【完結】ナツキ・スバルの生存戦略 In ナザリック地下大墳墓(短編) 作:taisa01
ナツキ・スバルの意識が戻ると、帝国の街中を流れる河原に寝そべっていた。
しかし意識が戻ったにも関わらず、ピクリとも動くことはできずにいた。
――死に戻り
ナザリック地下大墳墓が死地であることぐらい理解していた。
都合三回目のダンジョンアタック。
難易度がすさまじい。しかし、三度目になってやっと理解できた。最初は別だが、後半の二回はあきらかに俺を
一度目にイミーナが第一層で見つけた落とし穴。わざと発動させて範囲を確認したところ、底には毒々しい色の沼と人が落ちればそれこそ穴だらけになりそうな針山がみえた。しかし、二度目以降はそれが存在さえ消えてしまったのだ。そしてそんなどう見ても引っかかれば即死するようなトラップが自体が見当たらなくなった。付け加えるならスバルがフォーサイトの面々と距離が開かなければ……。
また、スケルトンやゾンビなどアンデッドの攻撃もそうだ。スバルがフォーサイトと距離を置かない限り、正面からしか襲ってこない。追っかけてくることがあっても、挟撃されることはなかった。また一周目は手をこまねいた遠距離攻撃も、二周目からスバルが狙われることはなくなり、巻き込まれるような形の範囲攻撃はなかった。
なにより、第二層から追っかけてくる相手も、追いつくと脅す程度で直接手を出されなかった。もちろん薄暗い迷宮、何度も転移し、方向感覚などない中を一人進む状況。気まぐれに壁画でも見ようものなら、見ているだけで疲労や吐き気を感じさせる色相、大した距離ではないはずなのに何百メートルも進んでいるように三半規管や距離感を失わせる模様など、無駄に疲労する厄介極まりないものだ。でも、命を直接狙われるようなものはなかった。
とはいえ、安全確実かとえばそうではない。例えば穴が開いているような不自然に真っ黒な床に一本人間一人がギリギリ通れる白い線が引かれた床は驚いた。触れば、たしかに床がそこにある。しかし、まったく光が反射しないためかどう見ても穴が開いているようにしか見えない。スバルは意を決して黒い床を歩くことにしたが、よく見れば白い線は途中から目の錯覚を利用した落とし穴になっていた。鎧を着ていれば落ちてもひっかかる程度の細さだが、ジャージ姿に背嚢というスバルは、運がわるければそのまま落ちてしまっていただろう。
少なくとも直接命の危険を感じるものがなくなっていた。
フォーサイトからはぐれた後、その状況に気が付くことができたのでなんとか精神的に追い詰められることもなく進むことができた。
第三層の迷宮と奥にある廃神殿。
第四層の地底湖。
むしろ落ち着いてみれば、そこはとても地下とは思えないほどの規模、空間、施設、装飾。
だがその驚きは第五層でさらなるものになった。
――大雪原
遠くを見渡せば山脈さえみえる場所。ここが外なのか地下なのかわからない。だがスバルは理解することができた。こんなすごい場所なら……。
「すげえ! こんな技術がある場所なら、元の世界に帰るためのアイテムとか魔法みたいなものも見つかるんじゃないか?」
感嘆と希望。一瞬だが、ダンジョンアタック中であることを忘れるほどの驚き。そしてエミリア達の元に帰れるかもしれないという希望。そんなものを初めて見つけることができたのだ。
「なんとしても、ここの主人に会って帰る方法を……って、どうみても俺って盗賊だよな? そんな相手のお願いを聞いてくれる……わけないよな」
ふとした一言がナザリック攻略の糸口の一つに気が付くことができた。
「まずは主人に会うことが先決だな。そのあとは土下座でも何でもして頑張ろう」
良くも悪くもスバルは楽観的で考えなしである。だからこそこの状況で第一歩を踏み出すことができた。
……が
迷うこと2時間。
ブリザードこそないが雪原という低温下で、薄手のジャージとTシャツ&下着ぐらいしか着ていない人間がどれほど動けるのか? おのずと限界を迎える。
途中で寒さの危険に気が付き、背嚢から取り出した予備マントを紐をつかって体に括り付け、少しでも熱を逃がさないようにする。それでも足元から伝わる冷たさが、体の芯を凍えさせる。それこそ風がひとたび吹けば、せっかくあったまった体温が吹き飛んでしまう。
もともと慣れないダンジョンアタック。孤独との闘いを繰り広げてきた。気力でここまで来たといっても過言ではない。それでも限界がある。
気が付いた時にはスバルは倒れ、手足に力を入れようにもピクリとも動かすことはできなかった。
「フム。確カ殺シテハナラヌト言ワレテイタ個体カ」
なにか大きなものに拾い上げられる感覚。すでに触覚は機能していない。助けてくれと口を開こうとするが悴んで弱弱しい謎のうめき声しか、スバルの喉から発することしかできなかった。
言葉と行動とは裏腹に。自分を抱えている存在の体温は相当低いのか、スバルの残り少ない熱さえもすでに無くなっていく。
「運ブカ」
もうピクリとも動けないスバルを抱えた大きなもの……蟲王のコキュートスは歩き出した。彼は武人として己にも敵にも厳しいが、敗者をいたぶるような趣味嗜好ではない。アインズより殺すなと指示を受けていたため殺すことこそなかったが、助けろとも確保せよともいわれていなかったため監視するにとどめていた。そしてどう見ても死ぬと判断した故の行動である。
「一緒ニ行動シテイタ盗賊共ハ、円形劇場デアインズ様自ラオ相手サレタトイウノニ、殺スナトイワレタノニ何モセズシヌスンゼントハ、運ト体力ノ無イ個体ダ」
ナザリックにおいて死は終わりではない。たとえ対象が死んでいようと復活させる術はいくらでもある。ただそれだけだ。
だが、死に戻るスバルにとって最重要な情報が意識が途切れる瞬間、魂に刻まれることになる。
ーー一緒ニ行動シテイタ盗賊共ハ、円形劇場デアインズ様自ラオ相手サレタトイウノニ
この大きな存在は一緒に行動していた盗賊としか言っていない。しかしスバルはそれがフォーサイトの面々と理解できた。そう、自分の選択の最後の間違いは、フォーサイトとはぐれたことだ。
******
スバルは、ある意味で前の周をなぞるように行動していた。しいて違う点は一点だけ、「ナザリック地下大墳墓においての盗賊の働きの抑制」であった。その対策の一つとして、フォーサイトの意識改革があった。
「以前似たダンジョンに潜ったことがあるんですが、あの手のダンジョンって主がいる場合があるんです」
「主?」
そこから語るのは過去の周回でのナザリックの出来事。ただし地下ダンジョンに置き換えてこそいるが、生々しい実感のこもった説明。
「じゃああれか? 財宝はあえて見逃して……」
「そそ、主への謁見を果たす。もし主を倒すか認めてもらえば、帰りに財宝をもらえたんだけど、途中で財宝を手にした冒険者達はその時点から盗賊という扱いで、致死性の罠の対象となったんですよ」
「まあ、経験談ってことだしありそうな話だけど、今回のターゲットがそれって保証ないわよね」
「そうですな。私たちはそれで進んでも、他のチームはその辺を気にせず財宝に手を付けつつアタックすることでしょう」
「ですよね~」
しかしフォーサイトの面々は、スバルの経験談だからとはいえ、財宝が見つかったとしてもいったん放置して先に進むという案には難色をしめした。
「でも、今回みたいな遺跡に私たちは潜ったことは無い。彼の意見を参考にしてもいいのでは?」
難色を示すフォーサイトの面々だが、一人マジックキャスターのアルシェだけはスバルの意見に賛同する姿勢を見せた。もっともフォーサイトの面々は知っている話だが、アルシェの両親は没落貴族でありながら、金遣いの荒さは没落前と変わらず、妄想と現実の入り混じった生活をしている。そのため妹たちをなんとしても救いだすにはそれなりの財を必要としていた。しかし、妹たちにとって頼れるのは自分しかいないことも、アルシェは良くわかっていたため、スバルの話に賛同したのだった。
「まあ、致死性の罠ってのも気になるな」
「とりあえず、現地を見ながら考えればいいんじゃない? 財宝がほとんど見当たらないのに、置いていくってのはさすがに用心しすぎとおもうし、逆に大量にあるなら彼の意見を一考してもいいとおもう」
「ま、ここで取らぬ狸の皮算用して決めることでもないか」
「そうだな。なにより帰って迎えに行かなければいけない家族がいるのだ。命の危険はできるだけ避けたほうが良いというのも分かる話だ」
アルシェの事情もあり、なによりそろそろ危険なワーカーから足を洗うことを考えていたフォーサイトの面々だ。だからというわけではないが、遺跡探索出発時に、アダマンタイト級冒険者、漆黒のモモンに遺跡に行く理由を聞かれた際のやり取りも少しだけ回答が変わった。
「金ってのもあるが、仲間の家族を救うにはどうしても短期間にそれなりの金がいる。自分達の将来のためってのもあるが、やっぱ仲間のためにも一肌脱がなくちゃいけないだろ」
という風に回答することとなった。もっともそれで終わりかとおもったモモンの質問だが、回答が変わったためかその後の反応も変わった。
「仲間の家族のために金か。もし仲間の家族やお前たちの将来が確保されるならどう……いや、これは蛇足だな」
前回まではまるで呆れたような雰囲気を出していたモモンだが、今回は少し違うようにスバルは感じていた。なにより、自分の考えを頭の片隅に置いていてくれている。
******
遺跡表層部の神殿だけでも、かなりの財を発見した。
スバルはもう一度財の持ち出しは帰りと説得した。あまりにも強情に説得するため、何か知っているのではないか? とフォーサイトの面々に怪しまれるも、どうか信じてほしいと土下座をするスバルを見て、しょうがないかと肩をすくめるのだった。
「じゃあ、せめて帰りに拾えるように目印をいれる。ほかの連中も、配慮ぐらいはしてくれるかもしれない。それでいいか?」
「ああ!」
「だが、今日潜れるところまで潜って、戻るときに回収する。それでいいなスバル」
「ごめん。おれの嫌な予感に付き合ってもらって」
「まあ、予感ってのは案外重要な指針ではあるけど、今回限りだからね」
フォーサイトは何かあるとわかっているのに口を割らないスバルに、もしかしたらこの遺跡と関係あるのではないか? とさえ思うようになっていた。もっとも全く関係ないのだが。それでも状況を好転できそうでスバルは一安心した。
そこから先は順調に進んだ。
罠やアンデッドの襲撃はあった。深く潜れば潜るほど苛烈に追い立てられる。
油断はしていなかった。
それでも巧妙に隠された転移魔方陣による罠は作動し、侵入した部屋一面が光に覆われる。
「えっ」
「仲間につかまれ!」
「でりゃ~~~~~」
緊急事態にフォーサイトの面々は仲間との位置確認をすべく動き出す。そんな中、最後尾にいたスバルが叫び声をあげながら、飛び込んできたのだ。
「スバル!」
その行動に反応できたのは、立ち位置の関係でアルシェだけだった。とはいえ、できたのはせいぜい声を上げるだけ。転移罠に飛び込んできたスバルをどうすることもできず、せいぜい受け止めるぐらいしかなかった。