【完結】ナツキ・スバルの生存戦略 In ナザリック地下大墳墓(短編)   作:taisa01

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正月に描き上げるつもりが、正月明け後 修羅場に突入。
昨日やっと山を越えたので、描き上げました。

うん、この見通しの甘さはいつものことだ。


エピローグ

 ナツキ・スバルの意識が戻ると、王国の街中を流れる河原に寝そべっていた。

 

――死に戻り

 

 のはずだが、いつものような不快感はない。慣れるなんてことは一度もなかった死に戻りの代償ともいえる精神的・肉体的な苦痛。それが一切無いことに違和感を覚えていると、遠くから声が聞こえてきた。

 

「スバル! こんなところにいたんだ」

 

 声のするほうに視線を向ければ、そこには銀髪のハーフエルフ、エミリアの姿があった。スバルはそれだけで、いままで自分が巻き込まれていた何かから解放されたように立ち上がると走り出した。

 

「エミリアたん!」

 

 声にするだけで湧き上がる感情。スバルはエミリアの隣に立つとまるで子猫のような精霊パックも姿を現しいつものような会話が始まる。

 

「そういえば、今日はどうしてたの?」

「ん~掘り出し物を探してたんだけど・・・・・・変な夢を見たよ」

「掘り出し物を探しにいって夢を見るなんて器用なことするね。スバルは」

「どんな夢だったの?」

「それは……」

 

 スバルは、微笑みながら質問するエミリアに、先ほどまでの経験を語りはじめたのだった。そんなスバルの指には美しい宝石がはめ込まれた指輪が輝いていた。

 

***

 

「私ここと似た雰囲気の場所知ってる」

「言われてみればそうですね」

「帝都の闘技場」

 

 フォーサイトの面々とスバルが転移罠によって飛ばされた先は、どこか建物によくある廊下に見えた。足元も含めて石作り。いままで進んでいた地下ダンジョンと違い、一定間隔で明かりがともされ、よく見れば柱や壁などの細部まで、美しい意匠が彫り込まれている。

 

「闘技場ね。ってことは」

「でしょうね」

 

 そして顔を向けた先には明かりが見える。光に遮られ良く見えないが、外につながっているようにも見える。なにより闘技場という言葉から、ここにいる全員が同じ予測を思い浮かべる。

 

ーー競技場(アリーナ)

 

「もしかして遺跡の外に出たのか?」

「わからん。少なくとも先ほどの罠が関係しているのだろう」

「長距離転移は第五位階魔法。そんなものを罠として扱えるなんておとぎ話の世界」

「じゃあ、あの先でお待ちかねの人物は、おとぎ話にでてくる魔王ってところか?」

「案外神に等しい存在かもしれませんよ」

 

 相手が魔王であろうが神に等しい存在であろうが、想像を絶する存在であることは予想できる。しかし現実を直視することは重要だが、意識しすぎて諦めてしまっては元も子もない。

 

「それにしてもスバルも無茶したね」

「いや~はぐれるっておもったら飛びついてました」

「だからってアルシェに抱き着くことはないとおもうけど」

「え~と……とっさということで。ごめんなさい」

 

 話題を変えるつもりだったのだろうか、イミーナが茶化すようにスバルに声をかける。

 

 若干恥ずかしそうにしていたアルシェの表情をみてしまったスバルは、言い訳よりもそっさに頭を下げることを選択。まわりのメンバーも何やってるんだかと呆れつつも微笑んでいるあたり、イミーナの目論見は達成できたのだろう。

 

「大丈夫。たとえスバルが胸を触ったとはいってもパーティーがバラバラにならないためって理解してる」

「ハハハ……ごめん」

 

 しかしアルシェの言葉にはスバルも苦笑いしかできなかった。正直とっさのことで必死に飛びついたのが後衛のアルシェであったのだ。そして片手がアルシェの胸をわしづかみにしていたのは偶然の産物でしかない。もっとも、事故だからと考えてくれたアルシェでなければ、鉄拳の一発や二発は受けていただろう。

 

「さて気分がほぐれたところで、どうするか」

「ここの主は進めっていってるのよね」

「でしょうな」

 

 年長組3人が話を始める。後ろを確認すれば、廊下の少しはなれたところに鉄格子が下ろされている。まるでこれ以上先には返さないという意思さえ感じさせるものだ。逆にまっすぐ進んだ先にある扉らしきものは開いているようだ。

 

「こりゃ~スバルの予想があたったか?」

 

 誰もが思い浮かんでいたことを代弁する言葉。今回の遺跡探索の際、スバルの言った言葉を全員が思い出していた。

 

「まあ、主がいて会話ができたとする。財宝を盗んでないから生きて返してくれっていえるかどうか」

「まあ、盗賊でこそないが押し入り強盗未遂ぐらいのものだからな~」

「とりあえず、生きて帰ることを優先しましょう。外につながっているならそれこそ……ね」

「依頼を無視するのは残念だが、命にはかえられないか」

 

 フォーサイトの面々の方針はきまったようだ。同時にスバルは前周回で聞いた話を思い返していた。

 

「一緒ニ行動シテイタ盗賊共ハ、円形劇場デアインス様自ラオ相手サレタトノニ、殺スナトイワレタノニ何モセズシヌスンゼントハ、運ト体力ノ無イ個体ダ」

 

 人間とは思えない冷たい体をした存在。だが、その言葉が正しければ、ここでアインズ様というこのダンジョンの主を合うことができるのだ。

 

「じゃあいくか」

「はい」

「ええ」

 

 それぞれが、それぞれの返事をし進んでいく。いつ攻撃を受けても対応できるように慎重に、そして確実に光に向かって進んでいく。

 

 そして光を抜けた先にあったものは、予想通り巨大な競技場(アリーナ)だった。

 

 もちろんフォーサイトやスバルは観客席ではなく、競技場(アリーナ)の真ん中に出たという注釈がつく。

 

 周りを見渡せば、遺跡探索が思った以上に時間がかかっていたのだろうか満天の夜空。

 

 遠い観客席を見れば、無数の影がうごめいている。その影からは歓声とおもわしきうなり声が聞こえ、なによりその影の多くは人外に見えるのは気のせいではないだろう。

 

「どこまで飛ばされたんだ」

「ここは外か?」

 

 フォーサイトは円陣を組み、何があっても対処できるように構えを取る。そしてスバルは数歩離れた場所に待機する。その時、何かが観客席から飛び込んでくる姿をとらえた。

 

「上だ!」

 

 その陰はちょうど闘技場の真ん中へ、ズドンという派手な音とともに飛び降りた。浅黒い肌と長い耳、そしてまるで少年のようにスラリとした体躯。とてもではないが、観客席からこの巨大な競技場(アリーナ)の真ん中まで飛んできたとはおもえない。むしろ魔法か何かで移動したと考えるほうが自然ではあるが、派手な落下音がそれを否定していた。

 

「(おいおい、あんな体でどうやってあの距離を飛んだんだ? あれか? こいつも見た目通りの存在じゃないってパターンか?)」

「ダークエルフ。この辺り(帝国近辺)にはもういないといわれていたはずだが……」

「すごい魔力を持っているわ。でもマジックキャスターではないみたい」

「あの距離を跳躍する身体能力だけでも十分に脅威だろ」

 

 突然現れたダークエルフの姿に場違いなことを考えているスバルに対し、フォーサイトの面々はそれぞれの感想を口にしている。しかし目の前のダークエルフはそんなことなど気にせず何かショートワンドのようなものを取り出し、若干のオーバーアクションで語りだした。

 

「挑戦者入ってまいりました!」

 

 フォーサイトの面々は、目の前のダークエルフの言葉から少しでも情報を得ようと集中している。しかしスバルだけは、別のことを考えていた。

 

「(あれ、どうみてもマイクだよな。それにこの声……。宮殿を襲ったドラゴンから聞こえてきた声だ。ってことはこの子がドラゴンに乗っていたのか? それともこの子がドラゴンというオチ? どっちにしろ、あの時もアインズ様に失礼を働いたと言っていたから、ここの主はアインズという存在で確定か)」

 

 ダークエルフの紹介に合わせるように対面の扉がひらかれる。

 

 そこからはあらわれたのは人の姿をした骸骨と、その横には見目麗しい女性が付き従う。もっとも角と翼を持った女性であるのだから、こちらも人間ではないのだろう。

 

 そしてダークエルフは骸骨、いやナザリック地下大墳墓の主アインズ・ウール・ゴウンと付き従う守護者統括アルベドのコールをする。そしてこの二人がこの地でどのような存在か、観客席から大歓声が物語っていた。

 

「申し訳ない」

 

 この状況にアルシェが呟く。今回の依頼に金額を理由に受ける選択をしたのは自分だ。そしてこの窮地の切っ掛けを招いた責任は最初の選択があったからだと考えたのだ。しかし、他のメンバーはそんなことを考えていない。自分達の選択だとフォローしようとしたとき、走り出すメンバーがいた。

 

「申し訳ありませんでした!」

「(えーーーーーー)」

 

ーー土下座

 

 スバルは、全力で飛び出すとアインズの目の前で土下座をしたのだった。

 

 もちろん飛び出して来たことに気が付いたアルベドやアウラは警戒をしているが、アインズだけは呆気にとられていた。むしろ先ほどまで仲間と作り上げたナザリック地下大墳墓に土足で踏みにじった愚か者たちのおかげで怒りと鬱憤がたまっていた。目の前のフォーサイトにしても財宝にこそ手をつけていないとはいえ、家族のためとはいえ金銭欲で侵入したことには変わりはない。生きて返す気などまったく無かった。

 

 だが……

 

(土下座あああ!? なんで土下座?! おれだって頭を下げたことは山ほどあるけど、土下座なんてしたことないぞ! てか、この世界に土下座の文化なんてあったのか?)

 

 という風に、スバルの突然の行動に怒りを忘れ、別のことが頭を駆け巡っていた。

 

 もちろんこの世界に土下座なんて文化はない。普通に頭を下げる事はあるが土下座という行為自体意味不明な行為としてフォーサイトの面々には映っていた。

 

「アインズ・ウール・ゴウン様、この地に土足で侵入したこと申し訳ありませんでした!」

 

 スバルはそれこそ、喉が裂けんばかり大きな声で謝罪を述べる。逆にその声で我に返ったアインズは、スバルに語り掛けた。

 

「そういえば……お前だけは、大切な仲間や愛する者の元に帰るための切っ掛けを探してこの地に来たのだったな」

「はい!」

「それを証明するように財にも手を付けず進んでいた。故に言葉を聞こう、申してみよ」

「ありがとうございます!」

 

 スバルは土下座をしたまま答える。最初は呆気にとられたフォーサイトの面々だが、いままでの話を聞けば、自分達は金銭欲を理由に押し入った盗賊という扱いを受けていることぐらいわかった。

 

 だからこそフォーサイトの面々の切り替えは早かった。

 

「アルシェ。スバルが交渉に失敗したらフライで逃げなさい」

「そんな!」

「冷静になりなさい。目の前の存在がやすやすと倒されてくれる存在に見える?」

 

 だからこそ、こんな会話が出てくるのもしょうがないのだろう。

 

 しかしスバルは、そんなことお構いなしとばかりに事情をぶっちゃけた。

 

「俺は先日、突然この地に大陸レベルでの転移もしくは異世界転移をしてきました。そして同じように突然現れたというこの場所に、元の世界に帰るキッカケのようなものがあるのではと藁にもすがる思いで来ました」

「なぜ帰りたいのだ?」

「そこには一緒に戦った仲間たちがいます。助けたい人がいます。好きな人がいます。だから帰りたい!」

 

 それは単純な叫びだった。理由も陳腐で、交渉というにはあまりにも稚拙。意味こそわからなくはないが、これではアインズの許しなど得られるはずがない。守護者やこの場で聞くものの多くがそう感じていた。もちろん、突然の転移などのキーワードに反応するものもいたが、ナザリック地下大墳墓に侵入したという事実の前には些事でしかなかった。

 

 しかし、

 

「おまえの帰りなど、仲間たちは期待していないかもしれないぞ?」

 

 アインズはそう口にする。しかし内心では別のことを感じていた。モモンとして相対したスバルはお調子者ではあったが好感を持てる存在だった。なによりシンプルに仲間の場所に帰りたい。その欲求は、アインズの中にくすぶっている欲求とも似ている。

 

 だが、手放しに許すというのは、自分の立ち位置。ナザリック地下大墳墓の絶対支配者として求められている姿にそぐわない。

 

 だからこそ、あえて否定するようなことを言ってしまった。

 

「かもしれない。でも、おれは仲間のチカラになりたい! エミリアたんのチカラになりたいんだ! フォーサイトのみんなだってそうだ。家族を救いたくってどうしてもお金がいるから、ここに来ないといけなかったアルシェ。そんな願いを叶えたくって協力してくれた仲間たちなんだ!」

 

 しかしスバルの意思は変わらない。たとえ求められていなかったとしても、かえって力になりたい。シンプルにその欲を叫んだ。

 

 そんな姿にアインズは不意にもかつての仲間たちとの姿を幻視してしまった……。

 

 ゆえに……。

 

 

******

 

 スバルは一人、アインズの執務室に呼ばれた。スバルの異世界転移というキーワードに対する尋問は慎重を期す必要があるとアインズ自らが宣言したことにもある。もちろん、扉の外、隣の部屋には、守護者や護衛が待機していつでも突入できる状態なのは言うまでもない。しかし、ナザリック以外のものが直接監視もない中で、アインズと接見を許されたのはスバルが初めてのことであり、どれほどの異常事態かと守護者達は見守っていた。

 

「さて、スバルといったな。尋問という体をとっているが、情報交換と認識してもらって構わない。すくなくとも明確な敵対行為を取らない限り、君の、そして先ほどの連中の生命は保障しよう」

「は・・・・・・はい」

 

 円形劇場でスバルの独白の後、アインズはいままでの行動と異世界転移の可能性という情報提供を以てスバルに許しをあたえた。ただし、フォーサイトについては侵入者であることはかわらない。財に手をつけなかったこと、スバルの説明した点もあり、命こそとらないが価値を見せよと、その場でアインズVSフォーサイトの戦いが始まった。

 

 結果からいえば、フォーサイトの完敗。

 

 連携やアインズ達の知識にない武技など見せたが、アインズに傷一つつけることはできなかった。よって魔法的な情報漏えい対策とナザリックの指示への絶対服従を条件に、命だけは許されたのだった。

 

 もっとも、命だけは許されたというだけで、この後の彼らは人間社会での多くの情報収集やプロパガンダ、裏社会に根を張る八本指では動きづらい表の諜報を担うこととなるのだからたまったものではなかった。

 

 とはいえ、そこまでスバルに説明する気もないアインズは、あえて生命の保障などといった。しかし外見はアンデッド。装備を見ればどうみても魔王だ。そんな姿のものが生命を保障しようといったところで、スバルは内心でほんとか? と疑問を持たずにはいられなかった。しかし、いまここで暴れるような愚を犯すほど馬鹿でもない。

 

 なにより、少し前。フォーサイト四人を瞬く間に無力化してしてしまったのだ。そんな相手に自分が同行できるとは考えられないスバルであった。

 

「まず、私は君のことをある程度知っている。この姿を見れば納得してくれるだろう」

 

 そういうと、アインズは座ったまま、魔法をいくつか唱えた。そうすると先ほどまで座った魔王の姿は、漆黒の鎧を身にまとった屈強の戦士の姿へとかわったのだった。

 

「モ……モモンさん?」

「ああ、世を忍ぶ仮の姿だ。しかしこの姿のことは外でばらしてはいけない。後ほど魔法で関係者以外に言えないように魔法をかけさせてもらう」

「わかりました」

 

 スバルは魔法で口外禁止の制約をかけられるといわれると、身をブルリと震わせた。しかし、先日から相談に乗ってもらった優しいモモンなら、まあうまくやってくれるという根拠のない信頼があったので頷いた。もっともその根拠のない信頼も好感度をアップするアイテムによるものと知れば、しかめっ面の一つもしたことだろう。

 

「さて、質問だが。ユグドラシル。プレイヤー。日本。東京アーコロジー。これらの中で知っている単語はあるかね?」

「ユグドラシルは北欧神話ですか? ゲームとかでも結構有名だったような。プレイヤーはゲームとかのユニットを指したり、自分を指したりする言葉。日本は国名ですよね。東京アーコロジーは・・・・・・なんでしょう」

 

 モモンの姿をしているアインズは、その手を顎にもっていき少し考える。日本人の可能性が高い。ユグドラシルプレイヤーかどうかはわからないが、ユグドラシルという単語を知っている以上現実世界の住人だろう。しかしなぜ東京アーコロジーをしらない? 日本人なら全国のアーコロジーを知らなくても、中心にして最大規模の東京アーコロジーぐらいは知ってそうだ。

 

「君は日本出身でいいのか?」

「はい。ってことは?」

「ああ、こんな姿だが元は日本人で、仕事は営業職をしていたよ」

「じゃあ、先輩ですね。一応学生してました」

「学生? 君は以前別の世界から飛ばされたといっていたね。たしかエミリアという娘がいる」

「はい。もともと日本で暮らしてて、その後に、エミリアたんのいる異世界にいきました。なぜか今はさらに別の世界にいますが」

 

 ここまで聞いてモモンはある仮設を立てる。

 

「君は西暦何年に現実から転移した?」

「たしか20xx年」

「なっ」

 

 アインズはその言葉に驚愕する。さすがに、そのリアクションにスバルも驚いたのだろう。

 

「なにかありました?」

「私がこの世界に来たときは2xxx年だ」

「未来?」

 

 スバルとアインズの現実世界の年代が違う。その事実に行きついた二人は、相互に様々なことを聞くこととなった。

 

「私たちは日本から来たが、同じ日本ではない。時代が違うだけかそれとも似た世界なのか」

「はぁ~。せっかく帰れるかもしれないっておもったのに」

「まあ、そうだな。しかし、スバルのような存在がいるということは、将来私の仲間と出会える可能性もあるということだ」

「あ、以前言っていたギルドの仲間さんたちですね。やっぱ仲間が合流できるってのもいいものですよね」

「ああ、私にとってかけがえのない友人だ」

 

 アインズは心境を吐き出す。

 

 アインズとしては今回のナザリック襲撃も帝国に対する一手として有効であることは承知していた。むしろこれ以上にない良い手だとさえ理性では理解している。

 

 しかし、苦楽を共にした仲間たちと作り上げたナザリック地下大墳墓。思い出の場所に賊を招き入れるということ一点において嫌悪感があった。だから、財に手を付けたワーカー達の最後はそれはそれは惨いものであった。

 

 たとえ、財を手にしなかったフォーサイトの面々にしても、スバルの取り成しとスバル自身の心象という点を省いて、生かす価値は無いとさえ考えているのだ。逆にいえば、スバルから情報を引き出す価値もなければ、あの場で殺される程度の存在であったというのだから、本当の意味でフォーサイトは運がよかったのだろう。

 

「直接的な原因がわからないとはいえ、こうやって異世界の存在を確認できたのだから価値はあったのか」

「そうですね。おれもモモンさんのように使える異能があればいろいろ違ったかもしれないのに。いや、逆にかんがえればそんな便利なのが有るってことは、初見攻略で勝ち続けろってことか? ……むりだな」

「異能?」

 

 スバルの独り言に、アインズは反応する。

 

ーー異能

 

 アインズは自身がゲームのキャラとなることで、ゲームキャラのスキルなどを手に入れた。もちろん同時に生身の体を失ったのだからプラスばかりというわけではない。それでも得たものの価値は計り知れない。

 

 そしてスバルの口ぶりから何らかの異能を持っているというのだ。

 

「スバルはどんな異能をもっているんだ?」

「それは言えません」

「黙秘するってことか?」

「言葉にできません」

 

 異能について答えないスバルの姿にアインズは、若干のイラつきを覚えるが、言葉にできませんという言い回しに意味を見出した。

 

「つまり、スバルは自分の異能を何らかの理由で口にできないということか?」

 

 アインズの言葉にスバルは頷く。

 

 過去何度か、スバル自身が異能について口にしようとしたことがあった。そうすると心臓、生命そのものを締め上げられる苦痛を感じるのだ。加えれば、魔女の気配を垂れ流す。そのせいで多くの誤解を受けたのだが、相応な理由がないかぎりスバルは自身の異能、死に戻りについて口外することはなくなった。

 

 そんなスバルの事情を理解したわけではないが、言葉にできない意味を理解したアインズは別の案を提案するのだった。

 

「では、私がお前の記憶を読むのはどうだ?」

「それは……どうだろう?」

「その反応だとやったことはないんだな」

「自分の記憶を覗き見られた経験は無いと思います」

「そうか」

 

 アインズはそういうと、虚空に手を伸ばす。そこには黒い靄のようなものがあらわれ、あるものを取り出したのだ。

 

「これを左右の手に装備するといい」

「指輪が二つ?」

 

 スバルが渡されたものは、美しい宝石がはめ込まれた指輪であった。

 

「一つは下位精神攻撃の耐性。もう一つ下位物理攻撃耐性だ」

「うわ。ゲームみたいな効果のアイテムですね」

「ユグドラシルではゴミアイテムだった。ほんとうに低レベルのダメージを減衰させる程度のものでしかない。しかし、検証して分かったんのだが、これを生物に装備させると精神的なダメージや肉体的なダメージだけでなく苦痛という面も軽減できることがわかった」

「もしかして……記憶の操作って苦痛を伴うんですか?」

「私は経験がないのでわからんが、一応それを専門とする者に言わせれば、改変は矛盾を伴い、そこに苦痛が発生することもあるらしい。今回は見せてもらうだけだが、用心のし過ぎということはあるまい」

 

 アインズの説明に、釈然としないものを感じたスバルだが、好意で渡してくれたことがわかったので、そのままそれぞれの人差し指をさしこむ。しかしまさしくゲームのようなことがおこった。スバルが差し込んだ指輪が縮み、指にぴったりのサイズに変わってしまったのだ。

 

「おお」

 

 スバルの単純な驚きは、アインズの、ゲームをしていたときのような喜びを思い出すことができた。

 

「では、はじめるとしよう」

「はい」

 

 アインズは己の内からMPをくみ上げる。すでにもう何度もやっている行為。当たり前のように魔法が組みあがる。

 

記憶操作(コントロール・アムネジア)

 

 アインズの手から伸びた魔法がスバルを絡めとる。

 

 そして記憶を読もうと

「なっ?!」

 

 その時、アインズの魔法がつかまれた(・・・・・)

 

 アインズの驚く姿に、スバルは反射的に何があったかと顔を向ける。しかしアインズの骸骨の顔からは何も読み取ることができなかった。しかし、視界の隅にうごめく影のような手に見覚えがある。

 

「(怠惰)」

 

 スバルはそれを口にしようとするが、喉から音となることはなかった。むしろその影のようなものは半透明どころではなくどんどん色が濃くなり、気が付けばあたりは闇に覆われていた。そのなかで魔法をはなったアインズとスバルがまるで対面で立ち尽くしている。

 

「これは?」

 

 次の瞬間、黒い右腕がスバルを抱きかかえるように絡みつく。

 

 アインズも異変に気が付いたのだろう。魔法をキャンセルし黒い影への対策として時間停止の魔法を発動させる。

 

 だが、

 

 時間を置き去りにした空間のなか、スバルが黒い腕とともに消え去ったのだ。

 

「アインズ様!」

 

 気が付けば扉は開け放たれ、控えていた守護者たちがなだれ込むように入ってくる。

 

「あの者は?」

「消えた。それも魔法的なもの以外で」

「事前になにか仕込んでいたのでしょうか」

「持ち物を確認した段階ではみつからなかったが、しかし」

「はい」

 

 スバルが立っていた場所には濃厚な死の気配を称えた黒い霧の残滓のようなものがあった。もっとも、目の前でみるみる消えてしまったため、いまとなってはどんなものであったのかは予想することしかできない。

 

「ナーベ」

「はい。あの時と同じ黒い霧かと」

 

 その後、ナザリックの総力をもってスバルの捜索を行ったが、見つけることはできず、数日前までさかのぼってしまうと、生活していた痕跡さえ消えていることが判明した。アインズとしては、仲間の手がかりであり、同郷とおもわしき存在の行方を欲したがついぞみつかることはなかった。

 

 

 しかし、アインズの中では一つだけ確信めいた予想があった。

 

 スバルはきっと前の世界に連れ戻されたのだろう。

 

 なぜなら、スバルが消えた時、若い女性のような声で一言

 

「わたさない」

 

 そうアインズは聞こえたような気がしたのだから。

 

 

  

 

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