【完結】ナツキ・スバルの生存戦略 In ナザリック地下大墳墓(短編)   作:taisa01

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二周目

 ナツキ・スバルの意識が戻ると、帝国の街中を流れる河原に寝そべっていた。

 

 先ほどまでの感覚に引きずられるように勢いよく上半身を起こす。意識していなかったため、手に持っていた食べかけのリンガを落としてしまうが、そんなことに気を向ける余裕は無かった。リンガを手放した右手を、そのまま心臓をつかむように胸に押し付ける。

 

――死に戻り

 

 スバルが何等かの理由で死んだ際、あるタイミングまで巻き戻るという時間遡行のチカラ。スバルが異世界転移した際になぜか身に着けたもので、視力や四肢といった物理的な代償を必要としない。これだけならばとてつもなく便利なものに見えるが、なにより死がトリガーとなっていることがそもそも重い。

 

 老衰のように、寝ている間に気が付いたら死んでいたというものならまだしも、たいていの死は何らかの苦痛を伴う。失血死、衰弱死は最もたるものだろう。なにより苦痛と恐怖は心を摺りつぶす。たとえ復活するとわかっていても、一度握りつぶされた魂の痛みを忘れることはできず、また慣れることもない。

 

 さらにスバルだけ(・・)が過去に戻るということは、他人の記憶は、その時点まで引き戻されるということだ。つまり、戻ってしまった期間に培った絆も愛情も信頼も、すべてが無へと帰すこととなるのだ。たとえ愛し合った相手がいても、それまでの経緯も含めて無かったことになる。たとえ盟友ともいえるほどの信頼を積み重ねたとしても、そのすべては無かったことになるのだ。

 

――自分以外の時間と記憶を差し出し、恐怖と苦痛を伴う時間遡行

 

 それが今発動した。

 

 スバルはゆっくりと腰を下ろしながら深呼吸をするも、胸を掻き毟りたくなるような嫌悪感が襲い掛かる。体の内側から食い尽くされる感覚を思い出し、胃の中身を吐き出す。もちろん、せいぜい先ほど食べていたリンガのカスが胃液とともに吐き出される程度で、記憶の中で自身をむさぼっていた虫のようなものが吐き出されることはなかった。

 

 なんとか現実を受け入れ、意識を落ち着ける。

 

 どれほど時間がたっただろう。いままで類を見ないほど最低な死に戻りの経験からなんとか立ち戻ると、周りを見渡した。

 

「ここか」

 

 バハルス帝国の帝都に流れる川のほとり。数日前、この世界に放り込まれた最初の地点だ。

 

「どうせなら、エミリア達のいる世界まで時間を戻しやがれ」

 

 悪態を付くも現実は変わらない。周りを行き来する住民たちに警邏の兵士たち。すこし離れたところに面倒見のいいおやじの串焼き屋も見える。目立つものといえば、川の反対側にいるワーカーか冒険者とおもわしき漆黒の全身鎧と黒髪美人の姿ぐらいだろうか。前回と同じように見える。

 

「ここで手をこまねいていていても何も進まない。換金して宿屋にいくか」

 

 そう思考を切り替えると、重い腰をあげて移動をはじめるナツキ・スバルであった。そして腰を落ち着ける場所を求めて移動を開始するのであった。

 

 ただ、これほど特異な能力を持つ彼は、戦闘訓練をしたこともあるし実践経験もある。しかし今でも一般人に毛が生えた程度のチカラしか身についていない。もし視線や気配を読むことができれば、自分のほうに視線を向ける二人の冒険者に気が付くことができたかもしれない。

 

 視線を向けた二人。

 

 ちょうど川の対岸に立つ、漆黒の全身鎧と黒髪の美女の姿に。

 

******

 

 リエスティーゼ王国において冒険者の立場を固めたモモンとナーベは、その立場を使いバハルス帝国を訪れていた。理由はいくつかある。一つは拠点としているエ・ランテルにおいてアダマンタイト級という最高峰の冒険者となったモモンとナーベの立場にふさわしい依頼が無くなったこと。二つ目を先日王都で発生した悪魔襲撃解決に貢献した二人への有象無象からの接触が増えていたこと。最後に本来の立場、ナザリック地下大墳墓 最高支配者アインズとして、新たなる策謀の一手を打つこと。

 

 もっとも最後の理由については、背後に世界征服という命題がある。この命題については誤解の結果ということもありアインズとしては納得しきっていなかった。しかし、対案もなく反論する気はなく、考えるかぎりデメリットも少ないため今は受け入れる方向でうごいていた。

 

 けしてアインズが冒険者らしい冒険をしたいという理由だけで帝国に来たわけではない。

 

「モモンさん!」

 

 そんな二人が、帝国での用事を済ませ街の様子を見るために散策していた時、急にナーベが警戒の声をあげる。もちろん、まわりに聞こえない程度に調整されているため、周囲からは冒険者同士の会話にしか見えていないが、その口調は穏やかなものではなかった。

 

「黒い煙か?」

 

 モモンが口にした通り、ちょうど二人と川を挟んだ対岸に突如黒い煙のようなものが立ち上ったのだ。

 

 しかし奇妙なことにナーベとモモン以外、まわりの人間たちが気が付いた様子はない。あれほどの黒い煙が立ち上れば周りの人間達がなんらかの反応を示しても良いはずだが、視線すら向けることなく日常が続いているのだ。

 

「ナーベ。見えているか?」

「はい」

「周りが反応していないのは、これが日常の現象であり注意を払うに値しない事象だからと考えられるか?」

「そのような話を聞いたことはございません。むしろ見えていないという推測が妥当かと」

「ナーベ。あれをどう見る?」

 

 ナーベはマントの下で隠れるように二・三の魔法を素早く発動させる。

 

「敵意・毒など危険な反応はありません。感覚的な回答となりますが危害を加えるような類には見えません。むしろ……」

「ああ。死の匂いとでもいうのかな? 私に近い気配があるな」

 

 各種魔法で害になるようなものを感知することはできなかった。加えて感覚的なものだがモモンにとっては、自分の絶望のオーラに近いもの、本質的にもっと近しいものの気配を感じていたのだ。

 

 モモンとナーベが黒い煙に対する周りの反応を観察していると、その煙も次第に収まる。そこには一人の少年が横たわっていた。もちろんすぐに起き上がったため、生きているだろうことは見て取れるが、苦しそうにうずくまっているあたり何等かの影響があったのだろう。

 

 そんな少年に対しナーベはさらなる魔法で安全を確認していたが、モモンはまったく別のとこに注目していた。

 

「(あの姿。ジャージだよな? すくなくともこの世界では見たことはない。ユグドラシルの公式デザインにはなかったはずだが、外見は好きなようにエディットできるから、ジャージに似たデザインがあった可能性は捨てきれないよな。ってことはプレイヤーか?!)」

「モモンさん。アレに特段問題点や危険があるようにはみえません。見た目通り低レベルのゴミ虫かと」

 

 確認を終わらせたナーベがモモンに報告をする。低レベルという点が引っかかる。モモンはあの少年がユグドラシルプレイヤーの可能性さえ一瞬頭をよぎったのだから。しかし少年が立ち上がり移動を始めたとき、反射的に指示を出してしまう。

 

「ナーベ。デミウルゴスと連絡を取り、帝国で情報収集をしているものから一人を、あのモノにつけるように伝えよ。気付かれるな」

「はっ」

 

 ナーベもただの人間にわざわざ特別な監視という点に疑問に思うも、至高の絶対支配者であるアインズ様が扮するモモンの指示に従う。よくよく考えれば先日も何もないとおもっていた人間にポーションを渡したことで、ポーション作りの名人を配下に加えた。アインズ様が何か気が付かれたということは、あの対象にも何らかの価値があるのかもしれない。

 

 そう考えナーベは素早く行動を開始するのだった。

 

******

 

 スバルは大部屋に設置された三つある二段ベットの一つに身を投げる。藁を詰め込んだと思わしき麻袋の上に申し訳程度のシーツのみ。やわらかいとは言えないが、最低限寝るには十分な代物だった。そして万が一を考え荷物を抱えるようにしながら横になるスバルは、前のループのことを思い返す。

 

 謎の転移後、情報収集を経てこの宿屋にたどり着いた。

 

 この宿屋の一階の酒場でフォーサイトの面々と出会い、そして前回死んだ直接の原因である新たに発見されたというダンジョン探索の依頼を受けた。

 

 そして出発日までの数日はバイトなどで小銭を稼ぎつつ情報収集。帝国自体はかなり安全で住みやすいようだ。なんせ毎年、隣国と戦争するがあくまで常備兵と志願兵中心のため経済は回り続ける。しかも勝つのだから国もまとまるというもの。それこそ皇帝に牙を剥こうとでもしないかぎりは、変な欲をださなければ暮らす分にはすみやすかろう。

 

 そしてダンジョンに出発。道中は順調そのもの。

 

 むしろ見つかった新しく見つかったダンジョンの表層の部分はすごかった。荘厳な廃墟。たしかにその言葉が正しいのだろう。しかし朽ち果てた神殿や建物、砕け散った柱などはある。そこに埃っぽさは無く、加えて人が生きた痕跡ともいう煩雑さというものがなかった。そこはあまりにも美しく、まるで作られた芸術品として作られた廃墟とナツキ・スバルは感じていた。

 

 そして探索。一日目は全く問題なかった。順調に探索をすすめ内部構造を持ち帰ることができた。

 

 問題は二日目。スバルは荷物持ちとして同行するも仲間とはぐれ、何か黒いものに食い殺されたと……。最後のシーンについては精神衛生上深く考えないようにする。

 

 やはりポイントはあのダンジョンとしか思えてならなかった。聞けば、ここ数十年単位で初めて見付かった場所。もともと平野だった場所が気が付けば丘陵地帯となり、その一つで見つかったというダンジョン。普通に考えれば怪しい。

 

――突然現れた

 

 なによりこの一点が、ナツキ・スバルにとって自分に近いナニカを感じた。

 

 そこまで考えてから、まるで視点を変えるように考察を引き戻す。

 

――そもそもそんな危険地帯に近づかなければよいのではないか?

 

 ある意味で一番しっくりくる選択肢だ。後ろ向きではある。気にかけてくれるフォーサイトの面々には申し訳ないが、ヤバイ案件と伝えてお断りする方向で調整してみよう。

 

 前回のループで、フォーサイトの面々は最終的にお金を必要していることを理解できた。しかしそれもワーカーを引退するためにまとまったお金が必要というものであって、いますぐ必要だったのは魔法使いの女性だけだった。彼女は妹を連れ浪費家である実家と縁を切りたいと考えているのだ。一人なら今すぐにでも実行可能であるらしいが、家族を連れてとなるとそれなりにまとまった額が必要となるのは想像に難しくない。

 

 でも命あっての物種。ナツキ・スバルはあそこから起死回生の復活劇を演じられたとは考えられなかった。フォーサイトの面々がどうしても参加するというなら、無事を祈るとしよう。そして帰ってきたときに情報を聞けばよいのだ。

 

「明日みんなに話してみるか」

 

 そう考えると心が軽くなったように感じられた。

 

 そもそも、元の世界への帰る手段の切っ掛けさえ見つかっていない。しかし、方針が決まったのだからと、ゆっくり目を閉じるのだった。

 

 

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