<運営視点>
シドゥリ暦3503年。第二次ベヅァー戦争が終結してある程度の時間が過ぎた頃、エリーゼ・ペルティーニは宇宙のタマゴの新たなる使用法を検討していた。
この宇宙のタマゴはGS世界で入手した新たなる宇宙の雛形となるもので、それを用いれば現実と全く同じ世界だけでなく、製作者の思うが儘の世界すら構築できるとても研究しがいのある代物だった。その為、エリーゼは以前この宇宙のタマゴを用いて『新世紀エヴァンゲリオン』と『斬魔大聖デモンベイン』のクロスオーバー世界を作り出してシュミレーションをしたこともあった。
この宇宙のタマゴを使えばGS世界の宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)のような代物を作り出すことも不可能ではないが、それは世界に与える悪影響が大きいし反動が大きすぎる。では、シュミレーション以外にどういう使い道があるかというと、それは偽VRゲームだった。
宇宙のタマゴは己の好きな世界を構築できる。つまり製作者が考えて設定通りの世界も作れるわけで、通常のVRゲームの舞台としてこれ以上のものはない。というのも、本来VRゲームはプログラムによって構築された仮想世界を舞台にしているゲームなので、どうしてもリアルティに欠けているが、宇宙のタマゴによって作られた世界は現実そのものの世界なので、とことんリアルなゲーム世界になるのだ。
そもそも監察軍ではVRゲームは千年以上(1400年程)昔から流行しており、それなりに遊ばれていたが、やはりVR特有のリアルティのなさからそれでは物足りなくなり、一部のトリッパーはドラゴンクエストなどの世界に行って実際にリアルデスゲームを楽しむ者もいた。
本来のドラゴンクエストはデスゲームではありませんが、その原作を元に構築されたドラゴンクエストの世界は実際に人間とモンスターの殺し合いがある。そこの世界に行けばリアルにモンスターと戦えるわけですが、リアルなのでしくじれば死ぬ可能性もあり、本当にデスゲームになっています。
これは極端な例ですが、多くのトリッパーからはデスゲームは嫌だけど、もっとリアルなVRゲームがいいと望まれていたのは事実です。更にエリーゼがユーザー(監察軍本部のトリッパー)の要望をアンケートとしてまとめると「VRゲームで強くなるとリアルでも魔法などの特殊な力が身に付いて強くなれるゲームがいい」というまったく予想していなかった意見すら出て来た。
言うまでもないが、VRゲームはあくまで仮想現実のゲームなので、RPGでレベルアップをして強くなってもリアルでは全く変わりません。というか、そもそもそれはゲームといえるか疑問ですらある。
しかし、この従来にはないゲームというのは斬新さがあっていいと、エリーゼの創作意欲をそそるものであった。
「……というわけで、私はこのVRMMORPGを作ります!」
と、エリーゼは宣言した。
さて、実際にRPGを作ろうとするとすると必要なものがある。世界、モンスター、NPC、街、イベントなど結構大変です。
世界に関しては宇宙のタマゴを使って構築すればいいですが、どのような世界観にするのかを決めないといけません。取りあえず、地球型惑星を作り、重力、大気成分、主な植生などを地球と同じにしておいた。さすがにこれらが違うと何かと困るからね。
これまでのVRゲームの場合、モンスターが唐突に表れてプレイヤーの攻撃を受けると血を流したり倒すと死体が残ることがなく、モンスターを倒すと光になって消えたりするなどリアルティが欠けていました。そこで、実在の生物をモンスターにすることにした。
しかし、そうするとモンスターの統制が難しい。リアルでやるとなるとモンスターが街や村に侵入しないように制限をかけないといけないし、フィールドに合わせた種類のモンスターを配置しなければいけません。おまけにプレイヤーがモンスター倒すので、その穴埋めのために常にモンスターの数を一定に保つように補充しないといけませんからね。
そこで『マブラヴ』のBETAをモンスターに採用しました。勿論、資源回収用ではないので原作とは大きく違います。役割としては舞台となる惑星各地にハイヴをダンジョンとして構築する。そしてBETAのように有機ロボットとしてモンスターを用意するわけです。ダンジョンには反応炉は配置してモンスターの生産と管理をやる。そしてモンスターの数に合わせてダンジョンから適正な数のモンスターを特定のフィールドに配置してプレイヤーと戦わせるわけです。
これの利点は重頭脳級に指示しておけば各地のモンスターを調整してくれるので統制が可能になることです。勿論、オリジナルと違って無暗に鉱物資源をあさったり自然破壊とかはしません。あくまでダンジョンを作ってモンスターを統制するだけです。
モンスターはそれでいいとして問題はNPCですね。異世界を使うとなると従来のVRゲームのようにAIですませるわけにはいきません。アンドロイドか生身の人間を生産して使うか悩んだが、結局は人間を生産することにした。
ついでに人間だけでなくエルフやドワーフなどのファンタジーではお馴染みな種族も作る事にした。この手の種族作成はバスタード世界で散々やって来たので問題なく製造できる。
しかし、街やイベントとなると、細かい調整の為にいろいろと手をかけないといけないのが、面倒な所である。そこで調整用に女神を用意することにした。ここで女神と言ってもあくまでエリーゼの代わりに世界を管理させる為に用意する道具にすぎない。私がユースフィアと名付けたゲーム用の世界でこの女神ヒミカが人間やその他の種族たちを導いて街やイベントを用意するわけである。
そこで試作品として宇宙を作り上げてゲームの舞台となる地球型惑星に手を加えた。ファンタジー世界を維持するために独自の世界法則を組み込んでいた事もあり、これらの試みは上手くいった。具体的には重火器類の使用禁止、機械などのあらゆる文明の利器の使用禁止というルールを世界に組み込んでいた。これはファンタジーの世界観を破壊する発明を軒並み排除するために施した。更に石油、石炭、天然ガスといった化石燃料をすべて消去して、それらの資源を使用した機械動力に利用する近代文明が成立しないようにした。
この為、ユースフィアでは動力はガソリンエンジンどころか蒸気機関すら使えず、人力か馬を使うしかなく、明かりにしても機械的な照明器具が使えないから松明、ロウソク、ランプぐらいしか使えない。ついでにライターも使用不能なので火を起こす火打石を使う事になる。
当初は石器を使って洞穴で生活していた文明ゼロな者たちも女神ヒミカの導きの元、千年という時間をかけて文明を構築した(宇宙のタマゴの内部世界の事なので時間を加速させており、現実世界では一日と経っていない)。
その結果、中世ヨーロッパ風ファンタジー世界を作り上げていた。といっても、リアルに中世ヨーロッパ世界ではないので、ガラスや紙などが実用化されていたりするなど一部の技術は少しだけ進んでいた。
さて、文明が構築できたことで頃合いと判断したエリーゼはユースフィアに魔王とモンスターを用意して現地の住民たちを襲撃させた。こうして一般的なRPGの世界が完成したわけである。
ユースフィア・オンラインというVRMMORPGがこれで一応形になったが、肝心のプレイヤーに対しては色々と用意しておかないといけない問題がある。ここでRPG的な要素としてプレイヤーに必要なものは何かと上げる。
①成長要素
最初は弱いが努力の成果としてキャラクターの能力値が成長する楽しみがある。
②リソース管理要素
アイテム選びや消費、能力の成長の仕方といったリソースを効率よく管理して、ゲームを進めていく楽しみがある。
③パーティ戦闘要素
複数のプレイヤーキャラクター(パーティ)によって戦闘を行える。
ざっと、この三つであるが、ここでVRならでの要素として安全性も重視しておく。というのも、RPGは死に戻りが前提なのでキャラクターが死亡したら終わりではゲームが成立しないし、キャラクターがダメージを受けてもプレイヤーは被害を受けないようにゲームシステムを構築しなければ、エヴァンゲリオンみたいに攻撃を受けると本人もダメージを受けるデスゲームになりかねないからだ。
そこで、プレイヤーの分身であるキャラクター製作は、GS世界の影法師(シャドウ)を応用することにした。これは人間の精神・霊力・霊格を取り出してスレイヤーズ世界の純魔族のような精神生命体として具現化するというもので、その術式を仕込んだVR機具(魔道具)をプレイヤーが起動させるとユースフィア内部にてキャラクターが具現化する仕組みである。
これならキャラクターは物理的な攻撃を無力化できるため精神・霊的な攻撃を排除すれば安全性は確保できる。とはいえ、ステータス的に攻撃がまったく効かないのは不味いのでHP、魔防、防御力などを設定して、テーブルトークRPGの要領で敵の攻撃が命中した時はそれに応じてHPが減少するようにしている。
通常は肉体を通してしか精神や霊力を鍛える事ができないが、このシステムならばキャラクターがモンスターと戦闘する事で霊力を成長させることができる。その為、RPGでおなじみの魔法も霊力を源とする方式にしている。プレイヤーはこのゲームをやるうちに霊能に目覚めて霊力を鍛えていくという仕組みなので、魔法の術式を覚えれば現実世界でもユースフィアの魔法が使えるようになるだろう。
リソース管理要素はアイテムの配分などを考えればいいからこれから調整すればいいし、パーティ要素もプレイヤーが自分でやればいいだろう。うん、問題なしだね。
次にβテストをやらないといけない。本来ならば監察軍のトリッパーたちに本稼働前にテスターをやってもらうべきだろうが、そうなるとゲームの内容がトリッパーたちに知れ渡ってしまう。できれば本稼働まではネタバレは避けたいので、トリッパー以外からテスターを集める事にした。
その方法とは適当な下位世界の住民にゲームをやらせて不具合を調整する事だ。その世界としてエリーゼは『魔法少女リリカルなのは』の世界を選んだ。
西暦2011年(新暦71年)4月。某中卒三人娘がミッドチルダに移住した時期を見計らってエリーゼは地球各地にマジック・キャンセラーを打ち込んだ。
マジック・キャンセラーは三千年前の時空管理局戦争(ブリタニア帝国記)でも使用されたリリカル世界の魔法を無効化する装置だ。これは『機動戦士ガンダムSEED』のニュートロン・ジャマーのように惑星全域で魔法を無効化するので、地球上ではミッドチルダ式魔法とベルカ式魔法が一切使えない。
そうしたのは、この世界の時空管理局が未だ健在なので管理外世界とはいえ地球で活動したら管理局が邪魔になる恐れがあったから地球に干渉できないようにしたかったからです。そこまでしてリリカル世界を選んだ理由は監察軍本部が存在するブリタニアもリリカル世界だからこの世界でβテストをやって問題点を洗い出した方が望ましかったからだ。
その下準備の後でエリーゼは日本で『ウィッチズガーデン』という名で、VRゲームを広める為の同人サークルを結成した。そのメンバーは五人の20代から30代女性で構成されていて、彼女たちはエリーゼに暗示をかけられて利用されていた。
こういうと極悪なイメージをもたれるかもしれないが、彼女たちはいずれも借金を苦に自殺しようとした者たちばかりであったが、エリーゼが彼女たちの借金を返済してやって、かわりに協力させていたのだった(長い不況が続いていただけにそういった人材を探すのに苦労しなかった)。
エリーゼがわざわざそのような人間を用意したのは、彼女にはこの世界では戸籍がないから貴金属類の売却して資金を確保するにも不具合があったからだ。その点、借金を抱えていても、しっかりした戸籍がある彼女たちならエリーゼの代わりの貴金属類の売却も問題なく可能だった。
また、マジック・キャンセラーによって魔法を封じたといはいえ魔法バレが発生すると管理局が動く可能性が高いために、いざというときのスケープゴートの為だったりもする。その為、同人サークル『ウィッチズガーデン』のメンバーはエリーゼの暗示によってエリーゼに関する情報を漏らすことが出来ないように細工されていた。
ちなみに、この世界には『ういんどみる』や『ういんどみるOasis』などのゲームブランドがなかったので、当然ながら『ウィッチズガーデン』というゲームもなかった。まあ、どのみち時期的に販売されていないですけどね。
さて、そのウィッチズガーデンであるが、主な仕事としては同人サークルのWebサイト管理、宣伝、VR機器の配布だったりする。というのも実際のゲーム開発とGM(ゲームマスター)などの運営はエリーゼがしていたからで、対外的にゲーム製造元の同人サークルとされていてもその実態はただの下働きでしかなかった。
それと、この世界の技術水準ではVRゲームはまだまだ実用化は不可能なので、VRゲームが開発されたといっても信じてくれる人は少ないだろう。その為、有料ではなく無料でVR機器をゲーム専門学校の学生たちにばら撒かせた。
彼らも半信半疑というかほとんど信じておらずネタでやってみた者ばかりだろうが、実際にゲームをプレイした学生たちが本当にVRだったことに驚愕した。その他にもVR機器の配布と宣伝をウィッチズガーデンにやらせたこともあって、口コミやネットによってVRMMORPG『ユースフィア・オンライン』が広く知れ渡るようになった。
それだけならば問題なかったが、やはりというかマスコミの取材やVR技術に対する問い合わせがサイトだけでなくウィッチズガーデンにも多数きたのだった。いうまでもなくVRは仮想現実ではなく、宇宙のタマゴを用いた現実そのものの異世界なので、その技術は公表できるわけもないから、その手の事はすべて断っていた。
また運営するにあってあらかじめ予想していた事だが、やはりマナーが悪いプレイヤーもいて、なまじゲームなので好き勝手やっても犯罪にならないと確信犯的に問題行動を起こす者もいた。泥棒、傷害、性犯罪など様々であるが、彼らの多くは現地の牢獄に投獄された。
これはエリーゼが女神ヒミカを通じて女神教団と各国に指示を出していたからだ。さすがにプレイヤーの犯罪をもみ消せと言うのは拙いので、罪状に見合った禁固刑を科すようにしたのだ。ここで禁固刑というのは理由があって、システム上プレイヤーを殺すことは不可能なので、プレイヤーがどんな重犯罪者でも死刑にはならないのだ。
ちなみにNPCの囚人は水と食料を用意してやる必要があるが、精神生命体のアバターを使用しているプレイヤーは飲まず食わずでも問題ないため、何も与えられることなく投獄されて放置されている。こうなるといくらログインしても牢屋の中でなにもできないという状況なので、ペナルティとしてはこれで十分だろう。
世間でユースフィア・オンラインが大人気になり、多くのプレイヤーがキャラクターを成長させていく過程で霊能に目覚めて霊力を高めていったが、プレイヤーがユースフィア・オンラインの魔法を習得した事で現実世界でも魔法を使えるようになった。
これに世間が大騒ぎになったが、特に問題だったのがプレイヤーがユースフィア式魔法を悪用して傷害事件を起こした事だろう。これでユースフィア・オンラインに対する風当たりが悪くなった。
まあ、それもわからなくもない。これまでは銃刀法という法律でそういう武器を規制して治安を守っていたのに魔法という下手な銃火器よりも危険極まりない代物がでてきたのだからね。
しかも、それは銃や刀のような規制が難しく、既存の社会システムでは対応できないという点も問題視されていた。
それを煽ったのが、月村グループとバニングスグループだ。管理局の動きを封じていたとはいえ日本にそれなりの地盤を持つ企業は中々に厄介で思いっきり圧力を受けてウィッチズガーデンのサークル活動に支障をきたしていた。
仕方ないので、ウィッチズガーデンを切り捨てて事前に用意していた別の駒を利用する事にした。実のところVRゲーム本体は地球からかなり離れた星系に配置しているので、例えその場所を特定できても地球人がどうこうすることは無理だし、次元航行ばかりで宇宙開発もできていない管理局では当然無理だから本体を置いていても問題ない。
別にウィッチズガーデンが潰されても残されたVR機器をプレイヤーが使用すれば問題なく使えるのでしばらくはデータ収集は可能ですからね。