【遊戯王ZEXAL】声よ届け! 光貫く闇のデュエル!【映画風】   作:千葉 仁史

7 / 12
⑦IWU

【1】

 

「‐―馬、遊馬、遊馬!」

 

 アストラルの呼ぶ声で、遊馬が目を覚ました場所は物置部屋だった。シェーレグリーンによく似た色のソファに遊馬は寝かされており、周りには白骨色の棚が林立し、どれも紙媒体のファイルや本で埋め尽くされている。ソファは壁際にあり、正面五メートル先にはこの部屋唯一の扉、真後ろの高窓には満月が輝いていた。

 

「あれっ? なんで、俺は此処に? うわっ! Dゲイザーがねぇっ!」

 

 見慣れぬ白い天井を見ながら、遊馬は思い返す。

 

 千年レンズに取り憑かれた神代凌牙によって観月小鳥が攫われ、デュエルダメージの深かった神月アンナを病院へ送り届けた後、カイトに話があると言われ、彼のデュエルの師匠であるVのアジトに誘われたのだ。地下には潜水艦があるという倉庫にて、カイトが用意してくれたホットチョコレートを飲みながら、千年レンズによってⅢとⅣが、ゴーシュとドロワも敗れ、デッキを奪われたことを聞いているところで、遊馬の記憶は途切れている。

 

「恐らく、あのホットチョコレートには睡眠薬が混入されていたのだろう」

「へ、なんで?」

「それは君を行かさないためだ」

「V!」

 

 アストラルの推察に、ソファから飛び起きた遊馬が疑問符を浮かべていると、扉の格子窓から水色髪の長身の男が覗き込み、遊馬のDゲイザーを持ったまま会話に参入する。

 

「小鳥が浚われたんだ、じっとしてられねぇ!」

「禁止カードデュエルをされたら、君は百パーセント負ける。君のデッキとアストラルを守るため、カイトは一人で向かった。私は君の見張りだ」

「そんな! いくらカイトだって、あんなデュエルじゃあ……」

「カイトは“俺に禁止カードは通用しない”と言っていたが、何か算段があるのではないか?」

 

 紋章の力でアストラルを認識できるVが肯(うなづ)く。

 

「アストラルの言う通り。俄(にわ)かに信じられないと思うが、カイトは古代の砂漠の国の墓守の末裔の亡霊から千年レンズの脅威を聞いたらしい。そして、それの対抗策として破邪のアイテム“千年砂”を渡された」

 

 千年砂? と首を傾げる遊馬にアストラルが「あの大きなデュエル結界を弾(はじ)いたあの金の砂がそうなのだろう」と耳打ちする。

 

「その砂を奴のデュエルディスクに振り掛ければ、禁止カードは認識できなくなる。そうなれば、普通のデュエルとなり、カイトの負ける道理はなくなる」

「それでも、俺は―‐」

「遊馬」

 

 納得できても、最初に彼が言った通り、じっとしていられないだろう。感情的に口を開く遊馬にVが語り出す。

 

「君によって、私たち兄弟は父との絆を取り戻すことが出来た。カイトも同じだ。だからこそ、我々は君を守りたいと思う。カイトを友と呼ぶのなら、彼の意志を尊重してくれ。今は君が動くべき時ではない」

 

 Vの厳しい眼差しの中には慈愛が含まれていた。彼もまた弟たちがやられ、本心は遊馬同様じっとしていられないはずだ。だが、私情に流されず、確実性とカイトへの信頼を理由に彼は美術館へ向かわず此処に立っている。それが分からない程、遊馬は幼くない。カイトのデュエルの強さを知らない訳でも、彼の実力を信じていない訳でもない。

それでも、ただ行かなければならない、という使命感に似た我が儘さが腹に蠢(うごめ)いて仕方ないのだ。

 自身でも処理できそうにない、その焦燥感を払拭したくて、遊馬は「くっそー!」と埃まみれの書庫室のなかで叫んだのだった。

 

 

 

【2】

 

 仕掛け時計が十一時の鐘を鳴らす。

 どの展示室に置かれたものなのか検討もつかないが、足音を立てて近付くように、神代凌牙の居る廊下まで響いてきた。深い闇夜によって鏡と化した窓に頭を預けながら、凌牙――千年レンズに閉じ込められた人格は、チャーム――封邪のアイテム・千年砂時計を弄(いじ)くりながら考える。

 

「さて面倒なことになったな。まさか、カイトが破邪のアイテム・千年砂を持っているとは。あのまま波止場でデュエルをしていたら危ないところだったぜ。思わずガキを攫っちまったが、奴等は約束を守ってくれる気はあるのかねぇ?」

 

 高い確率で答えは“NO”だろう。遊馬ではなく、千年砂を持ったカイトがやってくるに違いない。禁止カードを封じ込め、正々堂々のデュエルで千年レンズを叩き潰すために。冗談じゃない、と思う。千年レンズの力を百パーセント解放するために、ようやっと九十九個の魂のデッキを集めたというのに、何故残り一つのところで諦めねばならないのだ。

 

「こうなっちまったら、奴等が変なことを考えないように、脅しでも掛けるとするか」

 

 転がっている鉄パイプと、少女を閉じ込めた資料室の扉、凌牙のDゲイザーの映像を送る機能を思い起こす。ケヒヒと笑った瞬間、くんっと左手が勝手に跳ね上がり、凌牙の後方の窓を裏拳で叩き割った。

 

「ああ、もう一つの懸念を忘れていたぜ。宿主サマの存在をよ」

 

 パラパラと粉雪のようにガラス片が舞う。千年レンズの人格に乗っ取られた少年――闇凌牙が振り返ると、窓越しに対峙しているかのように、夜の鏡には憤怒の表情を浮かべた“凌牙”が写り込んでいた。

 

「ガキとはいえ、女を傷付ける行為に怒ったのか? それとも、それを見たチビガキが悲しむのが嫌で怒ったのか?」

「俺の身体を返しやがれ!」

 

 なぁ、どっち? と呑気に質問する闇凌牙に、獰猛な鮫のように凌牙が怒りをぶつける。

 

「そいつはお断りだ。だって、お前、取り憑くのにすっげぇ好都合なのよ。心の闇も申し分ないわ、因果も深いわ、デュエル知識もあるわ、タイミング良く禁止カードを持ってるわ、トドメに強(つえ)ぇカードの精霊も憑いているんだぜ? こんな奴にソッコーで出逢えるなんて、こんな僥倖、滅多にねぇよ。俺、マジで運命の女神様に惚れられちまったかもな」

「テメェ……っ!」

 

 おどけたように肩を竦(すく)める闇凌牙に、凌牙の視線が怒気から殺意に変わっていく。

 

「そんなにカッカするなよ、神代凌牙。お前に代わってⅢとⅣに恨みを晴らしたんだ、感謝ぐらいしてくれても良いだろう? そういやぁ、その時といい、九十九遊馬に逢った時といい、暫(しばら)く大人しくしていた癖に、妹とあのチビガキのことになると急に自我を現しやがって、ホントいい迷惑だったぜ」

「遊馬に手を出すんじゃねぇ!」

「信頼する大事(でぇじ)なオトモダチだもんねぇ? まぁ、裏切りの予行練習だと思えばぁ? 結果的には予行練習を通り越して本番になっちまうけどなぁ」

「ふざけんな!」

 

 語尾を伸ばしてケヒケヒと笑うドッペルゲンガーに、窓に映った凌牙が詰め寄る。

 

「ふざけてなんかいねーよ。俺はな、千年アイテムと王侯貴族・神官が大嫌(でぇっきら)いなんだよ。だから、皇の鍵とかいう千年アイテムを持った九十九遊馬やそのアイテムに宿った魂には容赦しねぇし、ましてや、お前の言うことを聞く気なんて更々ねぇんだよ」

 

 有りっ丈の憎悪を眼球に込めて言い放つ少年は、神代凌牙の姿を借りながらも神代凌牙とは全くの別人のように見えた。

 

「皇の鍵が千年アイテム? アストラルがアイテムに宿った魂? テメェ、なに訳分からねぇことを―‐」

「あ、いいことを思い付いた」

 

 凌牙の呟きを無視して、相手が手を打って独り言を呟いた。

 

「なぁ、ゲームをしようぜ?」

「ゲームだと?」

 

 ねたりとコールタールのような笑みを浮かびながら、闇凌牙が窓に唇が触れそうなほど顔を近付けて提案する。

 

「賭けるものは互いの魂だ。無論、俺が負けたらお前の身体を返してやんよ」

「何のゲームだか知らねぇが、俺が勝ったところでテメェが約束を守るようには見えないけどな」

「ただのゲームのじゃねぇ、闇のゲームだ。敗者には必ず罰ゲームは行われるから安心しな」

 

 疑いしか持てない凌牙に闇凌牙は仰々しく両腕を広げて、ゲームマスターのように告げた。

 

「ルールは簡単。あのチビガキがお前を信じ抜いたら、お前の勝ち。疑って見捨てたら、俺の勝ちというシンプルなゲームさ」

「くだらねぇな! 勝負するまでもねぇ」

 

 凌牙が鼻で笑う。信頼に裏打ちされた余裕が、彼にその発言を間髪置かずにさせていた。だが、そんな彼の態度に闇凌牙は苛立つ様子を見せず、むしろゲームを楽しくする要素だと言わんばかりに昂揚とした声で続けた。

 

「宿主サマ。この千年レンズの真の能力を使っても、それは揺らがないかい?」

「真の能力、だと?」

「魔方陣なんて付加能力さ。あの女性(ヒト)が授けてくれた智慧で俺が造り上げた千年レンズの真の能力を使えば、―‐」

 

 ギラリ、と千年レンズが金色に輝く。更に距離を詰めると、その能力を使い、悪戯好きの悪魔がこれから行う謀略を宿主に暴露する。だが、それは悪戯では済まないどころか遊馬を絶望の淵に追いやる企みだった。

 

「……そんなことされたとしても、遊馬が騙される訳がない!」

「そう吠えるなよ、神代凌牙。大したお人好しだもんなァ、九十九遊馬くんは。でもよ、俺様という内部的要因だけでなく、仲間や取り巻く環境という外部的要因があれば、話は別だよな?」

「外部的要因?」

「ほら、よく言うだろ。選手宣言、我々は全力を以て戦います! って。だから、俺も全力で――ありあらゆるもの・ひと・お前の知識をフル活用して九十九遊馬に勝利し、更なる力・ナンバーズを手に入れる。今の俺には、百個目の魂のデッキの餌食となるカイトとのデュエルもその前哨戦(意味:本格的な活動の前の準備的な行動)にしか過ぎないのさ。こんな“いいこと”が突発的に思い付くなんて、流石俺様だぜ」

 

 策謀を余すことなく聞かされた凌牙が怒りと焦りで震える拳を隠しながら反論する。

おどけて手を上げたりしながら、口笛を吹くようにそれを論破する材料を並べ、闇凌牙は更に続けた。

 

「この作戦を成功させるにはお前はとてつもなく邪魔だからな、暫(しばら)くは引っ込んでてもらうぜ。こいつを拘束しろ、シャーク・ドレイク!」

 

 闇凌牙が命令を下すと否や、凌牙の背後にシャーク・ドレイクが現れた。何のアクションも起こせない内にシャーク・ドレイクの鋭い爪に捕らえられ、鏡の中の凌牙は身体の自由を封じられてしまった。

 

「シャーク・ドレイク! テメェッ!」

「お前の忌々しいエースモンスターは、今では俺の味方って訳よ」

 

 憤慨する凌牙とケヒケヒと笑う闇凌牙に対して、黒き海咬龍は「味方?」と繰り返す。

 

「俺は誰の味方にもなり得ない。自我(ego)があるとはいえ、所詮一枚のカードにしか過ぎない。ただ所有者の望むままに現れ、消えていく」

「今の所有者は俺だから、俺の言うことを聞くってか。良いも悪いもリモコン次第、とはよく言ったものだ」

「お前も似たようなものだろう、“千年レンズ”」

「たわけ、この俺様をカードと一緒にするな。俺は俺だ。肉体は消滅され、魂が千年レンズに封印されたとはいえ、道具ではないからお前のように誰かに使われることはない。使わせもしない。……しかし、あんなにも躍起に凌牙を闇に引き込もうとしていたのに、随分と大人しくなったものだな。なんだ、『心変わり』でも起こしたか?」

 

 シャーク・ドレイクの消極的な台詞とこれまでの積極的な行動との差に、闇凌牙が挑発的な言葉を投げ掛ける。

 

「俺は悲劇(トラジック)を観たいだけだ。全ては演劇にしか過ぎない。俺は観客席で、時折シャーク・ドレイクが登場する演目を観ている。だが、俺は観客であって、脚本家ではない。全ては“運命”という名の脚本家が望むままに」

 

 対してシャーク・ドレイクは淡々と語っただけだった。その間に凌牙はシャーク・ドレイクの束縛から逃れようともがくが、無駄に終わっていた。

 

「ずいぶんとメルヘンな答えだな。嫌いじゃないがな。ナンバーズを揃え、“全てのはじまりのカード”を手に入れたら、俺が脚本家になる番さ」

「さっきから“全てのはじまりのカード”とか、訳の分からねぇことをゴチャゴチャと! 俺を解放しろ!」

「それが最後の台詞か、凌牙。お前の登場する章(チャプター)はもうおしまいだ」

 

 ナンバーズの聖霊と古代の砂漠の王国の悪霊の会話に凌牙が無理矢理に参入するが、台本にはない行動(アクション)を起こした俳優を咎めるように闇凌牙が冷たく告げた。

 

「お前には俺と同じ目に合ってもらうぜ。シャーク・ドレイク、こいつを“深海の牢獄”へ連れていけ」

 

 仰せのままに、と海咬龍が凌牙を更に引き寄せる。悪足掻きと知りつつも、凌牙は闇凌牙が映る鏡に詰め寄った。だが、暴言を吐く前に先手を打たれた。

 

「もがき、あがき、泣き喚き叫べ。誰にも届かない芝居だと知りつつもな」

 

 あばよ、王サマ。

 そう付け加えられた、嫌悪がへばりついた台詞がピシャリと投げつけられる。シャーク・ドレイクによって凌牙は鏡の奥へ連れ去られ、暫くは水泡が見えたが、それも消えると闇凌牙が映り込む割れた鏡が残った。

 

「これで懸念は消えた。カイトを倒して力を百パーセント解放し、遊馬を潰してナンバーズを手に入れる。俺は弱者から強者になり、“絶対的な暴力”を手に入れる!」

 

 一人きりの舞台を大股で闊歩しながら、オーバーリアクションで闇凌牙が台詞を口にする。それから割れた鏡の前に再度立つと、傷付いた左の拳で殴りつけた。

 

「どうせ割るなら、もっと派手にやりやがれ」

 

 大きな破片が喧しい音を立てて散っていく。小さな穴だったのが、窓一枚を割る大惨事となる。血の流れる拳をそのままに、闇凌牙はRPGのラスボスの魔王のように盛大に笑ってみせた。

 

 

 

【3】

 

 深海へと沈んでいく。

 海咬龍との邂逅時のように周りが海となり、凌牙はシャーク・ドレイクによって更に下へ深く引きずり込まれる。自身が出した水泡すら目視できなくなる程に深くまできたとき、ようやっとシャーク・ドレイクは凌牙を解放した。シャーク・ドレイク! と怒りを露わにする所有者に、彼は闇凌牙が残した台詞に色を変えて再度放った。

 

「もがき、あがき、泣き喚き叫べ。それが芝居ではないなら尚更」

「おいっ!」

 

 シャーク・ドレイクが離れていく。凌牙が呼び止めようとした瞬間、深海の底からブラックボックスが現れ、彼を閉じ込めてしまった。

 

 急な衝撃に閉じた瞼を開けるが、其処は開ける前と同じ暗闇が広がっていた。手を伸ばすと、ぼんやりとした虚ろな感触の壁に触れた。声を出しながら壁を叩くが、一切の音も響かなかった。まるで凌牙の鼓膜に届く前に、周りの壁がスポンジのように全ての音を吸い取っているかのようだった。しかも壁もまるで硬くなく、叩いている感触が実感できない。視覚は暗黒で塗り潰され、聴覚も無音に支配され、触覚すら奪い取られた“深海の牢獄”。何も見えない、聞こえない、感触のない事実に凌牙が身を震わせた。

これが永続的に続いたら、確実に精神崩壊(マインドクラッシュ)を起こしてしまうに違いない。

 その恐怖から焦りが生まれ、凌牙は声を上げて無茶苦茶に壁を叩いた。だが、音は響かない、声は届かない、光は生まれない。

 

 気が付けば、彼は叫んでいた――闇のゲームの対象となってしまった、心から信頼できる少年の名前を、ただひたすらに。

 

 

 

 

【4】

 

 乱雑に資料室の扉が開く。地べたに座り込み、両手を後ろに縛られた観月小鳥が俯いた面(おもて)を不意に上げた。

 

「あなた……っ!」

「安心しな、フェーゲレヘン(ドイツ語で小鳥の意味)。良い作戦が思い付いたからな、凌牙に免じてお前には何もしないさ」

 

 おどけた様子で両の手の平を見せる犯人を、一度息を飲んだ小鳥が強く見つめる。

 

「この縄を解(ほど)きなさいよ!」

「解いて逃げたところで何の意味もねぇぜ。位相をズラしてあるからな。要はこの空間は切り取られて独立している訳。だから、俺が許可しない限り、あるいは破邪のアイテムを使わない限り、此処からは逃げることも入ることも出来ねぇんだよ」

「違う、そうじゃないわ!」

 

 少女の訴えに千年レンズに完全支配された少年がケヒケヒと笑うだけだったが、予期せぬ否定に「あ?」と怪訝な声を漏らす。

 

「あなた、怪我をしているじゃないの!」

 

 彼女の言う通り、ガラス窓を叩き割った左手の甲からは血が滴り落ちていた。顔を上げた小鳥が息を飲んだのはこれを見たからか、と闇凌牙は得心する。

 

「これがどうかしたのかよ、これぐらい―‐」

「手当てするから縄を解きなさい! それじゃあ、デュエルが出来ないじゃない! よく遊馬は怪我するから、私のポーチには包帯とかが入っているの」

 

 闇凌牙が言い切るよりも早く小鳥が矢継ぎ早に言葉を続ける。自身の逃亡ではなく、敵の治癒を目的とした言動に闇凌牙は眼をパチクリさせた。一瞬、カイトが事前に千年砂を渡したかと疑ったが、彼女から破邪のアイテムの気配は一切感じられなかった。

 

「さぁ早く!」

 

 相手の真の目的を推理している間に再度小鳥が声を上げた。相手は単なる一般人の少女、九十九パーセントも千年レンズの力を解放しているのだ、何を恐れることがあるのだ? 何もせずにほうっておいた左手の甲が痛みが加速していく。舌打ちすると、いつでも魔方陣を放てるようにしながら、闇凌牙は小鳥の縄を解き始めた。

 

 縄を解かれた小鳥は逃げ出すこともなく、ポーチから消毒液と包帯を取り出すと、テキパキと処置を行った。同じように座り込む闇凌牙に小鳥は「痛くない?」「染みるけど我慢して」「包帯、強く巻きすぎたら言ってね」と声を掛け、最初はうざったそうに鼻を鳴らしていた彼だったが、包帯を巻き始める頃には彼女の頭頂部を見るばかりになっていた。

 

「ねぇ、遊馬とは正々堂々デュエルして。遊馬はもうデュエルには嘘を吐かないって約束したから、イカサマデュエルはしないで欲しいの」

「フェーゲレヘン、それが手当ての代償か。チビガキの事情なんて知らん、そんなのは俺の管轄外だ」

 

 空いた片手で魔方陣の用意しながら、手元に視線を落としたままの小鳥に闇凌牙は返答する。手当てに対する交換条件を言い出したように、変なことをしようとしたら一瞬で吹っ飛ばせるようにだ。

 

「聞いてくれるとは思っちゃいないわ。ただ言いたかっただけ。手当てしたのは怪我している人をほうっておけなかっただけよ」

 

 キュッと包帯が結び終える。右手で途中まで描いていた魔方陣が消失する。手当てが済んだ左手と彼女の顔を交互に見ながら、闇凌牙は考えた。

 

(つまり、俺を手当てしたのはデュエル相手の九十九遊馬の為ではなく、本当の身体の持ち主の神代凌牙の為でもなく……)

 

 その瞬間、数千年前の記憶が逆行してきた。擦りむいた左手の甲を手当てしてくれた、氾濫する川の生贄になってしまった異邦人の女の人の輪郭が思い浮かぶ。

 

「そういえば、あなた、名前は?」

「“千年レンズ”だよ。言わせんな、恥ずかしい」

「知っているわ、カイトに聞いたもの。でも、それはあなたの魂を閉じ込めたアイテムの名前でしょ? 私はあなたの本名を知りたいの。人に聞く前に自分からね、私は観月小鳥よ」

「知ってる」

 

 自身を攫った相手との沈黙に耐えきれなかったのだろう。会話することによって薄れてきた恐怖が蘇る前に小鳥が質問する。闇凌牙は顔をしかめながらも律儀に言葉を返した。包帯を巻かれた左手に痛みとは違う熱が宿り始める。遠い過去に感じたことがある熱と同じ燻(くすぶ)りに後押しされるようにして、古代の砂漠の王国の住人は口を開いたのだった。

 

「俺の本名は―‐」

 

 

 

【5】

 

「ところで、アストラル、あいつ――“千年レンズ”が言っていた“サイエンカタパ”とか“初ターンからの『現世と冥界の逆転』コンボ”って、いったい何なんだ?」

 

 深夜十一時過ぎになろうとしていた。

 資料室からの様々な脱出法を試してみては失敗した遊馬が息を整えながら、思い出したかのようにアストラルに話し掛ける。扉の向こう側で立って居るであろう見張り役の存在を感じながら、アストラルは返答した。

 

「禁止のコンボの名称だ。風矢がやられたであろう“サイエンカタパ”は『魔導サイエンティスト』と『カタパルト・タートル』を利用したワンキルコンボだ」

 

 分かりやすいようにアストラルは説明していく。

 

「禁止カードであり、効果モンスター『魔導サイエンティスト(レベル1、闇属性魔法使い族、攻撃力300守備力300)』は1000ライフポイントを払う事で、融合デッキからレベル6以下の融合モンスター一体を特殊召喚することが可能だが、この融合モンスターは相手プレイヤーに直接攻撃する事はできず、ターン終了時に融合デッキに戻ってしまう」

「ん? 攻撃も出来ないし、しかも戻っちまうなんて、何の意味もねぇじゃん」

「だが、リリース素材には使える。効果モンスター『カタパルト・タートル(レベル5、水属性水族、攻撃力1000守備力2000)』は自分のフィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げ、そのモンスターの攻撃力の半分をダメージとして相手に与える効果を持つ。そして、両方とも、効果を使うに当たって一ターンに一度きりという制限がない(※『カタパルト・タートル』は2014年3月頃にエラッタされ、一ターンに一度と制約がついた)。ここまで言えば、君でも分かるだろう?」

「『魔導サイエンティスト』で融合モンスターを特殊召喚し、『カタパルト・タートル』で射出する。それを繰り返せば、簡単にワンキルができるということだ。一ターンに二体のモンスターを揃えようと思えば、『魔導サイエンティスト』を通常召喚、魔法カード『愚かな埋葬』でデッキから『カタパルト・タートル』を墓地へ送り、その後に魔法カード『死者蘇生』で復活させれば良い。ライフが足りなければ、通常魔法『治療の神ディアン・ケト』で1000ライフ回復すれば事足りる」

 

 締めくくったのは扉の向こう側にいる、見張り役のⅤだった。

 

「一番悲惨なのは“初ターンからの『現世と冥界の逆転』コンボ”を受けた闇川だろう。禁止カードの通常罠『現世と冥界の逆転』は自分の墓地にカードが15枚以上ある時、1000ライフを払い発動し、お互いに自分の墓地と自分のデッキのカードを全て入れ替える効果だ。先攻で発動すれば、後攻の相手はドローが出来ずに確実に負ける」

「初ターンで十五枚も墓地にある状態に出来るのかよ? しかも、罠だからそのターン中に発動できないし」

「禁止カードを使えば、十五枚ぐらい楽に墓地へ送れるうえ、罠カードをすぐに使用可能になる」

 

 尤もな遊馬の質問に答えたのはⅤだった。

 

「成る程、確かにⅤの言う通りだ。まず、通常魔法の禁止カード『苦渋の選択』を発動する。このカードは、自分のデッキからカードを五枚選択して相手に見せ、相手はその中から一枚を選択、相手が選択したカード一枚を自分の手札に加え、残りのカードを墓地へ捨てる効果を持つ。その選択する五枚のうち三枚に禁止カードの効果モンスター『処刑人(しょけいにん)マキュラ(レベル4、闇属性戦士族、攻撃力1600守備力1200)』を入れておく。『処刑人マキュラ』は墓地へ送られたターン、このカードの持ち主は手札から罠カードを発動する事ができるようになる凶悪なカードだ」

「デッキから五枚選択して、相手がその中から一枚選んで、他を捨てる? あれっ、三枚も『処刑人マキュラ』を入れたらどう頑張っても一枚は必ず捨てられちまう! このターン、“千年レンズ”は罠カードをすぐさま使えるようになるのか!」

 

 アストラルの説明に遊馬がポンと手の平を打つ。『苦渋の選択』自身と効果により、この時点で既に五枚を墓地送りにしている。手札はまだ六枚もある。

 

「次に、禁止カードの通常罠『第六感』を発動。罠カードだが、『処刑人マキュラ』により使用可能だ。効果は、自分プレイヤーは一から六までの数字の内二つを宣言する。相手がサイコロを一回振り、宣言した数字の内どちらか一が出た場合、その枚数自分はカードをドローする。ハズレの場合、出た目の枚数デッキの上からカードを墓地へ送るものだ」

「本当の第六感がなければ、六か五を選ぶのが当然だろう。ここで運が良ければ、カードを六枚も墓地送りにできる」

「もし運が悪くてドローすることになったら?」

 

 アストラルとⅤの順当な説明に、遊馬が質問する。それに対して、アストラルが溜め息を吐いた。

 

「少しぐらい自分で考えたらどうだ? やはり、君はデュエルの勉強を―‐」

「Ⅴ! 教えてくれっ!」

 

 相棒の長くなる説教を恐れて、閉じ込めている張本人に遊馬は助けを求めた。Ⅴは扉に背を預けながら、回答する。

 

「魔法カード『未来破壊(アニメオリジナル、5D’Sのアポリアが使用)』を使えばいい。自分の手札の枚数分自分のデッキの上からカードを墓地に送る効果がある」

「え~っと、最初の手札は五枚で一枚ドローして六枚、『苦渋の選択』を使って一枚ドローするから、手札はやっぱり六枚。四枚プラス『苦渋の選択』が墓地に行くから墓地五枚。更に『第六感』を発動して、六を当てられたとしたら、手札は十二枚。それで『未来破壊』したら、墓地は十七枚!? 『現世と冥界の逆転』の発動条件の墓地十五枚を超えちまった!」

 

 指折り数える遊馬が素っ頓狂な声をあげる。Ⅴは更に後学の為に二枚のカードを呟いた。

 

「他にも墓地肥やしとして、通常罠『針虫の巣窟』や禁止カードの通常魔法『天使の施し』がある」

 

 『針虫の巣窟』は自分のデッキの上からカードを5枚墓地へ送る効果を持つ。更に禁止カード『天使の施し』は自分のデッキからカードを三枚ドローし、その後手札を二枚選択して捨てることが可能だ。

 

「つまり、初ターンで墓地十五枚は不可能ではないということだ」

「“千年レンズ”の奴、やりたい放題だな」

 

 アストラルの辿り着いた結論に、遊馬が拳を強く握り締めた。

 

「先攻ワンキル、ドローすら出来ずに敗北。禁止カードを使われていたとはいえ、デュエリストとして、これ程屈辱的で悔しいことはない」

「だから、風矢も闇川も俺に教えてくれなかったのか」

 

 Ⅴの言葉を受け、遊馬は風矢や闇川と出会ったときのことを思い出した。風矢はデッキ狩りのことを話そうとしたとき酷く屈辱的な表情を浮かべていた。闇川に至っては、寝込むほどにショックを受けていた。だから、どの被害者もデッキ狩りについて語りたくなかったのだろう。

 

「“千年レンズ”め、絶対に許さねぇ!」

「だが、デッキ狩りを倒すには禁止カードを封じるしかない。その封じる方法はカイトが持っている千年砂のみだ。遊馬、君には此処にいてもらうぞ」

 

 少年の決意表明をⅤが容易く回収する。肩を下ろしながら、遊馬がぼんやりと呟いた。

 

「それにしても、なんでシャークは禁止カードを持っていたんだ? 使っちゃ駄目なんだろ」

「使っては駄目だが、持ってはいけないということはない。彼ぐらいのデュエリストなら、デュエルの歴史を学ぶために持っていても可笑しくはない」

「そんなものなのか? でも、禁止カードって一枚一枚が凶悪な訳じゃないんだな。コンボによってワンキルになるぐらいヤバくなるだけでさぁ、よくそんなコンボを思い付くよなぁ」

 

(確かにその通りだ)

 

 ぼやく遊馬を見下ろしながら、アストラルは考察する。

 

(デッキ狩りが使用した禁止カードの殆どがそれ単体ではなく、コンボによって凶悪になったものばかり。『蝶の短剣‐エルマ』はその最たる例だ。禁止カードとそのサポートカードを使いこなし、ワンキルコンボをするなんて、並大抵のデュエリストでは出来ない。余程の高いデュエルタクティクスを持つ人物でなければ―‐)

 

 そういえば、とアストラルは思い当たる。三日前、二日前、今日と段々と犠牲者は増え、受けるダメージも高くなっている。三日前の犠牲者・奥平風矢は落ち込みはしたが、まだ元気だった。しかし、二日前の犠牲者・闇川はショックもあるだろうが、寝込むほどのダメージを追っている。更に今日に至っては、アンナは大ダメージを身体に受けている。千年レンズの力が解放されつつあるからだろうが、一つだけ不可解なことがある。ⅢとⅣのことだ。彼等だけ全身大火傷という、一番酷い結果になっている。それなのに、彼等より後に闘ったであろうドロワ・ゴーシュ・アンナにそんな大怪我は負わせていない。まるでⅢとⅣに個人的な恨みがあるかのようだった。

 

(ⅢとⅣを恨んでいて、高いプレイングセンスを持っている……? まさか、そんなことが―‐)

 

 答えを出すのがこんなにも怖いということを、アストラルは知らなかった。無言になった相棒を遊馬が不思議そうに見上げる。Ⅴが何気なしに溜め息を吐いたときだった。

 

 

 

【6】

 

 遠い廊下から破裂音が鳴り響く。しかも一つや二つなんて可愛いものではなく、八つ九つはゆうに越えている。

 

「何奴だっ!」

 

 Ⅴが声を荒げて、音の出所へ走っていく。遊馬とアストラルは顔を見合わせる。もしかすると、“千年レンズ”の強襲だろうか。

 

「遊馬!」

「鉄男!」

 

 唯一の小窓から月光と共に小声で声が落ちてきた。親友の声に遊馬の気分は一気に弾んだが、次の台詞と音で酷く焦ることとなる。

 

「離れていろ、遊馬!」

 

 聞こえたのは入院しているはずの少女の声、そして、エネルギーを溜める音だった。アストラルに言われるまでもなく悟った遊馬は本棚に身を潜めた。フライングランチャーによって壁が木っ端微塵になる。

 

「アンナ、やりすぎだぜ。でも、お前、病院はどうした?」

「これぐらいどうってことねぇよ! あのひょろひょろ兄ちゃんたちがお前を監禁するって言うのを聞いてて、じっとしている訳ないだろ」

「そういうことだ。アンナから連絡が入ってな、ナンバーズ倶楽部みんなで助けに来たって訳だ」

 

 大きなお腹をデンと叩きながら、鉄男が言う。あの破裂音の騒ぎはⅤを引き寄せるための囮だったらしい。

 

「そうだったのか、アンナ、助かったぜ!」

 

 遊馬はニカッと笑う。その笑顔にアンナは顔を反らし、「ただ俺は暴れたかっただけだ!」と先程とは矛盾する台詞を吐き、「小鳥を助けてやれよ」と言い捨てると更なる騒動を巻き起こすべく、フライングランチャーを持ってⅤの去った方向へ走っていった。

 

「なんだぁ、アイツ?」

 

 心底不思議そうな顔をする遊馬を、アストラルはデコピンしたくてたまらない。

 

「爆竹に、メントスコーラ(コーラにメントスやラムネ菓子を入れると面白いことになる)に、ペットボトル爆弾(ドライアイスと水を入れ、栓をしたもの。膨張して言うまでもなく爆発する)に、ロケット花火……。徳之助とキャシーと委員長の奴、大暴れしているな」

 

 ぼそりと鉄男が今尚続く音のパレードを聞きながら呟いた。其処に更にフライングランチャーを担いだアンナが加わるのだ。Ⅴの行く末は誰も考えないことにした。急ぐあまりにⅤが落とした遊馬のDゲイザーを鉄男が拾い上げる。

 

「鉄男、サンキュー!」

 

 そのDゲイザーを貰おうと手を伸ばす遊馬だったが、鉄男は真っ直ぐに彼を見て告げた。

 

「遊馬、お前は俺の親友だ。小鳥も大事な友達だ。絶対に助けろよな」

「ああ、絶対に助ける!」

 

 情熱の炎が宿った瞳を向けられ、鉄男は遊馬にDゲイザーを手渡す。早速と走り出す遊馬に鉄男が再度呼び掛けた。

 

「姉ちゃんが言っていたが、助けを求めるって行為は相手を信頼してなきゃ出来ねぇんだってよ」

 

 鉄男から意図の読めない台詞に遊馬が首を傾げる。

 

「そんなものなのか?」

「そんなものだ」

 

 遊馬にアストラルが肯定する。

 

「孤高だったり、プライドが高かったり、大人びていたりしたら、簡単に『助けてくれ』なんて呼べねぇ。“アイツ”が助けて欲しいと願うのは恐らくお前に対してだけだ」

 

 “アイツ”……小鳥が孤高を愛し、高飛車で大人びていただろうか? 形容矛盾に遊馬が反応に困っていると、鉄男が何かを弾いてきた。月光にキラキラ乱反射するもの――コインが遊馬の手元に落ちた。表には百獣の王ライオンの顔、裏にはライオンの尻尾が刻まれている。

 

「姉ちゃんの御守りだ。親友を助けに行くって行ったら、外出を許してくれて、それもくれた」

「そんな大事なものを、俺に?」

「馬鹿、貸すだけだ。だから、必ず三人で――“アイツ”も入れて四人で戻ってこい、いいな!」

 

 鉄男に遊馬が諾と頷く。それを見届けると、鉄男もまた破壊のパーティーに参加するべく走り出した。遊馬も美術館へ向けて走り出す。鉄男との約束を果たす為に。

 

「遊馬、今こそ我々が動く時だ!」

「そうだな、アストラル! かっとビングだ、俺!」

「……で、お前は美術館まで走っていく気なのか?」

 

 幾らも走らないうちに水を差され、遊馬は転けそうになる。確かに美術館までは遠い。カイトのデュエルまでに間に合わないかもしれない。

 

「そうだけどさぁ、アストラル、走るしかねぇじゃねぇか」

「私は何も言っていないぞ」

 

 アストラルの発言に遊馬は前しか向けていなかった顔を横に向ける。Dホイールで併走していた人物を見て、遊馬は「お前はっ!」と声を上げた。

 

「ファンサービスだ、乗っていきな」

 

 ヘルメットを投げ渡される。其処には、大火傷で入院しているはずのⅣの姿があった。

 

 

 

【7】

 

「ト・テテ、ケセパソル、リ・セイテ。シュンペーリャ、ケセパリソル、エストーニャ」

 

 歌声が闇夜に落ちた室内に満ちていく。床に散らばったカードの中心に闇凌牙が座り込み、仮想デュエルを交えながら、元々あったデッキを再構築していく。指で床を叩くと魔方陣が、指を宙で鳴らすと眼(ウジャト)が現れ、カードが飛び出した。床から現れた己のカードと、宙から現れた他者のカードを組み合わせ、デッキを積み上げていく。

 

 この部屋にフェーゲレヘン(小鳥)はいない。手当てされた後、縄で縛らず、自由にさせておいた。特殊な結界がはっているため、外には出られないのだから、少女を縛る必要がないことに気付いただけだ。闇凌牙が暫(しばら)く彷徨いて戻ってきたら、少女はいなかった。あるはずもない出口を探しにいったのだろう。資料室の床にどかりと座り込むと、独りきりの空気を愉しむように彼はデッキ編成をすることにした。

 

 頭が空っぽでは出来ないデッキ編成という行為なのに、千年レンズに封印されし魂は気が付けば口ずさんでいた。聴いた通りに歌うが、やっぱりあの女性(ヒト)のようには歌えない。異国の歌なので何を言っているのか分からなかったが、彼女が言うには故郷の歌らしい。習わなかったことが非常に悔やまれる。

 

 異邦人である彼女はこの歌を愛していた。あの日も歌いながら異国の秘術を教えてくれた。3×3マスの魔方陣を描き、数字を埋めていく。魔方陣には縦・横・斜めの一列の合計数が全て一緒になる特性があった。

 

 彼女は言った。

 

 元ある数字の上に行うのが、生贄(アドバンス)召喚。縦・横・斜めの一列の合計数となった“同じ”数字を使い、魔方陣の“外”で行うのが、貴方の国の召喚術。隣り合った全く“別”の数字を使い、魔方陣の“内”で行うのが、私の国の召喚術。

 

 その魔方陣に黒い影が差す。王宮から来た兵士は難しいことを言い、彼女を連れ去ろうとした。止めようとしたが、子供では歯が立たず、蹴り飛ばされてしまった。滲む視界の向こうで彼女は「泣いちゃ駄目。男の子は強くないと」と笑った。兵に囲まれた彼女は二度と帰ってこなかった。

 

「“千年レンズ”、招かれざる客だ」

 

 シャーク・ドレイクの発言に意識が浮上する。集中すると、結界の前に立つ青年の気配を感じ取れた。眼(ウジャト)に使わなかったカードを回収し、出来上がったデッキを腰のケースに収める。デュエルディスクを展開し、臨戦態勢を取る。残り一回分となった千年砂時計が静寂の水のように揺れる。金色(こんじき)の焔が千年レンズに迸(ほとばし)った。

 

 

 

【8】

 

 カイトが美術館に着いたのは日付が変わる二十分前だった。Dホイールに変形したオービタルから降り、美術館前に立つと、視(み)えない厚いカーテンが垂れ下がっているのが感じられた。

 

「カイト様、どうかご無事で」

「この俺が負けると思っているのか、オービタル」

「いえ、そのようなことは決して」

「ならば大人しくお前は待っていろ」

「かしこまり!」

 

 優しさの欠片もない一瞥をオービタルにくれてやると、カイトは黄金の八角形のケースの蓋をずらし、千年砂を空中へ撒いた。千年砂が宙へ舞うと、結界が解除され、切り取られた空間の扉が開いた。カイト様! と叫ぶオービタルに振り向くことなく、青年は敵の巣窟へ飛び込んだ。

 

 

 

つづく




※IWU……今はまだ私が動く時ではない

Ⅴの台詞なのだが、これによりニートネタにされてしまった。
この物語中にこの台詞は使用されていないが、弟二人がやられたっていうのに、この台詞を吐いたらヤバいだろう、とのことで言わせていない。

※現世と冥界の逆転(通常罠)

 自分の墓地にカードが15枚以上ある時、1000ライフを払い発動。
お互いに自分の墓地と自分のデッキのカードを全て入れ替える。
その際、墓地のカードはシャッフルしてデッキゾーンにセットする。

 2006/03/01に禁止入りしたが、2015/01/01に下記の効果にエラッタされ、制限入り。

 「現世と冥界の逆転」はデュエル中に1枚しか発動できない。
(1):お互いの墓地のカードがそれぞれ15枚以上の場合に1000LPを払って発動できる。
お互いのプレイヤーは、それぞれ自分のデッキと墓地のカードを全て入れ替え、その後デッキをシャッフルする。

 禁止カードデュエルを書いた途端に改定されるなんて、あまりのタイムリーさに我ながらびっくり。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。