Fate/Table Talk 偽史夢幻奇島ニライカナイ ~虚光のタウミエル~   作:珈琲菓子

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決闘開始の宣言をしろ、磯野!!

今回は大型エネミーとの戦闘
3対1の変則戦闘となる事から、以下の補正を設定

・竜側の攻撃回数は全体と単体の2回(全体攻撃はダメージ1d6)
・プレイヤー側に獲得した『パラノイア』のランクに応じた補正を与える



正直もっと厳しくしても良かったかもしれん




11 Bad Apple!! 中

≪1巡目≫

 

【”俺”】

パッシブスキル:『空想の果て』…『パラノイア』のランクに応じて以下の補正を与える

 ・E~D …与ダメージ+1d4

 ・C~A …与ダメージ+1d4、被ダメージ半減

 ・A+  …与ダメージ+1d4、被ダメージ半減、ガッツ1回付与

 

 

【槍】

命中判定:失敗

 

 

「それじゃあやりますかぁ!!」

”ランサー”と呼ばれた男は、槍を構えたまま竜の元へ走り抜ける

 

「―――オオオオオッ!!!」

真っ直ぐに竜へと向かう一番槍

しかし、切っ先が届く直前、奴は咆哮を上げながらその巨大な翼を羽ばたかせた

 

奴にしてみれば、バックステップの要領で躱して見せただけだろう

それでも、あの翼による風圧は、前進を妨げるに十分だった

 

「うお、っと!」

風圧により体が僅かに浮き上がる

突進の体勢は崩れ、命中する筈だった軌道から逸れてしまった

 

「…チッ、久しぶりにこのタイプとの戦闘でミスったな」

「ドンマイじゃな」

「…まぁ、次は外さねぇけどな」

爺さんにそう答えながら、竜に向けて獰猛な笑みを浮かべている

 

…戦闘狂、って奴か

敵に回すなら恐ろしいが、共闘している今は頼りにしても良いのかもしれない

 

 

【騎】

命中判定:成功

ダメージ:7

 

 

「さあて、それじゃあかましてやろうか」

 

爺さんはというと、いつの間に用意したのか、トナカイの牽引するソリに乗っていた

まさか、それであの化け物と戦うつもり―――

 

「の」

 

―――か?

 

……あれ?

竜と相対していたはずのソリがその反対方向を向いていた

その事に気付くと同時に、何かがぶつかったような音が3回程鳴り響く

 

「―――ッ!??!!!」

驚愕の表情と、仰け反り姿で分かった

音の発生源は、あの竜だ

 

何が起きたのか

考えるまでもなく、単純な話なのだろう

目で追えない速度で3回程、ソリで突撃しただけ

その事に気付くまでに数秒掛かっただけだ

 

「見え、なかった…何だ…今のは…」

「さすが爺さん、やるじゃねぇか」

「お前さんは運がいい 今の儂は、何よりも疾いライダーじゃからの」

 

攻撃を受けた当人ですら認識できない速度

披露したのは、最速を謳う”騎乗の戦士(ライダー)”

 

「今日、この時ばかりは、かのアキレウスが相手でも儂は勝ってみせるとも」

「…お前達が味方で良かったよ…本当に」

「とはいえ、流石竜種と言った処じゃあいつ硬いのう」

 

「グウウウゥゥウウウ……」

見えない攻撃に対する混乱も一瞬

燃えるようなに怒りを帯びながらも、奴は徐々に冷静さを取り戻していた

 

「流石に簡単には倒れてくれないか…」

 

 

【”俺”】

命中判定:失敗

 

 

勝つとか、逃げるかとか、考えている暇は無い

見ているだけじゃ駄目だ、俺も戦うんだ!

―――生きてやる

俺は死ぬまで死なない…!!

 

そして、自身が何者なのかを確かめる

失った記憶を、此処に居る意味を、取り戻すんだ

 

その為にも、

この場を、何としてでも戦い抜く!!

 

「う、おおオオおおおおおおおおおおおおッ!!」

疾走る

奴との距離を全力で駆け抜け、精一杯のスピードを乗せた拳を、思いっきり叩きつけ―――

 

「―――」

再度の羽ばたき

ランサーの時とは違い、奴は避けなかった

 

「く…、うおっ!!」

吹き飛ばされながらも、何とか体勢を立て直す

俺の攻撃は、奴には届かなかった

 

「…完っ全に舐められてるな…」

 

侮られている

風圧だけで十分だと、俺の攻撃は避けるに値しない、と

…実際の所そうなのだろうが、ムカつくものはムカつく

 

だが、いいだろう

お前が恐れないのであれば、俺もまた、お前を恐れない

既に恐怖は膝を揺らす事は無い

―――大丈夫だ、俺は、…戦える

 

 

【竜】

スキル使用

 『見定める』…敵単体にターゲット集中状態付与(3T) → 対象:”俺”

 『咆哮』…自身の攻撃+1d6(3T) → +1(3T)

 『風圧』…敵全体の回避判定を-1d6(3T) →-4(3T)

 

全体攻撃:失敗

単体攻撃:失敗(対象”俺”)

 

 

「グオオオオアアアアアッ!!」

雄叫びと共に、奴は両の前足を高く掲げた

傍から見れば万歳のような格好にも見える

 

が、実際の行動はそんな可愛げのあるものじゃあ無かった

 

そのまま、強靱な前足は地面に勢いよく振り下ろされ、衝撃は大地を揺るがした

 

「うっ、おおおおおおおッ!?」

 

ズドンッ!!!

と、脳を揺さぶるような音、風圧と衝撃

にも拘らず、俺が無事だったのは、偏に爺さんのおかげだった

 

「まだまだ遅いのう」

 

空を駆るトナカイの牽くソリから地を見渡す

気が付けば、俺達は竜の背後に居た

 

「いつの間に…ってか速…………いや、助かったよ…」

「言ったじゃろう、今の儂は最速じゃと

 あんな程度はあくびしながらでも避けれるわい」

「ははっ、やっぱ頼もしいな…!」

 

だが、いつまでも当てには出来ない

俺のカバーをする分、爺さん達も負担がかかってしまう

 

協力して戦う、という字面は良く見えるが

そもそもの話、俺が戦闘の舞台に立てなければ意味が無い

 

「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「うっ」

 

今、目が合った

そう、認識した

 

それだけで、奴は暴風を撒き散らしながら突っ込んでくる

 

「じゃからのう…」

やはり、竜の後ろにいつの間にか存在していた

 

「目で見える程度の速度なら遅いんじゃよ… じゃから、慌てなさんな、若いの」

 

確かに、竜種は災害だ

意志持つ暴風だ

だが

 

「暴風、何するものぞ」

どれ程の脅威であろうと、当たらなければ意味は無い

今回は爺さんのおかげで躱す事が出来た

 

「ビビッちまった…そう簡単には、慣れねぇか…」

「誰だって最初はそんなもんだろ、気にすんなよ」

ソリの脚に掴まっているランサーがぶっきらぼうに言った

一応は気にしてくれているのだろうか

 

「あぁ、…そうかもな…」

”最初は”…、か

……果たして本当にそうなのか?

 

この恐怖は、畏怖は、悪寒は

本当に、初めての物か?

 

俺は、何時か、何処かで

―――この感覚を、味わった事があるんじゃないのか?

 

…いや、今そんな事を考えている余裕はない

気にするなと、そう言われたじゃないか

 

要はこれから慣れていけばいい…

やってやるさ、あぁ、やってやるとも

 

 

 

≪1巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP15

   回避補正-4(2T)

 

 

【騎】HP67/67

   NP43

   回避補正-4(2T)

 

【”俺”】HP20/20

    NP1

    回避補正-4(2T)

    タゲ集中状態(2T)   

 

【竜】HP:93/100

   チャージ:1/5

   攻撃↑1(2T)

 

 

≪2巡目≫

【槍】

スキル使用:『啜る黒水』…確率でチャージ減+毒3(3T) ⇒ 成功 

命中判定:成功

ダメージ:10

 

 

「それじゃあ今度はこっちの番だな…」

ランサーは懐から何かを取り出す

 

得体の知れない、ドス黒い液体が入っている小さなガラス瓶だ

左手でソリからぶら下がったまま、右腕で器用に振りかぶり

 

「オラァッ!!!」

竜の顔に向かって投げつけた

 

「ガァアアッ!!、ギィッ!?」

割れる小瓶、溢れる中身

禍々しい黒い液体は、竜の顔面を盛大に汚した

 

「苦しんでいる…アレは…?」

「平たく言うと、毒だな …本来の用途は別だが」

 

突撃後の隙を突いて投げ込まれた毒

あんな巨体がもがくほど程の猛毒を、他に何に使うというのか

 

浮かんだ疑問へ想像を巡らせる暇もなく、ランサーはソリから飛び降りる

猛毒に怯んだ事を確認し、すかさず攻撃を叩きこむつもりだ

 

「ウラァアアアアアアアッッ!!」

重力落下の勢いを込め、槍を袈裟切りに振るう

 

槍の穂先が描く一閃

間を置かずに、空中で紅い血による二度書きが成される

「……ちっと、入りが浅かったか」

竜が暴れない内に後方に飛び、攻撃圏内から脱出した

 

 

【騎】

命中判定:成功

ダメージ:8

 

 

「さすがにタフじゃのう」

手綱を握るトナカイに指示を出す

 

「……やれやれ、全速力でぶつけてやってもめげぬか」

一瞬遅れて、一際大きな衝撃音が響き渡る

 

「―――ッ!!!」

長い首を反らせながら大きく仰け反る

巨大な咢から折れた牙が数本零れ落ちた

 

「あやつめのブレスを止めてやろうと思ったんじゃが、この程度じゃまだ応えんらしいわい」

「流石に、やられっぱなしじゃないんだろ…このタフさ…、その内こっちの攻撃にも順応してきそうだ…」

「戦いにおいて悲観を口に出すのはよろしく無いぞい、後ろ向きな考えは動きが鈍るでな」

「あぁ、済まない…気を付けるよ」

「よし さてと、やっこさんがそろそろ来るかの」

 

 

【”俺”】

命中判定:成功

ダメージ:11

 

 

「グオオオオオオオッ!!!!」

竜が吼える

爺さんが与えたダメージに対し、怒りを露わにしている

 

そうだ、それでいい

今のお前に、弱者である俺はまるで目に映らないだろう

 

「い、ま、だァ!!」

宙に浮くソリに向かって飛んでくる竜

タイミングはここしかない

文字通り、目にモノを見せてやる―――!!

 

「うおるぁあああああああッ!!!」

ソリから飛び、頭から突っ込んでくる奴の顔面に、思いっきり拳を喰らわせてやる

「ッッッ!!!!」

 

当たったのは、眼球付近

分厚い皮膚や鱗に守られていない、急所

眼を潰せた訳では無いが、怯ませるには十分だ

 

不意打ち、尚且つ急所狙い

これは予想できなかっただろう、トカゲ野郎

 

「ッ、…手が、いてぇ…」

滅茶苦茶硬い

まるで硬質ゴムのようだ

思いっきり殴れば、まぁそうなるか

 

 

と、絶賛落下中に考えていた

 

 

「いやまあ、後ろ向きになるなとは言ったがの!」

地面にダイブしつつある俺をサクッとソリで拾い上げる

 

「弾丸みたいに飛んでいくやつがあるか!」

再び空中に舞い戻るも、軽く説教を受けた

 

「良いじゃねぇか、中々に根性有りやがる」

地上で構えるランサーは俺達の方を向いて笑っていた

 

「(もう後ろ向きは無しだイケる所まで、進み続けてやる!)」

 

覚悟はある、既に出来た

奴を倒し、イかれた戦争を乗り越える

そして、その先にあるモノを確かめる

 

俺が、何者であるかを―――

 

 

【竜】

全体攻撃:”俺”のみへ成功

単体攻撃:成功(対象:”俺”)

ダメージ:14(”俺”のみ)

 

 

気合を入れたのも束の間、奴の反撃が訪れた

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

巨大な翼による暴風

其れは歴戦の勇士にとっては、ただの強風に過ぎないのだろう

 

しかし、力の無い俺にとっては―――

「う、おォっ!?」

荒れ狂う風にバランスを崩し、ソリから滑り落ちる

 

「ぬっ!」

「クソッ!」

爺さんとランサーがそれぞれ俺に意識を向ける

 

「―――来るなッ、俺は大丈夫だ!!」

俺を助けようと気を割けば、すかさずその隙を奴は狙ってくる

思わず伸ばしかけた手を寸での所で止め、重力に身を委ねた

 

「ぐッ!!」

転がりながら着地する

無事、という訳でも無いが、まだ動けるレベルだ

 

「こんなもんじゃあ、俺は倒せねぇなぁ…!!」

「グルルルルルルル…」

 

幸い、追撃は無い

奴も他の2人を警戒しているのか、無闇に突っ込んでは来ないようだ

 

 

 

≪2巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP25

   スキル:滴る黒水≪残りCT7≫

  ・回避補正-4(1T)

 

【騎】HP67/67

   NP53

   回避補正-4(1T)

 

【”俺”】HP13/20

     NP18

     回避補正-4(1T)

     タゲ集中状態(1T)

 

【竜】HP71

   チャージ:1/5

   攻撃↑1(1T)

   毒3ダメ(2T)

 

 

 

≪3巡目≫

【槍】

スキル使用:『ルーン魔術』…自身に必中状態付与+攻撃↑2d6(1T)

ダメージ:22

 

 

「一丁ブチかましてやるか…!!」

己の獲物を大振りに構え竜を見据える

投擲、か?、そんな見え見えの動作だと躱されるのオチじゃ―――

 

「イヴァル!」

全身全霊を込めた投擲

槍は空気の壁を突き抜け、矢のように一直線に飛ぶ

 

「―――!!!」

ランサーがどんな攻撃を仕掛けるか、ソレは予備動作で奴にも分かっただろう

だからこそ、投げる直前に地を蹴り、翼をはためかせ、飛翔した

 

回避のタイミングには十分である、筈だった

 

「グオオオオオオオアアアアアアアッッッッ!!!!?」

 

進行方向からターゲットが消え、投擲が無駄撃ちに終わろうとした瞬間

槍は突如軌道を変え、竜の腹に勢いよく突き刺さった

 

「アスィヴァル」

そう唱えると槍はランサーの手元へ戻って来た

投げる瞬間にも何か言っていたが、恐らくは何かの呪文の類か

 

「おーおー、結構効いてるみたいだな」

「…!!!…ッ!!…」

何らか魔術効果を受けた槍が余程堪えたか、竜は飛び続けることも出来ずに地に堕ちた

 

「まだ動いている…まだ生きていやがる…」

数秒程、地面でもがいていた竜が体勢を取り戻す

幾ら図体がデカくても、腹に穴が空いてまだ平気なのか…

 

「あれでも幻想種の仲間だからな 化け物は化け物、伊達じゃねぇさ」

「簡単には倒れてくれないって事か…」

「それでも虫の息ってところだ」

「あぁ、…だが、追い詰められた奴が何をしでかすか分からない…油断は出来ない」

 

風に飛ばされただけで、尋常じゃないダメージを負った

正直、かなりキツイが、弱みを見せると奴につけ込まれる

 

動ける間に、出来ることをしなければ―――

 

 

【騎】

命中判定:成功

ダメージ:22

 

 

「ランサーが良いのを決めて見せたんじゃ、儂もキツイ奴をお見舞いしてやろうかの」

 

その瞬間、宙に有ったはずのライダーの姿が消える

それほど早い、ではない

消えた

 

そして、気づけばランサーと俺はソリに乗っていた

”乗った瞬間”というものが欠落していた

 

「…さぁ、どうじゃ? コイツは効いたじゃろう」

 

パァン!!、と

風船が弾けたような音と共に、竜の翼に風穴が空いていた

 

単純な話であり、理屈なのだが

単に早いだけでは全世界の子供にプレゼントを届けるというのは不可能である

 

認識が遅れたのは、俺も竜も同じらしかった

気が付いたら俺はソリに乗っていて、気が付いたら奴は自慢の機動力を奪われていた

 

子供一人一人にそれぞれ準備し運び、枕元に置き、去る

この一工程を行うのにどれだけの時間がかかるだろうか

 

それを全世界に実行する

一晩で行うのは不可能である

否、サンタクロースを夢想する子達は不可能だと思った

 

故の現象、故の方法

”時間が足りないのなら、時間を戻せば幾らでもある”

無論、矛盾はある

無理はある

だが…

 

子供の希望を叶えるのがサンタクロースである

子供の夢を叶えるのがサンタクロースである

 

無辜なる守護者はその矛盾を超越する

 

「これでちょこまかと動けまいて」

 

一拍置いて、咆哮が木霊する

 

「――――――――ッッッッッッ!!!!!!」

声にならない声

痛み、そして理解の及ばない現象に対する怒り

あらゆる感情が其処に含まれていた

 

「これで、奴はもう飛べない…! もうひと押しだ!!」

「さて、お前さんの番じゃぞい」

「あぁ、このチャンス、逃しはしない!!」

 

 

【”俺”】

命中判定:成功

ダメージ:6

 

 

翼を失い、碌に回避行動も取れない今

この好機を、絶対に活かす!!

 

狙うは、槍が突き抜けた傷痕

其処ならば、俺でもまともにダメージを与えられる

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

軋む体を動かし、ソリから奴に向かって飛び降りる

拳はこれ以上やるとイかれてしまう

ならば、足だ!!

 

「―――おっ、ルァ!!」

重力を利用し、そのまま奴の傷口を抉る

 

「ギィイイイイッ!!!!」

身を捩り、暴れる竜

その余波を何とか躱し、距離を取った

 

「危ねぇ…」

 

最低限のダメージは与えられた筈だ

俺に出来るのはこんなもんか

 

ここまで渡り合えたのも、爺さん達のおかげだ

せめて、美味しい所は譲るさ

 

 

【竜】

全体攻撃:”俺”のみへ成功

単体攻撃:失敗

ダメージ:3(”俺”のみ)

 

 

気を抜いた訳じゃあ無かった

ただ、偶々”ソレ”が”そのタイミング”で訪れただけだった

 

「―――ガアアアアアッッッ!!」

 

傷を抉られた奴が暴れるのは必然

俺の体が疲労に揺れるのも必然

ただ、偶然、そのタイミングが重なってしまった

それだけだった

 

「―――あっ?」

 

気付いた時には暴れた余波である風圧に巻き込まれていた

「ぐ…、くうっ…!!」

 

力無く転がる

そこまでのダメージじゃない

立てる、傷は無い、…いや、危なかった

 

「!」

「おい、大丈夫か?」

 

一気に全身の毛穴から汗が噴き出る

死ぬ、所だった

思考が上手く纏まらない

まともに当たっていたらヤバかった

 

「あ、あぁ…一応、大丈夫だ、と思う…」

 

落ち着け、冷静になれ

運が良かった、だったらそれで良い

死んでいないなら、それで良いんだ

 

心臓が早鐘を打つ

うるさいぐらいに耳に響いている

体に悪そうな脈動が、体中に血流を送り込んでいるのが分かる

 

俺は

さっき

死ぬ寸前だった

 

そんな客観的事実が、頭の中を渦巻いている

高揚を齎すアドレナリンは一瞬で消え去っていた

 

 

 

≪3巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP25

   スキル:滴る黒水≪残りCT6≫

       ルーン魔術≪残りCT6≫

 

【騎】HP67/67

   NP53

 

【”俺”】HP3/20

     NP36

 

【竜】HP:18

・チャージ:2/5

・毒3ダメ(1T)

 

 

 

≪4巡目≫

 

【槍】

命中判定:成功

ダメージ:計13

 

 

「そろそろ仕留めるか…」

槍を突き出すような形で構え、脚に力を込め

 

「ウオオオォォッラァアアアアアアアッ!!」

叫び、爆発するようなスタートダッシュ

 

痛みにもがき暴れる竜の手足を掻い潜り、その顔面まで肉薄する

鋭く俺達を睨む眼球に狙いを定め、呪槍を突き刺した

 

「―――ッ!!!!?」

 

「いよっ、とォ!!」

素早く槍を抜き、距離をとる

 

ワンテンポ遅れて、引き抜いた痕から血飛沫が噴水のように飛び出した

 

絶叫じみた咆哮が響き渡る

鮮血を撒き散らし、首を振って暴れまくる

 

「グゥウウウウウウウウウウウッ…!!」

 

やがて痛覚より怒りが勝ったのか、潰れた右目に憎しみを宿し、俺達を見る

幾度の攻防を経て、確実に弱っている筈なのに、尚も奴は倒れない

 

「ええ加減しぶとい奴じゃのう」

「…思った以上にタフな奴だな」

 

 

【騎】

スキル使用:『聖者の贈り物』…対象のHPを3d6回復+攻撃命中時にNP+1d6状態付与(3T)

  ⇒”俺”のHP⇒10回復、攻撃ヒット時NP+5

 

宝具使用:『この良き日に幸福を(ホーリーナイト・ジングルベル)』

     ⇒ 味方全体に攻撃↑2d6(共通2T)&HP回復3d6(共通)

命中判定:失敗

 

 

「そら、無理するもんではないぞい」

爺さんは何処からともなくキャンディを取り出し、俺に渡してきた

 

「コレは…?」

「舐めてれば段々傷が癒えるぞい、無いよかマシじゃろうて」

そう言いながら、ソリの手綱を握りなおした

 

渡されたのは、ステッキの形をした飴

治る…、って本当か? こんなモノで?

 

「あ、あぁ」

促されるまま、取り敢えず舐めてみる

味は普通

何の変哲もない飴だ

しかし、不思議と力が湧いてくる

 

「さあて、征くかの …せめて、苦しまずに終わらせてやるとしよう」

トナカイが嘶く

同時、牽引するソリとライダーが消えた

 

事実上の因果改変

光速を突破しての未来から過去に向けての攻撃

本来ならば、物理的に不可能なソレを聖夜の奇跡が可能にする

 

故に回避も防御も不可な一撃

…のはずである

 

「ッ!?……まさかの…」

驚きを隠せないといった表情で爺さんが再び現れる

 

「あの瀕死の体で避けおるか…ここに来て儂の速度に慣れおったのか」

 

「グルルルルルルル……」

先程までとは打って変わり、奴は静かだ

爺さんの様子もおかしい

 

躱したのか?

あの速さを?

あの傷で?

…嘘だろ!?

 

簡単に倒せる相手では無いとは踏んでいたが、ここまでとは誰が思うだろうか

 

 

【”俺”】

命中判定:成功

ダメージ:6

 

 

爺さんの速さで躱されるのであれば、打倒は不可能の域だ

心の内、不安の芽が再び姿を現すとも、振り払う

 

「それでも、…足掻ける内は、足掻くしかねぇんだよッ!!」

 

足元に転がっていた石を掴み、握りしめる

相手は竜

こんなものでもないよりはマシだろう

 

「―――オッ、ラァ!!」

全身全霊を込めて投げる

ただの石ころはまっすぐに奴へと向かい、そして

 

「……………」

 

当たった

が、奴は身動ぎすらしない

 

ソレは、避ける必要も無かったという事か

眼中にすら無いという事か

 

「避ける価値も無いって事かよ…?」

 

崩れ落ちそうだった膝に、足に、自然と力が入る

原始的な、怒りの感情が俺の中に渦巻いている

 

「ふざけやがって…」

 

侮っているのか、俺を

非力な俺を

無力な今の俺を

 

違う

俺はまだやれる

こんなものじゃあない

まだイケるんだ

 

―――まだ、終わっちゃいないんだ

こんな処じゃ、まだ

 

「―――――」

そんな様子の俺を、奴は黙って見ていた

 

 

【竜】

スキル使用

 『見定める』…敵単体にターゲット集中状態付与(3T) → 対象:”俺”

 『咆哮』…自身の攻撃+1d6(3T) → +4(3T)

 『風圧』…敵全体の回避判定を-1d6(3T) →-4(3T)

 

全体攻撃:成功(”俺”のみ)

単体攻撃:成功(”俺”)

ダメージ:22(”俺”のみ)

 

【”俺”】HP-11/20 (オーバーキル)

 

 

ソレは、偶然だったのだろう

 

偶然俺が、奴の近くに居て

偶然俺が、奴に攻撃したばかりで

偶然俺が、真っ先に目についた

ただ、それだけの事だったのだ

 

派手に吼えることも無く、巨躯が無音で動き

俺はその動きを見ているだけで、まともに反応することも出来ない

 

時間がゆっくり流れていくのを感じる

 

「(あ、マズい―――)」

コマ送りの時間軸の中、辛うじて眼球だけが動く

 

視界の端に圧を感じる

ゆっくりだが、確実に近づいてくる

俺を、死へと導く恐怖が

 

「(避、け―――…)」

 

時間の流れが元に戻る

……強靱な前足が、ゴミでも払うように、鮮やかに俺を吹き飛ばした

 

「ッ、グアあああああぁぁっ!!!!」

 

「っ!」

「オイッ!」

 

地を転がりに転がり、全身の皮膚を椛おろしにした頃、漸く止まる

激しい痛みがつま先から頭のてっぺんまでを駆け抜ける

ありとあらゆる関節や筋肉が軋み、立つどころか力を入れる事すらままならない

 

「…っぐ、…ぁ…」

 

痛い、目の前が赤い

クソッ、もう…駄目、なのか…?

俺は、こんな所で死ぬのか…?

 

まだ、自分が何者なのかも分かっていないのに、

まだ、自分が此処に居る意味も分からないのに…

 

 

…こんな所で、―――終わり…?

 

 

―――嫌だ

まだ俺は何も無し遂げていない

まだ終わりたくなんかない

こんな所で何も出来ずに?

 

―――有り得ない

そう、有り得ないんだ

 

ある種の予感めいた、確信

―――こんな所で、終わる筈がない

 

「っ、…ぐうううぅ!!」

 

確信を抱いた瞬間、体に湧き上がる力

軋む体を凌駕し、奮い立たせる

 

「むぅッ!?」

「オイ、…コイツは、まさか…!」

 

まだだ、まだ終わりじゃない

俺の人生は、こんなものでは終われない

ふざけた怪物なんかに、汚させはしない!!

 

なんせ、これが、

これこそが―――

 

 

 

「『己が為の物語(グラヴィー・マル・デ・アモーレス)』!!」

 

 

俺の思い描く物語(じんせい)なのだから

 

 




―――24歳、覚醒です
宝具名は思いついた時、俺天才かよって思った(自画自賛)

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