Fate/Table Talk 偽史夢幻奇島ニライカナイ ~虚光のタウミエル~   作:珈琲菓子

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以外と早く堕ちたな~(5巡)
実は片方潰せば戦闘終了という仕掛けだったのだが、あさしん殿が集中砲火を受けてしまってな…

生き残った方は味方になってくれるよ、その内
死んでしまった彼の事は残念だったよ
スパイ設定はこの作品じゃ使いにくいからね、しょうがないね

ジョーカー・ゲームもプリンセス・プリンシパルもすこすこなんだよ


08 童遊 Lies in Reality 後

【槍】

攻撃対象:殺

スキル使用:『ルーン魔術』…自身に必中状態付与+攻撃↑2d6(1T)

ダメージ:13

 

 

「(中途半端に追い詰めちゃあ危険だ、コイツで一気に決めてやる…!」

心中呟きながら、大遠投の姿勢をとる

目線はアサシンに合わせながら、ずっと遠くにでも投げるような恰好だった

 

「(何を狙っている…?)」

「イくぜェ!!」

アサシンに思考する時間を与えない

腕を振りかぶり、全身の関節を一気にフル稼働

 

足首から膝、膝から腰、腰から肩へ、下半身の先から上半身の先へ”渡す”

発生した加速エネルギーを終点である右手に伝え、そこで思いっ切り振り抜く

 

「―――イヴァルッ‼」

槍投げ 中距離間遠投

槍が弾道ミサイルの如く発射される

 

遥か遠方へと飛ばすための投法であり、比較的近距離にいるアサシンには不向きだ

いずれは重力に敗北し、遠い地面に突き刺さる軌道に終わる

 

 

 

筈だった

 

「!?」

 

途中まで描かれていた緩い放物曲線が、空中で突然”折れた”

ほぼ直角に等しい角度で急降下する槍が、アサシンの元へ猛然と迫る

 

「(私の位置を、正確に…!? ”探査”?、”追尾”?、…いや、コレはッ―――)」

 

『闇の侵略者』による認識阻害をモノともせず、その槍はまるで見えているかのようにアサシンへと迫りそして…

 

ルーンによる必中の楔

呪炎の槍は、容赦なくアサシンを突き抜けた

 

「ガ、あッ…!?」

 

激痛

火傷、毒、槍傷が全て一度に牙を剥く

膝に入れていたチカラが勝手に抜け、血だまりに倒れ伏すアサシン

 

「あさしん殿ッ!!」

「…ッ!!!」

駆け寄ろうとするキャスターを手で制する

 

 

【殺】

令呪使用:回復×2(HP+14)

 

 

「―――令、呪を…以て、…我が肉体に、命ずる…」

正に死力を振り絞る声

残った令呪を全てつぎ込む、最期の意地

「ッ!、アスィヴァル‼」

アサシンの様子に気づき、咄嗟に槍を手元に戻す

仕留め損なった上に、切り札の使用まで許してしまった

警戒心は最高まで高まる

 

 

「―――最、期まで…己が責務を…全うしろ…!」

2画の令呪が消費される

余剰魔力が渦巻く

 

具体性を欠いた命令は、アサシンの意志によってその強度を補助される

流れ出る血液は一時的に止まり、令呪の魔力が代わりの燃料となる

 

「…無茶を…するでない…」

「…これが合理、…最適解です…ここで張らなければ、…何も成せない…」

 

折れていた膝に力を込め、立ち上がらせる

瀕死の体で尚も戦う姿は、数刻前に刃を交えた相手を彷彿させる

目の前のそこには獣のような荒々しさは無く、ただ、人間としての強靱な覚悟が有った

 

「…さぁ、前を、…向いて下さい…未だ…やるべき事は、終わっていないでしょう…」

「……………あぁ、…分かった…」

 

いずれ消えゆく命の燈火

そのヒカリが絶えるとしても、彼は自らのルールに従い、足掻き続けるのだろう

 

 

【術】

攻撃対象:槍

命中判定:成功

ダメージ:14

 

 

「(あさしん殿は手負い…なれば、早期に決着を付けるより他には無い…!)」

今にも倒れそうなアサシンを見やり、七支刀を構える

そして、

 

「汝の力、借りるぞ」

「…どうぞ」

 

返答を聞いたキャスターが一歩踏み出す

着地までの僅かコンマ数秒の間に、アサシンの支援は完成していた

 

「ぬ、ォッ!!」

極小の爆音

キャスターの足元で、小型の爆弾が炸裂した

 

それは、地雷とも呼ぶべきものであったが、踏みつけた筈のキャスターには傷一つ与えることは無かった

 

味方への爆破 被害を齎さない兵器

その真の目的は、

 

「―――演、舞っ…!」

爆風による加速

踏み出しとの速度合成の結果、急速に距離が殺される

 

「んなのアリかよッ!?」

反応できたのは、槍の間合いの内側に侵入された後だった

 

「―――”落陽”ッ!!」

切断を伴わない斬撃

陽の神に捧げる為の演舞が、ランサーの身を焦がす

 

「ぐっ!!」

一瞬、痛みに怯むも、すぐさまキャスターから距離をとる

 

「(奇策を以てしても、決定打には至らぬか…)」

神楽舞が終わり、静かに構えを降ろす

そのまま後ろ跳びに、アサシンを庇うように立った

 

「よく我が意を読み取ってくれたな、感謝するぞ」

「…貴女の無茶振りは、もう慣れましたよ…」

 

 

【騎】

攻撃対象:殺

命中判定:失敗

 

 

「…んでは、そろそろもって終わらせようかの」

指をパチンと鳴らす

超高高度からトナカイがアサシン目がけて飛来する

 

「…随分と、乱暴な―――」

言葉は最後の方まで聞こえなかった

 

巻き起こる土煙

4足で立つ聖人の使い

 

結果として、トナカイは誰も足蹴にする事は無く

当のアサシン本人は、少し離れた場所に立っていた

 

避けた様子は無い

そもそも、避けられるだけの体力が残っているのか怪しい所である

 

「その格好に、トナカイ、と…やはり貴方は聖ニコラウス…もとい、サンタクロースでしたか…」

「いやあ、バレてしまっては仕方がないわい」

「”さんたくろうす”…成る程、景教の者か、道理でな…」

「(実際、分かった所で如何にもならないのが現実だが…)」

 

真名が分かった所で必ずしも突破口になるとは限らない

原典の時点で明確な弱点が存在しない英霊ならば尚更である

 

「それにしても…お前さんよく避けられたのう」

「えぇ、特殊な体術を少々…」

「嘘じゃな」

 

会話を交わしていても、”其処に居る”と認識していても、男の姿は詳細には掴めない

正体の割れたスパイ、その姿を追う事が出来ないのは、如何にも矛盾している

 

「さて? 黒蜥蜴星人直伝の体術なのですが…」

「わしの知っておるどこぞの王は不調との付き合い方を学べ、とは言っておったがのう

 その有様、いくらサーヴァントであろうとも十全に動くには難しかろう…」

 

 

「…じゃから、お主避けとらんな?」

 

「…えぇ、はい、私は一歩たりとも動いてはいない…だが事実、貴方は攻撃を外した」

「じゃなあ、…それで?」

「人の認識とは、総じて曖昧なモノ…ですから、勘違いも見間違いも、仕方ありません」

「…ふうん?」

「それは例えば”色”であったり、独特の”気配”であったり…私で無いモノを、私と思ってしまうのも、仕方が無いのです…」

「なるほど、なるほど」

 

いまいちピンと来ない様子のライダーに対し、親切に解説するアサシン

自分の能力をバラしたのは、知られても構わないからだろう

(ランサーの必中の槍には対応できないので、情報の隠匿が無意味 ライダーについては、今の攻防から認識阻害への対応方法を持ち合わせない事が分かっている)

 

「(出会いの瞬間から、儂等は術中にあったというわけか…)」

 

飛び散った血の色

神宮の燃え跡の赤

 

周囲に満ちる、サーヴァントの魔力

それに埋もれてしまうような、一般人に程近いアサシンの気配

 

印象の操作と、気配遮断スキルの兼ね合い

欺き、隠し、迫る”闇の侵略者”

 

本業が暗殺者でないとしても、彼は十分にアサシンに相応しい働きをしていた

 

 

 

≪4巡目収支≫

【殺】 HP:14

    チャージ:1/3

    スキル:『破壊工作』(残りCT3)

        『ダブルクロス』(残りCT6)

        『闇の侵略者』(残りCT5)

    ・毒ダメ3(2T)

    ・火傷ダメ3(2T)

    ・回避補正+4(2T)

    ・防御+5(2T)

 

【槍】 HP:45

    NP:11

    スキル:『滴る黒水』(残りCT7)

        『ルーン魔術』(残りCT6)

    ・攻撃命中時にNP+1(1T)

    ・防御ダウン3(2T)

    ・火傷ダメ3(2T)

    ・命中-2(2T)

 

【術】 HP:22

    チャージ:4/5

    スキル:『陣地作成』【創建状態】

        『道術(持禁)』(残りCT5)

    ・火傷ダメ3(2T)

    ・防御+5(2T)

 

【騎】 HP:52

    NP:35

    スキル:『聖者の贈り物』(残りCT7)

        『無辜なる守護者』(残りCT5)

    ・防御+4(2T)

    ・命中-2(2T)

 

 

 

≪5巡目≫

【殺】

攻撃対象:槍

命中判定:成功

ダメージ:3

 

 

「(…馬鹿正直にあの老人を狙っても、謎の幸運で避けられる恐れがある7…)」

「(ならば―――)」

 

両の手に銃を構え、右の射線にランサーを、左の射線でその足元を捉える

 

「そこ、立っていると危ないですよ…」

「は?」

 

不穏な言葉に対し、抱いた疑念

そして、間髪入れずに凶弾がランサーを襲った

 

「うオッ!!」

額と心臓に一発ずつヒットする

貫通はせずとも、銃弾の衝撃は十二分に伝わった

 

「(ハッタリを見破り動かなかったか、単に理解できなかったか…

  恐らくは後者…、ただの人間であれば片が付いているというのに…)」

 

地雷の起爆を警戒し、不用意に飛び上がったならば、無防備な空中を狙い撃ち

その場で動かないならばソレはソレで良し

 

言葉の真偽は関係無い

思いがけない唐突な忠告に、思考は一瞬ストップしてしまう

事実、ランサーは対応が遅れ、攻撃を喰らってしまった

 

「…痛ぇな、やってくれるじゃねぇか」

「まだ、倒れる訳にはいかないので…やれるだけ、やらせて貰います…」

「まぁ、こんな豆粒じゃあ簡単にはやられねぇがな」

「…銃で撃った当たったんだから、大人しく死んでください…」

 

生前の常識が覆されてゆく事に辟易するアサシン

彼にとって人は、銃で撃てば死に、爆弾を使えば簡単に殺せる存在であるのだ

 

「(銃では浅い…火力重視の爆弾で行くべきだったか…?)」

 

銃と比べ、爆弾は派手だ

威力もそうだが、音の問題が大きい

 

音は視覚より隠蔽し辛い

攻撃方法から、大体の居場所、更には対処方法に至るまで、思考を重ねれば分かる事を、他のサーヴァントに知られてしまう

 

戦闘を強制的に終結させるような場合を除いて、なるべく濫用は避けたい方針だった

 

「(…いや、大振りな攻撃では、避けられる可能性もあった…確実に、堅実に狙うべきだ…)」

 

死の淵に立ちながらも、男は勝機を探り続ける

かつての大戦の中でそうであったように、再び現世で争いに身を投じていた

 

例え、それが部の悪い賭けであったとしても

仕事であるならば、役割であるならば

完璧に果たすため、挑むのだろう

 

 

【槍】

攻撃対象:→殺

命中判定:成功

ダメージ:7

 

 

「(面倒になる前に仕留めねぇとな…)」

ランサーは静かに槍を構え、大きく息を吸い呼吸を整えた

 

感覚を研ぎ澄ます

認識阻害を緩和するため、目を閉じる 視覚は要らない

使える感覚(リソース)だけ回す

 

奴の音を探れ、と

違いを嗅ぎ分けろ、と

肌で、全身の産毛で捉えろ、と

眼球を使わずに、見極める

 

「(…来る…!)」

全身が総毛立つ

目を閉じている筈なのに、認識を狂わせている筈なのに、”知られた”

 

「―――シッ!!」

一瞬でアサシンの前へと移動し、その霊核に向けて槍を突き刺した

 

「ぐ、ぅ…!!」

切っ先が皮膚を貫き、胸筋を断ち、胸骨を突き破る

肺に穴が空いた

呼吸が止まり、意識が飛びかけるも、痛みで覚醒を余儀なくされる

 

「(………ミスったか…)」

無言で槍を抜きアサシンから離れる

 

ランサーの突進は、その速度でアサシンに避ける隙を与えなかった

しかし、不完全な索敵によって、狙いが霊核から僅かに逸れてしまっていた

 

「…や、…はり、…速い、ですね…どうも…」

「…それほどでもねぇよ」

 

狙いがズレたとは言え、元より瀕死であった事に変わりは無い

誰がどう見ても、アサシンは既に限界を迎えていた

 

「…ハ…ッ…、…ハァ…」

不規則な呼吸

片肺だけでは満足に活動できない

 

「爺さん、あとは任せていいか?」

「相分かった、…任せよ」

 

 

【術】

攻撃対象:騎

命中判定:失敗

 

 

「(”前を向け”…、”やるべき事は終わっていない”…か…)」

虫の息で肩を上下させる相方の言葉を思う

 

「(あぁ、分かったぞ…我のすべき事、果たさなければならぬ事…)」

 

傍らに立つ男

数刻も待たない内に消えるだろう、と

 

無論、その事はキャスターも気が付いていた

だからこそ彼女は、言葉を掛けない

 

だからこそ、彼女は前だけを向き

「はぁぁぁぁぁああああッ!!」

 

ランサーに披露した神楽舞も、幾度も見せた道術も、一切使う事無く、ライダーへ接近する

 

「………」

「せぃッ!!」

 

馬鹿正直な、ただのまっすぐな振り下ろし

武の経験が少しでもあれば、欠伸が出る程度の一撃が迫る

 

「…もう、いいじゃろ」

 

振り下ろしは当たらない

避けたわけではない

プレゼント袋から出て来たジンジャーブレッドマン達が大勢で受け止めたのだ

 

「………」

 

幾ら大勢で受け止めようが所詮クッキーはクッキー

受けて、砕け、受けて、砕け…

ライダーの肩に当たる頃には、最早振り下ろしとすら呼べなかった

 

「これで、納得いったかの?」

「そうさな…納得は言っても、まだ腑には落ち切らん、と言った所か…」

「じゃろうな、戦なんぞいつだってそんなもんじゃわい」

悟ったように語るライダー

 

「でかく始まったと思ったら色んな物をめいめい好き勝手巻き込んで、気がついたら終わっとる

 まったく、勘弁願いたいもんじゃ」

 

「(…耳に痛いな…)」

世界大戦の中心にあった国の人間が此処に居た

 

「おまけに一度初めてしまえば、どっちかは大抵精魂尽き果てとる

 祭りを楽しむ余裕もないと来た…夢がなかろうよ、全く」

溜息を吐く

幾度もそういうものを見た、と言わんばかりだ

 

 

【騎】

攻撃対象:殺

命中判定:失敗

 

5巡目終了時に毒ダメによりアサシンHP:0

決着

 

 

「で、その結果がこれじゃ…のう、アサシン、…いやさリンテレン殿よ

 悔いがあるならば、今のうちに吐いておくべきじゃぞ」

 

「ふっ、…まぁ確かに…彼女へ、…言っておきたい事は…山ほどあれど、…悔いなど無いのですよ…」

息も絶え絶えにアサシンは語る

 

「限られた環境でも、やれる事は、…やってきた…どれ程の障害があろうと、私は常に全力を注いできた…」

手を抜かず、決して油断せず

状況に対して心血を注いで戦う

 

「その…結果から逃げるなど…自らの責務に対し、悔いを抱くなど…決して、有ってはならないのです…」

生前からその心情は一切変わることは無い

 

「…そんな”有ってはならん”なぞ捨てちまえ

 英雄だろうと人なんだろうと、悔いも後悔も残さずに逝けなどせんわ」

だからこそ、ライダーは痛ましく思う

 

「…例えそうで有ったとしてもじゃな

 最後の瞬間に弱音の一つも残してはならん…というのは、あまりに無情にすぎるじゃろう…」

「…やれやれ…、嘘吐きに対して…本音を出せとは……中々酷な事を仰る…」

 

キャスターを一瞥し、溜め息を吐く

そして、観念したかのように口を開いた

 

「悔いが無いというのは、本当の事だ…

 私は、出来る限りの最善を尽くし、判断に…も誤りは無かったと、自負している…」

「………」

 

「この結果があったのは、単に、…私の全力が及ばなかった…ただそれだけの事…」

「……なんというかのう、…どうして英霊にまで上り詰めるような奴というのはこう…」

帽子越しに頭を掻きながら顔を顰める

 

「…ま、ええわい …最後に一つ聞いておくがの」

「…なんでしょう…?」

 

「お主に教えを受けていた村人達へ、なんて言葉を残すつもりじゃ?

 できる限りの最善を尽くしたというのならば、無論考えておるのじゃろう?」

「…有りませんよ、そんなもの…スパイが…痕跡を残して、どうするんです…」

「じゃが、あの村人にとっては教師であった」

「そうであるように振舞ったのだから、当然の事でしょう…」

「…本当にそれだけかの? そうであるように振る舞い、ただ利用するだけだったと?」

「被害を抑える為に統制し、油断を誘うために演じた…彼女と違い、私はこの国にそれ程愛着は無いのですよ…」

 

「……やれやれ、お前さんがそう思っておるならそうなんじゃろうな」

肩を竦めるライダー

「その言葉…そっくりお返ししますよ…」

対し、少しの苛立ちを滲ませるアサシン

 

「先程から、貴方は私を…いや、…”スパイ”という人種を勘違いしている…」

「勘違い…?」

「闇の中に潜み、忠実に使命を果たす侵略者…我々は、そういう生き物だ…」

 

ソレは信条であり、哲学であり、指針

フランツ・フォン・リンテレンと言う男を現す全てだった

 

「私は、己の背負う責務に従って行動した…其処に余分な感傷は一切無い…」

 

「私は、他人に嘘はついても、自分は偽らない…

 たかが聖人”如き”が、私の全てを見透かした心算でいるのなら、それは単なる思い上がりだ……」

 

死の寸前であるというのに、かつてない気迫の双眸

影に立ち、己が責務を全うする、闇の侵略者

結局の所、彼はどこまでも、誇り高い”スパイ”だった

 

「……そうか」

嘘吐きの偽らざる言葉を聞く

その目を逸らさずに見る

スパイである事こそ、この男の矜持であったのなら

 

「儂の目も曇りおったわ…あい済まなんだの」

「…いえ、所詮は消えゆく者の言葉…気にしないで下さい…」

「…いいや、気にするわい…これでお前さんの、本音という”痕跡”が残ったわけじゃからな…」

 

「…あぁ、…それはマズい、な……悔いが…残ってしまう…」

感情を出してしまった

余分な本音を語ってしまった

最後の最後に、己が使命を汚してしまった

 

自らに課した完璧を、自分の手で傷を付けてしまう

これでは、悔いが無いと言った自分に嘘をついてしまう事になる

 

 

「(それは……嫌、だな…)」

 

 

永遠とも思える、問答の果て

遂に、終局は訪れる

 

「―――っ…」

男、アサシンが血を吐きながら遂に膝を折る

霊核の破損、完全な致命傷

令呪で遠ざけていたソレが、今になって降りかかる

 

「(…限界も限界、か…)」

 

黒いスーツを赤に染めながら、その場に崩れ落ちる

スキルで薄化していた気配が更に薄くなる

消滅は秒読みだ

 

「…キャスター……申し訳ありませんが、私は、ここまでのようです……」

「…あさしん殿…」

 

「…貴女は、…まだ戦う、…のでしょうね……国の…、民の為に…」

「あぁ」

「…今や貴女を、…誰も…、覚えていないというのに?…」

 

「無論だ」

即答だった

死に際の問いに、何一つ迷い無く言い放つ

 

「…守った先に、…何も無かったとしても…?」

「当然だ」

再び、間を置かずに吐き出された答え

やはりか、というような表情を浮かべていたアサシンは、呆れたように笑う

 

「…結局…」

 

「…結局、…貴女の事は、よく分からなかった…人間の心理を幾ら学んだところで、こればかりはどうしようもないのでしょう…」

「…それはお互い様よ、斯様な短い間では、互いに何も分かるまい…」

「…」 

「だがな…分からぬが、これだけは言える…」

「…?」

 

 

 

「実に、美事な働き振りであった、―――暫し休め」

 

 

 

「…………」

数秒、呆気にとられた表情を浮かべていたが、

 

「…まさか貴女から、そんな言葉を聞けるとは……」

心底以外、とでも言いたげな声を発した

 

「…”休め”、か……全く、散々…、振り回しておきながら…―――

 …程度が、違うとは言え……私の、仕事仲間というモノは、…どうして…こうも…」

力を抜き、座り込む

既に、その足元から消滅は始まっていた

 

 

「(…残してしまった後悔は仕方が無い…であれば、せめて…)」

印象という痕跡は残る

残ってしまうのならば、せめて、役立つように意義のある形で

 

「…まだ、…戦うと、国を…守ると言いましたね?…」

「おうとも」

 

「…だったら…」

自分が出来なかった事を、相方に託す

 

「…だったら、…目的を履き違えない事です…ここで…、こんな所で倒れる事が…、貴女の望みでは無いでしょう?」

「あぁ、…だが…」

「…私の事は、気にしないで下さい……消えゆく者を思った所で、如何にもなりはしない…」

余分な感傷は要らない

合理性を追求する

相方が目的を果たせるように、指針となる意志だけを置いて逝く

 

「…分かる…筈だ……経験済み、でしょう?…お互いに…」

「………」

正論に風穴を開けるのは、感情論

だが、感情論もまた、正論によって両断される

 

「…やれやれ…貴女の暴走に、付き合った結果がこれだ……私の、…プランを、…悉く台無しにしてくれましたね…」

「…申し訳も無い……我の決断が、汝を…」

「…自分のせいと思っているのなら、…その通りです……反省し…、そして…改めて下さい…」

全てはお前の責任だ、と 

故に行動基準を改めろ、と

言葉の内容とは裏腹に、その口調は優しく諭すようだった

 

「…改めろ、と…」

「…特に、どうしろとは言いません………言っても、聞かないでしょうし…」

頭は悪くないのだから、考えて行動しろ、と

悪態を吐く割には、表情は穏やかだった

 

「…だから、せめて…合理的に、…効率的に動いて下さい……負けて死ねば…何にも成らない…、…知っているでしょう?…」

「…………あぁ……そう、だな…」

 

「言いたい事は、それだけです…」

「…私は、…また、…最期まで…職務を果たせませんでしたが……貴女が、国を守れるよう…祈っています…」

「…世話を掛けたな…黄泉にて、我が行く末を見ていてくれ…」

 

「…期待、しています……Auf Wiedersehen、――― Kamerad…」

最期まで、合理的に、余分な感傷は無く、言いたいことを言いきった

自分の遺す痕跡を、残してしまう痕跡を、自らの為に相方へと託した

 

安堵から眼を閉じ、戦友への別れを小さく呟いて男は消滅した

僅かに残留した粒子が風に舞い、何処かへ去ってゆく

 

フランツ・フォン・リンテレン

第一次世界大戦時に暗躍した、ドイツ帝国のスパイ

 

単身で合衆国に乗り込み、物資供給、経済、労働情勢等、あらゆる面で妨害工作を仕掛けた、貌無き闇の侵略者

 

連合国側である合衆国に大打撃を与えるも、その活躍を妬んだ同僚が原因となり、拘束されてしまう

 

後に解放され、祖国へ帰郷するも、彼の存在を覚えている人間は殆どいなかった

 

一度素性の割れたスパイがそのまま復帰出来る訳もなく、彼は祖国ドイツでは無く、移住先のイングランドにて、その人生を終えた

 

自ら何を成す訳でも無く、ただ粛々と、息を殺して余生を過ごした

闇を顔に塗りたくり、光を目に宿し、まるで、最期までスパイとしての役目に殉じるように

 

国の為に戦い、国に忘れられた男が何を思い、何を求めてこの聖杯戦争に挑んだのか

ソレは彼にしか分からない

 

「安心せい…、汝は、十分に役目を果たした…」

共に戦った戦友は、その死を悼む

 

「―――だから、休め……同じ、歴史の闇に沈みし友よ…」

 

荒れ果てた森の中で、英霊達は佇む

7騎の一角は、此処に崩れた

 

 

 

一人のスパイが場を去り、間も無く

戦火の余韻が後を引く、かと思われた

 

「むっ…」

キャスターが何かを察知したかのように、地面に目を向けた

 

そして、間を置かずに、両足を支える大地が、グラグラと揺れる

セイバーを打倒した時にも似る地震が、再び訪れた

 

「むぅ…あの時と同じ揺れ…」

「またか…」

 

「…地が、啼いておる…」

七支刀を地に突き立て、自らの支えとする

 

地震大国である日本の領域であるならば、この島においても珍しい現象ではないのかもしれない

 

だが、2回、短いスパンで連続して起きている

ただの偶然か、作為的な要因があるのか

疑問の影が差すが、答えは得られない

 

やがて、数秒後

地震は止まり、時は動き出す

 

「…啼き止んだか」

「そのようじゃな…」

 

アサシンの消滅、2度目の地震が通り過ぎた現在

突き立てた剣を杖に変え、キャスターは立ち続ける

地震は終息したというのに、その両足は微かに揺れていた

 

心は揺れずとも、肉体は別

 

斎宮とは、神託を受け、天と国を繋ぐ者

しかし、如何な神の加護があろうとも、結局の所、人の身である事に変わりは無い

 

「(先の揺れは曖昧だったが、少しは掴めたぞ……やはり、良くないモノが蠢いておる…)」

 

感覚が告げる

英霊が消滅する際の、魔力の流れ

吸い込まれるように、何処かへ向かうのを感じた

 

そして、その先に待つモノは、どうしようもなく不吉である、と

 

「さて…と」

「これで力量の証明は済んだかの」

 

「そうだな…どうやら、汝等の力は、我等を破る程に強固なる物らしい…」

 

「だがな、それだけでは足りぬ」

「ほう?」

「…何が足りねぇってんだよ?」

 

「―――まだ、”力のみ”ではな」

キャスターは七支刀を地に突き立てたまま、手を合わせ、祝詞を唱える

 

「―――ひ、ふ、み、よ、いつ、む、なな、や、ここの、たり、 …布瑠部 由良由良止 布瑠部―――」

 

”布瑠の言”

十種神宝と共に祭祀に用いる祓詞である

奉納殿である石上神宮が陣地として有る以上、効力は十分に発揮される

 

「清き水の龍神に願い奉る…

 焔滴る十束の剣より出でし2柱よ、我が血を以て叢雲を成し、其の罪業を問い給え―――」

 

突き立てられた七支刀が次第に輝きを増す

魔力の奔流がキャスターを中心に発生している

 

「糾いし禍福の厄神に願い奉る…

 黄泉が死穢より出でし災禍よ、我らが虚実、其の真偽を糾し給え―――」

 

大地を振るわせる程の大規模な物となると、宝具の発動以外有り得ない

 

 

「―――『神明裁判・盟神探湯(しんめいさいばん・くがたち)』―――」

 

 

戦闘で流れたキャスターの血液は体から離れ、天に吸い込まれるように宙を舞う

一定の高さまで登ってゆくと、まるで燃え尽きるかのように最後の光を放ち、消えた

 

「安心せい、不当な裁きは一切無い…その正当性を此処に保障する」

キャスターが腕を振るうと、変化は直ぐに起こった

 

点々と降り注ぐは、雨

時に恵みとして、時に罰として降り注ぐ、天の表情(かお)

 

数秒もしない内に、雨粒は周囲の全てを覆い尽くしていた

当然、2騎も、キャスターもずぶ濡れとなっている

 

そも、”盟神探湯(くがたち)”とは、古代日本の裁判方式の一つであり、

予め、罪人に身の正当性を神に誓わせ、熱湯に手を潜らせる、という物である

 

勿論、正しかろうが間違っていようが火傷は避けられず、基本的に自白を促すための、謂わばインチキ裁判も良い所の代物である

 

しかし、現在降り注いでいるのは、雨

熱湯どころか、体温を奪う水である

 

「裁きを下すは、我に非ず…己が意思のみが罪状を決定付ける」

 

「後ろ暗き感情は、謂わば燃料よ 

 降りしきる雨はすぐさま、煮えたぎる湯となり、その身を焼く…」

 

「条件は我も同じ…裁きは公正な物でなければならぬ故」

確かに、この場のサーヴァントは全て、雨でずぶ濡れだ

判事であれ、被告であれ、その発言に偽りが欠片でもあれば、全身が焼かれる事だろう

 

「なるほどのう…」

「まだ戦うって訳じゃあ無さそうだな」

 

正当な裁き、対等な条件

神職に仕え、罪人を正しく糾すための宝具

其処に冤罪は無く、ただ人の罪のみがある

 

「此よりは裁き…我が問いに、その一切を答えるべし…」

 

詰まる所、彼女はこう言いたいのだ

―――”意志を示せ”と

 

強き力は理解した

ならば、其れを振るうに値する胸の内を曝け出せ、と

 

厳粛な言葉と共に、最後の裁定が始まる

 

裁きの雨は絶間なく、あらゆる者を覆い尽くす

この場において武力は無意味、真意の言論こそが力となる

 

「汝等の言葉、汝等の信じる者に誓え…

 解部の長たる、我等一族が名において、その真偽を問う!!」

 

 

「―――”汝等の、戦う理由を答えよ”―――」

 

 

「世界を救うため 滅びゆく人理の焼却を防ぐためじゃ」

子供達の守護聖人として、人の世を救うマスターを支えるため、と

 

「世界を救う手伝いと、強い奴と戦う為だな」

猛きケルトの戦士として、立ちはだかる魔術王の先兵を相手取るため、と

 

「…そうか」

 

問い

そして、答え

結果など、分かりきっていた

 

裁きの雨は、誰の身を焼くこともない

嘘偽りなく、その言葉は何よりも真実を指し示す

 

それこそ、大仰な宝具など必要は無かった

キャスターですら、そのような事は分かっていただろう

 

 

 

「―――”言葉”とは…」

 

「発声を以て、真の力を宿す

 力を持った真実は、いずれ現実となる…」

 

「―――其を我等は、”言霊”というのだ…」

 

笑みを浮かべ、腕を軽く振るう

そして、

 

「―――ひ、ふ、み、よ、いつ、む、なな、や、ここの、たり、 …布瑠部 由良由良止 布瑠部―――」

 

「叢雲、明奪い…道に障りのあらん時、級長戸辺の神現れば…」

 

先程まで降りしきっていた雨が止み、一陣の風が、体を覆う霊水を一瞬で大気に還した

 

神風により、暗雲は去る

身を覆う災禍を、彼方へと追いやった

 

「答えは得た…とんだ茶番に付き合わせてしまったな、許せ…

 償いにもならぬが、せめてもの、だ…」

 

恵雨と神風は、勇者を言祝ぐ

戦闘など無かったかのように、負った傷が、徐々に癒えてゆく

 

「構わんわい 元よりこれで済むなら願ったりじゃ」

「そっちが納得したんなら問題ねぇよ」

 

祭祀の場である神宮はその姿を薄れさせてゆく

七支刀も、既にキャスターの手から消え失せていた

 

彼女に、これ以上戦う気は無いようだ

 

「降伏だ…敗北を受け入れ、

 此れより我は、汝等の軍門に下ろう…」

 

「ふう……これでようやく一件落着、かの」

「そして…、だな…厚かましいようだが…… 我も、歴史の護り手達の同胞として戦わせてはくれぬか…?」

改めての共闘の提案

キャスターも意志を決めたのだろう

 

「戦力が足りん以上願ったり叶ったりじゃ、…とはいえ…」

ランサーを一瞥する

 

「俺は構わねぇさ ……相棒を殺った俺が言うのもアレだけどよ」

「立ち位置的には、儂らの方が助力を乞うている側じゃな

 …ともあれ、一旦ここを離れて情報を整理すべきかと思うが…」

仲間が増えたのは喜ばしい事だ

しかし、状況にはまだ問題がある

 

「ここまで激しくやり合った跡地でのんびりしておれば、他のサーヴァントが襲いくるやもしれぬからの」

「あぁ…そうだな…、追手の事も、考えねば…、っ…」

 

突然

キャスターがその場に崩れ落ちた

 

「む、どうしたんじゃ?」

「…少々、無茶をし過ぎた…霊力が、足りぬでな…、暫し動けん…」

 

道術、神宮、裁雨

陣地によるバックアップがあったとは言え、魔力消費は無視できない

 

「最後の宝具が止めじゃったか…やれはて、どうすれば良いキャスターよ」

「済まぬが、暫し此処で休ませてくれ… 然らば、土地の龍脈から直に回復しよう」

「了解じゃ」

 

キャスターは動けない

移動するよりも、神宮創建に使った龍脈の真上である現在地に留まる方が回復しやすいのだ

2騎としても、このままキャスターを放っておく訳にはいかない

 

他のサーヴァントの奇襲に備えつつ、絶え間なく周囲を警戒する

襲ってくるのならば話は早い

 

詳細不明の敵を攻める事と、勝手に攻めてくる敵への対処では、心構えが大分違うからだ

 

「…なぁ、アンタはあの地震について何かわかることはねぇか?」

何の気なしにキャスターに尋ねる

一戦を終えたという油断を装う、ソレで敵が餌に掛かれば万々歳だ

 

「あの”地啼き”、か… ”なゐの神”については専門が別だが…我から見た限りを話そう」

「頼む」

「まず、先のアレは、少なくとも自然のものでは無い」

プレートの移動衝突によるモノでは無い

 

「我はかつて、大いなる地啼きを見たことがある…だが、明らかに勝手が違うのだ

 この手の地啼きは、前兆として龍脈に乱れが生ずる… しかし、先の2度の揺れには、其れが無かった」

 

キャスターの言う事は、言い得て妙だ

大陸プレート同士の衝突を言うならば、土地に連動して、龍脈も乱れるだろう

 

龍脈の乱れが無いならば、自然現象でいう所の地震では無いという事だ

 

「だがまぁ、何と言うか…乱れ…どころか、”研ぎ澄まされる”ような…妙な感じではあったが」

「つまりは自然現象ではなく…その上、収斂していっている…?」

「うむ、…まるで刀剣を叩き、鍛えるような…」

「んで、そのトリガーはどうやらサーヴァントの脱落……やっぱ聖杯か?」

「願いを叶える杯…本来ならば、我等を糧に顕現するのであろうが、この戦はまるで分からぬからなぁ…」

 

脱落した英霊の魂をくべる事で聖杯は成る

果たして、戦争の末に研ぎ澄まされてゆく物は真なる聖杯なのか

 

「(まあ片隅にとどめておく程度はしておこうかの)」

 

 

 

「…とは言え、懸念は消えんな…」

 

地震に伴って発生する、最も代表的な二次災害

―――それは、津波

 

「災禍を齎すは、地の揺れだけでは無い

 大海でさえも、容赦なく牙を剥く…あの光景は、今でも忘れられん…」

 

古代日本、飛鳥時代

日本書紀に残る、最古の大地震の記録

 

111当時、大規模な揺れにより、多くの人的・物的被害が生じた

事態を重く見た時の天皇は、国中に”なゐの神”(地震の神)を祀らせたという

 

「杞憂であれば良いのだが…」

「さっきの奴時は何ともなかったみたいだが」

「心配ならば見てこようか

 幸いにして儂はライダーゆえ、その手の確認ぐらいはどうとでもなるぞい」

「済まぬが、頼む…

 我は暫し、この場で傷を癒す……村人達も、敵に見つからぬよう手を打っておこう」

 

 

「然る後、汝等の後を追う

 だから―――」

 

 

「共に、戦うと約束する

 必ずや、汝等の力になると、誓おう」

 

嘘偽りなく、曇りなき瞳で

その力を、人の歴史の為に振るうと宣言する

 

 

仰向けで大の字になりながらでなければ、多少は格好が付いたのだろうが

 

 

「うむ、心得た」

目を合わせ、頷く

 

「…では、行こうかのランサー」

「応」

 

「さて、目的地も決まったとなれば急ごうかの」

しゃんしゃんしゃんとベルが鳴りながらトナカイとソリが降りてくる

「じゃあ爺さん任せた」

ライダーに言いながらソリに乗る

 

ソリに乗りキャスターを気遣ってゆっくりと上昇

「じゃあ、行くぞい!」そのまま上空で目的地に向けて加速した

 

 

 

 

 

 

「歯痒いな…何も出来んというのは…」

 

戦いを繰り広げた跡地

鉾を交えた誰もが立ち去った場所

 

大の字で寝転び、空を見上げる

傷を癒す都合もあるが、龍脈との接触面を広げ、霊力の供給を受けやすくするためでもあった

 

「波乱、であったな…」

 

現世に降り立ち、たった数刻

あさしん殿と出会い、”人類史の救い手”達と出会い、言葉を交わし、争い、そして、―――敗れた

 

僅かな時間、圧縮された体験

走り抜けるように記憶が想起される

 

『…大胆な、自己紹介、ですね……随分と、………随分なヤパーナリンだ…』

 

『ですが、その豪胆さは頼もしい

 提案があります、―――同盟を組みませんか?』

 

『えぇ、私の情報も、全て提供しましょう…信用を得る対価であれば、安い物です』

 

”すぱい”…、”隠す人”…か

 

謀は苦手ゆえ、小細工など出来ぬ我だが、あの者は、全て内に抱えたまま、裏の裏までを推量る性質であった

 

『―――…私は、私の為に戦います』

 

『…生前の心残り、代替と言えるかも分からないが…果たせなかった職務の続きを、この戦争に求めた…』

 

『あの時…』

『生前、同僚の回線が傍受されなければ、私が拘束を振り切る事が出来れば…』

 

『或いは、国の為に何か出来たのでは…?

 大戦の勝敗を変える事は出来ずとも、流れに棹差すことぐらいは出来たのでは…?』

『…傲慢だが、そう、思わずにはいられない…』

 

歴史は勝者が創る

 

厩戸皇子が創りし、正しき記録は全て蘇我に灼かれた

後に蘇我が遺した記録は、我等一族を全て否定する偽りであった

 

我は、偽りの事実として描かれ

あさしん殿は、描かれる事すら無かった

…歴史の、敗北者

 

『同僚を恨んでいないと言えば嘘になる…

 エニグマの開発も後年の話だ…だが、それはあくまで原因の一端に過ぎない…』

『最終的にジョーカーを引いたのは、…私だ…』

 

『人生に引き直しは無い…失態を、敗北を、…大人しく受け入れよう』

 

『責任や、名誉の問題では無い…これは、私自身のプライドの問題だ』

 

『戦う理由など、それだけです…招かれたこの戦争(ゲーム)、挑む価値は十分にある…』

 

全く分からぬ言葉の羅列

正直、内容の半分も理解できなかったが、感情は十二分に伝わった

 

かつての仲間を恨んでいよう

理不尽への憤りもあるのだろう

それでも、己が職務への完璧性が故に、其を受け入れたのであろう

 

 

ならば、我は?

 

 

蘇我への怒り、仏への怒り

未だ晴れぬ、一族を奪った事に対する、憎悪の念

忘れる事など、ましてや、消える事などは決して無い

 

『…は? 

 村人を守る? 本気で? 

 他のサーヴァントから? 庇いながら? 戦うと?』

『…………正k…本気ですか?』

 

偽りの歴史に名を刻まれた我を、今の時代の者はどう思うのであろうか

 

奸計を用いて、権力争いを引き起こした外道か

寧ろ、記憶から薄れ、我が存在など歴史から薄れようか

 

どのような結果にせよ

予てより、気にはなる処であった

 

『…人には、向き・不向きがあります… ”コレ”は、貴女には不向きです』

『理由?  良いでしょう、教えて差し上げます』

 

『貴女の心理傾向を見るに、嘘は吐けないタイプ、馬鹿正直も良い所の性格だ

 美徳と言えなくもないが、この場合は機能しません

 そんな貴女が村人にどう説明するのです? まさか1から10まで正直に話すと?

 有り得ませんね、論外です

 十中八九疑われます、警戒されます

 そんな状態で、敵が攻めて来たらどうします? 

 避難させますか?無理ですね

 信用されてない貴女の言う事を、誰が聞くというのです?

 しかも、庇いながら戦える程、貴女に技量があるのですか?

 そもそも――――』

 

言いくるめられてしまった

…まぁ、事実なのだから仕方が無い

 

『…どうしても、彼らを放っておけない、と?』

『……分かりました、ではこうしましょう』

『貴女の代わりに、私が彼らを守ります

 ”業務分担”です 私は私の、貴女は貴女に出来ることをやりましょう』

 

『もし、私が失敗した場合は…その時は―――』

 

もしや、気を遣わせたか?

我が境遇、一切包み隠さず話したせいか?

 

民が我に対し、抱く思い

我が民に対し、抱く想い

必ずしも、双方が同じである事は無かろう

 

「…頭が回り過ぎるのも、困りものよな…」

 

思いの方向がどうであれ、良い

民が我をどう思うが関係無いのだ

当初より、指針はただ一つ

 

神の声を聞き、国と天を繋ぐ

斎宮として、在るべき姿を体現する

 

「…汝と、同じよ…」

 

共に、国を護る立場にあった者よ

共に、歴史の闇に消え去りし者よ

 

”業務分担”、と言ったな

汝が己の意志に殉じた様に、我は我の道を、どこまでも愚直に征こうではないか

 

「―――”神の運び”有らば、また会おうぞ…」

 

再び動くに足るまで、成すべき事に至るまで

黄泉の国に旅立った、彼の者の安寧を祈ろう

 

休息に専念するため、眼を閉じようとした、その時

 

 

 

「―――サーヴァント・キャスターだな?」

 

 

 

声が、聞こえた

 

「何者だ…?」

 

…敵?

いや、英霊にしては、反応が弱い…?

…では、人か?

 

「…姿を見せよ、貴様は何者だ?」

「これは、失敬した…」

 

木陰から姿を現したのは、女

宝石の如く紅い眼に、白き衣

 

…人、…か?

人にしては、何処か妙な…

 

何か、宿っているような…

それでいて、常人のような…

 

「私の名は、ジャック…―――ジャック・ブライトだ」

口を開く、名を語る

 

「あぁ、そのままの体勢でいい… 情報が欲しいのでな、時間を貰えるか?」

 

 

 

―――物語は、別の側面からも動き出す

 

 

 




≪捕捉≫
ジャック・ブライト
SCP財団の博士
禁止事項が多い人
変な首飾りで変になった変な人

死んでも良い奴だから便利
例の首飾りでブライト博士になっている奴は眼が紅くなるという自己設定(分かりやすさ重視)

物語冒頭のブライト博士とは別の個体
記憶の共有とか無いので、こっちはこっちでで調査しに来た
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