個性『英雄』   作:ゆっくりシン

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この話は、21話と22話の間の話となっております。


短編③ 『女子会』

 1年A組の女子たちは雄英の近くにあるカフェに入って行く。

 少女たちはカフェに入り、椅子に座ってすぐにこのカフェ名物のパンケーキを注文した。

 ふんわりと焼かれたパンケーキ二つが重なり、その上にはふわふわのクリーム。その上からシュガーパウダーがかけられた、言うならばインスタ映えしそうなモノだ。

 そのパンケーキを持って来たのは、白いひげに仏教面のコック某を被った初老の大男だった。

 男の名前は“甘崎(かんざき) 厳廿楼(げんじゅうろう)”。

 またの名を、『ケーキ職人』“スイーツマスター”。

 そう、(ヴィラン)である。

 個性:『お菓子作り』

 お菓子の材料を無限に生み出したりする個性だ。

 まるっきり戦闘向けの個性ではないが、甘崎厳廿楼は長年の訓練により、この個性でも最前線で戦えるほどの力を持っている。

 普段はこのカフェでケーキを提供する爺さんだが、裏では『ファウスト』に所属する(ヴィラン)として活動している。

 

「お嬢ちゃんたち、そろそろ林間合宿に行けるかどうかを懸けた期末テストがあるんだろう? こんなところでのんびりケーキを食べながら談笑していて良いのか?」

 

「ええ、大丈夫よ。まだそれなりに期間はあるし、慌てても何も生まないわ。時には落ち着いて精神を休ませないと、ケロ」

 

 蛙吹梅雨はそんな事を言いながらパンケーキを頬張る。

 他の女子たちもとても美味しそうにパンケーキを食べている。

 それを見て甘崎厳廿楼は少し表情を和らげる。

 普段からムスッとした顔なのだが、自分の作ったケーキが美味しそうに食べられている所を見ると、つい表情が和らぐのだ。

 少女たちは学校の事についての会話をする。

 だが、途中から“とある少年”についての愚痴へと変わっていった。

 普段は他人の不満を言わない八百万百ですら“とある少年”についての愚痴を話す。

 それはしょうがないと言えるだろう。

 数日前、1年A組はテスト前実戦訓練で“とある少年”にボコボコにされたばかりなのだ。

 しかも、一切の本気を出さずにだ。

 クラスメイトで唯一本気らしい本気を出された切島鋭児郎ですら、全力の2%しか出されなかったという。

 それすら出されることなくボコボコにされた者の怒り、恨みは大きいものになっている。

 そんな少女らの元に白い髪の女性が近づいていく。

 

「よう、久しぶりだねぇ」

 

 その人物の名は“紅 華火”。

 フリーな性格だが一応、『ファウスト』の幹部である。

 紅華火は愚痴を言い合っていた少女たちの輪にさも当然のように入る。

 

「龍兎ちゃんの愚痴? う~ん。訓練だったからしょうがないんじゃないかな? あの時私は白神ちゃんと戦ってたけど、彼女も本気じゃなかったみたいだし」

 

「それでもさ、皆実戦やと思って全力でやってたのに遊び感覚でやられてたなんて何か、こ~、キツイやん」

 

「そうかな? 一応私たちは生徒側がクリアできるように色々な穴を作っていたし。まあ、その穴を突く為の難関として龍兎ちゃん(ブラッドスターク)が選ばれたんだけどね・・・・・・」

 

「難関過ぎるよぉ~。私なんか後ろから攻撃しようとしたのに見抜かれたもん」

 

 葉隠透はそう言いながらパンケーキを頬張る。

 それを見て紅華火は少し笑う。

 そして、

 

「だから、あの時、駄目だったところを一々説明していたでしょ。そこを期末テストの実技で気をつけろ、って事なんだよ」

 

 紅華火はそう言ってコーヒーを一飲みし、大人のお姉さんアピールをする。

 これは、紅華火の悪いクセと言えるだろう。

 年下に接するときに“お姉さんアピール”をついしてしまうクセがあるのだ。

 前世で若く死んだことが原因なのだが、二十歳になるのだからそろそろ治って欲しいクセだろう。

 事実、(勝手に、無理矢理)弟みたいな扱いをされている機鰐龍兎からしたらそれはたまったモノじゃない。

 だが、紅華火本人に悪気はないため、よりタチが悪い。

 しかし、周りの人間にそこにツッコミを入れる人物がいないのも問題点の一つと言っていいだろう。

 

「そういえば、紅さんの“個性”、プロでも通じそうなモノですのに、何で『ファウスト』として(ヴィラン)という汚名を被っているのですか?」

 

「ん~? “ヒーロー”に興味が無いから・・・かな? それに、私の個性は戦う事に特化していても守る事には適していないから」

 

「守ることに適していない、ですか?」

 

「そう。私は傷を負ったとしても個性の関係ですぐに回復するし、体を炎に変化させれば物理攻撃を完全に無効化できるんだけどさ、その攻撃は私を貫通して後ろに行くのよ。誰かを守るためには炎に変化せずに守らなきゃいけないけど、そうすると怪我の回復に体力を奪われるために戦闘時間も短くなる。それに、飛ぶときなんて炎の羽を使ってる分、誰かを抱えて飛ぶなんて無理。焼き殺しちゃうもん」

 

 紅華火はそう言いながら勝手に八百万百のパンケーキを少し切って頬張った。

 だが、それをとがめる者はいなかった。

 雄英に通っているという事は、当たり前だが少女たちはプロヒーローを目指している。

 そして、目の前にいる女性はプロヒーローでも通じるほどの実力の持ち主だ。

 そんな彼女は自身の個性の特性を全て把握したうえで自身の道を決めている“大人”だったのだ。

 ニコニコとした優しい笑顔で、大人っぽく、どこか抜けているお姉さん。

 そんなイメージを持っていた少女たちにとって、自分を見つめ、未来を決めている紅華火は“凄い存在”であった。

 

「ん? なんか静まり返っちゃってるね。う~ん。・・・・・・そうだ、私について何か質問ある人~! 答えられることなら何でも答えちゃうよ~」

 

「えっと、せやさ。紅さんの個性名って何なん?」

 

「よくぞ聞いてくれました! 私の個性名は『不死鳥(フェニックス)』。個性の内容は名前のまんまだよ」

 

 紅華火は楽しそうに、それでいて当たり前のようにそう言った。

 だが、それが普通じゃない少女たちからしたらその個性は驚きでしかない。

 

「『不死鳥(フェニックス)』・・・となりますと・・・・・・死なないという事でしょうか?」

 

「いんや。死ぬよ」

 

 紅華火は芦戸三奈のパンケーキを頬張りながらサラッという。

 

「さすがに死なない個性ってのはないよ。・・・・・・ただ、不死鳥は二種類いるからね。どうかは分からないよ。だって死んだことないもん」

 

 紅華火は楽しそうに言いながら耳郎響香のパンケーキを盗み食いする。

 当の紅華火は楽しそうだが、少女たちは楽しいお茶会をする雰囲気ではなくなってしまった。

 その時、カフェの扉が音を立てて開かれた。

 より正確に言えば、扉につけられている鈴が扉が開く事によってチリンチリンと音を立てたのだ。

 少女たちの視線は音のした扉へと向けられた。

 だが、そこには誰もいなかった。

 店内にいる客は少女たちだけだったので、誰かが店を出たという訳ではなさそうだ。

 少女たちが不思議に思っていると、

 

「紅。お前何やってるんだ」

 

 そんな声がした。

 声のした方を向くと、いつの間にか少女たちの輪の中に青い長髪の少女がいた。

 

「あっ、帰って来てたんだ。しばらく前に龍玉ちゃんが探しに行ったばっかりだよ。欧米に」

 

「今帰って来たばかりでな。北米から」

 

「あら。見当違いだったのかな?」

 

「いや、少し前までは欧米に居たからあながち間違っていない」

 

 長髪の少女はそう言いながらウエイトレスをしていた仕原弓を呼んで注文をする。

 あまりにも自然で、それでいて少女たちの事を見えていないようなそぶりに、八百万百はオドオドしながらも話しかける。

 

「あの・・・貴女は・・・・・・?」

 

「間違いが一つ。『貴女』じゃなくて『貴方』だ。・・・・・・俺は男だよ」

 

「そ、それは失礼しましたわ」

 

「賢王から聞いてる。俺は“リムル”。一応『ファウスト』の幹部だ」

 

 リムルはそう言いながら運ばれて来たケーキを食べる。

 

「“リムル”ってアレじゃない! 神出鬼没のヴィジランテ! 個性不明で滅茶苦茶強いって有名なヤツ!」

 

 と芦戸三奈が興奮気味に言う。

 

「神出鬼没、ねえ。俺は放浪癖があるだけなんだけどな」

 

「世界を股に掛けた放浪は迷惑なだけだよ」

 

「そう言うなよ、紅」

 

 リムルはそう言いながらケーキと共に頼んだ紅茶を一飲みする。

 そして、

 

「そんじゃ。そろそろ行く」

 

 そう言ってスッと姿を消した。

 少女たちはポカーンとその様子を見ている事しかできなかった。

 そして、リムルのせいで完全にお茶会の雰囲気ではなくなり、解散となった。

 

 




『ファウスト』幹部は大体自由人。

この作品のヒロインって……

  • 白神神姫
  • 使原弓
  • 紅華炎
  • 暗視波奉
  • 赤口キリコ(安藤よしみ)

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