Fate/Table Talk 偽史夢幻奇島ニライカナイ ~虚光のタウミエル~ 作:珈琲菓子
伏線回収、って程でも無いネタバラシフェイズ
「…この状況はどういう事だ」
実証された真実は、どこまでも残酷な事実だった
「日本国の消滅、住まう人間およそ1億2千万の消失…何をどうすればこのような事が出来る…」
『…』
国が一つ、地図から消えた
暮らしていた生命の記録も途絶えている
消滅の時刻は、聖杯戦争の儀式の失敗したタイミングと一致している
切っ掛けなど、逆にそれ以外有り得ない
「儀式の中心であるこの島は無事…いや、寧ろこの島を中心として日本を取り込んだのか…」
『……』
消滅した日本と住民を糧として、この島自体が聖杯として機能している
召喚当初から、辺り一面の濃密度の魔力に慣れてしまい、紛れて分からなくなっていた
「これは、儀式の暴走…? いや…聖杯が実際に”有る”以上、成功と言えなくもないのか…」
『………』
一人一人の魔力は微弱であろうと、億単位で、しかも列島の龍脈ごと贄となれば十分過ぎる材料だろう
零れる寸前まで水を張ったバケツのような、綱渡り状態
寧ろ、今まで完全に起動しなかったのが不思議なくらいだ
「…君は、この事態をどう観る?」
『…………』
先程から黙ったままで、目立った反応が無い
呆けているのか
「どうした」
『ん? あぁ…分かったんだよ、うん 色々と、ね』
「何を一人で納得している」
『私の事情』
「事情だと?」
…何だ、この感覚は、何が起こっている…?
『分かった、…ってか思い出した…何でこうなったのか、こうならざるを得なかったのか』
「…説明しろ」
『薄々感づいていたけど、私の記憶は読み取れないみたいだねぇ…嘘か本当かの区別はつくみたいだけど』
「…何を言って―――」
分かっただと? 思い出しただと?
確かに彼女の記憶は読み取れなかった
彼女の背景と何らかの関係があるというのか?
『そりゃあそうだ…プロテクトぐらいは掛けるさ、2000年以上の時間を要する大事業だ…
―――記録者だろうが何だろうが、簡単に読まれて堪るかよ』
「…君は、何だ?、…一体何者だ…?」
この豹変ぶりは何だ
彼女の人となりを、短い付き合いで理解した気にはならない
…それでも、明らかに”違う”
『代替わりで起源を受け継いで、記憶も引き継いで…、そりゃあそうだよなぁ、変わってないんだもの…
私と言う存在は、最初から何一つ、変わってなどいない…』
彼女の内には、彼女の先祖の記憶があると自分で言っていた
観測に縛られた起源
数奇な一族の背景にある物の正体とは―――
「…質問に答えてもらおう、君は、…何者だ?」
『…いいだろう、記録者……我が名を、星の記録に刻むがいい』
そう言って、その存在は、内から自らの名を語った
『ソロモン72柱が番外、73番目の座、―――”ミシャンドラ”
…私の名前であり、役割だよ』
明かされた正体に、動揺が走り抜ける
「魔神…ミシャンドラ、だと…?」
魔神ミシャンドラ
他の72柱の魔神を圧倒する力を持つと言われる、ソロモン72柱の番外位
存在の記述自体が不吉とされ、レメゲトンからその名を抹消された悪魔である
『あ、そうそう、アンタの宝具を利用させてもらったよ
体を共有して無きゃ出来ない芸当だった、ありがとう』
どさくさで自分自身の歴史を観たというのか
いや、そんな事よりも
「…有り得るのか」
『あん?』
「このような事が…」
72柱の73番目など”無い”
理由は明白
「ミシャンドラは作りだされた、…謂わば、二次創作によって生み出された名ではないか」
『ほう…?』
高度発達した情報社会の中で作られた虚構、架空の存在に過ぎない
故に、魔神ミシャンドラが現実に居るなど、有り得ない
『ふぅん…そう言うモノなんだ、私…
”魔神ミシャンドラ”は確かに、此処に存在するというのにね…』
嘘では無いようだ
しかし、この体の魔力量は、決して大きくは無い
他の魔神を凌駕するどころか、並の魔術師程度でしかない
『あぁ、私にそんな大それた力は残ってないよ
72柱という式で固定されていない以上、劣化してくばっかだし』
何せ、2000年以上自分の魔力だけでやり繰りしてきたからね、と語る
「無限に連なる並行世界の内、此処はミシャンドラという73番目の魔神が実在する世界だというのか…」
『然り…我らが目的は、人間の歴史・人理をあれこれする事…
…そこら辺は…カルデア?から来たサーヴァント共の情報から分かってるでしょ?』
「…あぁ、スケールで言えば、この場と比べ物にならない程の大規模な事象だが…
今一、此処に居る私では視点が狭く、見えづらい」
『まぁ、見えようが見えまいが関係無い
こうしている間にも各時代に出張してる72柱が、人理焼却のサポートしてるんだけどね』
「では、君の役割は…」
『…人理焼却に必要なエネルギーは2016年いっぱいで収取完了する
そして、今は2003年…10年以上早いけど、私はこうして覚醒を果たした』
「…実行する、というのか…? 人理焼却を…」
『神が創世にかかった1週間も及ばず、
焼却は実行され、我らの悲願は成就される…』
この日に人理を焼却せしめると、
この日で2000年の計画を実行に移すと―――
『―――って話らしいんだけど、私はやる事も、成す事も、特に無いんだ』
「………は?」
『いや、言ったじゃん、力はもうあんま無いってさ
しかもこの体だよ? 手も足も出せねーよ』
確かに、肉体の主導権が私にある限り、魔神ミシャンドラは動けない
『それにね、総体…、ゲーティアっていう魔神のボスが居るんだけど、魔神ミシャンドラこと私は、ソイツから弾かれたんだ』
「弾かれた…? 72柱の括りから除外されたという事か?」
『そうそう、”72の魔神”という魔術王が創り上げた、正しい道理を効率的に進めるシステム…
其処に生まれたイレギュラー、ソレが私、らしいよ?』
「…曖昧だな」
システムに生まれたイレギュラー、言うなればソレは…
『謂わばバグかな…だからデバッグで弾かれて、こうして落ちぶれたってオチ』
「…落ちぶれても魔神か…通りで君の記憶が読めない訳だ」
『腐っても魔神だからね ……ほぼ人間になった今じゃあ、微妙だけど…』
彼の魔術王の時代から凡そ3千年、王の加護を失いながらも、今まで生きてきたというのか
本来の役割も、果たすべき使命も無く、歴史の影でただただ生き続けてきたというのか
一体、何のために?
「それで、今更歴史の表舞台に出てきた理由は何だ?」
『んまぁ……正直、偶然? 先代が死んで、家の整理してたら聖杯戦争についてのまとめが有ったから、そっからはさっき話した通り、成り行き』
彼女の背景については、大体掴めてきた
完全なるシステムに発生したバグとして誕生し、破棄された
それ故に、人理焼却という大業に関わることを許されなかった
同じ魔神として産まれながらも、共に舞台に立つ事すら出来ない
王の加護も無く、自己現界せざるを得ず、悪戯に魔力を消費する中
生き延びる為、人間の一族に寄生、もしくは霊格を人間近くまで落とし、社会に溶け込んだのだろう
観測の起源は、人理焼却を見届けるという意思の表れか?
2000年もの時間を、代々に渡り起源として受け継がせるなど、正気の沙汰では無い
何の因果か、その擬似的な起源が牙を剥いたようだが
「君は総体…72柱とは完全に繋がりを断たれたのか? 全てを思い出した今ならば、他の魔神達とは…」
『あーそれ無理 思い出したのついさっきだし、アクセスしようにも、この状態じゃあね…
…それにアイツ等も、何だかんだで上手くやるだろうし…』
随分と適当なものだ
魔神達、そして人理焼却については、カルデアのサーヴァントから情報を得ている
単に人間を滅ぼすのではなく、人の存在した歴史その物を葬るという大規模な計画
その為に、歴史のターニングポイントに聖杯を送り込み、特異点を発生させ、連鎖的に人類史を破壊する
今回に限っては、彼女が暴走した儀式によって聖杯を生み出し、日本列島を住民ごと消し去るという、特異点を発生させたわけだが
『でも、カルデアの連中が来てるって事は、他の特異点は何個か解決されたのかもね
…マスターが来てないのが引っかかるけど』
「マスター不在の件に関しては、想像はつく」
『マジ?』
「君が本来、この聖杯戦争に召喚しようと思っていたサーヴァントが、カルデア側に既に存在していたのだ」
通常の聖杯戦争であれば、座よりサーヴァントが召喚される
では何故、カルデア側から呼び出されたのか?
「儀式の暴走により、特異点と化したこの島にレイシフトしようとした際、こちら側の召喚に、彼らが引っ張られたのではないかと思われる」
『ほうほう、グッドタイミングだったのか
んじゃあ暫くすればマスターさんも来るかもしれないね 楽しみだなぁ』
「期待しているのか? 何も出来ないというのに」
『いいさ、別に 観てるだけなんて慣れてるし
アレだよ、単なる興味 知らない物は知りたくなる、好奇心は止められない』
「人間らしい理由だ、…本当に魔神か君は?」
『能力スペック的にほぼ人間だよ どーせただのバグですよ、魔神の屑ですよ』
…本当に魔神か?
「ふと思ったが、人理が焼却されてしまえば、君はどうする? 大元の存在意義すら無くなってしまうのではないか?」
『あー、まぁそこら辺はなってみないと、さ ……なったらなったで残念でしたー、って感じで』
「…」
そこには悲壮感も諦観も無い
事実を事実として捉えているのみ
その身に終焉が訪れようとも、形だけの文句を言いつつ受け入れるのだろう
『あーあ、こんな体になってなきゃ、こっちから出向いてやるのになぁ…』
「自業自得だろう、…そもそもこの肉体で迷惑を被っているのは君だけではないのだ」
『そんな事言ってもなぁ…事故だよ事故、アレ
普通さぁ、ハウスダストアレルギーなんて魔神にあると思う…?』
「…興味深い話だとは思う 記録しておいたから安心するといい」
『何をどう安心すればいいんだ…』
さてな
”価値”とは自らが生み出し、公が評価するモノだ
世に対し役割を持たない者は、怠惰なのでは無く、単に無能なだけ
『本当なら、何もかんも上手くいって、全部やり直すつもりだったのになぁ…』
「起源は覆らず、記憶のみ取り戻し、事態の収拾は着かなくなったな」
傍観することしか出来ない、起源の虜囚
ここまで来ると、最早憐れみすら覚える
『いーや、まだ聖杯が有るもんね カルデアの連中がこの特異点を解決すれば何とかなるさ…多分』
「果たしてそう上手くいくか…」
噂をすれば何とやら
戦闘は終了し、アーチャーは消滅した
アーチャーは自らの得た情報を元に、聖杯戦争の裏に潜む闇を伝えたようだ
既に廃墟と化したフリューゲリンク一族の屋敷に乗り込むカルデア一行
そして登場する新たな人物
アーチャーが消滅するまで待機していたのか、図った様なタイミングだ
「アレは、キャスターの元に現れた…」
『……んーDr.ブライト、何するつもりなんだか…』
「君の協力者か」
『そうそう、変な首飾りで、変な体になった、変な人間』
要するに変人か
『私が一番知ってたあの肉体じゃないって事は、やっぱりあの時死んでたか
…事後処理も大変だろうに、島の調査にでも来たのかな』
「会話の様子から、そのようだな」
『今更この島に来たところで、何も出来ないと思うけどねぇ』
日本という国は消滅し、1億2千万もの住人も消失した
隠蔽などしようもない、国が丸ごと消えて、どう誤魔化すというのか
小国とはいえ、世界情勢は荒れに荒れることだろう
魔術面においても、科学面においても、この上ない最悪の打撃だ
ただ一つ、この状況を覆せるとかもしれない手段、―――聖杯
特異点の要である聖杯をどうにかすれば、贄となった住民も元に戻るかもしれない
現状では叶わぬ夢だが
「この島自体が聖杯と化している事実の前では、彼らは簡単に聖杯に触れることも出来ない」
『実物の上で踊ってるからねぇ アレだね、眼鏡かけてるのに、探し回ってるみたいな』
「そして、単純明快な”解”だ …入手や破壊以前に、彼らの前には強大な障害がある」
『そうそう、立ち塞がる強固で巨大な壁…、もとい”柱”か
ここで漸く、私の見せ場になるのかな』
舞台を全て見通せる、神の視点だからこそ気付ける事実
列島全土、加え1億2千万の魂という膨大な贄の時点で、聖杯は顕現していた
聖杯に託された願いは、その時既にあったのだ
「とは言え、全盛期の再現までは至るまい… 魔力の総量と、組み上がるまでの時間が足りない」
『それでも、ストックとしては十分
材料は日本列島の霊脈、燃料は1億2千万と3騎分のサーヴァントの魂…トップ・サーヴァントと比べても良い線行くでしょ』
事実、そうであるのだから呆れるしかない
「…よくもまぁ、くしゃみ一つでここまで出来るものだ…」
アーチャーが完全に聖杯へ吸収され、再び島に胎動が起こる
限界まで水の張られたバケツに、致命的な一滴が注がれた
聖杯を創り出すための儀式は暴走したが、結果的に聖杯自体は組み上がっていた
吸収された日本列島、1億2千万の魂、そしてサーヴァントの魂を糧として
当時、儀式の中心にいた人物、唯一の当事者にして生存者
アーデルハイト・フラウアルペン・フォン・フリューゲリンクこと、魔神ミシャンドラ
深層で抱いていた、彼女の本来の願い
ソレが指し示すモノ
『ちょっとズレてるけど、一応叶ったと言えるのかな』
島を揺るがす地震
突如として現れる異物
回廊から見える景色には、天を突くような巨大な”塔”が映る
…いや、塔などでは無い、アレは…
「柱、か…?」
『御名答』
第一印象は、何よりも外見への嫌悪感
モニターに映る、腐肉で出来た醜悪な肉の柱
夥しい量の眼球と思しき器官が、ギョロギョロと忙しなく動く、禍々しい願いの結晶
「君の本来の姿が”アレ”か…、想像していたモノと大部違うな…」
『アレが基本形態なだけで、姿形は変えられるよ
柱の姿だけでもバリエーションは結構あるし、色とか』
個性の主張方法はそれでいいのか
「あのような物が、あと70以上も存在するというのか…」
『でも、アレは同胞より格段に性能落ちてるし
私の願いから生まれた、謂わば劣化コピーみたいなモンだし? 第一、あんな形してなかったし、ちょっと再現甘いんじゃない?』
「君もそう思うか」
塔、柱と表現したが、訂正する
目に映るアレは、そういった無機質なモノでは無い
『そうそう、私ね、―――あんな”蟲”みたいな姿じゃなかったよ』
アレは、捕食する側の生物
天に空く巣穴から数多の眼を光らせ、大地を喰らう、まるで巨大な”芋蟲”の様だ
「純粋に嫌悪感しか湧かないビジュアルだな、彼らにとっても目の毒にしかならないだろう」
『一難去ってまた一難…倍プッシュどころか、三倍アイスクリームだ
まぁ、劣化コピーすら倒せないようじゃあ、人理を救うなんて夢のまた夢だよ、まだ見ぬマスターさん?』
挑発的な言葉は、どうしようとも届くことは無い
だが、どこまでも偽りなき真実だ
番外位とは言え、元は72柱の魔神の一部
一度得た人間としての生を否定し、魔神に立ち返ることを選択した彼女は、完全なる人類の敵だ
既に後戻りはできない
彼女にとっても、彼らにとっても
魔神ミシャンドラという存在が産み堕とされた瞬間に、賽は投げられたのだ
そういう意味では、この地は特異”点”とは呼べない
ターニングポイントは2000年前より続いている
連続した点は、”帯”となり、未知の世界を築いた
『あぁ、そうさ… 覆水は盆に返らない……もう、後戻りなんて出来やしない』
既に、この世界は取り返しのつかない所まで進んでしまったのだ
『ダイヤモンドは砕けないし、ジムノペディは終わらないし、―――ファイアスターターは止められない』
内から、試すような声が、遠くに居る彼らに向けて放たれる
『―――人理焼却という偉業の為、この魔神ミシャンドラの礎となれ…』
人理保障機関カルデアよ
人類最後のマスターの元に集いし、数多の英霊達よ
此処にグランドオーダーは発令された
その全力を以て、この難局を討ち破って見せろ
栄光の勝利であろうと、無残なる敗北であろうと、私は終始全てを見届けよう
歴史を巡る物語が途絶えるか、続いてゆくか
未来はその手にかかっている
魔神柱って芋虫に見える…見えない?
友人に言っても同意は得られなかったが
セスジスズメの幼虫とかメッチャそれっぽい見た目してるんだけどなぁ
虫が苦手な人は画像検索しちゃ駄目ゾ