<NPC視点>
この世界ユースフィアが邪悪な魔王が率いるモンスターに侵略されてから五十年近くが過ぎて、各地で猛威を振るい甚大な被害がでていた。勿論、諸国は何もしていなかったわけではない。モンスターが拠点にしているダンジョンに討伐軍を派遣するなどやる事はやっていたが、NPCによるダンジョン(ハイヴ)攻略はいずれも失敗して軍は壊滅の憂き目にあっていた。
彼らは知る由もないが、実はこのユースフィア・オンラインにおいてダンジョンは、プレイヤーに攻略させる為に用意した一部のイベント用ダンジョンを除いてモンスター生産プラントを兼ねていた為に、NPCに攻略されては困るものだったのだ。それ故、その防衛にはとてつもない難易度を誇り、高レベルのプレイヤー集団でも攻略できない難攻不落の代物となっていた。
そんな中で唯一の希望となっていたのが、女神ヒミカ様が異世界から召喚した勇者候補たちでした。彼らはヒミカ様から加護を授かっていた為、常人離れした速さで強くなれる上に、例えモンスターとの戦いで死亡しても生き返る事ができます。
当然ですが、この世界の人間は訓練を詰めば強くなれるし、モンスターと戦えば実戦経験を積んで強くなれるのですが、勇者候補と比べたらその効率は雲泥の差があるし、私たちは一度でも死ねばそれで終わりで、勇者候補のようにいくら死んでもやり直しがきく存在ではありません。
そんな彼らは噂では数十万人もいるそうで、そうであるならば魔王討伐も容易と思うかもしれませんがそう甘くはありませんでした。勇者候補である異世界人たちによって数多くのクランが誕生しましたが、そのクランの大半は魔王討伐にはあまり関心を示さず、魔法の取得や研究、この世界の観光などに力を入れていました。
そこまでならともかく、最悪なのはクランの中には犯罪を目的としたものまであった事だ。殺人クランの場合は次から次へと新手の殺人手段を考え出してまるでゲームのように私たちを殺戮していった。また性犯罪クランの場合は各地で女性が見境なくレイプされていった。
当然ながらそれは放置されず、犯罪者たちを取り締まる為に兵隊とそれらのクランが激しい戦いを行い甚大な被害をだしていて、私たちは勇者候補たちに大きな不満を持つようになった。それが未だに爆発することがなかったのは女神神殿が必死に宥めていた事と、曲がりなりにもまじめに魔王討伐に励んでいたクランも存在していたからだ。
そして最新の情報によると、そのクランがついに魔王城に突入したという情報が入ったのだった。これまで勇者候補が魔王城に突入した事はなくどうなるかわからないが、それでも彼らは魔王討伐が成功するかもしれないと期待を抱いていたのだった。
女神ヒミカ。それはユースフィアを創造した唯一神として女神教団で信仰されている女神である。といっても本当の造物主はエリーゼであり、ヒミカはエリーゼの代理人として創造された存在に過ぎないが、ユースフィアにてその事実を知る物は当事者たち以外に存在しない。
ヒミカの仕事はユースフィアの住民たちをRPGのNPCとして導く事であり、ゲームの舞台となる街やイベントなどを用意していた。更に言えば、ユースフィアを小国が乱立する状態になる様に誘導する事もやっていた。というのもユースフィアで広大な領土を誇る大国があると都合が悪いからだ。
RPGという雰囲気では現代社会のように鉄道、自動車、飛行機などを使うというわけにはいかない。そうなると、徒歩、馬車、帆船などを使う事になるだろうが、人間が徒歩で移動できる距離などたかが知れているし、馬車にしてもリアルでは馬の世話がとても大変で、馬に関して何も知らない素人ばかりの日本人プレイヤーではまともに使えない。帆船にいっては論外だ。
ユースフィア・オンラインがただのVRだったら問題ないが、本当は異世界なのでプレイヤーができる事とできない事があるのだ。こうなると、RPGの広い世界を探索し旅を楽しむという冒険探索要素も大事だが、現実的に考えると小国でなければプレイヤーが国中を歩きまわる事などできるわけがないのだ。
勿論、そんな裏事情はおおっぴらにされていない。NPCたちは女神が多様性を好んでいるので、人間や亜人たちが各地に小国を乱立させることを推奨していると教えられていた。
そのような下準備を整えて魔王とモンスターを登場させた。彼らはユースフィアの住民たちを恐怖のどん底に叩き落として追い詰めていく、当然そんな状況になるとヒミカに救いを求める者たちが続出することになる。そこでヒミカが異世界から勇者候補たちを召喚して彼らに魔王を討伐してもらうことにして、女神教団にはその勇者候補たちをサポートさせた。
まあ、魔王やモンスターの登場及び勇者候補たちの召喚といっても、それらはすべてエリーゼがやっている事でヒミカは関与していないが、ヒミカが女神としてゲーム運営に大きな役割をはたしていることに間違いはなかった。
最も真相を知る者からすれば、魔王やモンスターを自ら用意して住民に襲わえておいてそれを救うためと称して勇者候補たちに魔王やモンスターを倒させるという自作自演以外の何物でもなかったが、ヒミカにはそれに関して思う事などなかった。
そもそもヒミカは女神として外見こそ人間の美女であるが、そのメンタリティはかなり独特で、特に感情が希薄で常に理性で行動するように作られていた。というのもエリーゼはなまじまともな感情を持たせると、住民に情が移りゲーム運営に反発することを恐れたからだ。故にユースフィアの女神ヒミカはエリーゼの指令を感情を挟むことなく、理性的にそして忠実に遂行する道具であった。
「そう、魔王討伐は成功したか?」
「はい。その通りでございますヒミカ様」
ヒミカに魔王討伐の報を知らせにきた女神教団の教皇が跪いて報告していた。
「それにしても思ったよりも時間がかかったな」
「はい。異世界人はかなり扱いづらい者たちですから」
ゲーム開始から魔王討伐まで48年もかかるとはおもわなかった。これはリアルでは2年以上もゲームをすすめていたことになる。それだけこのゲームが続いたのはやはり多くのプレイヤーがゲームクリアに積極的ではなかったからだろう。
実は魔王を倒すとエンディングを迎えてユースフィア・オンラインは一端終了して、プレイヤーたちはユースフィア・オンラインを遊ぶことができなくなるのだ。そうなると遊べなくなるし、魔法を覚える事もできなくなるから、プレイヤーは魔王を倒そうとするよりもステータスの向上と魔法の研究に没頭していた。
まあ、それでも魔王を倒して勇者になるという目標を持ったプレイヤーもいたので、何とかクリアできたわけである。勿論、女神教団もそうしたプレイヤーたちを積極的に支援したという理由もあった。
しかし、プレイヤーたちはこの世界で犯罪を犯すものが多く、当初は多数のプレイヤーを牢獄に入れる為にユーヤット王国では新たに牢獄まで用意させられたほどで、そんなプレイヤーに不信感をもった民衆を宥めるのが大変だった(主に神官たちが)。
「まあいいわ。お前たちは魔王を討伐した勇者たちの歓迎の準備をしなさい」
「ははっ」
教皇が下がり、その場から誰もいなくなった。
「もうよろしいですよ」
ヒミカがそういうと魔術で隠蔽していたエリーゼが隠蔽を解いてその場に現れた。
「NPCはそれなりに機能しているようね」
「はい。これでβテストは完了しました」
今回の魔王は討伐できたが、これはあくまでβテストにすぎなかった。
「そうね。ではヒミカは千年後の本稼働に備えて準備しておきなさい」
「かしこまりました」
エリーゼはこのユースフィアで幾度となく遊ぶために、千年に一度は魔王が現れるようにしており、そうすることで魔王が倒されても時間を加速すればすぐに再びゲームができるようになっていた。
つまりヒミカとエリーゼは今回のデータを元に千年後のユースフィアを舞台にゲームを運営するのだ。違いと言えばその時のプレイヤーが監察軍のトリッパーだということだけであった。
<地球視点>
西暦2031年(新暦91年)。この時期の地球は魔法文明が花開いていた。その原因はユースフィア・オンラインであった。
二十年前にサービスを開始したこのオンラインゲームはVRMMORPGという常識外れの技術を用いた代物で当時は驚きと共に受け入れられたが、プレイヤーがこのゲームの魔法を実際に使用できるようになるという異常な事態が発生した。
こうして突如として力を得た一部のプレイヤーは暴走して魔法を悪用してしまう。その為、一時期は元凶のウィッチズガーデンは現代の魔女狩りと称されるまでに日本政府から圧力をかけられることになるが、魔法という新たな力の有効性に気付くと政府は手の平を返すかのように魔法技術や魔法使いの確保に力を入れ出した。
当時の日本は原発事故により原発に代わる新たなエネルギーを欲していた。そんな日本にとって、霊子力という無限にしてクリーン、核をもしのぐ新たなエネルギーの存在はとても魅力的な物だったのだ。
実はユースフィア・オンラインで学習できる霊子学は単に魔法を使えるようになるだけではなく、霊子動力炉などの霊子力を用いたエネルギーの活用方法などが詳細に記載されており、それらを学習したプレイヤーによりかなりの知識が日本に流れ込んでいたのだ。
こうして霊子力によるエネルギー革命を筆頭に日本は驚異的な速さで技術革新が進み国力を大幅に引き上げていた。こうなると各国も霊子学の研究に力を入れていき、結果として霊子学と魔法技術は短期間のうちに先進国で普及していった。
ちなみに日本政府の方針変更によりウィッチズガーデンのメンバーたちの待遇が改善されたが、肝心の霊子学の知識に関しては彼らは何も知らず、すべての秘密を知るであろうユースフィア・オンラインを制作してウィッチズガーデンを裏から動かしていたエリーゼという謎の少女を各国が密かに捜索することになるが、結局誰も彼女を見つけることはできなかった。
<時空管理局視点>
新暦91年(西暦2031年)。この時期の時空管理局にとって第97管理外世界は極めて拙い世界となっていた。その原因となっているのが、マジック・キャンセラーとユースフィア式魔法だった。
そもそもの始まりは、二十年前にいきなりマジック・キャンセラーによって惑星規模でミッドチルダ式魔法や近代ベルカ式魔法といった管理世界で使用されていた魔法が一切使用できなくなったことだろう。
これによって、第97管理外世界と管理世界は行き来だけでなく連絡すら一切できなくなった。これは管理世界は通信技術すらも魔法が使用されていた為に魔法が使えなくなると途端に連絡すらできなくなったからだ。こうして第97管理外世界に滞在していた管理世界や管理局に関わりのある人間たち(エイミィ、グレアムなど)は現地で孤立することになった。
そんな彼らは地球でユースフィア式魔法という新たな魔法が知られ広まっていくことを知る事になる。いきなり惑星規模で自分たちの魔法が使えなくなる中で、これまで魔法文明が存在しなかった地球で未知の魔法形式が一気に広まる。この状況から彼らはウィッチズガーデンが一連の事件に関わっていると推測した。
しかし、そう判断しても魔法が使えない上に管理局とも連絡が取れない彼らは直接動けず、民間協力者である月村とバニングスに依頼してウィッチズガーデンに圧力をかけてもらうことしかできる事はなかった。
月村とバニングスとしてもこの異常事態からウィッチズガーデンが余所の次元世界から来た人間で、地球で悪巧みしていると判断していたし、魔法が一気に広まる事で地球各国が混乱するのを嫌がったという理由もあって彼らに協力することにした。
最も、ここで管理局関係者を切り捨てるという選択を選ぼうにも月村とバニングスは某三人娘と付き合いがあり過ぎる上に、これまで下手に民間協力者として協力してしまっていたことから、今更そんな事をしても旗色を誤魔化すことは出来ないという事情があった。
その結果、ウィッチズガーデンは現地治安当局に拘束されることになるが、その後もユースフィア式魔法は日本を中心に広まっていき、ユースフィア・オンラインが終わった新暦73年には数十万人も新たな魔導師が現れていたのだった。
新暦81年にやっとマジック・キャンセラーの有効期限が切れて魔法が使えるようになり管理局も調査に乗り出したが、それによってマジック・キャンセラーの存在を知った管理局はパニック状態になった。惑星規模で容易く魔法を一切使用できなくするマジック・キャンセラーは管理世界を崩壊させるに十分すぎる物だったからだ。
更にユースフィア式魔法の存在も問題だった。実はユースフィア式魔法はリンカーコアに由来する魔法ではなく、魂の力というオカルトな代物で発動する魔法で管理世界ではあまりにも常識外なもので、更に不味いのがこれが才能に由来するものではなく(ユースフィア・オンラインで)努力すれば誰でも習得できる魔法だった事だ。
これらは魔法の才能がある一部のエリートが上に上がる構造となっていた管理世界を崩壊させる危険性をはらんでおり、事態を重く見た管理局は第97管理外世界に渡航禁止令を出して封鎖することにした。
さて、ここで問題となったのが、ユースフィア式魔法を習得するのに大きな役割を果たしたと思われるユースフィア・オンラインである。管理局はそのVR機器(ヘッドセット)をロストロギアの名目で多数押収した。
最もそれらはゲーム終了と共に使用不能となっており、解析も一切できず管理局の徒労に終わる事になるが、このVR機器を地球人から堂々と回収(強奪)したことで第97管理外世界に管理局の存在がバレてしまう。さらにその傍若無人な行動から彼らの敵意を買う事になり、後に地球が霊子エネルギーに由来する独自の魔法技術を発展させて次元世界に進出したときに大きな火種となるのであった。
ちなみに管理局の存在がバレた際に月村とバニングスは管理局に協力していた事が発覚した為に、スパイ容疑がかけられて極めて拙い状況に陥る。その結果、新暦91年にはこの二つのグループは解体されるのであった。
あとがき
これでこの話は終わりです。今回エリーゼがいろいろと暗躍しましたが、彼女の行動は下位世界に余計な知識や技術を流出させないという監察軍の基本方針に反するので、この話はお蔵入りになりました。あくまで嘘ネタですよ(笑)。