【完結】ナツキ・スバルの生存戦略 In ナザリック地下大墳墓(短編)   作:taisa01

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四周目

 ナツキ・スバルの意識が戻ると、帝国の街中を流れる河原に寝そべっていた。

 

 意識が戻って最初に行ったのは、手に持っていたリンガを放り出し自分の体が地面の上にあること確認することであった。

 

――死に戻り

 

 最初の死に戻りが何かに貪り食われるという最悪の分類だった。しかし、今回は荷物持ちとして財宝を背負っていたため、重さに負けて吊り橋からの転落死という、別の意味で最低の死に方だった。

 

 二回目の地割れに巻き込まれて死んだ時に似ているが、不可抗力的なものと明らかに自分の限界を見誤ったところの差は大きすぎる。

 

「はぁ」

 

 大きなため息を吐き出す。なぜかいままでの死に戻りのように心臓を握りつぶされるような圧迫感も恐怖もない。しかし、死んだという事実が、自分の生は無意味であるといわんばかりに襲い掛かってくる。

 

「どうしたのかな。そんなとこでうずくまって」

 

 しばらくうずくまっていると、背中から声をかけられた。そう。前回の周回でいろいろ教えてくれた先達、心優しく世話焼きなアダマンタイト級冒険者のモモンその人であった。

 

******

 

 スバルは馬車の荷台に荷物番という名目で乗り込んでいた。

 

 これから遺跡探索に行くのだ。予定では数日、長ければ一週間を超える探索となるだろう。ワーカーだけで十九人。さらに後方を守る冒険者達を加えた大所帯となる。そのためベースキャンプに備蓄することとなる補給物資は、それこそ食料だけでも相当量のものとなる。もちろん、一回で運びきれるものではないので、数日毎に冒険者を護衛とした物資輸送隊も予定されている。

 

 もちろん、荷物が多いからと言って荷物番が必要ということはない。しかし、スバルとしては一人で考える時間がほしかったため立候補した。

 

「どう見ても自業自得だ」

 

 口に出してみても、その認識は覆ることはない。

 

 スバルの役目はフォーサイトの雇われ荷物持ち。ダンジョンアタック中はフォーサイトの面々から少し離れて後ろを警戒しながらついていくこと。

 

 荷物持ちという役目のため、チームの水やポーション、スクロールなどの補充物資を背嚢に入れ、イミーナの厚意で予備武器のショートソードを腰に下げている。両手が開いているのは、フォーサイトの面々による気遣いであった。

 

 そして遺跡探索を行ったところ、表層だけでも相当量の財宝が発見された。とはいえ、ベースキャンプに戻るにはまだ早い時間であったため、スバルの背嚢に入るだけの財宝を入れて進むこととなったのだが、それがいけなかった。

 

 第一層で他のパーティーと別れ進んでいく。

 

 ただのスケルトンの集団に始まり、スケルトンメイジを含む部隊編成。そして各種アンデットによる混成部隊。進んだ距離に比例するように徐々にだがアンデッドによる襲撃が増える。それらを効率よく倒していくフォーサイトの手腕にスバルは後方でみながら感嘆の声を上げていた。

 

 戦士であるヘッケランや神官であるロバーデイクの敵を倒す姿は、単純にすごいと感じるものだった。そしてハーフエルフのレンジャーであるイミーナも罠や敵の接近などを的確に見つける熟練の技術を感じさせた。しかしスバルが一番気になったのはもう一人の少女、マジックキャスターのアルシェの働きであった。それは彼女の持つ”相手の魔法力を探知し、マジックキャスターなら第何位階までの使用が可能か判別する”タレント。彼女自身優秀なマジックキャスターらしいが、そのタレントを有効活用することで、敵集団を的確に倒していくのだ。

 

「強いはずだよな」

 

 それがスバルの感想だった。自分もあんな力があればと思わなくもなかったが、もし死に戻りでなく別のチカラであった場合、ここまで仲間と手を取り合って生き抜くことができたか? といえば無理と自分でさえ考えてしまうのだからどうしようもない。

 

 最近では改善してきていると思うが、お調子者で楽観的、さらに空気が読めず、まるで自分が物語の主人公であるように振舞ってしまい痛い目を見ることがしばしば……いや結構あった。そんな性格で便利な力を持っていれば、それこそ有頂天となることは火を見るよりも明らか。

 

「でも、どうにもならなかったんだよな」 

 

 順調そうだったダンジョンアタックはそこまでだった。第二層に下りてしばらくすると、探索に入った部屋でスバルはフォーサイトのメンバーと離れ離れになってしまったのだ。正確にはフォーサイトのメンバーが転移罠でどこかへ飛ばされて、少し離れて追従していたスバルが取り残されてしまったのだ。

 

 もちろんフォーサイトの面々と事前にいろいろ決めていた。その一つは、はぐれた時はしばらくじっとしていること。ただし、しばらくたっても仲間が現れない時、モンスターなどに襲われた時は、表層のベースキャンプを目指すというものであった。

 

 スバルもその決め事に従い、しばらく待っているとカツカツとなにか音が近づいていることに気が付いた。そこでいつでも逃げられるように荷物を背負い耳を澄ます。スケルトンたちのようなガシャガシャという音ではない。ゾンビ系のズルズル引きずるような音でもない。どちらかといえば革靴の足音のように聞こえた。

 

 もしかしたら仲間の誰かかもしれない。

 

 そう思い、通路の先に目を凝らすことしばし、紫色のドレスをきた少女のようなものがみえた。もちろんワーカーの中にそんな姿をした人物など一人もいない。遺跡の調査、ダンジョンアタックにドレスを着るなんて狂気の沙汰だ。なによりスバルは首の後ろがチリチリと焼けるような感覚に襲われる。

 

 自分を含む一般人では絶対にかなわないという恐怖の塊。そんなものが今、目の前にいるのだ。

 

 気が付いたらスバルは逃げ出していた。

 

 途中休もうものなら、また足音が聞こえてくる。無駄に長居をすれば、またあのドレスをきた見た目こそ美少女だが、どうみても恐怖の塊が姿を現す。どこをどのように走ったかわからない。下にいく階段しか見つけられず、恐怖から逃れるためやむを得ず第三層に下りたという事だけは辛うじて覚えていたぐらいだ。

 

 そして、迷宮を抜けた先に広がる断崖絶壁。これ見よがしに架かっているボロボロの吊り橋が一つ。その先には神殿のようなものが見えた。

 

 しかしスバルの後ろからは、カツカツと足音がまた聞こえてくる。

 

 あの恐怖の塊が追いかけてくるのだ。

 

 スバルは意を決して吊り橋を渡るが、そこまでだった。小一時間、恐怖に追いかけまわされ、さらに財宝というデッドウェイトを抱えて身軽な動きなどできるはずはない。

 

 スバルはボロボロの吊り橋を渡りきることができず、奈落の底に落ちてしまったのだった。

 

 落ちた瞬間、「え~~~~~」という男性の間抜けな声が聞こえたような気もするが、それは別の音の聞き間違えだろう。

 

「どっちにしろ、なんとかあそこを抜けるしかないんだろうな」

 

 帝都に残っても、前回のドラゴン襲撃のように理不尽な理由で殺される。

 

 なにより目の前で発生した転移罠。

 

 突然出現したというナザリック地下大墳墓、その主であるアインズ・ウール・ゴウン。

 

「空間を捻じ曲げる系は見たことあるけど、転移系ってそういえば見たことなかったよな」

 

 エミリアやレムと共に過ごした館に住み、偏屈だが義理堅く、最後には契約した少女? のことを思い出す。もっとも今はほったらかしてしまっている。不可抗力とはいえ、心が痛む。

 

 つまりそういうことなのだ。突然と転移というキーワードに期待するしか、いまのスバルにはすがるものがなかったのだ。

 

 

******

 

 

 遺跡からほど近い場所にベースキャンプは設置された。遺跡との距離、水場までの距離も許容範囲内。なにより襲撃されたとしても、戦える広さが確保された場所。そんな理由で場所が選定された。

 

 荷下ろしがひと段落し、休憩をもらったスバルはベースキャンプの隅で、借りた望遠鏡を片手に遺跡を眺めていた。

 

「何度見てもすごい場所だよな」

 

 スバルの口から感嘆の言葉が漏れる。

 

 もしスバルが現実世界の考古学に詳しければ、その配置などに生活感がないゆえの違和感を感じたかもしれない。それどころか、現実世界の複数の遺跡が入り混じっていることに気が付くことができただろう。

 

 だが厨二病の患っているスバルには現実世界にあるローマ時代の遺跡のように見えていた。朽ち果てたはずなのに、その崩れた柱さえも美しい。人の生活感は失われ、ただ残った建物の残骸も風化した姿。わずかな草木に埋もれる様は、時間の経過というものを感じずにはいられない。

 

「前にもここに来たことがあるのか?」

「あっ……え~と」

 

 そんなことを考えていたスバルにいつの間にか近づいていたモモンが声をかけた。もちろんモモンに「前にもここに来たことがあります。死に戻る前のことですが」と言えるはずもなく、スバルは言いよどんでしまう。

 

「ここではありませんが。でも似た遺跡に潜ったことがあるので、そのことを思い出してました」

「似た遺跡。どんな遺跡か聞かせてくれるか?」

「自分が潜ったのは少しだけなんですが、表層はここみたいな遺跡でした。地下は石作りの迷宮でした。正直道も覚えていないのですが、アンデッドや怪物がいて逃げ惑ったぐらいしか思い出はありません」

 

 スバルは、一瞬でまかせを話そうとしたが、いままで嘘を並べて上手くいったためしはない。そこでできるだけ真実を話せるところだけ話すという感じで答えた。

 

「あまりいい思い出ではなさそうだが、先ほどすごいと言っていたのは?」

 

 しかしモモンはスバルの回答に思いのほか食いついてきた。スバルは今回もモモンと冒険の話をしたことから、本当に未知を探すことが好きな人という印象があるため疑うことなく答える。

 

「ここから望遠鏡で見える表層部ですが。朽ちた柱一本とってもすごい彫刻がされてるっぽいんですよ。近くで見てみたいですね。それに……」

 

 望遠鏡で見ることができた景色と、感じたことをそのまま伝える。たしかにこの表層の景色は他に類を見ないほど美しいのだ。もっとも厨二病の心をくすぐる美しさと説明できないのがもどかしい。そしてそんな説明も恥ずかしくてしたくもなかった。なので感嘆の単語が過多なあいまいな説明となってしまった。

 

「そうか。まだ安全も確保されたとは言い難い。ベースキャンプからあまり離れないほうがいいぞ」

「はい。ありがとうございます」

 

 そんなたどたどしいスバルの説明を聞き、モモンは納得したのか満足そうに頷くとキャンプ地のほうに戻っていった。

 

 しばらくするとフォーサイトの面々から声がかけられる。どうやら休憩時間は終わりの様だ。

 

******

 

 

 モモンはワーカー達が遺跡の表層に入っていくのを見届けると、ナーベに後を託しナザリック地下大墳墓に戻っていた。そこでアインズに戻ると、守護者統括であるアルベドに現状を説明させた。

 

「順調なようだな」

「はい。盗賊共は思いのほか慎重で、表層をある程度探索してから地下に入るようです。ただ……」

「なにか気になることがあったか?」

「はい。表層に配置した財宝に手を付けなかった者たちがおりました」

「ほう」

 

 アルベドの説明を聞いてアインズは驚く。あの金のためと言っていたくだらない連中が目先の財宝に手をつけなかったというのだ。

 

「そやつらは?」

「こちらになります」

 

 アルベドは、複数展開されている映像の一つをアインズの前に大きく展開する。そこにはフォーサイトの面々とスバルが、辺りを警戒しながら進むシーンであった。

 

「このチームか。ナザリックとしてはそれこそ木っ端のようなのもであるが、外の世界ではかなりの価値を秘めた財であったはずだ。なぜだかわかるか?」 

「音声までは監視しておりませんでしたが、アインズ様よりご指示のありました要監視人物が説得したようです。そして周りのものも、説得に納得したのか手にした財をすべて戻し、探索を再開しました。一応部屋に目印をしていったようですが」

 

 アインズはアルベドの説明を受けて考え込む。

 

「(あの者たちはなぜ財を手にしなかったんだ? あいつはどこかに帰る手立てを探していたはずだ。あいつ一人が財を手にしなかったというなら分からなくもない。しかしチーム全員を説得する理由はない。まかさこっちの思惑を看破しているのか?)」

「アインズ様、お考え中のところ申し訳ありませんが、賊どもが第一階層に侵入をはじめたようです」

「ようやくエントリーか。では手はず通りに進めよ」

「かしこまりました」

 

 アインズは一端思考を切り替え、アルベドに指示を出す。もっともアインズがどんなに考えたとしても、前の周回でスバルが財宝を持った重さと逃げ回った疲労に負け、吊り橋から落ちたから、財宝を持ちたくない一心でフォーサイトの面々を説得したことに行きつくことはないだろう。むしろフォーサイトの面々を説得した、「ここにこんな財宝があるなら深部にはもっと財宝があるはずだ。ここはベースキャンプにも近く危険も低いから、帰りに取りに来るのはどうか?」という言葉が妥当に思えるだろう。

 

「あと、アルベド」

「はい。アインズ様」

「監視を省力化するという点は問題ない。しかし音声も可能な範囲で記録せよ。今回のように戦力差が分かりきっているならともかく、同等であった場合、チーム内の会話にその後の戦略が含まれる可能性は高い。ゆえに情報収集を怠るな」

「かしこまりました」

 

 アインズはそこまで指示を出すと、監視ウィンドウに視線を戻す。どのワーカーチームもそれぞれスケルトンなどを破壊しつつ進んでいるようだ。しかしアインズは、フォーサイトとスバルが映し出されているウィンドウから目を離すことはなかった。

 

 





「え~~~~」という声は、アインズ様がわざわざ罠で殺さないようにアトラクションモードにしたにもかからわず、奈落に落ちるスバルの姿に思わず叫んでしまった声です。

なぜ聞こえたかは、演出の一言でしかないんですが。
きっと、この後アインズ様は精神の強制鎮静化が発動したことでしょう。
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