個性『英雄』   作:ゆっくりシン

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令和初投稿。


53話 『大宮さとしの物語⑤』

『さぁさぁさぁ!! ようやくここまで来ました!! この体育祭の大目玉ァ!! 決勝戦が始まるぞぉぉおおおおおお!!!!!』

 

 その声と共に多目的ホールが震えるほどの歓声が湧き上がる。

 ハッキリ言ってうるさい。

 俺は期待と興奮の歓声に包まれながらリングに上がる。

 これが神虎龍との決戦であり、最低でも“二人の人間を”助ける為の戦いだ。

 

『赤コーナー!! 最強!! 最強!! その見た目から付けられたあだ名は“ブロリー”!! 神虎龍ぅぅぅうううううううう!!!!! 青コーナー!! 最速の成長!! 思考し戦いの中で成長し続ける挑戦者(チャレンジャー)!! 大宮さとしぃぃぃいいいいい!!!』

 

 俺はリング上で神虎龍と睨み合う。

 

「さあ、やろうか」

 

「ふん。さっさと終わらせるさ。格好つけたがりの大馬鹿野郎」

 

「格好つけたがり、ねぇ。その言葉、ありがたく受け取っておくよ。・・・・・・始めようか。助けるための戦いを」

 

 そう言い、腰を落として構える。

 神虎龍は手を大きく広げ、威嚇しているクマのように構える。

 高まる緊張感、緊迫しだす空気。

 俺と神虎龍はピクリとも動かずに相手を観察し続ける。

 そして、

 

『ファイト!!!!』

 

 カーンッとコングが鳴ると同時に俺たちは駆け出す。

 神虎龍は右腕を振りかぶり、大振りのパンチを繰り出してきた。

 俺は身を屈めることでそれを回避し、神虎龍の後ろへと素早く回り込む。

 そして、体を三回転させて遠心力・推進力を付けて肘打ちを叩き込む・・・・・・。

 

「っ!」

 

「甘い!!」

 

 神虎龍は左手で俺の肘攻撃を受け止めて、握力そのままに握りつぶそうとしてきた。

 ギチギチギチギチギチッッと肘が悲鳴を上げる。

 痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 俺は歯を食いしばって舌を噛まないようにする。

 そして、跳び上がって体を回転させ、神虎龍の掴みから離れると同時に顔に蹴りを叩き込んだ。

 

『いきなりの激しい攻防!! 彼らの身体能力は本当に人間なのかぁあああああ!!!?』

 

 人間だよ。

 ただの弱い人間さ。

 弱いからこそ鍛えて鍛えて鍛え続けてここまで登ったんだ。

 だが、それは神虎龍も同じだ。

 それに、やっと思い出したんだ。

 神虎龍の事を。

 いや、より正確に言うなら改名前の名前を、だ。

 

「さっさとやろうか。“(おおとり) 大翔(おうが)”」

 

 俺がそう言うと、神虎龍は・・・・・・いや、鳳大翔はニヤリと笑った。

 昔のように。

 俺たちの関係を表すように。

 

「来い! さとし!! “あの日”の決着と行こうじゃないか!!」

 

 瞬間、俺たちはまた、ぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 俺は地面に寝転びながら呟く。

 

「やられてんじゃねぇか、エボルト」

 

「お前もだろう?」

 

 エボルトの小馬鹿にするような声を聞きながら俺はムクリと起き上がる。

 そして、グリスの方に視線を向ける。

 

「ずいぶんと戦い慣れている・・・・・・いや、『仮面ライダーグリス』の戦い方が分かっているな。お前が死んだときって、ビルド放送前だろう。ってか、エグゼイドも、ゴーストも放送してないか。どうやって分かったんだ?」

 

「さぁ? なんか頭の中に浮かんできたって感じ? よく分からない」

 

「そうかよ」

 

 俺はそうぶっきらぼうに答えながらボトルを取り出す。

 そして、

 

《マックスハザードオン! グレート! オールイエイ! ジーニアス! ビルドアップ! ドンテンカン! ドンテンカン! ドンテンカン!》

 

 俺はビルドドライバーのレバーを回す。

 

ガタガタゴットン(イエイ)! ズッタンズッタン(イエイ)! ガタガタゴットン(イエイ)! ズッタンズッタン(イエイ)! Are you ready?》

 

「ビルドアップ」

 

《オーバーフロー! 完全無欠のボトルヤロー! ビルドジーニアス! ヤベーイ! スゲーイ! モノスゲーイ!》

 

 俺は『仮面ライダービルド ジーニアスフォーム(ハザード)』へとフォームチェンジし、構える。

 グリスも構える。

 瞬間、俺たちは“踏み込む事なく”距離を詰めてぶつかり合う。

 

「なるほど」

 

「そう言う事だよ、さとしちゃん」

 

「その名前じゃ呼んで欲しくないんだけどな」

 

 俺はそう言いながらグリスを殴る。

 グリスに避けようという様子はなく、俺の拳が頬に直撃した。

 だが、

 

「良いよ。良いよ。良いよ良いよ良いよ良いよ良いよ良いよ良いよ良いよ。そのパンチ良いよ。良い痛み。これが私に向けられているって考えるととても嬉しいよ」

 

「だったら変身解除になるまで攻撃してやるよ」

 

 俺はそう言ってフルボトルバスターを取り出す。

 そして、ブレードモードにすると同時に思い切り振るう。

 それがより激しい戦いの引き金になった。

 

 

 

 

 

 

 攻撃が来る。

 俺はその攻撃を左手で弾く。

 そして右手でアッパーカットをくり出す。

 だが、その攻撃はいとも簡単に受け止められてしまった。

 

「いいね。強くなったな、さとし」

 

「俺のセリフだ。デカクなったな、大翔」

 

 俺がそう言うと、鳳大翔は歯を見せてニヤリと笑う。

 釣られるように俺もニヤリと笑う。

 そして、

 

「「はぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!」」

 

 俺たちは小細工無しに正面から殴り続ける。

 殴ってはガードされ、殴っては弾かれ、殴られては避け、殴られては弾き、蹴っては受け止められ、蹴っては弾かれ、蹴られては避け、蹴られては弾く。

 それの繰り返しだ。

 だが、俺たちの表情に苦痛はない。

 あるのは笑みだけだ。

 

「はっ・・・・・・」

 

「ははっ・・・・・・」

 

「「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっっっっ!!!!!!!!!!!」」

 

 笑う。笑う。笑う。

 ただ、ひたすら笑い続ける。

 そして、笑いながら殴り続ける。

 俺と鳳大翔の関係を一言で表すと、喧嘩仲間だ。

 馬が合った。

 共通の趣味があった。

 だからこそお互いが気にくわなかった。

 事あるごとにぶつかった。

 事あるごとに殴り合った。

 言葉を交わした事なんて、拳を合わせた回数より少ない。

 そして、ある日、お互いの友人を巻き込んだ大喧嘩になった。

 アレはもう喧嘩とは言えなかった。

 決闘・・・・・・いや、殺し合いと表した方が適切かもしれない。

 周りのギャラリーの興奮が、そのまま俺たちに反映され、喧嘩は過熱し、その熱によってギャラリーはより興奮し、それがまた俺たちに反映されるという事を繰り返した。

 俺も、鳳大翔も、ただひたすらに殴り続けた。

 お互い痣だらけになったし、お互い体のあちこちから流血していた。

 それでも殴り続けていた。

 結果、今まで我関せずで無視し続けていた教師陣が青ざめて俺たちの戦いを止め、ギャラリーをしていた友人の親も呼ばれる騒ぎにもなった。

 俺たちの戦いは中途半端なところで止められ、気づけば連休に入っていた。

 その連休で世界は一変した。

 鳳大翔の家族が死んだ。

 事故だった。

 不幸で哀しい事故。

 出かけ先で居眠り運転をしていたトラックに突っ込まれ、鳳大翔の両親も、鳳大翔が憧れていた兄も、ちょっと悪戯好きな妹も、全員死んだ。

 たった数センチ。

 その差が鳳大翔と家族を引き裂いた。

 幼い少年の前で家族が消えた、一瞬で壊れた。

 そして、鳳大翔は学校に来なくなった。

 いつの間にか遠い親戚に引き取られていた。

 それ以来、俺は鳳大翔の事を忘れて生きていた。

 だが、何の運命かここで出会えた。

 また、戦えた。

 

「そぉいや、あの時は特に意識してなかったが、お前年上だったな。身長同じぐらいだったから忘れてたよ」

 

「ああ、俺もさ」

 

「・・・・・・随分と背格好も変わったな、オイ」

 

「当たり前だ。夢を掴むためにはこうでもならなくちゃな」

 

「夢を掴む、ねぇ。だからって“着たくない汚名を着る事”はないだろう」

 

 俺がそう言った瞬間、鳳大翔の表情が大きく揺らいだ。

 

「お前さ、まさか俺がお前が主犯だとでも思ってたのか? だったら悲しいぜ」

 

 俺は鳳大翔に密着して傍から見れば押し合いをしているように見える体制になる。

 そして、

 

「任せろ。この大観衆だ。お前の名誉を守りつつ主犯を潰せる。だから、俺に任せろ」

 

「だ、めだ。これは俺の問題だ。俺が、俺が抱える」

 

「させねぇよ。俺が安藤の希望になる。そして、お前の希望にもなる」

 

 俺はそう言うと同時に跳び上がり、鳳大翔を蹴って転がる様に距離を取る。

 この時点で勝敗は決まっている。

 絶対勝とうとする者と、何が何でも勝とうとする者。

 これだけなら違いが無いように思われそうだが、俺たちには大きな違いが出来ている。

 勝ちを完全確信する俺と、自身の信念と心情の中で揺らぐ鳳大翔。

 これは何よりも大きな差になる。

 俺は気合を入れて叫ぶように蹴りをくり出す。

 

「俺の必殺技ァ!!!」

 

 右足での回し蹴りを頬に、着地と同時に跳ぶように後ろ回し蹴りを顎に、顔が攻撃された事で反射的に目を瞑ったところ目掛けて渾身の前蹴り。

 鳳大翔は大きくバランスを崩してそのままリング外へと落ちた。

 

『場外!!! 大宮さとし、大接戦を制し、大局を支配し、最後は得意の蹴り技で完全勝利だぁぁああああああ!!!!!!!!』

 

 瞬間、多目的ホール内が歓声に包まれた。

 大きく、そして、景色を歪ませるほど・・・の・・・・・・。

 あ、れ・・・・・・?

 ンで、景色が歪ん、で・・・・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 気が付くと保健室にいた。

 どうやら、興奮と痛みで“エンドルフィン”が鬼のように出ている状態だったから戦えていたみたいだ。

 今はあちこちが痛いし、体の動きも鈍くなっている。

 右手を見ると、包帯がグルグルに巻かれていた。

 だが、そんな事を気にしている余裕はなく、俺の意識が戻った事に気が付いた医療班の方々に抱えられて表彰ステージまで連れていかれた。

 雑に持たないで欲しい。

 普通に痛いから。

 表彰台についてすぐ、表彰式が行われた。

 校長の長ったらしい話を聞き流しながら俺は頭の中で言う言葉を繰り返す。

 三位の二人が表彰状を受け取った。

 二位の鳳大翔が表彰状を受け取った。

 そして、

 

「一位。おめでとう。大宮さとしくん。素晴らしい戦いだったよ」

 

「ウッス」

 

 俺も表彰状を受け取る。

 

「さぁ、優勝した君の思いを言葉にして言ってくれ」

 

「はい。・・・・・・・・・俺がここに立てたのは、日ごろから積み上げ続けた努力によるものだと思っています。ここに立てなかった人たちにもそれぞれの思いがあり、立ちたい理由があったでしょう。俺はその思いを尊重したいと思っています」

 

 そして、と俺は言葉を続ける。

 

「俺が優勝したかった理由は、今、この学校で実際に起きているイジメを止めたい為です。・・・・・・証拠もそろっています」

 

 俺の言葉に多目的ホール内がざわつき出す。

 当たり前か。

 こんな言葉が出るなんて予想できた人間はいないだろうからな。

 

「だから、そのイジメの主犯の主犯をココで吊るし上げます。ねぇ・・・・・・」

 

 俺は、安藤に対するイジメの主犯を強く睨みながら言う。

 

「校長先生」

 




令和でも頑張って投稿していきます(*'▽')

この作品のヒロインって……

  • 白神神姫
  • 使原弓
  • 紅華炎
  • 暗視波奉
  • 赤口キリコ(安藤よしみ)

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