これは、『死穢八斎會』突入作戦二日前の話だ。
俺はジャージに着替え、トレーニングルームへと入る。
そこの中央には腕を組んで仁王立ちをしている爆豪がとんでもない顔で立っていた。
それを見て少し肩を落としてため息を吐きながら言う。
「ンでいきなりイライラしてるんだよ」
「テメェが遅れたからだろうが」
「そっちがいきなり呼び出したんだろ? こっちにだって予定があるんだからそこら辺考慮してくれよ」
俺の言葉を聞いて爆豪は少し舌打ちをして黙った。
「それで? 何の用だ?」
「テメェの全てを寄越せ」
爆豪のその言葉を聞いた瞬間、俺は素早く距離を取りケツをガードする。
俺のその一連の行動に爆豪は訝しむような顔をした。
だが、そんなの気にすることなくいつでも逃走できるように態勢を整える。
「何してんだ、オマエ」
「いや、爆豪がソッチ系の趣味持ちとは思わなくってな」
そう言った瞬間、爆豪は一瞬だけ呆けた後、一気にバケモノみたいな顔になった。
「そういう意味じゃねェ!! 何変な勘違いしてんだコラ!!!」
「ほんとぉ?」
「本当だボケェ!! ってか何だそのウザい表情と口調は!!!!?」
「どうどう。落ち着けって。ただ煽っただけじゃねえか」
「煽んなぁ!!」
爆豪は両掌を小さく爆破させてこちらに近づいてくる。
ちょ、止め、止めろ。
俺は衝撃系の音が苦手なのだ。
『あの事』を強く思い出すスイッチになってしまうから。
「んで、なんで俺を呼んだの? 詳しく言ってくれ」
「お前の話を聞いてからずっと考えてた。俺は強くなるためにどんなものでも俺のモンにしてNo.1になると決めた。だから、テメェの技術含めた全てを寄越せ。それを取り入れて強くなる」
「いいけど、俺の技術は俺だからこそできるんだぞ?」
「あ? どういうことだ?」
怪訝な顔をする爆豪から俺は距離を取ると、軽く跳ねる。
これは準備運動でしかない。
俺は少し深呼吸をすると、素早く体を動かす。
最初に前へと飛び跳ねる。
そして、着地と同時に後方へバク中で真っ直ぐ飛び跳ねる。
次は足ではなく右手で地を触り、腕力だけで体を浮かせながら回転させると素早く全方向に打撃攻撃を放つ。
それだけでは終わらせず、着地と共にその場から離れて即座に構えを取る。
この一連の流れを終え、俺は息を吐いて腕を下げた。
「ほれ、これが俺の技術。ただひたすら慣性の法則を自分の筋力で押しつぶして無理矢理な動きで敵を翻弄するだけなんだ。だから、俺にしかできない」
俺がそう言うと爆豪は少し息を吐くと前へと飛び跳ねた。
その軌道は俺の動きと全く一緒だと思う。
あまりにも正確な動き。
俺はそれを見て柄にもなく感心してしまった。
才能マンだという事は知っていたが、まさかここまでとは思っていなかったのだ。
爆豪はバク中をすると、右手で着地すると同時に小さな爆破で体を浮かせ回転をしながら俺と同じ動きにプラスで自身の爆破攻撃を織り交ぜて綺麗に着地した。
「おお! “個性”込みとはいえ、簡単にモノにしただけじゃなくもうオリジナルアレンジを入れるとは思ってなかったよ。スゲェな」
「・・・・・・別に、動きを真似るぐらいは猿だってできる。けど、お前みたいに“個性”無しでやれって言われたらすぐにはできねぇ。・・・・・・・・・なぁ、聞いても良いか?」
「言われなきゃわからんから聞きたいことがあればどうぞ」
「無駄な動きが多くねぇか?」
「うん。わざと。・・・・・・今のは攻撃よりも相手へのけん制及び威嚇目的だからね」
「なるほどなぁ。派手に暴れる事で力を誇示しつつ『何をするか分からない』雰囲気を出すって所か」
「正解」
俺は両手の人差し指を立ててソレナのポーズで答える。
「じゃあ次は実践で使えるモン見せろ」
「無理」
「は?」
俺の即答に爆豪は呆けた顔を見せて来た。
少し笑いそうになったので、足を抓ってそれを堪えた。
「俺の戦術は常に一対一を基本としてる。相手が多数だった場合は一か所に留まらず動き続けることで一対一で戦えるようにしてた。だから俺は勝ててたんだ」
「常に一対一、か」
「そ、多数相手じゃ流石にきついからな。それに、戦いの中で咄嗟に使っていた技術も多いから説明が難しいし、見せるだけじゃ分からないだろうよ」
「それだったら、俺と戦え」
「格ゲーで?」
「実戦だボケェ!!!」
「ちょ、冗談だって。怒るなよ・・・」
俺は爆豪の迫力に押され、少しだけ縮んだ。
戦闘中ならばこの程度怖くもなんともないのだが、こういった日常の中では少しでもリアクションを取っておいた方が良いと思ったから押され気味になっているだけだと補足しておこう。
いいか、俺は一切ビビってないぞ。
「それじゃ、“個性”ナシが条件だけど良いか?」
「ああ、それでいい。そっから盗む」
爆豪の返事を聞いた俺は彼から一定距離離れた。
そして、
「それじゃ、どこからでもかかって来なさいな」
俺がそう言った瞬間、爆豪は一気に俺との距離を詰めた。
だけど、あまりにも動きが見えすぎている。
人間は動こうとすると確実に体のどこかに力が入る。
それを確認できれば、後は行動を読んで動くだけで簡単に攻撃を避けることが可能だ。
俺は体を少し後ろに倒し、肉体の防衛本能に動きを委ねる。
例を挙げよう。
直立した状態から体を前に倒すとある一定の所で利き足が意識していないのに勝手に倒れるのを防ぐ。
これが肉体の防衛本能による反射である。
もっと分かりやすい例で言うなら熱い物を触ると意識していなくても手を引く反射がまさにソレである。
人間の動物として備わっている『体を守る』防衛機能。
これを上手に利用すれば体にほとんど力を入れることなく動く事が出来る。
後ろに倒れそうになった体は勝手に足が動くことでバランスを取り、その動きによって爆豪の攻撃を避けた。
さらに、倒れようとする勢いを殺さず体を回転させることで爆豪の後頭部に裏拳を叩きこんだ。
「ッ!!!」
爆豪は何が起きたのか判断できなかったらしく俺の攻撃を喰らってバランスを崩し倒れそうになる。
だが、素早く地面に手を付いて倒れるのを阻止しつつ態勢を整えた。
俺はそれを見計らって次は爆豪の方に向かって体を前に倒す。
これまた反射の応用で『踏み込みのないダッシュ』が可能となる。
バトル漫画とかを見てもらえれば分かりやすいかもしれない例を挙げよう。
一番いいのはサイヤ人編だろう。
さぁ、ドラゴンボール(漫画)の準備は出来たか?
説明を始める。
基本的にダッシュなど勢いよく前に出ようとする際には『強い踏み込み』が必要になる。
悟空が「カラダもってくれよ!! 3倍界王拳だっ!!!!!」と限界を突破してベジータに向かって飛んでってボコボコにするところが参考だ。
基本的に現実でもああやって地面を強く踏みしめるモノだ。まぁ、地面がへこんだり砕けたりはしないが。
あのように踏み込むという動作がある為に動きが分かるのだ。
だが、倒れ込む勢いで防衛本能による反射で前に出た場合、勢いはあれど踏み込むというワンテンポがない。
その為に一瞬意識的な反応が遅れるのだ。
態勢を整えたばかりで完全な状況把握のできていなかった爆豪が『踏み込みのないダッシュ』を認識するのは困難だっただろう。
とっさに顔を守ったのは良いが、それでは自身の視覚を塞ぐだけになる。
しかも完全に態勢が整っていない状態でやるのは愚策。
俺は倒れる勢いそのままに前転をして、その頭に踵落としを食らわせた。
脳天に強い衝撃を喰らえばどれだけ鍛えていようと一瞬だが意識が堕ちる事だってある。
だが、そう何度も上手に事が運ぶはずなんてなく、俺が着地する寸前で爆豪が動いた。
癖になっているであろう右の大振りは“個性”があるなら十分脅威だがなければただの打撃技だ。
俺は着地してすぐ爆豪に接近し、二の腕を抑えることで攻撃を防ぐのではなくそもそも攻撃をさせない。
回し蹴りもそうだが、遠心力を使う攻撃は中心点に近付けばそこまで威力はない。
欠点としては近づくことで組合になったり殴り飛ばされる可能性があるという所だろう。
だから必要なのは素早い先制攻撃である。
俺は爆豪の顔に軽いジャブを入れ、反射で目を瞑ったと同時に鼻に指を入れて中を抉る。
そして、素早く指を引っこ抜くと、隙だらけの腹に前蹴りを叩きこんだ。
「ガッ・・・・・・!!!」
この一連の攻撃にさすがの爆豪も地面を転がった。
「ほれほれ。どうした? 盗むんじゃないのか?」
「調子に乗んな、変身野郎。今までのは準備運動だ」
「ほほう。言ったね? それじゃあこっちもギア上げてやっちゃうよぉ」
「次はテメェが地面に背中を付ける番だぜ」
爆豪の返しに俺は少し笑った。
あざ笑う意味ではなく、この戦いを純粋に楽しいと思って出た笑みだ。
「さぁ、どこからでも来い!!」
「いくぞコラァ!!!」
瞬間、俺たちは最短距離でぶつかり合った。
結論だけ言うとやり過ぎでどっちも怪我だらけになり相澤先生にこっぴどく叱られた。
爆豪くんが才能マンだとしたらウチの主人公はセンスだけで戦ってる。
似ているようで少し方向性が違う。
ただしどこか似ている。
不思議。
この作品のヒロインって……
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白神神姫
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使原弓
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紅華炎
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暗視波奉
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赤口キリコ(安藤よしみ)