【完結】ナツキ・スバルの生存戦略 In ナザリック地下大墳墓(短編) 作:taisa01
「(どうしてこうなったああああああ)」
魔導国 エ・ランテル中央広場
先日、リ・エスティーゼ王国から割譲されたこの都市の中心に位置するこの場は、今、活気に満ちていた。
なぜなら、漆黒とならぶエ・ランテル在住のアダマンタイト級冒険者、エ・ランテルを守る双璧ともいえる存在が、この場にて揃って重大な発表をするというのだ。
「我が盟友 白銀ことターニャ・デグレチャフが、アインズ・ウール・ゴウン魔導王と謁見した。そして魔導国 特別軍事顧問となったことを私からエ・ランテルの皆に伝える。これは先日政治顧問として就任した私と同様に、魔導国がエ・ランテルの住民、ひいては生きとし生けるものを等しく統治しているかを監視する役目にある」
エ・ランテルはアンデッドであるアインズ・ウール・ゴウン魔導王率いる、魔導国に王国から割譲された。
アンデッド。
一般的な常識では、生者の敵であるアンデッド。それが国王となった国の一部となったのだ。いままでのような暮らしができないのではないか? そもそもみんな殺されてしまうのではないか? そんな感情が生まれるのは当たり前であり、住む人間たちの混乱は想像にかたくないだろう。
そんな中、演説をしているアダマンタイト級冒険者、漆黒のモモンは、併合当初に発生した事件においてエ・ランテルの人々を守るため戦う意思をアインズ・ウール・ゴウン魔導王に示した。
アインズ・ウール・ゴウン 魔導王も一角のアンデッドどころではなく、卓越した統治者であった。立ちふさがるモモンに対し、人類を虐げる意図はないとし、その証明として隣に立てと命じたのだ。
モモンはそれを受け入れいまでは、魔導国 政治顧問という立場で、エ・ランテルの住人達の安全を保障したのだ。
「白銀はその魔法的才能だけではなく、その知性と勇気を持ってエ・ランテルの人々と共に戦ってきた。そんな彼女が魔導王と対話し、人々を守る盾となり鉾となってくれることを私はうれしく思う」
「(なに言ってるんだこの骸骨野郎は!)」
集まったエ・ランテルの群衆を前に、浪々とした声で高らかに宣言するモモンの姿は、誰もが想像する英雄像に等しい。
そんな姿を横で笑顔を浮かべながら罵倒しているのはターニャ・デグレチャフ本人であった。
「(なにって、ターニャさんの立ち位置を明確にしてるだけじゃないですか)」
「(だからってやりすぎだ)」
「(でも日本では人事部にいて、前の世界では軍大学を出たエリート軍人。極めつけは中佐までいってたんでしょ? 軍事顧問ぐらいできますって)」
内心愚痴っているつもりが、小声で漏れてしまったのだろう。隣で盛大なマッチポンプをかましている漆黒のモモンことアインズ・ウール・ゴウン魔導王。つまり、侵略者が人類の守護者の顔をしているのだから、その実情を知るものがいれば笑えない。
「(ほら、なんか一言いってください。グダグダになってもしまりませんよ)」
気が付けば、モモンの言葉が一段落しており、観衆はデグレチャフへの視線が注がれている。うら若き少女の姿でありながら、凛々しく戦場を駆け回る人類の守護者。エ・ランテルで発生した多くの事件を、解決した漆黒と白銀の姿を忘れない。
「あ~こほん。私ことターニャ・デグレチャフが重要視するのは、ここに生きる
ターニャ・デグレチャフは人々の成長を願っている。最初こそ、その意味を図りかねていたエ・ランテルの住民たちだが、人々を助けるために戦うデグレチャフの姿を見て、いつしか理解した。
いま漫然と生きるだけでなく、何かのためへの成長しつづける姿をこの戦女神を期待しているのだと。だから、多くの外敵から人々を守ってくれているのだと。
デグレチャフの言葉は大歓声をもって迎えられる。
その歓声を背に、二人はやれやれと溜息をつきながらエ・ランテル領主官邸、暫定魔導王の玉座に移動する。
「いや~。約一年ですがほんとうにいろいろありましたね」
「いろいろありすぎだ。馬鹿者」
モモンと並び歩くデグレチャフの姿はまるで父と子の語らいのようにも見えるな、内容は、同僚との会話そのものであるが。
「転移したナザリックの表層に、ターニャさんが倒れてて、本当にびっくりしましたよ」
「まあ、私もそれだけは幸運だったとおもってるよ」
そう。
二人の出会いは、ナザリック地下大墳墓がこの地に転移した日まで遡る。
当初は侵入者であり情報収集の対象であったターニャであった。
しかしアインズはどうしても端々にみえる知性や言葉、行動から、もしかして日本人、すくなくとも日本に造詣のある人物ではないか? と疑問がわき、確認を取ったことから全てがかわった。
アインズはターニャをナザリックの番外のギルド員と迎え、守護者と同等の地位をあたえた。それは気心がしれ、リアルの事も話せる男性友人へのアインズなりの配慮であった。しかしアインズと行動を共にするターニャの姿は、双方が元社会人男性という行動原理に基づくものであったが、他からみれば親子や恋人の様にもみえた。
よってアルベドをはじめとした女性陣からは、いらぬ疑いをかけられ、デグレチャフも苦労することとなった。
しかし、情報収集作戦や潜入工作などの数々の実用的な案を出すようになると、その立ち位置だけでなく知性でもナザリック内で認められるようになった。なにより単体戦力としても、エレニウム九五式を介して繰り出される飛行および各種魔法は、限定状況ではあるものの守護者に匹敵するものがあった。
種族的な差別以上に実力主義が根付くナザリックにおいて、力を見せつけるデグレチャフは次第に受け入れられるようになった。
そして同時にナザリックと周辺諸国の実情を知ったデグレチャフはつぶやいた。
「は~。王国が主要人物が屑すぎて亡国への道をまっしぐら。宗教国家は存在Xを彷彿させるから嫌いだ。かといって帝国ではナザリックに勝つことなど不可能。その意味では、ここに拾われたのは幸運だったか? どうせなら、存在Xの呪いも解ければ万々歳だったんだが」
つまりこういうことである。
「じゃあ、ターニャさん 俺はナザリックに戻るので後はお願いします」
「ああ、書類は終わらせてく」
そういうとモモンことアインズは転移の魔法でナザリックへもどっていった。
それを見送ったデグレチャフは執務室の扉を開ける。そこには、一人の美しい女性が立っていた。
「アルベド。アインズさんはナザリックに戻ったよ。こっちの仕事はどのぐらい残っている?」
「はい。デグレチャフ、こちらになります」
机の上には、書類の束は少しだけ。都市一つの統治となると、普通なら山のような書類が発生ししかるべきなのだが、アルベドを含めた有能な人員が本当に決済が必要なもの以外、24時間ペースで処理してしまうため、この程度に抑えられているのだ。
デグレチャフは椅子に座り、書類に目を通す。
しかし、しばらくしてアルベドに顔を向ける。そこにはスンスンと鼻を近づけるアルベドの姿が。
「どうした?」
「アインズ様の香りは少々。予想以上に近づかれては困ります」
「あ~演説なんだからしょうがないだろ」
「なんとうらやましい!」
「代われるなら代わってやりたいよ!」
そう。デグレチャフはアインズに恋愛感情はないことを証明するため、多くのことを強いられてきた。ナザリックの女性陣の嫉妬を買わぬためにしょうがなかったとはいえ、結局はこんなノリの付き合いとなってしまった。
安全な後方勤務
望むべくして手に入れた今の立ち位置ではあるが、まさか男女問題で胃を痛めることになるとは思わなかった。
「はぁ~。料理長に胃に優しいものをお願いしなくては」
デグレチャフはそう思いながら、存在Xの手の届かないこの世界である意味で誤解され、ある意味で和気藹々と生きるのであった。
ターニャ・デグレチャフへの評価
民衆:
アダマンタイト級冒険者。二つ名は白銀
漆黒に並ぶ英雄にしてエ・ランテルの双璧
見た目も合わさって民衆のアイドルであり戦女神
ナザリック男性陣:
アインズ様に近しい存在。知略、こと軍事についてはデミウルゴスに並ぶとさえ思われている
(デミウルゴス本人もアインズがデグレチャフをべた褒めするので)
アインズの妃候補
ナザリック女性陣:
実力は認めるが、本人がアインズに気はないと言っているが、現在最大警戒対象(妃レース的に)
アインズ:
リアルを知る男友達。いつか異業種に転生できないか宝物庫を調査中