後をついていく。
オフィス街へ走り去るセキュリティとゴーシュを追おうとしたドロワだったが、不意に足を止め、狭い路地を見た。おいでおいで、と誰かが誘っているような気がした。もう一度、ゴーシュを見る。ドロワがついてきていないとは微塵も考えていないらしい。女性デュエリストは息を一つ吐くと、震わない拳を握り締め、狭い路地へ足を進めた。
【3】
路地奥には四方をビルで囲まれたアスファルトの広場があった。もう少し先に進んだところか? と素通りしようとしたドロワに声が掛けられる。
「グーテンアーベン! フロイライン(ドイツ語で『こんばんは! お嬢さん』)」
見上げると、ビルの上には金色のDゲイザーを付けた少年が佇んでいた。
「貴様がデッキ狩りか!」
声を荒げるドロワにデッキ狩りはケヒケヒと笑うと、飛び降りて綺麗に着地した。着地する瞬間、3×3マスの黄金の魔方陣が現れ、衝撃を緩和させる。それを見て、後退りしようとする己の身体を彼女は叱咤する。近付くデッキ狩りの正体にドロワは目を見開いた。
「貴様はWDCのベスト8の神代凌牙! 何故、こんなことを―‐」
「おい、デュエルしろよ」
昨日・一昨日と続くセオリー通りに相手の言葉に被せるように告げると、凌牙はデュエルディスクを展開させる。神代凌牙の精神が平常ではないこと、ナンバーズや紋章とは別の強大な力が働いていることに、ドロワは気づいていた。
(此処で逃げ出したら、ゴーシュに笑われるな。それに逃げたりしたら、子どもたちのデュエルを守ろうとするアイツの隣に立つ資格はない!)
「そのデュエル、受けて立つ!」
片腕を掲げ、ドロワも蝶の羽根の形のしたデュエルディスクを羽ばたくように作動させる。マーカーが浮かび上がり、バグ混じりのARヴィジョンがリンクされた。情報通りの流れに湧き出す恐怖と焦りを、ドロワはデュエリストの誇りと宣誓の想いで抑えつける。
(私は……負けない!)
「デュエル!」
デッキ狩りvsドロワのデュエルが始まった。
「さぁ、スピード勝負といかせてもらおうか! 先攻は俺が貰うぜ。俺のターン、ドロー!」
どうしても先攻が欲しかったのか、相手がすぐさまドローする。
「俺はカードを二枚伏せてターンエンドだ」
(手札事故でも起こしたか?)
勢い良くデュエルを開始した癖にモンスターを設置せず、魔法・罠ゾーンにカード二枚を伏せただけのデッキ狩りにドロワは疑問を抱く。急かすように足先を鳴らす凌牙に苛立ちながらも、ドロワはデッキに手を伸ばした。
「私のターン、ドロー! 私は『幻蝶の刺客アゲハ』を通常召喚! 更に『幻蝶の刺客オオルリ』を特殊召喚! 『幻蝶の刺客オオルリ』は戦士族モンスターの召喚に成功した時、手札から特殊召喚できる」
一気にドロワのフィールドにレベル4のモンスター二体――『幻蝶の刺客アゲハ(レベル4闇属性戦士族、攻撃力1800守備力1200)』と『幻蝶の刺客オオルリ(レベル4闇属性戦士族、攻撃力0守備力1700)』が揃う。エクシーズ召喚を行うなんて、誰が見ても分かるだろう。だが、凌牙は無表情だった。いや、何かを隠すために無表情に努めているようだった。
「私は2体のレベル4のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、『フォトン・アレキサンドラ・クィーン』!」
光子の鱗粉を纏い輝く蝶が華々しく現れる。ランク4光属性戦士族、攻撃力2400守備力1200、バウンス効果(フィールドのカードを手札やデッキに戻すこと)を持つ強力なカードだ。
「お前のフィールドにモンスターはいない! 2400のダイレクトアタックを受けるが良い!」
「受けるのはお前だけだよ、フロイライン」
ドロワが攻撃宣言を行うよりも早く、デッキ狩りがフィールドのカードを一枚ひっくり返した。
「罠カード発動! 『破壊輪』!」
「馬鹿な、『破壊輪』だと! それは禁止カードでは―‐」
「デュエルディスクが読み込んでんだ、問題ねぇだろ」
表側表示になった通常罠カードを見たドロワの異議申し立てを、凌牙はばっさりと切り捨てる。
「『破壊輪』の効果発動! フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊し、お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。俺が選択するのは『フォトン・アレキサンドラ・クィーン』だ!」
凌牙に指をさされた途端、『フォトン・アレキサンドラ・クィーン』は破壊され、残された鱗粉は二人の中間に舞い上がり、二つの光の玉となった。召喚した後に瞬時に破壊され、2400のダメージを負うことにドロワは歯軋りする。このダメージは受けるしかないが、手札には次の相手ターンを凌げるカードが何枚かある。
(私はまだ戦える!)
「痛み分けを狙ったか、凌牙! お前も2400のダメージを負うことになるぞ!」
「おいおい、言ったはずだぜ、フロイライン。『受けるのはお前だけだ』とな」
凌牙がケヒケヒと笑う。金色のDゲイザーのレンズに眼(ウジャト)が浮かび上がった。なに!? とドロワが声をあげるよりも先に相手はもう一枚伏せたカードをひっくり返した。
「カウンター罠発動! 『地獄の扉越し銃』!」
「“越し銃”だと!」
「効果を知らねぇとは言わせないぜ、ベスト8のフロイライン。『地獄の扉越し銃』はダメージを与える効果が発動した時に発動、自分が受けるその効果ダメージを相手に与えるカウンター罠だ。よって、お前は2400×2=4800のダメージを受けてもらう」
二つに分かれていたダメージ玉が大きな一つの玉になった。今更になって、ようやっとドロワは気付いた。奴は禁止カードを使ったワンキルデッキを使用し、先攻を取り、今のドロワ同様に瞬殺で倒していったのだから、とんでもないスピードでデッキ回収を行えたのだ、と。
「対戦者がフロイラインだから、かなり甘くしたんだぜ? 対戦者がモンスターを召喚する前やターンが来る前に効果ダメージで沈めたり、ドローすら出来ずに負けるのと比べたら、今回のデュエルはよっぽどマシだろ」
「誰がフロイライン(お嬢さん)だ、貴様」
優しく囁くデッキ狩りに、悔しそうに睨み付けるドロワが吐き捨てるように言う。
「口だけは元気のようだな。分かったよ、フロイラインはやめてやるさ」
ケヒケヒと笑うのを止めると、光の玉に照らされながら、勝利者は告げた。
「女、安らかに眠るがいい」
4800のオーバーキルダメージがドロワを襲った。
【4】
一方その頃、遊馬はふてくされていた。
ゴーシュたちに見付かったが為に連れ戻され、自宅に強制送還され、明里によって柱に括り付けられるところだったのだ。柱への縛り付けは嘆願して免れたが、自室へ軟禁されてしまった。
「これじゃあ無敗のデッキ狩りとデュエルできねぇじゃねぇか!」
癇癪を起こす遊馬にアストラルは「本末転倒だぞ」とぼそっと呟く。凌牙の無実を晴らすためにデッキ狩りとデュエルするはずが、いつの間にかデッキ狩りとデュエルすることが目的になっている。やれやれ、と溜め息を吐くアストラルを余所に遊馬は隠していたシューズを履くと、窓を開いた。
「駄目だ、高すぎて降りられねぇ。いや、かっとビングすればいけるかも」
「いや、それは無理だろ」
突然の第三者のツッコミに、遊馬はかっとビングどころか、ロープなしで降りるを通り越して落ちそうになった。
「アンナ!?」
「何やってんだよ、遊馬」
落ち掛けた遊馬をフライングランチャーで支えながら、赤髪の少女・神月アンナが呆れた声を出す。
「お前、此処でなにやってんだよ?」
「そんなもん、“デッキ狩り”狩りに決まってんだろ! 見つけ次第、これで仕留めてやろうと思ってな」
フライングランチャーを撫でつつのリアリスト発言に、遊馬は唖然とする。
「ちょっと、遊馬、何してるの?」
明里の声に、遊馬が正気に戻る。階段を上ってくる音に青ざめそうになりながらも、テンパった遊馬はアンナに懇願した。
「アンナ! 俺を連れて逃げてくれ!」
「はぁ? その台詞、普通は女から男へ言うもんじゃねぇか」
「俺だってデッキ狩りを捕まえたいんだ!」
真っ直ぐに見つめられ、アンナは思わず頬を掻いた。姉の足音が気が気でならない遊馬はアンナの了承も得ずまま、フライングランチャーに跨がった。
「お、おい。勝手に乗るな! 俺はまだ了承した訳じゃあ―‐」
「いいからいいから! 早く!」
急かす遊馬に気押されたのか、アンナは「しっかり掴まれよ!」とだけ言うと、フライングランチャーを発進させる。
「遊馬!」
姉が弟の寝床に辿り着いたときには蛻(もぬけ)の空だった。怒り狂う明里の姿を見て、恐ろしさ半分愉快半分な気分に遊馬はなる。
「よっしゃあ、デッキ狩り狩りに出発だぁー!」
「馬鹿! 動くな騒ぐな! 二人乗りなんて、慣れてないから―‐」
自室脱出に喜ぶ遊馬だったが、フライングランチャーの急降下・急上昇に舌を噛みそうになる。
「観察結果“フンダウト(ドイツ語で百)”、フライングランチャーはやっぱり危険」
アストラルが呑気に述べる。ジェットコースターのようにきり巻きながら、二人を載せたフライングランチャーはハートランドシティ上空を飛び回ったのだった。
【5】
デッキ狩りの情報を得て、勇んで駆けつけたゴーシュだったが、既にデッキ狩りの姿はなく、リアルダメージをくらって動けない被害者とそれを保護するセキュリティがいるのみだった。遅かったか! と悔しがるゴーシュは其処で初めてドロワがいないことに気付く。
(まさか、アイツ、デッキ狩りに……っ!)
不安が背筋を駆け上がる。元来た道を全力で戻るゴーシュが見たのは、路地奥で倒れるドロワの姿だった。
「ドロワ!」
すぐさま駆け寄り、抱きかかえる。リアルダメージが深く、ドロワはぐったりしている。彼女のデッキはやはり無くなっていた。デッキ狩りめ! と怒りを募らせるゴーシュが見たのは更なる路地先へ消える人物の姿だった。
「アイツがデッキ狩りか!」
ドロワを優しく横たわらせ、走り出そうとするゴーシュの裾を弱々しく彼女が引っ張った。
「ゴー……シュ、アイツとは戦うな」
「お前がやられて黙ってられるノリじゃねぇんだよ!」
怪我人相手に思わず怒鳴るように叫んだ。今のゴーシュには何を言っても聞かないだろう。せめて、とドロワは口を開く。
「アイツに先攻……をとらすな。アイツのデッ、キは……」
「分かったから、もう話すな。じきにセキュリティが来る」
ドロワの両手を掴んで、ゴーシュが宥める。それから、すくっと立ち上がると鬼の形相でデッキ狩りを追ったのだった。
冷静に考えれば、デッキ狩りがデュエリストたるゴーシュをおびき寄せようとしているのは分かるはずだ。だが、ドロワがやられたことにゴーシュは己の怒りを抑えられなかった。
「何処にいやがる、デッキ狩り!」
とうとう海の近くの倉庫が並立しているエリアへ入った。大声を上げるゴーシュに向かって、ドラム缶が立ったまま器用に回ってきた。ドラム缶はゴーシュの前でピタリと静止してみせた。
「上面が平らで綺麗なのを探すのに苦労したぜ」
ドラム缶が現れた先から、黄金のDゲイザーを付けた少年がポケットに手を突っ込んだまま歩いてきた。
「デッキ狩り! いや、神代凌牙! テメェ、よくもドロワを……っ!」
「暴力はいけません。デュエリストなんだから、これで決着つけようぜ?」
腕を伸ばし、凌牙は展開したデュエルディスクを見せ付ける。余裕綽々な態度はゴーシュの怒りの炎に油を注いだ。
「その勝負、買ったぜ!」
厳(いか)ついデュエルディスクを広げ、満月の下、ゴーシュの左目にマーカーが浮かび上がる。
(ドロワ。お前の敵[かたき]、取ってやるぜ)
「デュエル!」
バグが更に増えたARヴィジョンが辺りを包み込んだ。相手に先攻を取らすな、ドロワが残した言葉に従い、ゴーシュがデッキに手を伸ばす。
「先攻は」
「この十面ダイスで決める」
ポケットに突っ込んでいた手を出し、凌牙がゴーシュに持っていたものを投げつける。それはねじれ双五角錐――二つの五角錐を半分ずらして底面で貼り合わせたような形状の十面ダイスだった。それぞれ赤と白の二つの十面ダイスは上偶数面(0・2・4・6・8)と下奇数面(1・3・5・7・9)と分かれている。
「赤のダイスが十の位、白のダイスが一の位を意味する。ダイスを振って、00(クリティカル)に近い方が先攻権を得る」
見慣れぬダイス二つにまじまじと見るゴーシュに凌牙は説明する。十面ダイスに仕掛けはなさそうだ。これならきっとフェアに違いない。
「いいぜ、これで決めてやるよ」
ドラム缶を挟んで、二人のデュエリストが対峙する。そして、一斉に十面ダイスを投げた。
「ダイスロール!」
ゴーシュが振り投げた十面ダイスはコロコロと笑うようにドラム缶の上を飛び跳ね、止まった。赤のダイスは5、白のダイスは4だった。舌打ちしたそうなゴーシュの視線の先には、今尚、独楽のように回り続ける凌牙の十面ダイスがあった。力尽きて十面ダイスが倒れる。出た目は04だった。
「先攻は俺が貰うぜ」
「運だから、こればっかりは仕方ねぇ」
ゴーシュの発言に凌牙がケヒケヒと笑う。先攻を取れなかったことを悔やむ彼に、デッキ狩りは妙案を出した。
「いい加減、普通のデュエルも飽きたな。少しルールを変えるか」
「ルールを変えるだぁ?」
「ライフを互いに8000ポイントにしようぜ。プロリーグでもそんな特別ルールがあっただろ? 悪くない話じゃねぇか。プロデュエリストみてぇにデュエルしようぜ」
つまり、いつもの倍のライフポイントで始まる訳である。これなら後攻開始も不利にはならないだろう。ゴーシュは了解した。
「互いにライフポイント8000の変則デュエルの開始だ。まずは俺のターン、ドロー!」
デッキ狩りvsゴーシュのデュエルが開始された。
「俺は裏側守備表示で一枚セット、もう一枚カードを伏せてターンエンドだ。さぁ、ゴーシュ、お前のターンだ」
「テメェに言われなくとも! 俺のターン、ドロー! 俺は―‐」
「罠カード発動『覇者の一括』! 相手スタンバイフェイズで発動、発動ターン相手はバトルフェイズを行えない!」
「くそっ!」
急に凌牙が罠カードを発動し、ゴーシュのバトルフェイズを封じてしまう。先攻が取れなかったうえ、攻撃も出来ず、ゴーシュは苛々する。
「俺は『H・C(ヒロイック・チャレンジャー)スパルタス』を通常召喚! カードを二枚伏せてターンエンドだ」
『H・Cスパルタス』はレベル4地属性戦士族、攻撃力1600守備力1000の効果モンスターだ。
(俺が伏せたカードは罠カード『ヒロイック・リベンジ・ソード』と『炸裂装甲(リアクティブアーマー)』だ。攻撃した途端、ドカンだぜ)
『ヒロイック・リベンジ・ソード』は発動後に装備カードとなり、自分フィールド上の『ヒロイック』と名のついたモンスター1体に装備され、装備モンスターの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは相手も受ける。また、装備モンスターと戦闘を行った相手モンスターをダメージ計算後に破壊するカードだ。
『炸裂装甲』は相手モンスターの攻撃宣言時に発動でき、その攻撃モンスター1体を破壊するカードだ。
つまり、どちらを使用しても相手のモンスターは破壊される運命にある。
ライフポイント8000のまま、3ターン目に突入する。
「俺のターン、ドロー。俺は魔法カード『手札抹殺』を発動。お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする」
1ターン目、凌牙は一枚ドローして六枚になり、二枚伏せている。2ターン目、ゴーシュ相手に伏せカードを一枚使用。ゴーシュは一枚ドロー後、三枚フィールドにセットし、残り三枚。3ターン目、凌牙は一枚ドローし、『手札抹殺』を使用している。
つまり、凌牙は手札四枚捨てて四枚のドロー、ゴーシュは手札三枚捨てて三枚のドローとなる。
相手の繰り出すタクティクスが不透明すぎて、ゴーシュはまるで分からない。凌牙がケヒヒと笑った。
「俺は『手札抹殺』により墓地(セメタリー)に捨てた闇属性モンスター『召喚僧サモンプリースト』と光属性モンスター『ライトロード・ハンター ライコウ』を一体ずつゲームから除外し、コイツを手札から特殊召喚する。現れろ! 『混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)-終焉の使者』!」
凌牙の墓地から『召喚僧サモンプリースト(レベル4闇属性魔法使い族)』と『ライトロード・ハンター ライコウ(レベル2光属獣属)』が除外され、彼の場に『混沌帝龍-終焉の使者(レベル8闇属性ドラゴン族、攻撃力3000守備力2500)』が特殊召喚される。超ド級のドラゴンが吠え、夜の風が唸り声をあげた。
「おい待て! 『混沌帝龍-終焉の使者』は禁止カードじゃねぇか!」
「デュエルディスクが読み込んでいるんだ。お前が知らねぇうちに禁止解除されたんじゃねぇの?」
「こちとらプロデュエリストを目指してんだ。ンなこと、見落とすかよ!」
ゴーシュの抗議を凌牙は適当に受け流した。そうして、彼はドロワが本当に言いたかったことに気付く。絶対に勝てない禁止カードの使い手だからこそ、彼女はゴーシュを止めたかったのだ。
「こんなデュエル、俺は認めねぇ!」
「認めようが認めまいが、召喚されちまった以上、もう止まれねぇんだよ」
凌牙は手をかざして、禁止カードの恐ろしい効果を発動させた。
「『混沌帝龍-終焉の使者』の効果(エフェクト)を発動! 俺は1000ライフポイントを払い、お互いの手札とフィールド上に存在する全てのカードを墓地(セメタリー)に送る。この効果(エフェクト)で墓地(セメタリー)に送ったカード一枚につき相手ライフに300ポイントダメージを与える! 俺の手札は三枚、フィールドは二枚。お前の手札は三枚、フィールドも三枚。よって合計十一枚、3300の効果ダメージを受けてもらおう!」
「インチキ効果もいい加減にしやがれーっ!」
互いのフィールド・手札が全て0になる。怒り混じりの罵声を上げながら、ゴーシュは3300のダメージをその身に受けた。これにより、凌牙のライフは7000、ゴーシュは4700となった。
「うぐぐ……」
手の平を地につけ、ゴーシュは立ち上がった。ドロワの為にも、楽しくデュエルする子どもたちの為にも倒れたままではいられないのだ、己は。
(だが、これで奴の手札・フィールドも空っぽになった。次の俺のターン、何でも良いからモンスターを出せればダイレクトアタックが出来る)
「俺の、ターンだ。ド―‐」
「おいおい、ターンエンド宣言どころか、メインフェイズ1すら終えていないのに、そりゃあねぇんじゃねぇの?」
ケヒケヒと笑う奴の発言に、ゴーシュは耳を疑いたくなった。メインフェイズ1すら終えてない、と発言する辺り、相手は通常召喚やバトルフェイズも行う気満々のようだ。
(だが、どうやってだ!? 手札すらないのに?)
考える余りに硬直してしまったゴーシュを見ていたデッキ狩りだったが、妙案! とばかりに言い出した。
「では、クエスチョン。俺はどうやってお前を倒す気でしょうか? 三分間、待ってやるからさ。プロデュエリストを目指しているんだろ、当ててみろよ。もっとも当てたところで『大逆転クイズ』みたいなメリットはないけどな」
(この状態で奴は俺に勝つ気なのか!?)
痛みを訴える身体を無視して、ゴーシュは思考を巡らせた。Dゲイザーに付いたチャームを指で弾きながら、デッキ狩りは言った。
「ヒントは俺が墓地(セメタリー)に送ったカードだぜ」
そういえば、とゴーシュは思う。1ターン目に奴が伏せたモンスターカードはいったい何だったのだろう。『覇者の一括』を使ってまで守った癖に、『混沌帝龍-終焉の使者』で躊躇なく破壊している。3ターン目で破壊されなきゃならない意味があったのだろうか。
(禁止カード、絶対に勝つコンボ……!)
導き出された答えにゴーシュは息が止まりそうになった。だから、奴はあんな妙案を出してきたのだ、ただゴーシュを苦しめるためだけに!
「三分間、経ったな。答えを聞こうか。これで答えが出なかったら、プロデュエリスト志望者が笑えるぜ」
ゴーシュのデュエリストの誇りを傷付ける発言がポンポン発射される。一度強く歯軋りしてから、ゴーシュは憤怒の眼差しで相手を睨み付けながら回答した。
「テメェが1ターン目に伏せたのは禁止カード『クリッター』だ。『クリッター』がフィールド上から墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える効果を持っている。そして、デッキから攻撃力200の、同じく禁止カードの『八汰烏(ヤタガラス)』を手札に加え、通常召喚。『混沌帝龍-終焉の使者』は特殊召喚だ、通常召喚権はまだ残っている。『八汰烏(ヤタガラス)』が相手ライフに戦闘ダメージを与えた場合、次の相手ターンのドローフェイズをスキップする効果を持つ。だが、俺の手札は0、場も0。確実にダイレクトアタックは決まり、ドローフェイズをスキップしたら、なにもできずにターンエンドするしかない。後は『八汰烏(ヤタガラス)』で攻撃すればいいだけの簡単なお仕事だ。俺は永遠にドローできず、4700÷200≒24ターン掛かって負ける」
「エクザクトリー(全く以てその通り:exactly)! 大正解、大正解!」
子どものように喜ぶ凌牙を見て、ゴーシュは腸(はらわた)が煮え繰り返そうになった。だから、デッキ狩りは8000ライフポイント制にしたのだ。ゴーシュにドローできない屈辱と何も出来ない悔しさと長い苦痛を延々と与えるために。
「ご褒美だ、その通りにブッ倒してやんよ」
Dゲイザーのレンズに眼(ウジャト)が浮かび上がる。『クリッター(レベル3闇属性悪魔族、攻撃力1000守備力600)』の効果を発動し、手札を加えた『ヤタガラス 八汰烏(スピリットモンスター、レベル2風属性悪魔族、攻撃力200守備力100』を通常召喚してから、デッキ狩りは処刑宣告を行った。
「ずっと俺のターン!」
つづく
※ZOT……ずっと俺のターン
台詞として使われたことはないが、遊戯王ネタの一つ。
オービタルが「ずっとオイラのターンであります」と使ったため、公式ネタとなった。
※破壊輪(通常罠)
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊し、お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。
2005/09/01に禁止カードになったが、2015/01/01に下記の効果にエラッタされ制限入り。
「破壊輪」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):相手ターンに、相手LPの数値以下の攻撃力を持つ相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
その表側表示モンスターを破壊し、自分はそのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける。
その後、自分が受けたダメージと同じ数値分のダメージを相手に与える。
※混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)-終焉の使者-
(レベル8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500)
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の光属性と闇属性モンスターを1体ずつゲームから除外して特殊召喚する。
1000ライフポイントを払う事で、
お互いの手札とフィールド上に存在する全てのカードを墓地に送る。
この効果で墓地に送ったカード1枚につき相手ライフに
300ポイントダメージを与える。
2004/09/01に禁止カードになったが、2015/01/01に下記の効果にエラッタされ制限入り。
自分の墓地から光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外した場合のみ特殊召喚できる。
このカードの効果を発動するターン、自分は他の効果を発動できない。
(1):1ターンに1度、1000LPを払って発動できる。
お互いの手札・フィールドのカードを全て墓地へ送る。
その後、この効果で相手の墓地へ送ったカードの数×300ダメージを相手に与える。
何故、禁止カードデュエルを書くと次々にエラッタされるのか……orz