2006年1月12日
トライデント作戦から一年あまりの月日が過ぎた。この時期のマブラヴ世界の人間たちの士気は総じて低く、かつて地球上からBETAが一掃された時の喜びなど欠片もなかった。
そんな中でオーストラリア連邦は事態打開の為に動き出していた。元々オーストラリアはBETA大戦で無傷であったことからアメリカに次ぐ世界第二位の国力を温存していた。
しかし、そのオーストラリアであっても隕石落下やその他の天変地異には大打撃を受けていたが、それでも国家体制を維持することができていた。とはいえ、再び現れたBETAによって国を失った日本人を筆頭に難民が押し寄せてきたことからこの対応に苦慮していた。
本音を言えば食料生産能力が低下して自国民を養うだけで手がいっぱいの中で難民や亡命政府など受け入れたくはないが、人道的な問題から拒否するのは難しくやむえず受け入れていた。
当然、現在のオーストラリアでは難民や亡命政府に対する支援など雀の涙程度しか出せないが、それでもオーストラリアにとって乾いた雑巾を絞るようなおこないだったのだが、彼らはオーストラリアに不平不満を主張して揉め事を起こしており、オーストラリアにとって頭痛の種になっていた。
そして止めとばかりに他国が食料や資源を奪うためにオーストラリアに戦争を仕掛けており、人類同士で争う羽目になっていた。最早、BETAうんぬん以前に人類は環境の激変と人類同士の争いで滅びるしかない状況だった。
勿論、ユーラシア大陸に再び勢力を拡大しつつあるBETAの問題も放置できない。すでに日本列島は陥落しており、BETAが海を渡って南下してオーストラリアに上陸するのも時間の問題となっていた。
この絶体絶命の状況を何とかできる者など地球には存在しない。故にオーストラリアはかつてBETAを一掃した謎の存在(恐らく異星人)に助けを求めることにした。それは地球を監視しているであろう彼らにメッセージを送ることだった。
勿論、こんな神頼みならぬ異星人頼みな行動は上手く行くとは思えなかったが、それでもそれにすがるしかないのがオーストラリアの現状であった。
しかし、そのメッセージに返信(それも英語で)が来たことで状況が一変した。オーストラリアは喜んで会談することになった為、異星人の宇宙船がキャンベラ国際空港に着陸する事となった。
余談だが、この時期になると旅客機など使用する人間などほとんどおらず民間空港は無意味な代物となっていた為、空港は宇宙船を受け入れるスペースを確保する上で手っ取り早い施設だった。
こうして宇宙から降り立った宇宙船にオーストラリア人たちは注目した。何しろ異星人それも1998年にBATAを一掃した勢力との接触なだけに迂闊な真似はできない。
そうこうしている内に宇宙船はハッチが開いて何者かが出てきたが、それをみたときオーストラリア人たちは驚いた。というのも出てきたのは人型ロボットだったからだ。
それは確かに人型で大きさも人間サイズだったものの、あからさまにロボットとわかる外見をしていた。それが10体ほどおりてきた。それらは統一されたデザインではないが、いずれも一目でロボットとわかる外見をしていた。
「初めまして、私は三千世界監察軍に所属するロボットです」
と、ロボットから自己紹介された彼らは硬直するが、すぐに気を取り直した。
「ロボットとのことですが、貴方方が交渉にあたるのですか?」
異星人ではなく、ロボットが出てきたことに不満を持ちながらも、それを露骨に出すことなく遠回しにそういった。
「そう、この船にはロボットしかいない。上官の風間ちとせ少尉は私たちにこの世界に調査を命じていた」
「風間ちとせ少尉ですか、日本人の名前ですね」
異星人が日本人の名前なのが意外だった。
「風間少尉は日本帝国出身だから日本人の名前なのは当たり前です」
「なっ!」
「それはどういうことですか!」
なぜここに日本人が関わってくるのか分からず彼らは戸惑った。
「そうですね。まずその辺りから離さなければいけませんね」
と、前置きして彼らは監察軍や風間ちとせの事を説明しだした。
その内容はオーストラリア人たちを混乱させるに十分な内容だったが、それでも監察軍にこの世界の人類が参加しており、この世界において彼女が大きな権限を有しているというのは朗報だった。
「では、監察軍はかつてのようにBETAを排除してくれるわけですね?」
その為、そう期待を込めて訊ねたのであるが、
「それは分からない。でも風間少尉はこの世界を調査しか指示していないし、この世界に見切りをつけているから多分見捨てられると思う」
という、無情な言葉を返されたのだった。
「一応、上の方に伺いを立てておきましょう」
彼らはそういうと、ロボットの一体が宇宙船の中に戻っていった。どうやら監察軍の上層部と連絡を取るつもりなのだろう。それで何らかの進展があるかもしれないと彼らは期待したのだった。
レディ・アンside
その通信を受けた時、私は寝耳に水の事に眉をひそめた。監察軍のロボットたちが勝手に下位世界の国家と接触したというのだ。その世界は風間ちとせの担当世界だった筈だが、ちとせではなく、ロボットが通信してきた事に不信を抱き状況を聞きだしたが、あまりの事に頭を押さえてしまった。
こいつらはちとせの調査命令を拡大解釈して勝手にオーストラリアと接触していたのだ。言うまでもなく命令の拡大解釈など上の嫌うことで、それをロボットがやった事に怒り心頭になったのは当然だろう。
しかも、そのロボットは人道などを持ち出してマブラヴ世界を調査するだけで助けようとしないちとせに反発していたらしい。だが、ちとせは一度はあの世界を救っているし、それでも滅びの危機にあるのはあの世界の者たちの自業自得だ。
そんな愚か者を一々助けてやる必要などあるまい。第一、ちとせですらあの世界に見切りをつけているのだから監察軍としてはあの世界の原住民を助けるつもりなどない。とはいえ、既にロボットたちが現地勢力と接触している以上、放置はできない。
そこで、ちとせに連絡を入れて事後処理をやらせることにした。ロボットの暴走とはいえ、あの世界をロボットだけ送り込んだのはちとせなのだから彼女に責任を取らせて対処させるのは当然の事だ。
まったく、こんな不快な事をトレーズ様に報告しなければならないとは頭が痛いが、この程度の損失でロボットの問題が浮き彫りになったのは良いことだ。監察軍がロボットを使う以上、その問題点の洗い出しはやっておくに越したことはないのだから。