Fate/Table Talk 偽史夢幻奇島ニライカナイ ~虚光のタウミエル~   作:珈琲菓子

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物語のプロローグ

オリキャラとSCP要素を申し訳程度に含む
肝心のセッションはまだ始まらない

プロローグだからね、しょうがないね


01 ゆりかごの終わり

「♪~」

 

薄暗い部屋の中、奇妙な音程で響く鼻歌

天窓から差す月の光が、その発生源を照らしていた

 

「♪~」

 

まだ年端もいかない様な子供が一人、床に這いつくばって手を動かし続けている

 

その小さな手に握られているのは”オイルパステル”

精製された塩を聖油で練り上げた特殊なチョークだ

キラキラと輝く白い軌跡は、床に複雑な紋様を作りだす

 

大小の円と多角形を組み合わせ、その周囲にいくつもの文字を書き連ねる

かなり複雑な造り、大掛かりな術式である事は間違いない

 

「―――うっし、完ッ成!」

 

陣を書き上げ、服に着いた汚れを掃いながら、”その少女”は立ち上がる

丁度パステルを使いきったのか、その掌には何も無かった

掃われた塩の粒は、微かな光を受けて銀色に煌めきながら床に散らばってゆく

 

「あー腰、痛ってぇ…」

 

長時間の作業と姿勢が堪えたのか、疲労の表情を浮かべている

腰と首をゴキゴキ鳴らし、伸びと深呼吸をした後、突然真顔になる

 

「特定の地域の英霊が召喚不能…、エクストラクラス、抑止力、根源…」

そこで一旦言葉を区切り、肩を竦め、馬鹿にするように嗤う

 

「Blödsinn!!!」

 

溜めていた物を全て吐き出すが如く、叫んだ

 

「下らないし、つまんない…古い、要するに旧いんだ…」

 

誰ともなくブツブツと呟く

傍から見れば完全に危ない人物だが、その少女はどこまでも本気だった

 

「だからこそ、我々が変えていかなければならない…ッ!!」

 

何処かの館の、広い一室の中

彼女は、暗闇に向かって宣言する

月光のスポットライトも相まって、何かの舞台を演じている風にも見える

 

「―――諸君、知っているか? 我々一族の名は、この国の言葉に変換すると”革新”を意味するとッ!!」

 

暗闇に向かって問いかける

一人しか居ない部屋の中、―――否、何かが居た

 

月光の当たらない、完全に影となっている場所

壁にもたれかかって何者かが、眼を閉じて静かに立っている

 

背の高い男だ

暗闇とは対照的な白衣を纏い、お世辞にも似合うとは言えない、首に下げた真紅の宝石の首飾りをぶら下げている

気配どころか存在感が全くなかった

 

そして、男の足元に並ぶ、無数の影

 

果たしてソレ等は、人間では無い

鼠、蝙蝠、鴉といった小動物達が、少女の演説に耳を傾けていた

 

その場で身動き一つ立てず静かにしている様子は微塵も生物らしさを感じさせない

それもその筈、男の足元に居るのは皆、屍

動物の死骸を利用して作られた、操り人形に過ぎない

 

特に珍しくも無い使い魔

そして、眼を閉じて静かに立つ、白衣の男

一人舞台の観客として、+離れた場所から少女の言葉を聞いているのだろう

 

「永い時を経て、ようやく準備は整った! 色々苦労してきたが、今こそ長年の成果を出す時だ!!」

 

大きく手を広げ、背後にある書き上げたばかりの召喚陣を示す

 

「―――聖杯戦争… 我々が造り上げた、我々だけの、…な」

 

”聖杯戦争”

根源を求め集う魔術師、至上の使い魔となる英霊

あらゆる願いを叶える万能の願望器・聖杯を求めて行われる、7人7騎の大規模戦争

 

血の河の流れる先は、破滅と栄光

敗者には無惨な死を、勝者には輝ける未来を齎す、ハイリスク・ハイリターンのギャンブル

 

規模を問わず、幾度となく世界各地でその戦争は執り行われてきた

しかし、参加者の全滅、聖杯が顕現しない事態が発生するなど、いずれも芳しくない成果に終わるモノばかりであった

 

「勿論、”財団”にも感謝しているよ? アンタ達の協力が無ければ、各所に気取られていただろうし」

 

壁際の男に向かって話しかける

”財団”というのは、白衣の男に関わる事だろうか

 

「―――…当初の予定通り、完成したオブジェクトは我々で回収させてもらう…その事を忘れるなよ?、アーデルハイト…」

 

死んだように静寂を貫いていた白衣の男が口を開く

”アーデルハイト”と呼ばれた少女と、財団の男は協力関係にあるようだ

 

「うん、このアーデルハイト・フォン・フラウアルペン・フリューゲリンクの名に懸けて誓おう

 成果はアンタ等に渡す、必だ」

「…ならば良い」

「こっちとしてはこの”病気”を何とか出来れば良いだけだし、後は世界を救うなり何なり、好きににしていいよ」

「だろうな…貴様等の役割はあくまで”観る”だけ…現状は、極めて分不相応と言わざるを得ない」

「良くも悪くも、”起源”だね 役目以外に手を出した私は、差し詰め一族の突然変異種って所か」

「難儀な一族だ…」

 

その一族は、とある”起源”の虜囚だった

 

存在の原点となる事柄、”起源”

全てにおいての法則性、指向性を齎す、混沌衝動

 

その少女の、アーデルハイトの衝動は、”傍観”

新たな子の誕生と共に、必ず”見る”事に感する起源が発現する

代々当主が受け継ぐ、祝福にして呪い

 

ありとあらゆる物を見た

繰り返される争いを観た

人間の抱える悪性を看た

 

その目的は一切不明

或いは何も無かったのかもしれない

 

聖杯戦争

万能の願望器を巡る争いの中にあっても、その本質は変わることは無かった

参加することなく、ただただ”見”に徹するだけの存在だった

 

幾たびの戦いを見た

 

システムを生み出した一族達が争い合い、失敗した時も、

その失敗から教訓を得、明確なルールが適用された時も、

”器”が破壊され、勝者が存在しない結末となった時も、

大きな爪跡を残す大災害が引き起こされてしまった時も、

 

一部始終を、全て見て、観て、看た

 

造りを知り、欠点を知り、その改良の方法まで、全てをその一族は知ることが出来た

 

「でも、その難儀な一族のおかげで良い思い出来るんだし、いいじゃない」

 

明確な目的など無かった

初代から脈々と受け継がれてきた家系

 

本家から分家に渡り、子々孫々へ与えられた役割は、ただ”観る”こと

決して手を出さず、主観的な客観視

ずっとそうしてきた

 

―――少なくとも、当代に至るまでは

 

「英霊の召喚から、顕現する聖杯に至るまで、その全てを一から組み上げ、その全てに手を加え尽くした最高のパチモンのおかげで、ね」

 

手を加えた、と言う

再現のみならず、一から造り上げた、と言う

 

傍観者から当事者へ

読者から作者へ

客席から舞台へと、遂に足を踏み入れんとしている

 

「真贋などこの際気にしていられん…、”終焉”に対抗しうるオブジェクトであれば問題ない」

「大丈夫、安心していいよ 後は、時が満ちるのを待つのみだ…」

 

大掛かりな術式は、基本的に土地の魔力を利用して行われる

使用者の魔力だけでなど、到底不可能だからだ

 

「月と土地の親和性、最も夜の深くなる時間…この国では”ウシミツドキ”っていったっけ」

 

現在時刻は午前2時に差し掛かる

あと10分もしない内に条件は満たされる

土地に魔力が満ちる瞬間、同時に詠唱と追加の式を記入すればいい

 

たったそれだけ

詠唱は少し長めだが、追加の式は簡単な物だ

失敗など、有り得ない

 

「では…、そろそろ儀式を次の段階へ進める! 各自、準備はいいか?」

 

ここまで来たらほぼ勝ったも同然

湧き上がる達成感と、この計画が齎すであろう成果に胸を躍らせ、足元に広がる巨大な陣へ目を落とす

 

”傍観者”が、舞台の上で何かを成し遂げた、たったそれだけで起源の法則は討ち破られる

事が成就した暁には、完成した聖杯で起源を取っ払ってしまっても良いだろう

 

今宵、歴史は大きく動く

 

後は詠唱と、式を追加するだけ

式を―――

 

「ん?」

 

アーデルハイトはキョロキョロと辺りを見渡す

探し物でもするように

 

「…あ、れ?」

「…どうした?」

 

パステルが無い

それもその筈、先程の準備段階で残り全てを使いきってしまったのだから

 

「………………」

「…おい」

 

思考と行動が停止した

数秒前まで余裕に満ち溢れていた顔は、瞬く間に焦燥の色を濃くしてゆく

 

「ぱ、パステル、いやチョーク持って来て、チョーク!! 誰か!! 早く!!」

 

焦りに焦って周囲に指示を出す

使い魔である小動物達は蜘蛛の子を散らすように動き出した

 

この日のために準備をした

教会や協会に悟られないよう、儀式の材料は秘密裏に収集した

真偽を使い分けながら、時間をかけて入念に準備した

 

この国の財団支部と協力し、此処に至る全ての要素を、丹念に、ゆっくりと揃えた

危ない橋なんて幾つも幾つも渡った

そもそも行動を直接起こすなど、遺伝子レベルで専門外だったというのに…

 

「(今更こんな所で躓いていられるか…!)」

 

しかもこの陣は”今日”、”この日”のために用意した物

土地から魔力を得やすいよう、時間と場所を調整しながら造り上げたのだ

再び書き上げるとなると、材料集めから全てやり直しだ

 

「(それに、一からまたやるなんてクソ面倒だ…!)」

 

本音を滲ませながら館の中を移動する

アーデルハイトがチョークの代わりになる物を探していると、使い魔の内の1匹が歩み寄ってくる

 

鼠が喋る

『報告します! こんな時間に商店が開いている訳がありませんでした!!』

「うるせー!! 知ってるわボケェ!!」

 

やってきた蝙蝠が喋る

『報告します! キッチンの棚に埃塗れの袋が有りました! 多分塩です!!』

「あーこの際もうソレでいい! 持って来い直ぐに!!!」

 

そして鴉が喋る

『報告します! ついでに見つけたオリーブオイルもセットで付けます!』

「聖油も無いのか!? つーかお中元かよ!! まぁそれでも良いや、持って来い!!!」

 

数分前までの静寂は何処へやら

屍の人形達は慌ただしく走り回る

 

「…おい、大丈夫なのか?…」

白衣の男も異常事態に動揺しているようで、首飾りを揺らしながら少女に問いかける

対し、アーデルハイトは

 

「………」

微妙な笑顔で無言を貫いている

冷や汗ダラダラに、この上なく引き攣った笑顔だったが

 

約1分後、使い魔の動物達がドタバタと、魔法陣の部屋に入ってくる

 

赤と青の文字が特徴的な、塩の入った埃塗れの袋

エキストラバージンと銘打たれたオリーブオイル

そして、小鉢や擂粉木などの道具を運んできた

 

パスソルトの材料として、本質的には間違ってはいない

間違ってはいない、…のだが、何もかも間違いである

 

「―――あ、これ最初にオリーブで陣書いて、上から塩かけた方が早くね?」

少女が突然の思い付きを言葉にする

 

『時間も無いですし、ソレで行きましょう!』と、鼠

『原材料は大体同じですから、イケますよ、コレ』と、蝙蝠

『各員はもう配置につけ、もうすぐ来るぞ!』と、鴉

「ソレで良いのか、貴様等…」と、白衣の男

 

アーデルハイトは使い魔から塩の袋とオリーブオイルの瓶を受け取り、急いで陣の前に移動する

「(時間は…かなりキツイな…だがホンの一節程度、詠唱も、…まぁ間に合う…かな)」

 

頭の中でシュミレートを済ませる

イレギュラーは重なったが、十分修正可能なレベルだ

 

「…一応、もう一度聞くが、大丈夫なのか…?」

「…もう一度言うよ?、Dr.ブライト、―――大丈夫、安心していいよ…」

 

笑みどころか、感情を窺わせない顔に変わる

冷や汗ダラダラの焦りまくりだった先程とは、まるで別人の表情だ

 

その様子に少しだけ面食らったが、

「…ならば、その名を示してみろ」

言葉を信じ、任せることにした

 

深く一回だけ深呼吸を行った後、傍らの瓶に手を伸ばす

蓋を開け、豪快に小鉢にオリーブオイルをぶちまける

半透明の薄黄色の液体を手で掬い、勢いのまま陣に手を伸ばす

 

「―――――――――」

詠唱と式の追加を同時併走で進める

歌うように、踊るように、儀式は完成に近づいていく

 

問題無く追加式の記述を終え、問題の塩袋を手繰り寄せる

「―――――――――」

表面の埃を掃い落とし、袋を開ける

 

「―――、―――、―――」

袋を開ける

いや、開けようとする

 

「―――ッ、―――ッ!、―――ッッ!!」

しかし、開かない

少女が一生懸命力を込めているが、ビニールが歪むだけで中身が外気に触れることは無い

顔を真っ赤にさせて力みながらも、詠唱を止めないあたりは流石と言える

 

「…」

その姿を、白衣の男が疑念だらけの無言で見つめる

取り戻しかけていた信用が、早くも崩れ始めているのだろう

 

そして、

「―――――――――ッ!!」

 

ぱんっ!、

と音がして盛大に塩がぶちまけられた

限界を超えた負荷に、袋が弾けたのだ

更に、

 

「ぶえっくしょぃ!!」

追撃として放たれたくしゃみが、僅かに残った塩を陣の至る所に拡散させた

手元には空の破れた袋、付着していた埃と、ハウスダストのみ

 

「「「「「…………」」」」」

 

少女、男、鼠、蝙蝠、鴉、

皆一様に口を閉ざし、互いに目を合わせることは無い

 

詠唱は完全に途切れ、陣は無残な姿になっていた

この場に居る者、居ない者、誰もが思った

 

―――”あ、終わった”、と

 

土地に魔力が満ちる時間は過ぎた

加えて、儀式はこの有様

 

100人中100人が失敗と答えるような惨状

実際完膚なきまでにこの儀式は失敗に終わった

 

あくまで”この”儀式においては、の話だが

 

『―――報告します!、各地で魔力反応増大!!』

「…え?」

 

静寂を討ち破り、切羽詰まった声が使い魔の1匹から発せられる

予想外の事態

ソレは連鎖して取り返しのつかないレベルになる

 

『英霊召喚予定地Aに――――ッ?!』

『同じくB地点!、何、コレはッ!?―――』

『C地点、触媒が、ッ―――』

『体が―――助け―――』

『あ、あ、うあ、あ、ああ、あぁァぁ―――』

 

一斉に使い魔達が喚きだし、英霊召喚を予定していた、各地での異常を伝える

しかし、報告の途中で皆、黙り込む

 

「おい、何が…、一体何が起こっている?!」

 

使い魔に疑問をぶつけるも、問いに答える者は居ない

既に命の無い使い魔は、本物の死体のように倒れ伏し、動かない

 

「おい、何がどうなっている…儀式は失敗ではないのか…?」

「分からない…不本意の極みだが、確かに、…アレで、失敗した、筈…」

 

分からない

何が起きているのかが理解できないのは事実だ

 

目に映るのは塩塗れの召喚陣

陣、詠唱、各地に配置した式

一角でも崩れれば失敗だというのに、2/3を台無しにしたのだから、寧ろ失敗でないのがおかしい

 

「兎に角、島の状況確認を―――」

 

使い魔達が沈黙している以上、自分の眼で確認するしかない

外へ出ようと出口へ体を向けた、その瞬間

 

ドサッ

と、鈍い音がした

 

視界の端で倒れている男

先程まで会話していた、言葉を発していた男だ

 

「…Dr.…?

 何、…してんの? 寝てる場合じゃないよ…?」

 

白衣の男はうつ伏せに倒れたまま、動かない

呼吸もしていないのか、微動だにすらしない

 

どういう事だ

理解が追いつかない

何が一体どうなっている

 

Dr.ブライトも同じだったのか、そんな表情で固まっていた

脈拍無し、心臓不動、完全に生命活動を停止している

ただ胸の首飾りだけが紅く輝いていた

 

「…死んで、…殺された…? いや、でも”本体”は無事か…」

 

博士の死体から手を放す

既に焦燥は冷めていた

自らの起源が全てを把握しようと働く

 

停止した使い魔を見る、死亡した博士を看る

そして、辺りを観る

 

「陣が、…胎動している…?」

 

塩塗れの召喚陣が、薄く輝き始めている

ホンの数分前まで期待していた光景だが、ここに至っては何が起こるか分からない

 

少女には知り得ない事であったが、彼女の部下が配置された各所では、

既に同じ現象が起こっていた

 

少女の居る、陣の中心を除き、

輪の外に居た、儀式に関わる人間は全て生命を終えている

 

例外なく陣に魂を奪われ、肉体も徐々に分解され、儀式の供物と化していた

式の反応はゆっくりと、中心に向かって起動し始めていた

 

1つの島を利用した大規模な降霊術

失敗したように見えた儀式は、似て非なる術式へと変質した

 

正規の大聖杯を元に作られた、紛い物

とある一族が手を加え尽くし、原型を見事に粉砕した最高の粗悪品

 

精密機械を模した、手作りの精密機械(塩塗れ)

そのまま再現するだけの知識を持ちながら、敢えて道を外して別物として制作した

我流での制作に加え、独自の改造を施してあるが故に、本来の用途以外では何が起こるかは分からない

 

何が起ころうとも、不思議ではない

 

「―――ぁ、私も、ヤバい…パターン、か コレ、は…」

 

いきなりグラっときた

極限まで疲れた時、脳が休息を得ようと意識をシャットダウンする、アレに似ている

 

「意識が…駄目、だ…眠みがヤバ…」

 

自分も、部下やブライト博士のように魂を儀式に持って行かれるのか、と何処か他人事のように思う

気が付けば目の前に地面が現れていた

倒れた、と理解したが、不思議と痛みは無かった

 

「…」

 

色々思う所はあったが、直ぐに消えた

失敗も、後悔も、ソレに伴う感情も、全て俯瞰した

 

観るだけで何もしないのが”傍観”、そして一族を蝕んできた呪いだからだ

自分の事も他人のように見る事ができる

視点を平等に、あらゆる要素を様々な側面から把握できる

だから儀式を組み立てることが出来たし、だから失敗した

 

所詮、この程度 

 

”コレ、こうした方がいいんじゃね?”と抱いた感想に対し、”じゃあやってやるか”、と挑戦した結果だ

 

Dr.ブライトも言っていたが、要するに分不相応

専門外の事になど、手を出すべきではなかったのだ

 

「……」

 

分かりきった自己分析

傍観に諦観を織り交ぜ、眼を閉じる

 

「………」

 

途切れ途切れになる意識の中、静寂を破る、静かな声

 

 

 

―――…問いに答えてもらおう

 

 

 

「…な、に…?」

 

―――君が、私を呼び出した者か?

 

「…誰…?」

霞む目を開いても、誰も居ない

声は、何処から…響いている…?

 

―――…君が私を呼び出したのだと思ったが、違ったか?…

    

「…呼び、出した…だと…?」

 

―――そうだな…サーヴァント、…”セイヴァー”とでも……最も、自称でしかないが…   

 

「…自、…称…?」

 

―――…そして、次は君が私の問いに答える番だ…

   

聞き捨てならない答えを、応えなければならない問いを、

耳にしたような気がしたが、意識は闇の中に落ちた

 

 

 

 

 

アーデルハイトは勘違いをしていた

 

儀式は完全に失敗した訳では無い

結果から言えば、聖杯戦争は”それなりに”形にはなっていた

 

予算不足により、適当に集められた触媒によって英霊は召喚された

同時では無く、それぞれ少し時間をおいて各地に召喚された

しかし、実際召喚されたのは、合計8騎

 

この時点で聖杯戦争としての前提は狂っていたが、実際何もかもが狂いまくっていた

 

最初に召喚されたのが、通常の7騎のどれにも当てはまらない”エクストラクラス”だったこと

本来の聖杯戦争にて英霊を従えるべきマスターが不在である事

この二つが大きいだろう

 

マスターが居ない、という事はサーヴァントへの魔力供給、及び令呪によるバックアップが不可能である事を意味している

 

ソレだけならば大事になどならない

魔力切れした者から退場してゆくだけで、戦争にまで発展することは無い

 

だが結果として、その聖杯戦争もどきはつまらない幕引きで終わる事は無かった

 

何の奇跡か、召喚された彼らは自然消滅することなく、現世に留まり続けた

ハッキリとしたサーヴァントの反応がある以上、受肉した訳でも無く

彼らは其処にそう在り続けている

 

何らかの方法で魔力のバックアップがパスされているのか、或いは他の要因があるのか

訳も分からず召喚された彼らには、まだ知る由も無い

 

そして、令呪

マスターがサーヴァントに対して用いる、3回しか使えない拘束具にして武器

 

本来宿るべきマスターが存在しない今回の聖杯戦争に限っては、何故かサーヴァントに宿っていた

 

願望器とするには、不安要素が大きすぎる不完全な聖杯

亜種と呼ぶには烏滸がましく、偽りと呼ぶのも憚られる、出来損ないの聖杯戦争

 

争いの果てに何が待ち受けているのか

願いが叶うかさえも不確定な、博打にもならない大博打

 

集う数々の英雄たち

己が賽を振るは何のためか

 

くしゃみ一つで世界を揺るがした一族

塩塗れの聖杯によって呼び出された英霊達

予想もしない事実に、ただ踊らされる人理機関

 

あらゆる思いが交錯する中、

今ここに不毛極まりない戦いが幕を開ける

 




根っからの事務系が、いきなり現場に立ってもそりゃあ上手くはいかないさ
傍観者はどこまでいっても傍観者

仮称セイヴァーとアーデルハイトは物語の本筋には最後まで絡まないよ
そういうキャラ付けだからね

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