さかさたまくら りぴーと   作:神谷萌

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さかさたまくら りぴーと 08

 地方高速を、デリカスターワゴンが走っている。2代目、初期型のエアロルーフ GLX 4WD。

 それに続くようにして、ほとんど原型がないまでにハーレー風に改造されたホンダ CBX400 CUSTOMが追走している。

 デリカにはマグネット式の初心者マークが前後に貼られていた。

 その車内。

「このみちゃん大丈夫? そろそろ疲れてきたんじゃない?」

 糸目の加賀山楓が、助手席から、運転席の富士宮このみに向かって訊ねた。

「私は大丈夫ー。このクルマ結構力あるし。運転席高いの楽だし」

「元々はえらいアンダーパワーだったから、先輩に頼まれてスーチャー付けたんだけどね……」

 むしろはしゃぐような声を上げるこのみに対し、楓はジトッと汗をかくような様子でそう返した。

「それより一穂さん大丈夫かなー。ずっと1人で運転でしょ」

 そう言いつつ、このみは、一瞬、右のサイドミラー越しに一穂の CBX400 CUSTOM をちらりと見た。

 すると、楓も、自身は右側から振り返って、リアウィンドウ越しにバイクを走らせる一穂を見た。

「すみません、私が増えたせいで……」

 サードシートの真ん中から、蛍が申し訳なさそうな声を出した。

「まぁかず姉なら大丈夫っしょ、姉ちゃんより体力あるし。ハーフマラソンぐらいじゃケロッとしてるし」

「いちいち私を基準にしないでくれる?」

 セカンドシートの夏海が言うと、サードシート左側の小鞠が抗議の声を上げた。

「それにしてもさー──」

 セカンドシート左側のひかげが、話題を変えるように言う。

「なんかさっきから見てても山ばっかりなんけど、ホントにこれ海向かってんのん?」

「もうすぐ見えるわよ、ほら」

 楓が右側を指差す。高速道路の左右に広がっていた山林の、右側が途切れると、そこにキラキラと光る水面が見えた。

「おおーっ、海なん、れんげ、このみ、海なのん!」

 ひかげは、興奮したように声を上げつつ、れんげがセカンドシートのヘッドレストとAピラーに両腕を張って、腰を浮かし気味に右側の車窓を凝視する。

「海なん! このみ姉、海なのん!」

 ひかげに触発されたように、れんげも声を上げ始める。

「ごめん、今私そこまで余裕ない……」

 ハンドルを握るビギナードライバーのこのみは、焦ったようにそう答えた。

 一方。

 一穂は左手を一瞬ハンドルから離し、胸ポケットに差していたサングラスを、ヴィンテージスタイルのヘルメットの上から器用にかけると、ニッと笑って白い歯を光らせた。

 

「おおおーっ」

 麦わら帽子に、赤基調でバンドゥスタイルのワンピース水着を着た夏海が姿を表すと、れんげが感嘆の声を上げた。

「なっつん、“いつもの”なっつんみたいなん」

 れんげがそう言うと、それまでどこか自信あり気に歩いていた夏海が、れんげの前まで来て、急にがっくりと肩を落とす。

「ごめん、れんちょん、その言い方やめて……」

「でも、夏海確か視力0.1割ってるんじゃなかったん? メガネかけないで見えるん?」

 黒に近い紺のチューブトップビキニを着たひかげが、れんげの横から夏海に問いかける。

 ひかげの言うとおり、夏海はメガネを掛けていなかった。れんげの先の発言もそれが理由だった。

「いやー、流石に海に来てメガネはないっしょ、だから今は使い捨てコンタクト入れてんの」

 夏海は苦笑しながらそう言った。

「どうせならいつもコンタクトにしてればいいんに……」

 眉をハの字にしながら、ひかげはそう言った。

「いやー、普段はメガネで慣れちゃってるから、いちいちめんどくさくてさ」

「ホントお前はものぐさなんだか律儀なんだかわからんな」

 苦笑し続けながら応える夏海に対し、ひかげは呆れたようにそう言った。

「すみませーん、おまたせしましたー」

 夏海たちが声がかけられた方を向くと、そこに蛍がやってきた。黒基調のビキニ、ボトムだけではなくトップスにも豪奢なフリルの付いた水着を着ている。

「おー、最近はジュニア用でもそういうのあるんなー」

 ひかげが、わざとらしく身を乗り出した姿勢になりながら、感心したような口調でいう。

「えっと、どうですか? 大人っぽすぎませんか?」

 そのひかげに対して、蛍がクルッと見を回してみせる。遠心力でフリルが花のように開いた。

「大丈夫、似合ってる、似合ってるん」

 ひかげはサムズアップしながらそう答える。

「最近はれんちょんが着れるようなサイズでももっとキワドイのあるよん」

 なぜか、夏海はいたずらっぽく笑いながら言った。

「なんですとー」

 れんげは、それを聞いて夏海を見上げる。夏海がそのれんげに対して視線を向けると、

「ブラジル水着……」

「いやそれは流石にないから。ってかれんちょんそういう単語どこで覚えてくるの」

 と、れんげの呟くような言葉に、夏海はジトッと後頭部に汗をかくようにしながらそう言った。

「ところで、先輩たちはまだ来てないんですか?」

「ああ、姉ちゃん達?」

 蛍が周囲を見回しながら言うと、ひかげが答える。

「多分着替えは終わってると思うけど、ここまで来るのが大変だと思うんよ」

 ひかげが悪そうな笑顔を浮かべると、蛍はキョトン、として、

「えっ?」

 と、短く言った。

 その時。

 夏海達からみて内陸側の方から、ガヤガヤと声がする。

 その喧騒は、徐々に、しかし確実に夏海達の方に近づいてくる。

「あの女すげぇでっけぇ、外人でもそうそういねぇぞ」

「でもプロポーションはなかなか……若干安産型なのがたまんねぇ!」

「顔は童顔だな……でもそのギャップがむしろいい!」

「隣の美人もすげぇぞ。顔、スタイル、胸、文句のつけようがねぇ」

「若干顔つきはきついけど、むしろそれがいい」

「ああ~、踏んでほしい~」

「反対側の金髪も悪くないんじゃね?」

「長身で胸は控えめでくびれるところはくびれてるとか何そのモデル体型」

「お付き合いしてぇ~」

「あんなごっつい美人3人組とか、なんだ、テレビでも来てんのか!?」

 云々。

 モーゼの如く寄ってくる人だかりをそこだけ割りながら、小鞠、一穂、楓が現れた。

「もう……夏海ー、だからこういう水着恥ずかしいって言ったじゃん。みんなに見られてるし」

 小鞠は恥ずかしそうに顔を赤くしてそう言った。ピンク基調の、ビキニに見えるが両サイドで上下がつながっているワンピース。トライアングルの角度もかなりきつい。

「夏海もお母さんも無理やりこんなの着せなくても、私はいつもの学校の水着でいいって言ったのにー」

「いや、姉ちゃんがスク水とかそっちの方が犯罪だから」

 夏海は、低い声で、極めて冷静な口調でそう言った。

「?」

 そのやり取りを端で見ていたひかげは、ふとそれに気づく。その視線の先で、蛍が顔を少し紅くしながら、呆けたように口を半開きにして、突っ立っていた。

「蛍ちゃんどうしたのん? おーい、ほたるん?」

 ひかげが声をかけると、はっ、と蛍が我に返ったかと思うと、

「すごいです! 先輩その水着似合ってます! カッコイイです!」

 と、小鞠の近くによってそう言った。

「そ、そう?」

 いきなりのことに少し動揺しつつ、小鞠が聞き返す。

「はい!」

 蛍は、少し上気したような顔のまま、満面の笑顔でそう言った。

「ま、まぁ蛍がそう言ってくれるならいいか……」

 小鞠の方も、それで少しは満更でもなくなったのか、苦笑しつつ頬をかいた。

「ま、私は元々それなりに鍛えているしな、自信はある」

 黒とグレイッシュシルバーのツートーンのチューブトップワンピースを着た一穂が、ニヤリと笑ってそう言った。キラッ、と白い歯が光る。

「おおっ、実力に裏打ちされた姉々の笑顔が眩しいのん!」

 れんげが、何故か興奮気味にそう言った。

「ところでこのみちゃんはー?」

 夏海が、赤いオーソドックスなビキニを着た楓に向かって聞く。

「脱衣所までは一緒だったんだけど……なんか、その後“心が折れた”とか言って、先に旅館に荷物おろしに行くって。卓君も一緒に」

「変な時に豆腐メンタルなんだなこのみちゃん」

 夏海が、楓の答えを聞いて呟くようにそう言うが、

「まぁ、この3人相手じゃ無理もないん」

 と、その夏海の背後でひかげが、やはり呟くようにそう言った。

 それにしても、イラストでお見せできないのが至極残念である。

 

 

「そーれ」

 サーブ。

「てやっ」

 レシーブ。

「よっと」

 トス。

 夏海とひかげは、合流してきたこのみと一緒にビーチボールでバレー風のボール遊びに興じていた。

「れんげ、いいよー、その調子」

 小鞠に両手を引いてもらいながら、れんげがバタ足の練習をしている。

「はっ、はっ、はっ、はっ」

「れんちゃん、結構上達早いよー」

 小鞠が後進していく形でゆっくりと進んでいく傍らで、蛍がそれを見ながら感心したように言った。

「蛍は夏海たちと遊んでこなくていいの?」

 小鞠は、一瞬だけ蛍に視線を向けつつ、そう訊ねた。

 蛍は、ほとんど海の中で立っているだけだった。

「大丈夫です。私、ゆっくり海に入ってるのが好きなのでー」

 言葉ではそう答えた蛍だったが、

 ──先輩の水着姿カッコイイ……1眼レフ持ってくればよかった……

 と、心の中ではそう呟いていた。

「ふーん、それならいいけど……」

 小鞠は言葉で蛍にそう返しつつ、ゆっくりとれんげの手を引いていく。

 しばらくして、

「おー、れんげ、結構上達したじゃないか」

 と、練習に集中していたれんげ達に、声がかけられた。

 れんげが足をついて、小鞠や蛍達とともに声の方を向くと、そこに一穂が立っていた。

「あれかず姉、夏海たちと一緒じゃなかったみたいだけど、何処行ってたの?」

「ああ、ちょっとあの岩のところまで遠泳をな」

 小鞠の問いかけに対し、一穂は、そう言って、背中越しに親指で、小島とも言えそうな岩礁を指した。

「ええっ、あそこまでどう見ても片道2kmはありますよ!?」

 蛍が、驚きの声を上げる。

 だが、逆に一穂は、どこか不満げに眉をひそめ、

「ああ、そんなものしかなくてな、正直物足りない」

 と、言った。

 蛍とれんげは呆然と一穂を見上げている。小鞠は、

「私なら距離的にはなんとかなるけど、今のさっきで往復は流石に無理……」

 と、口元に右拳を当てて呟いていた。

「それよりうち、そろそろお腹空いてきたん」

 僅かな沈黙の後、れんげがそれを破った。

「行きはSAで朝昼兼用だったしな。ブランチにでもするか」

 一穂はそう言って、砂浜の方に向かって歩き出す。小鞠たちもそれに続いた。

 その一行が浜茶屋に向かって歩いていると……

「ねーちゃーん、ねーちゃーん!」

 と、夏海が、左手を大きく掲げて振りつつ、声を上げながら、小鞠めがけて走ってくる。

「どうしたの夏海」

 夏海は、駆け寄ってきて、自分の方を向いた小鞠の前まで来ると、少し屈んではぁ、はぁと息を切らす。

 その夏海に対して、小鞠が訊ねた。

「これこれ、姉ちゃんこれに出てよ!」

 夏海は、右手に持っていたそれを小鞠に見せた。それはカラー印刷のチラシだった。

「水着美人コンテスト……?」

 チラシの内容を見て、小鞠が呟く。

「ほぅ、今時こんな催しをするところがあるんだな」

 小鞠の脇から覗き込んだ一穂が、関心したような声でそう言った。

「開催は明日……対象は中学生以上……」

 小鞠は下の方へと目を通していく。

「優勝賞金、30万円!?」

「け、結構気前がいいですね」

 小鞠が素っ頓狂な声をだすと、蛍も唖然としたような声を出した。

「まさかこの30万円が欲しいっていうんじゃないでしょうねー」

 小鞠が、少し眉間に皺を寄せ、チラシから夏海に視線を移して呆れたような口調で言う。

「違う違う。そんなこと考えてないって」

 夏海は身体を起こすと、そう言って右手をバタバタと左右に振った。

「ウチがほしいのは準優勝のこっち」

『準優勝 SIMフリースマートフォン シャープ AQUOS mini』

「結局賞品目当てじゃないかっ」

 小鞠は反射するように声を上げてから、

「とにかく私そんなの嫌だからね」

 と、不快そうに言う。

「えー、いーじゃん、姉ちゃんのダイナマイトボディなら2位ぐらい軽いって」

 夏海は、小鞠に抱きついてすりすり、と頬ずりするようにしながら食い下がる。

 ──夏海先輩、いいな……

 その光景を見ていた蛍は、口には出さずにそう呟いていた。

「色々と失礼なやつだな~、とにかく嫌なものは嫌だから!」

 小鞠は、しがみつく夏海を引き剥がすと、不愉快そうな表情で、腕を組んでそっぽを向いた。

「ちぇーっ、ケチ」

「はいはい、話がついたところで何か食べるぞ。いい加減私も小腹がすいた」

 夏海は不貞腐れたように口を尖らせる。

 一穂が、一瞬糸目になりつつ、まとめるようにそう言って、小鞠たちを浜茶屋の中へと促した。

「あ、私ひかげさん達呼んできますね」

「ウチも一緒に行くーん」

 蛍が言い、れんげが拳を握った状態で両腕を上げながら続いた。

「ああ、悪い、頼むぞ」

 

 

「こうしてお泊り海旅行の1日目は何事もなく過ぎ去っていったのん。でも、まさかこの後、とんでもない事件が待っているとはこの時誰ひとりとして気づいてなかったのん」

 

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