【遊戯王ZEXAL】声よ届け! 光貫く闇のデュエル!【映画風】   作:千葉 仁史

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⑧TRD

【1】

 

 遊馬と凌牙がデュエルする約束をしてから三日目の深夜。

 

 深夜の美術館に二人の足音が響く。隣り合うものではなく、向かい合うものであった。その足跡の持ち主の一人は口笛を吹いていた。二人が大広間で対峙する。展示品がデュエリスト二人の動向を探るように息を殺し、珍妙な気配を放っていた。

 

「人の心に淀(よど)む影を照らす眩(まばゆ)き光、人は俺をナンバーズハンターと呼ぶ」

 

 口笛を吹き終えたカイトが口火を切った。

 

「記念すべき百人目の犠牲者・天城カイト、俺の舞台へようこそ。やはり九十九遊馬は来なかったか」

 

 ケヒケヒと笑いながら、闇凌牙が応対する。非常灯が照らす室内に、千年レンズが灯(とも)す金色(こんじき)の焔と、彼の左手に巻かれた包帯の白さが際立って仕方がない。

 

「貴様のような卑怯者の相手をアイツにさせる訳にいかないからな」

「卑怯者、ね。俺は勝利にしか興味がないだけさ。さぁ、さっさとデュエルしようぜ」

 

 千年砂が撒かれる前に入りたいのか、急く闇凌牙にカイトが微かに笑った。

 

「そんなに正規の千年アイテム恐いのか、“千年ジャンク”」

 

 千年ジャンク。

 カイトの揶揄に闇凌牙は全身の毛が逆立つような怒りに襲われた。

 

「あの女性(ヒト)の智慧で作り上げた千年レンズを、お前はそう呼ぶのか!」

「非合法に作られたそれはジャンク以外の何物でもない。だから、数千年前、貴様は正規の千年アイテムの保持者に敗れたのだ」

「この野郎っ!」

 

 ぶるぶると怒りで震える拳を闇凌牙はカイトに振り下ろす。その動きを読んでいたカイトは軽くかわすと、残りの千年砂を全て闇凌牙に放った。この破邪の砂が千年レンズに掛かってしまえば、封じられし魂は凌牙に取り付くことが出来なくなってしまう。

闇凌牙は咄嗟にデュエルディスクで千年レンズを庇った。バチリ、と火花が散る。

アラーム音が甲高く鳴り響き、闇凌牙のデュエルディスクは禁止カードを含めたデッキをそこら中にばらまいた。なかには禁止カードの永続魔法『マスドライバー』や、同じく禁止カードのモンスター『イレカエル』、制限カードの通常魔法『ワン・フォー・ワン』、そして『鬼ガエル』や『粋ガエル』に代表される大量のカエル・ガエルのカードがあった。

 

 『マスドライバー』は自分フィールド上のモンスター一体を生け贄に捧げる度に、相手ライフに400ポイントダメージを与える効果を持つ。

 

 『イレカエル(レベル1、水属性水族、攻撃力100守備力2000)』は自分フィールド上に存在するモンスター一体を生け贄に捧げることで、自分のデッキから「ガエル」と名のついたモンスター一体を選択して自分フィールド上に特殊召喚できる。

 

 『ワン・フォー・ワン』は手札からモンスター一体を墓地へ送って発動でき、手札・デッキからレベル1モンスター一体を特殊召喚する魔法カードだ。

 

 『鬼ガエル(星2、水属性水族、攻撃力1000守備力500)』は手札からこのカード以外の水属性モンスター一体を捨てて、手札から特殊召喚できる。

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分のデッキ・フィールド上から水族・水属性・レベル2以下のモンスター1体を選んで墓地へ送る事ができる。

 

 『粋カエル(レベル2、水属性水族、攻撃力100守備力2000)』は自分の墓地の“ガエル”と名のついたモンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「『イレカエル』を使った永久コンボによる『マスドライバー』のワンショットキルか」

 

 カイトが瞬時に相手のタクティクスを見抜いた。

 

「『ワン・フォー・ワン』を使って『イレカエル』を特殊召喚、『鬼ガエル』を通常召喚し、『粋カエル』を墓地に送る。『イレカエル』の効果を発動し、『鬼ガエル』をリリース。デッキからもう一体の『鬼ガエル』を特殊召喚した後、『鬼ガエル』の効果を使い、ガエルモンスターを墓地に送る。そして再び『イレカエル』の効果で『鬼ガエル』をリリース、三体目の『鬼ガエル』を特殊召喚し、三体目の『鬼ガエル』の効果を発動して、ガエルモンスターを墓地に送る。『イレカエル』の効果で『鬼ガエル』をリリースして、また別のガエルモンスターを特殊召喚。更にその特殊召喚したガエルモンスターを『イレカエル』でリリースし、また別のガエルモンスターを特殊召喚。これを繰り返し、墓地にガエルモンスターが十体以上集まったら止める。墓地の『粋カエル』の効果を発動、『粋カエル』は墓地のガエルモンスターを除外することで墓地から特殊召喚できる。それを『マスドライバー』で射出。墓地にいった『粋カエル』を墓地のガエルモンスターを除外することで再度特殊召喚し、射出。これを繰り返せば、ワンショットキルが可能だ」

「ご明察だ、天城カイト。WDCのベスト4入りを果たすだけはある」

 

 カイトの明瞭とした説明に、千年レンズを庇ったままの姿勢で闇凌牙が吐き捨てる。

 

「貴様が凌牙のデュエルディスクにかけた、禁止カードを読み込む力は消え去った! 禁止カードに頼らなければ勝てぬ千年ジャンクがこの俺に勝てる訳がない!」

 

 カイトが傲慢不遜に発言する。憎悪の焔を千年レンズからこぼしながら、必勝法が見抜かれたというのに闇凌牙はケヒケヒと笑った。

 

「ふざけろよ、天城カイト。俺にはまだ俺のデッキがあるんだぜ」

 

 腰に付けたデッキケースのカードをデュエルディスクに差し込む。エラーによるアラーム音は響かない。禁止カードが入っていない、正しく構築されたデッキだ。元々腰に備え付けていたデッキ――即ち凌牙のものだろうとカイトが早合点する。

 

「それは凌牙のデッキだ。貴様に使いこなせるものか!」

「使いこなせるぜ、“俺のデッキ”だからな。天城カイト! 今受けた千年レンズへの侮辱と、あの時ライフを一ミリも削れずに敗北した屈辱を合わせて晴らさせてもらうぜ」

 

 あの時ライフを一ミリも削れずに敗北した屈辱、というのはカイトと凌牙の初デュエルのことを差すのだろうか。そう考えて、カイトは頭を振った。目の前にいるのは凌牙を乗っ取った千年レンズに封印されし魂だ。断じて凌牙ではない。疑念を払うようにカイトは声を張り上げた。

 

「フォトンチェンジ!」

 

 カイトに眩き光が集結する。闇に溶け込む黒色のコートが、光を放つ白色に変わっていく。マーカーが片目に浮かび上がり、ナンバーズハンター特有のデュエルディスクが装着される。

 

「さぁ、闇のゲームのはじまりだ」

 

 既に用意を整えていた闇凌牙はそう言うだけであった。デモティック(象形文字の一種)が刻まれた文字の柱が林立して降り注ぎ、デュエルフィールドを形成していく。

 

 そして、二人揃って宣言した。

 

「デュエル!」

 

 闇凌牙対カイトのデュエルが始まった。

 

「先攻後攻は―‐」

「この十面ダイスで決める! 赤が十の位、白が一の位を意味する。そして、00(クリティカル)に近い方が先攻権を取る」

 

 闇凌牙の提案をカイトが受け継ぐと、白と赤の十面ダイスを投げ渡した。カイト自身が用意したのはインチキを防ぐためだろう。三勇士の一人だってのに信用されてないね、と闇凌牙は愚痴を吐くと指をパチリと鳴らして、隅にあった四足のテーブルを魔術で引き寄せた。闇凌牙はテーブルの近くのギリギリに立ち、カイトは投げやすいようにテーブルから離れて立った。

 

「ダイスロール!」

 

 強い回転を込められた四つの十面ダイスがテーブルの上で全て独楽のように回る。

 

「“千年レンズ”、貴様の十面ダイスのクリティカルのトリックは分かっている」

 

 十面ダイスが踊る様を見ながら、カイトがネタバレを行う。

 

「十面ダイスは上が偶数(0・2・4・6・8)、下が奇数(1・3・5・7・9)と分かれている。強い回転を加え、偶数が上になるように回す。これで00(クリティカル)への確率がぐっと上がる。これが貴様が仕掛けたクリティカルのトリックだ」

 

 カイトの赤い十面ダイスが倒れ、0を差す。闇凌牙の赤いダイスが8を差した。この時点でカイトの先攻権は決まった……はずだった。

 

「成る程、この独楽回しの練習で来るのが遅れたのか。だが、甘いな、カイト。まるでホットチョコレートのように甘い」

 

 闇凌牙がそう言った瞬間、一番回転が強かった彼の白い十面ダイスが弧を描き、赤い十面ダイスを両方とも弾いてしまった。

 

「なにっ!」

「この十面ダイスにはもう一つ奇策『ダブルヒット』がある。二つの十面ダイスを回す際、一つにはより強い回転を加える。そうすることで片方が良くない目を出した場合、弾いて修正をかけることが出来る。そう上手く弾けるのか、と思うだろうが、解答は“YES”だ。テーブルに肘か足で衝撃を与えれば、ダイスの軌道なんて簡単に変えられるさ」

 

 驚愕するカイトに、闇凌牙が笑みすら浮かべずにすらすらと述べた。この時、カイトは何故闇凌牙がテーブルに隣接するように立ったのかを理解した。

 

「お前は俺のトリックに気付いた。だが、それを阻止しようとはせず、イカサマを承知で同じ土俵に上がった。それに対し、俺は更なるトリックを使った。イカサマにはイカサマを、今のお前に俺を非難できまい。同じ土俵に上がれば勝てるなんて思い上がりも甚だしい」

 

 十面ダイスが四つとも止まった。カイトの目は62、対して闇凌牙の目は00(スーパークリティカル)だった。今は忌々しげに、カイトはその数字を見下ろす。闇凌牙は「おや、ラッキー」と飄々と告げると、指を鳴らしてテーブルをどかした。

 

(先攻を取られたといって、相手は禁止カードを持っていないから、ワンショットキルをされることはない)

 

 最初の五枚をドローしながらカイトは自身を落ち着かせる。

 

「ンな悔しそうな面するなよ。あ、そうだ! ハンデとして先攻はドローしないでおこうか?」

「戯れ言を言う暇がありなら、とっとと始めろ」

「はいはい」

 

 怒気混じりのカイトに闇凌牙は肩を竦めると、自身のデッキの上に手を置いた。

 

「先攻、俺のターン、ドロー!」

 

 初ターン目。

 ドローしたカードを見た闇凌牙は芝居がかった口調で言った。

 

「オイオイこれじゃ……Meの勝ちじゃないか!」

 

 ドローしたカードを掲げ、闇凌牙がレベル2の水属性海竜族の見慣れぬモンスターを通常召喚した。水属性という凌牙らしいモンスターカードにカイトは困惑する。

更に闇凌牙はそのモンスターの効果を発動させ、デッキからレベル3の水属性海竜族のモンスターを特殊召喚した。

 

「ジャンクと馬鹿にした、千年レンズを造り上げた異端の秘術を見るが良い!」

 

 二体のモンスターが光の輪に包まれ、闇凌牙のフィールドに新たなモンスターが召喚される。

 

「なんだ、この召喚方法は!」

 

 見知らぬ召喚方法にカイトは驚きを隠せない。そんなカイトに闇凌牙は丁重にそのモンスターの効果を説明した。

 

(光属性メタモンスターか!)

 

 カイトの顔付きが険しくなる。絶対なる自信故の説明を終えると、闇凌牙はカードを三枚伏せてターンエンドした。

 

 二ターン目。

 互いにライフ4000のまま、カイトのドローフェイズに入る。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は―‐」

「まずは一枚目、罠カード『バトルマニア』! 相手ターンのスタンバイフェイズ時に発動、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターは全て攻撃表示になり、このターン表示形式を変更する事はできない。また、このターン攻撃可能な相手モンスターは攻撃しなければならない!」

「チッ!」

 

 スタンバイフェイズでの発動に興が削がれ、カイトは音を立てて舌打ちした。

強制戦闘を行うことであのモンスターの効果を用いて、カイトのモンスターを掃討する気らしい。しかし、そんな手に乗るナンバーズハンターではない。

 

「スタンバイフェイズからメインフェイズ1へ移行! 俺は『フォトン・スラッシャー』を特殊召喚。自分フィールドにモンスターが存在しない場合に特殊召喚できる。更に『フォトン・クラッシャー』を通常召喚!」

 

 カイトのフィールドに『フォトン・スラッシャー(レベル4、光属性戦士族、攻撃力2100守備力0)』と『フォトン・クラッシャー(レベル4、光属性戦士族、攻撃力2000守備力0)』、二体の攻撃力2000のモンスターが並んだ。

あのモンスターか、と闇凌牙は身構える。

 

「俺は光属性のレベル4二体のモンスターでオーバーレイ! 現れろ、『輝光子(きこうし)パラディオス』!」

 

 意外にも召喚されたのはエクシーズモンスター『輝光子パラディオス(ランク4、光属性戦士族、攻撃力2000守備力1000)』だった。予期せぬモンスターに呆けたような顔付きになった闇凌牙に、カイトは効果を突き付ける。

 

「『輝光子パラディオス』の効果発動! 一ターンに一度、このカードのエクシーズ素材を二つ取り除き、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体を選択して発動、選択したモンスターの攻撃力を0にし、その効果を無効にする(OCG効果)。これでお前のモンスターの効果は消える!」

「させっかよ! 俺は『輝光子パラディオス』の効果にチェーンして速攻魔法『禁じられた聖杯』を発動するぜ! フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体を選択して発動。エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は400ポイントアップし、効果は無効化される。選択先は『輝光子パラディオス』だ!」

 

 闇凌牙の二枚目の伏せカードがオープンする。『輝光子パラディオス』の効果はかき消され、代わりに攻撃力が2400にアップした。カイトは動じずに手札から三枚目のカードを手に取った。

 

「俺は装備魔法『アサルト・アーマー』を発動。自分フィールド上に存在するモンスターが戦士族モンスター一体のみの場合、そのモンスターに装備する事ができる。装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップ。更に装備されているこのカードを墓地へ送る事で、このターン装備モンスターは一度のバトルフェイズ中に二回攻撃する事ができる。俺は『アサルト・アーマー』を『輝光子パラディオス』に装備し、『アサルト・アーマー』を墓地へ送る! このターン、『輝光子パラディオス』は2400の攻撃力で二回攻撃を行える」

 

「だが、俺のモンスターに攻撃した途端、ドカン! だぜ?」

「それはどうかな」

 

 闇凌牙の茶々をスルーして、カイトは四枚目のカードを手に取った。カイトの残り手札は二枚だ。

 

「俺は魔法カード『フォトン・サンクチュアリ』を発動! このカードを発動するターン、自分は光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。自分フィールド上に『フォトントークン(雷族・光・星4・攻2000/守0)』二体を守備表示で特殊召喚する! そして、攻撃力2000のモンスター二体をリリース!」

 

 カイトが五枚目のカードを天に掲げた。

 

「闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕(しもべ)に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れろ、『銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトンドラゴン)』!」

 

 フォトンの力で具現化した十字のブーメランを、カイトは空高く放り投げる。投げた先から一筋の光が差し込み、遙々とした銀河をその瞳に宿した『銀河眼の光子竜(レベル8、光属性ドラゴン族、攻撃力3000守備力2500)』が召喚された。デュエルフィールドを揺るがす彼のエースモンスターの雄叫びに闇凌牙は眉をひそめた。

 

「『銀河眼の光子竜』の効果は相手モンスターと戦闘を行うバトルステップ時、その相手モンスター一体とこのカードをゲームから除外する事ができる、だったな」

「どんな効果を持とうと『銀河眼の光子竜』の前では無意味! “千年レンズ”、貴様が無効化するカードを伏せていることなど、お見通しだ!」

 

 『輝光子パラディオス』は無効化するカードを使わせるためのフェイクだった。闇凌牙のモンスターを無効化するモンスターをカイトが召喚することを予測していた彼は、そのモンスターを無効化するカードを用意していた。しかし、無効化に対する無効化を読んでいたカイトは無効化とは違う方法――『銀河眼の光子竜』で闇凌牙のモンスターを除外することで衝突を回避したのだ。

 

「無効化する以外にも防ぐ方法はあるということを思い知れ! “千年レンズ”! 懺悔の用意はできているか!」

 

 カイトが最後通牒する。このままいけば、『銀河眼の光子竜』の効果によって闇凌牙のモンスターは除外され、フィールドは空っぽになり、攻撃力2400の『輝光子パラディオス』の二回攻撃によって彼のライフはゼロになるだろう。見事なコンボだった。

 

「あの時、『輝光子パラディオス』に『禁じられた聖杯』ではなく、攻撃不可と効果無効化にする永続罠『デモンズ・チェーン』でも使っていれば、ワンキルされずに済んだものを。貴様のプレイングミスだな」

「この俺がプレイングミスだと? とんだロマンチストだな!」

 

 堂々としたカイトの指摘に、千年レンズに目(ウジャト)を浮かび上がらせた闇凌牙はケヒケヒと大笑いした。

 

「三枚目の伏せカードをオープン! 永続罠『王宮の鉄壁』!」

 

 初ターン目に伏せられた最後のカードがひっくり返った途端、カイトの顔が強張った。瞬く間に巨人ですら乗り越えられない程の高さの鉄壁が二人のデュエリストと三体のモンスターを包囲する。

 

「『無効化する以外にも防ぐ方法はあるということを思い知れ!』だっけなぁ、その台詞、熨斗(のし)付けて返すぜ! 『王宮の鉄壁』がフィールドにある限り、 お互いにカードをゲームから除外できなくなる!」

 

 これにより、『銀河眼の光子竜』の除外効果は使えなくなった。真っ向勝負するしかなくなったのだ。

 

「俺はバトルフェイズをスキップして、メインフェイズ2へ―‐」

「プレイングミスはお前の方だ、カイト! 現実逃避する余り、スタンバイフェイズで発動した『バトルマニア』の効果を忘れたか!」

 

 ナンバーズハンターの勝利の方程式が瓦解していく。唖然とするカイトの前で、『バトルマニア』の効果により『銀河眼の光子竜』と『輝光子パラディオス』が強制戦闘に入ろうとしていた。

 

「滅しろ、苛立たしき竜め!」

「やめろーっ!」

 

 カイトが叫ぶが、止まれるはずがなかった。バトルフェイズに入り、『銀河眼の光子竜』が自身より低い攻撃力の相手モンスターにバトルを挑むべく、“破滅のフォトン・ストリーム”を放つが、モンスター効果により為す術(すべ)もなく消滅していく。続いて『輝光子パラディオス』が“フォトン・ディバイディング”を振るうも、相手モンスターには届かず、逆に破壊されてしまった。

 

「粉砕! 玉砕! 大喝采!」

 

 デュエルフィールドを闇凌牙の高笑いが隙間なく埋めていく。

 

「……『輝光子パラディオス』の更なる効果を発動。フィールド上のこのカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、デッキからカードを1枚ドローする。『禁じられた聖杯』の効果はフィールド上のみだ、墓地での発動には適用されない」

 

 カイトがのろのろとした動作でカード一枚ドローする。手札が二枚になったとはいえ、フィールドが空っぽになったカイトは膝から崩れ落ちるのを堪えるので精一杯だった。

 

「ンな落ち込むなよ、カイト。ライフ4000はあるんだから、どうにかなるっしょ? まぁ、お前のフィールドが空のまま、俺のターンに入って1800以上の攻撃力を持つモンスターを召喚したら、どうしようもないけどな」

 

 二枚の手札を見せびらかすように、闇凌牙が邪悪に笑う。もしかすると、既に攻撃力1800以上のモンスターカードが控えているのかもしれない。

 

「WDCにおいて同じベスト4入りなのに、俺も舐められたものだな。禁止カードさえ封じれば楽に勝てると思ったのかよ。自身の問題が全て解決したからって、腑抜け過ぎじゃねぇの? こっちはまだ何(なぁん)も解決していないってのに、いい気なもんだぜ。……安心しろ、楽には負けさせないから。デッキにはまだまだ素敵なカードが入っているんだ。是々非々にでも御披露目させておくれよ」

「まさか、お前のデッキは対光属性デッキではなく……」

「やっと気付いたか。そうさ、お前専用のメタデッキだ。枝葉末節に至るまでお前のデッキに対応するカードが投入されている。わざわざお前の為に構築するの、大変だったんだぜ? ファンサービスだ、喜べよ、カイト」

 

 それまでケヒケヒと笑っていた闇凌牙だったが、トーンを落とすと、汚泥のように濁りきった呪いをべったりと擦(なす)り付けるようにカイトに囁いた。

 

「『懺悔の用意はできているか!』だっけなぁ。でもよぉ、カイト、懺悔したいのはお前の方なんじゃねぇの?」

「なん……だと……?」

「だってよぉ、お前の親御さんが暴走しなければ、チビガキこと遊馬の父ちゃんが行方不明になることも、チビッコパパが狂気に走ることも、俺達兄妹がそのとばっちりを受けることもなかったのにな。しかも、お前はナンバーズハンターになって人の魂を刈り取り、俺も魂を取られる体たらく」

 

 その呪詛を聞いた瞬間、カイトの呼吸が遠退(とおの)いた。『銀河眼の光子竜』を召喚するために投げたブーメランがそのまま落下してきて、自身の胸を貫いたかのようだった。

 

「ナンバーズハンター、良いことを教えてやんよ。『許す』ってのは相手が『許してほしい』と懇願して初めて成立する行為で、『許し』ってのは強者のみが使うことが出来る最大の我が儘なんだぜ? なんたって、自分(強者)の一存で懺悔する相手(弱者)の運命が決まるからな」

 

 彼の千年レンズが地獄の火炎のように揺らめいて輝く。王侯貴族・神官のように気取る相手の胸に刺さる見えないブーメランを、闇凌牙は足で更に強く押すように口を開いた。

 

「だから、『許してほしい』と懺悔もしていない奴に『許さない』と言うのは可笑しな話になるって訳だが、その逆はどうかな? 加えて、強者は弱者に我が儘を言える権利があるんだ」

 

 どす黒い感情で塗り潰された台詞を、闇凌牙は放った。

 

「だから、お前がどんなに懺悔しようとも、俺(強者)はお前(弱者)を『許す』気はない」

 

 カイトの胸に突き刺さったブーメランがとうとう貫通する。今、彼の目の前にいるのは“千年レンズ”ではなかった。心の部屋の隅に潜む闇が怨みを持って具現化した存在だった。千年レンズの暴走を止めることが償(つぐな)いになれば、とカイトはずっと感じていたが、それは懺悔したいという何よりの証拠だった。

 

 そして、かつて魂を奪ってしまった神代凌牙もまた、カイトの罪が濃縮された闇の一部――彼を恨む人物の一人だと気付かされる。

 

 今思えば、初めてのデュエルだというのに、どうして、闇凌牙はカイトが光属性のデッキの持ち主だと知っていたのだろう。何故、『銀河眼の光子竜』の効果を知っていたのだろうか。知っていなければ、『王宮の鉄壁』というピンポイントメタカードを入れる訳がない。

 

 加えて、『マスドライバー』と『イレカエル』のワンキルコンボ。口で言うのは簡単だが、あのコンボを確立させるには高いプレイングセンスが必要となる。

 

(俺を恨んでいて、俺のデッキを知悉[ちしつ:知り尽くすこと]しているうえに、高いプレイングセンス……? そんな、まさか……)

 

 敗北と疑念の二文字が色濃く浮かび上がる。ケヒケヒと再び笑い出した許さない者を前にして、許されざる者は身動きを取ることが出来なかった。

 

 

 

【2】

 

 テールランプが夜闇に尾を引っ張る。遊馬を乗せた、ⅣのDホイールがネオン街から離れた道程を走っていく。アストラルはDホイールの空気を切る感覚を味わいたいからか、遊馬とは背中合わせになるように座る真似をしていた

 

 姉・明里の強烈なドライビングテクニックのDホイールに乗せられたことのある遊馬だったが、家族以外の他人との相乗りは初めてのため、緊張しっぱなしだった。それ故にⅣの腰を掴む手に力が籠もる。

 

「Ⅳ、サンキュ! これでカイトに追い付くことが出来るぜ!」

「別に感謝する程のことじゃねぇだろ」

「いや、ホントに助かったって!」

 

 ヘルメットに装着されたイヤホンとマイクにより、遊馬の嬉しそうな声が耳にすぐさま到着する。もしDホイールに乗っていたのではなく、面と向かいあっていたならば、きっと遊馬は全身を使って大袈裟に感謝したに違いない。

 

「Ⅳ、君は大丈夫なのか? Ⅲ共々“千年レンズ”の罰ゲームを受けたはずだが」

「Ⅲは病院だ。命に別状はねぇし、俺は二度目だから慣れてんだよ。それに……俺に出来るのはこれぐらいしかねぇからな」

「Ⅳ?」

 

 遊馬の呼びかけに返答はなかった。遊馬と背中合わせのアストラルも何も言わず、Dホイールの駆動音だけが響く。

 

「遊馬、独り言だと思って聞き流してくれ」

 

 二回カーブを曲がった頃だった。自嘲気味にⅣがぽつりぽつりと話し始める。

 

「俺はアイツの妹を傷付け、アイツ自身の心も傷付けた。だから、アイツを助けることが俺の贖(あがな)いだと思っていたが、どうやら俺にはそんな力はないようだ。せいぜい、アイツを助けられるテメェを運搬するしか出来ねぇ」

 

 闇凌牙とのデュエルをするまで、彼を助けるのが自身の償いだとⅣは強く信じていた。許されなくてもいい、許されないだけのことを自身はしたのだ。凌牙に罵られようとも贖ってみせる、とⅣは固く覚悟をしていた――あの台詞を聴くまでは。

 

『可哀想な璃緒。お前はもっと熱かったろうに』

 

 覚悟が粉々に打ち砕かれる。凌牙の悲しみを前にしてみれば、Ⅳの覚悟なんて、幼児のおままごとのようなものだったのだ。突きつけられた罪の重さに怯え、Ⅳは贖いではなく、罰を望んだ。地獄の業火に灼かれるべきだと自身に下した。しかも、最愛の弟を巻き込むという最悪な審判だ。だが、それは罰を受ければ許されるという甘えだった。

Ⅳは覚悟を放り出し、罪悪感から逃げたのだ。

 

「俺さぁ、跳び箱二十段によく挑戦するんだよ」

「はぁ?」

 

 そんなことをⅣが悶々と考えていると、遊馬から脈絡なく話し掛けられた。先の見えない会話に怪訝がるⅣをそのままに、遊馬は話を続けた。

 

「かっとビングでチャレンジするんだ! まぁ、失敗することもあるけどな」

「稀(まれ)に、極(ごく)稀に成功することはあったな」

「アストラル、なんで稀を強調するんだよ! ……でもさぁ、Ⅳ、俺が最終目標の跳び箱二十段にチャレンジするのは、跳び箱一段が跳べるからなんだ」

「そりゃあ当たり前だろ、跳び箱一段も跳べないのに二十段が跳べる訳がねぇ」

「うん、そうなんだ。いきなり二十段は跳べないんだ」

 

 遊馬がⅣに更に強くしがみつく。それはDホイールに同乗していることからくるものではなかった。

 

「Ⅳが来なかったら、俺、美術館に行けなかった。Ⅳが来てくれたから行けるんだ。“Ⅳが助けたいシャークを助ける俺”をⅣが助ける。今はそれでいいんじゃねぇの? これが跳び箱の一段目だぜ、きっと」

 

 涙がこぼれるかと思った。自身の覚悟は児戯じゃない、真実だとⅣは知った。瞼がラインに沿(そ)って熱くなる。運転しているのに馬鹿なことを言うなよ、と胸中で呟く。

 

「おい、トンマ」

「トンマって言うな!」

「舌ァ、噛むなよ」

 

 フルスロットルを超えた先までギアを上げる。遊馬が悲鳴を上げる間もなく、地面に付く程に車体を傾けながら右へ切ると、路地裏に飛び込んだ。Dホイールで通れるのが奇跡なぐらい狭い路地だ。魔改造(チェーンアップ)されたDホイールが唸りを上げて風を切り、美術館への近道となる路地裏に潜むがらくた共を巻き上げていく。

 

(お礼を言うのは俺の方だ、遊馬)

 

 滲もうとする視界を必死に堪えながら、Ⅳは更に更にスピードを上げる。そんなⅣの態度を見ながら、アストラルは誰とも知れずに呟いた。

 

「観察結果“タウゼント(ドイツ語で千)”、彼はやっぱり素直ではない」

 

 

 

【3】

 

 Dホイールで美術館の柵を優に飛び越える。耳障りな音を響かせながら、Dホイールは急停止した。暗闇に落ちた美術館はいつもより不気味さが増し、異様な空気を背負いこんでいる。扉の前には神代凌牙のDホイールがあった。

 

「特殊な結界を張ってやがる。位相がずれてんな」

「位相?」

 

 紋章の力で察知したであろうⅣが遊馬に説明する。

 

「分かりやすくいうなら、本来一枚の絵をカートゥーンアニメのように何枚かのセル画にしてるってことだ。アニメってのは何枚ものセル画を使って一場面を作ってるからな。一つの空間をセル画のように幾つかの空間に分け、その一枚に奴が潜んでいるのさ。端から見ると普段通りだが、位相がズレているから、相手が許可しない限り、その一枚――結界に他者は侵入も脱出も出来ねぇけどな」

「わかりやすいような、分かりにくいような」

「遊馬、君って奴は……」

 

 中学一年生である相棒のぼやきにアストラルが肩を落としていると、キーキーという機械音が聞こえてきた。

 

「九十九遊馬にⅣ!」

 

 彼等二人を発見したオービタルがずかずかと近付きながら、声を上げた。

 

「確かお前は軟禁されていたはず! ええい、こうなれば、オイラが止めて―‐」

「黙れ、凡骨(ボンコツ)」

 

 すこーん、とⅣが投げたカードがオービタルの頭部に突き刺さり、ばたーん、とオービタルは仰向けに倒れてしまった。

 

「Ⅳ、やりすぎじゃねぇ?」

 

 心配した遊馬がDホイールから飛び降り、オービタルに近付いた。刺さりどころが悪かったのか、ロボットの癖してウンウンと唸っている。そのカードを引き抜こうとすると、彼のDホイールの隣に立ったⅣに名を呼ばれた。

 

「今みたいに、これから! ってな時に邪魔されると無性に腹が立つんだ。気持ち良くデュエル出来ねぇと、まさしく“イラッとするぜ”って言いたくなる」

 

 だから、とⅣは続ける。

 

「遊馬、そのカードを貸してやる。テメェのデッキにそんなカードはないだろうからな。いいか、貸すだけだからな。必ず返せよ。そして……凌牙を助けてやってほしい」

 

 横暴な口振りが途中から懇願に変わる。自身とはまた異なる紅の瞳をしかと向けられ、遊馬は「当たり前だ、必ず助けてやる」と誓う。カードをオービタルから抜き取る際、「あ痛っ」と実に人間らしい言葉を漏らした。遊馬が美術館の入り口へ近付くと、空間――セル画がペーパーナイフのように切り取られ、隔絶された位相へ招待される。

 

「いくぜ、アストラル!」

「必ず“千年レンズ”を止めるぞ、遊馬!」

「おう! かっとビングだ、俺!」

 

 皇の鍵がキラリと輝く。

 

 二人が飛び込むと、何もなかったかのようにセル画は戻り、一枚の絵になった。

 

「あー、いってぇー」

 

 救世主が消えたのを確認すると、ⅣはDホイールに凭れながら声を漏らした。大火傷を負ったというのに病院から抜け出したのだ。痛まない訳がない。

 

「とんだカッコ付け野郎であります」

「うっせーよ、スクラップにするぞ。あいてて……」

 

 礼服の下に隠された包帯をさすりながら、Ⅳはオービタルに暴言を放つ。

 

「頼んだぜ、勇者」

 

 Ⅳがそう呟いた瞬間、カチリと秒針が動き、美術館前の広場の時計が十二時を差す。遊馬と凌牙がデュエルする約束の日付になった瞬間だった。

 

 

 

つづく




※TRD……とんだロマンチストだな!

凌牙vsカイト戦での、カイトの台詞。
カイトのプレイングミス(?)を指摘した凌牙へ放ったもの。
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