【完結】ナツキ・スバルの生存戦略 In ナザリック地下大墳墓(短編) 作:taisa01
ナツキ・スバルの意識が戻ると、帝国の街中を流れる河原に寝そべっていた。
――死に戻り
予感はあったが、予想はしていなかった。
あの日、ダンジョンに行く依頼を断った上でフォーサイトの面々に、いくらなんでも怪しいと訴えた。しかし最終的には魅力的な報酬額を理由に彼らはダンジョンに向かうこととなった。
ただ帰ってこれたかどうかわからない。
なぜなら、帰ってくる前にスバルが死んだからだ。
フォーサイトの面々が旅立って数日、ちょうどダンジョンに入っているだろう日。
なんと帝国の上空にドラゴンが現れたのだ。
ある資材商の下働きをしていたスバルは、城への大量物資の搬入のために駆り出されていたのだが、たまたまその時にドラゴンの襲撃を受けたのだ。逃げ惑う人々と迎え撃たんと集まる兵。スバルは不運にも兵士側の人波に飲まれ中庭の外周に放り出されてしまった。
そこには異世界もののロマンの象徴。黄金の鱗を持つドラゴンとの邂逅に、スバルは一瞬魅了されてしまう。
だが、その魅了も場違いとおもえる子供の声で我に返ることができた。
「あたしはアインズ・ウール・ゴウン様に仕える、アウラ・ベラ・フィオーラです!」
子供特融の若干ハスキーな声が響く。
「この国の皇帝がアインズ様のお住まいであるナザリック地下大墳墓に失礼な奴らを送ってきました! アインズ様は不機嫌です。ですので謝罪に来ないのであればこの国を滅ぼします!」
スバルの位置からではドラゴンが邪魔して見えないが、なんらかの使者が宣言しているのだろう。だが、スバルにとって姿よりも気になるフレーズがあった。「ナザリック地下大墳墓に失礼な奴らを送ってきました」というフレーズだ。
先日フォーサイト達が向かった遺跡調査。地上部分の廃都市と地下ダンジョン。
そしてこのタイミングでのドラゴンの襲撃。
スバルの中で何かがカッチリとはまる音を聞いた。
「手始めに、ここにいる人間は皆殺しにします! マーレ」
だが、そこまでだった。スバルはその直後に発生した地震とともに大地が裂けて……。そこで自分の記憶はなくなっている。
どのように死んだかはわからないが、たぶん地中に埋められたと予想すると背筋が凍るような気分となる。
「結局残っても地獄。ダンジョンにいっても地獄か……」
まったく持って予想もつかなかった。城でドラゴンに地割れ? あまりの理不尽さに泣けてきた。ただいくつかのことが分かった。
一つ目は、あのダンジョンに行こうと行くまいと死の運命が存在するということ。
二つ目は、あのダンジョンがアインズ・ウール・ゴウンという人物の持ち物で、ナザリック地下大墳墓という名前ということだ。
しかし解決などしていない。またあの恐怖のダンジョンに向かわなくてはいけないのか? そう考えるだけでも嫌になる。主観時間で数日前に何かに自身の体を貪り食われた感覚がよみがえる。その感覚は足をすくませ、気力も何もかものを奪い去ろうとする。
「エミリアたんの笑顔がみたい」
恐怖に打ち震えながらも、脳裏に浮かんだのは少女の笑顔だった。いつもあの笑顔を守りたいためだけに、がむしゃらに頑張ってきた。どれほど恐怖に打ち震えようとも、最後にその背中を押してくれたのはあの笑顔なのだから。
「エミリア?」
しかし、川辺に横になっているナツキ・スバルに話しかける男がいた。ナツキ・スバルは目を開け、見上げるとそこには漆黒の全身鎧がいた。
「俺の大事な人。俺がなんとしても帰らないといけない理由。きっと笑顔で待っていてくれる人」
スバルの口からは、本人を前にして絶対にでない言葉がスラスラと流れ出る。エミリアの笑顔を思い出せば、いつもいろんなことが胸をよぎる。本人が一番つらいはずなのに、周りに気を使う優しいところ。困っている人を見過ごせず、いつも頑張るところ。様々なエミリアがスバルの脳裏を走り抜け、そんな子を守りたい自分が思い出される。
「ってすいません」
「いや、独り言に声を掛けてしまったのはこちらだ」
スバルはあまりに恥ずかしいことを口走ってしまったことに気が付きつい謝ってしまう。それを漆黒の全身鎧の男は軽く右手をあげながら気にするなと答える。全身鎧という威圧感のある装備をしているが、その声色は思いのほか優しく、見かけによらず優しい人なのかなと考えるのだった。
「君は大切な人のもとに戻りたいのか?」
「えっ。はい!」
漆黒の全身鎧がなにか興味を持ったのだろう。そんな質問に、スバルは少し目を閉じ、はいと答える。もちろんその閉じた瞼の裏には、エミリアだけではない、多くの仲間たちの姿が浮かんでは消えていた。時には手を貸してくれたり、感情をむき出しに責められたり。みんないろいろな事情を抱えていたが、それでも手を取り合うことができた仲間たちの姿だ。
「大切な人もいます。それに生死や苦楽をともに走り回った仲間もいます。だから帰りたいと……」
「帰れないのか?」
「気が付いたら突然この街にいました。帰る手がかりを探してますが、まだ見つかってません。それに生きるために生活費も稼がないといけませんし」
目標があるのにそれ以外の生活という面を捨てられない、そんな情けなさを感じスバルは自嘲気味に笑いながら答える。目の前の男性の声質から年上と感じ、思いのほかすらすらと答えてしまったのは意外だったが、それでも案外悩みというのを口にすると気分が晴れるものなのかと感じるのだった。
「突然……か。それは難儀をしているな、もしなにか困ったことがあれば私を頼るがいい」
「え? そんなご迷惑じゃ」
「気にするな、先達としての役目だ。私は冒険者のモモン。しばらくこの町にいる。冒険者ギルドに漆黒といえば話が通じるだろう」
「ありがとうございます。でも、少しは自分で頑張ってみようとおもいます」
「そうか。それが良い」
スバルはそういうとモモンに頭を下げ、まずは情報収集とばかりに露店街のほうに向かて行くのだった。そんな背中を見送るモモンは、背後に控えていた美女が声をかける。
「ナーベ。デミウルゴスと連絡をとって、この街で情報収集を担当するものの一人をあの少年の監視に回すように指示を伝えよ」
「かしこまりました。なにか気になることでも?」
「あの少年の言葉に嘘発見の魔法での反応はなかったのだな」
「はい。ご指示通り嘘発見の魔法をかけておりましたが、少なくともあのム……人間は自分の言ったことを真実と認識しているようです」
「突然この街にいた……似ていないか?」
「……はい」
そう。しばらく前、モモンやナーベが所属するギルド「アインズ・ウール・ゴウン」はギルド拠点ナザリック地下大墳墓と共に、この地に突然転移してきた。その後、紆余曲折の末、ギルドマスターのモモンガは、冒険者モモンと名を変え活躍するようになった。この二人とスバルの共通点は「突然の転移」という事象であった。現状本当に転移があったかはわからない。くわえて同じ理由や方法で転移したのかもわからない。だからこそ、気に掛け、情報の一端でも知ることができればとモモンは判断したのだ。そしてナーベは深く礼をすると、指示を全うするために行動をはじめるのだった。
「大切な人のため、仲間のため……か」
その背中を見送ったモモンはまるで思い返すようにつぶやくと、目的のために行動を開始するのであった。
******
スバルの日常は平穏だった。最初こそ全く情報のない探索先について調べるがまったくというほど情報がないことだけがわかるという空振りっぷりを発揮していたが、前回までの経験から、自分の常識がまったく通用しないことを理解させられたため、できるだけいろんな人物に話を聞くことにした。
特に漆黒の英雄と呼ばれるモモンから話を聞けたのは運がよかった。なぜならフォーサイトの面々でさえ、廃坑に住み着いたモンスター討伐ぐらいで、本格的なダンジョンアタックなど経験がないといっていた。
しかしモモンは場所こそ明言することはなかったが、様々な話を聞かせてくれたのだ。
難関な罠、巨大な敵と相対するモモンと仲間たちの姿をスバルは予想することができた。その素晴らしさにスバルは思わず絶賛してしまったのは、後になって気恥ずかしいものであったが、モモンは仲間たちの雄姿を手放しに称賛されたことに気を良くしたのだろう。いろいろな話をしてくれた。
「モモンさんもその仲間のみなさんもすごい冒険をされたんですね」
「そういう君はどうなのだ?」
モモンはスバルのことをプレイヤー、またはそれに類する存在の可能性を考えていた。そこでユグドラシル時代の話を多少ぼかして話してみたが、この世界のものであればありえない話と切ってすてるような内容なのだが、スバルは普通に受け入れてしまったのだ。そこで逆にスバルの話を聞くことでユグドラシルの手がかりでもないか確認しようと水を向けてみることにした。
「そうですね。オ……私は人様に誇れるほどの冒険は経験ないです」
「そんなことはないだろう。私も話したのだ一つぐらいは聞きたいものだな」
「そうですね」
スバルとしても、いろいろ教えてくれた人なのだから、何かないかと考えをめぐらせる。そこである出来事を思い出す。しかし同時に胸をかき乱すような焦燥とともに。
モモンもその表情の変化を見たのだろう。
「無理に話さなくてもかまわないが?」
「いえ。絶対解決すべき問題です。あの子を救うためにも戻らないといけないので」
「そうか」
記憶と名を食べる存在との闘い。モモンとしては目の前のレベルにすれば一桁がいいところの少年が、そんな大冒険を超えたとは考えられなかった。なによりユグドラシルでいえばモモンも知らないワールドエネミー級のモンスターにレイドを組んで挑んだというのだ。
もちろん最初はなすすべなく負けたこともあったそうだ。協力者をあつめ、仲間をあつめ、必死に準備して乗り越えたが、それでも犠牲0で乗り越えることができなかった。スバルは血がにじむほど握りしめた拳をみながら、その時の悔しさを語る。
「すいません。あまり面白い話ではありませんでしたね」
「聞いたのは私だ。むしろツライこと言わせてしまったようだね」
「そんなことありません。帰らないといけない理由をまた一つ認識できましたから」
「そうか。明日出発なのだろう? もうもどるといい」
「あっ。すいません長居をしてしまって」
スバルはそういうと、モモンに頭を下げながら自分の宿屋へと帰っていった。
それを見計らったようにモモンの元に、軽装の冒険者装備をまとった美女のナーベが近寄る。
「よろしかったのですか?」
「ああ、魔法が使えればよかったのだが、せいぜい気分よく話をする程度の効果しかないようだが、このようなアイテムも存外役に立つ」
モモンはそういうと机の上に置かれたアロマディフューザーを持ち上げると、虚空に開いたアイテムボックスに放り込んでしまう。しまったアイテムは、NPCやモンスターの好感度を一次的に上げるアイテムである。低レベルのテイマーがモンスター相手につかったり、NPCベンダーにつかってスキルで値引きなどで利用するものだ。
今回のように、好感度をあげることで角を立てずに情報を引き出すことができるのでは? と考え使ってみたのだ。もっともナザリックのNPC達は好感度がカンストしているため、無用のアイテムなので使いどころが少ないといえば少ない。しかし、一般的には有用なアイテムであることを確認することができた。
「高位の精神操作系魔法を私が習得しておりましたら、モモンさんのお手を煩わす必要さえございませんでしたのに」
「良い。ナーベにはナーベのできることでナザリックに貢献せよ。それにしても名と記憶を食べることで、他者からの認識さえも消し去る怪物か」
「少なくともそのような存在、この世界における情報収集では確認されておりませんが、嘘発見の魔法には反応しませんでした」
「本人も突然飛ばされて帝都に現れたといっていたが」
「飛ばされる前の世界がもともと私たちがいた世界だったのか……」
モモンも口ではそういっているが、それ以上にジャージの存在が気になっていた。聞けば普段着として着ていたものだという。もしかしたらリアルから直接という可能性も考えたが、化け物の話は違うと考えられる。それともまだまだ彼が話していない情報があるのか?
「(どっちにしろナザリックに来るみたいだし、そこで捕らえて情報を聞き出す方向でいくか? 待遇は……あとで考えるか)」
「モモンさんいかがいたしましょう」
「監視は継続。まだ情報を持っているだろう」
そこまで口にして、あることを思いついた。
「どうせなら、ナザリックを楽しんでもらおうか」
「っとおっしゃいますと?」
「以前、ギルメンの妹が来た時に、楽しんでもらおうと罠の設定を指定した相手にのみ変えるという機能をつくったのだよ(たしかアトラクションモードだったかな)」
「ナザリックにそのような秘密が」
「間違って死なれても困る。無駄に敵対されるのも情報を入手するという点でいえば悪手となるときもあるからな」
どうみてもレベル一桁のキャラでこっちに来たとしか思えないスバルのアンバランスな記憶。または別ゲームのプレイヤーが自分と同じように転移したのか? まあ、時間がくればわかることだと、モモンは思考を切るのだった。
******
未だ太陽が昇らぬ仕事の伯爵の敷地に、幾人ものワーカーたちが集まっていた。その中にフォーサイトの荷物持ちとしてスバルも同行していた。
スバルにとっては二度目のことだが、フォーサイトに所属するハーフエルフのイミーナに対する胸糞悪いやり取りを再度まのあたりにすることで、異種族への迫害というものを再認識することになった。
「そんなに耳の違いが重要なことかよ」
「スバルはいい子だね~」
天武というエルフの奴隷をつれた男の対応にスバルは悪態吐くも、先どもまで同様に殺気さえ放っていたイミーナは、微笑みを浮かべながらスバルの頭をなでる。実際、数日しか行動をともにしていないが、この少年が良い子であることを感じ取ったイミーナにとって、年の離れた弟のようにも見えていた。
「やめてくださいよ。そんなに子供じゃないんですから」
「そう言っているうちは子供だよ」
スバルはそんなやり取りをしているが、次の瞬間いままでに無いことが起きたのだ。
「ご紹介いたしましょう。たった二人でアダマンタイト級まで上り詰めた冒険者”漆黒”のモモンさんです」
その後も紹介が続くが、スバルの耳には届いていなかった。
「(なんであの人がここに? 前来たときは別の冒険者だったはずだ。何が影響した?)」
自問するが答えは出ない。だが、そのモモンがひときわ大きな声でワーカーたちに質問をなげかけていた。
「何故、遺跡に向かう? 依頼を受けたというのは分かる。しかし、組合から強く願われれば断るのが難しくなる冒険者と違い、しがらみのない君たちが引き受けたのは何のためなんだ? 何か君たちを駆り立てるんだ?」
「金ですよ」
漆黒のモモンの問いに、ワーカーたちは金だと答える。しかしその問答の間にモモンをずっと見ていたスバルは何となくだが、ワーカーたちの回答を聞くたびにモモンがイラついているように見えていた。それを肯定するようにある言葉がでる。
「良くわかった。本当にくだらないことを聞いた。許してくれ」
周りのワーカーたちは、くだらない話題を聞いたと受け取ったのだろう。しかし、なぜかスバルには、ワーカーたちの回答がくだらないこととモモンは言っているように思えてしかたがなかった。
「そういえば、君には聞いていなかったな」
「え?」
「ああ。君はなぜこの仕事を受けたのだ?」
質問でいえば、先ほどまでの質問とかわらない。でもスバルはこの質問を聞いたとき、まるで断崖絶壁に追い詰められ、問答次第では命がない。そんな切羽詰まった空気を感じていた。昨日、あれほど優しくいろいろ教えてくれた冒険者の先達が、なぜこんなにイラついているのか? なぜこれほどの殺気のようなものを垂れ流しているのか。
「わた……俺は仲間の元に帰るためです」
「ほう。なぜ遺跡にいくことが、君が帰ることにつながるのかな?」
「わかりません。でも突然見つかったという遺跡。そこに帰るキッカケがあるんじゃないか。そう感じて・・・・・・」
とても理論的ではない。ただ感情のままに口にした。実際にこの世界のお金というものにスバルは執着していない。まだひっ迫していないからできる考えだ。その上で自分の最優先はエミリア達の元に帰ること。そんな思いが口にでたのだ。
「ふっ。理論的ではないな。まあ、いいだろう」
そういうと、モモンは後方にいる冒険者たちに合流すべく歩き出した。
「スバル。もしかして故郷に彼女でも……」
「え? いや」
まるで入れ替わるようにフォーサイトのメンバーがにやけた顔で囲んでいる。いままでほとんど表情らしい表情をみせなかった元貴族のアルシェさえも、微笑みをうかべている。ああ、コイバナは大好物ですか、そうですか。
スバルは半ばあきらめながら、エミリアへの愛を語り周りの連中に胸焼けを起こさせるのだった。