個性『英雄』   作:ゆっくりシン

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短編に登場した『あの医者』の登場。


73話 『別れと再会。始まりの合図』

「はぁあ!!」

 

「やぁあ!!」

 

 フルボトルバスターの攻撃を、グリスはツインブレイカーにボトルを装填し、威力を増幅させることで弾く。

 だが、この程度想定していない訳がなく、弾かれた力に抗う事無く後ろへと跳ぶ。

 そして、

 

《ラビット ドラゴン ジャストマッチでーす! ジャストマッチブレイク!》

 

 ボトルが装填されたことにより、フルボトルバスターのブレードに赤と青のエネルギーが纏われる。

 

「うぉりゃぁ!!」

 

 俺は全力でフルボトルバスターを振るう。

 その攻撃はグリスのガードを無視し、腹部へと直撃した。

 

「ッッ!!!」

 

 だが、俺はそこで攻撃を止めるほど温い道を歩いてはいない。

 振るった勢いに体を持ってかれないよう素早くフルボトルバスターを手放し、体勢を低くしてグリスの懐へと潜ると、思い切りアッパーカットを喰らわせた。

 さらに、後ろにのけ反り隙だらけになったその腹へ肘を叩きこんだ。

 グリスは攻撃の勢いをそのままに地面を転がった。

 それでも、油断することなく俺は攻撃態勢と整え、構える。

 

「ッハ―――!!」

 

「どうした? もう止めといた方が良いんじゃないか? 大分無茶しているだろう」

 

「絶対に、止めな、い」

 

 グリスはそう言って寝そべった状態から飛び上がると同時にヴァリアブルゼリーを噴き出して加速、一気に距離を詰めて来た。

 俺はその斜線上に大きなダイヤモンドの壁を設置し、ロケットフルボトルの効果を使用して一気に飛び上がる。

 そして、

 

《ワンサイド! Ready Go!》

 

 右腕にエネルギーが収束する。

 俺はダイヤモンドの壁に突撃してバランスを崩した彼女へとその拳を向けた。

 

《ジーニアスアタック!》

 

 俺は重力+タカフルボトルによる加速を付けて一気に距離を詰める。

 振りかぶり、それを撃ち込む。

 グリスはガードが出来ず、背中に俺の攻撃をモロに喰らった。

 だが、地面に叩きつけられる前に両手で着地し、横へ跳んで地面を数回転がってから態勢を整えてツインブレイカーにボトルとゼリーを装填する。

 

《ツインブレイク!》

 

 グリスは着地した瞬間にできた一瞬の隙を狙って攻撃をしてきた。

 だが、そんなのに対応できないようだったら俺はもっと昔に死んでいる。

 え? 死んだから転生してここにいるんだろ、だって?

 アー、キコエナイナー。

 俺はまっすぐ飛んでくる攻撃を片手で弾き、フェニックスフルボトルと消防車フルボトルの効果を発揮し、勢いよく炎を放出して浴びせる。

 さらに、グリスの背後へとスパイダーフルボトルの効果を使って粘着性のネットを設置し、炎に怯んでいるグリスを蹴飛ばして引っ付かせる。

 それによってできた一瞬の隙に俺はベルトのレバーを回す。

 

《ワンサイド! 逆サイド! Ready Go!》

 

 俺は取り出したドリルクラッシャーと4コマ忍法刀にジーニアスボトルのエネルギーを収束させ、それを振るう。

 エネルギーは衝撃波となりグリスを襲った。

 え? そんな技ないだろ、だって?

 いいだろう。少しぐらい自分で考えたオリジナル技を使ったってよぉ。

 仮免試験前に頑張って作ったんだぞ、オラァ。

 なんてくだらない一人漫才をしながら俺はドリルクラッシャーと4コマ忍法刀をそこらへんに投げ捨てる。

 一応言っておくと、個性で出現させた武器アイテムは俺の手から離れると時間経過で消えるので回収する必要はない。

 グリスは地に倒れ伏し、それでも立ち上がろうとしていた。

 

「諦めろ。俺にゃ、届かない」

 

「届かせる、よ。・・・例え、キミがどこへ行こうと私は、」

 

「だったら届かねえように俺は離れる。お前にはもう、俺みたいなゴミは必要ないからな」

 

 俺はそう言うとベルトのレバーへと手を添え、ゆっくりと回す。

 

《ワンサイド! 逆サイド! オールサイド! Ready Go!》

 

 足にエネルギーが収束する。

 これで、最後だ。

 コイツと・・・『“安藤よしみ”の記憶を持った“赤口キリコ”』との関係は、これで・・・・・・。

 右足を踏み出す。

 左足を踏み出す。

 いつも普通にこなしている何気ない動きがとてもゆっくりに感じられた。

 少し勢いがついてから飛び上がり、右足を強く突き出す。

 ジーニアフォームによる後方へのエネルギー放射で大加速する少し前に俺は小さく呟く。

 

 

 

 

「ごめんな」

 

 

 

 

 そして、攻撃が叩き込まれる。

 

《ジーニアスフィニッシュ!!》

 

「らぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 グリスは何とか体制を整えてガードしようとしていたが、慌てていたが故にそのガードには穴があった。

 俺は、的確にその穴へと攻撃を入れる。

 大きな破壊音と共にグリスの変身が解除された。

 俺は、彼女が気を失っている事を確認してから言う。

 

「コブラ野郎、力を貸せ」

 

「良いだろう。・・・って誰がコブラ野郎だ」

 

「言ってみたくなったんだよ」

 

 そう言う俺の言葉にエボルトはやれやれと言った様子で近づいて来た。

 

「それで、どうすればいいんだ?」

 

「コイツの記憶を消してやってくれ」

 

 俺の言葉に強く反応を示したのはミキだった。

 彼女は俺の腕を掴みガクガクと小刻みに揺らしてきた。

 

「大宮くん! なんでそんなことをするの!? 君はずっとそんな強引な手段を使わずに助けようとしてたじゃん。それなのに、なんで・・・・・・」

 

「俺が弱いからだよ」

 

「ッッ!」

 

「弱いから救えなかった。ただ、拳を振るう事しかできなかったから、コイツを助ける事が出来なかった。周りが勝手に過大評価をし続けてただけだ。俺は、今も昔も弱いままなんだよ。・・・・・・お前も分かってんだろ? なんか、そんな気がする」

 

「うん・・・・・・」

 

「まぁ、失望させたんだとしたらごめんな」

 

 俺はそう言って苦笑する。

 そして、ミキの頭を撫でながらエボルトに言う。

 

「記憶を消してやってくれ。俺と言う“害”を弾くにはそれしか思いつかなかった」

 

「分かった分かった。・・・・・・顔はどうする?」

 

「そのままでいいだろう」

 

 再度デザイン考えるの大変そうだからな。

 エボルトは安藤の頭に手を置き、軽く撫でた。

 

「それだけでいいのか?」

 

「ああ。これでこの娘は何もかもを忘れたさ」

 

「そうか。手ェ煩わせたな」

 

 俺はそう言ってから詩崎鋭矢へ視線を向ける。

 

「お前は、これからどうするんだ?」

 

「勉強をするよ。来年に向けて。・・・・・・それよりも前に逮捕されそうだけど」

 

「大丈夫だ。今日は何もなかった。お前は普通の生活を送ればいい」

 

 驚いた表情を見せる詩崎鋭矢を余所に、俺は赤口の方へと近づき、ゆっくりと担ぎ上げる。

 スマホを取り出し時間を確認するともう六時間目間が終わる頃であった。

 ・・・・・・こりゃ反省文書いとかないとな。

 俺はそんなことを思いながらどう裏工作をしようか、と思考を巡らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 一人の少女が病室で目を覚ます。

 窓際に設置されたベッドで、朝日が全身を照らしていた。

 何が何だか分からず自分の手のひらに視線を落としていると、少女の意識が戻ったことに気が付いた看護師が慌てて医者を呼びに走る。

 呼ばれた医者は何度か派手に転びながらも少女の下へとたどり着く。

 そんな医者を見た少女の感想とすれば、

 

(大丈夫なのかな? この人)

 

 であった。

 確かに、あっちこっちボロボロになって髪もぼさぼさの医者を見てそんな感想を抱かない人間の方が珍しいだろう。

 医者は身なりをサッと整えて少女に笑顔を向ける。

 

「おはよう。僕の名前は“宝生風夢”。ここでキミみたいな訳アリの患者を担当している医者さ。・・・・・・ところで、生年月日と名前を教えてもらえるかな?」

 

「生年月日と、名前・・・・・・あれ? 私の、名前?」

 

 医者―――風夢の言葉を聞いてようやく気が付いた。

 自分の名前が思い出せないのだ。

 いや、名前だけじゃない。

 今までの人生の思い出すらも思い出せないのだ。

 それに戸惑っている少女に風夢は優しい声色で囁くように言う。

 

「ここにはね、キミみたいに記憶を失って入院している人が大勢いる。中には治療して記憶を取り戻した人もいるんだ」

 

 そこまで言ったところで少し風夢の顔に影が出た。

 だが、すぐにその影はなくなる。

 

「だから、これから僕と一緒に少しずつ治療して行こう」

 

 少女にはそう笑う風夢の顔と“誰か”の顔が重なって見えた。

 顔は全然似ていない。

 だけど、その笑顔の雰囲気がどことなくそっくりだったのだ。

 

「そうだ。まだ君の名前を言っていなかったね」

 

「分かるん、ですか・・・?」

 

「保険証とバイクの免許証を持っていたからね。そこから調べたよ」

 

 風夢はそう言うとクマのマスコットがプリントされた財布とアタッシュケースを取り出した。

 少女は首を横に傾げる。

 財布には何となく見覚えがあるのだが、アタッシュケースには一切ないのだ。

 そんな少女を見て風夢は少し苦笑してから言う。

 

「ああ、このアタッシュケースは君の物じゃないよ。ただ、僕からのプレゼントでもある。この中には君の所持していた“あるアイテム”が入っているんだ」

 

 風夢はそう言ってアタッシュケースを開いた。

 そこにはレンチのような部品の付いた水色のアイテムと同じく水色のナックル型のアイテム、そして、ゼリー状のアイテムとボトル形状のアイテムが入っていた。

 少女にはそれが何なのか思い出せなかった。

 そんな少女を余所に風夢はアタッシュケースを閉める。

 

「これは君が所持していた物なんだ。渡しておくよ」

 

 少女はアタッシュケースを受け取る。

 

「あっ、そうだ。君の名前を教えるのを忘れてた」

 

 風夢はそう言って後頭部を掻く。

 少女も話がそれていたことに気付き、とりあえずアタッシュケースをベッドの隣にある備え付けの棚に置く。

 

「教えてください。私の、名前・・・」

 

「うん。・・・君の名前は“赤口キリコ”。年齢は18。君のしていた仕事は・・・・・・いや、これは言わないでおこう」

 

 そう言う風夢に少女―――キリコは疑問を覚えたが、深く追及はしなかった。

 

「ひとまず今日は休んで、明日からカウンセリングを行おう。それで、ゆっくり思い出して行ければいいさ」

 

「はい」

 

 キリコは風夢の言葉にそう答えた。

 何の穢れもない、普通の少女らしい笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 俺はそんな光景を遠くから眺める。

 彼女が普通の少女としている姿が、俺には眩しく見えた。

 その姿は、俺には達成できなかった。

 彼女の笑顔を守ることも、彼女を幸せにしてやることもできなかった。

 結局彼女を助けるためだと自分に嘘を吐き逃げている。

 やはり、どれだけ時間が経過しても俺は弱く幼いままだ。

 

「なぁ、ユウ。もっと俺に出来た事ってなかったのかな?」

 

「さあね。オレにはどうとも言えないよ。ただ、龍兎が彼女と面識あるとは思わなかった」

 

 そう呟くユウの方へ俺は視線を移す。

 

「ん? なんだ? お前、彼女・・・安藤のこと知ってたのか?」

 

「前世で同学年だったんだよ。だから、廊下ですれ違ったりしてた」

 

「ふ~ん。そぉいや、お前の前世での名前って何なんだ? 俺も安藤と同学年だったからもしかしたら知ってるかも」

 

「ああ、オレの名前? “海野”だよ。“海野(うみの)探紗(たんさ)”。それがオレの前世の名前」

 

 その言葉を聞いて俺はゆっくりと腰を上げた。

 ユウは俺の雰囲気が違うのを感じ取ったのか、首をかしげている。

 俺は少し息を吸ってから叫ぶ。

 

「海野、テメェかこのやろぉぉおおおおおおおお!!!!!!!」

 

「はっ、ちょ、何? 何で怒ってんの!?」

 

「俺だ! “大宮さとし”だ!!」

 

「えっ!? 大宮だったの!? お前が死ぬとか何があった!!?」

 

「俺が誰のせいで死んだと思っているんだゴルァァアアアア!!!!!!」

 

 俺は右手を振りかぶってユウの顔を打ち抜くように殴りつける。

 ユウはガードできずに後ろへと倒れ伏す。

 鼻から血がダラダラと血を流しているが、それには気付いていないらしく、目をぱちくりさせながら言う。

 

「オレのせいなの!?」

 

「階段から足を踏み外したテメェの下敷きになったんだよ!!」

 

「ガチでオレのせいだった!!?」

 

「ココであったが百年目ェ!! 歯ァ食いしばれよォ!!!!

 

「ちょ、まっ、止めt・・・・・・ゴフウァッ!!!」

 

 俺は再度、ユウの顔面に拳を叩きこむ。

 ゴスッという肉を撃つ鈍い感触が腕に伝わってきたが、それを気にすることはない。

 なぜなら、死んでから約15年の月日を得て、俺はコイツを殴る事が出来たのだから。

 




一話から決まっていた”賢王雄”の前世設定をようやく出せたぁ。
長かったぁ(約11ヶ月経過)。

いや、ホント、もう少し早く判明する予定だったんですよ。
それなのにこんなに時間が掛かるなんて・・・(;´∀`)


そして、これで『無個性 編』は終了となります。
次回からは(ようやく)『クマ 編』の始まりです。

この作品のヒロインって……

  • 白神神姫
  • 使原弓
  • 紅華炎
  • 暗視波奉
  • 赤口キリコ(安藤よしみ)

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