追憶逸脱 作:種火の茶色いヤツ
紅閻魔健気可愛い。猿は許さん。
設定色々と改めて考えてたら投稿するの遅くなってた。すまない。
ふじのんはいいゾー☆
浅上藤乃が黒桐幹也の元から立ち去ると、彼は頭を掻いてテーブルの上にある皿を片付けることにした。
彼女の制服には、刃物で切り裂かれたような穴があり、またテレビでニュースを見たときの反応など、気になるようなことはいくつかあったが、あっという間に立ち去ってしまった。
「・・・…あ」
テーブルの上には、綺麗に完食された皿と、何も手が付けられていない、パスタが盛られたままの皿があった。完食されているものは、黒桐幹也のもので、手の付けられていないほうは浅上藤乃のものだった。
皿の上に盛られて、手付かずのままのパスタは、
黒桐幹也は仕方がない、とそのパスタを昼飯か、あるいは夕飯として使うためにラップをかけて冷蔵庫の中に入れることにした。
その作業が終わると、会社へと行く準備をして、外に出るために部屋の扉を開いた。
すると、ガン、と扉が何かにぶつかる音がして、
「ふぎゃっ」
なんていう声がした。
追憶逸脱/2
幹兄が普段暮らしているアパートにたどり着くと、幹兄の借りている部屋の番号を思い出して、壁にある番号を見比べて、幹兄の部屋を探すことにした。
部屋番号を心の中で読み上げながら、廊下を歩き、幹兄の部屋の前にたどり着く。
扉を開けようとドアノブを掴むと、
「あ、インターホン」
と呟く。扉を開ける前に、インターホンを押すのが、
手を壁に備え付けられているボタンに伸ばし──
「ふぎゃっ」
扉を開き、俺の顔面を攻撃した人物は、どうやら故意に攻撃したわけではなく、すぐに扉を引いて、ちょっと開いた隙間からこっちを覗き込んできた。
鼻っ柱を押さえながら、俺はその覗き込んでいる人の顔を見る。眼鏡に、黒い髪──ああ、そういえば幹兄ってこんな顔だったなあ、なんていうことを考えながらも、痛みによって涙目になりながら、久しぶりに会った弟に、こんな仕打ちをしでかしたことに、文句の一つでも言ってやろうとした。
「……やあ、幹兄。扉を開くときは、向こう側に誰かがいるかどうか確認してからのほうがいいと思うよ」
「……おまえ、何でこんなところにいるんだ」
なんて。びっくりしながらも、幹兄は言った。
「旅行にきたんだ。ちょっと中に入れてよ」
幹兄は俺を中に入れると、怪我の様子を確認してきた。幸い、鼻血を流したり、鼻の骨を折ったりしているわけではなく、軽い
「というわけでさ、幹兄。ちょっとの間ここに泊めてよ」
「どういうわけなんだ。旅行って、ホテルとか取ってないのか?」
「一応、予約するフリだけはしておいたよ。ほら、東京には幹兄がいるし、幹兄のところに泊まれば、貰ったホテル代が浮くでしょ? それに、今からホテル取ろうにも、俺と同じような旅行者で、どこのホテルもいっぱいだろうから、幹兄のところに泊まるしかないんだよね」
幹兄は何だか
「別に泊める分には構わないけれど──そうだな、食事代ぐらいは払ってもらうぞ」
「うん、分かった。ありがとう、幹兄。大好き」
「ホテル代を突っぱねるぐらいなら、事前に連絡しておきなさい。もし僕が旅行に出かけていたりして、留守だったらどうするつもりだったんだ」
「あ、それは考えてなかった」
ついでに言えば、連絡をするのも忘れていた。そうか、普通はそうするべきだったか。
「ごめん、旅行で舞い上がっていたかも」
「はあ、とりあえず、兄さんは今から会社に出かけるから。飯は済ませてある?」
「まだ食べてないよ。今から、コンビニか、どこかのファミレスかなんかで済ませる予定」
「じゃあ、部屋の中にパスタがあるから、それを食べなさい。食器は流しで水に浸しておくこと」
「はーい。あ、お金先に渡しておくね」
財布の中からお札を何枚か引き抜いて、幹兄に手渡す。いくらあるのか数え、それを財布の中にしまいこむと、幹兄は会社へと出かけて行った。
部屋に誰もいなくなると、
「あちち」
「よし、いただきますっと」
椅子に座って、
「うん、おいしい」
たかがパスタ、されどパスタ。麺をゆでて、何かソースをかければできる簡単な料理だけど、その分作る人の腕で味が変化する。一人暮らしの学生ならば、よく作ると聞くから、幹兄も作り慣れているのだろう。
気が付けば、皿の上にあったパスタは無くなっていた。最後に牛乳が入ったコップを手に持って、
「ごちそうさまでした」
手を合わせる。
お皿やコップ、フォークといった食器を流しに運んで、スポンジに洗剤を
「あ、そういえば水に浸しておくだけでいいんだっけ」
食事が終わった後、食器は洗うものだから、幹兄が言っていたことをついつい忘れてしまっていた。けれども、せっかく洗ったのだから、そのままにしておく。
片づけが終わると、財布を取り出して部屋から出ていく。鍵がどこにあるのか探してみたけれど、結局は見つからなかったので、鍵をかけないで出かけることにした。
旅行──東京観光はまだ初日だし、時間があるから今日はそこらへんをうろついて、大体の雰囲気を味わったり、駅とか、バス停とか、公共の交通機関までの道を覚えるにとどめておく。
…
……
………
…………
……………
気が付けば、すっかり夕方になっていたから、幹兄の部屋へと帰ることにした。
幹兄はまだ帰ってきていないし、やることもなかったのでテレビを見ることにした。ちょうどニュース番組をやっていた。
画面には、海を
「橋っていえるのかな。ソレ」
線路や道路がある橋なら聞いたことはあるけれど、中に商業施設とかが入っている橋は聞いたことがない。これほどのものとなると、もはやただの巨大で細長いデパートか何かで、ついでに車とかが通れるだけの建物なのかもしれない。
そんなことを考えていると、ニュースは別のものになっていた。なんでも、どこかのバーで人が死んだというものだ。
アナウンサーが内容を読み上げる。それによると、四人の青年が手足を引きちぎられた状態で発見されたとのことだ。辺りは血の海となっていたようで、沢山の警察や
「引きちぎる?」
ついつい首をかしげてしまう。
引きちぎるっていうのは、つまり引っ張ったり、曲げたりして切断することだ。刃物で切断するのとは訳が違う。切断と言わないのは、アナウンサーの間違いなのだろうか? 人間の体引きちぎるのには、かなりの力が必要になるだろう。
人の体というものは、思いのほか弱いようで頑丈なものだ。皮膚とか、肉とかはナイフを使えば、簡単に切ることができるけれども、筋肉とか骨とかがあるのだから、引きちぎるとなるとそれなりの力が必要になるだろう。
骨折とかならまだ分からなくはないけれども、切断とか、引きちぎるとなると大変だし、手間もかかるだろう。人を殺すにしても、ここまでやる必要はないはずだ。これをやった犯人は、何で引きちぎるなんていうことを選択したのだろうか。
「犯人は、ムキムキのプロレスラーか、力のある機械を持った人かな」
なんて、冗談めかして言ってみる。
アナウンサーが、被害者の少年たちの身元を話し始める。どうやら、不良とか、ならず者と呼ばれるような人たちで、違法な薬にも手を出していたという。
「復讐、かな」
そういう人種なら、誰かを
これのほかにも、前──冬頃だったか。
幹兄もその殺人事件に巻き込まれたと、ああ、誰だったか。警察で働いている
「ただいま」
幹兄は両手にビニール袋をぶら下げていた。
「お帰り。それ、中身何?」
「食材だよ。冷蔵庫の中に何もなかったから、スーパーでいくつか買ってきたんだ。おまえの食事も用意しなきゃいけないから」
「ああ、そうなんだ。ちなみに今日の夕食は何?」
「ハンバーグ。おまえ好きだったろ」
「うん、好き。大好きだよ。幹兄。ねえ、前になんか殺人事件に巻き込まれたって聞いたんだけどさ、どんな感じだった?」
ごふ、と幹兄は吹き込んだ。
「おまえ、何でそんなこと聞くんだ」
「気になってさ。さっきテレビで殺人事件があったってやってたから」
「ああ、あの事件か。
最近は物騒だから、気を付けなさい。不良たちに声をかけられたら、すぐに逃げること」
「うん、分かってるよ。幹兄。でもさ、この事件なんか変だよね。引きちぎるっていうのが──」
「確かにそこは僕も気になっている。けど、あんまり首を突っ込まないこと」
「はーい」
と俺が答えると、この話は終わりになった。
幹兄は夕食を作るためにキッチンに向かって、作業を始めた。その間、俺はテレビのニュースを観続けることにして、明日の計画を立てることにした。
東京といえば、やはり東京タワーだろうか。秋葉原でバスケを見学して、ラーメン屋巡りでもしようか。花やしきで遊ぶのもいい。
……………
…………
………
……
…
浅上藤乃は、彼がどこにいるのかを探すには、
浅上藤乃は湊啓太の居場所を聞き出したが、彼女が
「なあ、その。湊啓太とは連絡がとれないのか?」
と男は訪ねる。こういうのには、一種の流れというものが存在するのだ。いきなり要求することもいいが、それでは盛り上がらないというものだろう。
「──いえ、連絡は取れるんです」
と。浅上藤乃は片手で腹を押さえながら言った。
「へ? だったら、居場所を聞けばいいじゃねえか」
「それが、啓太さん、わたしには隠れている場所を話したくないっていうんです。ですからわたし、啓太さんのお友達を訪ねているんです」
「隠れている?」
と男は眉をひそめた。
「なんだ、ソレ。アイツ、何かあったのか?」
彼はニュースを見るような人種ではなく、湊啓太の所属するグループのメンバーが、バーの地下で死亡したという話は全く知らなかった。それに、彼の頭の中は浅上藤乃を犯すことでいっぱいだった。
「ま、どうしても知りたかったら──分かってるよな? オマエ、中々にイイ体してるし、ここに一人で来たってことは、分かってるだろ? 最初から、コレが目的なんじゃねえのか? ええ?」
ニヤリ、と男は下品な笑みを浮かべながら、浅上藤乃の肩を
「答えてください。啓太さんの居場所、知っているんですか?」
「知るわけねえだろ。そんなモノ。ばぁか」
と男は浅上藤乃の顔を覗き込んだ。
そして──眼を見た。その
ぐるり、と浅上藤乃の肩を掴んでいた男の腕は、肩から後方へと
「え」
男が自分の腕が捻じ曲がったのを認識するのと、痛みが全身を奔るのと、どちらが早かっただろうか。
「ガ、ギヒィアアアァァァッ!? 痛い──痛てェッ!」
男は絶叫し、泣き叫んだ。しかし、これは序章に過ぎない。ここから浅上藤乃の
「……
呟く。「凶れ」「凶れ」「凶れ」呟く。繰り返し呟く──その
そのたびに、男の体のどこかが捻じ曲がる。腕が曲がり、足が曲がり、胴が曲がり、指が曲がり──
「ア、ヒ、ヒヒヒヒ……あり、えね、え。アシ、曲がっ、て……ハハ、ハ、ヒ、ハハ」
男の血管が破裂したのか、ブシュリと血液が
最後に、男の左腕がちぎれた。男の意識は完全になくなり、物言わぬ肉塊へと成り果てたのだった。
「──ごめんなさい」
浅上藤乃は自分のことが厭になる。
なんてことをしているのか。けれども、初めからこうするつもりだったのだ。彼は、浅上藤乃をおかそうとしたのだ。だから、反撃をするしかなかった。
間接的な形になるが、これも復讐なのだ。
「わたし、こうしないといけないから」
浅上藤乃に痛みという感情は、感覚は、理解できなかった。けれども、今の彼女は痛みを知っている。腹にナイフを突き立てられたせいで──
だから、いま肉塊になった男の痛みに強く共感することができている。痛みとは、生きることなのだ。生きるということは、痛みと共に歩むことなのだ。故に、浅上藤乃は己の生存を味わう。
「──こうしてやっと、わたしは人並みになれる」
浅上藤乃という人間は、他人を傷つけなければ生き
こんな自分が、厭になってしまう。
「母さま、藤乃はこんなことまでしないと、駄目な人間なんですか」
浅上藤乃は問いかける。けれども答えなんて帰ってくるわけもなく、彼女はため息を
「わたし、人殺しなんかしたくないのに」
七月二十一日 終