「という訳でだ。お前と夜見には福島で発見された荒魂対処に向かってもらう」
「いや、何がという訳なのか。可能ならば詳細な説明を求めます」
手合わせから数日経った平日、紫様に飛び出されてみれば出張のご下命だった。しかし驚くことにこの上司、漫画でありがちな端折った説明を現実で行ってきたのだ。何をどう理解しろというのか。
「ふむ、冗談だ。わたしは何を言っても真剣に受け取られてしまうからいけないな。今年の忘年会に向けて精進しなくてはならないな。去年はひどかった」
「上司が率先して盛り上げる刀剣類管理局はなんてホワイト企業だぁ……」
俺の虚しい呟きは特に気にされた様子もなく、紫様は話を続ける。
「本題に入るが獅童と此花は現在関東北部での荒魂討伐に向かっている。彼女らにそのまま福島に行ってもらうのも不可能ではないが特定の刀使に仕事が集中するのは有事を考えても避けたい」
「それで本部で暇している俺たちに白羽の矢が立ったと?」
「そうだ。まだ親衛隊に入って間もないお前がほかの隊員との連携を作り上げる目的もある」
紫様の物言いに少し眉に力を入れてしまっている自分がいる。
「紫様は俺がもう御刀を振るいたくないのを承知の上で親衛隊に加入させたと聞いています。その上で俺に連携の必要があるとは思いません」
暗に御刀を震わせるのなら親衛隊自体を辞任するとほのめかす。それだけ俺にとって御刀を、自身の力を使いかねない状況は避けたかった。
しかしそんな反抗的な態度にも折神紫は気にした様子も見せず、
「お前が御刀を振るわないのはお前の自由だ。あくまで御刀を振るうのはお前の意思、強制はしない。それが鹿島の総代との取り決めだ。しかし別に御刀を荒魂に振るうことのみがお前の全てではないだろう?」
何を言ったところで行かされることは決定事項らしい。しかしなぜ折神紫はこうも俺に親衛隊に居させたいのか、ただ神社庁との取り決めのためなら他にも人材はいるはずだ。それこそ他の鹿島の人間でも俺と同じ、戦うことを避けない分そちらの方がいいに決まっている。俺がここにいること、それがそもそもの大きな疑問だった。
●
刀剣類管理局の機動隊の運転する装甲車に揺られること3時間弱、あと1時間もすれば到着する頃。鎌府から福島はそれほど遠くなく、朝方に出発すれば昼過ぎには到着する塩梅だった。
運転手である隊員の腕がいいのか微かにだけある自動車特有の振動は読書をするのには丁度いいもので、3時間もあれば文庫本程度は読み切れてしまうもので読み終えた文庫本を閉じ、顔を上げるとこちらを見ていた皐月さんと目が合った。
「 皐月さんも何かしていれば良かったのでは?」
「いえ、特にしたいこともないので」
「そうですか」
二人揃って会話が下手と言わざるを得ない。先日の手合わせ以降、それまであった皐月さんとの壁のようなものは緩和されたが別にそれほど会話が増えた訳ではなかった。考えてみれば互いに必要以上に会話に積極的になろうとしないのだ。
多少しこりがなくなったとはいえ急に会話が弾むようなものでもない。
何か言った方がいいような気もするがこういう時にそういう会話をするべきなのか習ったこともなければ、実践したこともない。
しばしの沈黙があって。
「……、……、きょ、今日の天気は良いですね」
「曇ってますが?」
はい、終了。会話が終わってしまった。
これが結芽ならばあっちから話しかけてくるものだから話しかけるという最も難易度の高い部分がなくなるのだが、生憎ここにいる二人は生粋の無口者ども。俺たちの会話はこれからだと打ち切られるための連載さえ始まらない有様だ。
己のトーク力の虚弱さに頭を抱えていると皐月さんからの視線を感じる。
いつだったかと同じように真っ直ぐにこちらを見る視線。そして皐月さんは口を開いた。
「鹿島さんはどうして本気になることを恐れているのですか?」
驚くほどに触接的におそらく誰の目にも明らかにデリケートな部分への直球の質問だった。しまった、この人はおそらく会話の順序をすっ飛ばすタイプの会話ベタだ。要点や結論だけ話すから人に勘違いされるタイプ!
質問をしてこちらの返答を待ったままの肝の太さを感じさせる皐月さんに戦慄する。出方を伺っているようにも見えるから、おそらく彼女の中でもこれはしてもいい質問なのか、そうでないのかの判断がまだついていないのだろう。
俺の身の上話など面白くもないだろうに、会話ベタなのはお互い様という訳か。
互いがなんとか会話を成立させようともがいていたらしく、急になんだかそれが可笑しく感じる。耐え切れずに少し笑いが口から漏れてしまう。
「何か面白かったのでしょうか?」
どうして俺が笑ってしまっているのかがわかっていない様子の皐月さんは不思議そうに首を傾げている。それに一度謝りを入れ、そして俺は大して面白くもない、なんてこともない俺の身の上話を始めることにした。
●
「鹿島の一族は元々、その名の通り鹿島神宮に仕える一族を指していて、そして俺たちは代々一つの異能を受け継いでいくことを宿命づけられてきた」
「異能を受け継いでいく? それは鹿島さんが御刀を男性でありながら使えることと関係が?」
「そう、鹿島の血は御刀の力を引き出す。それこそ性別関係なく。でもそれが引き出しすぎるから、本来壊れるはずのない御刀を壊してしまう」
先日の手合わせでも使った安綱レプリカも四度振るっただけで刀身が力を失い無事崩壊を起こし砕けた。むしろよく持った方で出来の悪い物であれば一度振っただけで折れてしまうこともあった。御刀など長く振るっていなかったはずなのに、体はいつの間にか御刀がダメになる感覚を理解していた。注いできた力がまだ途絶えていなかったことが先日の手合わせで分かってしまう。
「御刀の力を引き出すあまり、壊してしまっては本末転倒なのでは?」
皐月さんの疑問はもっともだ。引き出す度に壊してしまうようでは引き出す意味もない。御刀が壊れてしまうのはあくまで本来の目的に沿ったものではないから。
「……それは俺たちの規格が本来、御刀を振るうことを目的としていないから。御刀は俺たちからすれば模造品と呼ぶべき物なんです」
「本物の御刀というものがあると?」
「日本の神様に刀の神様がいることはご存知ですか?」
「いえ、そういうものには疎くて」
確かに日本神道において重要な神でもなく、専門にしている人以外で知っているのはおそらくゲームなどをやるような人の方が多いのだろう。皐月さんがそういったものを趣味としているとも思えない。しかしここまでの会話で皐月さんも察しはついたらしい。なるほど、と一度納得した様子になり。
「つまり鹿島さんのご家族はその刀である神さまを振るうための力を受け継いでいるのですね」
「そういうことです。埃臭い文献によれば、神代の時代にうちの一族は神さまの意思を汲み取り、必要な時に人の世を乱す神を鎮めるため、その剣神自身が生み出した自分を振るうための担い手の一族だったそうです。しかし時代と共に神々は人の世を去り振るうべき刃のない担い手たちだけが残った」
「そして荒魂が出現するようになって、その神様を見本に御刀が作られ、今の刀使たちの先祖が現れた?」
「皐月さんと話していると全部を話さなくて済むので楽ですね」
概ね彼女の推測通りだった。剣神が去った後、それでも人の世における超常の脅威は無くならず、人々はかつて去ってしまった神様に救いを求めた。しかし神は降臨することはなく、仕方なく人々は神の模造を始めた。
それは刀使と御刀の歴史の始まりだった。
当然と言うべきか、神を振るい力を引き出す鹿島の一族にとって神の模造品である御刀ではあまりにも引き出せる力の底が浅く、すぐに壊れてしまう。
それまであった役目を果たせなくなったことはかつての鹿島一族の自尊心に大きく障った。
「だからでしょうね。ご先祖たちはどうしてもかつての、刀使に取って代わられてしまった、人々を守っていた自分たちの栄華を取り戻したかった。それは容易に禁忌に手を出すことになった」
「禁忌?」
「隠り世の技術、かつて去ってしまった神々を無理につれもどそうとしたんですよ」
「それは……」
刀使であれば間違いなく問題があることが分かる行動だった。この世と隠り世は微妙なバランスの上に立っており、深く隠り世に触れようとすれば戻ってこれなくなることは刀使たちの共通認識だった。その隠り世の深淵からなにかを取り出そうと言うことがどれほど危険なのかは言うまでもない。それほどご先祖様たちが追い込まれていたとも取れるし、欲に目が眩んでいたとも言える。
思わず自嘲してしまう。関係者の間では笑い話にもならない。俺たちの起源。
「実際起きてしまったみたいですよ。巧妙に記録を塗り替えていても明らかに時期が一致している。おそらくご先祖様は力の一部を取り戻すと同時に大荒魂を現世に呼び込み、その上で自分たちで処理してそれを伝聞して回った。自分たちの力を取り戻すのと同時に名声を挽回した。被害者も出ているというのにひどいマッチポンプだよ、本当に」
思い出すだけでいい気分がしない血塗られた歴史。そしてそれは過去の出来事ではなく、今日にまで脈々と俺にまで続いている。
「それ以降ですね、鹿島一族に隠り世から元の神様の一部を引き出す力が備わったのは。その力を持って鹿島一族は神社庁でも重要な地位に就き、有事の際にはその力を振るうようになった。
そして20年前、俺の母がその当代の鹿島だった」
「20年前と言いますと相模湾岸大災厄? しかしその当時の資料に鹿島の名は見た覚えがありません。記録によれば紫様が大荒魂を討伐したと」
皐月さんは表向き記録されていることへの差異を指摘している。それもそうだ。母は刀剣類管理局の所属ではなく神社庁の所属なのだから。それに結果としてなにもしていないのだから記録から抹消されるのは鹿島の面子の為にも当然だった。
「俺も全てを聞いた訳ではないです。しかし母はずっと言っていました。切るべきものを切るべき時に切れなかったと。自分はあの大災厄で役目を全う出来ず、何も出来なかったとずっと誰かに懺悔するように後悔していたのを覚えています」
「お母様は今どちらに?」
「……消えてしまいましたよ」
ここが一番触れたくない場所だった。
「消えてしまった? どこかへ行方をくらましたということですか? ……そうでしたらすいません。出すぎた質問を」
申し訳なさそうに頭を下げる皐月さんに俺は違う、そうではないのだと告げる。
「消えたというのは比喩なんかじゃなくて。本当に剣術の稽古中、文字通りに霞のように俺の目の前から消えてしまったんです」
「そんなことが……」
事実なのだ。その日、急に母は時間切れが来たと言った。そして薄くなっていって最後には煙のようにいなくなっていた。今もあの時のことだけは鮮明に恐怖とともに記憶に焼きついていた。
「母は言ってました。これは一族の力を見誤ったから起きたことだと。自業自得の結果だと。これが鹿島の血の業なのだと」
母のように自分もいつか不確かな存在になって消えてしまうのではないかという恐怖が蘇り、その原因が今も自分の中に流れていると思うと体が冷えていくような感覚と足場が消えていくような浮遊感と落下の感覚が急にやってくる。
この世界に自分一人になった気がして思わず自分の存在を確かめるように自分の腕を掴んでいた。
膝を曲げ、体を小さく丸めて外から見えるものを視界からなくす。怖くなった時、いつもやる癖のようなものだった。そして早鐘を打つ心臓が落ち着くまではいつもこして怖いのを耐えていた。
ただ今日は少しだけ違った。一人だけの熱に自分ではない誰かがいた。
そっと包み込むようにして皐月さんが手を取ってくれていた。
「大丈夫ですよ。鹿島さんは今、私の前にいます。それは確かなことです」
無表情な彼女が安心させようと頑張っているのか、口角が少しだけ上がり小さな微笑をしていた。
●
少しすると乱れていた気持ちも落ち着いていた。
大きく息を吐き、やっと自分が平常心に戻れたことを自覚し、そして自分が皐月さんの手を握ったままでいることに気がつく。
「……あ、すいません。ずっと握ったままで」
そう言いながら手を離す。冷え切った手にはまだ微かに皐月さんの温もりが残っていて、それがどしてかまた強く熱を持った気がした。
「いえ、無理に聞こうとしてしまったのは私です。これくらいのことは当然かと。むしろそれほど思い出したくもないことを話させてしまい、配慮が足りませんでした。ごめんなさい」
心からそう思っているのか皐月さんは深々と頭を下げていた。でもそれは違っていて。
「いいんです皐月さん。俺もきっと誰かに聞いて欲しかったんです。ずっと誰にも言えなくて、抱えていたものを聞いてくれてありがとうございます」
本心からの言葉だった。気がつけば10年誰にも言えず抱え続けていた思いを聞いてもらえる機会なんて、この先にもそれほどないだろう。それを聞いてもらえたのは話し、思い出す恐怖と同じように落ち着けるものだった。
「これが笑い話にもならない俺の身の上話です。10年前に母を失い、自分も母と同じようにいつか消えてしまうのではないかと恐れ、身に宿る力を使えないでいる。それだけの話です」
話してしまえばとても底が浅く、簡潔なものだった。そして話していて気づく。
「……あ」
「どうしました?」
「そういえばこれを話したのは皐月さんが初めてでした。自分から話しておいてですがこのことはどうか内密にお願いします。殆どが鹿島の秘匿に関わるものなので周囲に、皐月さんはやらないと思いますが、吹聴されると最悪俺が消されるのでどうか秘密にしておいてください」
鹿島一族にとって絶対に知られたくない過去の過ちなどは最もで、力を誤ると自壊することも出来れば秘密にしておきたいのだろう。外に出ている一族が自分だけなので広まればすぐに出所は分かってしまう。
それを聞くと皐月さんは少し考え込む様子を見せ、決心したようにこちらを見て目が合う。
「では、私も自分のことを話しましょう。互いの秘密を守ることで話せなくすれば鹿島さんも安心でしょう?」
話さないでもらえるのはこちらからすれば願ってもいないことだが、皐月さんが自分のことを話すことまで必要なのだろうか?疑問こそ持ったものの、皐月さんは話し始めた。
「私は秋田の山中にほど近い村で生まれました。そして12歳の時、国の一斉適性検査によって御刀に選ばれる資質があることが分かりました」
「皐月さん秋田出身だったんですね。秋田美人というやつですか」
頑張って固い空気を和ませようとの精一杯のの言葉だったが皐月さんは二度三度目をぱちくりを瞬きさせると、そのままプイッと顔を逸らしてしまった。
顔を見せてもらえず、少し耳が赤い気がしたがそのまま皐月さんは続けた。
「地元では随分と持ち上げられたのを思い出せます。やれ、村の誇りだ、自慢の娘だと、色々褒められたのを覚えています。得意なことがわからなかった私にとって自分はこれならきっと上手くいけるのだろうと根拠もなく自信を持って田舎から、神奈川の鎌府女学院に入学しました」
昔を語る皐月さんはその時のことを思い出しているのか表情が柔らかい。しかし懐かしむようにどこか遠くを見るようだった柔らかい視線が不意に消えた。
「しかし良かったのはそこまででした。気がつく頃には同じように入学した同輩たちの中に埋もれ、むしろ取り残される側になって。結局のところ私は特別な人間でもなければ才能豊かだったわけでもなくどこにでもいる平凡な刀使だったわけです」
「しかしどうして親衛隊に? 皐月さんの言う通りだとしたら、その……実力が」
言い難いことだが折神紫様の親衛隊とは実力を基準に選ばれる集団。彼女の言う通りなのであれば、彼女が親衛隊に抜擢されたのは道理から外れているとしか言えない。
俺の疑問を肯定するように皐月さんはうなずいた。
「学生時代の私は一つの才能を高津学長から見出して戴きました。その才能と紫様の推し進める研究が合致していた為に、結果として私は親衛隊にまで召し上げられました」
刀使として能力以外での才能という言葉に一つだけ心当たりがあった。初めて折神家に足を運んだ時、屋敷全体にひどくこびりついていた気配と残り香。
それを倒すはずの存在である刀使の親衛隊と紫様に同じ気配を見つけたことが不思議だったが皐月さんの口ぶりから察せてしまった。
「荒魂に馴染む才能。……ノロとの適合性と呼ぶべきもの。違いますか?」
「……驚きました。前から知っていたのですか? それとも紫様がお伝えに?」
本当に驚いた様子の皐月さん。その口ぶりからして相当、厳重に秘匿されている研究なのだろう。古来より人と仇なしてきた存在である荒魂を刀使に使うのは明らかに倫理感からも、不信感からも素直に受け入れられるものではなかった。
はっきりと明言されるまでは明確にそうだとは思えなかったのも事実。多分一般的な刀使では分からず、今まで知られていなかったことから荒魂を発見するためのスペクトラム計からも見つけられないのだろう。それが分かったのは自身に流れる血の資質によるところが大きかった。
「鹿島の人間はスペクトラム計に頼らず荒魂の存在を気配や匂いという形で感知して追えるんです。前から親衛隊の皆さんは荒魂の気配を放ってましたから。気にはなっていたんです」
「そうでしたか。その通りです。高津学長からノロとの融和の検体になった私は高い適合率を発揮しました」
そう言うと皐月さんは腰に携えた水神切兼光を少しだけ抜き、小さく指先を切った。何をしているのだと聞く前に目の前で起きたことに言葉を失う。
切れた指先から血が流れると思いきや、代わりに滲み出た小さな荒魂が蝶の形となって現れた。現れた荒魂は何をするでもなく皐月さんの手の上に止まり、時折小さく羽をはためかせるだけだった。
その手に乗った荒魂を皐月さんはこちらに渡すように差し出してきた。
「この力を持って私は生まれ変わりました。力のない刀使から高津学長と紫様にお仕えする親衛隊に。そうして今の私がここにいます」
「そんなのは…………」
間違っていると言葉を続けることはない。振り返るようにこれまでの半生を話す皐月さんに俺はそんなこと間違っているとは言えなかった。他でもない彼女自身が今こうして荒魂を体の中で飼うことを受け入れ、そうやって手に入れた居場所で出来ることをやろうとしている。
それに対して俺は自身に流れる血を恐れ、逃げることで何もできないでいる。まさに正反対の在り方に俺は彼女が眩しくもあり、彼女の言葉から感じてしまう高津学長と紫様への忠誠と恩義を推し量れないでいた。
そんな俺から彼女にかけられる言葉があるはずもなく、ただ差し出された荒魂をされるがままに受け取ろうとする。
ただ、
「あ……」
「……事切れてしまいましたね」
皐月さんの手から受け取った蝶の荒魂は俺の手の中に移ると音も無く、二つになって命を尽き果たしてしまう。鹿島の血に流れる荒魂への攻撃性が弱い力しか持てない蝶の命を枯らした結果だった。
飛ぶこともなく塵になりながら足元に落ちてく蝶。その儚さは今も親衛隊で、己の居場所で飛び続けようとする皐月さんを思わせて、そんな彼女から感じる拭い去れない儚さそのものだと思った。
その時自動車が止まり、小さな揺らぎがなくなる。どうやら現場に到着したようだった。
「では先に下りて準備をしていますね」
そう言って皐月さんは車から降りていった。
後に残された俺はただ、足元に出来た塵を眺めていた。
実は親衛隊のメンバーとは結芽以外そこまで仲良くないので基本敬語だったりします。女集団に一人置かれた男の立場は総じて狭いものです。