追憶逸脱   作:種火の茶色いヤツ

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 年末最後の投稿!
 
 コミケ行ってました。ワダ先生の本の列が凄まじかったです。ツイッターのトレンドにのるぐらいに、ものすごい長い列でした。
 ふじのん本を売っているサークル、2、3ぐらいしかなかった件についてorz
 

 ふじのんはいいゾー☆

 広まれ☆


追憶逸脱/1

 新幹線に乗っている間は、本を読んで時々外の景色で物珍しいものがあれば、それを見て感心したりしながら過ごしていたため、退屈というようなことはなかった。東京の県境をまたいだあとは、目的地である駅に到着するまでそう時間はかからなかった。

 

 駅から出て、一番最初にやったことは、周りを眺めることだった。

 

 地元じゃおおよそ見ることのない、高いビルがいくつも並び、沢山の人が()()()()()()詰めになって歩いているという光景は、まず地元では見ることがないため、東京の人たちにとっては日常的なものであっても、俺にとってはかなり珍しく、衝撃的な光景であり、その迫力にただただ感嘆(かんたん)するのみであった。

 

 まるで(あり)のようにたくさんの人が歩くその中に、飛び込んで周りの人と一緒の速度で歩く。歩く速度は、人の数の割に速い──それどころか、地元でゆっくりと歩くよりちょっと速いぐらいだったから、キャリーケース──結局リュックだけでは、荷物を全部詰めることは不可能だった──がほかの人にぶつかったりしないように、慎重になって移動する。

 

 最初の目的地は決まっている。家で地図にマーカーで、通るべき道をなぞって、その道順を家や移動中の電車の中で頭に叩き込みはしたのだけれど、やはり紙面上の記号しかない平面的な景色と、実際に見る景色とでは勝手が違うし、たくさんの人々に翻弄(ほんろう)されて、道に迷うのにそうそう時間はかからなかった。

 

 元の道に戻ろうと、店の看板を目印に移動したり、大きな道路を目印に移動したりはしたものの、やはり慣れない街だったため、更に迷うことは簡単なことだった。誰かに道を聞くのも、なんだか恥ずかしく思えたし、かといって地図を開いて歩くのも、大きなサイズの地図帳だったから、それも恥ずかしく思えた。

 

 それに、道に迷っているという事実を認識してはいるけれど、それに危機感を抱いたりするようなことはなかった。なぜなら、朝早くに家を出発して、東京に到着したのはまだ午前中。つまり、時間がたくさんあったし、適当に()()()()と見知らぬ街を歩くのも、俺の好きな旅番組のようで風情(ふぜい)があったから。最悪、夜になっても目的地が見つからなかったら、道端(みちばた)でキャンプをしてもいいかもしれない。

 

「大体あっちのほうかな」

 

 と遠くに見える、高いビルとか、太陽の位置とかを参考にして、適当な向きへと歩き始める。

 

 

 

 

 2話 追憶逸脱/1

 

 

 

 

 浅上藤乃の礼園女学院の制服は、赤黒い血液にまみれており、彼女は洗濯機で洗えば落ちるかしら、なんていうことを考えていた。

 

 彼女の足元には、ほんの数秒前まで人間だったモノ、すなわちその肉体をぐちゃぐちゃに捻じ切られた、無数の肉塊が転がっていた。

 

 この肉塊たちは、不良と呼ばれるような人種であり、彼らはつい先ほどまで浅上藤乃を娯楽の一環(いっかん)として、(なぐさ)み者としていた。

 

 しかし、他人から見れば眉を(ひそ)めるほどの暴行に対し、浅上藤乃はどこまでも無反応であり、()()が終わった後も、何事もなく学校に通い、友人と談笑し──(なん)らいつもと変わらない生活を送っていた。

 

 そのことに自尊心を酷く傷つけられた不良たちは、彼女を恐怖させ、自らが上位の存在に立つために、今回の()()にナイフという道具を持ち出した。

 

 その結果──浅上藤乃の肉体は激痛に(おそ)われ、彼女の能力(まがん)が発動した。

 

「あら?」

 

 と浅上藤乃は首を傾げ、肉塊の数を数え──この場から一人、生きたまま逃げ出しているということが判明した。

 

 彼女は困ったように首を(かし)げ、ぽつりと呟いた。

 

「わたし、復讐しなきゃいけないのかしら」

 

 ぶるり、と浅上藤乃の身体が震えた。

 

 彼女は復讐を行う意志はあれど、その理性が人間を殺すのはいけないことだ、恐ろしいことだ、と(ささや)きかけていた。故に、彼女は恐怖し身体を震えさせたのだ。

 

 ──しかし、そうした感情とは真逆に、浅上藤乃の広角は釣り上がっていた。

 

 その笑みが意味するものは何か。ともあれ、浅上藤乃はこの場から逃げ出した最後の一人を探しだすために、痛む腹を手で押さえながら、一匹の猟犬と化したのである。

 

 とはいえども、この多くの人が生活する街中では、特定の見知らぬ人物を見つけることは非常に難しく、気が付けば夜の(とばり)()り、時計の短針が12の文字、すなわち午前0時を刺そうとしており、雨も降り始めていた。

 

 しかし、浅上藤乃は雨を気にするような様子はなく、傘をさすこともなく、街中をふらふらと彷徨(さまよ)うかのように歩いていた。

 

「──もしもし?」

 

 と浅上藤乃は声をかけられた。

 

「──ッ」

 

 彼女は振り向き、その顔を見ると息を呑んだ。黒ぶちの眼鏡をかけ、上下黒い服を着た男性──黒桐幹也だった。

 

 ──わたし、この人と会ったことがある。わたし、この人を知っている。

 

 浅上藤乃が中学生だったころ、総体で足をくじいてしまったとき。無痛症なため痛むという感覚もなかったし、普通に歩くこともできた。当時、無通症である浅上藤乃は他人から「痛い?」とか、「痛いの?」とか、普通の人間が持ち合わせている感覚を、持っていない浅上藤乃はよく理解できなくて──そういう風に聞かれるのがとても(いや)でたまらなかった。だから、彼女は意地になってその怪我を隠していた。

 

 けれども、足をくじいた彼女を発見した黒桐幹也は、

 

「痛みは我慢するものじゃない。訴えかけるものなんだ──」

 

 と。怪我のことは何も言わずに、浅上藤乃を背負って保健室へと連れて行ったのだ。

 

 だからこそ、当時黒桐幹也が、怪我の調子を聞かないで、それどころか怪我をしたことを誰にも訴えない浅上藤乃を、叱り飛ばしたことが衝撃的でたまらなかったのだ。

 

 だから、浅上藤乃は黒桐幹也の顔をみるなり、そのことを思い出すことができたのだった。

 

 隠していた怪我に気が付き、その上、浅上藤乃の苦しみを案じてくれた黒桐幹也という人物──その時、浅上藤乃は彼に恋をした。

 

 ──でも、あなたはわたしのことなんか、忘れているのでしょうね。

 

 それは黒桐幹也の様子を見れば(あき)らかだった。

 

 彼が浅上藤乃のことを覚えているのならば、声を掛けるとき名前を呼ぶだろうし、そうでなくても昔のことを引き合いにだしたりしているはずだ。

 

 けれども、今浅上藤乃の前にいる黒桐幹也は、まるで初対面の人物と会うようなふるまいだった。

 

 無理もないのだろう。あの時、黒桐幹也は浅上藤乃を保健室に運んで、それっきりだったのだから。

 

「はい、なんでしょう?」

 

 だから、浅上藤乃もまた初対面のようにふるまうことにした。

 

「お腹、痛いの?」

 

「────ッ。いえ──その──」

 

 浅上藤乃は確信をつかれ、明らかに動揺してみせた。けれども、黒桐幹也はそんな彼女の様子にも構わず、続けた。

 

「君、礼園の生徒さんだろう? あそこは、全寮制だったハズだ。電車に乗り遅れた? なら、タクシーでも呼ぼうか?」

 

「大丈夫です。わたし、持ち合わせがありませんから」

 

「うん、僕だってないよ。家が近いのかな? 礼園の寮は、外出届が通るのか」

 

「いえ、わたしの家は、ここよりは遠い場所にあります」

 

 ははあ、と黒桐幹也は得心(とくしん)がいった様子で、頭を掻いた。

 

「となると、家出かな?」

 

「ええ、そうなりますね」

 

「そっか、だったら僕のところに一晩とまるかい? ああ、一応手を出そうなんて考えてないけれど、もしもなんてことがあるかもしれないから、身の安全の保障はしないよ? 薬も鎮痛剤ぐらいしかないけれど、それでもいいのならおいで」

 

 浅上藤乃は、ほとんど反射的に首を縦にふった。彼女の中には想い人の元に泊まれるという喜びと、一晩限りだが宿を確保できる喜びがあった。

 

「──苦しい?」

 

「いえ。傷はもう(ふさ)がっていますから」

 

「辛かったら背負うから、言いなさい」

 

 というようなやり取りを、黒桐幹也の部屋へと向かう途中、何度か繰り返した。こうした、何気ないやり取りが、浅上藤乃にとってはとても嬉しいものだった。

 

「お腹、痛む?」

 

「いえ──」

 

 浅上藤乃は首を横に振って、否定した。

 

 これは無通症である浅上藤乃にしてみれば、本当のことだった。けれども、彼女は昔のことを思い出して、首を縦に振った。

 

「──はい。とても……とても痛いです。わたし、泣いてしまいそうで──泣いて、いいですか?」

 

 黒桐幹也は頷くと、浅上藤乃は満足げに(まぶた)を閉じた。

 

 黒桐幹也の部屋に到着すると、浅上藤乃はシャワーを借り、その間に雨によって濡れた制服を乾かすことにした。

 

 シャワーから上がるころには、制服はすっかり乾いていたため、それを着るとバスルームから出て、家主の姿が見かけなかったため、しばらくの間探し、玄関に置かれている(くつ)が、浅上藤乃のものしかないということに気が付き、同時にこの部屋の家主は出かけているということが分かった。

 

 浅上藤乃は、ソファーに座って家主の帰りを待つことにしたのだが、結局のところ今日は不良たちから乱暴を受け、そして逃げた少年を探し出そうとあちこちを歩き回っていたことによる疲労が溜まっており、その上恋をする人物の部屋にいるという、一種の安心感から気を抜き、いつの間にかソファーに寝転がっていた。

 

 太陽の陽ざしが窓から部屋へと入り、浅上藤乃の顔を照らすと、彼女はばね仕掛けのように起き上がった。玄関を見れば、黒桐幹也はすでに帰っており、浅上藤乃は家主の留守中に眠りこけてしまうという粗相(そそう)をしてしまったことを理解した。

 

 これは礼園の教育による賜物(たまもの)か、あるいは元来(がんらい)彼女が礼儀正しい性格だったのか、ともかく浅上藤乃は家主に謝罪(しゃざい)をしようとし、黒桐幹也のいる寝室へと移動したが、彼はまだ眠っており、起こすわけにもいかないので、リビングに戻って正座をしながら彼が起きるのを待つことにした。

 

 その間、浅上藤乃はそわそわとした落ち着かない気分で、黒桐幹也がリビングにやってくるのを待っていた。

 

 そして、黒桐幹也がリビングの扉を開くと、浅上藤乃は頭を下げた。

 

「昨晩はお世話になりました。お礼はできませんが、本当に感謝しています」

 

 浅上藤乃は、これでやることは済ませたと言わんばかりに立ち上がり、きびすを返した。しかし、黒桐幹也は、

 

「朝ごはんぐらい食べていきなさい」

 

 と浅上藤乃を引き留めた。これに、彼女はおとなしく(したが)って、準備を手伝おうとしたが、断られたので朝食ができあがるまで待つことにした。

 

 メニューはパスタで、出来上がるまでそう時間はかからなかった。黒桐幹也は、食事中に何も話さないうえ、浅上藤乃が一口も口にしないのを(さみ)しく思い、テレビをつけることにした。

 

 ちょうどアナウンサーが新たなニュースを読み始めるころであった。そのニュースの内容は、半年前から放置されたバーの内部で、無残(むざん)にも体を引きちぎられた4人の少年たちの死体が発見されたというものであった。

 

 アナウンサーは、彼らの身元を次々と()べていき、普段の行動なども読み上げていった。そして、それを聞いたコメンテーターが、()()()()()の不良は死んで(しか)るべきだと言った。

 

 浅上藤乃は、そのコメンテーターの言葉を聞くなり、否、それよりも前──それこそアナウンサーが被害者の名前やら顔やらを述べた時から、腹を抑え、呟くように言った。

 

「──殺されて仕方がないひとなんて、いません」

 

 浅上藤乃の呼吸は自然と荒くなっていた。バーで死んでいた少年たちとは、昨日浅上藤乃を犯し、浅上藤乃によって殺された人物たちのことであり、彼女はその時のことを思い出していた。ナイフの刃が腹に突き刺さり──すでに傷口の無い腹部が、ひどく痛み出した。

 

「なんで──治ったのに、こんな……!」

 

 ズキリ、ズキリ、と腹部に痛みが走り──浅上藤乃はひどく取り乱し、立ち上がると部屋から立ち去ろうとした。

 

 痛い──と浅上藤乃は思った。そして、その感覚に自分の生命(ココロ)を感じた。肉体の傷は、無通症すらも乗り越えてやってくる。ココロが、肉体が痛む。彼らのコトを思い出すたびに、ココロが痛み、その痛みが肉体に痛みをもたらす。

 

 浅上藤乃は痛みに生命を感じる。──これは、普通ではない。浅上藤乃はそれを確かに自覚していた。

 

「待った。少し落ち着いたほうがいいよ」

 

「──ッ」

 

 浅上藤乃は黒桐幹也の言葉によって、冷静さをある程度取り戻し、

 

「いいんです。わたし、もう戻れませんから」

 

 浅上藤乃は黒桐幹也という人種とは違う。浅上藤乃の内心を黒桐幹也が知ったらどうなることか──それが怖くてたまらなかった。

 

 だから──ココロが苦しい──

 

「さようなら。もう二度と会いたくありません」

 

 浅上藤乃は部屋から逃げ出すかのように、その場を去った。

 

 …

 ……

 ………

 …………

 ……………

 

「あ」

 

 と。礼園の制服を着た、長い黒髪の少女が走るのを見るなり、そんな言葉が口に浮かんだ。

 

「今のは──確か、鮮姉の学校の制服だったけ」

 

 何があったのかは知らないけれど、立派なお嬢様学校の生徒が、髪を振り乱しながら汗をかき、ひどく狼狽(うろた)えた様子で道を走っていた。

 

「何かあったのかな」

 

 それは普通のことではないから、少しだけ気になったけれども、彼女の足は思ったよりも早くて、追いつけそうにはなかった。

 

 彼女の背中を見送ると、今歩いている道が、目的地──つまり幹兄の住んでいる場所まで、まっすぐの一本道であり、すぐそこであるということに気が付いた。

 

「幹兄に東京行くことって、伝えていたっけ。まあいいか。それにしても──今のひと、結構美人だったかな」

 

 幹兄の借りている部屋へと向かって歩き始め──そんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 







 一応、原作読んでない人でも分かるようには書いてます。
 でも、文章をそっくりそのまま書くのはアウトですが、ここは大事なシーンなので、なるべく原作と同じ感じになるようにしました。

 次回から、物語は進んでいきます。
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