Fate/Table Talk 偽史夢幻奇島ニライカナイ ~虚光のタウミエル~   作:珈琲菓子

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突如として起こった謎の転移により、何処かへ飛ばされた2騎のサーヴァント
ランサー:ドゥフタハ・ダイルテンガ
ライダー:聖ニコラウス

見知らぬ土地で調査を続けていく末に、彼らは様々な思惑渦巻く戦いに身を投じることとなる

一方、アストラギウス銀河を二分するギルガメスとバララントの陣営は互いに軍を形成し、もはや開戦の理由など誰もわからなくなった銀河規模の戦争を100年間継続していた。
その“百年戦争”の末期、ギルガメス軍の一兵士だった主人公「キリコ・キュービィー」は、
味方の基地を強襲するという不可解な作戦に参加させられる。
作戦中、キリコは「素体」と呼ばれるギルガメス軍最高機密を目にしたため軍から追われる身となり、町から町へ、星から星へと幾多の「戦場」を放浪する。
その逃走と戦いの中で、陰謀の闇を突きとめ、やがては自身の出生に関わる更なる謎の核心に迫っていく―――




03 Forgotten Paradise

特異点???

偽史夢幻奇島 ニライカナイ ―――虚光のタウミエル―――

人理定礎 ???

 

 

再び開かれた両眼には、カルデアの風景は映ってはいなかった

 

そこに人工の光は無く

高度に設計された機械の類もなく

 

目の前と、背面に、圧迫感漂う壁がただ有った

 

見上げた空は切り取られたように四角い

薄暗く、光が限られているのはその影響だ

 

そこで、ようやく理解が追いつく

建物の外壁同士が作りだす空間

2騎のサーヴァントが存在しているのは、”路地裏”だった

 

「むぅ……? ここはどこじゃ?

 狭いし暗いしでまるで煙突の中じゃなぁ…どこぞの街並み…じゃろうか?」

「…確かに見たこともねぇ場所だな」

 

改めて周囲を見渡す

高く伸びる空、そびえ立つビル

現代の街並みが其処に広がっていた

 

「お、無事じゃったかランサー」

「おうよ! そっちも大丈夫みてぇだな爺さん」

「ほっほっほ、見ての通りじゃよ…ふむ、こっちも何も問題無しじゃな」

何処からともなく取りだした袋の中身を確かめる

 

「爺さん、その袋の中身ってなんだ?」

「プレゼントがはいっておるんじゃよ まぁ、子供向けの諸々ってところじゃの」

「へぇ、無事でよかったな

 まぁここにそのプレゼントをもらうような子供がいるのかはわかんねぇけど」

 

コンクリートの壁に囲まれた周囲を見渡す

限られた陽射しの照らす視界には、子供どころか人の一人も見当たらない

 

「それにしても爺さん、これからどうするよ?」

「周囲の探索をせねばならんじゃろうな…何れにせよ、情報は欲しい所じゃ」

「うっし、まずはこの路地裏を抜けるか」

「帰還の為の手掛かりも探さんといかん…サーヴァントを思わず助けようとするお人好しなマスターの事じゃ…、気を病ませっぱなしも忍びないからのう」

「それは違いねぇな」

「そうと決まれば急がねばなるまい…さぁて、となれば急ぐが宜し、早速の出番じゃな」

 

ライダーの合図とともに、上空からベルの音が鳴り始める

直後、上空からトナカイに引かれたソリが姿を現した

 

「お? あれが爺さんの宝具か?」

「条件付きじゃが、世界最速の移動手段じゃな、舌噛まんように気をつけるんじゃぞ?」

 

しかし、ライダーの呼び出したトナカイは困ったように上空で待機している

狭い路地裏ではソリもトナカイも侵入することはできないようだ

 

「…爺さん、どうすんだあれ?」

「ふむ、ここじゃ無理じゃったようじゃな」

「致し方あるまいな 一旦休んでて良いぞ」

ぱんぱんと手を鳴らし帰還を命ずると、ソリとトナカイは名残惜しそうに消えた

 

「仕方あるまいな、歩くとしようかの」

「少なくとも明るい方に向かえば、何か見えるじゃろうて」

「まっ、それもそうだな」

 

路地裏は一直線に伸びている

前方は少しだけ陽の光が差し込み、反対に後方は暗闇が濃く伸びている

 

 

≪選択≫

→前方の明るい方

後方の暗い方

 

 

徒歩で明るい方向に進む

ライダーは霊体化し、ランサーは霊体化せずに、徐々に明るくなる路地裏を歩く

 

ビルの外壁で埋めつくされている以上、文明レベルはそれなりの筈であり、人理が崩壊したカルデアの外界では決して見る事は出来ない景色である

 

時代・歴史についての知識は、ある程度”座”から与えられている

しかし、あくまで2騎達は旧時代の存在だ

ある種、新鮮であり、貴重な体験と言えるだろう

 

此処に至るまでの経緯が無ければ、の話だが

 

『こんな状況でさえなければもっとのんびり見て回りたいところなんじゃがなぁ…」

「近代探索かぁ…悪くはねぇかもな」

 

日本での聖杯戦争を原因とする、特異点修復の任務

レイシフト直前に発生した、原因不明の異常

多くのサーヴァントの中、自分達だけが勝手に発動した転移に巻き込まれた

 

気がかりなのは、此処に飛ばされる直前、Dr.ロマンが言っていた事

”霊器反応が他のサーヴァントに比べて不安定”

”居るのに、居ない様な”

”振れ幅が大きい”

”ブレがどんどん大きくなっている”、など

 

現在地が、直前まで設定されていた、目的のレイシフト地点かどうかも定かではない

カルデアに通信が取れない以上、現状の報告も、事実の確認もしようが無い

通常のレイシフトならば、調整はシールダーの少女が担当だが、現状では仕方が無い

 

薄暗く、あまり光の届かない路地裏

人の姿は確認出来ないが、状況としては幸運だったのだろう

 

転移の際、一般人からすれば、いきなり虚空から人が現れたように見えるのは確実

人数が多ければ多いほど、騒ぎになってしまう

面倒事を避けられただけでも良しとするべきか

 

『まぁ、それも全てが片付いてからじゃがなぁ…儂としてはかの王が敵なのは複雑じゃわい』

「王っていうと魔術王のことか?」

『うむ…、かの偉大な王が…何故…』

「…それはあのマスターといればいずれわかるんじゃねぇの?」

『じゃろうがな…まぁ、今出す話題ではないかの』

 

様々な思いの交錯する中、それでも歩みは止まらない

やがてビルの織り成す影が薄くなり、遂に路地裏を抜ける

 

『結構長かったのう』

「やっとか」

 

眩い陽の光に顔を顰めながら、辺りの景色を見渡す

 

高層ビル群れが立ち並んでいる

予想通り、其処には現代的な街並みが広がっていた

 

『ふうむ、ここは…』

「ほぉ~、これはすげぇな! 木でも石でもねぇ、それでいてこんだけ高く組み上げて作ったのか!」

『現代技術じゃのう…、魔術とは正反対じゃが、儂等が呼ばれた理由も何処かにあるじゃろう』

 

馴染みの無い景色に圧倒され、数秒間立止まっていたが、

突如、視界に動く人影が映ったことで時間の動きを取り戻す

 

『!』

「…人? 住民か?」

 

人影は2騎に気付いていない様子で、悠々と少し離れた場所を歩いている

 

『ふむ… こちらには気づいておらんようじゃの』

 

現状、歩く人影から魔力は感じない

特殊なスキルを用いていない限り、サーヴァントでは無いだろう

 

「どうする?接触するか?」

『ううむ…』

「…爺さんが話しかけたほうがいいんじゃないか? 俺だと多分警戒されちまうぜ」

 

少し思案し、ライダーは霊体化を解除し、

「儂が行ってこよう 老いぼれの方がまだ警戒させんじゃろうからな』

「おう、頼むわ」

対し、ランサーは霊体化し、ライダーに託した

 

「あー、すまんがそこのお人」

「!」

 

対象が振り向く

若い女だ

 

「…驚いた…

 …何だ、いきなり?」

驚いたと言いつつも、浮かべるのは無表情の女性

 

肩まである適当に切り揃えられたような頭髪、細身の体に纏う白衣

カラーコンタクトでも入れているのか、ライダーを見据える双眸は紅く輝いている

 

医者、若しくは研究者か

どちらにせよ、若干派手な様相だ

 

「いやぁ、すまんのう

 ちょっと迷ってしまって、ここいらの住所を教えて貰いたくてのう」

「住所か 難しい質問だ…広義に捉えれば、”日本”になるだろうが」

「日本、と」

「流石に住所の詳細までは知らん 離島であるは言え、法的には日本の国土と記憶している…」

 

日本領、離島

そう語る姿に嘘は感じられない

とは言え、向こうに嘘をつく理由は無いのだが

 

「ふうむ? なんかよく分からんが…日本なんじゃなここ?」

「あぁ、間違いない」

「教えてくれて感謝するぞい

 ああ、ついでに聞きたいんじゃが…

 何やら午前中だと言うにあまり人を見かけないのはどうしてか知ってたりするかの?」

「人を見かけないのは、単に人が居ないからだろう…、何処へ消えたのかは分からんがな」

「どこへ消えたとは穏やかじゃないのう…、いやぁ、教えてくれて助かったわい」

「あぁ、私もこの島に来たばかりでな…そこまで把握しきれていないのが現状だ」

女性は肩を竦めながら続ける

 

「それにしても随分と珍妙な格好をしているな、土地勘も無いとは…仮装か漂流者か何かか?」

 

ライダーの様相は、誰もが思い浮かべるような”サンタクロース”

一般人とかけ離れた格好である事は明白である

 

「ほっほ、まぁそんなところじゃよ」

「…あぁ、そう言えば、今日は”そう”だったなこのような離島には似合わない催し物だが…」

 

離島

 

目に映る風景

ビルが取り囲む、文明的な景色

かなり近代だと窺えるが、果たして離島がここまでの発展を遂げるだろうか

 

「(ふむ、この反応、儂の内から湧き出るような力…となれば、今日この日は…)」

「なぁに、そこに善き人々と祭りを楽しむ人々がいれば大丈夫じゃ、主の聖誕祭とはそういうものじゃよ

 ま、ちとばかりそんな余裕がある風でないのが残念ではあるがの」

「…そうか、私には関係の無い事だ…悪いが、自分で何とかしてくれ」

 

女性は如何にも面倒くさそうに顔を顰めながら、明後日の方を向いている

警戒されているのか、心底興味が無いのか

いずれにせよ、良い感情は窺えない

 

「悪いが、これから仕事だ、ここで失礼させてもらおうか」

 

格好から、ただの旅行者では無い事は想像できていた

恐らく、何かしらの研究をしているのだろう

 

そう言ってビルの樹海に足を踏み入れる女性

そのまま何処かに消えていくと思いきや、少し進んだ所でこちらに引き返してきた

 

「ふむ?」

 

「ちょっとした忠告だ」

白衣を揺らしながら、先程と同じ位置に戻ってくる

 

「貴様が何処から来て、何が目的かは知らん… ただ、これだけは言っておく」

「…何じゃ?」

 

「―――命が惜しければ、この島から直ぐに立ち去る事だ…」

 

忠告というよりは、警告に近い言葉だった

冗談を言っているようには見えない

 

真剣な眼差し

ライダーを見定めるような眼

妖しい紅色が輝いている

 

時間にして数秒

交差した視線は直ぐに外された

 

それだけ言うと、白衣の女性はまたビルの群れへ向かって歩き出した

今度は戻ってくる様子は無い

 

「物騒な物言いじゃなぁ、忠告には感謝しておこうかのう」

 

感謝の言葉を尻目に、彼女の反応は無く

遠ざかる白い背中は徐々に小さくなり、やがて見えなくなった

 

「……いよいよもって胡散臭くなってきたのう…、”命が惜しくば逃げるがよし”と」

「…命が、ねぇ…」

 

霊体化を解いたランサーが近づいてきた

情報共有を図るべきと判断したのだろう

 

「あの第一島人から得た情報をまとめると、

 ・儂等が居る場所は、日本の何処かの離島である

 ・日付は12月25日、クリスマス

 ・生命の脅威となる、何かが起こる(若しくは既に起こっている)

 ・彼女は”仕事”でこの島に来た

 と言ったところかの」

「クリスマス、か …通りで爺さんの魔力が強まっているわけだぜ」

 

白衣の女性の言う事を素直に聞くのならば、一刻も早く島から脱出すべきなのだろう

だが、現実は甘くは無い

 

島から脱出する、と言ってもどうやって実行するか

路地裏から出て、見通しが良くなったが、周囲に海は見当たらない

仮に海辺に辿り着いたとしても、問題は山積みだ

 

「ふむ、さてはてどうしたもんかの…」

「へっ、危険だってんなら任せとけ 元はその為に居るんだしよ」

 

 

≪察知判定≫

ランサー:宝具の効果を使用

⇒察知判定失敗(自動)

 

 

ランサーは虚空から己が愛槍を取り出す

彼の宝具、『貪る呪炎(ルーン)』は使い手を死に導く呪槍として有名であるが、戦の予兆を感じ取った時、振動や火花を発する、”予兆の槍”としての一面も有している

 

だが、この場で殺気や敵意の類は全く感じられない

気配も無い事から、戦闘の兆しは無いのだろう

 

「(…こっちを狙っているようなやつはいねぇか)」

周りを見渡しながら思考する

この場での戦闘は発生し得ないようだ

 

「となれば、”仕事”で来た御仁が向かった先に何かしらの手がかりがあるやもしれぬ」

「んじゃあ、さっきの女が向かった先に行くか」

「じゃな 時にランサーよ、お主追跡スキルの類とかあるかの?」

「いーや、追跡の類はねぇがこの槍が戦闘が起きそうなときに教えてくれるぜ」

愛槍に目を移す

 

「ふむ…

 となれば…その槍が反応しそうなところまで行ってみるべきじゃな」

「それじゃあ行くか」

「うむ」

 

いつの時代、名前も分からない島

理由もハッキリせず、降り立った二人

 

最大の目的は、カルデアへの帰還となる

 

手っ取り早いのは、レイシフトしてカルデアに戻る事だが、期待は出来ない

理解できないまま飛ばされてから、暫らくの時間が過ぎた

連絡が取れるのであれば、とっくに向こうから来る筈だ

 

カルデアにはマスターを始めとした面々がそのまま残っている

座標の起点となるマスターか、アンテナを整備するシールダーの少女は、此処には居ない

 

助けも、連絡を取る手段も無い

文字通り、孤島に流れた”漂流者”となった

 

この島から脱出しようと思えば出来るだろう

だが、脱出してどうとなる訳では無い

本土に渡れたとして、何か解決するという保障も無い

 

するべき事は他に有る

出来ることは他に有る

謎めいた島にあって、現状を理解する事

何もしないよりは遥かにマシだろう

 

まずは、思考する

やるべき事を把握し、初めて行動に移す

行き当たりバッタリなど論外だ

 

ならば、今出来ることは何か

島からの脱出が意味を成さないのならば、島の中で出来ることをやるしかない

 

引っかかる事もある

白衣の女性の言葉

”命が惜しければ、島から立ち去れ”

本人は忠告と言っていたが、実質的に警告と捉える方が正確だろう

 

忠告とは、善意からのアドバイスであり、

警告とは、不都合を避けるための強い戒めの事だ

 

あの時、女性の眼はライダーを試しているように感じた

探るような、見透かすような

無表情の裏に、何かしらの思惑を抱えていた

 

仮に、”裏”があるとすれば何か

忠告の裏に隠された警告

誰かが島に居る事で起こる不都合

白衣の女性の真意

 

正体はまだ分からない

あくまで仮の話であり、考え過ぎなのかもしれない

現状と島の詳細を含め、これから探っていくしかないだろう

 

「(しかし、ここまで人が居らんことなど有り得るのかのう…?)」

 

町並みを探索しながら思考する

 

白衣の女性が消えていった後を探る

コンクリートの巨木が並ぶ中、手がかりを求めて歩く

 

都会的な風景にありがちな喧噪は聞こえず、

相も変わらず、人の姿は全く確認出来ない

 

「(命が惜しい以前に、脅かす脅威も見当たらんなど…)」

 

彼女の忠告が、一般人に対しての物ならば恐れるには値しないのだが、

もし、”命を脅かす危機”が、サーヴァントに対しても有効であるならば話は変わってくる

 

サーヴァントに対抗しうる存在とは、

即ち、サーヴァントである事に他ならないのだ

 

現世に英霊が召喚されるケースは極稀だ

カルデアにおいては今や珍しくない事だが、英霊の召喚など、本来は大掛かりな術式を伴う

 

「(何よりも、そんな所に仕事でくる御仁が只者であるわけがなし…

  儂らの正体を知っている可能性… まぁ、こんな状況下、あり得ぬ話でもないか)」

 

故に、極稀なケースは本当に限られてくる

一つは、カルデアのように、英霊の能力を限定的なモノに落とし、降霊させるシステムがある場合

そして一つは、―――聖杯戦争

 

万能の願望器、聖杯

根源到達への足掛かりとして、魔術師が求める伝説上の杯

聖杯は土地の魔力を吸い上げ、走狗であるサーヴァント召喚の足掛かりとなる

基本的な事は、知識として頭に入っている

 

同時に思い出す

孤島に飛ばされる以前、Dr.ロマンの説明

本来成されるべきだった、レイシフトの対象

 

特異点・日本

人理崩壊の要因

聖杯戦争

 

どこの地域までかの詳しい説明は無かったが、

偶然にも、現在地は離島であるとは言え、日本である

 

偶然の一致か、まさかの必然か

関連付けるならまだしも、断定するには証拠が足りなすぎる

 

そもそも、白衣の女性が、2騎をサーヴァントだと認識していたかも分からないのだ

相対して分かったが、魔力は微弱にしか感じ取れず、魔術師では無い事は確かだろう

不自然な様子ではあったが、スペック的には一般人と対して変わらないように見えた

 

「(ふむ、確かマスターはサーヴァントの情報が分かる…んじゃったっけな?

  まぁ、儂らを探るように見たということはそういう線も有りうる…じゃが、あれはどう見ても一般人じゃったからのう)」

 

意味深な忠告

探るような眼

 

疑心は膨らむばかり

疑い出せばキリがない

何もかもが怪しく見えてしまう

激しく移り変わる現実は、精神の余裕を阻む

 

「(他の類例云々は知らぬし、そもそも儂ら尋常の聖杯戦争に呼ばれたわけでもないからのう)」

 

歩き続けた末、遂にビルの森を抜ける

景色を留めていた無数の防波堤は消え、急激に見晴らしが良くなった

 

「お、ようやっと抜けたか」

 

整備され、展望台のようになっている場所から見える風景

人の手が加えつくされた街とは対照的に、そこにはありのままの自然があった

 

近くに広がる草原平野、深い森林

山地から流れていると思しき、綺麗な河

美しい流れの行きつく先は、紺碧の海

 

「…なんというか雰囲気が変わったな」

 

第一印象は”循環性”

 

海は空に昇り、やがて雨となり、地へ降り注ぐ

木々を潤し、河へ下り、始まりの海へと戻る

 

発達した文明から切り離されたように手つかずの景色

原初の大地も、目の前に広がる物と大差はないのではないか

 

「こりゃまたアレじゃな……、ガラリと雰囲気が変わったのう」

 

だからこそ、急成長したようなビル群が目立ってしまう

人間の発達は、文明の発達とイコールだ

人類は自らの発展と共に、自然と共存してきた

 

手つかずの自然と、手垢に塗れた文明

現代でも、規模を無視して考えれば、珍しくも無い風景だろう

 

「(あのビル群の方が異常、とでもみるべきなのかのう)

 

それでも、雄大な自然を目の当たりにすると同時に、違和感を感じてしまう

 

調和が全く無い

 

道路の端を境界線としているかのような、急激な変化、或いは落差

まるで、隔絶しているように、隔離されているかのように

コンセプトが”別世界”と言われたら納得してしまうレベルだ

 

だからだろうか、ありのままの手つかずの自然が、何故か恐ろしい物に感じるのは

 

人間が潜むのが不自然なコンクリートのジャングルであるとすれば、

獣が潜むのは、自然のジャングルなのだから

 

「(………まぁ、大凡尋常ならざる理由でもあるんじゃろうなあ)」

 

把握できない状況を、把握するために動く

 

「ランサーよ、槍はどんな具合じゃ?」

「…あぁ、結構良い感じな奴がいるんじゃねぇか?」

手元で発生しする火花を見る

 

現在、予兆の槍はバチバチと火花を発し続けている

戦闘を起こす要因、敵意・戦意ある者が付近に存在する証明だ

 

「ほう…そこんところどうなんじゃそこの御仁?」

 

ライダーの発する問いに答えは無い

敢えて無視を決め込んでいるのか、それとも、単にこちらの声が届かない場所にいるのか

 

いずれにせよ、戦闘の意志のある何者かが付近に居るのは間違いない

 

「ふむ、まぁ素直に出てくるはずが無いのう、一方的に攻撃出来る有利を手放すわけが無いはずじゃからな」

「とりあえずどうするよ、爺さん? 俺は遠距離の攻撃手段はねぇぞ」

「…ならば致し方あるまいな 儂の”宝具”でここら一帯ごと薙ぎはらうのが是じゃろうて」

「なら下がってたほうがいいか?」

「じゃの まぁ、そこまで時間はかからんはずじゃ

 相手は戦術的に立ち回れて且つ、2対1に不利を感じて隠れることができる程度には頭が回るようじゃからな」

 

”敵”は未だ姿を現さない

何の反応も見せないのは、それ程2騎を警戒しているからなのか

 

「まぁ、儂の宝具は少々ばかり残虐じゃからな…この衣の色が赤である理由を一つ教授してやろうかの」

「…爺さんなかなかに過激だな、それじゃあ頼んだぜ」

「本当はこの名前を使うのは嫌なんじゃがの…、致し方あるまい…!」

 

魔力が渦巻く

不吉が形を成そうとしている

 

「さぁ、我こそは戦争を呼び覚ます者!地上の1/4を統べし者!我が袂に争いあり!流血あり!今こそ黙示録の―――」

 

ライダーの宣言

今、まさに彼の宝具が起動されようとした瞬間

 

「…いや、気が変わった」

「ん? どうした爺さん」

「戻るぞランサー、ここにいるだけ無用じゃわい」

「…そうか? それなら反対方向の道を探るってことか?」

「付き合わせてもらってなんじゃが、すまんな」

「…まぁ今はチームで行動してるもんだしな、了解だ」

 

戦の予兆が感じられる場所から遠ざかりながら、2騎は小声で会話を行う

 

「察してもらってすまんのう」

「…気にすんな、俺としても無策に突っ走るのは趣味じゃねぇ」

「まぁ、釣れるか否かは5分5分ってところかの ちと、無防備そうにしてくれると助かるわい」

「あぁ、いいぜ」

 

敵が陰から狙ってきているのならば、迎え撃たなければならない

故にライダーは餌を撒いた

 

偽りの宝具の宣言に反応してくれるならば良し

警戒して敵が隠れたまま出てこないならば、無理に見つけだす必要も無い

 

「まぁ、幾らか知恵があるならばこのレッドライダーに恐れを為すのは当然じゃからな」

「あぁ、とっとと行こうぜ」

「しっかし無駄足じゃったなぁ…儂にはいささか骨じゃったなぁ」

 

露骨な挑発

それでも敵は姿を見せることなく、2騎は敵のテリトリーから撤退した

 

 

 

 

 

「……結局無駄打ちじゃったか…、となると、やはりこっちしかないかの…」

「…そうだな」

 

2騎のサーヴァントは撤退後、街中を探索したが、結局何の情報も得ることは出来なかった

 

手掛かりはランサーの槍のみ

敵意が指し示す方向は、文明と自然を隔てる境界線の先にある

 

「戦意を持つ相手が近くにいる以上、隙を晒す事なるだろうからやりたくはなかったんじゃが…こっちを地道に探す他あるまい」

「まぁ、戦闘になったら俺に任せてくれや」

「うむ、任せたぞい」

 

調和の無い風景

黙したまま、何も駆らぬ獣は

手つかずの自然、広大な草原に潜んでいるのだろう

 

道路の端は、よく見てみると途切れていた

中央線は真横に分断され、歪に草原と同化している

 

そして、アスファルトの道路から、草木の生い茂る”自然領域”へ足を踏み入れた

 

「果てさて、何が飛んでくるやら」

「獣とかにも気を付けねぇとな、特に猪とかな…」

 

境界を越えた瞬間、嫌な感覚が体を通り抜ける

直感が警鐘を鳴らす

 

ゾワッ、と

 

一瞬だが、確かに感じた

普通では無い、強力な魔力反応

 

一瞬の出来事

体を通り抜けた不可思議な感覚

 

街中に居た時は何事もなかったが、展望台から外へ出た矢先、突如として示された脅威

 

「………獣に注意向けてる場合じゃないようじゃの」

「……どうやらそのようだな…!」

槍を構える

 

ホンの一瞬だけの事だったが、並ではない魔力量を感知した

何より脅威なのが、1つだけでなく、”複数の”反応だったことだ

 

今ではすっかり鳴りを潜めてしまい、先程の反応を探る事はできない

最大限に集中してようやく感じ取れるレベルになってしまっている

 

「儂等、えらいところに踏み込んだようじゃな」

「俺としては強い奴と戦えるのは万々歳なんだがな…」

 

広大な景色の中、幾つか魔力の集中する場所

脈動する心臓のような、生物らしさ

地に根差す、霊脈・龍脈の類では決して無い

 

2騎の侵入を受け、膨大な魔力反応の主達が警戒したとしたら

確実に潜んでいるのだ

複数の”獣”達が

 

この場所は本当の境界だったのだ

”獣”を隔離するための柵であり、檻

 

「そんなに警戒せんでもいいんじゃよ?」

 

街中ではまるで感じられなかった脅威

脈動する魔力は、どれもその場に留まるばかりで、動くことは無い

人間の住む領域に、積極的に侵入してこないのは喜ばしい事だとしても、だ

 

明確な危機

予兆にして予感

 

自然に取られる臨戦態勢

改めて意識を切り替えようとしたその瞬間、2騎の体に異変が起こる

 

右手が熱い

突然焼けるような痛みが走り抜けた

 

「むうッ!?」

「グッ!?」

 

何者かの攻撃か、と警戒したが、直ぐに手の痛みは消え去った

そして、原因である自らの手を確認する

 

痛みの代わりに、手の甲に残ったモノ

紅い、傷痕のような何か

触れても、痛みは全く無いが、張り付いて取れない

 

紅黒いタトゥーのような、奇妙な紋様

その正体を、自分達は知っていた

 

「これは…」

当然ながら見覚えはある

 

「令呪、じゃと?」

「…いつの間に俺たちはマスターになったんだろうな」

自らの手を見て唖然とする

 

マスターに宿る物とは形状が異なるようだが、間違いなく本物である事は理解できた

だが、問題はそこだけでは無い

 

令呪とは、聖杯戦争において、選ばれたマスターにのみ発現する特権

サーヴァントに対する絶対命令権

 

ならば、何故

今、この場で

サ ー ヴ ァ ン ト で あ る 自 分 達 に 発 現 し た の か ?

 

「なるほど… これで儂らは本格的に参加者って事になったんじゃの…、縁なき誰か(ストレンジャー)でなく…」

「ってことは、セオリー通りなら相手は5騎か…」

 

点と点が繋がり始める

理解したくない事が、現実となって、嫌でも理解を促す

 

日本、特異点、聖杯戦争

隔絶された自然、潜む獣達

 

白衣の女性の言葉が現実味を帯びてくる

離れた場所からでも察知できるレベルの魔力

命を脅かす危険

一般人だろうが、サーヴァントだろうが、この暴威の前では等しく脅威

 

当たって欲しくない予感の裏付け

この世界、この島に召喚された異物

潜む獣達の正体は、間違いなく、―――サーヴァント

 

薄々は分かっていた

強大な魔力の反応

同じサーヴァント同士、気配を感じ取るのは困難ではない

 

大きく感じ取れた魔力反応は、5つ

自分達を含め、計7つ

クラスまで把握する事は流石に無理だが、令呪まで発現している以上、ほぼ確定だろう

 

「で、ここまでピースが揃えば流石に分かろうもんじゃな

 まぁ、儂らがわざわざ飛ばされてきたとなればそういう事じゃろうしな」

「しかし、マスターがいないのは何があったんだろうな」

 

本来レイシフトする予定だった特異点に、何らかの原因で、2騎だけが招かれた

特異点・日本、聖杯戦争を原因とする人理崩壊の起点だろう

この場は既に、渦中にあるのだ

イレギュラーの塊と言えるが、状況が物語っている

 

自然の中に潜む、未だ見ぬ5騎の獣

本来、聖杯を求めるマスターによって召喚される者達

だが、今この場において、手綱を取る存在は居ない

 

解き放たれた超常の存在

禁断の地に足を踏み入れた

それでも、引き返す事は出来ない

 

こちらから気配を察知できるという事は、逆もまた然り

明確に、向こう側に補足された可能性は高い

 

もしここで逃亡でもしたのならば、追撃は必ず来る

曲がりなりにも、聖杯戦争だ

万能の願望器を求めるのは、何もマスターだけでは無い

 

自らの欲のため、聖杯を欲する者が有れば、この機会を逃す筈がない

枷となるマスターは居らず、離島という限られた戦場

強力な力を持ったサーヴァントにとって、これ程の好条件は無いからだ

 

通常、敗北を決定付ける筈のマスターの不在

魔力供給を担う存在が居なければ、消滅は時間の問題となる

事態が勝手に収束してくれるならば、それに越したことは無いが、期待できそうもない

 

だが、2騎は魔力の消費を気にせず存在できている

供給元が明らかでないこの状況にあって、何処から魔力が送られてくるのかは分からない

 

他の面々に至っても同じなのだろう

バックアップがどこまで許されるかは不明だが、事態の自然解決は有り得ない

 

「あの女人が儂らの事を見抜いた上で言っていたのか、それとも見抜かずに言ったのか

 なんにせよ、警戒は必須じゃの」

「そうだな、とりあえずは他のサーヴァントを見つけて撃破ってところか」

 

此処に、すべき事は決まった

 

島からの脱出は意味を失っている

事態の解決には至らないからだ

 

戦場からの逃亡は無意味だ

敵は必ず追い縋る

 

戦うしかない

生き延びるしかない

右も左も分からない、全てが不明な不条理の中で

 

目的はある

希望もある

 

この場が聖杯戦争であるならば、戦いの果てには必ず願望器が顕現する筈だ

聖杯があれば、カルデアへの帰還も視野に入る

今までマスター達が立ち会ってきた特異点は、ほぼ聖杯が原因だったという

 

特異点を修復し、聖杯の回収した後、時代によって歴史は修正される

戦いに勝利し、聖杯を入手出来れば、事態は解決に向かうだろう

そもそもの目的が特異点の修復なのだから、任務の範疇だ

 

人理修復

グランドオーダー

 

歴史、時代に名を残し、語り続けられてきた英達霊

決して楽な道では無い

どこまで行っても、結局は戦争だ

 

「なんにせよ、じゃな」

「分かりやすく目的が定まったのは良い事じゃの」

「聖杯戦争をどうにかする、んで、帰る シンプルでいいじゃねぇか」

 

正体不明の5騎を相手にし、その全てに勝利しなければならない

殺しもすれば、殺されもする

 

決して避けては通れない道

記念すべき初陣は、苛烈な戦争によって彩られる

華やかさなど一切無く、泥に塗れた、血生臭い道のり

 

いずれ訪れると理解していた、戦いの幕開け

偶然、今がそのタイミングだっただけ

昨日を幸福に生きていたとしても、今日もそうであるとは限らない

 

全ては偶然に過ぎない

初陣が聖杯戦争の舞台だったのも、舞台の踊り手に選ばれたのも偶然でしかない

 

これは戦いだ

今を勝ち取るための、明日を勝ち取るための戦い

 

失われた未来を取り戻すための物語

グランドオーダーが、今、幕を開ける

 




聖杯戦争開幕

鯖全てにはいつでも使える補正(2d6分)として令呪を3画ずつ付与するよ
戦闘でもシナリオでも色々できるよ
敵も使うけどね

RPは原文を尊重
しようかと思ったけど加筆修正は必要だわ

直せる所は直していく
見落としは許し亭許して
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