【遊戯王ZEXAL】声よ届け! 光貫く闇のデュエル!【映画風】 作:千葉 仁史
デュエル構成は千葉仁史自身、補正は弟。
オリジナルカード、要はオリカが一枚だけあり。
カード効果はアニメよりなので、『潜航母艦エアロ・シャーク』が強いまま。
ルールは先攻ドローあり、ナンバーズはナンバーズでしか戦闘破壊できない。
この作品はセカンドに入る前、WDCが終わった後の設定なので、遊馬が少し驕っている。
【1】
遊馬とアストラルが千年レンズの結界に飛び込んだと同時に、美術館内に深夜十二時の鐘が鳴り響く。彼と凌牙がデュエルの約束をしてから四日目――約束の当日となった瞬間だった。
「小鳥ーっ! 何処にいるんだーっ!?」
位相が切り取られた館内はじんわりと闇に浸食され、お情け程度にぼんやりと非常灯が照らしている。お化け屋敷を連想させる空気を感じながらも、その悪寒を払拭するように遊馬は大声で幼なじみの名を呼び続けた。
「遊馬!」
正面の廊下から小鳥が走ってきた。余程、怖かったのだろう。勢いのまま、抱きついてきた小鳥に遊馬は目を白黒させる。小鳥自身、彼女の大胆な行動に吃驚したが、互いにそれどころじゃないと慌てて離れた。
「えっと、その……小鳥、無事か?」
「彼は――“千年レンズ”の姿が見当たらないのだが」
「私は無事よ。あの人は……分からない。どうせ出られないだろうって私の縄を解いた後、何処かに行っちゃって」
遊馬とアストラルの質問に小鳥が分かる範囲で答える。遊馬を呼び出した張本人――この事件の犯人の不在に彼が何かしらリアクションを起こそうとした途端、アストラルがぐるりと方向転換した。
「後ろで大きな爆発音がした、デュエルをしているようだ」
「カイトか!」
こくりとアストラルは頷くと、その場所へ遊馬と小鳥を誘導する。嫌な予感が遊馬の胸の中を風船のように膨らんでいく。
(どうか無事でいてくれ!)
皇の鍵を握り締めながら、遊馬は祈った。角を数回曲がり、長い廊下を抜けると、大広間に出る。悲鳴が聞こえた。ヴィジョンで出来た壁をぶち破り、敗者――カイトがぶっ飛ばされてきた。カイト! と名を呼び近付く遊馬の耳に、元凶の人物の声が届いた。
「勝負は足の長さで決まったな」
穴の空いた壁の向こうで、勝者――凌牙に取り憑いた“千年レンズ”に封印されし魂がケヒケヒと嘲笑っていた。その横では印籠の如く『閃光を吸い込むマジックミラー』が輝き、守護神のように見たことのない機械仕掛けのモンスターが佇んでいる。あれは……? とアストラルが凝視する間にデュエル終了音が鳴り響き、ヴィジョンが解除されていった。
「俺のライフが4000で、お前が0。あの時とはまるで逆だなぁ、カイト。さぁて、それでは記念すべき百個目の魂のデッキの回収タ~イムの始まりだ!」
闇凌牙が包帯の巻かれた左手を翳すと、カイトのデッキが光の玉となり、持ち主の手元から離れていく。
「父さん! ハルトーっ!」
カイトのデッキを構成する思い出の名を彼が叫んだ。遊馬が掴もうとするが、無慈悲にもデッキはすり抜け、闇凌牙の手に渡る。彼がニッと笑ったと同時に、背後に眼(ウジャト)が傷口を開くように現れ、デッキを吸い込み、千年砂時計の砂が全て落ちきった。
「千年レンズの封印が解かれる……っ!」
アストラルがそう呟いた瞬間、闇凌牙を中心にして黒き旋風が巻き上がった。その風の煽りを受けたかのように、ちりちりと鬱陶しげに千年レンズのチャームとして揺れていた千年砂時計が粉々に砕け散っていった。
「キィーヒャッハッハッー! 力が漲(み~な~ぎ~)る~っ!」
凶喜の声を上げる闇凌牙の身体が闇のオーラに覆われる。千年レンズが輪郭を改めるように強く輝きはじめ、今まで現れたり消えたりを繰り返していた黄金の眼(ウジャト)がレンズに刻み込むようにくっきりと浮かび上がった。
更に闇凌牙の背後にあった眼(ウジャト)が大きく見開き、真っ黒い眼球――闇の塊を吐き出した。暗黒物質(ダークマター)はわしゃわしゃと嘲笑うような動作をしたかと思うと、辺りを縦横無尽に飛び回り、身を削りながらそこら中に闇の破片をバラまいていく。遊馬たちの悲鳴を無視して、まるでスプレーを撒くが如く空間を暗闇に染め上げていった。
眼球が抜けた裂け目はまさしく傷口を連想させ、血が滴(したた)り落ちるようにカードを数枚吐き出すと、対カイト用に構成したデッキに入り込み、代わりにいらなくなったカードが傷口に戻っていく。一滴だけ本当に黒き闇の血痕を落とした。その血滴を闇凌牙が片手で受け止めると否や、千年レンズの金色の焔を受けて一枚のカードになった。ケヒヒと笑い、闇凌牙はそのカードをデッキに投入した。そして、吠えるように宣言した。
「ざまぁ見やがれ、千年アイテムの王侯貴族・神官共! とうとう俺は復活してやったぞ!」
身を削りきった眼球は消え去り、辺りは闇に包まれていた。本来はあるはずの展示品も隠され、闇凌牙・遊馬・アストラル・小鳥・カイトだけが浮かぶように存在していた。
「千年アイテムが封印された今、俺を止めるものはいねぇ! ……だが、一個だけ残っていたみたいだな。九十九遊馬! お前の千年アイテムをぶっ壊せば、俺の千年レンズのみが真の千年アイテムとなる!」
闇凌牙に闇が纏わりつき、それは蛇のようにも、何故か緋色のマントのようにも見えた。
「千年アイテム? あの人は何を言って……?」
「数千年前、奴は千年アイテムを持った王侯貴族・神官との決闘(ディアハ)に敗北し、肉体は消滅され、魂は千年レンズによって封印された。皇の鍵は千年アイテムとよく似ているからな。勘違いの上、逆恨みもいいところだ」
小鳥の呟きに、満身創痍のカイトが答える。
「何を言っているのか分からねぇが、みんなのデッキ、返してもらうぜ! “千年レンズ”、俺とデュエルだ!」
「完全復活した千年レンズに挑むとは、とんだハリキリボーイだぜ! ああ、いいぜ。お前を倒し、ナンバーズを手に入れ、六人の部下を引き連れて“すべてのはじまりのカード”を掴んだ暁(あかつき)に、俺は“絶対的な暴力”そのものとなる! ……だからよ、始めようぜ。本物の“闇のデュエル”を!」
遊馬の勢いある宣戦に、千年レンズの百パーセントの力を取り戻した闇凌牙がケヒヒと笑った。
「デュエルディスク、セット!」
宙へ放り投げたDパッドを変形させ、遊馬は左腕に装着する。
「Dゲイザー、セット!」
『ダークネス・デュエル、リンク』
遊馬がDゲイザーを装備したときに流れた音声は間違いなくはっきりとそう言った。
古代の砂漠の国の文字――デモティックが柱の雨のように降り注ぎ、デュエルフィールドを造り上げていく。
「デュエル!」
遊馬と闇凌牙が揃って宣言した。
「先攻後攻はこの十面ダイスで決めるぜ! 赤が十の位、白が一の位を意味し、00(クリティカル)に近い方が先攻権を得る!」
闇凌牙は遊馬に白と赤の十面ダイスを投げ渡すと、指を鳴らし、暗黒色の四つ脚のテーブルを出現させた。
「いくぜ、ダイスロ―‐」
「ちょっと待ってくれ!」
遊馬からストップが入り、闇凌牙は鬱陶しげに「何なんだよ!」と怒鳴った。
「この十面ダイスって、回すように投げなきゃ駄目なのか?」
「そんなルールねぇよ。目が出りゃ、投げ方なんてどうでも構わねぇ」
「投げ方なんて構わないなら、手の平から滑り落とすようにしようぜ、お互いにさ」
遊馬からの提案に闇凌牙は言葉を詰まらせた。
「何か都合が悪いのか? 君は先程、『目が出りゃ、投げ方なんてどうでも構わねぇ』と言っていたが」
「……チッ、分かったぜ。互いにダイスは手の平から滑り落とすことにする」
アストラルからの追い討ちに闇凌牙が忌々しげに承諾する。テーブルに近付いて立つ二人を見ながら、カイトは安堵した。
「これで奴はクリティカルを出せまい」
「どういうこと?」
「“千年レンズ”はイカサマを使ってクリティカルを連発していた。だが、滑り落とすようにすれば、イカサマは出来ない。遊馬め、考えたな」
「単にあのカッコ良く回す動作が出来ないだけじゃないかしら」
相手と同じ土俵に立つのではなく、自身の立つ土俵まで相手を引きずり落とした遊馬にカイトは素直に感心する。対して、昔から遊馬を知っている小鳥は呆れるようにして幼なじみを見詰めただけだった。
「ダイスロール!」
闇凌牙と遊馬が十面ダイスを手の平から滑り落とした。カッカッと小気味の良い音を立てながら、四つのダイスが転がっていく。最初に止まったのは、遊馬の白い十面ダイスで9だった。次に闇凌牙のダイスが二つとも止まり、73を指した。
「言い忘れたが、99(ファンブル)を出したら、強制的にデュエルの敗北が決定する」
「は!?」
とんでもない後出しルールに遊馬が驚愕する。赤いダイスがカラカラと転がり、一瞬9で止まり掛けたが、そのまま転がり、最終的に3を指した。
「39と73、か」
「よっしゃあ、先攻は貰ったぜ!」
カイトが出た目を呟く。遊馬の言葉に、闇凌牙が舌打ちながら魔術でテーブルを消失させた。
「だが、知っての通り、これは闇のゲームだ。敗者には罰ゲームが待っている」
「罰ゲーム?」
相手の急な冷静な切り出しに、遊馬が首を傾げる。
「ああ、そうだ。敗者は魂を一つ捧げるんだよ――あの冥府の扉へと」
千年レンズに浮かび上がったままの金色の眼(ウジャト)が紅色に染まる。途端、重々しい扉が対峙する二人の間に現れ、開いてもいないのにその隙間から毒のように闇が溢れ出した。衰えを知らない闇の氾濫にギョッとした少年少女たちだったが、次第に遊馬と小鳥が苦しみ始めた。
「どうした! 遊馬、小鳥!」
「“千年レンズ”! 貴様、何をした!」
「知れたこと、闇のデュエルフィールドを完成させたまでだ。千年レンズの力を完全解放した今、コイツは単なる闇じゃねぇ。“絶望の闇”だ。光なき人を絶望に叩き落とし、希望を食い尽くす“闇のフィール”さ。最も人じゃなかったり、光を纏っている奴には効かないんだけどな」
動揺するアストラルとカイトに、ケヒケヒと嗤いながら闇凌牙が説明する。
(“人じゃなかったり、光を纏っている奴”……? だから、私とフォトンモードのままのカイトは効果を受け付けないのか)
アストラルはすぐに状況判断すると、今にも闇に覆い尽くされそうな遊馬に話し掛けた。
「遊馬、ゼアルだ! 希望の光を纏い、絶望の闇を払うぞ」
「……ああ、分かって、いるさ。アストラ、ル」
倒れそうな足を叱咤し、情熱の炎を宿した瞳で遊馬は相棒を見た。互いに諾と頷き、片手を天に翳した。
「俺は、俺自身とお前でオーバーレイ! 俺たち二人でオーバーレイネットワークを構築!」
遊馬が口上を述べると、遊馬は赤い光に、アストラルは青い光となった。二つの光は交差しながら、天に描いたエクシーズの円陣へと吸い込まれていく。
「遠き二つの魂が交わるとき、語り継がれし力が現れる」
円陣から稲妻のように勇者が光臨する。白き光の服に赤い肩当て、金色の髪に赤色と金色のオッドアイの瞳を持つ、一人の人物がその場に立っていた。
「エクシーズチェンジ! ZEXAL!」
遊馬とアストラルの声が合わさった宣言が闇のデュエルフィールドに貫通するように響く。闇を払う光の化身――ゼアルの登場に闇のフィールが退(しりぞ)き、闇凌牙は「思っていた以上に光が強いな」と眉をひそめただけだった。だが、策謀は始まったばかり、もう突き進むしかない。
「ダイスのファンブルといい、闇のフィールといい、デュエルの妨害もこれまでだ!」
闇凌牙に指を突き付けるゼアルに少女の悲鳴が聞こえた。カイトはフォトンチェンジ、遊馬とアストラルはゼアル化して闇のフィールをはじいた。では、何の変哲のない少女は?
「小鳥!」
ゼアルとカイトは叫ぶが、何の手だての仕様がない。闇のフィールに侵(おか)され、小鳥が荒い息を吐く。それを無言で見ていた闇凌牙だったが、わざわざ包帯の巻かれた左手で指を鳴らした。すると、小鳥の足元に金色の魔方陣が現れ、彼女を闇から隔離してみせた。
「オーディエンス(観客)が煩いと萎えるからな」
視線そっちのけで、闇凌牙が呟く。
「だからよぉ、ゼアル、お前も気が萎えることすんなよ。ピンチでもないのに、初ターンにシャイニング・ドローなんていうチートドローされたらマジ萎えるし」
ぶつくさと文句を垂れるように闇凌牙が続けた。まるで年端もいかない中学生のような、年相応の動作にゼアルは錯覚してしまいそうになる。散々禁止カードを使ってきたことを棚に上げての言い草に、ゼアルは卑怯者相手に使うのすら勿体無いと感じ、すぐにはシャイニング・ドローをしないことを決めた。
【2】
「座興はここまでだ。さっさと始めようぜ」
「言われなくても! 俺のターン、ドロー!」
究極体ゼアル(ライフ4000)vs闇凌牙(ライフ4000)のデュエルが始まった。
初手札五枚とドローしたカード一枚を見て、ゼアルは思わず喜びの声を上げそうになる。瞬時に頭に浮かび上がる勝利の方程式に、シャイニング・ドローなんてしなくても勝てることを確信した。
「俺は『ガガガマジシャン』を召喚! 更に、レベル4のモンスターが通常召喚されたとき、手札から『カゲトカゲ』を特殊召喚でき……るっ?」
ゼアルのフィールドに『ガガガマジシャン(レベル4、闇属性魔法使い族、攻撃力1500守備力1000)』と『カゲトカゲ(レベル4、闇属性爬虫類族、攻撃力1100守備力1500)』のレベル4二体のモンスターが揃った途端、デュエルフィールドを満たす闇の比重が増し、ゼアルの語尾が裏返る。
「言い忘れたが、闇属性のモンスターを召喚すると、闇のフィールが更に濃くなっていく仕様だ」
「どこまでも貴様は……っ!」
「睨むなよ、カイト。こういう仕様なんだから仕方ねぇだろ。最も光に包まれているお前らには痛くも痒くもないから別に構わねぇじゃねぇか」
闇凌牙にカイトが非難の視線を向けるが、当の本人は全く気にしていないようだった。確かに彼の言う通り、遊馬とアストラルはゼアル化、カイトはフォトンチェンジ、小鳥は光の結界内にいるため、今のところ何のダメージも見受けられない。
「俺は! レベル4二体のモンスターでオーバーレイ!」
そんな闇の重力を払拭するかのようにゼアルが大声で召喚準備を整える。全て2で埋め尽くされた2×2の魔方陣が現れ、縦横に合計数の4を二つ欄外に吐き出し、二つの“同じ数字”である4が光り輝いた後、それらはエクシーズの円陣となった。『ガガガマジシャン』と『カゲトカゲ』は赤い光となり、その円陣に吸い込まれていく。
「二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、『No.39 希望皇ホープ』!」
円陣が消え、希望の光を纏(まとい)し遊馬のエースモンスター『No.39 希望皇ホープ(ランク4、光属性戦士族、攻撃力2500守備力守2000)』が現れた。闇属性モンスターが消えた途端に闇のフィールの比重が下がり、光属性モンスターが召喚されたことにより、もっと下がっていく。ゼアルの力もあってか彼等の周囲の闇は薄れ、部屋の壁や本来この場にある展示品まで見え始めた。そんな光の氾濫に、闇凌牙は「ハイホーハイホー」と呟いただけだった。
「初ターンは攻撃できねぇ。俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ」
ゼアルがエンドフェイズを迎える。次は闇凌牙のターンだ。いったい闇凌牙はどんなデッキを使うのか、と緊張の汗を垂らすゼアルにカイトが囁いた。
「気をつけろ。奴は俺達のデッキ内容を把握している」
「えっ!」
「いくぜ、俺のターン! ドロー!」
カイトの発言にゼアルが驚いている間に、闇凌牙が二ターン目に突入する。そして、ゼアルが予想だにしない行動を取り始めた。
「俺は『ハリマンボウ』を召喚! 更に、自分フィールド上に魚族・海竜族・水族モンスターが召喚・特殊召喚された時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。来い、『シャーク・サッカー』!」
敵である闇凌牙のフィールドに『ハリマンボウ(レベル3、水属性魚族、攻撃力1500守備力100』と『シャーク・サッカー(レベル3、水属性魚族、攻撃力200守備力1000)』が揃う。凌牙の扱うモンスターの登場にゼアルは驚きを隠せない。
「遊馬、マイフェイバリッドカードを見せてやるぜ! 俺はレベル3二体のモンスターでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、『潜航母艦エアロ・シャーク』!」
全て1で埋め尽くされた3×3の魔方陣が現れ、縦横の外の欄に3の数字を二つ吐き出す。二つの“同じ数字”である3が強く光った後にエクシーズの円陣となり、『ハリマンボウ』と『シャーク・サッカー』を呑み込み、凌牙のエースモンスターの一体である『潜航母艦エアロ・シャーク(ランク3、水属性魚族、攻撃力1900守備力1000)』が召喚された。
「なんで、お前がシャークのデッキを使っているんだ!」
「俺が俺のデッキを使って、何が悪い?」
悲鳴のような驚愕に闇凌牙はまるで当然だと言いたげにしれっと答える。
「いくぜ、遊馬! 『潜航母艦エアロ・シャーク』の効果発動! 一ターンに一度、このカードのエクシーズ素材を一つ取り除いて発動、自分の手札の数×400ポイントダメージを相手ライフに与える! 俺の手札は四枚、1600のダメージを受けろ! “エアー・トルピード”!」
「大人しくくらってたまるかよ! 罠カード『ダメージ・ダイエット』! このターン、自分が受ける全てのダメージは半分になる! よって、俺の受けるダメージは800となる!」
『潜航母艦エアロ・シャーク』がミサイルを発射する。しかし、『ダメージ・ダイエット』の効果によりダメージは半分となり、ゼアルのライフは4000から3200になった。くっ! とダメージを耐えるゼアルに凌牙は追い討ちを掛ける。
「エクシーズ素材として墓地に送られた『ハリマンボウ』の効果発動! このカードが墓地へ送られた時、相手フィールド上に表側表示で存在する相手モンスター一体の攻撃力を500ポイントダウンさせる!」
ゼアルのフィールドにモンスターは一体しかいない。『No.39 希望皇ホープ』の攻撃力が2500から2000まで下がった。
(2000に下がったとはいえ、『潜航母艦エアロ・シャーク』の攻撃力は1900、『No.39 希望皇ホープ』の攻撃力には届かない。仮に攻撃されたとしても……)
ゼアルが状況分析するなか、闇凌牙は四枚目のカードを手に取った。
「俺様のマジックコンボを見せてやるぜ! フィールド魔法『ウォーターワールド』を発動! フィールド上に表側表示で存在する水属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップし、守備力は400ポイントダウンする!」
何処かでイルカの鳴く声が聞こえ、水音がした。空間は暗いままだが、デュエルフィールド全体が大きな水溜まりとなる。
「闇のフィールに満ちているから、特にフィールドに変化なしか。あのイルカの絵、好きだったのに残念だな。何処ぞかのイルカよりもずっとかわいい」
ぱしゃぱしゃと足元の水を鳴らしながら、闇凌牙が独り言を口にする。『潜航母艦エアロ・シャーク』の攻撃力が500ポイントアップし、2400となった。
「これで『No.39 希望皇ホープ』の攻撃力を上回ったな。バトルフェイズへ移行、『潜航母艦エアロ・シャーク』で『No.39 希望皇ホープ』を攻撃! “ビッグ・イーター”!」
「馬鹿な! ナンバーズは『No.』と名のついたモンスター以外との戦闘では破壊されないんだぞ!」
「ンなことは百も承知! だが、200のダメージは受けてもらうぜ!」
ゼアルの絶叫を無視し、全てを噛み砕かんと大口を開けた『潜航母艦エアロ・シャーク』が『No.39 希望皇ホープ』に迫る。このターン、ゼアルは既に800のダメージを受けている。『ダメージ・ダイエット』の効果により、本来400受けるダメージは200になるが、一ターンに合計1000ダメージを受けても良いのだろうか。
(それに……)
ゼアルはちらりと手札に視線を落とす。相手のフィールド魔法『ウォーターワールド』はゼアルにも恩恵をもたらす。それを活用し、次の三ターン目で蹴りを付けるのならば、あのカードには是非とも墓地に行ってもらわなければならない。ゼアルは顔を上げた。
「『No.39 希望皇ホープ』の効果発動! エクシーズ素材を墓地に送ることで戦闘を無効化する! “ムーンバリア”!」
『No.39 希望皇ホープ』の鎧の一部が変形し、彼を守る盾となる。『潜航母艦エアロ・シャーク』は攻撃を弾(はじ)かれてしまった。
「様式美ってヤツだな」
「なにが様式美だ」
闇凌牙の感想に、彼に取り憑くシャーク・ドレイクが怒りの声をあげる。その瞬間、闇凌牙はシャーク・ドレイクと二人っきりの精神世界へ誘(いざな)われた。
「お前は時折シャーク・ドレイクが登場する演劇を見ていると言っていたが、まさしくその通りだぜ。観客ってのは野次を飛ばすしか出来ないからな」
「惚(とぼ)けるな。何故、“あのモンスターカード”をエクシーズ召喚しなかった? 『No.39 希望皇ホープ』を破壊できたものを」
シャーク・ドレイクの鋭い眼光に闇凌牙は肩をすくめる。
「確かに“あのモンスターカード”を出せば、『No.39 希望皇ホープ』は破壊できたろうよ。だが、破壊して墓地送りにしてどうする?」
「どういう意味だ?」
「『No.39 希望皇ホープ』はゼアルのエースモンスターだ。このまま墓地送りにしたままデュエルを続けてみろ。墓地なんて第二の手札みたいなものだ。ライフ1000を切ったあたりで奴は必ず『No.39 希望皇ホープ』を復活させ、『CNo.39 希望皇ホープ・レイ』にカオスエクシーズチェンジをしてくる。復活させるカードなんて幾らでもあるからな。加えて1000を切っている状態、即ちピンチだからシャイニング・ドローをしてくる。魔法・罠の対象にならない、攻撃力を倍々にするとか超チートで強(つえ)ぇZW(ゼアルウェポン)を出されて、アイツの勝ち、俺の負け……なんて洒落にもならねぇ」
本当に舞台に立つ俳優のように真似事リアクションをしながら、闇凌牙は続ける
「つまりだ、『No.39 希望皇ホープ』は墓地にもデッキにも居てほしくねぇんだよ」
「お前にそれが出来るのか?」
挑戦にも揶揄にも聞こえるシャーク・ドレイクの質問に闇凌牙は手札にある一枚のカードを見せびらかした。それは闇が零れ落ちて出来た、千年レンズのカードであった。
「ほう、そのカードを使うか。しかし、使えるのか?」
「使えるさ。ゼアルになれば、シャイニング・ドローなんてせずとも引きは良くなるからな。奴の手札には必ず“あのコンボ”を成立させるカードがある。次のターン、絶対にそのコンボで俺にトドメを刺しにくるさ」
精神世界から浮上する。闇凌牙は千年レンズが生み出したカードを魔法・罠カードのゾーンに伏せ、ターンエンド宣言をした。
闇凌牙とシャーク・ドレイクが内緒話をしていたとき、遊馬とアストラルもまた話し合っていた。
「遊馬。彼は何故“あのモンスターカード”をエクシーズ召喚しなかったのだろうか?」
「“あのモンスターカード”?」
「『ブラック・レイ・ランサー』だ」
幾度もデュエルでシャークのデッキを知っているアストラルは疑問点を並べ立てた。
「あの時、『潜行母艦エアロ・シャーク』ではなく『ブラック・レイ・ランサー(ランク3、闇属性獣戦士族、攻撃力2100守備力600)』を出していれば、エクシーズ素材を一つ取り除いて『No.39 希望皇ホープ』の効果をエンドフェイズまで無効にすることが出来たはずだ。その時、同じように『ハリマンボウ』を墓地に送れば、『No.39 希望皇ホープ』の攻撃力は2000に下がり、攻撃力2100の『ブラック・レイ・ランサー』で破壊出来た。なのに、彼はそれをしなかった。何故だ?」
「そんなの、“千年レンズ”がシャークのデッキを使いこなせてないだけだろ? プレイングミスさ。みんなのデッキを奪った挙げ句にシャークのデッキを使うなんて、本当に許せねぇ!」
(本当にプレイングミスだろうか)
怒りを露わにする遊馬とは反対に冷静にアストラルは考える。神代凌牙に取り憑いた“千年レンズ”の悪霊は非常に狡賢い知恵の持ち主だ。自身が魂を刈る能力がないのに封印を解くために魂が百個必要だと知ると、代わりに魂のデッキを集めることで代用している。加えて、絶対に勝つために禁止カードを扱い、そのコンボをフル活用していた。遊馬に見破られた(?)が、必ず先攻を取るためのイカサマダイス。ゼアル化によって阻まれたが、闇のフィールを満たしてのデュエル妨害。卑怯とはいえ、勝利のために幾つものの策を労した“千年レンズ”がプレイングミスなんてするだろうか。
(もう一つ気になるのが、カイトの台詞だ)
カイトはゼアルに「気をつけろ。奴は俺達のデッキ内容を把握している」と告げていた。ほんの一瞬しかアストラルは見れなかったが、カイトとのデュエルにおいて“千年レンズ”は光属性のモンスター効果を封じ込める『閃光を吸い込むマジック・ミラー』と、彼のエースモンスター『銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトンドラゴン)』の除外効果を禁じる『王宮の鉄壁』を使っていた。対カイト用のカードと言っても過言ではないだろう。
(“千年レンズ”はゼアルがシャイニングドローをすることも知っていた。つまり、彼に我々の情報を漏洩[リーク]した者がいるということになる)
「アストラル」
考えるあまりに無言になった相棒に遊馬が話し掛ける。
「奴が何を考えているか分からねぇが、最後まで突っ走るしかねぇ。勝利の方程式も出来上がっているんだ。卑怯者には負けないさ」
コンボの要となるキーカードを二人で覗き込み、アストラル「その通りだ、我々は負ける訳にはいかない」と頷いた。
「遊馬、勝つぞ」
「おう!」
ゼアルがキラキラと全身から光を放つ。
三ターン目に入った。
「俺のターン、ドロー! 俺は『ズババナイト』を召喚! 更に魔法カード『死者蘇生』を発動! 『No.39 希望皇ホープ』のオーバーレイユニットとして墓地に送った『ガガガマジシャン』を特殊召喚する!」
カードを一枚ドローし、四枚となった手札から次々とモンスターをフィールドに並べていく。
「『ガガガマジシャン』は一ターンに一度、レベル1から8までの任意のレベルに出来る。俺はレベル3を選択!」
『ガガガマジシャン』のレベルが4から3へ変わる。これにより『ズババナイト(レベル3、地属性戦士族、攻撃力1600守備力900)』と同じレベルになった。
「レベル3二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、『No.17 リバイス・ドラゴン』!」
『潜航母艦エアロ・シャーク』が召喚されたときと同じように、全て1で埋め尽くされた3×3の魔方陣が現れた。縦横の外の欄に吐き出された二つの“同じ数字”である3が強く光った後に現れたエクシーズの円陣が浮かび上がり、『ズババナイト』と『ガガガマジシャン』をエクシーズ素材として、遊馬のフィールドに二体目のナンバーズ『No.17 リバイス・ドラゴン(ランク3、水属性ドラゴン族、攻撃力2000守備力0))』が召喚される。
「フィールド魔法『ウォーターワールド』の効果により、『No.17 リバイス・ドラゴン』の攻撃力は500ポイントアップする! 更に『No.17 リバイス・ドラゴン』の効果を発動! 一ターンに一度、オーバーレイユニット(エクシーズ素材のこと)を一つ取り除くことで攻撃力を500ポイントアップさせる! “アクア・オービタル・ゲイン”!」
ウォーターワールドの影響を受けたうえに、オーバーレイユニットを一つ吸収した結果、『No.17 リバイス・ドラゴン』は攻撃力3000のモンスターと化した。相手プレイヤーである闇凌牙は何も言わず、目元すら動かさなかった。
「バトルだ! 『No.17 リバイス・ドラゴン』で『潜航母艦エアロ・シャーク』を攻撃! “バイス・ストリーム”!」
ゼアルは闇凌牙の伏せカードを見た。神代凌牙のデッキを使っているならば、『ゼウス・ブレス』を伏せている可能性が高い。『ゼウス・ブレス』は相手モンスターの攻撃宣言時に発動し、相手モンスター一体の攻撃を無効にする挙げ句、自分フィールド上に魚族・海竜族・水族モンスターが表側表示で存在する場合、その数×800ポイントダメージを相手ライフに与えるカードだ。『潜航母艦エアロ・シャーク』は魚族のため800のダメージになるが、墓地にある『ダメージ・ダイエット』を除外すれば、効果ダメージを半分にできるため、400の効果ダメージで済む。もう一つの効果も、カウンター罠カード『攻撃(こうげき)の無力化(むりょくか)』のようにモンスター一体の攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了する訳ではなく、攻撃を無効化にするだけなので、それはそれで好都合だ。ゼアルの狙うコンボは成立する。
勇者は伏せカードを見つめる。伏せカードは発動しなかった。
『No.17 リバイス・ドラゴン』が口から“バイス・ストリーム”を放つ。『潜航母艦エアロ・シャーク』は破壊され、闇凌牙は600の戦闘ダメージを受けた。百一人目にして、ようやく闇凌牙にダメージを与えられたのだ。これにより、闇凌牙のフィールドは伏せカード一枚のみとなった。
「『No.39 希望皇ホープ』でプレイヤーにダイレクトアタックだ!」
ゼアルが敵に人差し指を突き付けながら攻撃宣言を行う。あの伏せカードが攻撃宣言で発動するカードではないと知った今、何も恐れることはなかった。
「やったわ! これで相手のライフは1400になるわ」
「いや、これで終わりだ」
喜ぶ小鳥の横で、カイトが遊馬の勝利を確信していた。闇凌牙はやはり何も言わない。
「『No.39 希望皇ホープ』の効果発動! エクシーズ素材を一つ使って、攻撃を無効化する!」
ゼアルの命令に『No.39 希望皇ホープ』は攻撃を寸度目する。まだ闇凌牙は何も言わない。
「この瞬間、手札から速攻魔法『ダブル・アップ・チャンス』を発動! モンスターの攻撃が無効になった時、攻撃力を二倍にして、もう一度だけ攻撃できる!」
スロットマシンから星の欠片のようにコインが溢れ出て、『No.39 希望皇ホープ』を包み込み、攻撃力を底上げする。『ハリマンボウ』で500ポイント下げられたままだが、『No.39 希望皇ホープ』は攻撃力2000から4000のモンスターになった。
「『No.39 希望皇ホープ』! “千年レンズ”にダイレクトアタックだ! デッキを奪われたみんなの怒りを思い知れ! “ホープ剣スラッシュ”!」
『No.39 希望皇ホープ』が再び剣を振りかぶる。遊馬陣営の誰もが勝利を信じ込んでいた。
その瞬間、黙り込んでいた闇凌牙の肩が揺れた。敗北への恐怖かとアストラルは思ったが、それはとんだミステイクだった。
「キィーヒャッハッハッー!」
猿叫のような笑い声を闇凌牙は上げたのだ。デュエルフィールドを余すことなく広がっていく耳障りな笑い方に、カイトの口が開く。
「どうした、“千年ジャンク”。敗北を目前にして、気でも触れたか」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ、“ブラコンナンバーズハンター”。『No.39 希望皇ホープ』と『ダブル・アップ・チャンス』のセオリー過ぎるコンボに、おかしくって腹が痛いわ!」
腹を抱えてヒーヒー笑う闇凌牙だったが、ぐりんとまるで梟のように奇妙な動きをすると、伏せカードを発動させた。
「カウンター罠発動『深海の牢獄』! このカードは相手モンスターの攻撃力が変動したときに発動! 手札一枚捨てて、変動した数値を百で割ったターン数、相手モンスターを除外する! 遊馬! 『No.39 希望皇ホープ』の攻撃力は2000から4000にアップしている。2000÷100=20ターンの間、除外エリアでおねんねしてもらうぜ!」
地面に魔方陣が現れ、全てのマス目が消失し、深海の暗闇が覗き込む。その深海から鎖が飛び出し、『No.39 希望皇ホープ』をがんじらがらめに縛っていく。
「『No.39 希望皇ホープ』!」
「失せろ、目障りな光め!」
ゼアルが叫ぶが、闇凌牙の言葉が合図となり、『No.39 希望皇ホープ』は深海に引きずり込まれ、魔方陣と共にフィールドから消失する。『No.39 希望皇ホープ』が消えたことで闇の度合いが増した。
「くそう、『No.39 希望皇ホープ』が……っ!」
「まずいぞ、遊馬。奴が行(おこな)ったのは破壊(墓地送り)やバウンス(デッキや手札に戻すこと)ではなく除外だ。我々は除外から復活させるカードは持っていない」
ゼアル化した遊馬とアストラルが会話する。このターンに蹴りが付くと思っていただけに二人とも動揺していた。
「けどよ、アストラル、俺らにはシャイニング・ドローがある」
「その通り、我々には好きなカードを作成できるシャイニング・ドローがある。次のターンを凌(しの)ぎ、五ターン目に『No.39 希望皇ホープ』を除外から復活させるしかない」
ゼアルの手札に伏せれそうな魔法・罠カードはない。だが、フィールドには攻撃力3000の『No.17 リバイス・ドラゴン』が残っている。バトルにおいて、ナンバーズはナンバーズでしか破壊できないのだ。何も焦ることはない。
「俺はこれでターンエンドだ」
【3】
「俺のターン! ドロー!」
四ターン目。
ゼアルのライフは3200、フィールドには攻撃力3000の『No.17 リバイス・ドラゴン』のみで、手札は一枚。闇凌牙のライフは3400、フィールドには何もなく、『深海の牢獄』のコストで手札を一枚捨ててしまったので、手札は今引いた分を合わせても二枚だ。勢い良くドローしたカードを見て、闇凌牙は目を瞬(またた)かせた。
「ありがとう、俺のデッキ」
引いたカードにリップ音を立てて闇凌牙はキスする真似をした後、フィールドに掲げた。
「俺は『深海のディーヴァ』を召喚! このカードが召喚に成功した時、デッキからレベル3以下の海竜族モンスター一体を特殊召喚できる! 現れろ、『ニードル・ギルマン』!」
闇凌牙のフィールドに水属性のモンスターが一気に二体揃う。だが、『深海のディーヴァ(レベル2、水属性海竜族、攻撃力200守備力400)』と『ニードル・ギルマン(レベル3、水属性海竜族、攻撃力1300守備力0)』のレベルはバラバラだ。エクシーズ召喚は出来ない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、彼のフィールド上の魚族・海竜族・水族モンスターの攻撃力を400ポイントアップさせる『ニードル・ギルマン』の効果と、水属性のモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる『ウォーターワールド』の効果を受けても、『ニードル・ギルマン』の攻撃力は1300から2200、『深海のディーヴァ』に至っては200から1100までしか上がらない。『No.17 リバイス・ドラゴン』の3000には届かない。仮に魔法カード『アクア・ジェット』で強化して1000ポイントアップさせたとしても、バトルにおいてナンバーズはナンバーズでしか破壊できないため、ダメージしか与えられない。
「シャークって魚族中心だと思っていたけれど、海竜族も入れていたのかしら?」
小鳥は不思議がるだけだったが、カイトは闇凌牙とデュエルした“あの時”と同じ展開に恐怖した。間違いなく“あのモンスター”が召喚されてしまう。
「千年アイテムの保持者・九十九遊馬、並びに千年アイテムの亡霊・アストラル。千年アイテムを持った王侯貴族・神官共が異邦人という理由だけで氾濫する川の生贄にした“あの女(ヒト)”が俺に授けてくれた異国の秘術をとくと見るが良い!」
闇凌牙が纏う闇のフィールがマントのように揺れた。憎悪・憤怒・嫌悪を宿した紅き光が千年レンズから放たれる。
「俺は『ニードル・ギルマン』に『深海のディーヴァ』をチューニング!」
3×3マスの基本的な魔方陣が浮かび上がり、2と3の二つの数字を輝かせる。すると残りの数字は全て消え、2と3が混じり合い、内側に“合わせた数”である5が生まれた。魔方陣は煌めきとなると、チューナーモンスター『深海のディーヴァ』に覆い被さり、二つの輪に変形させ、その輪がチューナー以外のモンスター『ニードル・ギルマン』を包み込む。そして、『ニードル・ギルマン』は二つの輪の中で三つの星になった。
「正義が勝者ではない。勝者、即ち強者のみが正義を語る権利があるのだ」
絶望の闇を背負いし、数千年前の復讐者が禍々しき口上を述べていく。
「愚かな弱者共よ。機械仕掛けの正義執行者が近付く、絶望の足音を聴け。光砕く道となれ! シンクロ召喚!」
輪の中を光が走り、巨大なシルエットが浮かび上がる。機械音を轟(とどろ)かせ、異端のモンスターが復讐の舞台に這い上がった。
「現れろ! 『A.O.J(アーリー・オブ・ジャスティス)カタストル』!」
甲殻類にも似た白き機械仕掛けのモンスター『A.O.J カタストル(レベル5、闇属性機械族、攻撃力2200守備力1200)』が降臨し、闇のフィールが強くなった。カイトとのデュエルで見た、あの見知らぬモンスター、見たこともない召喚法にゼアル達は唖然とする。
「この召喚法はいったい何なんだ? なんでレベルが違うのにモンスターが!」
「闇雲にモンスターを俺ルールで特殊召喚した訳じゃねぇ、俺はルールを守って楽しくデュエルしてるぜ。これはな、お前ら千年アイテムの保持者が殺した彼女が俺に遺してくれた、チューナーモンスターとそれ以外のモンスターのレベルを“足して”、新たなモンスターを呼び出す絆の召喚法『シンクロ召喚』さ」
「『シンクロ召喚』!?」
初めて聞く召喚方法にゼアル達は瞠目する。あのアストラルですら知らない秘術の召喚方法であった。
「待ってくれ! 皇の鍵は千年アイテムじゃ―‐」
「問答無用! 御託は聞き飽きたぜ! 復讐の刻(とき)は満ちた! 『A.O.J カタストル』、『No.17 リバイス・ドラゴン』に攻撃だ!」
ゼアルの反論を薙ぎ倒し、闇凌牙が攻撃宣言を行う。だが、如何に不可思議な方法で召喚されたとはいえ、『A.O.J カタストル』の攻撃力は2200、攻撃力3000の『No.17 リバイス・ドラゴン』には適わない。
「自爆特効する気か!」
「反射ダメージでも受けちゃいなさいよ……って、カイト?」
先の読めない攻撃にゼアルと小鳥が声を上げる。四ターン目に入ってから黙(だんま)り状態のカイトを小鳥が見やると、蒼白を通り越して、顔は真っ白になっていた。
「遊馬、戦闘を回避しろっ!」
「えっ!」
カイトが有りっ丈の声量で叫ぶが、何の意味もなかった。
「この瞬間、『A.O.J カタストル』の効果発動! このカードが闇属性以外のフィールド上に表側表示で存在するモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する!」
「なんだって!」
あまりにもとんでもない効果にゼアルの声が甲高いものになる。
「消えろ、忌々しきドラゴンめ! “カラミティ・エンド”!」
『A.O.J カタストル』から光線が放たれ、『No.17 リバイス・ドラゴン』は呆気なく雲散してしまった。
ゼアルのフィールドは空になってしまったのだ。
「ナンバーズはナンバーズでしか破壊できない。だが、それは戦闘による攻撃力の前にだけだ。効果破壊には通用しない」
一気に形勢逆転となった。有利になった闇凌牙がケヒヒと夢遊病者のように笑う。
それと引き換え、ライフの変動はなかったが、フィールドが空になり、手札が一枚きりのゼアルはよろめきそうになる。しかし、次のターンが来て、シャイニング・ドローをすれば勝てるはずなのだ。
「俺はカードを一枚伏せてターンエンド……する前に」
揺らごうとする精神を落ち着かせるゼアルに、闇凌牙はブッ飛んだことを言い出した。
「ジャンジャジャ~ン! みんなお待ちかねの、シャーク先輩による『A.O.J カタストル』の倒し方講座の始まり始まり~」
なんと、ゼアルを追い込んだモンスターの倒し方を説明し始めたのだ。永い間、深海の牢獄のような千年レンズ内に閉じ込められ、精神崩壊(マインドクラッシュ)を起こしたとはいえ、ここまでおかしくなってしまうものだろうか。混乱するゼアル達を前に、人差し指を立てて闇凌牙は丁重に説明していく。
「その一! 攻撃力2200以上の闇属性のモンスターでバトルすること! 一番手っ取り早い方法だが、お前が召喚できて、強(つえ)ぇ闇属性のモンスターといえば、『No.53 偽骸神 Heart-eartH』と『No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon』になるが、『No.53 偽骸神 Heart-eartH』はレベル5×三体のモンスターが必要だから、低レベルモンスター中心のお前のデッキじゃあ、まず無理だな。『No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon』は『No.53 偽骸神 Heart-eartH』が破壊されなきゃ出てこれねぇ。つまり、この方法は出来ませ~ん!」
くるりと回って、指を二本立てて闇凌牙は続けた。
「その二! 魔法・罠カードで破壊すること! 『A.O.J カタストル』は破壊耐性がないからな。攻撃力の低いモンスターを破壊する『地割れ』、防御力の高いモンスターを破壊する『地砕き』の魔法カードをされちゃあ、ア、お終(しめ)ぇよ。しかぁし! 遊馬のデッキはモンスターを破壊を防ぐ代わりに半分ダメージを受ける『ハーフ・アン・ブレイク』に代表されるように、モンスターを守るものばかりで破壊系は持っていないので、これも出来ませ~ん。あ、次で最終だからな」
今度は指を三本立てて、闇凌牙が次の説明に入る。希望の光そのものであるゼアルの顔が段々と青ざめていく。不可能を連呼されたからではない。今始めて戦う相手から自身のデッキ内容が筒抜けの事実に対してだった。
「その三! モンスター効果で破壊すること! 『No.61 ヴォルカザウルス』の相手モンスターを破壊して、その攻撃力分ダメージを与える効果“マグマックス”をされたら、一発アウトよ。だがしかし、だがしかし! その一で説明した通り、レベル5×二体を揃えるのはお前のデッキじゃあ難しいだろうし、レベル変更出来る『ガガガマジシャン』は墓地だし、『死者蘇生』も使用済み。ターンを掛けて、素直にアドバンス召喚なんてしていたら、都度都度『A.O.J カタストル』に効果破壊されちまうから無駄無駄無駄。つ・ま・り、これも出来ませ~ん。し・か・も、お前の手札は今一枚ぽっきり! これで次のターン、 その時のタッグデュエルでお前が使用した、エクシーズモンスターが二体以上いるときに発動、デッキからカードを二枚ドローする魔法カード『エクシーズ・ギフト』なんていう死に札なんて引いたら目も当てられねぇぜ。あらら~、これじゃあお前が勝つ算段が無いじゃねぇか。ご愁傷様だな、遊馬」
ケヒケヒと愉快に笑う闇凌牙が悪魔に見える。ライフは互いに3000以上なのに、ゼアルはデスパレート(絶望の崖っぷち)に立たされたかのような気に陥った。闇凌牙がすらすらと列挙した『No.53 偽骸神 Heart-eartH』『No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon』『ハーフ・アン・ブレイク』『No.61 ヴォルカザウルス』『エクシーズ・ギフト』、どれも彼には一切見せたことのないカードだ。
「なんで“千年レンズ”が俺のデッキ内容を知っているんだ!」
「何者かが俺達の情報をリークしたとしか考えられん」
「リーク! そんなのいったい誰が!」
ゼアルの絶叫に、カイトが沈痛な面立ちで答える。そこに小鳥の叫びも合わさり、絶望の闇のフィールが更に濃くなっていく。
「ンなもの、消去法でいけば良いじゃねぇか。神代凌牙との初デュエルで使用した『No.39 希望皇ホープ』と『ダブル・アップ・チャンス』のコンボを、神代凌牙とのタッグデュエルで陸王が使用した『No.61 ヴォルカザウルス』の効果を、お前とカイトと神代凌牙で協力して倒した『No.53 偽骸神 Heart-eartH』と『No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon』を知っているうえに、デュエルに精通している人物なんて一人しかいないでしょうが」
にっこりと笑う闇凌牙に、ゼアルは怖気(おぞけ)が走った。喉がカラカラになり、心臓がバクバクと鳴り、カードを持つ手がブルブルと震える。
「う、嘘だ」
否定してほしくて、ゼアルは小鳥とカイトを見た。小鳥は口元を抑え、カイトは膝をつきながら答えた。
「“千年レンズ”は俺のデッキを知り尽くしていた。『銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトンドラゴン)』の除外効果を知っているからこそ除外を封じる『王宮の鉄壁』を使い、光属性デッキと分かっていたからこそ光属性のモンスター効果を封じる『閃光を吸い込むマジックミラー』を己のデッキに投入していた。弱点も急所も掴んでいたのだ。俺のデュエルを見ていなければ、カードに精通していなければ、こんなことは出来ない。加えて、俺が凌牙から魂を奪ったことへの憎悪をぶつけてきた。当て嵌まる人物は一人しかいない」
「アストラル!」
カイトの結論に我慢出来なくて、遊馬は相棒を呼んだ。アストラルは顔を伏せながら告げた。
「遊馬、デッキ狩りを思い出せ。ⅢとⅣだけが他の者と比べて異様にダメージを受けていた。まるで彼等にだけ明確な恨みがあるかのように。もう一つはカウンター罠『深海の牢獄』を起こすタイミングだ。何故、彼は『No.17 リバイス・ドラゴン』には発動しなかったのだろうか。『No.17 リバイス・ドラゴン』も自身の効果と『ウォーターワールド』により攻撃力が上がっていたというのに。あの後、我々が『ダブル・アップ・チャンス』で攻撃力を高めるなんて知らなければ、あそこで彼は使っていたはずだ。なのに使わなかった。彼は知って待っていたのだ、『No.39 希望皇ホープ』と『ダブル・アップ・チャンス』のコンボを、我々のエースモンスターを除外できる好機を」
「そんな……だって、俺が此処まで来たのは……」
導き出される答えに、遊馬は目の前が真っ白になりそうになる。
「今明かされる衝撃の真実、ってヤツだな」
先程までのハイテンションが別人のように落ち着き払った声が、現実逃避しかけるゼアルの頬をぴしゃりと叩く。闇凌牙が千年レンズに包帯を巻いた左手を掛け、ゆるりと外す。ギラギラと今尚輝く千年レンズを外した闇凌牙――悪霊から解放された凌牙がふうと息を吐いた。
「シャーク」
「遊馬」
呆然とするゼアルの呼び掛けに凌牙が対応する。ゼアルの見開かれた瞳とは対称的に、凌牙はウォーターワールドのように穏やかな瞳をしていた。
「凌牙、貴様が“千年レンズ”にリークしたのか?」
「リークしたんじゃねぇよ。共同戦線を張ったまでだ」
「共同戦線?」
静かに怒りを向けるカイトに凌牙があっさり答える。疑問符を浮かべる小鳥に「そうだ」と凌牙は言った。
「俺は『絶対的な暴力』が欲しかった。トロン一家に俺ら兄妹が危害を加えられたのも、ナンバーズハンターに魂を奪われたのも、全て俺が弱かったからだ。俺が弱くなければ、妹も自己も守れたはずだ」
輝きを失わない千年レンズを握り締め、凌牙は話し続けた。
「WDCが終わり、復讐は終わったことになった。だが、俺の内にある憎悪の炎は決して消えたりはしなかった。むしろ、周りが終わったことにすればするほど、俺の怒りは増した。絶ゆることのない憎悪に俺が身をかきむしっている間、俺を苦しめてた連中が仲良く笑っているかと思うと殺意すら沸いた。その時だ、千年レンズに出逢ったのは」
凌牙が“憎悪”“怒り”“殺意”のワードを口にする度(たび)に暗闇が深みを増していく。
「千年レンズの力を完全に解放すれば、俺は“絶対的な暴力”を手に入れることが出来る。これさえあれば、もう何もいらない。虐げられるだけの弱者なんてうんざりだ。もう誰も俺らを傷付けないよう、全てを“絶対的な暴力”でねじ伏せる強者になる」
「だから、君は“千年レンズ”に協力したのか? デュエリストとしての沽券を捨て去ってでも」
「もう傷付かないため、失わないため、守るためなら、俺はなんだってするさ」
アストラルの震える声での問い掛けに、凌牙ははっきりと頷いた。
「つまり、貴様は“絶対的な暴力”を得るために望んで俺達を裏切り、進んで俺達の情報をリークし、操られたのではなく自(みずか)ら“千年レンズ”に協力し、デッキを奪う非道に荷担したのか!?」
「弟を助けるという名目でナンバーズハンターとして悪事に手を染めたお前なら理解してくれると思ったんだけどな」
段々と声が大きくなり、最終的に怒鳴るようなカイトの詰問に、凌牙は肩をすくめながら回答する。
「嘘だ! シャーク、お前はそんな奴じゃねぇっ! お前、デュエルと真っ直ぐ向き合うって言ったじゃねぇか! 真剣に俺達と協力してデュエルしたじゃねぇか! 俺は信じねぇっ!」
遊馬が涙を零して反論する。ゼアルを包み込む光がまるで蝋燭の明かりのようにか細くなる。
「今まで俺に言ってきた言葉は嘘だったのかよ!」
「嘘じゃない。全て本気(マジ)だったさ」
凌牙から迷うことなく返された台詞に遊馬の眼が縋るように輝く。しかし、凌牙は続けてこう言ったのだ。
「だが、たった今、嘘になった」
ゼアルが蹈鞴(たたら)を踏むように揺らいだ。二、三歩後退り、それでも凌牙を見る。凌牙は遊馬に灼熱の太陽すら瞬間凍結しそうな冷たい視線を向けていた。味方に送るものではない。敵に向けるものだった。
視界がグルグル回り、呼吸速度を見失う。闇の冷たさが心臓に寄り添っていく。立ち方すら分からなくなってしまった。
「遊馬! 精神を強く持て! でなければ、ゼアルが―‐」
アストラルが叫んだ途端、ゼアル化が解除されてしまった。二人に分裂すると否や、待っていたと言わんばかりに、増しに増した闇のフィールが普通の人間である遊馬に襲い掛かる。むしゃぶり尽くす勢いの闇のフィールによって、苦痛の叫び声を上げる遊馬の姿は見えなくなってしまった。
「遊馬!」
アストラルが、小鳥が、カイトがその名を呼ぶが、絶望の闇に捕らわれた遊馬はただただ叫ぶばかりだ。そんな遊馬の姿を見つつ、暁色の焔を零す千年レンズを握り締めたままの凌牙は「勝った!」と確信の笑みを浮かべたのだった。
つづく
※AOJ……アーリー・オブ・ジャスティスのこと。
カタストル以外にもシリーズがいるが、全て光属性メタ効果を持つ。
※カウンター罠『深海の牢獄』
オリジナルカード(オリカ)
このカードは相手モンスターの攻撃力が変動したときに発動できる。
手札一枚捨てて、変動した数値を百で割ったターン数、相手モンスターを除外する。