「ごちそうさまでしたー」
「お粗末さまでした」
皆が食べ終えて言うと、小鞠はどこか照れくさそうに言いながら、食器を片付けるためにまとめ始めた。
「あっ、先輩、私手伝います」
蛍が立ち上がり、手伝いを買って出る。
「じゃ、おねがい」
「はいっ、わかりました!」
小鞠と蛍で食器をまとめていく。
「そしたら、今度はコタツ、片付けないと」
まだ2人が食器をまとめている最中から、夏美がそう言った。
「そうだね、今度は大きい方も片付けないと」
小鞠が、食器を片付けながら言う。
「ええー、コタツ片付けちゃうん?」
すると、ひかげが、不満ありありと言った様子の声を上げた。
「コタツ片付けなかったらひか姉たちどこで寝るのさ」
夏美が、ひかげを指さしながら言う。
「あっ……」
ひかげは、軽く声を上げて言葉を失う。
「布団は足りるのか?」
一穂が、少し気にかけたように言う。
「母さんたちの部屋に予備の四幅布団が二組ぐらいあるから、それで大丈夫じゃない?」
夏美がそう答える。
「なら大丈夫だな」
「日干ししてないから申し訳ないけどね」
一穂の言葉に、夏美が眼鏡の下で申し訳無さそうな表情をして言う。
「いや、いきなりこんな人数で押しかけた方も悪いんだ」
「ただ、布団の予備はそれで一杯になっちゃうから……蛍もかず姉達と一緒に寝てもらっていいかな? 悪いけど……」
「えっ……」
小鞠が言うと、蛍は、声を漏らして、残念そうな困惑したような表情をした。
だが、すぐにはっと思いついたように、
「どうせだったら、先輩たちもここで、みんなで一緒に寝ませんか?」
と、言う。
「あー、お泊り会みたいで楽しそうなんなー」
れんげが、賛同するように言った。
「あー、たまには良いかもね」
「ま、悪くないかな」
小鞠と夏美も言う。
「あ、そう言う事なら、皿洗いウチがやるから、姉ちゃん布団出す方に行ってよ」
「え? いいの?」
夏美の提案に、小鞠が聞き返す。
「コタツ片付けたり布団出したり、大人がかず姉だけじゃ大変だし、でかちゃんのパワーがあればあっという間でしょ」
「でかちゃん言うな!」
にたっと笑いながら言う夏美に、小鞠は、そう声を荒げてから、
「でもまぁ、そう言う事ならその方が良いか……」
と、ブツクサつぶやくように言った。
「でも、あんた台所仕事、大丈夫?」
不安そうな表情になって、小鞠が夏美に訊ねた。
「失敬な!」
今度は夏美のほうが声を荒げる。
「たしかにウチ料理はダメダメだけど! お皿洗うぐらい大丈夫ですー!」
「だと良いけど……まぁ、蛍もいるから大丈夫か」
「えっ……あ、はい」
振られて、蛍は一瞬戸惑ってしまいつつ、そう返事をした。
「悪いけどお願いね、洗って水切りカゴに入れとくだけでいいから」
「はい、任されました!」
小鞠にお願いね、と言われて、蛍は張り切ったように声を上げた。
食器を抱えた、夏美と蛍が、台所の方に向かう。
「小さい方は小鞠の部屋に戻すとして、大きい方のコタツはどうすればいい?」
一穂が、困りに訊ねた。
「このまま倒して、じゃまにならないように立てかけておけばいいんじゃないかな」
「わかった。じゃあ、小鞠、片側持ってくれるか?」
「オーケー」
長方形のコタツの短い辺を、一穂と小鞠がそれぞれ、天板、コタツ布団、コタツ本体を巻き込むようにして一気に抱える。
「せーのっ」
小鞠の掛け声で、2人はコタツを、横倒しの状態にした。
「このまま、こっちの側の端に」
「解った」
そのまま、こたつ布団を引きずった状態で、居間の端へと持っていく。
「ひかげ、ぼさっとしてないで少しは手伝え」
一穂が呆れたように言う。
「えー、でも何すればいいんさー」
「コタツ敷き畳んどいてよ」
不満そうにしつつひかげが言うと、小鞠がそう言った。
その小鞠と一穂は、もう一組のコタツを、コタツ布団ごと2人がかりで持ち上げて、小鞠の部屋へと持っていく。
その後、2人はれんげを伴って、雪子達の部屋へと移動する。
押し入れから、洋風のダブルベッドに相当する四幅布団の敷布団を、小鞠は軽々と引き出してしまう。
「あー、ちょっと防虫剤の匂い、移っちゃってるかなぁ」
「これぐらいなら、気にならないだろ。湿気っぽくもないし大丈夫だ」
小鞠の言葉に、一穂はそう言いながら、敷布団を受け取る。
「れんげはこれ、枕持っていってね」
「わかりましたん」
小鞠がもう1枚の四幅布団の敷布団を引き出し、2人は一度それを居間に運んでいく。れんげは2つの枕を持って、それについていく。
布団を居間におろして敷いた後、掛け布団ともう2つの枕を取り向かった。
「あ、ほんとにお泊り会とか宿泊学習みたいですねー」
2組の四幅布団と、夏美・小鞠の布団が敷かれた居間を見て、蛍がそう言った。
「お泊まり会なん、みんなでお泊まり会なーん」
布団の上で、れんげがはしゃいでいる。
「あ、でさ」
夏美が切り出す。
「もうお風呂沸いてるんだけど、1人ずつ入ってたらだいぶ時間かかると思うんだけど、どうする?」
「ここの家の風呂はデカいし、2人ずつぐらい一緒に入れるだろ?」
一穂がそう言った。
「れんげは姉さんと一緒に入ろうな」
「わかったん」
一穂が言い、れんげは応えて頷いた。
「わ、私、先輩と一緒に入ってもいいですか?」
「え、私と一緒だと狭いよ?」
蛍が小鞠に向かって言うと、小鞠は、少し困惑したような表情で言う。
「大丈夫です。それに、この中では私がれんちゃんの次に小さいですし」
「んー……じゃあ、そうしよっか」
蛍の畳み掛けるような言い方に、小鞠も折れるようにそう言った。
「え、じゃあ自動的にウチとひか姉が一緒ってことになるの?」
組み合わせができていくのを聞いて、夏美が顔をしかめながらそう言った。
「まぁまぁ、久しぶりに背中の流しっこしようなん?」
ひかげは、ニタニタと笑いながら、夏美にすり寄ってきた。
「妙な真似しないでよね」
「しないんって」
夏美の念押しに、ひかげはヘラヘラ笑って答える。
「まぁ、決まったんなら、早めに入っちゃってよ」
「ん? 急ぐ理由でもあるのか?」
「風は収まってきたけど、雪は今夜いっぱい降り続くって予報だからさ」
そう言って、夏美はスマホに表示させた天気予報を見せる。
「ひょっとしたら──────」
「ああ、そうか」
夏美の懸念に、一穂は納得の言葉を出した。
「よーし、流すぞー」
一組目、一穂&れんげ。
れんげの髪を洗い終えて、一穂はシャワーに手を伸ばす。
元は木製の風呂桶だった越谷家だが、今はステンレス浴槽のシステムバスにリフォームされ、風呂釜もエコフィール給湯器になっている。
れんげの髪を鋤きながら、シャワーのお湯で、シャンプーを丁寧に洗い流していく。
れんげは目をぎゅっとつむっていた。
「よし、タオル当てるぞ」
一穂は、シャンプーを流し終えると、そう言って、まずはれんげの顔を拭き、それから頭の髪の毛の方へと拭き上げていく。
「今度はウチが姉ねえの頭洗ってあげるん」
「おっ、いいのか?」
「いいですのん」
「よし、じゃあ頼もう」
そう言って、一穂は、振り返ったれんげに向かって、頭をかがめた。
れんげは、まずシャワーで一穂の髪を濡らし、それから、ハンドポンプのボトルからシャンプーを手にとって、シャカシャカと洗い始める。
「ああ、他人に洗ってもらうと気持ちいいな……」
「そうなん?」
「頭皮って少し敏感だからな、他人に刺激されると結構気持ちいいんだ」
「そうなんなー。じゃあ、これからもたまにウチが姉ねえの頭洗ってあげるん」
「ありがとな」
「先輩、本当にスタイルいいしかっこいいですよね……」
「え、そ、そうかな?」
二組目。小鞠&蛍。
蛍が見惚れるように言うが、小鞠は少し照れくさそうにする。
「ガタイ良すぎちゃわないかな?」
「そんなことないですよ!」
「ありがと。蛍もそのうち美人さんになるよ。いつだったかのれんげの絵みたくなるんじゃない?」
小鞠は照れくさそうにしつつ、蛍をフォローするようにそう言った。
「さ、まずは少し温まろ」
「はい……って、あ……」
シャワーで身体を流した後、小鞠はまず自分が湯船に浸かってから、蛍を背中から抱えるようにして、湯船に浸けた。そのまま、腰を下ろす。
「こうしないと、私と一緒だと、狭いでしょ?」
「は、はい……」
──お風呂で先輩が抱っこお風呂で先輩が抱っこお風呂で先輩が抱っこ……
「あれ? 蛍、大丈夫? もう逆上せちゃった?」
「い、いえっ、だ、大丈夫です!」
「くそー」
三組目。夏美&ひかげ
「お前本当にけっこうスタイルいいのんな……普段姉貴が目立つだけなん」
「ひか姉もダラダラしてないでシェイプアップすればいいんだよ、地は悪くないんだからさ」
「う、うるさいん。高校生は他のことで忙しいんに」
「人の家で宿題サボってゲームしてて何を言ってんだか……」
夏美は、はぁ、と軽くため息をついた。
「地がいいって言えば、お前こそせっかくなんだからもう少し、普段から意識したらいいんに」
湯船に浸かりながら、裸眼状態の夏美を見て、ひかげはそう言った。
「えー……」
「例えばメガネさ、コンタクトがめんどいんはなんとなくわかるんけど、せめて女の子っぽいフレームにしようとか考えんわけ?」
「あー、まぁ、いざ選ぶと実用性考えちゃうんだよねー」
「お前らしいっつえばお前らしいんな」
「でも、もう少し考えてみようかなぁ、母さんに相談してみようかな」
一通りお風呂を終えて、パジャマ姿で居間でくつろいでいる。
ひかげは相変わらずゲーム機のパッドを握っている。
蛍・れんげは、小鞠や一穂と一緒にボードゲームに興じている。
夏美は読書していた。
いたのだが……
フッ
と、突然室内が真っ暗になった。
「あっ!?」
「きゃっ」
「おおぅん」
小さく悲鳴を上げる、小鞠、蛍、れんげ。それに対して、
「あーあ」
「やっぱり来たか……」
と、夏美と一穂はつぶやく。
「のわーっ、今、いいところまで言ってたんに!!」
ひかげは1人で嘆きの声を上げる。
「ええっと……懐中電灯は……」
夏美がそれを探そうとすると、突然パッ、と光が現れ、顔を映し出した。
「のわぁっ!」
一瞬、驚いた声を出した夏美だったが、
「な、なんだ、兄ちゃんか、脅かさないでよ……」
と、息をついた。
卓は、懐中電灯の灯りを、下の方に向ける。
そこには、トヨトミのKR-47型ストーブが置かれていた。
「電気要らないストーブ! 兄ちゃん、用意しといてくれたんだ!」
夏美が言うと、卓はウン、と頷いた。
ファンヒーターは、停電のために止まってしまっている。
ストーブに火をつけると、ランタンのように周囲を明るく照らした。
「なんだか、キャンプみたいですね」
「こういうのもたまにはいいかもね」
蛍が言い、小鞠も肯定するように言った。
そのまましばらく談笑した後、日付が変わりそうな事に気づいて、一穂が、今日はお開きだ、と、ストーブを消した。
みんなで枕を並べて、
「おやすみなさーい」