個性『英雄』   作:ゆっくりシン

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『劇場版 仮面ライダージオウ Over_Quartzer』見てきました。
感想と言うか一部ネタバレになりそうだったので活動報告にて色々とくっちゃべりたいと思っています。

同じく視聴した人、ネタバレでも良いよと言う人だけ見てください。


61話 『大宮さとしの物語⑬』

 俺は変な声を聞いた気がして布団の中で目を覚ます。

 隣を見ると、安藤が涙目でこちらを見ていた。

 

「どうした?」

 

「なんでも、ない・・・・・・」

 

 安藤はそれだけを言い黙り込んでしまった。

 何かあったのだろうかと頭を悩ませてみるが、特に心当たりはない。

 それでも、一応、昨日の事を思い出してみる。

 昨日、宴会が始まってすぐ頼りにしていた修善寺は安藤を連れてどこかに行ってしまい、酔っ払いどもに酒を勧められまくった。

 普段ならきっぱりと断りその後それを繰り返し続けるだけなのだが、昨日ばかりは違った。

『あの事件』が解決して以来、俺はこの街に来ていなかった。

 約1年ほどだが、皆、俺の事を待っていたらしい。

 実際、俺が―――偽名を使ったとはいえ―――この街に来ると知った時、皆はとても喜んだらしい。

 だが、偽名を使っていたのもあって、事情があるのだろうと大歓迎するのを我慢していたそうだ。

 だけど、我慢の限界が来たらしく、皆とてもはっちゃけている。

 俺もそれを感じ取り、仕方ないとおちょこ一杯分だけ飲んだ。

 結果から言うとそれだけでダウンした。

 どうやら、俺はかなり酒に弱い体質らしい。初めて知った。

 安藤と修善寺が戻ってきた時には、気持ち悪くてしょうがなかった。

 吐き気は酷いし、頭痛はガンガンと響いてるし、散々な事になっていた。

 今思い出しても気分が悪くなる。

 そして、その後、すぐに俺は自室に戻って布団の中にダイブし、寝に入った。

 それだけだ。

 だから、安藤がなぜ涙目なのかが理解できない。

 俺が腕を組み、首をひねり呻っていると、『松の間』の扉の向こうから修善寺の声がした。

 

「ほら! アンタら起きなさい! メシの時間だよ!!」

 

 あ゙ぁ゙っっ!

 頭が、頭がぁぁあああ!!

 痛ェ、クソほど痛ェ!

 俺は頭を押さえて地面をゴロゴロと転がる。

 酒のせいでただでさえ体調悪いってのに、そこに来る大声は兵器だ・・・・・・。

 地に伏せ、悶絶している俺をヨソに安藤はそそくさと『松の間』を出て行ってしまった。

 俺は匍匐前進で何とか部屋から出て、廊下の真ん中で力尽きたのだった。

 

 

 

 

 

 

 安藤よしみはその顔を青くし、廊下を駆ける。

 朝、いつもよりも早く目が覚め、真っ先に大宮さとしの顔が視界に飛び込んできた。

 一瞬だけ驚くも平然を取り戻し、その体をじっくり観察する。

 より正確に言うなら、前日、最善寺蛍の話に出てきた大きな火傷をしたという右手である。

 思えば、大宮さとしは夏だというのにずっと長袖長ズボンで身を固めていた。

 風呂上がりに着ていた甚平も、長袖長ズボンに改造されていて、肌が見えないようになっていた。

 だが、寝相の影響なのか、寝間着としても使われているその甚平がはだけ、その下・・・・・・肌が少しだが見えていた。

 気になってしまった。

 彼の傷がどのようになっているのか、それがどうしても気になった。

 やましい気持ちも厭らしい気持ちも無く、ただ、純粋に気になったのだ。

 それ故に起こさぬよう、ゆっくり袖をまくった、ゆっくり裾をまくった、ゆっくり服をずらした。

 そして見えてきたのは傷だらけの体だった。

 身体(カラダ)のあっちこっちに傷跡が残っていたのだ。

 大きいモノから小さいモノまで。

 それは、大宮さとしが今までにどれだけ危険な橋を渡り続けていたかを表しているようであった。

 まだ中学生だというのにこんなに傷だらけなのだ。

 しかも、大きな傷の中には、もう完治しているハズなのに皮膚が変色してしまっているモノすらあった。

 それを見た瞬間、安藤よしみは小さく悲鳴を上げてしまっていた。

 瞬間、少年が目覚めた。

 大宮さとしは安藤よしみの異変に気付いたらしく、「どうした?」と不思議そうに聞いて来た。

 安藤よしみは自分のしていたことに気付かれたくないと思い、「なんでもない」とだけ返す。

 そして、何か話を逸らそうとしたが、何も言葉が出なかった。

 数瞬の静寂。

 だが、それを壊す大きな声が部屋に響いた。

 

「ほら! アンタら起きなさい! メシの時間だよ!!」

 

 瞬間、大宮さとしが頭を抱え、小さな悲鳴を上げた。

 そして蹲り悶絶している。

 安藤よしみは先ほどまでの空気から逃げるように部屋から出た。

 そして食堂へと行く道すがら思ってしまった。

 彼にとって自分は助けた不特定多数の一人ではないのか、と。

 だが、それは認めたくないモノであった。

 少年があれだけ必死になって、全身全霊を懸けて、ボロボロになってまでも諦めずに戦ったのは、何も特別な理由なんてなかったのだろう。

 ただ、手が届くところに居たから助けた。

 それ以上でもそれ以下でもなく、本当にそれだけなのだ。

 そう。

 あの少年にとって、安藤よしみは特別な存在ではなく、偶然助けただけの人間なのだ。

 その事実が、少女の心に深く突き刺さっていた。

 だが、当の少年は廊下でダウンしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 白神神姫・・・・・・いや、ミキは目の前で繰り広げられている戦いを見て、何もできないこの状況でただただ歯を食いしばっていた。

 大好きな少年が傷付いている所を近くで見ている事しかできないのだ。

 少年に頼まれたからこそ手出ししないのだが、それが辛い。

 前もそうなのだ。

 いや、前の方が酷かった。

 知っていたのに、それなのに傍観していた。

 ずっと傍観者だった。

『あの事件』の時は自分から異変を知らせたにもかかわらず傍観者のままだった。

 その後に起きた『あの事件』に関しては、異変を感じていたにもかかわらず傍観者のままだったが故に少年は大きなケガをしてしまった。

 それは深い後悔であった。

 悔やんでも悔やみきれぬ心の傷になった。

 それ故に、少年の傍にいようと思った。

 少年が少女の事をただの友達だと思っている事は理解していたし、少年の心に恋愛に目を向けているような余裕がなくなっていることも感じ取っていた。

 そうだとしても、隣にいたかったのだ。

 だが、『あの日』に事件が起きた。いや、それは不幸な事故だった。

 少年が死んだのだ。

 中学校時代からの同級生が階段を踏み外し、その下敷きになって。

 近くにいた目撃者から話を聞くと、やはりと言うか何と言うか、少年は同級生を助けようと走ったのだという。

 昔みたいに、誰かのヒーローになれるように無我夢中で足掻いていたあの頃のように。

 少女は今まで以上に後悔した。

 好きだった少年の事を誰よりも理解しているつもりであった。

 でも、それは傲りであった。

 少年はとっくに乗り越えていたのだ。

 自分の力で、自分の意思で、止まることなく、とっくに。

 彼は、少女に悟られぬように、少女を巻き込まぬように隠れて戦い続けていたのだ。

 ずっと、ずっと一人で。

 それを知った時にはもう遅く、少年はこの世からいなくなってしまった。

 葬式の事はよく覚えていなかった。

 覚えている事とすれば、少年に助けられた人たちが列をなし、大きな騒ぎになった事だけである。

 そして今。

 “個性(チカラ)”を手に入れても、少年に信頼されても、それでも少年は確実に一線を引いていた。

 少女に何かを任せる場合は、少女が手の届く位置にいる時か、少女が大きなケガをしないという確信がある時だけだった。

 だからこそ、この状況が辛く怖かった。

 少女の頭を支配している感情は一つ、

 

 また、少年を救えないのではないか。

 

 それだけだった。

 

 

 

 

 

 

「ゔぇえ~・・・・・・」

 

 俺は吐き気を抑えきれずそんな声を上げた。

 二日酔いとはこんなにもキツイモノなのかと頭を悩ましたいが、頭を稼働させるだけで頭痛がするため考えるのもままならない。

 そんなダウン状態の俺の隣には心配そうにオロオロしている安藤がいる。

 

「ごめんな~。せっかくの旅行なのにこんな事になっちまって」

 

「ううん。さとしが悪いわけではないんだから謝らなくて良いよ」

 

「いんや。俺が酒飲んだせいなんだから俺が悪いよ。ホント、俺は駄目だなぁ」

 

 俺はそう言って苦笑し、ゆっくりと起き上がる。

 

「ちょ、さとし!? ゆっくりしてないと駄目だよ」

 

「大丈夫だよ。これでも体は丈夫なんだ。これだけ休めれば動けるさ。とりあえず、温泉行こうぜ。昨晩寝る前に言ってたろ? 気になる所があるって」

 

 俺がそう言うと安藤はおどおどしながらもコクリと頷いて温泉に行く準備をしだした。

 それを横目に普段から持ち歩いている痛み止めを飲んでおく。

 薬の効果が出るまで約30分ほどなので、それまでは気合で何とかする。

 さぁて、キバって行きますか。

 

 

 

 

 

 

 帰りたい。

 誰だキバって行くとか言ったヤツ。

 ・・・・・・俺か。

 ちなみに帰りたい理由と言うのは、安藤が行きたいと言っていた温泉が混浴だったのだ。

 それだけじゃない。

 俺と安藤が扉の前に着いた瞬間、おっちゃんたちとおばちゃんたちが温泉に清掃中の看板を掛け、スピーカーで『清掃の為一時ご退場お願いします』とかいう放送を流し、完全に貸し切り状態にしてしまったのだ。

 なんか滅茶苦茶いい顔でサムズアップされた。

 解せぬ。

 まあ、逃げようにも出入り口をおっちゃんたちに塞がれている状態だから逃げられないんだけどな。

 まあ、こうなったらヤケだ。と俺は腹を括る。

 今この現状で出来る事と言えば、なるべく安藤の方を見ないようにすることだけだろう。

 俺は念のために腰にタオルを巻いて大事な所を隠しておく。

 

「ンじゃ、行くか」

 

 ようやく痛み止めが効いて来た俺は軽くそう言って歩を踏み出す。

 浴場は広く、二人で使うにはもったいないほどであった。

 俺たちはさっさと体を洗うと、すぐに湯に浸かる。

 温泉は白い濁り湯で、浸かれば必然的にお互いの大事なところは隠されている。

 だが、浸かるまでのわずかな時間に、俺は見落とすことなく“証拠”を視界に捉えていた。

 

「お前さ。俺が気付かないと思ってんの?」

 

 俺がそう言うと、安藤の肩がビクリと震えた。

 

「虐待の跡、もうこうやって見えちゃ俺はジッとしてねえぞ」

 

「そっちね・・・・・・」

 

「そっち? まだ何かあるのか?」

 

「んっ、ううん! なんでもないよ、うん!」

 

 安藤は顔を真っ赤にしながら首を横にブンブンと振るう。

 ・・・・・・何だったのだろうか?

 いや、今は置いておこう。

 

「背中の痣とか、二の腕のと背中のタバコの跡とか、確実に虐待の跡だろ」

 

 まあ、最初、タバコの跡は校長が先導してやらせていたあのイジメによるモノだと思っていたけど、神虎龍に聞いたら知らないって言ってたからずっと疑っていた。

 あのタバコの跡は付けられてまだ新しいと踏んでいたが、日常的に家でそんな事をされていればそりゃ真新しい傷ばかりだよ。

 俺はそう思いながら安藤の目をジッと見る。

 

「今、俺は虎龍たちに頼んで証拠を集めてる。まだ少ないが、これで決定的なモノを掴んだら必ず助ける。だから、言ってくれ。俺を、俺たちを頼ってくれ」

 

「・・・・・・うん」

 

 安藤は小さくそれだけを言い、涙をこぼす。

 俺は、そんな安藤の頭を優しく撫でながら言う。

 

「待ってろ。必ず助けるから。だから苦しくなったら、もう駄目だと思ったらいつでも頼ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 何て残酷なのだろう、と自分でも思う。

 勝手に期待させて、勝手に離れて行こうとした。

 俺は不器用だったし、敵意や悪意以外の人個感情に対しては鈍感だ。

 恋愛感情なんて自分には縁なきモノだとずっと考えていた。

 だから、この旅行の出来事は残酷でしかない。

 結局、ただただ無駄に期待させるだけの出来事なのだから。

 でも、俺はそんな単純な事に気付くことなく先へと進んで行った。

 そうして俺たちの物語最後の平和な日々となる12月へと時間は進んで行くのだった。

 




仮面ライダージオウもこの作品でいつか活躍させたい(*'▽')

この作品のヒロインって……

  • 白神神姫
  • 使原弓
  • 紅華炎
  • 暗視波奉
  • 赤口キリコ(安藤よしみ)

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